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タイトル


 27th Future 「ゆかりの帰還」


「桜川さん、お願い」
 透子と巳弥に出来ることは、これしかなかった。
「上司って人に、あずみちゃんを返して貰えるようにお願いして貰えない?」
 あずみが冴に連れて行かれ、手が出せなかった透子と巳弥は、咲紅を介してあずみを返して貰おうと考えた。
「無理だわ」
 咲紅の返答は簡潔だった。
「冴さんに意見出来る人なんていないもの。いても一人か二人ね」
「意見じゃなくて、お願いなんだけど・・・・」
「同じよ。連れて行ったものを返してって言うのは、連れて行った行為を否定するものだから、冴さんに対して文句を言うのと一緒よ。それにあのあずみって子は、冴さんのお父さんが作ったもの。持って帰って当然だと思うけど?」
「いきなり来て『返して』じゃ納得できないよ」
 あずみと少しの間だが行動を共にしたみここも反論した。だが咲紅に睨まれ、すぐに黙り込む。
「その莉夜って子に聞けばいいわ。あなたが作ったんじゃないんでしょ、って。その子、どこにいるの? ここの生徒?」
「今は・・・・」
 ゆかりと一緒にイニシエートにいる、なんて言えるわけがない。しかも莉夜は、咲紅たちが敵だというイニシエートなのだ。
「ここの生徒じゃないの。だからすぐには連絡がつかないわ」
 取り敢えず透子はそう誤魔化した。あずみは誰が作ったか、などという議論は証拠がないので何とも言えない。
 グラウンドでは、憂喜が独走したリレーの決勝戦が終わり、閉会を迎えようとしていた。順位発表、表彰、教頭の有難い話などが終わり、着替えを済ませた透子は出雲家に行くことにした。ゆかりは出雲家からイニシエートに行ったわけだから、ここに戻ってくると透子は確信している。帰って来たら、莉夜にもあずみのことを聞かなくてはならない。
 ゆかりがイニシエートに行って、もうすぐ二十時間が過ぎようとしていた。


 冷たく暗いトゥラビアの独房に、また一人仲間が増えた。
「ここは安全なのかね?」
 うさみみ中学の校長である巳弥の祖父がプリウスに向かって訊いた。
「分からないわ」
「分からないか・・・・」
「風雨をしのげるだけでも、野宿よりはマシだと思いますけど?」
「確かにな」
 巳弥の祖父は蒼爪と一緒に川にダイビングした後、何とか一命を取り留めて川岸に辿り着いた。イニシエートの驚異的な回復力によって対蒼爪戦の傷は癒えていたが、蒼爪を仕留めそこなったことで自分が帰れば巳弥の身も危ないということで、ずっと野宿を続けていた。
「しかし・・・・よく私の居場所が分かったね」
「ええ、ずっとこんな場所にいると暇ですから。色々な魔法の勉強をしていました。エミネントが人間界に介入することが分かりましたので、巳弥が気になったもので様子を見ていたのですが・・・・冴がトゥラビアを見張るために来ていたので、あなたの救出が遅れてしまいました。本当はすぐにでも助けに行きたかったのですが、冴に見付かると、私の身だけでなくトゥラビア全体が危険でしたので・・・・」
 見張りである冴が突然いなくなったので、プリウスがチャンスとばかりに巳弥の祖父を救出に行った、というわけだ。
「しかし私がここにいれば、イニシエートの妖気を悟られはしないだろうか?」
「ご安心を。冴に気付かれないよう結界を張っています。元々、冴は自分自身の魔力が大き過ぎて小さな力はあまり気にならないタチ・・・・というか感知出来ませんから」
「小さい、か・・・・」
 巳弥の祖父はこれでもかなりの妖力があると自負している。それでも冴にとっては小さいと言うのか。
 牢屋の入り口が開く音がして、足音が聞こえてきた。冴が戻ってきたのかと緊張した面々だったが、その靴音の正体はトゥラビア王だった。
「冴殿は用事が出来たからと、エミネントに帰ると連絡があった」
「帰る?」
 プリウスが聞き返した。
「では、ここの見張りは?」
 冴は怖いが、目の保養になるという点では嬉しかったトゥラビア王を始めとするオスのトゥラビアン達にとっては、彼女がいなくなるのは少々残念だった。
「何でも『必要がなくなった』とか」
「自由ってことですか?」
 ミズタマが飛びつくように問う。
「何がどうなっておるのか、さっぱり分からんよ。冴殿の役目は、エリック君らがオブザーバー試験とやらの内容を喋らないように見張っていることだったはずだが」
「ということは」
 プリウスが重々しく発言した。
「オブザーバー試験が終了した、ということでしょうか」


 春也はマンションに帰ってから終始落ち着かない素振りで、部屋の中を歩き回ったりベランダに出たりしていた。
「ハル君、何をソワソワしてるの?」
「・・・・気にしないでくれ」
「するわよ。陰気な顔で目の端をチラチラされたら、読書の邪魔でしょ?」
「・・・・」
 咲紅に言われてソファに座った春也だが、また一分も経たない内に立ち上がって歩き出す。
 ゆかりが戻って来た時、どうするのか。それが今の春也の頭を占めている問題だった。憂喜は今、隣の部屋で自分の端末とにらめっこをしている。管理局が時空の歪を感知した時に、連絡が来るようになっているからだ。
 時空の歪イコール、ゆかりがイニシエートから帰って来た時イコール、ゆかりがトランスソウルを悪用したことが判明する時だった。
(端末に連絡が来れば、ユーキは空間転移で一瞬にして移動する。俺は走っていくしかない。到底、間に合わない。ゆかりんは俺の担当だ、と言い張るか? だがそれでも管理局に引き渡さなければ俺も同罪になる。罪人はソウルトランスの刑だ。くそ・・・・このままだとゆかりんが・・・・)
 春也の足が玄関に向く。
「どこ行くの? ハル君」
「ちょっと散歩だ」
「私も行っていい?」
「駄目だ。男の散歩をするんだ」
「何、それ」
「じゃあな」
「待ってってば」
 強引に咲紅が玄関ドアを開けて、春也と一緒に廊下に出た。
「来るなって」
「どっちに行くの? 出雲家? 姫宮家?」
「お前・・・・」
 ゆかりんを助ける手助けをしてくれるのか、と春也は思った。二人いれば、どちらにゆかりが帰って来ても、憂喜が来る前に逃がすことが出来る。
「じゃあ・・・・ゆかりんの家を頼む」
「え〜、私、出雲さんの家がいい」
「そ、そうか? 俺もそっちがいいな、何となく」
「私なら堂々と出雲家に入れるよ。昼間のことで話がある、って」
「確かにそうだな・・・・俺にはそんな口実がないから、外で見張ることになる」
「女の子の家を覗いてると、通報されるわよ」
「む・・・・」
 ということで、咲紅が出雲家、春也が姫宮家に行くことになった。春也は咲紅が「ゆかりを助けるため」に行ってくれるものだと思い込んでいたのだが・・・・。


(この際、担当なんて関係ないもんね。ハル君は姫宮さんを助けたいみたいだから、私がユーキ君より先に姫宮さんを捕まえて管理局に連絡すれば、私がオブザーバーになれるんだわ)
 様々な世界を監視して回り、悪い部分があれば悪い例として研究し、エミネントの発展の為の資料とする。
 監視役であるオブザーバーに、咲紅は幼い頃から憧れていた。それは各地へ赴ける「旅行」が出来ることへの憧れでもあり、オブザーバーはエリートであるという世間の持つイメージのせいでもあった。自然の摂理にも介入できるオブザーバーは、ある意味神様の代理のような存在だった。
 上手く行けばオブザーバーになれる。春也は姫宮ゆかりを訴えるつもりはないようなので、それなら代わりに自分が管理局に突き出せばいいのだ。
(そう、これは正しいことなんだから。ハル君が間違ってるんだから)
 出雲家の前まで来た。
 玄関の明かりが点いているので、巳弥がいるはずだ。そう思って咲紅は堂々とチャイムを押した。しばらくして、玄関のドアが開く。
「は〜い。あれ」
 顔を出したのは、こなみだった。
「桜川さん?」
「芳井さん・・・・どうしてここに?」
「桜川さんこそ」
 出雲家には今、巳弥、透子、みここ、こなみがいた。
 行方不明の巳弥の祖父、連れ去られたあずみ、いつ帰るか分らないゆかり、連絡の取れないミズタマとチェック。色々相談しなければならないことがあるので集まってはいたが、相談したところでどうにもならないことばかりだった。
「ちょっと待ってて」
 こなみが玄関に咲紅を待たせ、居間に戻った。
「こなみちゃん、誰だったの?」
 巳弥が尋ねた。
「えっとね、桜川さん・・・・」
「えっ?」
 透子が思わず声を上げた。
 何の用事で来たのかは分らないが、咲紅がいる時にゆかりが戻ってくれば大変だ。イニシエートの仲間として咲紅に認識されてしまう。
「待って、あたしが出る」
 こなみに手振りでここにいるように言って、透子が玄関に出た。
「今晩は」
「あら、藤堂院さん・・・・だったかしら。今日は何の集まり?」
「みんなで御飯でも、って集まったの。おじいちゃんがいなくて巳弥ちゃんが淋しそうだったから」
 本当は出雲家からは莉夜とあずみもいなくなっているのだが、それは咲紅には黙っておく。
「ふぅん・・・・ご一緒していい?」
「あ・・・・っと、もうそろそろお開きにしようかなって言ってたところなの」
 とにかく咲紅を居座らせてはならない。そのためには、自分たちが帰ることになっても仕方がないと透子は考えた。
「何か用だった?」
「えっとね、冴さんとあずみちゃんのことで・・・・もしかしたら、力になれるかもしれないなって。ううん、力になりたいと思って来たの」
「そうなの?」
(その話で来たわね。う〜ん、本当に力になってくれるのなら無下に追い返せないし・・・・かと言ってこの家でお話するのはまずいし)
「力にって・・・・あずみちゃんを返して貰えるの?」
「それは冴さんに頼んでみないと。その辺りもお話したいから」
「だったら、あたしの家に来ない?」
「え? 藤堂院さんの?」
(ここにいないと意味が無いんだけどな・・・・う〜ん、確かに姫宮ゆかりが今夜帰ってくるとは限らないんだし、無理にお邪魔する理由もないかなぁ。冴さんのことだって思いつきで言っただけで、何も話すことはないし・・・・)
「ね、うちでお話しようよ、決まりね。巳弥ちゃ〜ん、今日はもう帰るね」
 透子が勝手に話を進める。咲紅にとっては困ったことになった。
(余計な事を言わず、ただ遊びに来たって言えば良かったな・・・・あずみちゃんのことは、力になんてなれないのに。もう彼女はこの世界には戻って来れない。エミネントで存在を抹消されるんだわ)
 もちろん、そんなことは透子達に言えない。


 一方の春也は、姫宮家の前で缶コーヒーを飲んでいる人物に出会った。
「よう、澤崎君」
 ユタカが春也に向かって手を上げた。
「・・・・おっさん、よく会うな」
「たまに分身するんだ。昼間、君が出会ったのは『への1号』だ」
「へぇ、凄いな」
 春也は適当に流すと、壁にもたれているユタカの隣に、同じようにして並んだ。
「何やってんだ?」
「君こそ、子供が夜にウロウロしてちゃ駄目だぞ」
 ユタカはちょっと安達妙子を意識して言ってみた。
「子供じゃねぇよ・・・・ま、おっさんから見れば子供か」
「君は、ゆかりを助けたいと思ってくれているのか」
「・・・・悪いかよ」
「君の仲間は、ゆかりを捕まえる気なんだろう?」
「俺たちの世界では、ゆかりんのやったことは許されない。だけど・・・・」
 春也は何となく辺りの景色を見回した。
「この世界では、どうなんだろう」
「少なくとも俺にとっては、ゆかりは悪くないと思う」
「俺にとっても、そうだ」
 しばしの沈黙があり、再び春也が話し始める。
「ゆかりんがイニシエートに行ったってことはまず間違いない。俺はゆかりんを助けたい。帰って来るとすると、出雲家かここだろうと思ってな」
「ゆかりなら、ここには多分こないぞ」
「何でだ?」
「次元ゲートを通って帰って来るんだ。親父さんはそんな存在を知らないから、いきなり帰って来たら驚くだろう。その点、出雲家ならみんなが知っている。元々出雲家から出発したんだ、帰るのも同じ場所がいいだろ」
「じゃあ、おっさんは何でここにいるんだ?」
 ユタカはコーヒーを一口飲み、ゆっくり息を吐いてから春也の質問に答えた。
「今まで親父さんの酒の相手をしていた」
「あ?」
「ゆかりは酒を飲まないからな。相手が欲しかったんだろう。俺もそう強い方ではないからな、今夜は帰りますと言って出てきた。コーヒーで酔い覚ましをしていたところだ」
「ひょっとして、昼からずっと一緒だったのか?」
「晩飯もどうだと誘われてな。親父さんの料理は美味かったぞ。ゆかりが料理をしないから親父さんが上手くなったのか、その逆かは定かではないが・・・・男親ってのは辛いなぁ。そう思わないか、澤崎君」
「え? いや、俺はまだまだ・・・・」
 話題が変わり、春也は動揺した。
「親父さんからゆかりを取り上げる気なんてないんだが、親父さんから見ればやっぱり取られたって思うんだろうなぁ・・・・俺が親ならそう思う」
「何言ってんだ? おっさん、妄想も大概にしろよな。おっさんとゆかりんじゃ、歳が違い過ぎるじゃねぇか。さてはロリコンの上にストーカーだな?」
「ロリコンはいいとして、ストーカーは聞き捨てならんな」
「いいのかよ!」
「ふむ、澤崎君はストレート突っ込みの素質があるな」
「それって、いいことなのか?」
「君は出雲家に行くか?」
「唐突に話を変えるなよ。もちろん、行くぞ」
「君が行くなら俺も行く。俺より先に、君にゆかりの顔を見られるのは悔しいからな。だが、いつ帰って来るか分からないんだぞ。それでも行くのか?」
「いつ帰るか分からないから、今から行くんじゃないか」
「なるほど」
「一つ、言っておくぞ。もしゆかりんが姫宮家に帰って来たら、ゆかりんはアウトだ」
「どういう意味だ?」
「仲間の鷲路憂喜が姫宮家と出雲家の時空の歪を監視している。ゆかりんが帰って来たら、即刻、捕まるぞ」
「何だって? どうすればいいんだ?」
「ゆかりんが帰って来たら、まずどこかに逃がす。ユーキは空間転移を使えるから、すぐにやって来るはずだ」
「大変じゃないか! 何で落ち着いてんだ!」
 ユタカは勢い良く駆け出した。が、アルコールが残っていることを忘れていたため、すぐに足元が頼りなくなる。
「無理すんなよなぁ、若くないんだから」
「これは酒を飲んだからだ!」


「さぁ、桜川さん。行きましょう」
 透子は一刻も早く咲紅を追い出すため、自ら靴を履いて玄関から外に出て、咲紅の腕を引っ張って外に連れ出した。
「こ、ここじゃ駄目? もう時間も遅いし・・・・」
 咲紅も何とか粘ろうとする。
 その時だった。
「ただいまぁ」
 居間から、莉夜の能天気な声が聞こえてきた。
(莉夜ちゃん!? ってことは・・・・)
 透子はとっさに玄関ドアを閉めると、その前に立ち塞がった。
「今の声、誰? ただいまって、家の中から・・・・」
「テ、テレビの音じゃないかな? 多分そう、きっとそう!」
「・・・・どいて」
 咲紅の目つきが鋭くなった。
「・・・・」
(逃げて、ゆかり、早く! 桜川さんはあたしが食い止めるから!)
 透子が耳を澄まし、玄関ドアの外から中の様子を伺う。
「お帰り、姫宮ゆかり」
 聞こえて来たのは、鷲路憂喜の声だった。
「なんで!?」
 透子が勢い良くドアを開けると、中には憂喜が立っていた。
「おや、藤堂陰さんに桜川・・・・いらっしゃい」
「何でここにいるの!?」
 透子の問いに、咲紅が答えた。
「空間転移よ。私でも使えるわ」
「・・・・」
 憂喜は廊下から居間へと向かう。居間には巳弥、みここ、こなみ、そして今、イニシエートから帰ったばかりのゆかりと莉夜がいた。ちなみに二人は魔女っ娘スタイルではなく、普段着だ。
「あれ、何でみんないるの?」
 予想外の人数が自分達を出迎えたので、ゆかりは戸惑っていた。
「念のために聞こう、姫宮ゆかり」
 憂喜が一歩、ゆかりに歩み寄った。
「今までどこに行っていた?」
「ふぇ?」
「僕は空間の歪を感知したという連絡を受け、すぐにここに来た・・・・君が異空間から来たのは明白だ。答えろ、姫宮ゆかり」
「えっと・・・・」
 帰って来ていきなりのことだったので、ゆかりは状況が全く分からなかった。目線で透子や巳弥に「どうなってるの?」と尋ねたが、一言で説明できる状況ではない。
「あのね、ゆかりんって凄いんだよ! ミズチを倒しちゃったんだから!」
 話したくて仕方なかったのだろう、莉夜が明るい声でそう告げた。
「ミズチ・・・・イニシエートの長か・・・・それで? イニシエートの内乱は片付いたのかな?」
「うん、ゆかりんのおかげでね!」
 はしゃいでいるのは莉夜だけだった。
「そうか・・・・残念だ」
「?」
「姫宮ゆかり、君をトランスソウル悪用の罪で拘束する」
「ふぇぇ?」
「逃げて、ゆかり!」
 透子が「魔法の肩叩き」を構えて、ゆかりと憂喜の間に割って入った。
「邪魔をするなら、君も同罪だが?」
「・・・・」
「驚いたね、今の反応は。体育の時間も今の速さで走ったら?」
「・・・・」
「藤堂院さん、君はもう少し頭がいいかと思っていたけど・・・・」
 憂喜の手が青く光った時、その腕を掴む者がいた。
「やめろ、ユーキ!」
「澤崎!?」
 ユタカと一緒に姫宮家から走ってきた春也だが、さすがにユタカとは若さが違うので、彼よりも先に到着した。
「何の真似だ、澤崎」
「やめてくれ、ユーキ。話を聞いてくれ」
「自分が何をしているか、分かっているのか?」
「分かってる、だから話を聞いてくれよ!」
「話を聞くのは僕ではない。管理局の人だ。判断は管理局で行う」
「だからよ、管理局に連絡するのも待ってくれって・・・・」
「澤崎!」
 突然、春也が掴んでいた憂喜の腕がスパークした。春也は衝撃で床に倒れる。
「空間の歪の監視は僕が管理局に頼んだものだ。つまり、管理局も姫宮ゆかりがイニシエートから帰って来たことは既に知っている」
「べ、別の場所に行ってたってことに、出来ないのか?」
「そんな必要がどこにある? 犯罪者を庇うのなら、お前も同罪だぞ」
「あぁ、そうかよ・・・・」
 春也はゆっくり立ち上がった。
「ゆかりん、逃げろ」
「え?」
 オロオロしていたゆかりは、いきなり声を掛けられてビクっとなった。
「逃げるんだよ、早くしろ!」
「な、何でゆかりが逃げるの?」
「説明してる暇はねぇんだ!」
「逃げるって、どこへ?」
「自分で考えろよ!」
 理由が分からないまま、ゆかりはあたふたするばかりだ。
「澤崎、今なら撤回を許そう・・・・丁度桜川もいることだ、三人で姫宮ゆかりを管理局に引き渡そうじゃないか。ぼくたち三人で任務を遂行した。それでいいだろう」
「せっかくだが・・・・」
 春也は憂喜に対して身構えた。
「俺は頭が悪いんだよ」



28th Future に続く



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