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タイトル


 22th Future 「迷宮のアリス」


「復活できなくなるまで、倒す以外にないだろう」
 迅雷が戦う構えを見せる。だが紅嵐は迅雷を手で制した。
「このまま消耗戦になるとこちらが不利・・・・ミズチの妖力がどの程度なのか分かりません。一方、こちらは疲労するだけです。ここは一旦引いて・・・・」
「何をふざけたことを!」
 ミズチが吼えた。
「わしが逃がすと思っておるのか!」
 ヤマタノオロチの首がそれぞれ別方向に伸びる。あっと言う間に、紅嵐達は蛇神山の頂上で蛇の首に取り囲まれてしまった。芽瑠と風刃、そしてゆかりはその外にいる。
「全員、喰ってやるからな、有り難く思え」
 正に四方八方から蛇の首が紅嵐達を睨んでいた。
(先程から戦っていた首が全て復活するとは・・・・奴め、一体どれだけの妖力を蓄えているんだ・・・・)
 例えばもう一度、8つの頭を潰したところでまた復活される可能性もある。
「どうやって喰うかな・・・・生もいいが、焼いてもいいか」
 ミズチがそう言った途端、8つの首がそれぞれ火の玉を吐いた。
「なにっ!?」
 それぞれが飛んでくる火球を避けて直撃は免れたものの、炎は直接地表に着弾して辺りの草木に火が燃え移った。
「まずい、火が!」
 雨竜が火に向かって冷気を放つ。
「莉夜、手伝え!」
「う、うん!」
 莉夜も燃え上がった火に対して氷のつぶてを撃つ。多少の効果はあるものの、更に蛇の口から吐き出された炎が別の場所で火の手を上げる。
「くそ、奴は俺たちを焼き殺す気だぜ!」
 迅雷の得意技は電気なので、火を消す手段には使えない。外で倒れている櫂に至っては炎を使うので、この場合は全く役に立たない。紅嵐も風で吹き飛ばそうとしたが、逆に燃え広がってしまいそうなので迂闊に能力を使えなかった。
「雨竜!」
「はい、先生!」
「この状況はまずい・・・・取り囲んでいる蛇を、何とかして飛び越さなければ逃げ場はありません。飛べるのは私、雨竜、箒に乗った莉夜・・・・この3人で残る3人を連れて逃げたいと思います」
「はっ」
「魅瑠、萌瑠」
 紅嵐は魅瑠と萌瑠のいる場所にジャンプした。
「空から逃げます。しっかり掴まっていなさい」
「は、はい!」
「火、怖いよ〜!」
 萌瑠は紅嵐の脚にしがみ付いてきた。その萌瑠を紅嵐は左手で抱き上げようとした。だがその時、魅瑠の背後から迫る火球が視界に入った。
「危ない、魅瑠!」
「えっ!」
 魅瑠が振り返るよりも早く、紅嵐が魅瑠の体を突き飛ばす。火球はたった今まで魅瑠が立っていた場所を通過する。したと思った。
 だが・・・・。
 火球にぶつかり、その衝撃で吹き飛ばされた紅嵐が地面に転がっていた。
「先生!」
 魅瑠と萌瑠は慌てて紅嵐に駆け寄る。紅嵐の着ている紅い法衣の、左肩から背中にかけての部分が焼け焦げていた。
「大丈夫です・・・・思ったよりも火の玉の速度が速く、当たってしまいました」
 魅瑠にはそう言った紅嵐だったが、顔が苦しそうに歪んでいる。天狗の羽根の根元が焼け、拡げることが出来なくなっていたのだ。
(この場合、空を飛べる私が怪我をするのは得策ではない・・・・魅瑠よりも私の方がはるかに戦力になる・・・・であるから、魅瑠を助けて怪我を負うなどという行為は、愚かなことだ。仮にもここにいる者達のリーダーとして、してはならない行為だ・・・・以前の私なら、絶対にしない。むしろ、出来ることなら誰かを盾にしたでしょう)
 左腕も感覚がなく、動かない。
(理屈ではない、感情で動く・・・・これが人間。やっかいなものです)
 意識が遠のいた。
「先生、先生!」
 魅瑠の必死の呼びかけにも、紅嵐は応えなかった。
「まずい・・・・はぁっ!」
 雨竜は「九尾の狐」の姿に覚醒し、今までに使ったことのないほどの妖力を解き放った。
「莉夜、手伝え!」
「うん、お兄ちゃん!」
 二人の放つ凄まじい凍気が、氷の壁を作る。凍気が拡散してしまうとここにいるメンバーも凍りつくので、闇雲に凍らせるわけにはいかない。普段からあまり力を使わない莉夜にとっては神経を使う作業だった。
(だが、応急措置だ・・・・壁を作ったところで、周りから炎を吐き続けられていれば、いずれこちらの凍気も尽きる・・・・)
「それで身を守っているつもりか!」
 迅雷が立っている近くの地面が盛り上がり、土砂を撒き散らせて大蛇が顔を出した。
「くそ、地面を掘って・・・・!」
「グハハ、貴様らは氷の壁を作ることで、自ら逃げ場をなくしたのだ!」
 更にもう一匹の蛇が地面を割って現れる。雨竜と莉夜が蛇の頭の突撃を喰らい、自分が作った氷の壁に激突した。
「きゃああっ!」
「ぐはっ!」
「雨竜さん、莉夜っ!」
 倒れた二人を助けようと駆け出した迅雷を、大蛇の胴が真横から薙ぎ払った。
「ぐはあっ!」
 直撃を受けた迅雷は吹き飛び、地面を転がる。
「ぐっ・・・・」
(ヤベェ、アバラが・・・・)
「ククク、諦めろ。紅嵐と雨竜が戦闘不能では、お主らに勝ち目はない」
 耳を塞ぎたくなるようなミズチのダミ声が響く。おそらくこの状態になれば、声帯も人間のそれとは異なっているのだろう、聞き取りづらい発音だった。
「貴様ら反乱分子が全滅すれば、わしがイニシエートの王に復活する・・・・その時がやってきたようじゃな」
「こ、こんなことして王を名乗ったって、誰も敬ってくれないわ!」
 魅瑠の叫びをミズチは鼻で笑い飛ばす。
「ふん、敬われたくて王になるのではない」
「な、何ですって」
「本当は王の座という名前など、どうでも良いのだ。わしの目的はイニシエートの同胞を束ね、人間に復讐することだ。わしを敬う必要は無い。言うことを聞かせればそれで良いのだ」
「人間に復讐・・・・?」
「小娘は知らなくとも無理はない・・・・いいか、我々がこのような日の当たらぬ世界に住まねばならなくなったのは、人間共のせいなのだ」
「・・・・ど、どういうこと?」
「詳しくは紅嵐に聞け・・・・もっとも、もうすぐわしに食われてしまうがな」
「・・・・」
 魅瑠は萌瑠を抱き寄せた。
「魅瑠お姉ちゃん・・・・」


 ゆかりからは、魅瑠達の様子は見えない。魅瑠たちを取り巻いている太く巨大な蛇の胴が、目の前に城壁のように立ち塞がっていた。
(助けなきゃ、みんなを・・・・)
 だが孫の手の魔力ドームには、ほとんど魔力が残っていない。
(マジカルチャージャー、持って来れば良かったな)
 魔力を溜めておくことが出来るマジカルチャージャーは、2本ともゆかりの部屋に転がっていた。
「きゃぁぁぁぁ!」
「魅瑠さん!?」
 魅瑠の叫び声が蛇の胴体の向こうから聞こえた。ゆかりは孫の手を構え、鱗の壁に向かって攻撃した。
「スゥィートフェアリー・スターライトスプラ〜ッシュ!」
 だが眩しいその光の飛沫は、鱗に当たって拡散しただけだった。当たったことさえ、ミズチには気付かなかった。
(やっぱりスプラッシュじゃ・・・・それに魔力も少ない)
 何も出来ない。仲間を救えない。
「みんな・・・・みんなが食べられちゃうよ・・・・」
(ゆかりん)
「え、誰?」
(僕だよ、孫の手)
「あ、孫の手・・・・しばらくお話してないから、声を忘れちゃってた」
(ゆかりん、君がさっきポケットに入れた宝石を出してくれないか?)
「え、宝石? えっと、莉夜ちゃんが落とした?」
 ゆかりはポケットから、先程莉夜が覚醒した時に落とした蒼い宝石を取り出した。
「これがどうしたの?」
(僕の魔力ドームに近付けて欲しい)
「え、でもこれって莉夜ちゃんのだし、あずみちゃんのエネルギーだって・・・・」
(いいから早く! 凄い魔力を感じるんだ!)
「え、魔力!? ど、どういうこと?」
 ゆかりは孫の手に言われた通り、魔力ドームである孫の手の肉球に宝石を近付けてみた。
「きゃっ!?」
 宝石の台座が拡がり、魔力ドームの表面を覆うように張り付いた。孫の手の猫の手の部分が膨れ上がり、二周りほど大きくなる。それに合わせて柄が太く、長くなる。
「ど、どうなってるの〜?」
(分からない、これほどまでの魔力が格納されていたなんて・・・・!)
 今まで片手で振っていた孫の手が、両手で持たなければならないほど大きな杖になった。その長さはゆかりの身長よりも長い。
(おそらく、僕自身の身体が大きくならなければ魔力が強すぎて壊れてしまう・・・・だから大きくなったんだと思うよ)
「わわ、羽根が・・・・!」
 更にマジカルフェザーが伸び、より鳥の羽根に近い形に変化した。
「い、いいのかなぁ、あずみちゃんのエネルギーを勝手に使って」
(それより、何故あずみという子のエネルギーが魔力なのか・・・・)
「あっと、今はそんな場合じゃないよ! 孫の手! って呼ぶのも違和感があるよねぇ、こんなに大きくなっちゃったら」
(う〜ん、名前は取りあえず後にしようよ、ゆかりん)
「ようし、行くよ!」
 ゆかりは元・孫の手を振りかざした。その見かけに寄らず、重さはあまり感じない。片手でも振り回せる重さだった。
「スゥィートフェアリー・スターライトスプラ〜ッシュ・エクセレント!!」
 ゆかりの掛け声と共に、光の束が大蛇の胴体目掛けて撃ち出された。
「うわわっ!」
 衝撃で後方に飛びそうになる身体は、新生マジカルフェザーが拡がって受け止める。
「ひぇぇ・・・・」
 スプラッシュ・エクセレントが命中した部分は、大蛇の肉片がバラバラに千切れ飛び、大きな穴が開いていた。
「うそ・・・・」
「何者だ!」
 近くにあった蛇の首が、風穴を開けられた部分を覗き込んだ。
「何、今の攻撃は貴様が!?」
「あわわ・・・・」
 ゆかりはまだその威力が信じられない。下手をすれば、中にいる魅瑠達まで吹き飛ばしそうな勢いだった。
「おのれ、またわしの邪魔をするのか!」
 二本の大蛇の首がゆかりを襲う。ゆかりが元・孫の手を振り上げると、光を蓄えた先端部分が剣のように伸びた。
「フラワーレボリューション!」
 光の剣は二匹の大蛇の首を一瞬にして切断した。
「馬鹿な! 貴様、何だその力は!」
「ゆかりも知らないよ〜!」
 新生マジカルフェザーで舞い上がったゆかりは、ミズチの本体である八本の首が出ている中心に杖を向けた。
「スゥィートフェアリー・スターライトスプラッシュ・エクセレント!」
 ストリームの比ではない、光の渦がミズチを襲う。防御のために光の前にスクラムを組んだ大蛇の首も、1本残らず千切れ飛んだ。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!」
 犠牲になった首のお陰で直撃は免れたものの、ミズチの身体はスプラッシュ・エクセレントによって大ダメージを受けた。
「こ、小娘がぁぁ・・・・っ」
「凄い・・・・ゆかりん」
 その光景を見ていた魅瑠が呟いた。萌瑠や気がついた紅嵐、雨竜、迅雷、莉夜は声も出ない。
「マジカルアイテムも服装も変わっている・・・・何があったの?」
 紅嵐達を取り囲んでいた蛇が倒された為、外にいた芽瑠と風刃も中の様子を見ることが出来た。
「ミズチ様!」
 ミズチの元へ駆け出そうとした風刃を、芽瑠が呼び止める。
「待って、風刃君! 行っちゃ駄目!」
「芽瑠・・・・」
 足を止めたが、風刃は芽瑠の方を振り返ろうとしない。
「俺は・・・・ミズチ様に助けられた。自暴自棄になって、何もかもが嫌になった俺の力を認め、救ってくれた。俺はミズチ様を裏切れない」
「・・・・風刃君」
 芽瑠への思いを振り切るように風刃は駆ける。彼が黒こげ状態のミズチに駆け寄ると、それに気付いたのか目が開いた。
「ふう・・・・じん・・・・」
「ミズチ様! 今、お助けいたします!」
「ふう・・・・じん、頼みが・・・・ある」
「何なりと、私はミズチ様に恩があります。こんな私を認めてくれました、このご恩は一生・・・・」
「復活するための、妖力が足りん・・・・お前を、食わせろ」
「はっ・・・・」
 残っていた蛇の頭が、風刃を頭から飲み込んだ。
「!」
 風刃は蛇の口から出た足をバタつかせたが、バキバキという音と共に足の動きも止まった。
「風刃・・・・!」
 芽瑠の叫びは、風刃の耳に届くことはなかった。
 魅瑠はその光景から目を背け、膝を地面に付けた。
「ミズチはあなたのことを認めてなんかいなかった・・・・あの人は、他人を認めることも信じることもしない、信じるのは自分だけ・・・・」
「ふん、風刃め・・・・復活の足しにもならんか・・・・使えぬ奴よ・・・・わしの夢が・・・・イニシエートを我が物にし、我々をこんな世界に閉じ込めた地上人に復讐する、わしの夢が・・・・」
「今ならやれる! ミズチに止めを刺せ!」
 雨竜がゆかりに向かって叫ぶ。
 ゆかりはマジカルフェザーを羽ばたかせて空中からミズチを見下ろしていた。
「可哀想な人・・・・」
「な、何だと」
「人を信じられない、人を信じない、信じて貰えない・・・・そんな生き方、辛いだけなのに・・・・」
「真に信じられるのは己だけ。どれだけ信じても裏切られる。それなら最初から信じるだけ無駄だ。他人を信じる根拠は何だ? 他人の心の中など分かるわけがない・・・・」
「姫宮ゆかり」
 傷を負った紅嵐が、魅瑠に支えられて立っていた。
「殺してはいけない・・・・そんな奴、あなたが手を汚す価値も無い」
「な・・・・なんだと・・・・」
 ミズチは最後に残った、風刃を飲み込んだ蛇を紅嵐へと向かわせた。だがその首は紅嵐の放った一陣の風により切り刻まれる。
「もうその程度の妖力しか残っていないようだな」
「くっ・・・・」
「哀れだな、ミズチ。人を信じる根拠か・・・・私もかつて同じ考え方でした。人の心など分かるわけがないのに、信じる方がおかしい。そう思っていました。ですが、分かったのです。人の心の中が分かれば、それはただの事実でしかない。分からないからこそ、信じるのです」
「御託は聞かん!」
 ミズチのバラバラになった首がそれぞれ生きているように動き、元の八本の蛇に戻ろうとしていた。
「わしは死なん! わしの夢を叶えるまではな!」
 黒焦げになった本体が、八本の蛇を従えて立ち上がる。恐ろしい執念だった。
「死ななければ諦めませんか・・・・」
 紅嵐が無事な右手に風を集める。だが、その前にゆかりが立ちはだかった。
「姫宮ゆかり、何を!」
「紅嵐さん、ここはゆかりに任せて」
「しかし・・・・」
「大丈夫、殺したりしないから。ただ・・・・」
「ただ?」
「希望を砕いちゃうだけ、だから」
 羽根を拡げ、ゆかりがミズチに向かって飛ぶ。
「希望を砕く・・・・?」
 自分に向かって飛んで来るゆかりを、ミズチは迎え撃とうと蛇の鎌首を上げた。
「来い、喰ってやるぞ、小娘!」
「希望、野望、欲望・・・・そして夢。みんな一緒。ただ、言い方が違うだけ。人に迷惑をかけたり、人の夢を奪ったり・・・・願いを叶える過程が違うだけ」
「な、何を言っている?」
「夢が消えちゃうのは、とっても悲しいこと・・・・希望を失うのは、とっても淋しいこと・・・・あなたは色々な人達の夢を、希望を、壊しすぎた。だからあなたも」
 元・孫の手の杖が光を放つ。
「マジカル・ワンダリング!」
 眩しい七色の光が、満身創痍のミズチを包んだ。
「な、何じゃこれは!? 攻撃ではない・・・・痛みはない・・・・何だと言うのだ!?」
「アリス・イン・ザ・ラビリンス!」
 ミズチは光の中に、ウサギが飛び回る情景を見た。
 時計。トランプ。少女。
 その向こうにミズチの夢、イニシエートでの王座奪還と地上人への復讐のイメージが次々と浮かんでゆく。
(わしの夢・・・・全ての者がわしにひれ伏すのじゃ!)
 だが、追えば追うほどその夢も遠ざかってゆく。
(待て、わしの夢、待て!)
 いつしか、ミズチは人間の姿でその夢を追っていた。
 そして、夢自体も形を変えていた。いや、戻っていたというべきか。
 純粋に追っていた、あの頃の夢に。
 果てしなく。
 どこまでも。
 いつまでも。
 たった一人で。
 気が付けば、自分の姿が若返っている。
 若き日の思い出。
 あの頃の自分の夢は何だったのだろう。
 思い出せない。
 あの夢に追いつけば、思い出せるのだろうか。
 必死で追いかける、あの頃の夢。
 あの頃も、こうして必死で夢を追いかけていたのだろう。
 いつ尽きるともない、果てない旅路。
 必死で脚を前に出す。
 追えば追うほど遠ざかる。
 もどかしい。
 時計の針がぐるぐると回り続けた。


「ゆかりん、ゆかりん!」
「ん・・・・」
 ゆかりは体を揺すられ、うっすらと目を開けた。
「・・・・莉夜ちゃん」
「良かったぁ、起きないかと思ったよ〜!」
 莉夜が抱きついてくる。
「ゆかり、どうしたんだっけ・・・・」
「ミズチに技を放った後、倒れちゃったんだよ」
「・・・・そうなんだ」
 あれだけの破壊力を持つ魔法を何度も使ったのだ、精神力が持たずに気を失ったのだろう。
「姫宮ゆかり」
 紅嵐が覗き込んできた。法衣は脱いでおり、肩から胸にかけて包帯が巻かれている。
「ミズチはどうなったのですか? 死んではいないようですが」
「・・・・夢を追ってる」
「夢?」
「純粋だったあの頃の夢に追いつけたら・・・・思い出せたら戻って来れるはず」
 紅嵐はゆかりの言葉の意味が良く分からなかった。
「それで、あの力は一体?」
「・・・・分かんないんです、ゆかりにも・・・・ただ、莉夜ちゃんの持っていた蒼い宝石を孫の手に付けたら、あんな風に変化して・・・・」
「え、あの宝石?」
 莉夜はゆかりの持っている孫の手を見た。元の孫の手に戻っていて、大きさも前のままだ。その隣には宝石が落ちていた。
「あずみちゃんのエネルギー」
 莉夜はその宝石を拾い上げると、手の平に乗せた。
「どうしてこれがゆかりんのパワーアップと関係があるの?」
「孫の手が言ってた。その宝石には魔力が蓄えられてるって」
「魔力? 魔力があずみちゃんのエネルギー?」
「おい、莉夜」
 雨竜が莉夜の肩を持つ。
「あずみはお前が作ったんだろう? エネルギーだとか、なぜお前が知らないんだ?」
「・・・・」
「莉夜!」
「あずみちゃんは・・・・」
 泣きそうな顔をして、苦しそうな声で莉夜が言った。
「あたしが作ったんじゃない・・・・」
「何だって? じゃあ、一体誰が?」
「知らない」
「知らないって、お前・・・・あんな精巧なアンドロイドだぞ? どうやって手に入れたんだ?」
「手に入れたなんて、言わないで。あずみちゃんは友達なんだから」
「そういうことを言ってるんじゃない。確かに、お前が作ったにしては他のロボットと出来が違いすぎる気はしていたんだが・・・・」
 莉夜は意を決したように、涙を拭って話し始めた。



23th Future に続く



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