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タイトル


 17th Future 「役立たずなゆかり」


「久し振りですね・・・・と言いたい所ですが、何故ここに?」
 紅嵐は宙に浮いている鳥人間から目を離さずにゆかりに問い掛けた。
「それは、えっと・・・・」
「ここに来るにはゲートを通らなければなりません。まさか莉夜が?」
「あの、その・・・・」
「結構。話は後で聞きます」
 鳥人間は紅嵐を見て莉夜への攻撃を中止していた。
「貴様が紅嵐か」
「カラス天狗か・・・・とっとと失せるか、私に倒されるか、選びなさい」
「貴様の挙げた選択肢に答えはない。俺がお前を倒し、ミズチ様にその首を献上する!」
 紅嵐目掛け、鳥人間が突進する。
「木っ端が」
 紅嵐が両手を合わせて前に突き出すと、その手を中心に風の渦が生まれた。
「ぐっ!?」
 突っ込んで来たカラス天狗の体が止まる。
(う、動かない・・・・! 空気の渦か? 奴が作り出したのか!?)
 渦は次第にカラス天狗の体を締め付けて行き、やがて上半身と下半身が別の向きにねじれ始めた。
「ぎゃぁぁ、や、やめろ!」
「私は先程、村の様子を見て来ました」
「・・・・や、やめ・・・・」
「子供の骨がいくつか散乱していました」
「やめてくれ、死ぬ・・・・」
「お前の仕業ですね」
「体がちぎれる、やめてくれ!」
「お前に食べられた子供は、助けて、食べないでと頼みませんでしたか?」
「・・・・」
「つまり、私がお前の頼みを聞いてやる理由はないということだ」
 カラス天狗の体が有り得ない方向にねじれる。ゆかりは顔を逸らした。
「風は全てを運んでくれる・・・・」
 突風が吹いたかと思うと、カラス天狗の体は跡形もなく消え去っていた。
「・・・・」
 ゆかりが恐る恐る目を開けると、目の前に紅嵐が降り立った。莉夜も続いて箒に乗ったまま地上に降り立つ。
「こ、殺したの?」
「安心しなさい。散らばった体は風で全てどこかに飛んで行きました」
「何も殺さなくても・・・・」
「相変わらずですね、姫宮ゆかり」
 紅嵐の表情は微妙で、ゆかりには心の中が読めなかった。悲しいような、嘲笑しているような、安心しているような・・・・。
「奴を生かしておけば、また子供が食べられます。あのカラス天狗と罪のない子供の命、それらは平等ではない。悪い者を放っておけば、犠牲者が増えるだけです」
 その紅嵐の言葉を聞き、ゆかりの心はズキンと痛んだ。ミズチを生かしていたことで、今のイニシエートの混乱が起きた。それこそ罪のない人が何人も死んでいるだろう。ミズチを殺したくないと言ったのはゆかりだ。あの時ミズチを殺しておけばイニシエートは今も平和だったはずだ、ゆかりはそう思っている。
「先程の続きですね。何をしに来たのですか、姫宮ゆかり。私がここを通りかからなければ、今頃あいつに食べられていたかもしれないのですよ」
「あ、あの・・・・」
 莉夜がゆかりに変わって説明した。迅雷が出雲家に来たこと、ゆかりと莉夜は他の人に内緒でこっちにやって来たこと。
「迅雷君・・・・あれほど言ったのに」
 紅嵐は小声で呟くと、渋い顔をした。
「私は皆の所に戻ります。あなたたちはゲートを使って純血界・・・・いえ、地上に戻りなさい。ここは危険だ」
「で、でも、せっかく来たのに!」
 莉夜の抗議は紅嵐の睨み一つに押さえ込まれた。それを見てゆかりが代わって紅嵐に話し掛ける。
「あの、ゆかりはみんなを助けに来たんです。だから一緒に・・・・」
「一緒に戦う、と言うのですか? 姫宮ゆかり、今この世界は戦場・・・・先程のような考えではあなたは死にます。帰った方がいい。あなたは戦いには向いていない。かえって足手まといです。莉夜、あなたも」
「だって・・・・」
 莉夜にとって紅嵐は雲の上の存在で、それ以上言い返すことが出来なかった。莉夜の兄で紅嵐の一番弟子である雨竜は紅嵐を尊敬しており、莉夜もそんな兄を見て育ってきたのだ。そんなわけで莉夜は何も言い返せないが、ゆかりは言い返せる。
「でも、芽瑠ちゃんが捕まってるんでしょ? 引き換えにマジカルアイテムを要求されてるって・・・・」
「迅雷君はそんなことまで話したのですか」
「あの、戦うんじゃなくて、みんなの怪我を治すだけでも出来るから、ゆかりにも手伝わせて下さい」
「・・・・確かに今は怪我人がほとんどで、攻められると危険な状態にあります・・・・治療をして貰えるならありがたいが・・・・」
「じゃ、決まりですね」
 ゆかりは少しでも役に立ちたかった。自分の出来ることがあって、嬉しかった。何か役に立つことで、自分の罪の意識への免罪符になる。
「莉夜ちゃん、治癒魔法は使える?」
「え? 使ったことない」
「教えてあげるよ、簡単だから」
「はい、先輩、よろしくです」
「というわけで、莉夜ちゃんも一緒でいいですよね」
 そう言われた紅嵐は、しぶしぶ頷くしかなかった。
 ゆかりは再び莉夜の箒に乗せて貰い、自分の羽根で飛んでいる紅嵐の案内で「反ミズチ派」の集結している場所へと向かった。
 辺りの景色は一面荒野だった研究所の周りとは一変し、山や谷が入り組む高低差に富む地形だった。紅嵐は谷の一つに近付き、谷底へと降下して行った。莉夜もバランスを崩さないように箒の向きを保ったままゆっくりと降りて行った。
 谷底の川が見えてきた辺りで、切り立った岩の壁に窪みを確認出来た。紅嵐はそこに降り立つと、何やら呪文のようなものを唱えた。
「早く入りなさい、扉が閉まります」
 と紅嵐は言うが、彼の前には岩壁があるだけで扉らしきものは見当たらない。莉夜が躊躇していると、紅嵐は岩に向かって一歩踏み出した。まるで前に何もないかのように岩の中に体が消えてゆく。
「莉夜ちゃん、早く! 閉まっちゃうって!」
「あ、う、うん」
 莉夜はゆかりを乗せたまま、魔法の箒で紅嵐が通り抜けた岩に思い切って体当たりした。すると、まるで岩が映像であるかのようにすり抜けてしまう。
 岩の向こうには、大きな空洞が広がっていた。
「お帰りなさい、先生!」
 空洞の奥から声が聞こえ、一つの人影が先に入った紅嵐に駆け寄った。
「慈雲村はどうでしたか?」
「残念ですが・・・・全滅でした」
 紅嵐が暗い声で告げると、魅瑠(みる)は「そうですか・・・・」と沈んだ表情で肩を落とした。
「あら・・・・?」
 魅瑠が莉夜とゆかりに気付く。
「ゆかりん?」
「魅瑠さん。お久し振りです」
 ゆかりが会釈すると、魅瑠は照れたように手を振った。
「やめてよ、私の方が年下なのに」
「あ、つい・・・・」
 水無池姉妹がうさみみ中学にいた時、長女の魅瑠はゆかり達の一つ上の先輩として通っていた。だからゆかりの中で、魅瑠はいまだに年上という設定だ。魅瑠の方は、ゆかりの本当の年齢を知っている。
「ひょっとして・・・・手を貸してくれるの? 先生がゆかりんを連れて来たんですか?」
「いえ、私ではありません。迅雷君は帰っていますか?」
「迅雷ですか? はい、先程・・・・」
「分かりました」
 紅嵐はそれだけ言うと、空洞の奥に歩いて行った。魅瑠はゆかりと莉夜を連れてその後を追う。空洞の奥には簡単なテントのような居住施設がいくつもあり、人々が忙しそうに動き回っていた。怪我をして手当てを受けている者も何人か見受けられる。
「ここで暮らしてるの?」
 ゆかりが魅瑠に質問する。
「研究所を追われて、私達の家がある村も放ったまま、ここに逃げ込んだの。先生が村の様子を見に行ってくれたんだけど・・・・」
「ここ以外にも仲間がいるの?」
「・・・・分からない。この世界がどうなっているのか、敵はどれだけいるのか」
「・・・・」
 ゆかりには、魅瑠が元気さを装っていると感じた。無理も無い、妹の芽瑠が人質になっているのだから。彼女の性格から考えると、すぐにでも妹を取り戻しに行きたいところだろう。
「あ、ちょっと待って」
 道端に腕から血を流している若者がいた。ゆかりはその若者と、手当てをしようとしている女性の所に駆け寄り、孫の手を出した。
「じっとしてて」
 患部に孫の手を近付けると、若者が腕を引っ込めた。
「な、何をするんだ!」
「あの、治してあげようと思って・・・・」
 若者と女性の自分を見る目に戸惑う。見たことのない顔と奇妙な衣装のゆかりは、怪しまれても仕方がない恰好をしているので、無理はなかった。
「大丈夫よ、この子は味方だから」
 魅瑠の言葉に、若者は恐る恐る怪我を負った腕を差し出す。孫の手から発せられた光が患部を包むと、みるみる傷口が塞がってゆく。
「うわっ、す、凄い」
「もう痛くない?」
「うん、凄い、完全に治ってる!」
 しきりに感心する若者を見て、ゆかりは少し照れ臭くなった。
「・・・・な、なぁ、さっきは悪かったな、その・・・・怖がったりして」
「ううん、仕方ないよ。この恰好、ここでは凄く違和感あるもん」
 ぷにぷにゆかりんの恰好は、この世界でなくともどの世界でも結構浮いているはずだ。
 その治癒魔法を見た、周りの怪我人達もゆかりの周りに集まって来た。
「俺のも治してくれ!」
「息子を診てやって下さい!」
「俺が先だ!」
 あっと言う間に、ゆかりは人だかりの中へと埋もれてしまった。
(うわわ、これだけの人を治したら、魔力がなくなっちゃうよ〜!)
 戦いになるかもしれないので、魔力を使い切るのはまずい。だがこれだけの人数を治療するとなると、相当の魔力を消費する。それどころか、治せない人を残したまま魔力が尽きる可能性が高い。
「早く治してくれよ! 痛いんだ!」
「息子が可哀想じゃないか!」
「あいつは治せて、俺は治せないのかよ!」
(ど、どうしたらいいの〜!)
「きゃっ!」
 オロオロするゆかりの腕を、何者かが引っ張って人だかりから脱出させた。
「ったく・・・・お前ら、それが治療してもらう側の態度かよ」
 ゆかりの腕を引っ張ったのは迅雷だった。
「・・・・来てくれたのか、ゆかりん」
「うん・・・・」
「透子は反対してたぞ」
「うん、でも、何か力になりたくて・・・・」
「そうか。ゆかりんと違って、あいつらは薄情だよなぁ」
「そ、そんなことないよ! 透子も巳弥ちゃんも、いつもは全然薄情じゃなくて、その・・・・」
「あぁ、悪い。分かってるよ。ちょっと言ってみただけだ」
「あの、手、離して」
「え?」
 迅雷の手は、ゆかりの腕を掴んだままだった。慌てて手を離した迅雷が照れ隠しに笑おうとした。だがその顔が見えない力によって歪み、頬に痛みを伴って迅雷の体が後方にぶっ倒れた。
「ぐあっ!」
「ワンちゃん!?」
 頬を擦りながら起き上がろうとする迅雷の前に、紅嵐が姿を現した。
「せ、先生」
「迅雷君、私は言ったはずです・・・・今起きている戦いは我々の戦いであって、私達だけで解決しなければならないと・・・・決して地上界の手を借りてはいけないと」
 「風の拳」を受けて倒れた迅雷は、紅嵐を睨みながら立ち上がった。
「ゆかりんは一度、ミズチを倒している・・・・このままだと死傷者が増える一方だ、だから・・・・」
「姫宮ゆかり達には関係ないことです。異世界の者を巻き込むのはよくありません」
「だったら教えてくれよ、この戦力でミズチに勝てるのか!? あっちだって人数は多くない、だけどミズチを倒せなきゃ何にもならねぇ! 無駄な作戦なんか練ってる時間なんかねぇだろ、芽瑠が捕まってるんだぞ! 何とも思わないのかよ!」
「だからと言って、勝手な行動をしていいということにはなりません」
「ちっ」
 迅雷は風で殴られた頬を押さえながら、軽く舌打ちした。
「俺はまだ、先生を許したわけじゃない・・・・自分がどれだけ魅瑠達に酷いことをしたか、忘れたわけじゃないだろうな」
「忘れはしません。だからこそ、少しでも償いを・・・・」
「どうせ芽瑠がどうなろうが、あんたは心配じゃないんだろう。だからここでこうして平然と・・・・」
 迅雷が言い終わる前に、今度は実体のある拳が彼の頬にぶち当たった。威力は先程の風のパンチほどではないので倒れはしなかったがそれなりに痛く、足で踏ん張りながら拳の主を睨み返した。
「何だよ、痛ぇな、魅瑠!」
「先生に謝りなさい、迅雷!」
 右手だけ「覚醒」させた魅瑠が、猫又パンチをお見舞いしたのだ。爪を立てなかったところを見ると、手加減したのだろう。魅瑠が爪を出して本気で殴れば、迅雷の顔は薄切りスライスにされていたはずだ。
「本当のことを言っただけじゃねぇか!」
「先生は・・・・先生は・・・・」
「もういい、魅瑠」
 なおも殴りかかろうとしている魅瑠を制し、紅嵐はゆかりに話し掛けた。
「すまないが、怪我人の治療をお願い出来ますか? 希望者は私が整理して並ばせるので」
「あ、はい」
 紅嵐の悲しげな表情がゆかりの目に焼き付いた。迅雷の言葉がよほど胸に突き刺さったのだろう。
「ゆかりん!」
 黄色い声が通りに響く。ゆかりが振り返ると、黄色いボールのようなものを抱えた女の子が立っていた。ゆかりと同じようなフリル付きの衣装で、頭には大きなリボンが付いている。
「萌瑠(もる)ちゃん!」
「ゆかりん、衣装変えしたんだね」
 萌瑠がタタタと駆け寄ってくる。
「よく分かるね、ちょっとアレンジしたんだよ」
「お姉ちゃんを助けに来てくれたの?」
「えと・・・・」
「あの時みたいに、ミズチを倒しちゃってよ!」
「えっと・・・・」
 スカートを掴まれたゆかりが困った顔で魅瑠に助けを求めると、魅瑠は末っ子の萌瑠を「ゆかりんお姉ちゃんはみんなの怪我を治してくれるから、邪魔しないでね」となだめてゆかりから引き剥がした。
 治療を希望する者はざっと数えて三十名近くに登り、ゆかりは孫の手の魔力が足りるかどうか不安になった。
 治療の間、萌瑠はゆかりの隣にずっと座っていた。萌瑠の抱えている黄色い玉は「まる」と言い、多少の学習機能を備えた会話型ロボットだと教わった。
 魅瑠は紅嵐の片腕となって活動しているため、萌瑠の相手をする暇が無い。芽瑠は人質として捕まっている。マジカルアイテムを手に入れるための人質だから命の心配はないと思われるが、それでも妹としては当然の如く心配なはずだ。であるから、ゆかりが来てくれて、話し相手が出来て、少しは気が楽になったのだろう。ゆかりが気付くと、萌瑠はゆかりにもたれ掛かって寝息を立てていた。
 治療を求めて行列を作った者だけでなく、列に加われないほどの、本来優先して治療すべき怪我人のいるテントを廻り、孫の手の魔力ドームがぺったんこになりそうな頃、ようやく全ての怪我人の治療が終わった。
「ご苦労様、ありがとうゆかりん」
 断続的に魔法を使って疲労したゆかりの前に、飲み物の入ったカップが差し出された。ゆかりは魅瑠からクリーム色の液体が入ったカップを受け取って、一口飲んでみた。バニラのような味がする、ミルクと酷似した甘い飲み物で、何となく疲れが取れそうな気がした。
「芽瑠ちゃんはどうやってさらわれたの?」
 ゆかりは「聞かない方がいいかな」と思ったが、どうしても芽瑠が人質になった経緯を知りたくて魅瑠に質問した。どうして芽瑠なのか。芽瑠は慎重派なので一人で危ない場所へは行かないだろうし、同じ人質なら萌瑠の方が捕まえやすいし、効果的な人質なら他にもいそうなものだ。
「それが・・・・いつさらわれたのか分からないのよ」
 というのが魅瑠の答えだった。
「分からないって?」
「誰も知らない内に芽瑠がいなくなってて、ミズチ側から人質にしたっていう声明があって・・・・」
「だったら、実際は捕まっていない可能性も」
「ミズチの使者が芽瑠の眼鏡を持って来たわ。あの子の物に間違いなかった」
「・・・・マジカルアイテムを持って行ったら、芽瑠ちゃんは助かるのかな」
「でも、それが向こうの手に渡ったら、ミズチを倒すことが出来なく・・・・」
 そこまで言って、魅瑠は口をつぐんだ。
「・・・・ごめんなさい、本音が出ちゃったわね。紅嵐先生の言う通り、ゆかりん達を巻き込んではいけないって思ってるんだけど・・・・やっぱりあなたの力に、ミズチを倒したあなたの力に期待してるんだわ・・・・」
「・・・・」
(ゆかりに出来ることなら・・・・)
 だが、ゆかりにも不安はある。
 孫の手があるからとは言え、ミズチを倒せるのだろうか? 以前に倒した時は、透子も巳弥も、紅嵐や迅雷も一緒に戦った。今回も味方はいるが、あの時に放った大技「スゥィートフェアリー・スターライトストリーム」は孫の手がリミッターを解除して、命を賭けたものだ。孫の手自体は全くパワーアップしていないし、第一、あの時はトゥラビアの「魔力供給装置」からマジカルフェザーが魔力を得て、ほぼ無限に魔力を使えていたのだ。今の孫の手のようにすぐ魔力が尽きてしまう状態なら、スプラッシュですら数回使用出来るかどうかだろう。
 ゆかりだって、その程度は把握している。
 それでもやはり、ここに来ずにはいられなかった。
「ね、ねぇ、マジカルアイテムを渡せば芽瑠ちゃんは帰ってくるんだよね?」
 それまで一言も発せず、考え込んでいるかのように静かにしていた莉夜が立ち上がった。兄である雨竜は紅嵐達と会議中であるため、莉夜は兄と感動の?再会も出来ずにいた。
「これ・・・・」
 おずおずと後ろ手に持っていた「魔法の竹箒」を差し出す。
「これで芽瑠ちゃんが帰ってくるなら・・・・これは莉夜にとって大切な物だけど、芽瑠ちゃんの方が大事だから・・・・」
「莉夜ちゃん」
 魅瑠が莉夜の頭を撫でる。
「ありがとう。でも何でもいいってことじゃなくて、ミズチが欲してるのはゆかりん達のマジカルアイテムなの」
「そ、そうなの?」
 竹箒を渡さなくてもいいので、ちょっと安心してしまう莉夜だった。
 ちなみに莉夜はもちろん、ゆかり達もマジカルアイテムはただトゥラビアに借りているだけなので、ゆかり達の判断だけで他人に渡したりは出来ないはずである。
「!」
 突然、魅瑠と莉夜が立ち上がった。
「来た・・・・!」
 そう言うなり、魅瑠は扉を開けて部屋を飛び出した。莉夜もそれに続く。
「え? なに? 誰が来たの? お客さん?」
 状況が理解出来ないまま、ゆかりも二人の後を追って部屋を出る。魅瑠と莉夜が同じ方角を見て険しい顔をしていた。
「見付かったわね」
「・・・・はい」
 莉夜の声に緊張が走る。それを見てゆかりも敵が来たのだと悟った。ゆかりと違い、魅瑠も莉夜もイニシエートの人間であるから、聴覚や嗅覚等が優れているのだろう。
 通りから逃げてくる人が「危ないから逃げろ!」と叫んだ。
「莉夜ちゃんとゆかりんは逃げて!」
「魅瑠さんは?」
「敵が多過ぎる。加勢しないと!」
 魅瑠の尾てい骨の辺りから、レザーパンツを押し退けるように二本の白い尻尾が飛び出した。少しローライズ気味なのは、このためなのだろう。魅瑠はそのまま姿勢を低くし、尻尾をなびかせながら人間離れしたスピードで通りを駆け抜けて行った。
「わわ、待って!」
 莉夜が慌てて竹箒にまたがる。
「ゆかりんはどうするの?」
「え? えっと、ゆかりも行く」
「じゃ、乗って!」
 魅瑠の後を追って、二人を乗せた箒が飛ぶ。ゆかりは莉夜に必死でしがみつきながら「やっぱり逃げておけば良かったかなぁ」と後悔していた。



18th Future に続く



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