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タイトル


 15th Future 「ターニング・ポイント」


「イニシエートってなに?」
「とぼける必要はない。質問に答えてくれないか」
「こっちの質問にも答えて。どうして鷲路君はそんなに怒ってるの?」
「大人しく答えろ」
 憂喜の右手が青く光った。透子と巳弥はそれを見て、とっさに身構える。
「ストップ!」
 憂喜の右手が掴まれる。咲紅だった。
「それはちょっとまずいんじゃないの!?」
「何がだ? イニシエートと関係があるという時点で、彼女達は僕達の敵だ。この世を乱す悪だ。オブザーバー試験に関係なく、ここで処罰することに何の問題もない」
「クールじゃないわ、それ。第一、今ここにイニシエートはいないのよ。もしかしたら、一方的に助けを求められて、断って追い返したのかもしれないわ」
「・・・・」
 咲紅の言っていることは正解だが、透子には分からないことばかりだ。
 まず、何故迅雷がここに来て話していた内容を、憂喜達が知っているのか。自分達の敵だと言っているが、イニシエートとはどのような関係なのか。オブザーバー試験とは何か。処罰するとは、具体的にどうするつもりなのか。
 そもそも彼らは何者なのか。
 どういうわけか迅雷との話を聞かれているらしいので、隠しても無駄だと透子は思った。
「その通りよ、イニシエートの混乱を鎮める手伝いをしてって言われて、断ったわ」
「イニシエートがそのようなことを頼みに来ると言うことは、かなり親しい間柄と理解していいのか」
「向こうはどう思ってるか分からないけど、あたしは迷惑」
 巳弥の手前、イニシエートを悪く言うのは気が引けるが、この状況では仕方がない。巳弥も分かってくれているだろうと透子は信じている。
「迷惑だから追い返したの」
「・・・・仲間ではないのか」
「そんなんじゃないわ」
「・・・・」
 憂喜もそう言われてしまえば、強引に「処罰」するわけにもいかない。
「だが、校長はイニシエートだ・・・・とすれば、孫である出雲巳弥、君もイニシエートではないのか?」
「えっ」
(どうしておじいちゃんのことを!?)
 困惑する巳弥の前に、透子が進み出た。
「巳弥ちゃんのおじいちゃんがイニシエートだったことは初耳だけど、巳弥ちゃんは・・・・話していい?」
 透子が何を話すつもりなのか分からないが、巳弥はとりあえずここは透子に任せようと思い、頷いて見せた。
「巳弥ちゃんは身寄りがなくて、仕方なく校長先生が親代わりになってくれて、一緒に住んでいるの。だから血は繋がっていないわ。巳弥ちゃんは人間よ」
 無言で頷く巳弥。
「・・・・そんな話、信じると思うのか」
 憂喜の声は、心なしか先程よりも小さくなっている。
「信じる、信じないは勝手だけど・・・・あたしたちのことばかり話してる気がするわ。あなたたちのことも聞きたいんだけど。不公平じゃない? 巳弥ちゃんのおじいちゃんが行方不明で、捜してるの。あなたたち、何か知ってるんじゃない?」
 今度は憂喜と咲紅がひるむ番だった。
 蒼爪によると、巳弥の祖父は川に落ちたまま行方が分からない。だが蒼爪が校長と戦い、その末に行方不明になったという事実を話すのは得策ではない。
 後ろから咲紅が憂喜の背中に手の平を当てた。咲紅の言葉が手の平を通じて憂喜の頭の中に届く。例えるなら、心話のようなものだ。
(憂喜君、色々と口を滑らせ過ぎ。イニシエートが私達の敵だって知られたら、じゃあ私達は何者なんだ、ってことになるじゃない。イニシエートを敵視する気持ちは分かるけど、憂喜君ともあろう人がこうなる事態を想定していなかったの? 蒼爪の言ってたイニシエートがいないこの状態でとぼけられたら、証拠がないのよ?)
(分かっている。君に言われるまでもなく、僕のミスだ)
(ふぅん、素直に認めるんだ)
(失敗をする者は馬鹿だが、失敗を認めない者はもっと馬鹿だ)
(で、どうするの?)
(話すしかないだろう)
(え、本当のことを?)
(見ていてくれ)
 憂喜は咲紅との心話を中断し、透子と巳弥に視線を向けた。
「実は我々は、この世界に介入する異世界の者を排除するために来た。イニシエートがこの世界に侵入したと聞き、ここを探し当てたというわけだ。もちろんそれは校長だったわけだが、もう一人別のイニシエートの存在が明らかになった・・・・藤堂院さん、先ほど君が会っていた人物だ。それでこうして尋ねて来た」
「イニシエートを排除するために・・・・? じゃあ、まさか巳弥ちゃんのおじいちゃんも?」
「いや、我々も捜しているところだ。排除はしていない」
「それはとりあえず信じる。あなたたちは、どこの人?」
「それはまだ言えない。この世界の者ではないことは気付いているだろう」
「少なくとも、魔法を使えるってことは」
「すまないが、僕達の任務に支障をきたすので、これ以上は聞かないで欲しい」
「それって、あなたたち転校生三人がそういうメンバーだってこと?」
「そうだ」
「・・・・」
(この世界に来たイニシエートを倒すために、うさみみ中学に潜入したってこと? 巳弥ちゃんのおじいちゃんは、彼らに目を付けられていた・・・・あたし達に隠していたのは、そのことだったの? 巳弥ちゃんに余計な心配をかけたくなかったから? 巳弥ちゃんもイニシエートの血を引いていると知られないように? でも窓の割れた校長室、壊れた体育館・・・・巳弥ちゃんのおじいちゃんが誰かと争ったのは間違いないわ。彼らが取り逃がしたってこと? 校長先生は、今も生きていて身を隠しているってこと?)
「それなら提案があるんだけど」
「提案?」
「巳弥ちゃんのおじいちゃんは、巳弥ちゃんの親代わりで学校の校長先生だから、イニシエートだからって排除して欲しくないの。第一、あの人はこの世界に対して何も悪いことをしていないわ。その代わり、それ以外のイニシエートが来たらあなたたちに教える。この世界を乱すイニシエートはあたし達も許せないもの。協力するわ」
「・・・・」
 憂喜が目線で、咲紅に自分の背中に手を当てるように促した。
(どう思う?)
(どうって・・・・取りあえず藤堂院さんの提案を呑んでおけば、私達の任務は続けることが出来るわね。校長が見付かった時・・・・生きていればだけど、彼をどうするかはその時に決めるしかないでしょ)
(そうだな。今は自分達の任務を続けることが先決か)
「分かった。では先程この家に来ていたイニシエートの頼み事は聞く気はないな?」
「頼み事? イニシエートを助けてくれって言う? もちろん。面倒なことは嫌いだから」
「それならいい」
 透子と憂喜が会談している時、ゆかりは春也を連れて出雲家に到着していた。春也は憂喜と咲紅を止めると言って玄関に向かったが、ゆかりと莉夜、そしてあずみは裏口から出雲家に入った。
「ゆかりん、どうするの?」
 ゆっくりと裏口のドアを開けるゆかりに、莉夜が尋ねた。
「ゆかりはイニシエートに行くね。迅雷君が来た時に使った次元ゲートはお風呂場にあるから、裏口から入ればすぐだよ」
「巳弥ちゃんとかには内緒ってこと?」
「うん・・・・ゆかりの問題だから、迷惑かけたくない」
「莉夜も一緒に行く。イニシエートのピンチだから」
「あ、私も行きます」
 あずみも賛同した。
「でも莉夜ちゃんのお兄さんが迎えに来ないのは、危険だから莉夜ちゃんが帰らない方がいいと考えてるんだって透子が・・・・」
「自分達の世界だもん、守りたいよ!」
 莉夜の言葉にあずみも力強く頷いた。三人が足音を立てずに風呂場に向かっている時、春也が出雲家の玄関に現れた。
「早まるな、お前ら!」
 息を切らせて春也が飛び込むと、涼しげな視線が彼に集中した。
「ハル君、やっと来た」
「遅いぞ、澤崎」
「・・・・ど、どうなってるんだ?」
「当分の間の話はついた。帰るぞ」
 憂喜はそう言って出て行こうとする。
「はぁ? 何がどうなったんだ、説明しろ!」
「帰ってから説明するから。夜分遅く、失礼しました」
 咲紅も巳弥に会釈して憂喜の後を追った。
「何なんだよ、ここまで走って来たんだぞ!」
 そんなこんなで騒がしく春也が出て行くと、出雲家の玄関には静寂が戻った。
「・・・・ごめんね巳弥ちゃん、色々と」
「ううん、透子さんのお陰で何とか収まりました」
「嘘をつくって、嫌な気分だね」
 だが本当のことを言っていれば、巳弥も今頃は排除されていただろう。そう思うと透子はぞっとした。
「イニシエートを排除するために来た・・・・ってことは、莉夜ちゃんもここにいたら危なかったってことね」
 カラァァァァン。
 風呂場から乾いた音が聞こえた。おそらく洗面器が転がったのだろう。
「お風呂場に誰かいる!?」
「迅雷君は帰ったはず・・・・」
 巳弥と透子はそれぞれマジカルアイテムを構え、風呂場に向かう。だがそこにいたのは、あずみと上半身が空間に消えかけている莉夜の姿だった。
「何してるの!?」
「あ、見付かっちゃったよ、りよちゃん!」
 あずみがジタバタしている莉夜のお尻をゲートに押し込む。
「ゲートが生きてる!? 迅雷君、消して行ってって言ったのに消してなかったの!? ちょっとあずみちゃん、待って!」
 透子が慌ててあずみの腕を掴む。
「離して下さい!」
「どうして黙って行こうとするの!」
「ごめんなさい、でも・・・・」
 莉夜の体がつま先まで全て空間の中に消え失せた後、時空ゲートである空間の歪みが揺らぎ、消えてしまった。
「あれ、ゲートが・・・・」
「消えた・・・・?」
 透子とあずみがゲートがあった辺りを手で探ってみたが、もう空間の歪みのようなものは存在しなかった。
「・・・・ゆかりは」
「・・・・」
「あずみちゃん、ゆかりは!?」
「・・・・莉夜ちゃんの前に、ゲートに潜りました」
「・・・・!」
 立ちすくむ透子と巳弥。
「置いてけぼりです・・・・」
 悲しい顔をするあずみ。
「どうして止めてくれなかったの、あずみちゃん!」
 出雲家の風呂場に、透子の声が響き渡った。
 そこにまた、出雲家に来客があった。
「ゆかり、いるのか!?」
 その日の出雲家にとっての最後の客はユタカだった。
「ユタカさん?」
 巳弥が玄関で出迎える。ユタカは息を切らせており、走ってきたようだった。
「はぁ、はぁ、ゆかり、来てるだろ?」
「・・・・それが・・・・」
「相楽君、どうして?」
 透子も巳弥の後ろから顔を出す。
「藤堂院さん、ゆかりは? 何だか、心配になって・・・・さっき電話したんだけどさ、明後日の待ち合わせに行けないかもとか何とか・・・・ちょっと気になって、気になりだしたら我慢できなくて・・・・なぁ、ゆかりは・・・・」
「ゆかりは、その・・・・」
 何と説明しようか、悩む透子だった。


「と言うわけで、私達はイニシエート討伐チームってことになったのでよろしくね」
「何がよろしくだ! 説明しろよ、説明!」
「もう、面倒だなぁハル君は」
「出雲家で何があったんだよ!」
 必死で出雲家まで走った挙句、いきなり「話はついた」と言われた春也は、憂喜と咲紅に説明を求めていた。
「藤堂院さんの話、どう思う?」
 だが二人は春也を無視して話を進める。
「イニシエートの頼みを断ったという点は、蒼爪君が聞いた話と辻褄が合うわ」
「だがそれだけでは、イニシエートとどこまでの間柄なのかは分からない」
「校長の行方も、本当に分からないみたいだったわね」
「正体を知らなかったというのは、にわかに信じ難いが・・・・それに出雲巳弥とは血が繋がっていないという話も簡単に信用するわけにはいかない」
「イニシエートだと分かればまずいことになる、と思ってとっさに嘘をついたってこと?」
「有り得ない話ではない。それは桜川さんが引き続き調査して欲しい。出雲巳弥の担当だからな」
「それはもちろん。オブザーバー試験も継続ってことで」
「そうだな。あと校長の捜索も行った方がいいだろう」
「何たって、正真正銘のイニシエートだしね」
 お互い頷きあう憂喜と咲紅。
「二人で納得するなよ!」
 まだ心臓の動きが活発な春也は、ぜぇぜぇ言いながら二人の後を歩いていた。


 誤魔化しても仕方がない。イニシエートのこともある程度理解しているユタカには、本当のことを話そうと透子は思った。
「そんな、ゆかりと莉夜ちゃんがイニシエートに・・・・? そしてそのゲートはもう閉じられてしまったってのか?」
 無言で頷く透子。
「・・・・くそっ!」
 ユタカが畳を殴る。
「俺、ゆかりを守るって言ったんだ・・・・約束したんだ。なのに俺は何も出来ないのか? 何の力にもなれないのか? なぁ、ゆかりを助けに行けないのか? 行く手段はないのか?」
 誰に向かって聞くでもなく、ユタカが拳を握り締める。
「くそっ、何で気付かなかった? 俺、さっきまでゆかりと電話で話をしていたんだぞ? 何で相談してくれなかった? 俺は力になれないってことなのか? 頼りないのか? 守ってやれる力なんてないのか? 俺・・・・」
 突然、ユタカの口を見えない空気の膜のようなものが塞いだ。ユタカの口を塞いだのは透子の魔法だった。
「ゆかりはあたし達に迷惑をかけたくないからって、自分に責任があるからって、何も言わずに、迷惑をかけないように・・・・」
 ため息をつきながら呟く透子の隣で、ユタカが苦しそうに喉を押さえていた。
「どうしたの? 相楽君」
「く、苦しい・・・・」
「あ」
 ユタカの口を押えていた空気の膜は、呼吸が出来ないほどにピッタリとくっついていた。透子が「ごめん」と謝りながら魔法を解くと、ユタカは大きく息を吐き出した。
「自分を責めないで、相楽君。あたしも自分を責めなきゃならなくなるじゃない。まさかゆかりが黙って行くなんて考えてなかったから・・・・ゆかりから目を離すんじゃなかった。防げたはずなのに・・・・」
「あ、あの・・・・」
 透子の後ろで、あずみがしきりに恐縮していた。
「私が止めていれば・・・・」
「済んだことは仕方ないし、莉夜ちゃんとあずみちゃんは自分たちの世界の事だから、心配になるのは当たり前よね」
 透子はなるべく優しい口調であずみを弁護した。優しく聞こえたかどうかは自信が無い。
「なぁ藤堂院さん、イニシエートに行く手段はないのか?」
 ユタカがテーブルの上に身を乗り出す。
「行ってどうするの?」
「ゆかりを連れ戻す」
「ゆかりって案外意地っ張りだから、簡単には帰らないかも」
「なら、一緒に戦い、守る!」
「悪いけど、力になれないと思う」
「この前のマジカルアイテムを借りるさ」
「・・・・あたしだって」
(ゆかりがどうしてもって言うなら、誰にも言わずに行くなんて、そこまで考えているならあたしも一緒に行ったのに・・・・ゆかりはあたし達に迷惑をかけないようにって黙って行ったつもりだろうけど、これだけは分かって欲しい。こんなに心配する人がいるんだってこと。ゆかりは一人じゃないんだってこと・・・・)
「透子さん?」
 急に黙ってしまった自分の顔を覗き込む巳弥に気付き、透子は慌てて取り繕った。
「え、ええと、イニシエートに行く手段はないこともないかも。トゥラビアの魔方陣を使わせて貰えば・・・・以前、こっちからトゥラビアにその魔方陣を使って行ったことがあるんだけど、でもイニシエートに行けるかどうかは聞いてみないと」
「ミズタマ君かチェック君がいればいいのにね」と、巳弥。
「誰だ? それ」
「あ、相楽君は会ったことなかったっけ? あたし達にマジカルアイテムをくれたトゥラビアのウサギだよ」
 マジカルアイテムは、本当は貰ったのではなく借りただけなのだが、透子の中では既に「自分のもの」になっているようだ。
「でも今、イニシエートに行くのは危険だわ」
「そんなこと承知の上・・・・危険だからこそゆかりを助けに行くんだろう?」
「イニシエートが危険なのは勿論だけど、そうじゃなくて・・・・」
「あ、転校生・・・・」
 と思わず言葉が出たのは巳弥だ。
「そう、あの三人・・・・イニシエートのことをかなり悪く思っているみたいだった。もしあたしたちがイニシエートに力を貸したことが知れたら・・・・」
「私たちも彼らの敵と見なされる・・・・」
「ちょっと待ってくれ、転校生って何のことだ?」
 ユタカに事情を説明するのは面倒なので、手早く説明したことにする。こんな時、いちいち説明すると視聴者や読者にとってはくどくなるし、冗長な場面になってしまう。事情が分からなくても知っている顔をしていればいいのだ。
「でもよ、ゆかりはイニシエートを倒しに行ったんだろう?」
「倒すのはイニシエート、でも助けるのもイニシエートだよ。結果的にイニシエートが平和になれば、手を貸したことになるわ」
「そんな奴ら、何とでもなるだろう。中学生のガキだぜ?」
「彼らの力は未知数・・・・どんな能力を持っているかも不明。うかつに敵に回すのはまずいわ。イニシエートに行けば、すぐに帰って来れるとは限らない。あたしたちがいなくなれば、イニシエートに行ったってことがすぐばれちゃうわ」
「藤堂院さんと巳弥ちゃんはマークされているが、俺ならいなくなってもそいつらにばれずに済む。というわけで、俺が行く」
「相楽君、会社は?」
「明日から土曜、日曜と連休だ。一泊二日で帰ってくれば問題ない」
「温泉旅行に行くんじゃないのよ」
「出来れば明日中に帰って来て、日曜は約束どおりゆかりとデートするんだ。というわけで、マジカルアイテムを借りていいか」
「でも、肝心のイニシエートに行く手段が・・・・」
「その何とかっていうウサギを呼んでくれよ」
「無理よ、連絡手段がないもの。ここ一週間ほど連絡がないわ」
「何だって!? そのウサギって、言わば魔法少女のお目付け役だろ!? 職務怠慢じゃないか!」
「そんなこと言われても・・・・」
(それにしてもおかしいわ。あたしたちに欠陥品マジカルアイテムの回収を依頼しておいて、音沙汰が無いなんて。彼らの身に何か? まさか・・・・)
 透子は憂喜の言葉を思い出す。
(この世界に干渉してくる異世界の者を排除する・・・・ってことは、トゥラビア人であるリチャードやミズタマ君も!? まさか彼らに・・・・)
「どうしたんですか、透子さん。怖い顔して・・・・」
「えっ? ううん、何でもないよ、巳弥ちゃん」
 今はまだ想像に過ぎない。透子はその不吉な憶測を胸の内にしまっておくことにした。巳弥たちに余計な心配をかけたくはなかった。
 この夜、出雲家で行われた取り決めは次の通り。
 まず、ゆかりがイニシエートに行ったことをあの三人に知られてはいけない。何としてもゆかりが帰って来るまでは誤魔化し通すしかない。明日はうさみみ中学の体育祭なので、ゆかりが休んでいる理由が必要だ。それは透子の提案で「いきなり家族旅行に行った」ことにすると決まった。多少無理があるが、病気にするとお見舞いに来られると面倒である。
 次に、校長はあくまで巳弥とは血の繋がらない「育ての親」で通すこと。校長の正体は知らなかったことにする。ミズチとはたまたまこの世界に来たから戦っただけで、イニシエートのためではなかった。透子たちにとってイニシエートは迷惑な存在である。憂喜達が倒してくれるなら有難い。
「とりあえずこの二点は徹底。一歩間違えば彼らを敵に回すかも。いい?」
「う、うん・・・・分かった」
 真面目かつ怯えた表情で頷く巳弥だった。
 異世界・イニシエートがどこにあるのか、相対的な場所は分からない。だが透子は何となくイメージから地下にあるような気がして、畳に向かって目を閉じた。
(ゆかり・・・・無事で帰って来て。なるべく早くね)



16th Future に続く



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