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タイトル


 13th Future 「お呼びでない訪問者」


「お腹すいたよ〜、あずみちゃん」
「一晩帰っていないということは、どこかで夜を明かしたということ・・・・自分の意思で? それとも・・・・」
 あずみが「巳弥さんのおじいちゃんを捜しに行く」と言うのでついてきた莉夜だったが、まさか朝から夕方まで歩き回るはめになるとは思ってもみなかった。もちろん莉夜だって心配ではあるが、今はそれより自分が空腹で倒れないかが心配だった。
「あずみちゃんは食べなくても平気だろうけどさぁ・・・・」
「私だってほら、もう胸がぺったんこ」
「だから、どういう胸なのよそれ!」
「莉夜ちゃんが作ったんだよね?」
「え? あ・・・・ま、まぁ・・・・ちょっと度忘れ」
「私が思うに、疲れることをすると小さくなります」
「・・・・」
(エネルギータンク?)
 だとしても、寝ると大きくなるのだ。寝ただけで回復するエネルギーなど、聞いたことが無い。寝て回復するなど、まるで人間だ。
(人間? そっか、あずみちゃんはアンドロイドだから、そういう構造になってるのよ!)
 そう自分に言い聞かそうとした莉夜だが、慌てて首を振った。
(待て待て。仮にもロボットを作る身として、そんな安易に納得してはいかんぞ、莉夜ちゃん。仮にあずみちゃんが寝ている間に発電する機能を持っていたとして、そんな装置、あずみちゃんの体のどこにもなかったよ! ・・・・エネルギー装置自体、どこにあるか分からなかったけど・・・・やっぱりあのあずみちゃんが持ってた青い宝石と関係があると思うんだけどなぁ)
「あ、巳弥さんやゆかりんの通う学校ですよ」
 二人は市内をグルグルと歩いて、卯佐美第3中学校のグラウンドの横を通りかかった。今は今日の最後の授業である六時間目の授業中で、グラウンドではどこかのクラスが体育の授業を受けていた。このクラスもゆかり達同様、持久走のタイムを測っている。
「明日は体育祭だったよね。あぁ、パン喰い競争を連想したら、またお腹が減ってきたぁ・・・・きゅるる〜だよ」
 莉夜がお腹を押さえてしゃがみ込む。あずみはグラウンドで走っている生徒を眺めていた。
「楽しそう」
「どこが!? あんなに苦しそうな顔をしてるのに」
「生きてるって感じがします」
「・・・・」
(あずみちゃんだって、生きてるじゃない)
 学校の周りを歩いている内に、下校時間となった。ゆかり達は昨日に引き続いて巳弥の家に集まることになっている。もちろん今日は昨日の事情とは訳が違う。巳弥の祖父がいなくなったことに関しての集会である。
 一方、転校生三人組も巳弥の祖父と憂喜の「蒼爪」がいなくなったことについて話し合う、もしくは捜索することになっていた。
 やみくもに捜しても無駄のようだと思い、あずみと莉夜も一旦、出雲家に帰ることにした。何より、空腹により莉夜が倒れそうだったからだ。
「あの体操服、恰好いいね、りよちゃん」
「あの服を着たら、体育祭ってのに出れるかなぁ」
「駄目だよ、生徒じゃないと出場出来ないよ、きっと」
「沢山いるから、一人紛れ込んでも分かんないんじゃないかなぁ」
 などととりとめのない会話をしているあずみと莉夜の正面から、帰宅する途中の咲紅が歩いて来た。
(さて今日もシュークリームを・・・・あ、ついでにタイヤキ買って帰ろかな? う〜ん、でも最近さすがにちょっと食べ過ぎかも・・・・この世界ではベツバラって言うんだよね)
 女の子らしく甘いもの好きの咲紅がそんなことを考えながら、あずみと莉夜の二人とすれ違った。
(あれ・・・・?)
 すれ違う瞬間、ちょっとだけ見たあずみの顔に見覚えがある気がした咲紅は、立ち止まって振り返った。だが二人はそのまま咲紅を気にも留めないまま歩いて行ってしまう。
(小柴博士の娘さんに似てたけど・・・・こんなところにいるはずないよね。て言うか、彼女はもう亡くなってるし。お葬式だって行ったんだから)
 小柴博士とは、エミネントのソウルトランスソサエティの代表者で、トランスソウル研究の第一人者である。咲紅らの通うスクールの講師を担当したこともあり、恩師であった。ちなみに博士の娘はもう一人いて、長女が現在トゥラビアに出向している冴だ。その冴の妹は数ヶ月前に亡くなっているのだが、その博士の娘とあずみが何となく似ていると咲紅は感じた。
(この世界で転生・・・・にしては早すぎるよねぇ。転生サイクルの周期なんて知らないけど)
 そんなことより今は甘いものだ。咲紅はおやつを求めて「メロウ・プリティ」に足を向けた。咲紅にとって校長や蒼爪の失踪についての話し合いは、おやつを食べるための口実のようなものだった。
「いらっしゃい」
 メロウ・プリティに入ると、あのフリフリメイドコスチュームの店員ではなく、くたびれた感じのおじさんが頭を下げた。
「だれがくたびれた感じのおっさんだ・・・・」
「え?」
「あ、いやいや、こっちの話・・・・いらっしゃいませ」
 今日は急にゆかりがバイトを休むと連絡して来たので、仕方なく店長が店に立っていた。店長はマロングラッセ以上にゆかりに甘いので、ついわがままを聞いてしまう。だがやはりレジに立っているゆかり目当ての客も少なからずいるもので、店長を見て何も買わず帰ってしまう男性もいた。ちなみにゆかりは巳弥の祖父の捜索など、重要な用事があるのでバイトを休んでいる。
「えっと、シュークリームを十個」
「十個ですね、有難うございます」
(最近、よく売れてるみたいだなぁ・・・・ブームかな?)
 店長はそう思いながらシュークリームを十個用意し、咲紅に手渡した。
「今日はあのフリフリな店員さんじゃないんですね」
「あぁ、ゆかり君は今日はお休みです」
「ゆかり・・・・」
(あの人もゆかりって言うんだ。姫宮ゆかりといい、ひょっとしてこの世界では、ゆかりって名前はよくある名前なのかな?)


 静かで暗く冷たい石作りの部屋。
 窓は明り取りの小さなものだけ。目の前には鉄格子。
 ミズタマは牢獄というものを初めて体験した。一生に一度でも体験出来る人は少ないのだから、貴重な体験だ。体験しないに越したことはないが。
「・・・・で、我輩はいつまでここにいればいいんだじょ?」
 ミズタマは明らかに不機嫌な態度で、隣の牢獄にいるウサギに声を掛けた。
「エミネントのオブザーバーテストが終わるまで。一応ね」
「こんな所に閉じ込めて、我輩をどうするつもりだじょ?」
「どうもしない。何もしないでくれたら、それでいいわよ」
「横暴だじょ」
「また余計な事をされたら困るからね。仏の顔は三度までだけど、冴はそんなに何度も許してはくれないわ」
 隣り合った牢獄同士で話しているため、ミズタマは相手の顔が見えない。
(巳弥の母親にマジカルハットを授けたというプリウス・・・・あれから何十年も、自らの意思でこの牢獄に入り、外に出ることもなく暮らしてきたと聞く・・・・一体、何故? 何故プリウスがこんな場所に入る必要があったんだじょ?)
 巳弥の母、美櫛(みくし)がプリウスからマジカルアイテムを授かってイニシエートから地上に出てきた牙斬(がざん)を倒したというのは有名な話だ。だが当のプリウスがこんな場所で人との交流を避けてひっそり暮らしていたことを知るものはほとんどいない。そしてその理由を知る者は、トゥラビアには一人としていなかった。
「感謝してね。あなたはもう少しで今頃はこの世に存在しなくなっていたかもしれないのよ」
「我輩も魔法具があれば魔法が使えるじょ。みんな、あの冴って女をどうして怖がっているのか理解できないじょ」
「彼女から見れば、あなたの魔法なんてままごとよ」
「し、失礼だじょ! そりゃあなたは先輩だし、魔法だって上手かもしれないけど、その・・・・確かにさっきの魔法は凄かったじょ」
「私の魔法でも、冴にとってはお遊戯だわ」
「何故だじょ? このトゥラビアも魔法の国、魔法で成り立ってる国だじょ。魔法の技術では負けないじょ!」
 段々と熱を帯びてくるミズタマの声。このトゥラビアでは学校で「トゥラビアの魔法は世界一」「魔法で発展した、魔道国家」と教えられてきた。それ故に、よそ者に魔法で負けるなどという不名誉なことは、ミズタマには考えられなかった。
「・・・・そう言えば、あの冴って女の魔法具は腕に付いている青いブレスレット? 随分小さなマジカルアイテムだじょ」
「・・・・」
「どうしたじょ?」
 相手の顔が見えないので、黙られると不安になる。こんな淋しい場所で一人きりでよくいられたものだ、とミズタマは思った。
「聞いていいかじょ」
「・・・・何?」
「どうして自分からこんな牢獄に入ったんだじょ?」
 沈黙。
 ミズタマは「聞いてはいけなかったのか」と思ったが、やがて小さな応えがあった。
「戒め・・・・ね」
「戒め?」
 それからどれだけミズタマが話し掛けても、プリウスは喋らなかった。時々物音がするのでミズタマは安心していたが、いつになったらここから出られるのか、それだけが不安だった。


 出雲家のテーブルに、色取り取りの食事が並んだ。それぞれが夕食の素材を持ち寄り、それぞれが得意な惣菜を作った結果だった。あえて「今日は何々」とメニューを決めずに作ったら面白いかも、という遊び心だった。
 巳弥は手の込んだビーフシチュー、あずみは病み付きになったのかカレースープ、莉夜は何故か親子丼、ゆかりは焼き鳥(買って来た)、透子は冷奴だった。
 年上の二人が思い切り手抜きっぽいのは気のせいか。
「でも意外。巳弥ちゃん、思ったより落ち着いてるんだね」
 透子が冷奴にポン酢をかけながら言った。
「うん、心配は心配なんだけど、おじいちゃんは強いから。もしかしたら・・・・」
 巳弥の言葉が途中で止まると、みんなの箸も止まった。
「イニシエートに行ったのかも、って思ってるんだ」
「イニシエートに・・・・」
 ミズチの復活したイニシエートでの動乱。莉夜の兄である雨竜も騒動のお陰で妹を迎えに来れないでいるらしい。巳弥の祖父がその手助けの為に故郷に戻ったことは十分に考えられることだ。
「でも巳弥ちゃんに黙って?」
「私について来られると邪魔だと思ったのかもしれないよ」
「・・・・そうかもね」
 その巳弥と透子のやり取りを見ながら、ゆかりは「それなら助けに行きたい」と思っていた。今のイニシエートの騒乱は自分に責任があると思っているからだ。どれだけ透子や巳弥が違うと言っても、そう簡単に割り切れる問題ではなかった。
 そしてゆかりを悩ませるもう一つの問題。
(澤崎君のこと、みんなには黙ってるって言ったけど、透子達に報告しなくていいのかな・・・・)
 だが、ゆかりは春也のことを具体的に何も聞いていない。ただ彼が魔法を使えることを知っただけのことだ。うさみみ中学に転入して来た理由等は一切聞いていない。
(魔法を使えるなら、ゆかり達も一緒だもんね。約束したし、やっぱり言わないでおこう)
「じゃあ、どうする? 巳弥ちゃんのおじいちゃんがもしイニシエートに行ってるとしたら、あたし達の出来ることって待ってる以外にないよね」
 透子はそう言いながらカレースープを飲みながら親子丼を食べる。彼女は結構な味音痴なので、どんな食べ合わせでもこなせる。ある意味長所だ。莉夜の親子丼は、確かに具は親子丼っぽくはあるが、やけにとろみが付いていた。見よう見まねで作ったもののように見える。
「じゃあ、楽しく夕御飯にしよう!」
 小柄な身体に似合わず、莉夜の口へ次々と食べ物が消えてゆく。あずみもアンドロイドなのに莉夜に負けないほどの食欲があった。
「にしても、どうしてあずみちゃんはカレーばっかり食べてるの?」
 巳弥の問いに「好きだからです」と至極当然な答えが返って来た。
「何となくですけど、身体の中でエネルギーが燃焼する感じがします」
「あ、それ分かる。辛いの食べたらあったかくなるもんね」
 ゆかりもそう言いながらカレースープを飲んでみる。
「辛い・・・・」
 あひ〜、という顔をしていると、巳弥が気を利かせて「麦茶、持ってくるね」と言って席を立った。
「本当は凄く心配なんじゃないかな、おじいちゃんのこと」
 巳弥が部屋を出て行ったのを見て、透子が発言する。
「だと思います」
 あずみが箸を止め、巳弥が出て行ったドアを見た。
「無理してるみたいです、巳弥さん。一人でいる時は淋しそうな顔をしていますけど、私達の前ではそんな素振りを見せないんです」
「え、そうなの?」
 そんなことには全く気付いていない莉夜だった。
 その時、どこからか「ドンガラガッシャーン」というとんでもない音が聞こえた。
「な、なに!?」
「巳弥ちゃん?」
 一同は「台所で巳弥が転んだのか?」と思い、一斉に立ち上がった。だが部屋を出た途端、台所から駆けつけた巳弥とバッタリ出会う。
「あれ、今の音、巳弥ちゃんじゃないの?」
「ううん、お風呂場の方から聞こえたんだけど・・・・」
「まさか、泥棒?」
 頭数は五人もいるが、かよわい(?)女の子(?)ばかりである。もし泥棒だったらと思うと、風呂場を見に行くには勇気が必要だ。
「い、いざとなればこれがあるよ」
 透子はポケットから「魔法の肩叩き」を取り出して元の大きさに戻した。ゆかりもそれに倣い「魔法の孫の手」を手に取る。
 廊下をゆっくりと進み、風呂場に近付くとカラン、とかドタン、という音と「いてて・・・・」という声が聞こえてくる。
「男の人の声だよ」
「ますます怪しいわね・・・・変態さんかも」
 廊下の突き当りを曲がれば風呂場、という所まで来るとよりはっきり声が聞き取れた。
「ここはどこだ・・・・」
(あれ、この声・・・・聞いたことがある)
 巳弥はその声に思い当たるふしがあった。
「ね、この声って・・・・」
「巳弥ちゃん、危ないよ!」
 巳弥はゆかりの静止を聞かず、前に進み出てスイッチを押し、風呂場の明かりを付けた。
「うお、眩しい!」
 一同が風呂場を覗き込むと、手の平で目を覆っている男が倒れ込んでいた。
「ワンちゃん!」
「迅雷(じんらい)だ! いい加減覚えてくれ!」
 迅雷は巳弥に「ワンちゃん」と呼ばれて思わず突っ込んだが「いてて」と顔をしかめてタイルの上にしゃがみ込んだ。
「迅雷君!」
 莉夜が大声を出した。
「莉夜、大きな声を出すなよ。胸は相変わらず控えめだが」
「うるさい! でも、どうしたのよ迅雷君、その身体は!」
 迅雷の身体には今ここで転んだだけではない、無数の切り傷や擦り傷があった。見ているだけで痛々しい。
「取りあえず傷の手当てをするわ」
 巳弥は一同に「手を貸して」と声を掛け、迅雷を助け起こした。
「すまないな・・・・」
「で、どうしてこんな所に倒れてるの?」
 巳弥は救急箱を取りに行き、莉夜とあずみ、そしてゆかりが迅雷の身体を支えているので、透子は後ろから付いていくだけだった。
「座標をこの家に設定してゲートを作ったら、あそこに出たんだ」
「よりによってお風呂場なんて、のひ太君じゃないんだから・・・・巳弥ちゃんがお風呂に入ってなくて良かったわ」
「お、それはいい考えだな・・・・もう一度出直していいか?」
「もう、手当てしてあげないよ」
 救急箱を持った巳弥に睨まれ、素直に「ごめんなさい」と謝る迅雷だった。
「いてて・・・・」
 痛いのを我慢し、何とか布団の上に寝た迅雷は一同に「すまねぇ」と言った。
「迅雷君!」
 迅雷が横になるのを待っていたかのように、莉夜が噛み付くような勢いで質問を浴びせた。
「迅雷君、何しに来たの? ゲートを作ったの? 莉夜達を迎えに来たの? イニシエートはどうなってるの? お兄ちゃんは元気? 何でそんなに怪我してるの? 巳弥ちゃんのおじいちゃんって、そっちに行った? 莉夜ちゃんて可愛い?」
「一度に質問するな! 最後の質問は何だよ! 今は関係ないだろ! はぐっ!」
 思わず莉夜と同じテンションで返してしまったため、迅雷は身体のあちこちの傷が思い切り痛んで仰け反った。
「じっとしてないと・・・・」
「あ、ああ」
 巳弥に言われると大人しくしてしまう迅雷だった。
「ねぇ、包帯とか傷薬とか、これじゃ足りないわ。誰か買ってきて」
 救急箱を開けて中身を見た透子が、誰に言うでもなくお遣いを依頼した。それに真っ先に反応したのは莉夜だった。
「じゃあ、莉夜が行く!」
「りよちゃんが行くなら、私も・・・・」
 あずみも莉夜に倣って手を上げる。
「ゆかりも一緒に行ってあげて。莉夜ちゃん達、薬屋がどこにあるか分からないでしょ?」
「う、うん、そうだね」
 透子に促され、ゆかりも席を立つ。「こんな時間に開いてるかなぁ」といいつつ、ゆかり、莉夜、あずみは薬局へ向かった。
「巳弥ちゃんは・・・・そうね、お湯を沸かして。身体を拭いたりしないと」
「うん」
 巳弥も部屋を出て行く。居間には透子と迅雷の二人だけになった。
「二人きりにして、どうするつもりだ? まさか・・・・」
 迅雷は透子の目を見ずに、仰向けになったまま天井を見上げていた。
「迅雷君にお願いがあるの」
「ま、待て。まだ心の準備が・・・・」
 と言いつつ、チラっと透子の顔を見る。
「・・・・」
 透子に思い切り睨まれた迅雷は、その目を見なかった振りをした。
「そうやって冗談を言って誤魔化すところを見ると、用件は大体分かってるみたいね」
「・・・・」
「ゆかりたちが戻ってくるまでに帰って」
「・・・・俺、怪我人なんだけどな・・・・」
「安心して。怪我なら魔法で治してあげるから」
「それが出来るんなら早くやってくれよ! あいつらは何のために薬を買いに行ったんだ!?」
「あたしが人払いをしたかったから」
「魔法で治せることに気付かないなんて、ゆかりんらしいが・・・・巳弥も気付かなかったのか?」
「巳弥ちゃんは多分、あたしの意図を察して席を外してくれたんだと思う。そんな怪我をするなんて、あたしたちに助けを求めに来るなんて、よっぽど苦戦してるみたいね」
「・・・・あぁ、ある程度は知ってるんだな。ミズチの勢力が思った以上に大きく、紅嵐(クラン)先生を筆頭にした俺たち抵抗勢力はかなり追い詰められている」
「そこで、一度はミズチを倒したことのあるゆかりに、力を貸してくれとお願いに来た」
「・・・・あぁ」
「ここに来たのは、あなたの判断?」
「よく分かるな」
「一つ、紅嵐さんがあたしたちに助けてくれなんて言わないと思ったから。一つ、紅嵐さんがゲートを作ったのなら、お風呂場じゃなくてきちんと座標を合わせると思ったから」
「・・・・もうやばいんだ」
 迅雷は目を閉じた。王の座から引き摺り下ろされたミズチの反乱で、多くの仲間が命を落とした。そして・・・・。
「いい? 迅雷君。あたしは今、凄く怒ってるの。この間、あたしたちがミズチと戦ったのは、あっちからこの世界に干渉して来たから。巳弥ちゃんの大事な宝玉を奪おうとしたから。だから仕方なく戦ったのよ。でも今のイニシエートの戦いは違う。イニシエートの問題であって、あたしたちは関係ないの。あたしは平和に暮らしたいだけ。だから、余計な騒動は起こさないで欲しいの」
「それは・・・・そうかもしれない」
 迅雷の身体が光る。透子が魔法の肩叩きによる治癒魔法で彼の傷を治した、その光だった。
「・・・・すげぇ、治ってる」
 迅雷は上半身を起こすと、少しふてくされたような表情で言った。
「悪かったな、いきなり来て」
「今度は玄関から入って来てね」
「是非、巳弥が入浴中に来ることにするよ」
 迅雷は立ち上がると、腕を回したり腰をひねったりしたが、完全に傷は癒えていた。
「ゆかりなら、絶対に助けに来てくれるって思ったでしょ?」
「・・・・とこたんや巳弥も来てくれると思ってたよ」
「お生憎様。さ、早く帰って。ゆかりが戻って来ちゃうわ。ゆかりだったら、絶対に手助けに行くもん。友達だからって」
「友達か・・・・なら聞くけど、お前は俺たちのことを友達だと思っていないのか」
「思ってるとしても、友達を危険に巻き込むような友達はちょっと困る。ゆかりを危ない目に合わせるわけにはいかないから」
「なるほどな。どっちにしても友達を危険な目に合わせることには違いないか・・・・だよな」
 透子に背を向け、迅雷は「じゃあな」と言った。
「芽瑠(める)を助けないと・・・・」
「え、芽瑠がどうかしたの?」
「人質に取られたんだよ、ミズチ側に囚われた。芽瑠の命と引き換えに要求してきたものが、マジカルアイテムなんだ」
「・・・・!」



14th Future に続く



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