話数選択へ戻る


タイトル


 12th Future 「伝説のウサギ」


 六時間目が始まる時、何故かその教科の担任ではなく、それぞれのクラスの担任が教室に現れた。「なんで?」というざわめきが各教室で起こる。ゆかりのクラスも例外ではなく、担任の露里がやって来た。
「六時間目は抜き打ち風紀検査を行う」
 えーっ、という悲鳴にも似た叫びが一斉に起こった。口々に文句を言う生徒。「卑怯者」「裏切り者」「外道」「非国民」「ミジンコ」などの罵声が飛び交う。
「何だ、最後のミジンコって!? とにかく昨日の会議で決定したそうだ。最近の服装の乱れには目を覆いたくなるものが多いという意見が出てな」
 もちろんその意見を出したのはPTA会長、八重島節子その人だ。
「検査は制服と鞄の中身だ。不要な物を持っていないかの検査だ」
 またも「人権侵害」「児童虐待」「痴漢」という叫びが起こる。
「何だ痴漢って!? お前ら、鞄に何を入れてるんだ!?」
 左端の一番前の席から検査が始まった。まだまだ順番が回って来ない辺りの生徒は、ボタンを付け替えたり鞄の中身を探ったりと大忙しだった。
 巳弥は真面目なので抜き打ち風紀検査と言われても平然としていたが、ゆかりと春也が戻って来ていないことが気になっていた。
(ボールを片付けに行っただけだし、遅すぎるよね・・・・しかも澤崎君も一緒になんて)

 一方、透子のクラスも同じように検査が行われていた。透子自身も、検査と言われて慌てるような物は所持していない。数学の授業が潰れてラッキーだと思っていた。
「どうしよう、隠す場所がないよ〜」
 小声だが焦りを帯びた声が隣の席から聞こえた。うさみみ中学では化粧は禁止されているが、隣の女の子はいつも化粧をしている。口紅など化粧品の類はスカートのポケットに隠したが、携帯電話が嵩張って隠せない。電話自体は薄型なのだが、付けている大量のストラップやマスコットが本体よりも大きかった。うさみみ中学はよほどの理由がない限り携帯電話の所持も校則で禁じているが、生徒の五割は所持しているものと見られていた。
 焦っている女の子に、検査の順番が近付く。
「やだよ〜、これ取り上げられたらあたし泣いちゃう!」
(分かったから、声を出したら先生に聞こえるでしょ)
 透子は胸ポケットに手を当てた。
「次、鞄を開けて」
 検査の順番が回って来た。女の子は観念して鞄を開ける。そこにはファッション雑誌と携帯電話があった。
「許して、先生・・・・」
 女の子はとうとう泣き声になった。
「ん〜、雑誌ならまぁいいだろ」
「・・・・え?」
「スカートの丈も違反はしていないな。合格」
 そう言って、先生は後ろの生徒の検査に移った。
(あれ、ケータイは・・・・?)
 携帯電話は雑誌の横にあったので、先生に見えていないはずはない。
(見逃してくれたのかな)
 普段の先生からは想像できない、にくいことをする。女の子は心の中で密かに先生に感謝し、見直した。
 だが、透子の後ろに座っている憂喜の目は誤魔化せない。
(藤堂院さんの仕業か・・・・教師から携帯電話が見えないように魔法を使ったな。初めて僕の前で魔法を使った・・・・胸に手を当てたところを見ると、胸ポケットにトランスソウルを入れているな)
(さて・・・・今のは魔法の悪用に入るのだろうか?)
 校則違反をしている女の子を庇った。これは悪いことだ。本来、校則というルールにより裁かれるべき者を助けたのだから。だが、それ如きで魔法の悪用と言えるだろうか? 確か「自分の利益になるように魔法を使用し世の中を乱すこと」が悪用のおおまかな規定だ。今の透子の魔法は「自分の利益」ではない。
(だが、これで恩を売り、見返りを要求すれば立派な悪用だ)
 そうでなければ、魔法を使うメリットが無い。携帯電話を没収されそうな女の子を救っても透子には何の得にもならないのだ。
「やべ〜よ」
 今度は透子の前の席の男子が焦っていた。教師が見ていないのを確認し、鞄から雑誌を取り出して机の奥に押し込む。その後から教科書を詰め込む。これで中の雑誌は見えない。机に押し込む前に透子にもチラっと見えたのだが、その雑誌は中学生が読んでいいようなシロモノではなく、18歳未満が読むことは法律でも禁止されている。
 順番が回って来た。教師は不自然に押し込まれた机の中の教科書を怪しく思い、机の中の物を全部出すように指示した。
 仕方なく男子が中身の全てを取り出すと、成人指定の雑誌が現れた。
「ほう、いいもの持ってるな」
「いえ、ぜんぜんよくなかったですよ。巨乳ったって、ただ太いだけで・・・・」
 スパァンとその雑誌で叩かれ、男子は頭を押さえて突っ伏した。
「いてぇ・・・・」
(あの男は助けなかったな)
 憂喜は「今度も助けるのか?」と思って透子を観察していたが、魔法を使う素振りはなかった。次は透子が検査を受ける番だ。
「どれどれ、鞄には何も不要な物は入ってないね」
 前の席の男子とは打って変わって、何故か優しい声になる教師。男子の時はしなかったのに、学生鞄の内ポケットまでも開けて中を確認した。
(何でこんなにしつこいんだろ)
「じゃ次は服装チェックだね」
 これまた、先程の女子の時はやらなかったことだが、メジャーを取り出してスカートの丈を計りだした。
「うん、ちょっと長いけど校則違反じゃないね」
 スカートの丈を計る際に、透子の膝や太腿に教師の手が置かれた。透子が思わず逃げ腰になる。胸のスカーフもメジャーで長さを測られた。もう少しで胸に教師の手が当たるところだった。
(変体教師め)
 その様子を見ていた憂喜は、教師に文句を言ってやろうとした。
 その時。
「ぎゃっ!」
 透子の検査を終えた教師が、何も無いはずの床で何かに躓き、勢い余って前のめりに走って行き、教室の後ろの棚に頭をぶつけて倒れた。その際にかつらが取れ、輝かしい頭頂が現れた。
 教室内に爆笑の渦が起こった。
(今のはいい魔法だ、藤堂院さん)
 普段はあまり笑わない憂喜も思わず顔がほころんだ。


(なにやってんだ、俺は・・・・)
 白いマットがみるみる血の赤に染まる。
 ゆかりんがトランスソウルを持っていない証拠を掴む。それには、魔法を使わざるを得ない状況を作る。それでも使わなければ不所持の証拠になる。
(そんな作戦、本気で考えた俺は大馬鹿だ)
 巨大な棚を倒して、魔法を使わなければ助からない状況を作った。それはつまり、魔法を使わなかったら助からない、ということだ。
(そんなことも考えなかったのかよ、俺は。だから俺はスクールで万年最下位クラスなんだ・・・・)
 春也の両手が光り、巨大な棚に手をかける。掛け声と共に棚が起き上がり、低く重い音を立てて棚が元の壁際に戻った。
「ゆかりん!」
 真っ赤なマットの上に、真っ赤に染まった体操服を着たゆかりが倒れていた。
「ゆかりん!」
 春也は血まみれになるのも構わず、ゆかりを助け起こした。ぐったりとして、何の反応も無い。
「死ぬな、ゆかりん!」
 春也の手が光ったかと思うと、その腕に抱かれたゆかりの全身も光り出した。
「俺は・・・・俺は何てことをしたんだ! ゆかりんをこんな目に遭わせて、こんなことをしてまで俺はオブザーバーになりたかったのか!? 違うだろ、澤崎春也! お前は何も取り得がないから、自分に自信が無いから、エリートと呼ばれるオブザーバーに、運が良ければなれるかな、程度の軽い気持ちでスクールに入ったんだ! 何でも良かったんだ、咲紅みたいにどうしてもオブザーバーになりたいって夢があったわけでも、ユーキのように自分の意思をしっかり持っているわけでもない、どうしようもない、しょうもない奴なんだよ!」
 ゆかりの体を覆う光が一層激しさを増す。
「死ぬな、ゆかりん! こんな馬鹿野郎のために、死なないでくれ! いいや、死んでも俺が生き返らせる! 禁忌でも何でも、俺が生き返らせる! だから目を開けてくれ、ゆかりん!」
 春也がゆかりを抱きしめる。春也の胸に、頬に、黒ずんだ血がべったりと付いた。
「・・・・」
 うっすらとゆかりの瞼が開いた。
「ゆかりん!」
「・・・・あれ? ゆかりは・・・・確か、棚が倒れて来て・・・・首が折れちゃうほど痛くて・・・・」
「気付いたか、ゆかりん! 良かった、良かったなぁ、くそ〜っ!」
「な、何でゆかりに抱き付いてるのよぅ〜」
 春也のハグから逃れようとしたゆかりだが、何故だか全身がやけに痛い。
「あいたた・・・・」
「無理するな、まだ完全に治癒出来てないんだ。もう少しこのままじっとしていろ」
「じっとって、大人しくだっこされてろって言うの!?」
「あぁ。なぁ、キスしていいか?」
「助けて〜!」
「嘘だ、嘘! 大人しくしろ」
「・・・・きゃっ」
 ゆかりは自分の着ている体操着やマットを見て叫び声を上げた。
「な、なにこれ、血? ゆかりの血!?」
「・・・・あぁ」
「こんなに血が出たら死んじゃうよ!」
「あぁ・・・・危なかった」
 ゆかりは自分の体を包んでいる光の存在に気付く。
「これ・・・・治癒魔法?」
「何故、分かる?」
「使ったことあるから」
「そうか・・・・やはりゆかりんはトランスソウルを持っていたか」
「トランスソウル?」
「ゆかりんたちの言う『マジカルアイテム』だ」
「何で澤崎君が知ってるの?」
「俺が魔法を使えることはゆかりん達に知られてはいけなかった。もう俺は失格だ」
「どうして? だって澤崎君、ゆかりを助けてくれたのに」
「今回の実習というか任務では、自分たちの正体を知られてはいけなかったんだ。それにゆかりんを助けたって言っても、その原因は俺なんだぞ」
「でも、一生懸命治してくれてる」
「・・・・ゆかりん」
 春也の目から思いがけず、涙が流れ出た。
 それは実習を失格になる悔しさか、その後のスクールの自分の処遇に対する不安か、ゆかりが助かったことの嬉しさか。
「人を助ける魔法に、悪い魔法はないとゆかりは思うよ」
 血で染まった体操着もマットも、元の白さに戻っていた。あの巨大な棚のスープレックスをまともに受けたのだ、全身無茶苦茶になっていたゆかりの体も元通りに復元出来た。
「もうお別れかもな」
「澤崎君、どうするの?」
「潔くリタイアするさ」
「リタイア? 何から?」
「・・・・それは言えない」
 顔を背ける春也。ゆかりはジロジロと春也の手や背中を見回した。
「そう言えば澤崎君のマジカルアイテムは? どこにあるの?」
「・・・・俺たちは持っていない。なくても魔法は使える」
「へぇ〜、本物の魔法使いなんだ。じゃ桜川さん達も?」
「・・・・分かってくれ、これ以上は話せない。知ってしまうとゆかりんも危ないからな・・・・俺だけならどんな裁きも受ける」
「・・・・ねぇ」
 ゆかりが春也の体操服の袖を引いた。
「ゆかりが黙ってたら、分からないんじゃないの?」
「でもよ・・・・」
「澤崎君が魔法を使えるってこと、ゆかりが聞かなかったことにすればまだ失格にはならないんじゃない?」
「そりゃそうかもしれないが・・・・」
 オブザーバーに任命されるには、この任務で一番最初に魔法悪用者を見付けることだ。春也の担当はゆかりなので、オブザ−バーにはまずなれないだろう。だが春也はゆかりの好意を無にすることは出来なかった。
 今の春也にとって、この実習を遂行する理由はただ一つ。
 少しでも長く、ゆかりの傍に居たかった。
 大遅刻をして教室に戻ったゆかりと春也は、思い切りクラスメイトの冷やかし攻撃に合った。
「二人でどこ行ってたんだよ!」
「愛の逃避行か?」
「そう言えば、二人とも疲れた顔をしてるぞ!」
「や〜ん、何してたの〜!?」
「ゆかりんが倒れたので保健室に連れて行ったんだ!」
 と言い訳をした春也だったが、
「保健室、あぁ何だか淫靡な響きだぜ」
「何が!」
「じゃ何で一緒に帰って来るんだ!?」
「それは、俺がつい、一緒に寝てしまって・・・・」
「一緒に寝た〜!?」
「しかも『つい、一緒に』だぜ! 若気の至りか!」
「お前ら、本当に中一かよ・・・・勝手に言っててくれ」
 さんざん想像と妄想の餌食となった二人だが、春也は満更ではなかった。
(もう、何してるのよハル君たら・・・・)
 そんな春也に冷たい視線を送る咲紅だった。


 一方その頃トゥラビアでも、色々な事が動き出そうとしていた。
「おいエリック、やめろよ、やばいって!」
「リチャード、お前は透子たちが心配じゃないのか!?」
「それは、もちろん心配だが・・・・今はやめておけ。相手が悪過ぎる」
 リチャード(チェック)は、今にも飛び出して行きそうになっているエリック(ミズタマ)を引き止めるのに必死だった。ここは異世界への道を開く為の魔法陣が置かれている部屋である。
 トゥラビア王によれば、エミネントと名乗る一族がマジカルアイテムを正しく使っているかを審査するために、オブザーバーと呼ばれる「監視者」候補生を地上に送り込んだ。ゆかりたちが魔法を悪用すればどうなるかは不明だが、何らかの罪になることは間違いない。ミズタマはゆかりの魔法使用に対してはあまり信用していないので、放っておけば必ず裁かれるだろうと心配していた。
「お前が行ってどうなる? ゆかりん達にエミネントの事を話すつもりか? そんなことをしたらお前だけじゃない、ゆかりん達もタダじゃ済まないんだぞ!」
「でもこのままだと、絶対にゆかりんは捕まるじょ!」
「あの冴って人が言っていた、マジカルアイテム使用に関する監視には期限が定められていて、期限さえ過ぎれば罪に問われない! ゆかりん達を信じて待つんだ!」
「期限っていつまでだじょ!? 一週間か、一ヶ月か、一年か? ゆかりん達を捕まえるまでが期限かもしれないじょ!」
「そんな、冴さんはもうすぐだって言ってたぞ」
「リチャード! あの人が美人だからって、騙されては駄目だじょ!」
「信じてるわけじゃない!」
 チェックはミズタマのスカーフを掴み上げた。
「怖いんだよ、あの人が」
「・・・・」
 ミズタマは苦しくて声が出せない。
「あの人は俺たちの命なんて、一瞬で奪える。トゥラビア王さえも恐れているんだ」
「わ、我輩達にも魔法があるじょ・・・・!」
「子供騙しのね」
「!」
 チェックとミズタマは心臓が止まりそうなほど驚いた。いつの間にか彼らの後ろにその冴が立っていたのだ。いつもの水面のようにユラユラと揺れる不思議な衣服を纏っている。
「この部屋は異世界へ通じるゲートを作る魔法陣の部屋でしょ? 一体、どこへ行くつもりなのかなぁ」
 黒く艶やかな髪をかき上げる。ミズタマとチェックの視線は無意識に冴の剥き出しの美しい脚に釘付けになる。ミニスカートなので、見上げる勇気はなかった。
「約束したでしょ? 大人しくしててね、って」
「・・・・」
 チェックは声が出ないほど怖がっていたが、ミズタマは勇敢だった。
「や、約束なんてしてないじょ! そっちが勝手に決めただけだじょ!」
「勇敢と無謀は紙一重・・・・」
 冴はミズタマの前にしゃがむと、人差し指を彼の眉間に当てた。
「ムズムズする?」
「・・・・」
「気持ち悪いのよね、これ」
「も、もうしません・・・・だから、ゆ、許して下さい・・・・」
 ミズタマは冴の光る指を思い出し、冴に向かってそれだけの言葉を搾り出した。
「もうしません・・・・その言葉を言った人のどれだけが、約束を破ったかなぁ」
 冴は人差し指をミズタマの眉間に当てたまま、もう一方の手を自分の顎に当てた。
「う〜ん、覚えてるだけで十七人」
「・・・・」
「あなたが十八人目にならない為には、どんな方法が一番だと思う?」
 ミズタマの眉間が熱くなった、その時。
「!?」
 ミズタマの体が光のネットに覆われた。
「これは・・・・?」
 ミズタマは手も足も耳も、ピクリとも動かせない。ネットに入って売られているミカンのように、その場にゴロンと横倒しになった。
「誰?」
 冴は立ち上がり、周囲を見渡した。ミズタマの動きを封じた魔法自体は大したものではない。だが自分の邪魔をしたこと、自分が魔力を感知出来なかったことが冴のプライドにかすり傷を負わせた。
「困るのよね、勝手な行動は。これだから単純・・・・いえ、直情的なウサギは嫌なのよ」
 魔法陣の部屋の空中に、白いウサギが浮いていた。手には杖のようなものを持っている。おそらくマジカルアイテムであろう。
「あなた、誰?」
「やっぱり」
「何がやっぱりなの?」
 睨んではいるが、冴の視線はそれほど怖い物ではなかった。彼女はこのトゥラビアの監視に任命されてここにいるが、はっきり言って退屈なのである。だからミズタマとの事も本気で殺そうと思ったわけではなく、退屈しのぎに遊んでいただけだった(だが遊んでいるつもりでも、ついうっかり命を奪ってしまうこともあるだろう)。だから今は、突然現れたウサギに「新しい遊び相手」として興味を持った。
 そのウサギは床にゆっくり降りると、改めて冴の顔を見た。
「美人になるとは思っていたけど、本当に綺麗になったわね、冴」
「私を知っているの? 随分と親しそうね」
「気に障ったらごめんなさい」
 見たところ雌のようであるそのウサギは、冴に対して頭を下げ、その後ミカン状態のミズタマに歩み寄った。
「エリック君だっけ?」
「だ、誰だじょ」
 ミズタマもそのウサギは見たことの無い顔だった。
「あなたが自分自身の短慮で死ぬのは勝手よ。でもあなたがしたことは、この国が滅ぶかどうかの行為だったわ」
「そ、そんな、大袈裟だじょ」
 言い終わるのが早いか、白いウサギの杖がミズタマの頭上に振り下ろされた。
「ぎゃっ!」
 痛くても頭を押さえることも出来ないミズタマは、そのまま転がり回った。
「い、痛い、痛いじょ〜!」
「当たり前よ、痛いほど殴ったもの」
 タンコブが出来た水玉の頭に、更に杖が当てられた。
「エミネントがその気になったらこんな国・・・・いいえ、冴一人でトゥラビアなんて滅びるわ」
「ま、まさか」
「そのウサギの言う通りよ、エリック君」
 冴が腕組みをしたまま微笑んだ。
「嘘だと思うなら、試してみる?」
「このバカウサギは私が責任を持って牢獄に閉じ込めておくわ。だからさっきのこいつのバカな行動は忘れて」
「う〜ん、忘れろって言われても・・・・私、記憶力がいいからなぁ」
「でも私のことは忘れてる」
「・・・・どこかで会ったかしら? トゥラビアンの知り合いなんていないわ」
 冴は本気でそのウサギの顔に見覚えが無い。
「無理ないわ、私と直接会ったのは二回、それもほんのちょっとだけだから。その時から美しい顔立ちだなって思ってたけど、想像以上に美人になったわね」
「褒めてくれるのは有難いけど、思い出せないのはストレスが溜まるわ」
「お肌に良くない?」
「ええ、多分」
 ミズタマとチェックはただその会話を聞いているしかなかった。トゥラビアを一人で滅ぼすという女を相手に、対等な言葉遣いで対話をしているこのウサギは何者なのか。
「じゃ、ヒント。私はあなたのお母さんを良く知っている」
「母・・・・?」
 冴の表情が少しだけ険しくなった。
「あの愚かな女とあなたが知り合い?」
「・・・・」
 自分の母を「愚かな女」と表現した冴を見て、今度は正体不明のウサギの顔が曇った。
「・・・・まさか、あなた」
 そのヒントを聞いて、冴は思い当たるフシがあったようである。
「・・・・生きていたの? プリウス」
「オバサンになっちゃったけどね」
 その名前を聞き、今度はミズタマとチェックが目を丸くする番だった。



13th Future に続く



話数選択へ戻る