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7th Future 「校長先生の隠し事」
莉夜がトゥラビアの倉庫に忍び込み、欠陥品と言われているマジカルアイテムを盗み出し、それを「デザインが最悪」という理由で地上に捨ててしまった。それを回収するためにゆかり達魔法少女が駆り出され、ミズタマやチェックも別行動でマジカルアイテムの捜索を行っていた。
結局ゆかり達が不良品マジカルアイテムを全て揃えたのだが、トゥラビアに持って行くには空間を繋げるゲートが必要だ。トゥラビアへのゲートを作り出す魔方陣は、ゆかり達には描くことが出来ない。以前のように連絡手段もないので、ミズタマ達からの接触を待つ以外になかった。
いや、手段はあるにはある。イニシエートにある空間移動手段「時空ゲート」を使えばトゥラビアに行くことは可能だ。だがイニシエートは現在、何やらゴタゴタが続いているらしいので、ゲートを使わせて貰うのは少し困難だと思われた。
当のミズタマとチェックは、既に集まっているマジカルアイテムをいまだに捜している、のではなく、自分たちの世界であるトゥラビアにいた。
「トゥラビア王」
「お、おお、わしの番じゃな」
トゥラビア王は「さて、どれを出すかな」と自分の手札を見た。
「そうではありません」
「おや、わしの番ではないのかな」
「いえ、それはそうなのですが」
「ではいくぞ、わしはこのカードで勝負だ!」
トゥラビア王の出したカードは「ラヴィアンローズ」。女戦士のカードだ。ちなみに今、ここにいるメンバーはトゥラビア王、ミズタマ、チェック、トゥラビアの法神官の四人。彼らの遊んでいるカードゲームは「エイリアンエイジ」という。地上界で流行っていたものをトゥラビア王が大人買い(カードゲームのパックを箱ごと買うこと)をして集めた物だ。
「のんびりゲームをしている場合ですか?」
「何度も同じ質問をするでない、エリック」
エリックとはミズタマの本名である。
「お言葉ですが王、何度でも言わせて頂きます」
今度は隣に座っているチェックが発言した。
「私には何故、王があの女の言う事を素直に聞いているのかが分かりません」
「言ったはずだ、彼女は恐ろしい」
「王はあの女の色気に惑わされているだけです」
「確かに色気は認めるが、魔法の力の方がよほど怖い。見掛けで判断するでない」
「ですが、我々の魔法の力を結集すれば、何とかなる相手ではないですか? 我々とて魔法の国の民です。魔法の技術を結集すれば何とか・・・・」
「どうにもならん」
トゥラビア王の答えはキッパリと簡潔だった。
「そんなの、やってみなければ分かりません」
「結果があの世で分かっても遅いのだよ、リチャード」
王を除く三人が息を飲む。
「ま、まさか、あの虫も殺せぬ顔をしている女性がそんな、我々を殺すなどと・・・・」
「虫どころか、必要とあらば仲間だって殺すさ、あの冴という女性は」
また空気が凍る。
「あら、ゲームですか? 楽しそうですわね」
そこに当の冴が現れ、四人の心臓が飛び上がった。
「ほらな、いつ現れるか分からないじゃろう。下手に動くと危険だから、ここでこうしてゲームをしているのではないか。ほら、法神官殿。そなたのカードに攻撃じゃ」
「これはこれは王、それを攻撃されては私の陣営が空になってしまう。血も涙もないですな」
「そこはそれ、勝負の世界だからの」
「楽しそうですわね、お仲間に入れて頂けません?」
冴はそう言いながら、四人が囲むゲーム盤を覗き込んだ。相変わらずのミニスカ姿に、目のやり場に困った四人はあらぬ方向を見る。
「冴殿は魔法を巧みに使われるので、インチキをしても我々が見抜けませんでな」
「あら、インチキだなんて心外」
冴はミズタマとチェックの間に強引に横座りした。ミニスカートから綺麗な脚が伸び、太腿まで露になる。
「心外と言えばトゥラビア王、先程の発言ですけど」
「何でしょう」
「私、血も涙もありますわ」
「それは失敬」
「でも、必要とあらば仲間や家族の命を奪うことも必要ですわね」
「・・・・」
「あなたは賢明ですわ、王様。もうしばらく下界への干渉は控え、ここでゲームでもやっていて下さいませ」
「いつまでかね」
「ほどなく結果は出ますわ」
「ゆ、ゆかりん達をどうするつもりだじょ」
声を震わせてミズタマが冴を睨む。
「あら、今日もお洒落なスカーフね」
彫刻のように美しい冴の指が、ミズタマのスカーフを撫でる。
「いえ、どうも・・・・」
(くそ、我輩はどうもこいつは苦手だじょ)
「せ、せめてゆかりんに会わせて欲しいじょ。ずっと我輩たちの連絡を待ってるので気の毒だじょ」
「彼女たちに何の用なの?」
「それは・・・・」
目を逸らしたミズタマと、トゥラビア王の目が合った。
「し、しばらく会ってないから淋しいんだじょ」
「あら、可愛い」
冴に頭を撫でられ、不本意にも頬を赤らめるミズタマだった。
「あなたたちが彼女たちに接触すれば、私たちの事も話しちゃうでしょ?」
「いえ、その、話さないようにします・・・・」
「絶対に話さないって言える? 万が一にも彼女たちをマークしているオブザーバー候補生の事を喋ったりしたら・・・・」
冴の手がしなやかな動きでミズタマの頭の上から首に移動し、ジャンケンのチョキの形になる。
「ちょきん」
「・・・・!」
「なんちゃって」
冴の二本の指がミズタマから離れる。冗談めかしている冴だったが、ミズタマの額から汗が流れた。自分の首から離れる際に見た冴の指が、細やかな光を纏って輝いていた。
(例えるなら高周波メス・・・・か)
死が目の前に迫っていたことを悟り、そのまま黙り込んでしまうミズタマだった。
世界は再び地上界に戻り、うさみみ中学の校長室。先程、廊下で風紀と規律について語っていた鷲路憂喜が校長先生を訪ねていた。
「な、何かね鷲路君」
「何故、彼女達は魔法を使わないのでしょう」
優喜は「彼女達」と具体的な名前を挙げなかったが、校長にはゆかり、透子、巳弥のことだと分かる。
「・・・・そ、そんなこと私に聞かれても困るよ」
「校長、何をオドオドしているのですか?」
憂喜は一歩、校長に近付いた。
「私は正直言って、君たちが怖い」
「本当に正直ですね。でも何もしませんよ、約束を破らなければ」
「約束」
校長の記憶に、初めて優喜、春也、咲紅がこの部屋に来た日のことが浮かぶ。
「校長、彼女達に我々の事を喋りましたね」
「言っておらん」
校長は慌てて首を振った。首を振る速さが否定を強調するかのように。
「喋れるはずがなかろう。四六時中見張られているのだから」
そう言いつつ、校長は窓の外に目をやった。視線の先には中庭の大木がある。
「気付いていましたか」
「人目を気にするタチでね」
「さすがと言わせて頂きます。それとも蒼爪(そうそう)が気を抜いたのかな」
「あの鷹はよくやっておるよ。彼を責めないでくれたまえ」
「お優しいことで。ちなみに蒼爪は鷹ではなく鷲です」
「失敬」
「では、何故彼女たちは魔法を使わないのですか? 澤崎や桜川さんにも聞きましたが、我々がマークしている三人共が一度も魔法を使わないそうです。僕達を警戒しているとしか考えられない」
「何故、そう思う?」
「魔法の力を持っていて、使わない者はいないからです」
「それは君達の常識だろう。この世界では魔法を使わないことが当たり前なのだよ」
「使えないからこそ、使えるのなら使わない手はない。まして、この世界には魔法犯罪を取り締まる法律がないのだから、尚更だ」
「君は彼女らに使って欲しいのかね、魔法を」
「僕も出来ることなら彼女たちを助けたいとは思います。ただ、使わない理由が理解出来ない。悪しき魔法を使わなければ罰を受けることはない。彼女達が悪い魔法が駄目だと思っていても、使っても良い魔法なら使用してもおかしくないはずだ」
「・・・・いつまで巳弥達を見張るつもりなのかね。私もいい加減、あの鷲に睨まれて神経をすり減らすのは勘弁願いたいのだが。夜もオチオチ寝ていられない」
「我々オブザーバー候補生は、チーフの命令を遂行するのみです」
「君達の意思は関係ないと」
「はい」
「とにかく、私は君達のことは喋っておらんし、これから巳弥達に話すつもりもない。命が惜しいのでね」
「分かりました。信じます。とりあえずは」
憂喜は踵を返すと「失礼しました」と一礼して校長室を退室した。
「・・・・」
校長は胸ポケットから出したハンカチで額の汗を拭い、窓の外を眺めた。
(エミネント、か)
校庭にはバレー遊びをしている女子生徒の姿が見える。
(トゥラビアのマジカルアイテムが魔法の国・エミネントの産物だったとは・・・・てっきりトゥラビアの民が作り出した物だと思っていた)
校長が聞いた、彼らの秘密は彼にとってかなりの衝撃であった。
(魔法の国であるが故に、取り締まりも厳しい。悪しきことに魔法を使えば即刻捕まり、場合によってはその場で処刑も有り得ると言っていたな。巳弥なら悪いことには使わないと思うが、ゆかり君や透子君が魔法を使っていないというのは少し意外だったな。もちろん悪いことには使わないと信じたいが、ちょっとした魔法なら使いそうなものだ。それ故に私は二人を心配していたのだが・・・・)
トントン、とドアをノックする音が聞こえた。校長はまた優喜が戻ってきたのかと背筋を伸ばして「どうぞ」と声を掛けた。だが「失礼します」と入って来たのは透子だった。
「な、何だ、透子君か」
つい今までゆかりや透子を「信用できない」と思っていた校長は、心を見透かされたような気になって少し焦った。
「誰だと思ったんですか?」
「い、いや、今日も可愛いな、透子君。は、は、は」
「校長先生がお世辞を言う時は何か隠し事がある時ですよね」
「・・・・」
「図星?」
「わ、私がお世辞を言った時などあったかね?」
「いえ、適当に言ってみただけです」
「・・・・何か用かね」
(全く・・・・この子は苦手だ。ゆかり君も苦手だが・・・・)
動揺を隠すため、校長はソファのような自分の椅子に座った。
「校長先生、お聞きしたいことが」
「私が答えられることなら」
「三人の転校生の正体を教えて下さい」
「・・・・正体とは、どういう意味かね」
(全く、答え辛いことをズバっと聞く子だ)
「そんなに目を見開いたら、驚いていることがバレちゃいますよ」
校長は咳払いをしてネクタイを触った。
「正体と言っても、彼らは外国から来たというだけだがね。青い目を見れば分かると思うが」
「異世界も広い意味では外国ですね。例えばイニシエートとかトゥラビアとかも」
「何を言って・・・・」
「でも、彼らはどっちでもないですよね。とすれば、また別の世界?」
「透子君、君が彼らをどう思っているか知らないが、想像しているような存在ではないよ」
「想像できないから聞きに来たんですけど」
透子はどん、と校長の机の上に両手を置いた。
「あたしたちに話せないことですか?」
「いや・・・・」
「あたし、信用ないんだ」
「そんなことは・・・・」
(?)
校長は机の上に置かれた透子の手の下に、紙切れがあることに気付いた。透子の手でよく見えないが、何か文字が書かれているようだ。
「言えないというのなら、それでも構いません。何か理由があるんですね」
透子の手が机から離れ、小さな紙切れだけが机の上に残された。校長はその紙に気付いていないような振りをして、目線だけをその紙に書かれた文字に移した。
言えないならメールください
その文字の下に、携帯電話のメールアドレスらしき文字列が書かれていた。
(・・・・)
校長は机の上にあるタバコの箱を取る振りをしてその紙切れを持った。そのまま不自然な動きにならないようにポケットの中に入れる。
(携帯メールか・・・・考えたこともなかったな。だいたい、私は携帯電話を持っていないぞ。借りようにも巳弥も持っていないし、どうやってメールを送ればいいのだ。持っていることが当たり前という今の若者の考え方か・・・・)
校長は優喜との「約束」を思い出してみる。
(彼らのことを「話すな」とは言われたが、紙に書いたりメールで送ったりするなとは言われていないか・・・・いや、それはこじつけというものだ。バレたりすればただでは済まない)
「では、授業があるので失礼します」
紙切れを残し、透子は校長室を退室した。ドアが完全に閉まったことを確認した校長は「ふぅ」と息を吐き、天井を仰いだ。
(私が携帯電話を誰かに借りたとして、それを使ってメールを打っていることをあの鷲は認識出来るのだろうか。いや、それ以前に私が何を喋っているのか、鳥に理解できるのか? あの距離で聞こえているはずはない。万が一読唇術を身に付けているとしても、唇を見せずに会話をすれば良いのではないだろうか)
校長は鳥に対してあれこれ考えている自分に気付き、自嘲した。
(馬鹿な。相手は鳥だぞ? 何をこんなに警戒しているのだ。鳥が言葉を理解したり唇の動きを読むなどと・・・・)
否定できない。
校長にとって、彼らは未知の存在だ。未知であるから、鷲にそのような芸当が出来ないとは言い切れない。そもそも、自分達がそうであるように、鳥の姿が本当の姿だとは限らないのだ。
(いつまで私はこんな苦労をしなければならないのだ)
午後からPTA役員の会議があったことを思い出し、校長は必要な資料をまとめ、会議室へ向かった。
(私だけならいい。だが巳弥に、ゆかり君や透子君にも危険が及ぶとなれば・・・・)
校長は会議の間もそのことばかりが頭を支配して、八重島会長に何度か注意を受けることになった。
「ゆかり、巳弥ちゃんは?」
本日の授業とHRを終え、何となくクラスメイトとお喋りをしていたゆかりの所に透子が顔を出した。
「巳弥ちゃん? えっと・・・・マラソンの特訓」
「特訓?」
「巳弥ちゃん、体育祭でマラソンに出ることになったから。ずっと体育の授業にも出てなかったし、練習しておくんだって」
「大丈夫なの? マラソンなんて」
透子も巳弥が太陽の光に弱く、ずっと体育の授業を休んでいたことを知っているので、いきなりハードな運動をして体を壊さないかと心配になった。透子にとってマラソンは拷問以外の何物でもなかったから、余計に心配だった。
「肌が弱かっただけで、体力がないわけじゃないから大丈夫だって言ってたよ」
「じゃ、どこかで走ってるの?」
「多分、学校の周りじゃないかな」
ゆかりもマラソンは苦手だし嫌いなので、巳弥に付き合って一緒に走ろうとは思わない。巳弥もそれを知っているので、付き合って貰おうとは思っていなかった。だから誘わなかったし、どこで走るかということも教えていない。
「そういう真面目な所、巳弥ちゃんらしいよ」
「透子、巳弥ちゃんに用?」
「巳弥ちゃんだけじゃなくて、ゆかりにも」
「何の話?」
「巳弥ちゃんのトレーニングが終わったら、巳弥ちゃん家に行こうか」
「あ、でもゆかりは・・・・」
「バイトがある」と言いかけて、ゆかりは周りに他のクラスメイトがいることを思い出した。うさみみ中学ではアルバイトは禁止されているから、聞かれてはまずい。だが言わなくても透子はゆかりの態度を見て何を言いたかったか分かった様子で「じゃ巳弥ちゃん家で待ち合わせようか」と提案した。
「でも、巳弥ちゃんの都合もあるよ」
「それはもちろん。あと、巳弥ちゃんのおじいちゃんもいて欲しいから」
「校長先生も? 何の話なの?」
「その時に話すよ」
この台詞が出た時は、どれだけ聞いても透子は一切喋らない。ゆかりは「それじゃ後でね」と言って、バイトに向かった。
半袖のシャツに短パン姿で、巳弥はうさみみ中学の周りを周回していた。と言ってもまだ二周目なのだが、もう既に息が荒い。
(やっぱり、運動不足、なのかな・・・・)
気温の高さも手伝って、巳弥の体は汗だくだった。通気性の良いエアースーツを着ているが、それでも衣類には違いないので、少しは体温の上昇に拍車をかけていることも考えられる。
うさみみ中学の外周は約七百五十メートル。まだ一キロも走っていないが、体育大会では三キロを走らなければならない。
(でも、出場するからには完走しないと)
本番まで今日を入れてあと二日しかないので、基礎体力を上げるのは無理だ。無理をすれば逆効果になりかねない。
(本当に、桜川さんの言う通りかも・・・・こんなに短い時間じゃ何も出来そうにないよ)
それでも巳弥は走る足を止めない。そんな彼女を、咲紅がテニスコートの脇から眺めていた。
(本当に走ってる)
巳弥は魔法が使える。それは管理局の情報なので間違いはない。
本来苦手なマラソンなんて頑張る必要はない。魔法で何とかすればいいのだ。競技途中で誰にも見付からない場所で空間転移してもいいし、いっそコースを破壊してマラソンを中止にすることも出来る。マラソンを回避する手立てはいくらでもある。
なのに、何故トレーニングなどしているのだろう。咲紅には理解できなかった。
(魔法が使えるなら、使うのが当然なのに。出雲さん、絶対におかしいわ。考えられるとすれば、あの校長先生が私たちのことを喋ったか、管理局の間違い・・・・管理局が間違うはずはないから、前者が妥当だわ。きっと出雲さんも他の子も、私たちオブザーバー候補生のことを聞いて、それでわざとあんな風に「私たちは魔法を使いません」とでも言うように芝居をしているのよ。そうに違いないわ)
咲紅は自分でそう納得し、走り続けている巳弥を横目にグラウンドを後にした。
(だとしたら、あの校長先生・・・・約束を破ったことになるのね。残念だけど・・・・)
「桜川」
憂喜に呼び止められた咲紅は、今まさに憂喜のいる教室に向かう所だった。咲紅が「校長先生が秘密を喋ったのではないか」と意見を述べると、憂喜は「場所を変えよう」と渡り廊下から裏庭に出た。
「僕もそう思ったので校長に直接聞いた」
「喋ったのなら、聞いても正直に答えないでしょ?」
「いや、反応を見たんだ。僕の見る限りではあの人は嘘をついていないように思う」
「どうして?」
「あの人が何者かは分からないが、普通の人間ではない。蒼爪に気付いていた」
「ふぅん、あの校長先生が」
咲紅も蒼爪の隠密能力は良く知っている。聴力、視力、運動能力。どれを取っても一級品の能力だ。
(あの校長先生、見掛けによらないわねぇ)
「かなり警戒しているようだった。この世界の鳥類はさほど知能が発達していないはずだから、蒼爪にあれだけ警戒するということは、知能レベルの高い鳥類を実際に知っているか、存在を理解しているということだ」
「でもそれと、校長先生が嘘をついていないこととはどう関係するの?」
「あの人は、下手に僕達に嘘をつくと危険だということを知っている。すぐばれるような嘘はつかない」
「じゃあさ、あの三人が魔法を使わない理由はなに?」
「その点は僕も理解が出来ないでいる。何か理由があるはずだ、何か・・・・」
「でも管理局によると、ついこの間まではトランスソウル−マジカルアイテムの力を借りて魔法を使っていたはずよね」
「あぁ、それは間違いない」
「急に使えなくなったとか、トランスソウルが壊れたとか」
「今のままでは予想の域を出ない。もう少し彼女達の様子を見よう。ところで桜川」
「なに?」
「昨日の帰りはどこを通って帰ったんだ?」
「どうして?」
「・・・・いや、近道があれば通ろうと思っただけだ」
「昨日は近道じゃなくて遠回りして帰ったよ、出雲さんと一緒に」
「遠回り?」
「ほら、あのシュークリームを売っているお店に寄ったから」
「その道と言うのは、どっちの方角だ?」
「どうして?」
「・・・・色々な道を覚えておくのもいいだろうと思っただけだ」
「でもユーキ君、この任務はすぐ終わるからって言ってたよね? 道なんか覚えても無駄じゃないの?」
「思ったより長引く可能性が出て来たからな」
「ふぅん、まぁいいけど」
咲紅は能率優先の憂喜がなぜ新しい道を、しかも遠回りの道を聞くのか疑問に思ったが、取り立てて教えてあげない理由もないので、昨日自分が巳弥と一緒に通った道を彼に教えた。
「何なら、一緒に帰る? どうせ同じマンションに帰るんだし」
「いや・・・・僕たちが一緒に住んでいることは学校の関係者に知られてはいけない。最初に決めた規定通り、別々に帰ろう」
「うん、それじゃ後でね」
咲紅は手を振ったが、憂喜は軽く頷いただけで背を向けた。だが咲紅は「愛想がない」とは思わない。
(恥ずかしがっちゃって)
普段の憂喜はクールな感じだが、咲紅から見れば女の子に対する免疫が乏しい。だから自分に対しても無愛想なのだと思った。
(と言っても、ハル君ほど女の子に臆さないのも困り者だよねぇ。二人を足して二で割ったら平均的になるのかな、学校の成績も)
咲紅に悪気はないのだが、春也が聞いたら思い切り悪口に聞こえる言葉だった。
8th Future に続く
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