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タイトル


 6th Future 「メガトン大喰い娘。」


 いつもはお弁当を持参しているゆかりだったが、今日は父が早出出勤だったために起こしてくれる人がいなくて寝坊し、学校にはギリギリ間に合った(実は岩之助が起こしても起きなかったのだが)。そんなわけでお弁当を作る余裕はなく、うさみみ中学の学食に来ていた。最近出来た施設で、出来たての頃は大盛況だったが最近は落ち着いている。とは言え、人気のメニューはすぐなくなることが多かった。中学校で学食とは、何とも贅沢なことだ。
「ほう、色々な食い物があるな」
「で、どうしてついて来るの?」
 メニューを眺めるゆかりの後ろにで、澤崎春也が一緒に品定めをしていた。巳弥とみここはお弁当を持って来ているので、今日のお昼はゆかりと別行動だ。席にそれほど余裕がないため、学食でお弁当を広げるのは禁止されている。
「ゆかりんは何を食うんだ?」
「う〜ん、初めて来たから迷うなぁ・・・・」
「あのダイナマイトカレーってのはどうだ? 十分で食べたらタダだぞ」
「いきなりおよそ女の子っぽくないメニューを言わないで!」
「じゃあ、ピーチチェリーパイってのは?」
「それはおやつでしょ」
 券売機の前で順番が回ってきたゆかりは、お金を投入して「フォックスランチ」のボタンを押した。きつねうどんといなり寿司のセットだ。
 ゆかりがボタンを押した時、ボタンのライトが赤に変わった。どうやらゆかりの分が最後のフォックスランチだったようだ。
「あ〜、売り切れちゃったぁ」
 その時、春也の後ろに並んでいた女子が声を上げた。どうやらフォックスランチを買う為に並んでいたらしい。
「これ、食べたかったの?」
 ゆかりが声を掛けると、その女子は手をぶんぶんと振った。
「う、ううん、いいよ」
「ゆかりは何でもよかったから、譲るよ。じゃあ・・・・マロンランチを買って。後で交換しようよ」
 ゆかりが交渉している内に、春也は自分の食券を買った。彼の買った食券は、先ほどから気になっているダイナマイトカレーだった。ちなみにマロンランチとは、栗御飯、栗きんとん、栗ームシチュー、デザートにモンブランが付いている。モンブランに惹かれる女子も多いが、メインのラインナップが何とも中途半端に空回りしているのであまり売れ行きは芳しくなかった。そろそろメニューから消えるのではないかと密かに噂されている。
 マロンランチはフォックスランチより百円高いので、ゆかりが差額を出して女子と食券を交換した。後はそれぞれのメニューの担当窓口に食券を提出して作って貰う。
「なぁゆかりん・・・・良かったのか? 交換なんかして。あれを食べたかったから買ったんだろ?」
「聞いてなかったの? ゆかりは何でも良かったけど、たまたま目に入ったから買っただけだよ。どうしてもあれが食べたかったわけじゃないし、食べたい人に食べて貰った方がいいでしょ?」
「でもよ、食べようと思った時点でそれはゆかりんが食べたい物になってるんじゃないか? ゆかりんとあの子、どっちがより食べたいかなんて分からないだろ?」
「う〜ん、もういいじゃない。ゆかりがそれでいいんだから」
「・・・・ま、そうだけどな」
 春也はカレーのコーナーに行って、とんでもなく大きい皿を持ってきた。さすがに十分以内で食べればタダというだけのことはあり、恐るべきボリュームだった。確かにゆかりならその皿を運ぶことすら出来ない。
「テーブル、空いてないね」
 ゆかりもマロンランチのセットを持ったまま座れるテーブルを探した。だがどの席も空いていない。お盆を持ったままのゆかりは腕が疲れてきた。
「どうしよう・・・・」
「空くまで待つしかないだろ」
「ちなみにそのカレー、受け取った瞬間から十分だからね。十分を過ぎたら三千円払うんだよ」
「何だと!? しょうがねぇな。立って食うか」
「手に持ったまま!?」
「スプーンを使わず、直接食えばいい」
 本当にカレーに向かって口を開いた春也を、ゆかりは慌てて制した。
「やめなさいよ、行儀悪い!」
「ここ、空いてるよ〜!」
 どこからか声が聞こえる。見渡すと、先ほど食券を交換してあげた女子が手を振っていた。ゆかりと春也は遠慮なくその空いている席に腰を下ろした。
「助かった〜」
 ゆかりは疲れた腕を振った。
「ごめんねぇ、あたしが交換して貰っちゃったから。マロンランチって時間がかかったでしょ」
「ううん、でも座れたから良かったよ・・・・え!?」
 ゆかりは春也のカレー皿を見て唖然となった。既にダイナマイトカレーの半分がなくなっていたのだ。
「い、いつの間に!?」
「腹が減ってたからな」
「そういう次元の問題じゃないでしょ、それ!」
「すごぉい・・・・」
 向かいに座った女子も、食事を忘れて春也の食べっぷりに見入っていた。破壊的な量のカレーライスが春也の口の中へと消えてゆく。
「食ったぞ」
 そして何もないカレー皿だけが残った。
「早くそのお皿を持って行って! 十分以内に持って行かないと・・・・」
「おお、そうか」
 春也は皿を持ち、カウンターへと向かった。ここまでで八分余り、タダ食い確定だった。
 その時、大きなざわめきが起こった。
「何だ?」
 何やら騒々しい学食の一角を見ると、大勢の生徒があるテーブルを囲んでいる。春也は興味が沸き、覗いてみることにした。
(何があるんだ?)
 テーブルに集まった生徒達は口々に「スゲェ」「頑張れ」という歓喜や感嘆の声を上げていた。春也が首を伸ばして覗き込むと、そこには春也が注文したダイナマイトカレーよりも大きい「メガトンカレー」が置かれていた。そしてそれを一心不乱に食べているのは、何とゆかりより小柄な女の子だった。
(何だと!?)
 春也は対抗意識に火を付けられた。あんな女の子が自分より大きなカレーを食べている、自分がダイナマイトカレーごとき完食して当然ではないか。
「ごちそうさま〜!」
 カレー皿を空っぽにした女の子は、水を飲んで一息ついた。その顔を見て春也は思わず叫びそうになった。
(の・・・・のの美!?)
 ぽんぽんと大きくなったお腹を叩き、その女の子はメニューを手に取った。
「アイスクリーム食べようかなぁ・・・・」
 またも見物客の生徒がざわめく。
「でもタダじゃないからなぁ・・・・」
 十分以内に完食すれば無料になるダイナマイトカレーとは違い、メガトンカレーは時間がかかってもいい、とにかく昼休み中に平らげれば無料になるというものだった。それだけ、量が尋常ではない。未だかつて平らげた生徒はいなかった。いや、注文した生徒も数えるほどしかいない。学食のおばさんも冗談半分で作ったメニューだった。その偉業を、この女の子は達成したのだった。
(無料? あっ!)
 春也はカレー皿を持ったままだったことを思い出したが既に遅い。制限時間の十分はとっくに過ぎてしまっていた。
(くそ、何でのの美がこの世界にいるんだ!?)
「あ、お兄ちゃん」
 春也に気付いたのの美が手を振った。野次馬たちが一斉に春也の顔を見る。
「のの美・・・・お前」
「アイスおごって」
「まだ食うのかよ!」


 ゆかり抜きで昼食タイムを終えた巳弥は校庭から教室へ帰る途中、少し遠回りして図書室を覗いてみた。そこには予想通り、桜川咲紅が一人で読書に耽っていた。読書に集中しているとはいえ、無音の図書室のドアを開ける音に気付き、咲紅が顔を上げた。
「あ、出雲さん。昨日はありがとう」
「昨日?」
 いきなりお礼を言われた巳弥は、理由が思い当たらなかった。
「ほら、昨日のシュークリーム」
「あ、あんなの大した値段じゃないから」
「奢ってくれたのもだけど、美味しいシュークリームを教えてくれたから」
「そう言えば十個も買って帰ったよね。全部食べたの?」
「私は七個食べたよ。本当は全部食べたかったんだけど・・・・」
「あはは・・・・」
 甘いものは好きだが、シュークリームを十個も食べることを想像すると胸焼けがしそうな巳弥だった。
「ところで桜川さん、昨日借りて帰った本は?」
「ちゃんと返したよ。昨日のノートに返却日を書けばいいんだよね?」
「え? あれだけの本を一晩で読んだの?」
「うん」
 咲紅は平然と「当たり前だ」という顔をする。
「寝てる? 徹夜とかしてないよね?」
「うん、七時間寝たよ。今日は何冊借りようかな」
 彼女はまた今日も本を借りて帰る気だ。巳弥は咲紅を捜していた本来の目的を思い出したが、彼女がそれほど本を読んでいると聞いては少し言い辛いことだった。
「あの、桜川さん」
「なに?」
「時間があったらでいいんだけど、その・・・・一緒にマラソンの練習しない?」
「練習?」
 咲紅は本から顔を上げて巳弥を見た。
「体育祭まで今日を入れて二日だよ?」
「時間がないから、練習しようかなって」
「二日で何が出来るの?」
 再び本に目を落とす咲紅。
「二日で足が速くなるとか、心臓が強くなるとかじゃないでしょ? 持久走なんて付け焼刃でどうにかなるものじゃないわ」
「で、でも、いきなり走るよりはいいかなって・・・・」
「最下位はどれだけ遅くても最下位。少し早くなったって順位はそう変わらないわ」
「じゃあ、私とどっちが最下位にならないか競争しようよ」
「空しい競争・・・・」
「・・・・」
 咲紅はそのまま読書に没頭し、帰ってくる様子はなかった。巳弥はそんな彼女を見て淋しい気持ちになる。
(私、調子に乗り過ぎたかな・・・・)
 新しいお友達が出来たと思っていたのは自分だけだったのか。気が合いそうだと思ったのも自分だけだったのだろうか。一緒にマラソンの選手に選ばれたのだから、一緒に練習したいと思ったのは、自分勝手な考えだったのか。
 咲紅は運動が嫌いなのだ。自分のように「苦手」なのではなく「嫌い」なのだ。そんな彼女をマラソンの練習に誘うなんて。巳弥は少し自己嫌悪になり、無言で図書室を出て行った。
 再び咲紅専用となった図書室に「きゅー」という動物の鳴き声が弱々しく聞こえた。
「どうしたの? モコ」
 咲紅の胸ポケットから、触覚の生えたハムスターが顔を覗かせる。モコは巳弥の出て行ったドアの方角を見てもう一度鳴いた。
「そんなこと言ったって」
「きゅー」
「じゃあ何? モコは私に無駄な努力というものをしろって言うの?」
「きゅー・・・・」
「出雲さんも、どうしてそんな努力をするのかしら。彼女には魔法があるのに。魔法を使えば疲れることもないし、いつも惨めな思いをしなくて済むのに、どうして使おうとしないの?」
(もしかして・・・・出雲さんがマジカルアイテムを持っていると言うのは、管理局の間違いじゃないかしら?)


 春也はダイナマイトカレーが入っていた皿を持って、調理室の窓口へと向かった。
「はい、時間切れだね。残念、三千円だよ」
 白い割烹着を着た学食のおばさんが時計を見ながら春也に向かって手の平を出した。だが春也はカレーのレシートを出し、ニヤリと笑った。
「よく見てくれよ。まだ制限時間内だぜ?」
「えぇ?」
 おばさんは出されたレシートを受け取りマジマジと見た。確かにカレーが出された時から、まだ八分しか経っていない。
「おやまぁ・・・・」
「タダだろ」
 春也はそれだけ言うと、踵を返した。そんなことより、どうして妹ののの美がこの世界に来ているのかを聞かなくてはならない。
「のの美・・・・?」
 だが待っていろと言いつけたはずの妹の姿は、そこにはなかった。キョロキョロとしている春也に、食事を終えてトレイを運んでくるゆかりが声を掛けた。
「もう食べ終わったよ」
「あ、ああ・・・・」
「誰か捜してる?」
「いや・・・・いいんだ」
 春也は、ゆかり達やその他の生徒・教師には転校生で通っている。あの日に転校して来たのは春也と憂喜、咲紅の三人だ。兄妹なら一緒に転校してくるのが普通だろうから、妹がこの学校にいるというのは矛盾している。ゆかり達と妹ののの美を会わせるのはまずい。
(問題は、あいつが来た理由だ。この世界に来るには許可が必要だが、管理局があいつに許可を与えるとは考えられない。あいつが来たって何の役にも立たないからな。こっちの世界の食料を減らすことは出来るが、それが何かの役に立っているとは到底言えない。もしあいつが勝手にこの世界に来たとすれば大問題だ。管理局に知れたら大変なことになる。俺達に何らかの連絡があって来たのなら、カレーなんか食ってないで真っ先に俺に伝えに来るはずだが・・・・)
 午後の授業が始まるのでゆかりと一緒に教室に戻った春也だが、妹のことが気になって仕方がない。
(この学校の制服を着ていたが、俺達と同じように校長に無理を言って生徒として入ったのか? それとも制服だけ真似て潜入したのか? だとしたら、今どこにいるんだ? 学食の中なら紛れ込めるが、午後の授業が始まればそうはいかないだろう。校内でうろついていれば目立つし、かと言ってあいつが一人でこの世界を歩き回らせるのは危険だ)
(あいつ可愛いからな・・・・)
 春也は結構な兄馬鹿である。この世界では最近、女の子が巻き込まれる事件が多いと聞いているだけに、可愛い妹のことが心配だった。
「早く席に着けよ〜」
 いつの間にかチャイムが鳴っていたらしく、数学教師の露里が教室に入って来た。
「あ、あれ・・・・変だなぁ」
 前の席のゆかりが、机や鞄の中を必死で探している。どうやら教科書を忘れたようだ。春也はゆかりがどうするのか、観察することにした。
(魔法を使えば一発だろ)
 だがゆかりは露里が横を通りかかった時に「教科書、忘れました」と素直に言った。露里は「仕方ないな」と言いつつ、自分の持っていた教科書をゆかりに貸し与えた。
「いいんですか」
「さっき、同じ授業をやってきたからな。教科書の内容はだいたい覚えている。時々見せてくれたらそれでいいよ。それと、パラパラ漫画は描き込むなよ」
 そう言って露里は壇上へと戻って行った。
(・・・・魔法を使わなかったな)
 春也はその理由が分からなかった。ゆかりはマジカルアイテムを持っているので魔法を使える。魔法を使えば家に忘れた教科書をここまで運んだり、本そのものを作り出すことも出来るはずだ。わざわざ素直に「忘れました」とクラスメイトの前で恥をかくことはない。
(魔法を上手く使えないのかもな。それにしてもあいつ、どこへ行ったんだ・・・・)
 再び妹のことを気にし出す春也だった。


「キミ、もう学校は終わったの?」
「?」
 後ろから声を掛けられ、春也の妹・のの美は振り返って声の主を見た。学生服を着ているが煙草を手に持った少年二人がのの美を見ていた。おそらく高校生だろう。煙草を吸える年齢ではない。
「小学校はまだ終わってないよねぇ」
「のは中学生」
 のの美は自分のことを「の」と言うらしい。
「馬鹿だなぁ、お前。この子、中学の制服を着てるじゃんか」
 隣にいた連れが突っ込みを入れる。
「なぁ、俺たちと遊ばねぇ? どうせ暇なんだろ?」
「学校を抜け出して、悪い子じゃん。悪い子ついでに遊ぼうよ」
「のはいい子だよ」
 のの美はそれだけ言うと、再び前を向いて歩き出した。少年二人は慌ててのの美の前に回り込む。
「まぁ待てよ、のあちゃん」
 少年はのの美の「のは」を「のあ」と聞いたようだ。
「のあじゃないよ、のの美」
「のの美ちゃんかぁ、顔もだけど名前も可愛いね」
「え、ほんと?」
 頬に手を当てて照れるのの美。かなり本気にしたようである。
「お茶でも飲もうか、のの美ちゃん」
「え〜、お茶だけ?」
「あ、いや、ジュースでもいいし、もちろん何でも食っていいよ」
 そう言いつつ少年の片割れは財布を取り出して中を確認した。一万円ある。よほど高いものでなければ、女の子が好きなだけ食べられる金額だと思った。
「早く食べようよ〜!」
 のの美にTシャツの裾を引っ張られながら、少年2人はニヤニヤと笑っていた。食べ物ごときで女の子が釣れたのはラッキーだった。これで今日の遊び相手が見付かった。しかも高水準と言える可愛い子だったので、思わず笑いも込み上げるというものだ。
 だが実際に二人に込み上げてきたものは、涙だった。
「も、もう金がねぇよ、助けてくれ!」
「え〜、好きなだけ食べていいって言ったのに。お兄ちゃんたち、嘘つき?」
 近くにあったファミリーレストランで、少年二人はのの美が平らげた皿の山の前で涙を流していた。
「悪かった、謝るからもう注文しないでくれ!」
「お前、その体のどこにそれだけの食い物が入ってるんだ!?」
「ここ」
 のの美は「ぽむ」と自分のお腹を叩いた。


「ゆかり〜ん」
 クラスメイトの芳井こなみに声を掛けられたゆかりは、立ち止まって振り返った。手には音楽の教科書とアルト笛がある。音楽の授業を終え、教室に帰る途中だった。
「あのね」
 こなみはゆかりに近付くと、声を潜めた。
「一次審査、通ったよ」
「うそっ、やったじゃん!」
「しっ、声が大きいよ」
 こなみが口に人差し指を当てたので、ゆかりは「ごめん」と舌を出した。
 こなみの言う「一次審査」とは、アイドルオーディションの書類審査ことだ。先月、こなみはあるオーディションを受けるために書類を提出していた。いくつか平行して申し込んでいたのだが、その中で一番受けたかったオーディションから「一次審査通過」の連絡が届いたのだった。落ちると恥ずかしいので、オーディションを受けることはゆかり以外には内緒にしている。もちろん、タカシにもだ。本当は言いたくて仕方ないのだが。
「二次審査はいつなの?」
「再来週の日曜。うわ〜、今からドキドキしてきたよぅ、どうしようゆかりん!」
「普段のこなみちゃんを出せば大丈夫だよ」
「そうかなぁ、私、地味だからなぁ」
「それにタカシ君がついてるし、ねぇ」
 ゆかりが冷やかすような態度をとったので、こなみはゆかりの腕をベシっと叩いた。
「やだもう、ゆかりんったら!」
 だが本人もまんざらではなさそうである。
「きゃ・・・・」
 その時、ゆかりの肩に誰かの腕がぶつかった。とっさにゆかりは「ごめんなさい」と謝ったが、相手はそのまま歩いて行ってしまった。それを見て、こなみが眉を顰める。
「なに、あれ」
「仕方ないよ、ゆかりが悪いもん」
 決して広いとは言えない廊下でふざけていたのだから、通行の邪魔だということはこなみも認めざるを得ない。
「今の、五組に転校して来た子だよ」
「透子のクラス?」
「恰好いいし勉強もスポーツも出来るから、早速、女子に人気爆発みたい」
「ふぅん・・・・」
「タカシ君の方が恰好いいけど」
 さりげなくのろけるこなみだった。
「私、あの人はあんまり好きじゃないけどなぁ」
「こなみちゃん、駄目だよ。よく知らないのに、好きじゃないなんて」
「え?」
「本当に好きになれない人って、世の中に数えるほどだと思うの。好きじゃないのは、好きになろうとしないからだと思う」
「ゆかりん?」
「・・・・何言ってるんだろうね、ゆかり」
 ゆかりは自分でも何故そんなことを言ったのか分からなかった。ただ、ぶつかった時に一瞬だけ目が合った鷲路憂喜の瞳が悲しげに見えた。何故そう見えたのか、その理由はゆかりにも分からなかった。
「ゆかりん、そう言えば澤崎君とはどうなってるの?」
「な、何なのいきなり?」
「だって、澤崎君がゆかりにアタックしてるって噂だよ」
「あの子が強引なだけだよぅ。あ、そういえば」
 耳が赤くなる前に話を逸らそうと、ゆかりは別の話題を振ることにした。
「ミズタマったら、まだ何の連絡もないんだよ」
「え〜、まだなの? 一体、どこに行ったんだろうね」
「とっくにマジカルアイテムは揃ってるのに・・・・」
 話題を変えることが出来て、ゆかりはホッとしていた。
(でも本当に、ミズタマったら何してるんだろ)



7th Future に続く



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