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タイトル


 31th Love 「三人娘と三姉妹」


(わっ)
(きゃっ!)
(大丈夫だよ、落ちないから)
 一度体験しているゆかりは、さすがに冷静だった。
 眼下にはヤマタノオロチが蠢いている。ゆかりは最初に見た時、数匹の大蛇が固まっているのだと思った。それは全て1匹の大蛇の首だったのだ。
(あれ、巳弥ちゃん?)
(ううん、あれはきっと・・・・お父さん)
(透子、巳弥ちゃん、見て!)
 ゆかりが上空を指差す。見上げた遥か上には、1人の少女が浮かんでいた。
(巳弥ちゃんそっくりでしょ)
(うん、でも・・・・)
(おかあ・・・・さん?)
(え、あれが巳弥ちゃんのお母さん?)
 魔法少女の放った光球が次々にヤマタノオロチにヒットする。大蛇は苦しそうに咆哮を上げ続け、1本、また1本とその首が地面に倒れてゆく。最後の首が力尽きた瞬間、その巨体が消えた。その場には、全裸で倒れている男の姿があった。
「止めを刺すのよ、美櫛(みくし)っ!」
 魔法少女の帽子の上に、1匹のウサギが現れた。
(あ、あれはトゥラビアのウサギ?)
(美櫛って、巳弥ちゃんのお母さんの名前?)
(うん、やっぱりお母さんの若い時)
(てことは、あのウサギが巳弥ちゃんのお母さんにマジカルアイテムを授けたのね)
「もういいじゃないの、プリウス。彼も相当参ってるわ。もう暴れたりしないでしょ」
「甘いわ、美櫛。止めを刺さないと、また暴れ出すわよ。相手は化け物なのよ!」
「化け物はみんな悪い人なの? プリウス」
「へっ?」
「いい人もいれば悪い人もいる。いい悪魔も悪い天使もいるんじゃないかしら?」
(あれれ、ゆかりが前に見た時より場面が増えてる)
 ゆかりがそう思った時、周りの景色全てがブラックアウトした。
 どこかの公園。木々が茂り色々な花が咲いている。昼間ならさぞ綺麗な場所だと思うのだが、街灯の明りだけがポツポツとあるだけの、暗い夜の公園だった。
「ご免な、美櫛」
「何が?」
「つまらないだろ、その、俺とデートする時はいつも夜で」
「そんなことないわ。誰にも邪魔されないし、公園を2人占めしてるって気がするし。それに・・・・」
「それに?」
「お化粧しなくてもいいし」
「ば、馬鹿。美櫛は化粧なんかしなくても、その、可愛いぜ」
(うわ、見てるこっちが恥ずかしいよ!)
(あれが巳弥ちゃんのお父さんとお母さんね。お父さんは、さっきのヤマタノオロチで、お母さんが魔法少女)
(うん・・・・)
 巳弥も自分の両親の若い姿を見て、かなり恥ずかしかった。覗き見をしているという後ろめたさもある。
 また場面が変わった。
「美櫛、いいのか? 俺は人間じゃないんだぞ」
「私、あなたを好きになったの。人間だから好きになったんじゃないわ」
「追っ手が来る可能性だってある。裏切り者の俺の命を狙って」
「この間、私たちが喧嘩した時に勝ったの、どっちだっけ?」
「・・・・美櫛だ。必殺のフライパン返しが炸裂してな」
(どんな技なんだろう?)
(フライパンで、ゴ〜ンって感じかしら? とりあえず痛そうね)
「そういうわけで私の方が強いから、私が守ってあげる」
 場面が切り替わる。
「美櫛・・・・俺、金がないから、こういうのしか・・・・手作りでごめんな」
(宝玉?)
「まぁ、綺麗な玉ね。なぁに、これ」
「これはな、この2つの玉の間にこの玉を持って行くと・・・・」
 またまた場面、転換。
「美櫛、俺はもう駄目だ。この体では、病院に行くことも出来ない」
「そんな、病院に行きましょう、牙斬。病院は傷付いた人の味方のはずよ!」
「傷付いた人の、な。俺は人じゃない」
「あなただって、半分は人間じゃないの! ううん、立派な人間よ! ほら、巳弥のためにも、頑張って!」
 そう言って抱いた赤ん坊を牙斬の寝ている布団へ近付ける美櫛。
「みや・・・・と名付けたのか? どんな字だ?」
「十二支の巳に、弥生の弥よ」
「・・・・何故だ、よりによって蛇とは・・・・」
「あなたの子供だから」
「・・・・美櫛」
「私はあなたと結ばれたこと、後悔していない。ううん、胸を張って言えるわ。あなたを愛しているって」
「・・・・美櫛、俺も・・・・お前に・・・・出会えて・・・・」
 真っ黒なスクリーンに、牙斬の光る涙だけが残った。

 手を握り合い、十分近くじっと目を閉じている怪しい3人組の目が急に開かれたので、様子を伺っていた女性店員は思わずトレイを落としそうになった。
(あ、あの人たち、UFOでも呼んでたのかしら?)
 そんなウェイトレスの存在など知らない3人娘は、ヴィジョンから現実に戻ってきてお互いの目を見合わせた。
「そういうことだったのね」
「巳弥ちゃんのお母さんは、お父さんを退治するためにマジカルアイテムを授かった魔法少女だったんだ」
「そう言えば、ミズタマ君から聞いたことがあるわ。あたしたちのようにトゥラビアのアイテムを授けられた魔法少女がいたって。それが巳弥ちゃんのお母さんだったのね」
「お母さんとお父さん、本当に愛し合ってたんだ」
 巳弥は目に溜まった涙を拭った。
「私、恨んだことがあったの。どうして私がこんな目に会うんだろうって。どうして普通の人間に生んでくれなかったんだろうって。でも、私、お母さんとお父さんに愛されて生まれてきたんだね」
「巳弥ちゃん・・・・」
 今度は揃って泣き始めた3人組を見て、そろそろ110番しようと思うウェイトレスだった。
「さて、と」
 透子がパン、と手を叩いた。
「ゆっくりしていられないんだよ」
「ごめんね、私が余計な手間を・・・・」
 すまなさそうに謝る巳弥の頭を撫でて、透子はゆかりに向かって手を差し出した。
「ゆかり、宝玉」
「え、どうして?」
「いいから」
 モゾモゾとポケットをまさぐって、ゆかりは透子に無の玉のペンダントを渡した。それを受け取った透子は、そのまま巳弥の前にそのペンダント持っていった。
「え?」
「あなたのものでしょ、持っていないと」
「でも、これは・・・・」
「あんなの見ちゃったら、壊すわけにはいかないでしょ。これは、巳弥ちゃんのお父さんとお母さんの大事な物なんだから」
「透子」
 ゆかりが嬉しそうな顔で透子を見た。
「でも、壊さないという選択肢は、一番やっかいなのよ。2人にはそれを分かって欲しいの」
 割り勘で喫茶店を出た3人。大人だからと巳弥の分まで払わなかったのは、巳弥を1人の対等な仲間として見ているからか、単にお金がないからなのか、それは彼女たちにしか分からなかった。
 外にでて夜空を見上げると、星々が綺麗に瞬いていた。
「あの紅嵐って人、かなりの怪我を負ってたみたいだけど・・・・怪我が治ったら、すぐにでもまたやってくるわ。宝玉を狙って」
「うん・・・・」
「一番いいのは相手が怪我をしている今の内に、こっちからやっつけに行くことなんだろうけど」
「敵側に乗り込むのは危険よね。どれだけの戦力なのか分からないし」
 巳弥が透子の言葉を受けて言った。
「あっ! いいこと思いついた!」
 ゆかりも負けじとナイスアイデアを思いつく。
「あの山だよ、あそこにゲートがあったじゃない、あそこからあの人達はこっちの世界にやってくるんだよね、だったらあれを壊しちゃえば、こっちに来れないよ!」
「ゆかり、あのゲートはあっちの人が作ったのよ。今あるゲートを壊しても、作り直してまたやってくるわ」
「あ・・・・そうか」
 ゆかり、ションボリ。
「とにかく、帰ろうか」
 満天の星空。所々に星雲が見えるほど、空気が澄んでいる夜だった。
「ね、飛んで帰る?」
 透子が他の2人に提案した。
「電車だと時間がかかるけど、山を飛び越えたらすぐだよ。何だか飛んだら気持ち良さそうな夜だし」
「でも、誰かに見られたら・・・・」
「真っ暗だから、大丈夫。見付かっても逃げればいいよ。『卯佐美市に有翼人種が!』って観光スポットになるかも。町おこしの一環だよ」
 そうかなぁと思いつつ、ゆかりと巳弥もその提案に乗った。さすがに派手な魔女っ娘コスチュームでは目立つだろうと、今の格好のままゆかりと透子はマジカルフェザーを、巳弥はマントを出して装着した。人目のないことを確認し、真っ暗な山の頂きに向かって飛ぶ。
 夜風が気持ち良かった。
「わ、凄い。街があんなに小さいよ!」
「ネオンが綺麗ね」
「ゆかり、パンツ見えてるよ」
「もう、透子、風情がない!」
 標高の低い山を2つ越えた時、眼下の山奥にに何やら光るものがあった。同時に叫び声などが聞こえてくる。
「何だろう?」
「こんな山の中で・・・・」
「お祭りとか?」
 怖いながらも興味を持った3人は、声のする方へと降りていった。

「待て、紅嵐! 大人しく宝玉を渡せ!」
「懲りない人達ですね」
 紅嵐は追っ手の方を振り向きもせず、後方に向かって気流を発生させた。芽瑠と萌瑠の後ろで、イニシエートのミズチ私設軍が吹き飛んで行く。
「きりがありませんね。芽瑠、姫宮ゆかりの家へ急ぎますよ。三宝玉を揃えるのはこの私です」
「待てっ!」
 紅嵐の前に追っ手が回り込む。
「くっ、まだいたのですか。芽瑠、萌瑠、私の後ろに」
「は、はい」
「怖いよ、おね〜ちゃん・・・・」
 芽瑠は自分の脚にすがってきた妹を両手で抱き寄せた。
(紅嵐先生は強い・・・・多分、追っ手から私たちを守ってくれるはず。でも、そうなると目的である無の玉を奪いに姫宮さんの家に着くのも時間の問題・・・・先生の手に三宝玉が揃ってしまう。きっと先生はその場で力を使うつもりなんだわ。そんなことをしたら姫宮さんだけじゃない、向こうの世界に迷惑がかかる。ううん、迷惑だけじゃ済まないかも。どうすれば・・・・)
 紅嵐の野望を阻止できればと思い一緒についてきた芽瑠だったが、遂に一行は地上界へのゲートをくぐり、巳弥がヤマタノオロチに変身したあの山へと降り立った。
「幸いにもこちらは夜ですね。夜が明ける前に無の玉を手に入れますよ」
「ねぇねぇ芽瑠おね〜ちゃん」
 萌瑠がクイクイと芽瑠のスカートの裾を引っ張る。
「どうしたの? 萌瑠」
 萌瑠は空いているもう片方の手でゲートを指差した。
「これを取っちゃえば、もうあの人達、追いかけて来れないんじゃない?」
「駄目よ、ゲート発生装置はイニシエート側にあるのよ。それを消しちゃったら、私たちが戻れないわ」
「あ、そっか」
 その時、芽瑠は萌瑠の言ったことから、ある作戦を思いついた。
「紅嵐先生」
「何ですか?」
「まだ追っ手が来ます。宝玉を持ったままでは戦い辛いでしょう? 落として壊れてもいけませんので、私が持っていましょうか」
「・・・・それもそうですね。ではお願いします」
 紅嵐は腕を骨折しているため、肩にかけていた「陽の玉」「陰の玉」の入った鞄を芽瑠に持つように言った。芽瑠は鞄を受取ると、自分の肩に掛けた。
(この2つの宝玉を持って、私と芽瑠がイニシエートに帰る。そしてゲート発生装置を壊せば・・・・)
 紅嵐はこの世界から帰れなくなる。紅嵐が作ったゲート発生装置は、研究所のメンバーはノウハウを教えて貰っておらず、誰も作ることができない。紅嵐は材料や設備があれば作れるだろうが、この世界にはないだろう。三宝玉も揃うことはなくなる。
 紅嵐を置き去りにして、イニシエートに帰る。研究所のメンバーには事故ということで誤魔化せばいい。自分の決断で、宝玉の力は守られるのだ。芽瑠は萌瑠の手を握り、ゲートに向かって方向転換した。
(でも・・・・姉さんが・・・・)
 姉の好きな紅嵐先生を騙し、置き去りにする。
 それは姉に対しての裏切り。研究所の生徒全員への裏切り。何が起こるか分からない宝玉の発動を阻止するために、自分は色々なものを裏切ることが出来るのだろうか? 芽瑠は自問した。そんな迷いが致命的だった。
「芽瑠、どこへ行くのです?」
「・・・・!」
 紅嵐に背を向け、ゲートの前で立ち止まる芽瑠、萌瑠。
「芽瑠、まさか・・・・」
(ごめんなさい!)
 芽瑠は振り返らず、ゲートに脚を踏み入れた。
「待ちなさい、芽瑠!」
「きゃあっ!」
 芽瑠がゲートをくぐろうとしたその時、何かにぶつかり弾き返された。その拍子に地面に倒れ込む芽瑠と萌瑠。
「いたたた・・・・」
 胸を抑えてゲートから姿を現したのは、長女の魅瑠だった。
「ね、姉さん・・・・」
「ようやく追いついたよ。芽瑠、萌瑠、あんたたちだけ先生の力になろうなんて、酷いじゃないか」
(名誉挽回のチャンスだからね。ここで先生に「出来る奴」って思わせてやる!)
 紅嵐に期待されていないことを知った魅瑠は、それなら認めさせるまで、と紅嵐の後を追って来たのだった。途中、後ろから追ってきたミズチ私設軍数名と戦い、倒してきた。そのままここへ来たために、今の魅瑠は鋭い爪を伸ばし、2本の尻尾を生やしている「半覚醒」状態だった。
「あっ、せ、先生」
 紅嵐の視線に気付いた魅瑠は、爪を引っ込めて姿勢を正した。
「魅瑠、どうしてここに?」
「せ、先生を追いかけて・・・・」
 病院で立ち聞きをしてしまった紅嵐と芽瑠の会話を思い出し、下を向いてしまう魅瑠。
「わ、私にも手伝わせて下さい、先生」
「・・・・いいでしょう。ところで芽瑠、あなた今、何をしようとしていたのですか?」
「・・・・」
 萌瑠を庇いつつ、芽瑠は紅嵐との距離を少し広げた。
「宝玉をどうするつもりだったのです? あなた今、ゲートに入ろうとしましたね」
 紅嵐が1歩前進する度に、芽瑠も1歩後退する。
「宝玉がどうしたって?」
 来たばかりの魅瑠には、事態が全く分からない。紅嵐と妹たちを交互に見ているだけだった。結果的には芽瑠の作戦を阻止した形になるのだが。
「答えなさい、芽瑠。私を裏切るつもりだったのですか」
「先生を裏切る? どういうことだい、芽瑠!」
「私は・・・・」
 覚悟を決め、芽瑠は口を開いた。
「宝玉の力が、怖いんです。世界はどうなってしまうんだろうって、先生はどうなってしまうんだろうって・・・・怖いんです、絶対に揃えたくない!」
 芽瑠はそう言い放つと、宝玉の入った鞄を高く掲げた。
「芽瑠!」
「え〜い!」
 芽瑠が鞄を地面に叩きつけようとしたその時、彼女の手から鞄が消えた。半覚醒の魅瑠が素早い動きで奪い取ったのだ。
「姉さん!」
「芽瑠、どういうつもりだ? 先生を裏切るのかい」
「聞いて、姉さん」
「先生に期待されて、いい気になってるんじゃないよ」
「違うの、宝玉の力は未知数なの、先生の身が危ない可能性だってあるのよ!」
「先生に限って、そんなヘマはしないよ」
「先生だって万能じゃないのよ! いい加減、目を覚ましてよ、姉さん!」
 芽瑠の叫びが山の中に響き渡った。
「ふっ」
 魅瑠の爪が伸びた。
「先生に逆らうのなら、容赦しないよ芽瑠」
「姉さん・・・・」
「おね〜ちゃん・・・・」
 魅瑠の目が真剣だと悟った芽瑠は、萌瑠に覚醒するように言い、自分も半覚醒化した。だが芽瑠は魅瑠と戦う気はない。あくまで「逃げるため」の半覚醒化だった。
「やる気かい」
 魅瑠は宝玉の入った鞄を紅嵐の肩にかけると、妹2人に向かって爪を構えた。
「先生、見ていて下さい。これが私の『覚悟』です」
「魅瑠姉さん・・・・」
(思えば、遅かれ早かれこうなることは決まっていたんだわ。私が藤堂院さんと、宝玉が誰の手にも渡らないようにしようって決めた時から。でも、姉さんと戦うなんて、最悪の事態じゃないの!)
「逃げなさい、萌瑠」
「もる、芽瑠おね〜ちゃんと一緒がいい」
 萌瑠の手がしっかりと芽瑠の腕を掴む。その手の平は汗ばんでいた。夏の夜の暑さのせいだけではない。
「萌瑠は芽瑠が好きだからね・・・・」
 冷ややかなトーンで魅瑠が呟く。
「研究所の連中だってそうさ。みんな芽瑠の方が優秀で、優しくて、真面目ないい子だって思っているんだ」
「姉さん、そんなこと・・・・」
「出来のいい妹を持つと、惨めだよ。芽瑠、あなたには分からないだろうけどね」
 それは、自分は出来が悪いっていう意味かな、と萌瑠は思ったが、言葉にはしなかった。
「むっ」
 紅嵐の鋭い声が、三姉妹の耳に入った。
「どうしました、先生」
「どうやら、向こうから来てくれたようですよ。最後の宝玉『無の玉』が」
 上空を見上げると、月明かりに3つのシルエットが浮かんでいた。山の中から声が聞こえたので何だろうと思って立ち寄ったゆかり、透子、巳弥だった。
「そうか、この山は夕べの・・・・」
「紅嵐って人と三姉妹だね。もう怪我、治ったのかな?」
「参ったわね、心の準備、してないわ。紅嵐を倒すのは今がチャンスなんだけどなぁ」
「透子、こっちに気付いたみたいだよ」
「う〜ん、とりあえず逃げよっか」
「誰が逃がすか!」
 背中に羽根が生え、紅嵐はゆかり達に向かって舞い上がった。あっと言う間に空に浮かんでいる魔女っ娘トリオと同じ高さまで飛び上がった紅嵐は、腕の痛みに耐えつつもそれを悟られまいとして歯を食いしばった。
「世話になりましたね、出雲巳弥」
 射るような眼光を紅嵐に向けられ、巳弥の心臓がビクンと跳ねた。
「宝玉は持っているのですか? 持っているなら、大人しく渡した方が身のためですよ」
「今は持っていないわ。本当よ」と、透子。
「本当ですか?」
「も、持ってないよ・・・・」とゆかり。
「ほう、その反応・・・・持っているのですね」
「えっ、ど、どうして分かったの!?」
「馬鹿ゆかりっ!」
 透子は飛び退くと同時に魔法の肩叩きを出し、弓に変形させた。巳弥も両手の平に光を凝縮させる。
「本当に正直な娘ですね、姫宮ゆかり」
「ひ、引っ掛けたなぁ〜!」
 ゆかりが孫の手を出した途端、紅嵐の周りに風が舞った。
「きゃっ!」
 見えない空気の渦に巻き込まれ、バランスを崩した魔女っ娘3人は地面に落下したが、何とか浮力で激突のダメージだけは受けずに済んだ。
「魅瑠、宝玉を奪え!」
 紅嵐の命令を聞き、魅瑠が3人に向かってダッシュする。
「誰だい、宝玉を持っているのは!」
 魅瑠の前方に巳弥、右にゆかり、左に透子。順番にゆかり達を睨みつける魅瑠。
「言わないなら、全員切り刻むまでだよ」
「絶対に宝玉を渡しちゃ駄目よ、ゆかり!」
 透子の叫びで、魅瑠はゆかりに向かって跳んだ。
「貴様かぁっ!」
「ほえっ!?」
(え、宝玉は巳弥ちゃんが持ってる・・・・のに!?)
 透子が間違ったのかな?と戸惑ったゆかりだが、魅瑠が迫ってくるので応戦か逃げるかの選択を迫られた。
 背中を見せた魅瑠に、透子はライトニングアローを構えた。
(後ろがガラ空きよっ!)
 だが矢を放とうとした瞬間、何者かが透子の腕を掴んだ。
「水無池さんっ!?」
「やめて、藤堂院さん!」
「離して!」
「離せるわけ、ないでしょ! 姉さんを撃たせはしないわ!」
 もみ合う内に、ライトニングアローが収束力を失って四散した。一方、魅瑠の攻撃を間一髪かわしたゆかりが巳弥と合流する。
「水無池さん、結局あなたもあいつらに味方するの!?」
「姉さんは、私たちの姉さんなの!」
 芽瑠は魅瑠にも聞こえるほど大きな声で言った。それを聞き、魅瑠が振り返る。
「芽瑠・・・・」
「藤堂院さん、一緒に戦いましょう。そして、姉さんも」
「一緒に・・・・?」
「私たちの敵はただ1人。紅嵐先生です」

 32th Love へ続く



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