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28th Love 「友達と言う名の存在」
「お呼びでしょうか、校長」
数学教師・露里は、緊張した面持ちで校長室へと入った。個人的に呼び出しを受けるなど、この卯佐美第3中学に来てから初めてのことだった。
「どうぞおかけ下さい、露里先生」
「は、はいっ」
カチコチになっている露里は、ソファーに腰を下ろそうとしてテーブルに膝を打ちつけた。
「暑いですね」
「え、は、はい」
「クーラーを入れましょうか?」
「は、いえ、結構です」
そう言いつつも、露里の額からは汗が流れた。
「クーラーはあるのですが、普段使っていないものでね」
校長の顔を見たが、汗一つかいていない。ずっとこの部屋にいるので慣れているのだろうか、と露里は考えた。
「話と言うのは・・・・」
校長がいきなり本題に入ったので、露里は思わず背筋を伸ばした。
「教頭先生から緊急職員会議の要請がありました。近頃、無断で授業を抜け出す生徒が目立つそうですね」
来た、と露里は思った。ゆかりや透子のことだが、さてどうやって誤魔化すか。予めこうなることは分かっていたのだが、なかなか上手い言い訳が思いつかず、今日に至っている。
「そ、それがですね」
「その件は私が預かりましたので、露里先生にはご迷惑はお掛けしません」
「・・・・はっ?」
ゆかりや巳弥の担任として、怒られると思っていた露里は拍子抜けした。
「で、ですが、なぜ校長先生が?」
「彼女たちをよろしくお願いします、先生」
「は、はぁ」
(一体、どういうことだろう?)
お辞儀をして校長室を出た露里は、軽いめまいに襲われた。
(まだ体の調子がおかしいな。勝手に使われていたからか・・・・?)
調子が悪いのは当然で、露里がゆかり達に助けられて意識を取り戻したのは今朝のことで、真面目な彼はそのまま家に帰って着替えを済ませ、学校に来たのだった。朝御飯も食べていない。透子に一緒に食べて行かないかと誘われたのだが、ゆかりと顔を合わせるのが何となく気まずくてそそくさと出てきてしまった。
気まずさの原因は、もちろん学校の屋上での出来事だ。己の意思ではないとはいえ、ゆかりとキスしてしまったことで言葉を交わすのも恥ずかしかった。
(まずいよなぁ・・・・不可抗力とはいえ)
何度かの呼び出し音の後、岩之助が受話器の向こうで「はい」と低い声で出た。
「もしもし、お父さん?」
「・・・・ゆかりか」
「ごめんね、あの、連絡しないで・・・・」
「・・・・いつからお前は無断で外泊する娘になったんだ」
「違うの、色々あってね」
「言い訳はいい。もう帰って来なくていい」
「お父・・・・」
プツ、と通話が切れた。
ツー、ツーという音が、ゆかりにはやけに大きく聞こえた。
(な、何よぉ、こっちだって大変だったんだからぁ、お父さんの馬鹿!)
目に涙を浮かべ、ゆかりはしばらく電話機の前から動けなかった。
「ゆかり?」
「・・・・あ」
「怒られた、よね」
透子がティーカップを乗せたお盆を持って立っていた。ゆかりは涙を拭うと小さく頷いた。
「お父さんてば、こっちの事情も知らないで・・・・」
「知った方がもっと心配するよ」
「巳弥ちゃんは?」
「・・・・」
ふるふる、と透子は首を振った。
「相変わらず部屋に篭もったきり、出て来ないよ。何も食べたくないって」
「そう・・・・」
ゆかりたちはコスチュームがボロボロになっていたので魔法で私服を出し、意識を取り戻した露里と共に、巳弥を無理矢理、透子の家へ引っ張って来た。何とかシャワーを浴びさせて着替えさせたが、巳弥は部屋から出てこようとしなかった。透子の家は大きくて部屋が余っているので、巳弥が一部屋を占領していても問題はなかったが、透子には心配なことがあった。
(彼女、自殺とかしないかしら)
自分だったら、と透子は考えた。あんな姿を友達に見られたら、死にたくなるかもしれない。1人になりたい、誰にも会いたくないと思うのは当然だろうと思った。
「透子、どう思う? あれ、やっぱり巳弥ちゃんなの?」
「ゆかりも見たでしょ。否定したい気持ちは分かるけど」
「でも・・・・」
「出雲さん、やっぱりダークサイドだったじゃない」
それは透子の思った通りだったが、それで喜ぶ気にはなれなかった。
何故イニシエートの者がマジカルアイテムを持っているのか。あのマジカルハットはイニシエートのマジカルアイテムなのか。
(分からない)
透子は、巳弥に本当の姿を知られたくないゆかりに合わせ、ずっととこたんの姿のままだった。透子は普段からあまりこの姿にはメタモルフォーゼしていないため、どうも落ち着かない。ちなみにこの藤堂院家、今はゆかりたち3人以外に人はいなかった。テーブルの上に母の書置きがあったが、透子はまともに読まずに捨てた。どこかに旅行に行ったらしい。
(心配してくれるお父さんがいるだけ、ゆかりは幸せ者だよ)
露里のポケットに、ペンダント化した無の玉があった。その無の玉は現在、ミズタマとチェックが別の部屋で監視をしている。紅嵐がどの程度の怪我かは分からないが、少なくとも息はあった。無の玉を取り返しに来るのは間違いないだろう。となれば、家を知られているという点で姫宮家が危険である。ゆかりの父・岩之助の身も危ないが、どうやって危険だと説明出来るだろうか? ここ藤堂院家も調べればすぐに見付けられてしまうだろう。
(こうなったら、あのゲートを利用してイニシエートにこっちから乗り込んだ方が手っ取り早いかしら)
いつリベンジに来るか分からない敵を待っているよりは、敵を倒しに行った方がいいかも、と透子は思う。平穏を望む透子には嫌な選択肢だが、このままでは夜もおちおち寝ていられない。
透子はそう提案しようと思い、巳弥の様子を見に行ったゆかりの後を追った。
「あぁ〜っ!!」
廊下の端から端まで、ゆかりの叫び声が聞こえた。
「ゆかりっ!?」
透子は魔法の肩叩きを構え、2階へ駆け上がった。
「どうしたの、敵!?」
「巳弥ちゃんがいないよ!」
透子の危惧していた通りのことが起こった。
「迅雷君、具合はどう?」
「おう、芽瑠か」
迅雷は部屋に入って来た芽瑠に軽く手を上げて応えた。芽瑠の隣には萌瑠も付いて来ていた。
「今日はあのHな格好じゃないんだな」
「どうしてお見舞いに来るのにあんな格好しなきゃならないの!」
「冗談だ。冗談だが、あの格好を見れば少しは回復も早まるかもしれないぞ」
「医学的根拠はともかく、迅雷君なら有り得るかもね」
今日の芽瑠はシックなブラウン系のワンピースだった。萌瑠はオレンジのフリフリで、派手さは戦闘用(?)コスチュームとあまり変わらない。
「見舞いに来てくれたんだな」
「先生のお見舞いのついでにね」
そう言って笑顔を作りながら、芽瑠は持って来た果物を脇に置いて椅子に座った。
「で、どうなんだ? 先生の容態は」
「まだ意識がないわ」
魅瑠によってこの病院に運ばれた紅嵐は、両手とあばら骨数本を骨折していた。危うい所で内臓は大事に至っていなかったが、手術が終わって1日経った今も意識が回復せず、眠ったままだった。
「魅瑠は?」
「ずっと付き添ってるわ」
「寝てないんじゃないか?」
「多分・・・・本人は『寝た』って言ってるけど」
「お前らに心配かけたくないから、そう言ってるんじゃないか」
「ええ・・・・きっと」
「芽瑠、魅瑠を頼むぞ。俺はこの通りだからな」
「気をつけるわ」
紅嵐をあんな目に合わされたのだ、彼の意識が戻ったら魅瑠はきっと復讐に行くだろう、と芽瑠も迅雷もそう考えていた。
「でもね、姫宮さんや藤堂院さんが、あんなことするのかなって・・・・」
「あぁ、俺もそう思っていた。あいつらは光の攻撃はするが、先生をあんな状態にするなんて、想像できないぜ」
「何か強い力に締め上げられたようだとお医者さんは言っていたわ」
「そんな残酷なことをする子たちには見えなかった。まぁ、俺は火傷をさせられたがな。ま、先生の意識が戻れば分かることだ。宝玉の力とやらを拝むのもそれからだな」
「ええ・・・・」
紅嵐の研究所では、3つの宝玉を揃えて研究員たちが待っていた。
昼間の街中をウサギが歩き回るわけにもいかず、ゆかりと透子は2人で手分けして巳弥を探すことにした。
(探すアテと言ってもねぇ)
透子はゆかりよりも更に巳弥の事を知らない。巳弥が家にいないとなると、どこを探していいのか全く見当が付かなかった。
(こんな時に、面倒なことしてくれるなぁ)
だが透子は巳弥の気持ちが分かる。自分も、きっと逃げ出したくなるだろう。
巳弥はダークサイドだった。それは自分の睨んだ通りだった。
だが、喜ぶ気にはなれない。
透子は巳弥が行きそうな場所を「自分ならどこへ行くか」を想像して見当を付け、捜し回った。1人になれる場所、例えば川原、淋しい公園、町を見下ろす高台。
だが、巳弥の姿はどこにもなかった。既に夕方近くになっている。
(あっ)
透子は自分が中学生の姿であることに、今更ながら気付いた。彼女はいつも必要のある時以外は元の自分の姿に戻っているのが普通だった。
(ゆかりと一緒だったから、この格好でも違和感を感じなかったのかな)
背丈も歩幅も違うので、子供の格好の方が不便だ。透子は早速、変身を解こうとしたのだが・・・・。
「と、とこたん」
「あっ」
公園で偶然バッタリ、下校中のタカシに出会ってしまった。
「きょ、今日も休みだったんだな。風邪?」
「え、ええ、もう治ったんだけど・・・・」
「そうか、良かった。昨日さ、お見舞いに行ったんだぜ、俺。芳井と一緒に」
「そ、そうなの。ごめんね、家にはいなかったから」
「元気ならいいんだ」
タカシは学生鞄を右手に持ったり左手に持ち替えたり、何となく落ち着かない雰囲気だった。
「あ、あのさ、藤堂院さん」
タカシは辺りを見回し、誰もいないことを確認した。
「俺、ずっと前から言えなかったんだけど、聞いてくれるかな」
「え? な、なに?」
(何だかタカシ君、妙に改まっちゃって・・・・どうしたんだろう? あたし、今忙しいのになぁ)
「えっと、その・・・・俺と・・・・」
普段のタカシらしくない、はっきりしない態度だと透子は思った。
「俺と、付き合って、下さい!」
「・・・・・・・・え?」
とっさに何を言われたか分からない透子。
透子の反応を生きた心地のしない状況で待つタカシ。
息が詰まるような時間が流れて行く。
「・・・・えっと・・・・」
透子が口篭もっていると、タカシが取り繕うように早口で言った。
「い、いいんだ、返事はまだ急がないから、でも、駄目なら、その、友達からでもいいし、その・・・・!」
「・・・・んと・・・・」
ゆかりやこなみはとっくに分かっていたが、タカシの気持ちに全く気付いていなかった透子は、今の状況を予測できなかった。というよりも透子自身、タカシは同級生ではなく、歳の離れた中学生でしかなかったので、そんな可能性すら考えたことがなかったのだ。勿論、断るしかない。だがどう言えば傷付けずに断れるだろう?
「少し、考えさせて・・・・」
迷った挙句、いきなり断るのも悪いと思い、透子は無難にこの場を凌ごうとした。
「分かった、いい返事、期待してるから、じゃ、また明日!」
恥ずかしさを隠すように、タカシは透子の前から走り去った。
(はぁ、さっさと元の姿に戻っておけば良かったなぁ。そしたら、見付からずに済んだのに)
気を取り直して巳弥を捜そうとした透子の前に、こなみが立っていた。
「こなみちゃん?」
「透子さん・・・・ひどい」
「ひどい?」
こなみはキッと透子を睨んでいた。久し振りに会ったのに、いきなり「ひどい」と言われて透子は困惑した。自分が何をしたと言うのだろう、と思った。
「タカシ君、本気なのに!」
「・・・・見てたの?」
「どうしてはっきり断ってあげないんですか! あれじゃタカシ君、期待するじゃないですか! いい返事が返ってくるといいなって、期待するじゃないですか! 気を持たせるようなこと言わないで!」
「ちょ、ちょっと、こなみちゃん」
「透子さん、ずるい! 本当は27歳なのに、可愛く変身して、タカシ君を騙して!」
まだ26歳だけど、と透子は心の中で訂正した。それに「可愛く変身」しているわけではなく、自分の13歳当時の姿になっているだけだし、騙そうとして変身しているわけでもない。透子にとっては徹底的な言いがかりだった。
「だって、いきなり断ったら可哀想じゃない?」
「そうやって返事を引き延ばした方が可哀想・・・・期待しただけ、駄目だった時の悲しさが増えるのに・・・・」
こなみは手に持っていた鞄を強く握り締めた。
「こなみちゃん・・・・タカシ君のこと、好きなの?」
色恋沙汰に思い切り疎い透子だった。
コク、と頷いたこなみの目から、涙が流れた。
「ずるいよ、透子さん・・・・」
こなみは透子によりかかり、弱々しく震える声で「ずるいよぅ」と何度も言い続けた。透子はそんなこなみの背中にそっと手を伸ばした。
「うぅ〜・・・・」
「ごめんね、こなみちゃん。あたし、はっきり断るから」
「うん・・・・」
しばらく鼻をすすっていたこなみだったが、やがて透子に抱きついたまま小声で言った。
「本当は、私もずるいんだ・・・・タカシ君の後をつけてて、透子さんに告白するところを覗いてて・・・・断られたら、後で私が優しい声を掛けようって思った。そしたらタカシ君、私のこと、好きになってくれるかもって・・・・」
「ずるくなんかないよ。そんなもんだよ、恋愛って」
「そうかな・・・・」
「なんて、あたし、あんまり経験ないんだけど」
「・・・・透子さん」
「なに?」
「ごめんなさい、私、本当は・・・・透子さんのこと、好き」
「ありがと」
それから後、透子に事情を聞いたこなみは、一緒に巳弥を捜すことになった。
一方、巳弥を捜すあてがなくなったゆかりは、放課後のうさみみ中学に来ていた。
(学校にはいないと思うけど・・・・どこを捜していいのか分からなくなっちゃった)
校門は施錠されている。各クラブ活動もお開きになりつつある時間だった。結局、巳弥を1日中捜していたことになる。
「あ・・・・先生」
「あ・・・・姫宮」
ゆかりは偶然、校舎から出てくる露里とバッタリ出会ってしまった。
「あの・・・・」
「ど、どうした、姫宮。休みだったはずだろ?」
「え、ええ、実は・・・・」
ゆかりは巳弥がいなくなった事を露里に説明した。
露里は巳弥のあの姿を見ていないため、ゆかりと透子は彼にヤマタノオロチの事を話さないでおこうと決めた。故に巳弥の変化の部分を隠して、彼女がいなくなった事を説明するのは少々、無理があったのだが。
「出雲も色々あって、混乱しているのかもしれないな。無理もない、まだ子供なんだからな。あ、姫宮ももちろんまだ子供だから、大変だろうがな」
「あ・・・・はい」
「それと、姫宮。あの時のことだが・・・・」
「え、あの時?」
「その、屋上でのことだ」
「あ」
ゆかりは耳を真っ赤にして、俯いた。
「あの、あれは、その・・・・」
「わ、分かってます、あの時の先生は先生じゃなくて、その・・・・ひょっとして、先生は覚えてますか、あの時のこと・・・・」
「あ・・・・あ、いや、覚えてると言えば・・・・その、何となくなんだが・・・・」
露里まで真っ赤になっていると、そこに1人の人物が通りかかったので、2人は飛び上がるほど驚いてお互い距離をとった。
「きゃ!」
「ん? 露里君と・・・・」
その人物は、ここ卯佐美第三中学の校長だった。ゆかりはここに来て間がないため、校長の顔はうる覚えだった。
「姫宮君じゃないか」
「え?」
どうして自分と面識のない校長先生が自分の名を知っているんだろう? とゆかりは不思議に思った。まさか校長先生と言えど、生徒全員の名前と顔を覚えているはずはないだろう。
(あ・・・・ひょっとしてゆかり、問題児になってるとか?)
以前に露里から「授業を抜け出したことが問題になっている」という話を聞いたことがあったので、ゆかりはそう考えた。職員会議で問題になり、名前や顔を知られてしまったのだろうか、と思った。
(ゆかり、不良少女だと思われてるのかな?)
「どうしたのですか、こんな時間に」
「えっと、その、巳弥ちゃんを捜してて・・・・」
「出雲君を?」
またしても校長は「巳弥ちゃん」と聞いただけで出雲巳弥のことだと分かった。巳弥も問題児グループの一員にされているのだろうか。
「何かあったのですか」
「ええ、ちょっと・・・・」
「かなり焦っているようですね、まさか・・・・」
「え?」
「姫宮君は見てしまったのですか、あれを」
「あれ?」
(巳弥ちゃんのあの姿のことを言ってるの? でもそんなこと、校長先生が知ってるはずないよね)
ゆかりが戸惑っていると、そこに透子とこなみもやって来た。
「ゆかりもここにいたの?」
「うん、見付からなくて・・・・」
「藤堂院君も来たか。芳井君は・・・・知っているのかな?」
「誰?」
透子がそっとこなみに聞いた。
「校長先生だよ」
「あ、そうか」
校長の顔を全く覚えていない透子だった。
「君たち、出雲君を頼む」
いきなり校長に頭を下げられ、何が何だか分からない3人。学生にとって校長先生とは、もっと偉そうで威張っていそうな存在だったので、その行動は全く意外だった。
「あの子には、本当の友達が必要なんだ」
「本当の?」
「君たちは出雲君を必死になって捜してくれている。それは、彼女を友達だと思ってくれているということだな?」
「え、ええ・・・・」
「彼女の、あの姿を見てどう思った?」
校長の言う「あの姿」とは、やはりヤマタノオロチのことだろうか。ゆかりと透子は「何故、校長先生が知ってるの?」と当然の疑問を抱いた。
「どう思った?」
繰り返す校長に、ゆかりは正直な感想を述べた。
「怖かった、です」
「そうだろうな。ではあれを見てまだ、自分はあの子の友達だと言えますか?」
「・・・・」
「見かけで左右されるような友達なら、彼女には必要ありません。これ以上捜すのはやめなさい。君たちがいなくても、彼女は今までと変わらない。また1人で生きて行くだけだ」
「先生・・・・」
「それでも・・・・それでも彼女の友達だと言ってくれるのなら・・・・」
校長はゆかり、透子、こなみに向かって頭を下げた。
「彼女を、よろしくお願いする」
「あ、頭を上げて下さい、校長先生!」
こなみは校長が自分に頭を下げるなど思いもよらなかったため、慌ててしまった。
「巳弥ちゃんは、お友達だから」
顔を上げた校長に向かって、ゆかりはニッコリ微笑んだ。
「透子は?」
「・・・・ゆかりの友達はあたしの友達」
「あ、私も」
こなみも頷く。
「ありがとう、君たち。悔しいが私には何も出来ない。君たちのような子が現れるのを、ずっと待っていたんだ」
校長の語尾が震えた。
「校長先生、巳弥ちゃんの行きそうな場所、分かりますか?」
ゆかりの問いに、しばし考え込む校長。
「少し遠くなるが、ひょっとしたら・・・・」
「出雲さんのご両親のお墓ですか」
校長が言う前に、透子が言った。
「そ、そうだ。よく分かったな」
「ありがちですから。場所は?」
今から行くには少し遠い場所だったので、こなみは残り、ゆかりと透子が校長に教えられた霊園に行くことになった。露里もついて行くと言ったのだが「ここはゆかりたちに任せて」というゆかりの言葉を信じて、家に帰ることにした。校長先生と巳弥の関係も気になるが、とにかく今は巳弥を探すことが先決だ。
はたして、そこに巳弥はいるのだろうか・・・・。
29th Love へ続く
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