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27th Love 「明ける夜、閉じる心」
水無池魅瑠は迅雷を背負ったまま、病院へと辿り着いた。芽瑠と萌瑠は手に入れた宝玉(偽物)を紅嵐の研究所へと運ぶ任務を姉から受け、そちらに向かった。
「すまねぇ、魅瑠」
痛む背中に顔をしかめ、迅雷は魅瑠の背中から下ろされて病室のベッドにうつ伏せになった。
「魅瑠ちゃん、お手数かけたねぇ」
「いえ」
迅雷の母は報せを受けて病院に駆けつけた。水無池姉妹は迅雷とは幼馴染のようなもので、彼の母とも仲が良い方だった。
「疲れたろう、魅瑠ちゃん。病院で何もないけど、お茶でも飲んでいくかい?」
「いや、おばちゃん、私もう行かないと」
「あら、忙しいんだね。折角3ヶ月振りにこっちに帰って来たっていうのに」
「芽瑠と萌瑠の所へ行くのか、魅瑠。宝玉が気になるんだろう」
そう聞いた迅雷に、魅瑠は首を振った。
「それもあるけどさ」
「あぁ、そうか。魅瑠の目的は先生か」
それを聞いた魅瑠の顔に赤みがさす。
「じゃ、じゃ行ってくる」
恥ずかしさを隠すように魅瑠はさっさと踵を返し、出て行こうとした。
「悪いな、早く会いたいのに俺、送って貰って」
「気にするな。じゃ、おばちゃんまたね」
「今度はゆっくりあっちの世界の話を聞かせておくれよ、魅瑠ちゃん」
迅雷の母の声に手を振り、魅瑠は慌しく出て行った。
「それにしても」
母は迅雷の怪我を見て、ため息をついた。
「どうやったらこんな怪我するかねぇ」
「仕方ないだろ、やっちまったもんは」
「手助けに行ったあんたが、魅瑠ちゃんたちのお荷物になってどうするんだい」
「違うぞ、おっかぁ。宝玉を見つけたのは俺なんだからな。ところが怪我しちまって、あいつらに手柄を横取りされたっていうか・・・・」
「本当に不器用なんだから」
迅雷は親孝行をしたくて、紅嵐の弟子を目指していた。この世界の中でも有名な紅嵐の弟子になれば、母親も鼻が高いだろう。紅嵐の研究所に勤めることが出来れば、もっと裕福な暮らしをさせてやれる。
「ごめんな、失敗しちまって。手柄を立てれば、先生の弟子になれたかもしれないのに。そしたらおっかぁにも・・・・」
「・・・・あんたが元気なら、それでいいんだよ」
迅雷の母は「今日は暑いねぇ」と言いつつ窓を開けた。だが淡い光しかないこのイニシエートでは、窓を開けても日差しが入ってくるわけでもない。
「それより、魅瑠ちゃん、いい女になったじゃないか、そう思わないかい?」
「はぁ? 魅瑠がか?」
(そりゃ、乳がでかいのがいい女っていうのなら、そうかもしれないが)
「でも駄目だね。魅瑠ちゃんは紅嵐先生に夢中みたいだから」
「どういう意味だ?」
「まだ早いとは思うけどさ、ほら、私の娘になってくれたらって思ってさ」
「・・・・はぁ? 冗談はやめてくれ」
「嫌かい?」
「俺は・・・・」
魅瑠とは幼馴染の迅雷は、そんなことを考えたこともなかった。いや、考えようとしなかっただけなのかもしれない。
「いいよねぇ、魅瑠ちゃんのさっきの顔。生き生きしてたよ。あんたも好きな娘が出来たりしたら、もっと生き生きとしてくるのかねぇ。もちろんあんたは今でも元気だよ。でもねぇ・・・・」
それからもしばらく独り言のような母親の話が続いた。
(結局、俺は何をしに行ったんだろうな)
「なぁ迅雷、あんたも自分のやりたいことを見付けたら、私のことは気にしないでいいんだよ」
「・・・・そんな訳にはいかないだろう」
父を亡くしてから、迅雷は母にいい生活をさせてやるのが目標だった。紅嵐の弟子を目指して研究所の学校に入ったのも、そのためだった。
「私は気を遣われるより、そっちの方がいいんだよ。あんたの好きなことをしていいんだよ。後悔だけはしないでおくれよ」
(好きなこと、ねぇ)
(後悔、か・・・・)
後悔なら、ある。
宝玉を得たいが為に、犬の姿を借りて巳弥に近付いた。目的はどうあれ、巳弥を騙していたことに変わりはない。
(後悔しているとしたら、それだけだ。一言でいい・・・・謝りたい)
紅嵐次元研究所は、内部で大変な騒ぎが巻き起こっていた。紅嵐はイニシエートの長から「陰の玉」を研究用に預かっており、この研究所が管理している。「陽の玉」はトゥラビアから紅嵐の弟子たちが取ってきた。そして今「無の玉」が水無池姉妹の手でこの場所に到着したのだった。
今、この場所に三宝玉が揃ったのだ。
「え、紅嵐先生は出掛けたきり戻っていないんですか?」
やはり魅瑠姉さんの言っていたことは本当だったんだ、と芽瑠は思った。
肝心な紅嵐がいない時に、ここにいる者だけで三宝玉の力を発動させるわけにはいかないので、宝玉はそれぞれ距離を置いて隔離されたままだった。どの程度近付けていいものなのか、どうすれば発動するのか分からないので、研究員たちは紅嵐の帰りを待つしかなかったのだ。
「俺、この日をずっと夢見ていたんだ」
「どんな力なんだろう、ワクワクするな」
研究員たちは皆、純粋に三宝玉の力を見たくてウズウズしていた。また中には「どうせたいしたことは起こらないだろう」と考えている者もいれば、その力の大きさに恐怖を感じている者もいた。芽瑠もそんな1人だ。
(私は三宝玉が先生の手に渡ることを怖いと思っている・・・・)
(紅嵐先生が研究目的で宝玉の力を得たいと思っていたとしても、その力を手に入れてしまった後、目的が変わってしまわないとも限らない。力は、人を変える。私だって、ある時凄い力を手に入れてしまったら、絶対に悪いことに使わないなんて自信はないもの。ううん、それでも自分は変わらないんだって胸を張って言える人なんているのかしら)
そんな中、芽瑠と萌瑠は「無の玉」を持ち帰った者として歓迎されていた。
「よくやってくれたね、芽瑠」
「お前ならやると思ってたぜ」
成績の良かった芽瑠は、仲間の中でも評判が良かった。萌瑠もお茶やお菓子を貰って満足顔だ。長い間探し続けた三宝玉が遂に揃うのだ。この研究室には軽いパーティーの用意がなされていた。
「でも肝心の先生がいないんじゃな。早く帰って来て欲しいな」
と言ったのはトゥラビアに「陽の玉」を奪いに行った、現在の紅嵐の一番弟子である雨龍(うりゅう)。ゆかりん達に負けた風刃(ふうじん)を助け、陽の玉を持ち帰ったのが彼だった。風刃は現在、体全体に火傷を負って医務室にて治療中だ。「あれだけ無意味にトゥラビアンを殺したのだから当然の報いだ」と雨竜は風刃を罵った。結局、雨竜はウサギを1匹も殺さなかったのだ。
そしてその隣に座っているのが、莉夜(りよ)という雨竜の妹。莉夜は先ほどから1本の竹箒を傍らに置いたり、手で持ったりしていた。
「莉夜、そんなホウキ、どこから持ってきたんだ?」
この研究所とはあまり縁の無いホウキを見て、兄である雨龍が尋ねた。
「いいじゃん、どこでも」
「勝手に持ってきては駄目だろう」
「勝手じゃないよ、この子が『ここから出たい』って言ったんだもん」
「何だそりゃ。大体お前、俺と風刃とお前でトゥラビアに『陽の玉』を奪いに行ったはずだろう? どこにいたんだ、お前。結局、俺たち2人で仕事をしてきたんだぞ」
「あたしがいなくても任務遂行できたんだから、いいんじゃないかなぁ。ほら、ちゃんと代わりのメカを置いていったでしょう? あたしの代わりにしては可愛くないけど」
「先生が帰って来たら、言いつけてやるぞ」
「うわ、それはご勘弁願うよ。お兄ちゃんにとっては簡単な任務だって思ったんだよ。兄を信頼すればこその行動だったんだよ」
と莉夜は手を合わせてウインクをした。そんな仕草が憎めず、妹に甘い雨龍は「しょうがねぇな」と許してしまうのだった。そうこうしている内に、水無池三姉妹の長女が研究所に現れた。
「先生は!?」
「まだ帰っていないらしいわ。やはり姉さんの言った通り・・・・」
「だろう!? あのカラスが先生だったんだよ!」
魅瑠は部屋に入って来たその脚で、すぐに出て行こうとした。それを芽瑠が呼び止める。
「待って姉さん、どこへ行くの?」
「決まってるだろ、先生を迎えに行くんだよ! アパートであたしたちを待ってるかもしれないだろう?」
「でも、すれ違いになることも考えられるし・・・・ここで待っていた方がいいと思うの」
魅瑠は芽瑠の話を最後まで聞かず、慌しく研究所を後にした。
「じっとしていられないのね、魅瑠」
と言ったのは魅瑠の同期の女の子。魅瑠が紅嵐を好きだということはここにいる者の中では有名で、知らない者はいないほどだった。
「でも、可哀想」
「えっ」
「先生、全然その気がなさそうだもん。魅瑠にじゃなくて、色恋沙汰全体に」
「・・・・」
はやり、芽瑠の感じていたことは他の者も感じていたのだ。紅嵐に恋人がいるとすれば、それは「研究」だろう。彼についての浮ついた話は全くなく、女性と話しているのは専ら研究のことや講習の話だけだった。そういう紅嵐だから、魅瑠は「他にライバルがいなくてラッキー」と思っていた。
「ところで芽瑠、あの子たちは何者なんだ? ほら、トゥラビアの神殿で風刃と戦っていた子たちだ」
雨龍はテーブルを挟んで芽瑠の正面に座った。
「俺たち、よく聞かされていなかったんだが、芽瑠は知っているんだろう?」
「ええ、地上の女の子たちなんだけど、トゥラビアに宝玉を守るよう言われて魔法のアイテムを渡されてるみたい」
「魔法のアイテム!?」
莉夜がピクンと反応して、身を乗り出した。
「なにそれ、そんな子がいたの?」
「あぁ、3人な。そうか、魔法の力か・・・・」
「えぇ〜、そんな面白そうなこと、どうして莉夜に教えてくれなかったの!?」
「お前が勝手にいなくなったんだ!」
「しょぼりん・・・・見たかったなぁ」
箒を抱きかかえ、残念そうに呟く莉夜だった。
「悪い子たちじゃないのよ、宝玉はトゥラビアの宝だって聞かされて荷担してるだけみたいだから」
芽瑠はゆかり達をフォローしつつ、話せる限りのことを雨龍達に語り聞かせた。
(仲良くなれればいいのにな・・・・)
(あ・・・・あれは・・・・)
ゆかりんは巳弥の麦藁帽子を被った時に見たヴィジョンを思い出していた。
(あれはゆかりが見た蛇・・・・嘘、あれが巳弥ちゃんなわけないよ! だってゆかりが見たのは、あの大蛇を巳弥ちゃんそっくりの魔法少女が退治する場面だったんだから! 巳弥ちゃんのライトニングボールで・・・・)
(それより何より、あんなのが巳弥ちゃんなわけない!)
「まずいですね・・・・」
ゆかりの耳に、紅嵐の呟きが聞こえてきた。
「強大なパワーだ・・・・まだ子供とはいえ、あのヤマタノオロチの血を引いているのだから当然ですが・・・・」
ヤマタノオロチが低く唸った。紅嵐の脚が一歩、後退する。
(ここはひとまず、イニシエートに戻った方が懸命ですね。無の玉も手に入れたことですし・・・・そうだ、無の玉)
露里の体から抜けた紅嵐は、服のポケットに無の玉が入っていることを思い出し、ゆかりが庇っている露里に近付こうとした。
「!!」
それまでそれぞれ8本の鎌首をもたげていたオロチだったが、紅嵐が動いた瞬間に、その内の1本が襲い掛かってきた。
「くっ!」
大きさに似合わない、素早いスピードで牙を向いて伸びて来た蛇の首を何とかかわした紅嵐だったが、もし避けきれなかったら丸飲みされていたと思えるほどの大きさを持った口だった。
(この姿では到底、勝てない)
今の紅嵐は「人型」である。この姿では本来の能力を発揮できない。
(あの姿は美しくないので出来れば避けたいのですが・・・・そうは言っていられません)
「はっ!」
紅嵐は胸の前で手を合わせ「変化の意思」を身体全体に送った。だが・・・・。
(変化しない・・・・まだ完全に回復していないというのですか)
「魂の縮小化」を解いて人型に戻れた紅嵐だったが、もう1つの形態に戻れるほどの力は、まだ戻ってはいなかった。
動き出したオロチは、紅嵐への攻撃を開始した。次々と口を開いた首が襲いかかる。
「飲み込む気ですか、私を!」
紅嵐も風の渦で応戦するが、それは蛇の首に当たる前に拡散してしまう。
(マジカルバリアー? やっぱり巳弥ちゃんなの!?)
ゆかりんは巨大な蛇の姿に、脚が震えて立つことも出来なかった。とこたんも離れた場所からその光景をただ見ているしかなかった。
「あれが・・・・出雲さんだって言うの?」
有り得ない。巳弥の姿とヤマタノオロチでは、質量が違いすぎる、と透子は思った。
(「変化」じゃなくて、露里先生に入っていた紅嵐って人のような「魂の具現化」ってこと? 原理とかさっぱり分からないけど、あんな凄いエネルギーを体の中に入れておけるものなの?)
「くっ、こいつ・・・・!」
紅嵐は逃げることが精一杯だった。時々放つ攻撃もオロチは全く受け付けない。
(私はこんな所で・・・・!)
背中に重い衝撃を受け、紅嵐の体が前のめりになった。死角を突かれ、大蛇の頭による頭突きを受けたのだ。その瞬間、体に蛇の胴が巻きついてくる。
「しまった!」
紅嵐の体は完全に蛇の胴体に巻きつかれ、締め上げられた。
「ぐああっ!」
全身の骨が砕かれるような痛みが走る。そんな紅嵐の頭の上に、大きく開いた蛇の口が近付いてきた。
「や、やめろ・・・・」
身動きが出来ない。力を入れると、腕に痛みが走った。おそらく折れているのだろう。蛇の牙が襲いかかる。
「やめて、巳弥ちゃん!」
叫んだのはゆかりだった。
「食べちゃ駄目! 巳弥ちゃんにそんな残酷なこと、出来るわけないよね? 巳弥ちゃん、優しい子だもん!」
ゆかりを見下ろし、じっと見つめる大蛇。紅嵐は自分を締め上げる力が緩むのを期待したが、甘い考えだった。
(くそ、やはりあの男の体に入っていればこんなことには・・・・! 私としたことが、帰る前のお遊び程度で奴等をからかったのが失敗だった・・・・)
紅嵐の体から力が抜けた時、山間から薄っすらと光が差してきた。
夜明けである。
ヤマタノオロチはその光の方向を見て、戸惑うような動きを見せた。同時に紅嵐を締めていた胴の力が緩む。彼は既に気を失っていたので、そのまま地面に落下し、叩きつけられた。
「そうか・・・・光! 夜が明けたから、太陽が昇ってくるんだわ!」
とこたんが叫んだ。ゆかりんもその意味を察し、オロチに向かって言った。
「巳弥ちゃん、このままだと太陽の光が当たるよ! 元に戻って!」
そのゆかりんの言葉を聞いたからかどうか、ヤマタノオロチの巨体が黒い霧状のものに変わってゆく。やがてそれは小さな塊と化し、その場には一糸纏わぬ格好で倒れている巳弥の姿があった。
「巳弥ちゃん!」
ゆかりんは慌てて駆け寄り、巳弥に衣類を出そうとしたが、魔法の孫の手は作動しなかった。
「駄目よゆかりん、魔法は使えないわ」
「どうして・・・・」
「どうして、って・・・・見たでしょ、さっきの。ダークサイドに対して利益になる魔法が使えるわけないじゃない」
「だって巳弥ちゃん、魔法少女なんだよ!?」
とこたんにも、その点は疑問だった。巳弥はマジカルハットを使うことは出来ていたのだ。
仕方ないのでゆかりんは露里の上着を脱がせ、巳弥に着せた。丈が長いのでワンピースのようになったが、脚までは隠せない。
「とにかく日陰へ・・・・」
「先生!」
ゲートを越えて来た魅瑠の叫びが、山林に響き渡った。
「先生、大丈夫ですか!?」
倒れている紅嵐に駆け寄り「先生、先生」と何度か呼び掛けたが、返事がないので胸に耳を当ててみた。心臓は動いている。手首を握れば、脈もある。紅嵐が生きている事を確認した魅瑠は、ゆかりんたちを潤んだ目で睨んだ。
「あなたたちね、先生をこんな目に会わせたのは!」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
「・・・・絶対許さない」
魅瑠の視線に射抜かれ、ゆかりんは身を硬くした。今まで何度も魅瑠に睨まれたことはあったが、比較にならないほど鋭い視線だった。魅瑠の腰からは、2本の尻尾が生えていた。
魅瑠は紅嵐を抱きかかえ、ゲートに脚を踏み入れた。
「今は先生を助けないと・・・・」
すぐにでも報復したい衝動に駆られた魅瑠だったが、このまま紅嵐を放っておくと命に関わると思い、一旦イニシエートに帰ることにした。
「くそっ・・・・」
抱きかかえた紅嵐を傷付けてはいけないと、爪が出るのを必死に堪える魅瑠だった。
ゆかりんたちの見ている前で、紅嵐と魅瑠は何も無い空間へと消えていった。
「消えた・・・・」
「あれが『ゲート』なのね」
とこたんはゲートに興味があったが、今はそれどころではない。ゆかりんを促し、木陰へと移動するように言った。
「・・・・」
抱いている巳弥の顔を見て、ゆかりんの目が潤んだ。
(どうしたんだろう、ゆかり・・・・)
(せっかく巳弥ちゃんとお友達になれたのに。仲良くなれたのに)
(それなのに、今は・・・・)
(巳弥ちゃんが、怖い)
日の光が辺りを照らし始めたため、ゆかりんは慌てて巳弥を木陰へと移動させた。
「・・・・う」
「あ、み、みやちゃん?」
低くうめいた巳弥に恐る恐る話し掛けるゆかりん。
「ゆか・・・・りん・・・・」
目を開いた途端、巳弥はゆかりんの腕を振り払った。
「いやっ!」
「み、巳弥ちゃん?」
ゆかりんの手から離れると、巳弥は背中を向け、脚が汚れるのも構わずに地面に座り込んだ。
「そんな目で、見ないで!」
「み、みやちゃん・・・・」
「だから誰とも関わらず生きてきたのに! 誰とも仲良くなんかなりたくなかったのに!」
溢れる涙を拭おうともせず、巳弥は泣き叫んだ。
「お友達なんて、欲しくなかったのに・・・・」
巳弥の嗚咽だけが早朝の山林に響いた。
28th Love へ続く
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