話数選択へ戻る


タイトル


 21th Love 「先生IN先生」


 次の日、巳弥が一度家に寄って学校へ行く用意をしなければならないため、一同は少し早めに起床した。昨夜は寝る時間が遅くなったため、睡眠時間はかなり少なくなってしまった。巳弥はそうでもないが、ゆかりと透子は朝に弱いため、辛い朝となった。
「おはようだじょ」
 ゆかり達が1階に降りていくと、ミズタマとチェックも起きていた。傷は魔法で治っていたため、あとは体力だけが心配だった。特に傷が深いチェックの方が心配だ。  ゆかりと巳弥は早く家を出なければならないため、ミズタマ達への状況説明は透子に任せ、2人は家を出た。出雲家に向かい、支度をしてから学校へ向かう。
「ねぇ、ゆかりん」
 出雲家から学校へ向かう途中、巳弥は少し話し辛そうにゆかりに言った。
「こんなこと、言っていいのかどうか分からないんだけど・・・・」
「なぁに?」
「宝玉・・・・ゆかりんは私の為に守ってくれてるの?」
「う〜ん、そうかなぁ、やっぱり」
「でも、ミズタマ君達は自分の国に持ち帰ろうとしている。藤堂院さんは壊した方がいいと思っている・・・・私達が学校から帰ったら、宝玉はどうなってるのかな。なくなってるか、壊れてるか・・・・」
 そんな巳弥の言葉を聞き、ゆかりはニッコリと笑った。
「大丈夫、何ともなってないよ」
「ごめんね、ゆかりんのお友達を疑ったりして、でも・・・・」
「ここにあるから」
 ゆかりは水着のバッグを持ち上げた。
「・・・・え?」
「ここに入ってるよ、宝玉」
「でも、家を出るときはちゃんと部屋に・・・・あっ」
「そう、透子の真似だよ。コピーを置いて来たの」
 ゆかりは昨夜、透子がしたように宝玉のコピーを作り、その複製の方を寝る前に部屋に持って来たのだった。宝玉を守るためなので、当然魔法使用の承認は下りた。
「持っておけば、安心でしょ?」
 姫宮家にある宝玉をミズタマ達が持って帰ろうが、透子が壊そうが、それは偽物なので何も問題はない。ただゆかりは、宝玉を持って帰ろうと一生懸命になっていたミズタマ達には悪いと思っていた。
「あ、おはようございます、先生!」
 校門の前で露里に会ったゆかりは、ぴょっこり頭を下げて挨拶をした。露里も手を軽く挙げて答える。
「おはよう、姫宮、出雲」
「おはようございます」
「お、出雲が挨拶してくれたのは初めてじゃないか?」
「そ、そうですか?」
 何となく恥ずかしく、下を向いてしまう巳弥。そんな巳弥を見て、露里はゆかりに囁いた。
「姫宮、お前のお陰だ。出雲が明るくなってきているのは」
「いえ・・・・」
「これからも仲良くしてやってくれ」
「はいっ」
(やった、先生に誉められちゃった!)
 ゆかりは調子に乗って、巳弥の手を取って歩き出した。
「さ、巳弥ちゃん、早く教室に行こ!」
「ちょっと、ゆかりん、恥ずかしいよぅ」

 三姉妹の事が気になっていたゆかりだったが、やはり学校には来ていないようだった。透子が作った偽の宝玉を持ち帰り、それで満足したのだろうとゆかりは思った。
「姫宮」
 4時間目が終了し昼休みに入った時、露里がゆかりに声を掛けてきた。
「大丈夫なのか、アレは」
「あぁ、アレですね、大丈夫です。実は今日、学校に持ってきてるんです」
 ゆかりは誰にも聞かれないように、声を低くした。
「そうなのか」
 露里もつられて声が低くなる。
「もうあんな目に会うことはないのか?」
「分かりません・・・・」
「そうだな。昨日も言ったが、先生に力になれることがあったら、言ってくれよ」
「はい。あの、えっと・・・・」
(丁度、お昼休み。昨日から先生といっぱいお話してるし、今日なら言ってもいいよね、不自然じゃないよね)
「せ、先生、お昼、一緒に食べませんか!」
 ゆかりは意を決して、前々から言いたかったことを露里に言った。
「それは、弁当を一緒に食うってことか」
「は、はい、えっと、2人きりじゃなくて、巳弥ちゃんと・・・・」
 ゆかりは自分と2人なら断られると思い、巳弥と3人で、と提案した。
(ゴメン、巳弥ちゃん、先生を誘うダシに使っちゃって)
「それは構わないが・・・・どこで食べるんだ?」
「じゃ、じゃあ、屋上か中庭で」
「屋上か・・・・いい天気でなかなか気持ち良さそうだな。よし、そこにしよう。先に行って、待っていてくれ」
「はいっ!」
 露里は自分の弁当を取りに職員室に戻っていった。ゆかりは巳弥を誘い、一足早く屋上に向かう。屋上は露里の言った通り、天気が良くて風があまり強くなく、外で食べるには絶好の日和だった。ただ直射日光だけは避けたいので、給水タンクの影を利用することにした。ここなら巳弥も座っていられる。
「ゆかりん、私、邪魔じゃないの?」
「ど、どうして!?」
「だって、ゆかりんは先生と2人の方がいいのかなって」
「そ、そんなことない、何言ってるの、巳弥ちゃん!」
 誰から見てもあたふたしているゆかりを見て、巳弥はクスッと笑った。
「ゆかりん、耳まで真っ赤だよ」
「も、もうっ、巳弥ちゃんたら!」
「お、何だか盛り上がってるな」
 そこに露里が合流して、お弁当タイムが始まった。
「ん〜、何だかこういう場所で食べるのも、遠足に来たみたいで気持ちいいな。お前たち、いつもここで食べてるのか?」
「いえ、たまに来ますけど、ほとんど教室か中庭です」
「そうか。先生はいつも職員室だからな。ここはいいスポットだ。また先生も誘ってくれよ」
「はい、ぜひ!」
(また誘っていいんだ、やった!)
 ゆかりは上機嫌でお弁当を開けた。今朝は時間がなかったため、弁当にあまり時間をかけることは出来なかった。しかも、ほとんどのおかずは巳弥が作っている。
(ゆかりの作ったもの、先生に食べて欲しかったな・・・・)
 ゆかりは「はい先生、あ〜ん」という光景を思い浮かべたが、今日の弁当では巳弥の作った料理を食べて貰うことになるので、断念することにした。今度こそ自分の作った物を、と心に誓って。
(あっ)
 ゆかりはふと覗き込んだ露里の弁当が豪勢だったので、少し驚いた。確か露里は1人暮らしだったはずだ。朝から1人暮らしの男性が作ってくるような弁当には見えない。特に卵焼きや焼き魚などは、冷凍食品をレンジで熱しただけのものではないようだ。
(まさかあのお弁当、誰かに作って貰ったとか? だ、誰なの?)
 だが「〜に作って貰った」という返答を聞くのが怖く、ゆかりは尋ねることが出来なかった。誰かに作って貰ったとなれば、それは付き合っている女性がいるということなのだろうか。ゆかりはそんな話は聞いたことがなかったが、そういう話は学校の生徒に言うことでもないので、知らなくて当然かもしれない。直接聞く勇気がないゆかりは、遠回しに質問することにした。
「先生、お料理は得意なんですか?」
「料理か? そうだな、1人暮らしが長いから、まぁまぁだと思うが。いつもコンビニというわけにはいかないから、自炊もある程度やっているぞ」
「そうなんですか、あの・・・・」
 そのお弁当も先生が作ったんですか、とゆかりが聞こうとした時、露里が握っていた箸を取り落とした。
「うっ・・・・」
「先生?」
 露里が低くうめいて頭を押さえた。ゆかりと巳弥は心配してランチボックスを置き、覗き込む。
「先生、大丈夫ですか?」
「あ・・・・あぁ、昨夜から時々、頭が痛いんだ・・・・風邪かな」
「戻った方がいいかもしれませんね」
 巳弥が露里の肩を持った。
「立てますか?」
「あぁ、大丈夫だ。そうだな、先生は失礼するよ。風邪かもしれない」
「保健室、行きますか?」
 ゆかりは露里から弁当を受け取り、蓋をした。
(念願の先生とお弁当タイムだったのに・・・・先生、大丈夫かなぁ)
 露里はゆかりと巳弥に連れられ、保健室に向かった。熱は無かったが、頭がクラクラするのでしばらく保健室のベッドで横になることにした露里を保健婦の井ノ坂に任せて、ゆかりと巳弥の2人は残りのお弁当を教室に戻って食べた。
「先生、昨日のことでかなり疲れてるのかもね」
「うん・・・・」
 5時間目の授業中は、露里が心配で気もそぞろなゆかりだった。

 保健室のヴィーナス(もしくは女王)である井ノ坂桐子は、ベッドで寝ていた露里の手が動いたのが視界に入ったので、声を掛けた。
「露里先生、お目覚めですか?」
 ・・・・返事が無い。
 桐子は「寝返りを打っただけかしら」と思い、それなら起こしては悪いと、それ以上話し掛けなかった。
「・・・・・・・・」
 ベッドの上の露里は、手を握ったり、開いたりを何度か繰り返していた。
(ようやく、感覚が戻ってきましたね)
 ゆっくり目を開けてみる。外の光はカーテンで遮られているので、問題は無い。
(ここまで時間がかかるとは思いませんでした。予想以上に効いていたようですね、あの矢は)
 その「意思」は自分の体に光の矢が突き刺さった時の痛みを思い出し、身震いした。
(あの矢を放った小娘・・・・許せませんね。それよりも、今はまず宝玉ですが。さて・・・・)
 ゆっくりと起き上がる露里。
(危くカラスのような下等な体で死ぬところでした。この男がカラスの体を触っていなければ、あるいはあのまま・・・・)
 首をコキコキと鳴らす。腰をねじる。
(動きそうだ)
 露里は掛け布団を退け、ベッドから降りた。それに気付いた桐子が話し掛ける。
「あら、露里先生。もう平気ですか?」
「え、ええ。この通り」
「そうですか。今は5時間目の途中ですが、どうなされます? 先生さえよろしければ、6時間目から授業に出られますが」
「そうですね、お世話になりました」
 ペコ、と頭を下げて出て行く露里を見て、桐子は「妙に行儀がいいわね」と思った。
 保健室を出た露里は、大きく深呼吸をした。
(重いな。やはり1つの体に2つの魂は窮屈ですね)
(だがこの体は役に立ちました。昨夜の宝玉の情報、姫宮ゆかりの情報が難なく手に入った。この男に感謝しなくてはね)
 露里は1年3組の教室を覗いた。誰もいない。露里の頭から引き出した情報では、今日の5時間目は体育で、教室には誰もいない時間だった。
(さて、姫宮ゆかりの席は・・・・ここだ)
 机の中を覗く。鞄を探る。更に「姫宮」と書かれたロッカーを探る。
(どこだ? 確かに宝玉を持って来ているはずです。あの娘は、この男に嘘はつかない)
 だがどこを探しても直径10cmの金色の玉「無の玉」は見付からなかった。
「直接聞くしかありませんね」
 5時間目終了後、水泳の授業を終えたゆかりの胸元には、金色のネックレスが光っていた。魔法の力で宝玉の形を変えたのだ。これなら肌身離さず宝玉を守ることが出来る。
(あ〜ん、また日焼けしちゃったなぁ。恥ずかしい)
 日焼けで赤くなった腕を見て悲観するゆかり。長年焼いていない肌は日光に慣れていなくてヒリヒリと痛い。変身していても体質は変わらないようだった。隣にはいつも通り授業を見学した巳弥がいる。
(来た・・・・姫宮ゆかり)
 露里は更衣室から1年3組の教室に戻る途中の廊下で、ゆかりが来るのを待っていた。
「ゆかり〜ん!」
「あ、こなみちゃ〜ん」
(なにっ)
 ゆかりはこなみに呼ばれ、露里の待っていたコースから離れて行く。そんなゆかりに「先に教室に帰ってるね」と言って、巳弥だけが近付いてきた。
「あ、先生、もうお体は大丈夫なんですか?」
「え・・・・ええ」
(出雲巳弥・・・・この娘に関しては、この男の記憶にもデータはほとんどない。あまりこいつとは親しくはないようだな)
 巳弥は露里の視線を追ってみた。その先には、こなみと何か話をしているゆかりがいる。
「ゆかりんに用ですか?」
「い、いえ、そういうわけではないのですが」
「・・・・?」
 巳弥は「先生の言葉遣い、変」と思ったが、口には出さなかった。
「先生、そろそろ次の授業が始まりますよ」
 後ろから他の教師が声を掛けてくる。仕方なく露里の体を借りた魂は少しの間、教師を演じることにした。
(6時間目が終わってからにしますか。それまではこの露里という男に成り切っておきましょう)

 時は少し遡り、お昼前の姫宮家では、計画が狂ってしまった透子が頭を抱えていた。
 ゆかりと巳弥が出て行った後、ここぞとばかりに宝玉を壊してしまおうと思っていた透子だったが、ミズタマとチェックが目覚めてしまった為、計画が狂ってしまったのだ。もう一度宝玉の偽物を作って、それをウサギ達に渡そうと考えたのだが「魔法の肩叩き」が働いてくれなかった。昨夜とは違い、今回は宝玉を壊すための魔法なのだから、使えないのは当然と言えば当然だ。
(まいったなぁ、このままじゃ宝玉はリチャード達が持って帰っちゃう)
「それじゃ透子、我輩達は急ぐので、支度が出来たらすぐに宝玉を持って帰るじょ。あ、帰ると言っても一旦帰るだけで、また戻ってくるじょ。だからお別れはしなくていいじょ」
「そんなに急がなくても。リチャードだって、まだまだ本調子じゃないでしょ?」
「一刻も早く宝玉を持って帰りたいからな」
 少しふらつく体を押して、チェックが立ち上がる。
「これで透子やゆかりんに、これ以上辛い思いをさせなくて済むな」
「リチャード・・・・」
 チェックが立ち上がった時、ガラガラと玄関のドアが開く音がした。
「誰か来たのかしら」
 透子が玄関に出ようとしたその途端、廊下にガシャガシャと騒々しい音が響いてきた。
(な、何なの〜!?)
 ガシャガシャガシャ。
 何十という音が重なり、姫宮家の廊下に響き渡る。鉄が擦れ合うような音だった。強盗か何かかと透子が恐怖を感じていると、その音は廊下から部屋へと侵入してきた。
「宝玉を渡せ!」
 ガシャンと音を立て、鎧を来たウサギが入ってきた。それに続き、十数匹の甲冑ウサギが部屋に入ってくる。
「な、なに、これ!」
「これは・・・・ラビリニア近衛騎士団!」
 チェックが叫んだ。
「こ、近衛騎士団!?」
 透子はミズタマやチェックと同じ背格好のウサギが鎧を纏った「近衛騎士団」を見渡した。最初に部屋に入ってきたウサギは、頭に赤い羽根のようなものが付いている。おそらくリーダーなのだろう。
「騎士団様が、何の用ですか? こんな所までわざわざ・・・・」
「リチャード・フォン・ヒューデリック・ラビリーヌだな。そっちはエリック・フォン・キャナルニッチ・ラビリニア」
「は、はい」
 ミズタマもチェックも、そのリーダーの前にかしこまった。
「貴様らの身柄を拘束せよ、との命令だ」
「・・・・はっ?」
「それはどういう・・・・」
「問答無用、皆の者、捕らえよ!」
 リーダーの合図で一斉にミズタマとチェックを押さえつける騎士団。あっという間に鎧達に押さえ込まれてしまう。数が違いすぎたし、2匹は何が何だか状況が分からず、抵抗などできるはずがなかった。近衛騎士団はミズタマやチェックの国ではかなりの地位にあるらしく、2匹は文句も言わずに大人しくなった。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! どういうことか説明して!」
 透子がリーダーに向かって言った。
「藤堂院透子だな。お前も同罪だ」
「同罪? あたしたちが何をしたって言うの!?」
「宝玉を手に入れたにも関わらず3日も連絡も入れずに放置した。よって、宝玉を盗んだものとして処罰する」
「ま、待ってよ、3日? 宝玉を見つけたのは昨日よ!」
「こっちの1日は、トゥラビアの3日に相当するんだ、透子」
 鎧軍団に押さえ込まれ、苦しそうに喋るチェック。
「再三、レシーバーに連絡を入れたにも関わらず、お前たちは無視をした。宝玉を我が物にせんがための狼藉と受け取って構わないな」
「構うわよ! だいたい連絡なんて来てないんだから!」
「スイッチを切っていたのだろう」
 リーダーが透子を睨む。ウサギの赤い視線が鋭く突き刺さった。
 ミズタマとチェックのマジカルレシーバーは、昨夜の魅瑠の襲撃によって壊れていた。トゥラビア側はそれを、わざとスイッチを切っていたと捉えたのだ。
(ちょっと待て・・・・俺は宝玉を手に入れたことを、まだ報告していないんだぞ?)
 チェックにはその点が疑問だった。宝玉を見つけてから今まで、本国には全く連絡をしていない。どうして宝玉を手に入れたことがトゥラビアに分かったのだろう? 何者かがトゥラビアに連絡をしたのだろうか。
「待って下さい、我々は宝玉を持って帰ろうと、今ちょうど準備をしていたところなんです!」
「後から言おうと思えば何とでも言えるな」
 チェックの訴えも虚しく、リーダーにさらっと流された。
「とにかく誤解よ! どうしても捕まえるって言うなら、こっちだって抵抗するわ!」
 透子は「魔法の肩叩き」を構えた。
「え〜いっ!」
 肩叩きは、何も反応しなかった。
「か、肩叩き? どうして動かないの!?」
「はっはっはっ、そのマジカルアイテムは我々の味方。我らに向かって攻撃できるはずがないだろう」
「そんな・・・・ねぇ、肩叩き! 分かるでしょ? 誤解なのよ! あたしたちは悪くないのよ、だからお願い、魔法を使わせて!」
 だが肩叩きは、何も答えずに沈黙したままだった。
「そんな・・・・」
(信用、ないよね。あたし、宝玉を壊そうとしてるんだもん。この子の使命は宝玉を守ること。それに忠実なだけだよね。肩叩きは、悪くない)
 透子はガックリと肩叩きを構えていた腕を下ろした。
「抵抗するだけ無駄だと分かったようだな。さて宝玉は・・・・おお、これか」
 ミズタマがリュックに入れて持って帰ろうとした宝玉を、リーダーは持ち上げた。
「この輝き、素晴らしい! 大神官様もさぞお喜びになるだろう」
 透子は取り押さえられることなく、畳の上に座り込んだままだったが、ふいに体が動かなくなった。
「な、なに!?」
「目に見えないマジカルロープだ。これでお前達は抵抗できない」
「ど、どうしてあたしまで!」
「お前も同罪だ」
(これだけの近衛騎士団が来るなんて、おかしいわよ。いくら何でも、仰々し過ぎる。たかが2匹のウサギを捕らえるために、なんて。それだけ宝玉が大切だってこと? それほどまでに宝玉を欲しがるなんて、変よ)
 ピピピ、とどこかで電子音が鳴った。鎧ウサギの1人がレシーバーを取り出す。
「はい、はい、ええっ? はい、分かりました、すぐに戻ります!」
 慌てた様子でレシーバーを切る。緊急事態だろうか、と透子は思った。
「隊長、大変です! トゥラビアにダークサイドが現れたということです! おそらく目的は祭壇の間の宝玉『陽の玉』だろうと・・・・」
「何だと!? くそ、よりによって我々がいない時に!」
「いない時だから攻め込んだんじゃないの?」
 透子が口を挟むが、完全に無視された。
「戻るぞ、祭壇の間を守るのだ!」
「隊長、こいつらはどうしますか!」
 こいつらとは、魔法のロープによって縛られた透子、ミズタマ、チェックのことだ。
「とにかくトゥラビアまでは一緒に帰る。向こうに着いた後、我らホワイトラビット、ブルーラビットは祭壇の間がある大神殿に向かう。お前たちイエローラビットはそいつらを牢に入れに行け」
「はっ!」
 どうやら近衛騎士団の中でもいくつかのグループに分かれているようだ。
 またガシャガシャという耳障りな音を立て、廊下を走ってゆく騎士団。律儀に入ってきた玄関から出て行った。土足でなければ合格点だったのだが、騎士団の面々のお陰で、廊下がかなり汚れてしまう。更に鎧姿で走るため、傷だらけになってしまった。
 透子は「痛い、痛い、引っ張らないで!」と文句を言いながら鎧ウサギ達に連行されて行った。

 22th Love へ続く



話数選択へ戻る