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タイトル


 19th Love 「姫宮家、緊急事態!」


 露里が居間に入ると、テーブルには鍋(出来たて雑炊)と食器が並んでいて、巳弥が座っていた。
「おや、出雲?」
「先生?」
「何だ・・・・出雲を呼んで鍋をしていたのか。美味そうな匂いだな」
「ええ、そうなんです。先生、良かったら食べます?」
 ゆかりの言葉に目が輝く露里。
「いいのか? 実は学校から直接来ただろ? まだ食べてないんだ・・・・あれ、食器がやけに多いな。誰か他にも来てるのか?」
「え? あ、えっとですね・・・・」
「みんな、もう帰りました。あと1人、5組の藤堂院さんがいますけど、今ちょっと外に出ていますので」
 戸惑うゆかりを見て、巳弥が説明した。
「そうか、そうか」
 用意された座布団に座った露里は、ゆかりから箸と雑炊を受取った。
「ありがとう、姫宮」
「いえ、3人だとちょっと多いかなって思ってたんです。あはは」
(ごめんねミズタマ、チェック。あんたたちの分、無くなるかも)
「嬉しいよ、出雲と仲良くしてくれて。出雲がこうしてみんなと鍋を食べているなんて、以前では想像できなかった。姫宮のおかげだ」
「そ、そんなことないです」
「ううん、ゆかりんのおかげ」
 ニッコリ微笑む巳弥に、照れるゆかりだった。
「それはいいとして・・・・姫宮、何かあったのか?」
「と、いいますと」
「お前、今日、学校を抜け出しているよな、出雲も、藤堂院もだ」
「え、あ・・・・」
「お前たちは無断で授業をサボるような子じゃないと信じている。しかし理由も言わず抜け出したきり学校に帰らず鍋パーティーとは、どういうことなんだ? 出雲が最近明るくなったことには感謝するが、こういうことは感心できないな」
「いえ、その・・・・」
 ゆかりと巳弥は一生懸命に言い訳を考えるが、どれも無理のあるものばかりだった。そう言えば途中で抜け出してきた学校のことをすっかり忘れていた。そんな場合ではなかったのだが、露里に言うわけにもいかない。露里はそんな2人の答えを雑炊を食べながら待つ。
「そのことで学校で会議があって、今まで残っていたんだぞ。エスケープしたのはあと数人いたな、水無池だったか、姉妹2人だな。ひょっとして、鍋を一緒にやってて先に帰ったっていうメンバーはそいつらなのか?」
 ミズタマとチェックの分の箸や茶碗の数と一致する。
「先生はお前らの担任だからな。納得のいく理由を聞かせて欲しいんだ。鍋パーティーしていました、では学校に報告できない」
 露里の言っていることはもっともである。だが本当のことを言っても信じないだろうし、言うわけにもいかない。ゆかりには「露里先生なら信じてくれるかも」という根拠のない期待はあったが、かと言って「変な子だと思われたくない」という気持ちもあった。
(ゆかり、先生に嫌われたくない)
 今日の1件で既に、自分は学校をエスケープする不良少女だと思われてはいないだろうかと不安になっているゆかりだったので、更に宝玉の話などをして「妄想癖もある」と追い討ちをかけたくはなかった。
「実は・・・・」
 それまで黙っていた巳弥が口を開いた。
「私、昨日、犬を拾ったんです」
「犬を?」
「はい。その犬がいなくなって・・・・みんなに探して貰ったんです。無断で授業を途中で抜け出して、報告もしないで、すみませんでした。私が全部悪いんです、みんなは一緒に捜してくれて・・・・」
「それで、犬は見付かったのか?」
「・・・・」
 巳弥は自分を庇った迅雷のことを思い出す(勿論、巳弥は迅雷という名は知らないが)。宝玉が目当てで仔犬の姿になって自分の家に来たはずの迅雷が、何故自分を庇ったのか。迅雷の方が光に弱いはずなのに、大怪我までして。
 分からない。
 分からないからこそ、巳弥は直接聞いてみたいと思う。また会えるだろうか? いや、今度会う時はまた、宝玉を狙ってくる時だろう。だが理由を聞いてみたい・・・・そんな思いが巳弥に「犬がいなくなった」という話をさせた。
「そうか、なら先生もその犬を探すのを手伝おう。いなくなったのはいつなんだ?」
 ガシャァァァン。
 露里が台詞を言い終えた時、二階から大きな物音が聞こえた。おそらくガラス窓が割れたのだろう。
「な、なんだ!?」
 露里は持っていた箸と茶碗を置き、立ち上がった。投石か、それとも強盗か。いずれにせよ、大人であり男である自分の出番だと思った。
 ドスン、バタンという物音が聞こえたかと思うと、何かが階段を転げ落ちてくる音がした。ゆかりが廊下へ続くドアを開ける。
「ミズタマ、チェック!」
 階段の下には怪我をしたウサギが2匹、転がっていた。ミズタマは腕に切り傷があり、チェックは口から血が出ている。
「どうしたの、何が・・・・!」
 2匹に駆け寄ろうとしたゆかりの前に、何者かが階段の上から飛び降りてきた。
「あなたは!?」
 セクシーなコスチュームの魅瑠だった。だがいつもとは雰囲気が違う。猫のように四つん這いになり、尻尾が2本あった。以前、ゆかりが襲われた時と同じく爪が長い。
「あなた、ミズタマたちを!」
「宝玉を渡せ。どこにある?」
 ゆかりは恐怖を感じた。
 前から魅瑠のことは怖いと思っていたが、それはあくまで人間相手に感じる恐怖だったが、今は違う。人間以外の何者かから感じる恐怖。非日常的なものを感じる恐怖。
「どうした、姫宮!」
「先生、来ないで!」
 この場合、来ないでと言われて来ない者はいないだろう。例外なく、露里はゆかりと魅瑠が対峙する廊下に出て、それを見た。
「・・・・」
 また夢か、と露里は思った。大怪我をした夢を見た時と同じ格好をした女の子が、目の前にいたからだ。しかし、やはり夢と言うには感覚が現実的過ぎる。寝た覚えも無い。
「先生、危ないから下がって!」
「へぇ、あの時の先生か・・・・こんな所で会うなんてね」
 魅瑠はゆかりを睨みつけた。
(私は先生に会いたくて仕方ないのに、こいつは先生と家でよろしくやってるってことか。許せない)
 ゆかりは魅瑠の凄まじい眼光に気圧されたが、ここで自分が逃げ出すわけにはいかないと「魔法の孫の手」を出した。この際、魔法少女であるのは秘密だとか悠長なことは言っていられない。命に関わるのだ。
「姫宮、逃げろ! こいつ、普通じゃない」
 教え子を守ろうと前に出ようとする露里だったが、ゆかりが孫の手で制する。
「姫宮?」
「先生はゆかりが守る。巳弥ちゃんにも手は出させない。宝玉だって渡さない!」
「ひ、姫宮?」
 状況を理解できない露里の前で、ゆかりは変身呪文を使わずに「ぷにぷにゆかりん」に変身した。さすがにこの状況で呪文を唱えていたら危険だっただろう。「魔法少女の定義」にうるさいゆかりでも、その辺りはきちんと状況を把握していた。
「ひ、姫宮、その姿は・・・・」
「先生と巳弥ちゃんは早く逃げて!」
 戸惑う露里の手を引き、巳弥は居間に戻った。素早く自分の麦藁帽子と宝玉を持ち、廊下とは反対側にある台所へ走った。そこから裏口へ抜けられる。露里は訳が分からぬまま巳弥に手を引かれて走る。
 巳弥が麦藁帽子を持ったのは、いつも外出する時の癖のようなものだった。
「スゥィートフェアリー・マジカルトゥインクルスター!」
 ゆかりんの放ったトゥインクルスターは玄関に向かって廊下を明るく照らしながら流れていった。かわしようがないと思われたこの状況で、魅瑠はその有効範囲外である天上スレスレに張り付き、光が通り過ぎた後にゆかりん目掛けて落下した。
「わわっ!」
 慌てて飛び退いたゆかりんの目の前の空間を、鋭い爪が切り裂く。
「痛っ!」
 避けた、と思ったゆかりんだったが、爪の先がかすっていたらしく、胸のリボンか真っ二つに切り裂かれ、スカートの合わせ目にも亀裂が入っていた。お腹の辺りに痛みを感じたので、コスチュームと一緒に少し切れているのだろう。
「うわ〜ん・・・・」
 切り裂かれて前面にスリットが入ったスカートが左右に分かれる。「立っているだけでパンチラ状態」になってしまった。
「宝玉を渡すんだ」
 姿勢を低くし、鋭い爪を構える魅瑠。ゆかりは負けじと孫の手を握り直した。
 一方、巳弥と露里は裏口のドアを開け、脱出することに成功した。
 かのように見えたが・・・・。
「きゃっ!」
 外に出た時、それを待っていたかのように空から黒い塊が巳弥目掛けて飛んで来た。辛うじて宝玉を落とさずにすんだ巳弥だったが、バランスを崩して露里に支えられた。
「出雲、大丈夫か!?」
「は、はい」
 巳弥は何が襲って来たのだろうと辺りを見回した。暗くてよく見えないが、何かがバサバサと上空を飛んでいる。目を凝らして見ていると、塀の上に一羽のカラスが降りて来た。
「カラス・・・・?」
「出雲、あのカラスはどうやらこっちを狙っているようだな」
「でもこんな夜にカラスが飛んでくるなんて・・・・」
 宝玉を抱え直した巳弥に、再びカラスが襲いかかってきた。
「危ない、出雲!」
 露里は巳弥を庇うように抱えて、ドアを閉めた。
「くそ、外へ逃げられなくなった。出雲、一体何がどうなっているんだ? あの姫宮が戦っているのは誰なんだ?」
「今は説明している余裕はありません」
「・・・・そ、そうだな」
 露里は巳弥に「ここを動くな」と言って、裏口のドアの近くに立てかけてある傘を1本握り締めた。
「先生、何を!?」
「姫宮に任せて逃げるわけにはいかない」
「駄目、先生、今戻っては危険です!」
「なら余計に姫宮を助けにいかなくては。姫宮は俺の大切な・・・・教え子だ」
 傘を両手で持って引き返そうとする露里の腕を掴む巳弥。
「先生が行っても無駄です!」
「無駄なものか!」
 露里は巳弥を振り切り、ゆかりの元へと戻って行った。
「スゥィートフェアリー・・・・」
「ふん!」
 孫の手をかざしたゆかりんに向かって、魅瑠は足元に転がっていたミズタマを掴んで放り投げた。
「うわわっ!」
 狭い廊下で、避けきれずまともにミズタマと衝突したゆかりんは、後方に倒れ込んだ。その拍子に孫の手が手から離れる。
「あれが無くては光は撃てまい!」
 倒れたゆかりんに突進する魅瑠。
「姫宮ぁぁぁっ!」
 ガスッと鈍い音がして、露里の振り下ろした傘が魅瑠の頭部にヒットした。まさか横のドアから露里が飛び出してくるとは思っていなかった魅瑠は、まともにその一撃を浴びて引っくり返った。
「大丈夫か、姫宮!」
「せ、先生」
 ゆかりんは露里の視線に気付き、慌てて脚を閉じた。こんなことを気にしている場合ではないのだが。
「先生、早く逃げて下さい!」
「姫宮も逃げるんだ、早く!」
 不意を突かれた魅瑠だったが、額を押さえながら立ち上がった。血が出るほどの怪我はしていない。
「よくも・・・・」
「先生、危ない!」
 ゆかりんの頭に、露里が魅瑠にやられた時の記憶が蘇る。
 肉を切られる鈍い音、噴出す鮮血、倒れ込む露里。
「いや、いや、いやぁ!」
 襲いくる魅瑠の爪の前に、露里の傘が紙のように切り裂かれる。
「先生っ!」
 ゆかりんは床を蹴った。マジカルフェザーの浮力を借りて、ホバークラフトの要領で露里を突き飛ばそうとしたのだが、ゆかりんの体重が軽く、露里を押し倒しただけの格好になってしまった。
 魅瑠の爪が迫る。
 やられる、と思った瞬間、魅瑠の爪がゆかりんの目の前で止まった。
「・・・・」
 露里を庇ったゆかりんに、爪を突きつけたまま見下ろす魅瑠。ゆかりんは恐る恐る目を開けて魅瑠を見た。
「宝玉を渡しな。そうしたら殺しはしないよ」
 無言で露里に抱きつくゆかりん。露里はショックで気を失っているようだった。
「あんた・・・・先生のことが好きなんだね。私にも、そんな先生がいる。その紅嵐先生の為に、私は宝玉を手に入れる。どんなことをしてもね」
「・・・・」
「もし私がこういう状況になったら・・・・きっとあんたと同じ事をしたと思うよ。自分はどうなってもいい、この人だけは守るんだ、ってね・・・・」
「その人は・・・・」
「長い間、会っていなかった。でも、やっと会えたんだ。姿は違うけどね」
 巳弥は裏口に宝玉を抱いたまま座り込み、そのやり取りを聞いていた。
(これを渡さないと、ゆかりんが危ない。これを渡したら、ゆかりんも先生も助かる・・・・でも、宝玉が悪い人の手に渡ってしまうと、もっと大変なことになるかもしれない。私、どうすればいいの・・・・?)
 ガン、ガンとガラス窓を激しく叩く音がしたかと思うと、ガラスが粉々に砕け散った。巳弥が驚いて立ち上がると、その窓から黒い影が飛び込んできた。
「!!」
 先ほど巳弥たちに向かってきたカラスだった。家の中に入ってしまった巳弥を追って、窓をぶち破ったのだ。
「いやっ・・・・」
 ガラスが砕けて枠だけになった窓に止まったカラスは、巳弥を視界に捕えると「クアッ」と低く鳴いた。
(どうしてカラスが私を襲うの!? まさか、宝玉が目当て・・・・?)
 巳弥は恐怖で動けない。
「怪我をしたくなければ宝玉を魅瑠に渡せ、少女よ」
「しゃ、喋った!?」
 カラスの口から発せられたのは、聞き紛うことのない「日本語」だった。
(そんなわけないわ、カラスの声帯であんなにはっきりとした言葉が喋れるはずがない・・・・)
「だ、誰なの・・・・」
 震える声で巳弥が問う。カラスは答える気がないかのように「宝玉を渡せ」と繰り返した。
 刹那、カラスの体を1本の光の矢が貫いた!
「ぐはっ!」
 光の矢に、完全に体を刺し抜かれたカラスは、窓から床に頭から落ちた。
「く・・・・そ、光か・・・・何者だ・・・・」
 苦しそうにもがくカラス。裏口のドアが開き、とこたんが姿を現した。
「出雲さん!」
「藤堂院さん!」
「ゆかりは!?」
「中です!」
「分かったわ。あ、出雲さん、ちょっとその宝玉・・・・」
「え?」
 とこたんは魔法の肩叩きを近くにあったガラス瓶に近付けた。光に包まれた瓶は粉になって魔力ドームに吸い込まれてゆく。
「・・・・?」
 巳弥が黙って見ていると、今度は肩叩きが宝玉の上に置かれる。魔力ドームから光が溢れ出し、次第に球体を形成してゆく。
「あ・・・・」
 宝玉の上に、そっくりの玉が出現した。
「ニセモノ、出来上がり」
 とこたんは偽物の宝玉を抱え、家の中に入っていった。

「ゆかり〜!」
「とこたん!?」
 部屋に入ったとこたんは、目の前に爪を突きつけられたゆかりんと露里と対面した。
「宝玉・・・・」
 魅瑠は目ざとくとこたんの抱えている宝玉に目を付けると「こちらによこせ、さもないと・・・・」ととこたんを脅した。
「これを渡したら、その2人は助けてくれるのね?」
「いいだろう。こっちへ持って来い」
「近付いたらザクッ、ていうのはやめてよ」
 じりじりと魅瑠の動きを警戒しながら、畳の上をすり足で歩くとこたん。魅瑠はとこたんが差し出した宝玉を、爪を引っ込めた手で受け取った。
「確かに頂いたよ」
「とこたん、駄目だよ、渡しちゃ駄目!」
「仕方ないのよ、こうしないとゆかりんの命が・・・・」
 とこたんは悲しい目をして、唇を噛締めた。
(このくらいの演技でいいかしら?)
 魅瑠は宝玉を受取ると、もう一方の爪を構えたまま、後ろ向きに廊下に出て、そのまま玄関から外へ出て行った。
「ふぅ・・・・」
 息を吐くとこたん。
「宝玉、取られちゃったね・・・・」
 泣きそうな顔で俯くゆかりんの肩に手を置いて、とこたんが言った。
「あれは偽物よ」
「えぇっ?」
「魔法で作ったの。本物は出雲さんが持ってるわ」
「良かったぁ〜」
 ホッと緊張を緩めるゆかりん。
「でも、凄い演技だったよ。さすが透子、人を騙すのが上手だね」
「・・・・また嬉しくない誉められ方をしちゃったな」
「ん?」
「それよりゆかり、いつまで先生に抱き付いてるわけ?」
「え、あっ」
 とこたんに指摘され、ずっと抱きしめたままだった露里の体から離れるゆかりん。耳が真っ赤になっていた。

 外に出た魅瑠は、辺りを見回した。
「先生、どこに行ったんだろう・・・・先生、先生」
 夜空に向かって何度か叫んでみたが。カラスが飛んで来る様子はなかった。
「先に帰ったのかな。せっかく喜んで貰えると思ったのに」
 改めて宝玉を見つめる魅瑠。
(これできっと喜んで貰える。やっと、やっと手に入った)
「姉さん?」
 いきなり声を掛けられて声がした方を向くと、そこには萌瑠を抱いた芽瑠が立っていた。
「芽瑠、どうしてここに?」
「姉さん、それ・・・・」
 芽瑠は魅瑠の持っている金色の玉が宝玉であることはすぐに分かった。
 芽瑠は自分たちの正体を明かした後、とこたんが「何とかして宝玉を持ち出してくる」と言って姫宮家に戻ったのをここで待っていたのだった。「出来るだけ急いで、姉さんが来る前に」と注意したのだが、遅かったようだ。魅瑠が姫宮家を探し当てるのが、芽瑠の予想よりも早かった。
「芽瑠、心配して来てくれたのかい? ほら、宝玉。手に入れてきたよ」
「・・・・奪って来たの?」
「ちょっと脅したら差し出したよ。何だ、萌瑠も一緒か」
 魅瑠は芽瑠に背負われた萌瑠の顔を覗き込んだ。
「ええ、萌瑠も来るって聞かなくて・・・・でも、寝ちゃったみたい」
 魅瑠にここで透子と会っていたことは言わない方がいいと思い、芽瑠は誤魔化した。
 また後で連絡をしておかなければ、と芽瑠は思った。宝玉を取ってきて、と言われて戻ってみれば姉が既に強奪に来ていた、という状況を、透子はどう思うだろう? 芽瑠が透子を呼び出しておいて、その隙に魅瑠が姫宮家を襲う・・・・そんな計画だったと思われても仕方ないようなタイミングだった。
「芽瑠、この辺りでカラスを見なかった?」
「カラス? いいえ、カラスってこんな夜に飛ぶものなの?」
「それはただのカラスではないからよ」
「どういうこと?」
「詳しくは帰ってから。そのカラス、私たちの家に帰ってるかもしれないわ」
「・・・・?」
 芽瑠は訳が分からないまま、宝玉が手に入ったからだろうか、スキップをしそうなほど上機嫌な魅瑠の後について行った。

 20th Love へ続く



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