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タイトル


 17th Love 「思惑渦巻く鍋パーティー」


 透子の心配した「マジカルアイテムの承認」は許諾され、出雲家の屋根は魔法で修復された。「魔法の肩叩き」が、この出雲家が壊れた状態だと宝玉を守ることが出来ないと判断したからだろうと透子は推測した。ゆかりや透子の仕事が、宝玉を探すことから守ることに変更されたからだろう。後は宝玉をどう扱うかだ。
「何事も、アニメみたいにはいかないよね」
 あれから出雲家の周りには人が集まってきて、大騒動となった。屋根に穴を開けたのだ、その音が周囲に聞こえるのは当然だ。やっかいなことになる前に、ゆかり、透子、巳弥は出雲家を魔法で修理してすぐに姿を晦ました。野次馬たちも無傷な出雲家を見て、いずれ何事もなかったと帰って行くだろう。
「アニメだったらさ、街中で暴れてもニュースとかにならないでしょう? 何故かその時は回りに通行人もいないしさ」
 先ほどから喋っているのは透子だけだった。ゆかりと巳弥はうつむき加減で無言で歩いている。
「宝玉はチェックが持って帰ってくれているはずだから、早く帰ろうか」
 ゆかりは巳弥を家に泊めると言った。透子は賛成しかね、
「ゆかりの家に泊めるなら、出雲さんにあたしたちの正体を教えないといけないよ」と巳弥に聞こえないようにゆかりの耳の傍で囁いた。
「今日、お父さんお友達と旅行に行ってて、いないの。だから家でもずっとこの格好でいられるよ」というのがゆかりの返答だった。
(そんなその場しのぎが、ずっと通用するはずないのに)
 だが透子は、ゆかりの気持ちも分かる。せっかく友達が出来たのに、ゆかりが実は27歳だと言えば、巳弥はどう思うだろうか。騙されたと思うだろうか、それでもいいと言ってくれるのだろうか。
 ゆかりと透子は、巳弥が付いて来ていないことに気付いて、立ち止まった。
「巳弥ちゃん?」
「・・・・やっぱり行けないよ」
「えっ?」
「迷惑だし・・・・」
「そんなことないよ! だって、今日はお父さんいないし、気を使わなくてもいいんだよ」
 ゆかりが巳弥に駆け寄って、手を握る。だが巳弥は俯いたまま首を振った。巳弥の「行けない」と言った理由は別にあった。
(これ以上、ゆかりんと仲良くなっちゃ駄目。迷惑がかかるもの)
 ゆかりは巳弥の手を引くが、立ち止まったまま動かない。
「巳弥ちゃん、巳弥ちゃんてば」
 腕を引くゆかりと意地でも動かない巳弥。そんな2人のやり取りを見かねて、透子が言った。
「来たくないって言うんだから、いいじゃない」
「そんな、冷たいよ透子」
「・・・・」
(冷たい? その子が拒んでるんだから、したいようにさせればいいのに)
 内心腹を立てた透子だったが、チェックが持って帰っているであろう宝玉が気になるので、早くゆかりの家に行きたかった。水無池姉妹がゆかりの家を知っているかどうかは不明だが、もし知っていたなら宝玉を奪いに現れるだろう。
「巳弥ちゃん、巳弥ちゃん」
「行けないよ・・・・」
 このままだと動きそうにない2人を見かねて、透子は口調を荒くして巳弥の腕を掴んだ。
「ゆかりがいいって言ってるんだから、来ればいいじゃない! それともあなたがダークサイドだから迷惑がかかるっていうの!?」
「透子!」
「ゆかりだって本当は不安なんだよ、だからあなたに『違うよ』って言って欲しいの、証明して欲しいの! なのにそんな態度だったら、余計不安になるじゃない! あいつらの仲間じゃないって言うなら、ゆかりの家に来なさいよ!」
「透子、そんな言い方しなくても・・・・」
「・・・・分かったわ」
 巳弥の踏ん張っていた脚から力が抜ける。
「ゆかりん家へ行くから」
「それじゃ、晩御飯のお買い物して帰ろうよ!」
 ゆかりの顔がパッと明るくなった。透子も巳弥の腕を引っ張っていた手を離す。
(スーツじゃ、ない)
 透子はドサクサに紛れて巳弥の腕を掴み、水無池姉妹のようにカメレオンスーツを着ているかどうかを調べていた。巳弥の手は普通の肌触りで、透子の心配は1つ解消された。だがそれでも「巳弥はダークサイド(イニシエート)ではない」と断定できたわけではない、と透子は思う。それに、あの玉が本物の宝玉「無の玉」だとすれば、何故巳弥が持っていたのだろう。巳弥に聞けば分かることなのだろうか。透子もゆかりの家に行き、その辺りを聞き出そうと思った。

「あれ、まだ戻ってないのかな?」
 ゆかり、透子、巳弥が姫宮家に到着した時、まだチェックもミズタマも家に戻ってはいなかった。トゥラビアから帰ったチェックがこっそり出雲家に侵入し、相手方に気付かれないようにとこたんに近付き、宝玉を受け取って持ち出した。あれからゆかりんが泣いたり巳弥に事情を説明したりしていたので、とっくにチェックは姫宮家に帰っているはずである。ミズタマも一緒にいたはずだ。
(何か起こったのかな)
 不安になる透子をよそに、ゆかりは夕飯用に買ってきた食材をスーパーの袋から出してテーブルの上に並べていた。時々、鼻歌も混じる。
「藤堂院さん」
 巳弥がそっと近付いてきた。
「あの、宝玉は・・・・」
「先にここに届いてるはずだったんだけど、まだみたいなのよ。何かあったのかも」
「何かって・・・・」
「敵がこの家を知っていたとすれば、ここに持ち帰るのは容易に推測できるはず。チェックたちから宝玉を奪うのは難しくないわ」
 透子はチェックに任せたのを後悔した。チェックが悪いのではない、戦闘能力に期待できないウサギに託した自分が悪いのだ、と。
(出雲さんはアレをお父さんの形見だって言ってるし、行方が気になるのも分かるわ。でもこの子があいつらの仲間で、宝玉が目当てでここに来たということも考えられる)
 本当に巳弥の父親の形見だとすれば、あれは宝玉ではない可能性がある。もしくは巳弥の父親が宝玉を作った人物か・・・・。
(まさか?)
 その可能性を今まで透子は考えたことがなかった。それなら、本物の「無の玉」であることと、巳弥の父親の形見であることが同時に成り立つ。
(だいたい、宝玉って何なのよ)
「そうだゆかり、マジカルレシーバー貸して。あたしの壊れちゃったから」
「うん、いいよ」
 ぽわん、とゆかりの手に現れるレシーバー。透子はそれを受け取り、チェックに連絡を取ろうと短縮ボタンを押した。
「もしもし、エリックだじょ」
「ミズタマ君? あれ、リチャードに掛けたつもりだったんだけど」
「リチャードは宝玉を抱えているので手が離せないじょ」
「てことは、宝玉は無事なのね?」
「詳しくは帰ってから話すじょ。もうすぐそっちに着くからな」
 透子は胸を撫で下ろし、通信を切った。

 夏に鍋はないんじゃない? と思った透子だったが、では夕飯は何にするかと聞かれても、ゆかりも透子もあまり料理は得意ではない。食材を切って炊けばOKの鍋が、大勢で一緒に食べられて手間がかからないという理由で今日の献立に採用された。
「美味しいね」
 実際にはクーラーを付けているため、それほど暑苦しくはなかった。岩之助がいない今日は、ミズタマも一緒に鍋を囲める初めての夜だった。
「で、あなたたちは今まで何をしていたの?」
 透子はとっくに家に戻っていると思っていた2匹のウサギが遅くなった理由を聞いた。
「それがな、俺にもよく分からないんだ」
 チェックが首を傾げながら言った。
「チェックの奴、我輩を置いてサッサと宝玉を持って走っていってしまったんだじょ」
「それが、覚えていないんだ。気が付けば俺は、宝玉の横で倒れていた。頭にコブが出来ていたので、転んだんだろうと思うが・・・・」
「頭を打って、記憶が飛んだってこと?」
「分からない。とにかくこっちの世界に戻ってきた所からの記憶がないんだ」
「我輩が倒れているリチャードを見つけてなかったら、宝玉を誰かに取られているところだったじょ」
「本当ね、宝玉だと知らなくても綺麗だから持って帰っちゃうかもね」
 ゆかりが宝玉を撫でながら言った。
「ま、とにかく無事だからいいじゃない」
「しかし、どうして覚えていないんだろう・・・・」
 1人悩むチェックをよそに、鍋は再開された。
「後で雑炊しようよ、美味しいから」
 楽しそうに食事するゆかりに、透子が釘を刺す。
「ゆかり、のんびり食べてる暇はないよ」
「どうして?」
「早く宝玉をどうするか決めないと」
「食べてからでいいじゃないの」
「あのね、凄いシロモノがここにあるの。相手もこっちの手にあるってことは分かってる。のんびり食事してたら、今にもあの三姉妹がここに宝玉を奪いに来るかもしれないのよ?」
「あ、それは困る」
「でしょ?」
「3人も増えたら、鍋の材料が足りないよ」
「鍋を一緒に食べてどうするの!?」
「・・・・その方が楽しいよ」
 透子はため息をついた。
「仲良くすればいいじゃない。どうして奪い合うの?」
「ゆかりがそう思っても、相手がそう思ってくれないのよ」
「ん〜」
「ごめんなさい、ゆかりん、おトイレどこかな」
 そう言って巳弥が席を立ったのを見計らって、巳弥の足音が完全に遠ざかってから透子は提案した。
「あたしは宝玉を壊すべきだと思う」
「それは困る!」
「困るじょ!」
 ミズタマとチェックがそれぞれ箸を飛ばしながら抗議する。
「約束が違うじょ!」
「元々の契約内容が間違ってるんだから、不履行でしょ」
「透子は宝玉の持つ力を軽んじてるじょ!」
「重く見てるから壊そうって言ってるの!」
 透子はバン、とテーブルを叩きそうな勢いだった。
「あんなのがあるから争うんでしょ? ただの玉だったら奪い合ったりなんかしないもの。あれがなかったら平和になるんだよ」
「しかし我輩たちにはあの玉を持って帰るという義務があるじょ!」
「そうだぞ、勝手なことは困る!」
 反論するミズタマとチェック。
(ま、反対するに決ってるけどね)
 透子はそんなウサギたちの抗議に耳を貸さず、ゆかりに聞いた。
「ゆかりはどうなの? あれさえなかったら、戦わなくていいんだよ」
「でも、あれは巳弥ちゃんのパパの形見だから、壊しちゃ駄目だよ」
「じゃ、ミズタマ君たちは? その形見を持って帰っちゃおうとしてるんだよ? 出雲さんから玉を取り上げようとしているのは、ミズタマ君たちも一緒だよ」
「そうかぁ・・・・」
「お、おい、ゆかりん。それはきっと間違いだじょ」
「そうだ、宝玉が誰かの形見だなんてこと、あるはずがない」
「そうでもないわよ」
 透子は「宝玉は巳弥の父親が作った説」を説いてみせた。
「そ、それは、否定できる理由はないが・・・・確かに宝玉は誰が作ったんだと聞かれると答えられないからな」
 口論する透子とウサギたちを他所に、ゆかりは考える。
(ゆかりは、もう戦いなんてしたくない。でも、友達を守りたい)
(戦わずにみんなが楽しくなれる方法が、きっとあるはずだよ。ゆかりはそれを探したい。争いの原因はやっぱりあの宝玉。あれがある限り、争いは続いてしまう。やっぱり透子の言う通り、壊しちゃうしかないのかな。でもあれは巳弥ちゃんの大切なもの)
 意見を戦わせていた透子とウサギたちは、巳弥が戻ってきたので口論をやめた。
「何の話?」と巳弥に聞かれて、ゆかりは何とか誤魔化そうと「白菜の美味しい頃合についての議論」と答えた。
(そんなことで言い争うか!)
 透子、ミズタマ、チェックは心の中で激しく抗議したが、巳弥は「透明になるまでよく煮ると美味しいよね」と自分の意見を述べていた。
 「無の玉」をトゥラビアに持ち帰ろうとするミズタマとチェック。
 壊して誰の手にも渡らなくするべきだと主張する透子。
 父親の形見だから持って帰りたいと思う巳弥。
 そして迷うゆかり。
 宝玉をめぐる争いがこの鍋を囲んだ小さな食卓にも起こっていた。

 台所からズルズルとインスタントラーメンをすする音が合唱で聞こえてくる。魅瑠と萌瑠が夕食を取っている音であった。
「お前も食べてこいよ、芽瑠」
 ベッドにうつ伏せになり、芽瑠に包帯を取り替えて貰っている迅雷。痛みはかなり和らいだが、身じろぎをすると背中に痛みが走る。
「私はいいの、食欲ないし」
「何かあったのか? 元気がないな」
「ねぇ迅雷君、キミの通ってきたゲート、まだ使えるかな」
「あん? そりゃ使えるさ、でないと俺が帰れない」
「どこにあるの? 人目につく場所だと駄目でしょう?」
 イニシエートとこの世界を繋ぐゲートは、それを発生させる機械はあるものの、見た目は「門」や「ドア」ではなく、ただ空気の渦のようなものだ。それを知らない人が見て「何だろう」と近付くと引きずり込まれ、イニシエートへと運ばれてしまうだろう。
「山の中にある。遭難した奴ならあるいは見付けられるかもしれねぇっていう場所だ。まず見付かりっこないな・・・・帰りたいのか?」
「迅雷君、先生に何て言われてこっちに来たの?」
「そりゃあ・・・・宝玉『無の玉』を持って帰って来てくれって言われて来たんだ。あとはお前らの安否の確認だな」
「先生は宝玉の力を知っているのかしら?」
「知らないから研究したいんだろう、そう言ってたぜ。超常的なパワーの研究は紅嵐先生の得意分野だからな」
「でもその研究は宝玉を3つ揃えないと完成しないんじゃないの? 力が発現するのは三宝玉が揃った時なんでしょう? でもそれは無理よね、『陰』と『無』が揃っても『陽』がトゥラビアにあるんだから」
「どうして無理なんだ?」
「え、だってトゥラビアの人が宝玉を貸してくれるなんて、有り得ないでしょ」
「まぁ借りるのは無理かもな、だが・・・・」
「え?」
「あ、いや」
(あるいは奪うことは可能だ。先生は既にトゥラビアへのゲートも完成させている。それを使えば・・・・いや、先生がそんなことをするはずがないな)
 迅雷も紅嵐を素晴らしい学者として信頼している。いずれは紅嵐のような人になりたいと思っていた。
(でも俺、頭悪いからな)
「芽瑠、先生に会いたいのか?」
「うん・・・・私達、先生のために宝玉を捜してた。でも先生にそう言われたわけじゃない。本当に宝玉が必要なのか、何のために必要なのか、先生の真意を聞きたいのよ」
(この世界に来てから、姉さんの頭の中で紅嵐先生の存在は段々と理想化されてきていると思う。でも私は姉さんと違って客観的に先生を見ることができるから、こう思う・・・・先生の目的は本当に研究の為だけなのか、って。ひょっとしたら、宝玉は先生の手に渡してはいけないんじゃないかって・・・・)
「芽瑠」
 夕食を終えた魅瑠が部屋に戻ってきた。
「ちょっと行って来るからね」
「え、姉さん、どこへ?」
「決まってる。あいつらの所さ。あいつら、絶対に宝玉を持っている。早くしないとウサギにトゥラビアへ持って帰られてしまうからね」
「でも・・・・」
「芽瑠は迅雷を診ててやりな。萌瑠も留守番」
「え、魅瑠お姉ちゃん、1人で行くの?」
 宝玉を頂きに行く、と行った魅瑠にすっかり付いて行く気になっていた萌瑠だった。
「萌瑠はいても邪魔になるからね」
「え〜、酷いよ〜、もるが宝玉を持って帰れなかったから、そんなこと言うの?」
 たちまち涙ぐむ萌瑠の前にしゃがみ込んで、魅瑠は末っ子の頭を撫でた。
「絶対に宝玉を奪ってくるから。萌瑠、迅雷みたいに痛い目に逢いたくないだろ?」
「・・・・うん、でももるはあんな攻撃に当たるほどのろまじゃないよ。もるだって、本気になったらゆかりんなんて怖くないんだから」
「悪かったな、のろまで」
 話を聞いていた迅雷がボソっと呟いた。
「姉さん、私も行きます。迅雷は萌瑠に任せていいかしら?」
「え〜、じんらいと2人っきり? 乙女の危機」
「なんでだっ!? いてててっ」
「ほら迅雷君、じっとしてなきゃ」
 立ち上がろうとした迅雷をなだめる芽瑠を見て、そのまま部屋を出て行こうとする魅瑠。
「待って、姉さん」
「1人で行くって言っただろう」
「でも、姉さん1人じゃ無理よ!」
「馬鹿にするんじゃないよ。この姿じゃなければあいつらになんか負けるもんか」
「違うのよ、そんなことじゃなくて」
「私を信用しろ、芽瑠」
「姉さん、ゆかりんの家、どこにあるか知ってるの?」
「・・・・」
 立ちすくむ魅瑠。
「芽瑠は知ってるのかい?」
「いいえ、残念ながら」
「くそっ!」
 魅瑠は壁を叩いた。このままでは「無の玉」はトゥラビアの手に渡ってしまう。紅嵐先生に喜んで貰えなくなる。魅瑠は悔しかった。
「誰でもいい、知っている奴はいないのか!? そうだ、あの巳弥って子は? あの子なら知っているかもしれない」
「あんなことがあって、家にいるかしら?」
「何でもいい、手掛かりがあるかもしれない。じっとしていられないよ」
「あっ、姉さん、待って!」
 芽瑠の制止を振り切り部屋を出て行く魅瑠。あっという間にすっかり暗くなった夜の闇へと消えて行った。
「姉さん・・・・」
(いけない、このままでは。姉さんは先生のためなら何をするか分からないわ。この間だって、ゆかりんの担任の先生の命を奪うところだった。今の状況はあの時より切迫しているわ。目的の宝玉が見付かり、それが今は第三者の手の内にある。姉さん、本気を出すかもしれない。そうなったら・・・・)
(迅雷君程度の怪我ではすまないわ。誰が傷付くにしても)
 魅瑠は手掛かりを探しに、おそらく無人の出雲家へ向かった。芽瑠は巳弥もゆかりの家にいると考えている。そして、透子も。
(藤堂院さんに何とか連絡は取れないかしら)
 宝玉を巡る争いを回避しようという意見が一致した透子と芽瑠。平和的解決を願ってのことだったのだが、芽瑠は姉の魅瑠が紅嵐先生を想う気持ちを裏切れず、宝玉を力ずくで奪うことに荷担してしまった。双方が争うことなく済ますには、宝玉の存在を消すしかない、芽瑠はそう考えていた。それはつまり、魅瑠を裏切ることになる。
 芽瑠は出雲家で見た、とこたんの自分を見る淋しそうな眼差しが忘れられなかった。
(姉さんより早く、藤堂院さんたちと接触しよう)
 宝玉を紅嵐の元へ持ち帰るという魅瑠を裏切ることになるが、もう誰も争って欲しくないと願う芽瑠だった。
「萌瑠、迅雷君をお願い!」
 玄関先から妹に声を掛け、芽瑠も闇の中へ身を躍らせた。

 18th Love へ続く



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