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タイトル


 15th Love 「覚醒の力! 迅雷vsとこたん」


「ふわぁ、眠いじょ・・・・」
 スズメの鳴く声で、ミズタマは目を覚ました。
「なんで我輩がこんな所で夜更かししなきゃならないんだじょ・・・・」
 ミズタマは不平を漏らしつつ、出雲家の裏庭にある物置から這い出した。朝の日差しが眩しかった。
「おはよう、ミズタマ君」
 そんなミズタマの背後、垣根の上から顔を覗かせたのは大人の透子だった。
「よく眠れた?」
「さんざん蚊にご馳走して差し上げたじょ」
「いいことをしたのね」
「他人事か!」
 ゆかりんにもしものことがあってはいけないということで、透子とミズタマは夜通し出雲家を見張ることにした。そこまでは良かったが「2人いることだし、交代で見張ろうよ」と透子が言ったのだが、女の子を夜中に1人で放っておけないとミズタマは透子に付いて一緒に見張っていた。夜中に「じゃ交代ね」と言って透子は家で寝ると言って帰っていった。結局、ミズタマはずっとここにいたことになる。
「透子はよく眠れたか」
「う〜ん、8時間しか寝てないから、ちょっと寝不足かな。いつもは9時間睡眠だから」
「良かったな・・・・」
 最初から透子の計算通りだったのかもしれない、とミズタマは思った。
「あっ」
 垣根の上に顔を出していた透子は、慌てて姿勢を低くした。ゆかりと巳弥が玄関から出てきたのだ。
「・・・・学校に行くみたいね」
「宝玉を置いてか?」
「・・・・きっとゆかりは学校が楽しいのよ。宝玉を守る責任以上に」
「困るじょ。まぁそれがゆかりんなのかもしれないが・・・・」
「そういうこと。さてミズタマ君、あの子たちが出かけた後があたしたちの出番よ」
「あぁ」
 ゆかりと巳弥が学校に行ったのを見計らい、出雲家に侵入して宝玉を頂くのが透子とミズタマの計画であった。
「ミズタマ君、もう一度確認。宝玉を持ち出して、その後はどうするの?」
「もちろん、我輩たちの世界に持って帰るじょ」
「もう、昨夜の話と違うでしょ! あたしはあなたたちの世界の偉い人も信用してないの。凄い力を持つ宝玉を何に使うか分かったものじゃないわ」
「しかし、それが我輩たちの任務であり、透子たちの任務でもあるんだじょ!」
「あたしたちは『悪者に宝玉を奪われないために』魔法少女になったのよ。あなたたちの国の偉い人が悪者じゃないって証拠があれば渡してもいいけど」
「透子、本当に疑り深いじょ」
「ああっ!」
「ど、どうしたじょ!?」
「ミズタマ君・・・・あたし、大変なミスを犯してしまったわ」
「な、何だ?」
「お昼の連続ドラマ、録画予約してこなかったの!」
「・・・・それで?」
「それでって・・・・予約セットしに戻っていい?」
「・・・・なるべく早くな」
(ゆかりんといい透子といい、本当にこんな娘たちで大丈夫なのか?)
 ミズタマは肩をすくめ、とことこと走ってゆく透子の後姿を見送った。
(・・・・まぁ今更だがな)

 学校に近付くにつれ、登校する生徒の数が増えてゆく。中学校と小学校が隣り合って建っているため、生徒の数はかなりのものだった。そんな中をゆかりと巳弥が登校してゆく。
「巳弥ちゃんのお味噌汁、ほんとに美味しかったよ!」
「そうかな」
「うん、今度ゆかりにも教えてよ。ほんとに偉いなぁ、巳弥ちゃん。料理も、洗い物も、掃除も1人でしてるんだもんね。ゆかり、すぐ目覚まし止めちゃうから、1人だときっと毎日遅刻だよ。もっとしっかりしなきゃ、大人なのに」
「えっ?」
「えっ? あ、その、中学生になって、大人になった気でいたけど、やっぱりまだまだ子供なんだなぁ・・・・あはは」
(危ない、危ない)
「・・・・久し振り、だな」
「え、なに? 巳弥ちゃん」
「誰かと一緒に学校に行くの」
 巳弥は恥ずかしそうに下を向いたまま小さな声で言った。
「これからも一緒に学校行こうよ!」
「でも、方角が違うから」
「無理してでも迎えに行くよ」
「・・・・ありがとう」
(そう言ってくれるだけで、嬉しい)
 楽しそうに鞄を揺らしているゆかりの後姿を見ながら、巳弥は思った。
(でも、これ以上は・・・・)
(これ以上、仲良くなっちゃいけない)
 隣を歩いていたゆかりの足が止まったので、巳弥も歩みを止めた。前には水無池魅瑠、芽瑠が立っていた。
「・・・・」
 しばし無言で睨み合うゆかりと魅瑠。
「おかげさまで、まだ全身が痛いよ」
 最初に口を開いたのは魅瑠だった。
「・・・・」
「さっき、あんたの先生とすれ違ったよ。元気そうじゃないか、かなりの怪我だと思っていたけど」
「魔法で治したから」
「へぇ、便利だね。私は2日、寝たきりだったというのに」
 射るような眼でゆかりを睨む魅瑠に、ゆかりはたじろいだ。
「今度、誰かを傷付けたら許さないから」
 ゆかりも負けじと睨み返すが、迫力はなかった。
「宝玉を見付けたら私たちに渡しな。そうしたら誰にも手出しはしないよ」
「わ、渡さないよ。何か良くないことに使うに決ってるもん。あれは絶対に渡さないんだから!」
 始業のチャイムが廊下に鳴り響き、ゆかりは姉妹の横をすり抜け、巳弥と一緒に自分の教室に向かった。
「・・・・姉さん」
「何だい、芽瑠」
「姫宮ゆかりから目を離さないで。私も注意するから」
 芽瑠は眼鏡の位置を治し、ゆかりと巳弥の背中を見送った。
「知っているわ、彼女。宝玉の在りかを」
(そうでなければ、行方の知れない宝玉に対して「あれ」なんて代名詞を使ったりしないもの)

「な、ゆかりん」
 1時間目が終わった後のに休み時間、タカシが低い姿勢で話し掛けてきた。
「どしたの?」
「えっと、その・・・・今日は、藤堂院さんは・・・・」
「はぁ? タカシ君、透子のことを『藤堂院さん』なんて呼んだこと、あったっけ?」
「う、うるさいな、どうでもいいじゃんか。それより・・・・」
「透子なら・・・・」
(あれ、そういえば今日は見てないや。毎朝逢うんだけど、今日はゆかり、方向が違ったからな)
「そう言えば会ってないよ。休みかも」
「そうか・・・・」
「何か用だったの?」
「いや、いいんだ。病気かな?」
「さぁ、分からない」
「そうか。先生なら知っているかな」
 自分の机に戻ってゆくタカシを見て首を傾げるゆかりに、今度はこなみが話し掛けてきた。
「透子さん、お休みなの?」
「みたい。サボリかもね」
「・・・・ずるいよね透子さん」
「こなみちゃんまでどうしたの? 『透子さん』だなんて」
「本当は大人なのに。タカシ君、そのことを知らないのに」
「どうしてそんなこと言うの?」
「私の気持ち、知ってるんでしょ? ずるいよ魔法で子供になって、タカシ君のこと騙して・・・・」
「こなみちゃん!」
 ゆかりの声にハッと顔を上げるこなみ。
「・・・・ごめんね」
 そのままクルリと踵を返し、こなみは教室を出て行った。
(こなみちゃん・・・・タカシ君のこと?)
(それにしても、ほんとに透子ったら、ゆかりたちが何のために学校に来てると思ってるの? それもこれも、宝玉を見つけるためじゃない。それなのに勝手に休むだなんて・・・・あれ、宝玉? 宝玉は巳弥ちゃん家・・・・ゆかり、宝玉を守るために巳弥ちゃん家に泊まって・・・・学校に通うのは宝玉を見つけるため。今日ゆかりが学校に来てるのは何故?)
 出雲巳弥を守らなくてはならないという思いがあった。だが宝玉は巳弥の家にある、敵が狙うとすれば宝玉の方で、巳弥自身ではないだろう。ではゆかりは何を守るべきなのか? もちろん、宝玉だろう。だがおそらくゆかりが守りたいものは宝玉そのものではなく、巳弥であり、今の生活であった。
(そうだ、透子は? 風邪とかなら仕方ないけど、サボリなら巳弥ちゃん家に行って貰おうっと)
 ゆかりはマジカルレシーバーを取り出した。

「おまたせ、ミズタマ君」
「ああ・・・・」
 待つこと1時間半、用事を終えた透子が出雲家の玄関で待っている水玉の前に姿を現した。待っている間、ミズタマは出雲家に訪ねて来るセールスなどから身を隠す為に庭の木の陰に隠れていた。
「何だか気が引けるな」
「留守宅に侵入することがか?」
「ううん、ゆかりに内緒で宝玉を持ち出すこと。やっぱりゆかりに相談してからじゃ駄目?」
「ゆかりんなら『巳弥ちゃんのお父さんの形見を取り上げるなんて出来ないよ!』とか言って反対する可能性があるじょ。我輩は一刻も早く宝玉を手に入れたくて、透子を待っている間もウズウズしていたんだじょ!」
「はいはい、分かったから」
 透子は手に「魔法の肩叩き」を出現させると、変身呪文を唱えた。
「明日はきっといい日だよ! 夢見る乙女は一攫千金! 魔法のエンジェルぽよぽよとこたん、スポットライトに微笑返し! はぁとのチャイム、押しちゃうよ」
 ドレスに身を包んだとこたんが現れた。
「わざわざ変身したのか?」
「何となく。たまには変身しないと、魔女っ娘ぽくないし。きらきらスマイル、ニッコリ八重歯! 純情可憐ではぁとをキャッチ! うぇるかむ、出雲家の玄関の鍵!」
 とこたんは魔法で作った鍵で堂々と出雲家に侵入した。
 その頃、迅雷は玄関からとこたんとミズタマが入って来たことなど気付かずに、宝玉の置かれた仏壇の前で手(前脚)に気を送っていた。
(もう少し・・・・だ)
 ピリリ、と電気が走る。
(よし、力が戻ってきたぞ。ここまで来れば復活はすぐだ。そろそろこの体から抜け出してもいいな)
 迅雷は後ろ足2本でスックと立ち上がった。
「あ」
「え?」
 とこたんと迅雷の目が合った。
(誰だ、こいつは? どうしてここにいる?)
(どうして犬が2本足で立ってるの?)
 2人の頭に疑問が飛び交う。
「どうした、とこたん。うおっ」
 後から来たミズタマも犬を見て驚いた。
「い、犬が立ってるじょ!」
「お前も立ってるじゃないか、ウサギ!」
「しゃ、喋ったじょ!」
「だからてめぇも喋ってるじゃねぇか! 自分のこと棚に上げやがって・・・・お前、まさかトゥラビアの者か?」
「そういうお前はまさか、ダークサイド・・・・」
「えっ、ダークサイド? この仔犬が?」
 しげしげと仔犬を見るとこたんの視線に気付き、何となく迅雷は2本足で立っているために丸見えになっている股間を手で押さえた。
「あれは・・・・」
 ミズタマが仏壇の金色の玉に気付き、とこたんのドレスの裾を引っ張った。
「あれが宝玉ね。ということは、キミもアレを狙ってるのね」
「やはり貴様らも宝玉狙いか!」
(渡してたまるか!)
 迅雷は両前脚に思い切り気を込めた。バチバチと電気がスパークする。
「やる気!?」
「気を付けろ、とこたん!」
「もちろんよ、痛いのは嫌だから!」
 そう言いつつ、とこたんは迅雷の手から放たれた最初の一撃を横転してかわした。その拍子にマジカルレシーバーがポケットから転がり出てしまう。
「くらえ!」
 とこたんは迅雷の二撃目も回避したが、その電撃はマジカルレシーバーを直撃した。
「うわわ、レシーバーが!」
 情けない声で叫ぶミズタマ。よほど高価なものなのだろうか。
「調子いいぜ、感覚が戻ってきた。本来の力を出せそうだぜ!」
 迅雷は机の上に飛び上がり、両手を高く掲げた。
「とこたん、早く宝玉を! あの犬は我輩に任せるじょ!」
「でもあいつ、結構強そうだよ」
「これでもトゥラビアでは・・・・」
 ミズタマは言いかけたセリフを飲み込んだ。犬の体から霧のようなものが出てきたからだ。それは迅雷の魂だった。
「こんなちっぽけな体、窮屈だぜ」
 それは犬の口からではなく、霧状の物体から部屋一帯に響くように聞こえてくる。とこたんは肩叩きを弓状に変形させ、光の矢をつがえた。
「ラブリーエンジェル、ライトニングアロー!」
 だが光の矢は霧状の物を突き抜け、部屋の壁に突き刺さるように消えた。
(やはり突き抜けた・・・・ということは、あの霧が実体化した時が勝負ね)
 再び矢をつがえ、霧が一番濃くなっている狙いを定める。実は狙いをつけると言っても、弓道の経験など欠片も無いとこたんなので、格好だけは決っているが放った後の矢の軌道は魔法でコントロールする。故にほとんどが命中するはずである。
 徐々に霧が形を成してゆく。とこたんはどんな怪物が出るのかを想像し、鼓動が早くなった。
(来る!)
 瞬間、とこたんの体を脳天からつま先まで衝撃が突き抜けた。そのショックで倒れ込むとこたん。つがえていた光の矢も消失した。
(一体、何が!? あいつは電撃を放つ仕草をしなかった)
 ビリビリとした感触が体中を覆っていた。
「とこたん、大丈夫か!?」
 ミズタマが駆け寄る。とこたんはゆっくりと体を起こした。
「ちぇ、弱っちい電撃だぜ・・・・本来の俺様の力なら丸焼けかショック死ってとこだな」
 そこには1匹の動物が4つ足で立っていた。大きさは中型犬ほどで、色は薄茶色。鼻先は尖っており、スリムな体型をしている。
「イタチ・・・・?」
「下等動物と一緒にするな。俺は『雷獣』だ」
「らいじゅう?」
 とこたんの聞いたことの無い名前だった。
 雷獣とは日本の妖怪で、雷鳴の轟く夜によく目撃されたことからその名前が付いたと言われている。
「でもまぁ、この程度の力でもお前をやっつけるのには充分だな」
 余裕を見せる迅雷に向けて、とこたんは肩叩きを向けた。そして魔法を放出する。だがそれは迅雷のはるか頭上、天上の辺りに向かって飛んでいった。
「どこを狙っている? 俺の電撃で手元がままならないようだな!」
 そのセリフを言い終えない内に、迅雷の体に網が被さった。瞬く間にその網は迅雷の体をスッポリと包み、縛り上げる。
「何だと!? さっきのはこれが狙いだったのか! 嘗めるな!」
 迅雷は体中から電撃を放出したが、その網は破れなかった。
(くそ、電撃は光。光は俺たちの弱点。あまり電気を放出すると、俺の体が危ない)
 イニシエートである迅雷にとって、自分の武器である電気は諸刃の剣であった。
「もう動けないわね。観念しなさい」
「くそガキめ!」
「あらら、口が悪い」
 とこたんは迅雷の動きを警戒しつつ、仏壇に置かれた宝玉に手を伸ばした。
「!!」
 爆音と共に迅雷の乗っていた頑丈そうな木の机が砕け散った。そしてその体を拘束していた網もバラバラに飛び散る。続いて、先ほどの一撃よりも強烈な電撃がとこたんの体を襲った。爆発の際に辛うじてマジカルバリアを張ったとこたんは、その電撃のショックを何割かは軽減できたが、吹き飛ばされ拍子に床の間の柱に背中を打ちつけた。一瞬、息が詰まる。
「んぐっ!」
「とこたん!」
「げほっ、ごほっ」
(まいったわ、こんな戦闘シーン、あたしのキャラじゃないのに)
 爆発の煙の中から出てきたのは、雷獣の姿ではなかった。
「この姿にならなきゃいけないとはな・・・・」
 それは、人間の姿をした迅雷だった。背格好は中〜高校生と言ったところか、鋭く尖った眼がとこたんを見据えていた。体中は黒いタイツのようなもので覆われている。カメレオンスーツだった。
(人間の姿・・・・さっきのイタチと、どっちが本当の姿なの?)
 とこたんは立ち上がろうとしたが、腕にも脚にも力が入らず、ままならない。
(やば〜、このままじゃ・・・・)
「とこたんを殺させはしないじょ!」
 ミズタマが迅雷に向かって飛びついた。だが迅雷は片手でミズタマの耳を掴み、手の平から電撃を放出した。
「ぎゃああ〜!」
「ミズタマ君!」
 ボテ、と畳の上に落ちるミズタマ。
「お前もこうなりたくなければ、俺が宝玉を貰って行くまでそこで大人しくしていろ。俺が直接電気を流せば、本当に死ぬぞ」
「・・・・」
 このまま大人しくしていれば、命は助かる。透子にとって宝玉は、命を賭けるほどの価値はなかった。ないはずだった。
(でも・・・・どうしてかな。黙って取られるのって、腹が立つじゃない?)
 立ち上がろうとするとこたんに迅雷が叫ぶ。
「じっとしてろって言ってるだろ! 俺だって可愛い子ちゃんを虐めたくはないんだよ!」
(くそ〜、実はすっげぇタイプなんだよなぁ、この子。しかし宝玉を手に入れるのが最優先だ)
「もっと違う場所で会いたかったな」
 とこたんの前に、迅雷の手の平が迫った。

 16th Love へ続く



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