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タイトル


 8th Love 「イニシエートから来た少年」


「それじゃ、また明日ね」
 掃除当番が終わって合流したこなみが手を振る。
「またね」
 ゆかりは日曜の巳弥との約束をこなみには言わなかった。巳弥はかなりの人見知りで、こなみも誘おうかとゆかりが提案したところ「姫宮さん1人の方が気を使わなくていい」と言うことだったので、2人だけの約束にしたのだった。
「うん」
 ゆかりとこなみが手を振ったので、おずおずと手を振り返す巳弥。いつもの麦藁帽子をかぶり、長袖の制服、黒いストッキング姿で帰ってゆく彼女の姿は、午後の6時になってもまだまだ明るい夏のシーンの中ではかなり似合わない格好だった。
(結局、出雲さんは何も聞いて来なかったな。あの派手派手なロリメイドっ子を見ていないはずはないんだけど・・・・どうして犬を追いかけていたのか、ってことも聞かれなかったし。う〜ん、聞かれたら上手く答えられないから助かったんだけど、何も聞かれないっていうのも返って気になるなぁ)
 ちなみにその犬は、遅れてきたこなみと一緒にゆかりと巳弥が保健室から出た時に、気が付けば姿が見えなかった。
 マジカルレシーバーが鳴った。
「もしもし」
「ゆかり? どこにいるの? 図書館で待ってるんだよ」
 透子の声だった。
「あ、ごめん、すぐ行くよ」
 レシーバーのスイッチを切ったゆかりは、こなみと別れて図書室へ向かった。レシーバーから聞こえてきた透子の声がいつもの彼女の声だったので、ゆかりは少し安心した。
 一方、透子は芽瑠との話をゆかりに話そうかどうか迷っていた。
(重要な話だから、当然ゆかりにも話すべきなんだけど・・・・まだ完全に相手を信じるのは危険だと思うのよね。でもゆかりは「じゃあ一緒に宝玉を探そうよ」とか言って、すっかりお友達気分になっちゃう気がする。それって、とっても危ないことだわ。こう言っては悪いけど、ゆかりは騙されやすそうだからな)
 散々迷った挙句「時期尚早」と結論付け、はっきりするまで芽瑠との話し合いをゆかりに伝えないようにしようと決心した透子だった。
(あそこまで自分たちの秘密を話してくれたんだから、信用していいとは思うけど・・・・あぁでもやっぱり、あれだって作り話かもしれない)
「透子」
 考えに耽っていると、ゆかりが現れた。
「どこ行ってたの? 部活には出てなかったみたいだけど」
「うん・・・・保健室」
「え、どこか悪いの? ひょっとして、どこか怪我をしたとか?」
「ううん、違うの」
 ゆかりは椅子を引き、透子の正面に座った。
「出雲さん・・・・あれからずっと意識がなくて。放課後になってやっと目が醒めたの」
「・・・・そう」
「透子は出雲さんを疑ってるよね?」
「・・・・正直、信じる要素がない」
「ごめんね、ゆかりは信じたい。あ、ダークサイドだとかそうじゃないとか言うんじゃなくて、悪い子じゃないって信じたいの」
「そりゃあ、イニシ・・・・ダークサイドだからって悪い子とは限らないよ、それは分かる」
(そう、イニシエートだってあの水無池芽瑠はそんなに悪い子には見えなかった。話をしてみて、それはよく分かった)
「透子、言ったよね。『信じた人に裏切られるほど悲しいものはない』って。ゆかりはね、こう思うの。『信じられる人を疑うことほど悲しいものはない』って」
「・・・・」
「ゆかりは、人に疑われるより人を疑う方が辛い。だから、人を信じるのはゆかり自身の為なんだ」
 照れたように俯くゆかりを見て、透子は思った。
(あたしは、ゆかりのようには考えられない。だから、疑うことはあたしが引き受ければいい)
「ねぇ透子、ゆかりは出雲さんは敵じゃないって思ったの。直感でしかないんだけどね。だから、信じたいんだ」
「・・・・あたしは敵だって思った。直感。だからごめん、信じられない」
「うん、いいよ、それでも。透子はきっと、いつか出雲さんのことを分かってくれるって思うから」
「それも直感?」
「うん、直感」
 透子はゆかりの笑顔を見て、羨ましいと思った。
(直感、か。それならあたしは出雲巳弥よりも水無池芽瑠の方が信じられるかも。話をしている時の彼女の目は、嘘をついていない気がしたから)

 その水無池芽瑠はスーパーの買い物袋を下げ、アパートの階段を登っていた。
 このアパート「月光荘」は2階建てで部屋数は10。芽瑠たち三姉妹はここの2階の一室を借りて生活をしている。家賃や生活費は長女の魅瑠が不定期に家計簿係の芽瑠に手渡しているが、その出所は一切不明である。芽瑠はその現金の源をあえて聞かなかった。
 玄関のドアを開け中に入った芽瑠の耳に、末っ子の楽しそうな声が聞こえてきた。
(萌瑠、楽しそうね。姉さんに遊んでもらってるのかな?)
「ただいま」
「あ、芽瑠おね〜ちゃんだ!」
 トタトタと音がして、萌瑠が玄関口に走ってきた。
「も、萌瑠! あなたまたそんな格好をしているの?」
「可愛いよね〜」
 萌瑠は昼間に披露したロリメイドコスチュームを着ていた。
「ねぇねぇ芽瑠おね〜ちゃん、頭のリボンは何色がいいかな?」
「そ、そうね、取りあえず夕食の準備をするから」
 芽瑠は買い物袋をキッチンの椅子に置いた。
「あぁ、帰ったのかい、芽瑠」
「すぐに用意をしますね、姉さ・・・・」
 振り返った芽瑠は、長女の魅瑠の姿を見て絶句した。萌瑠のコスチュームを見た時よりもショックが大きかった。
「ね、姉さん、その格好は・・・・」
「似合う? セクシー?」
 魅瑠は次女と末っ子の前で腰に手を当て、体をくねらせた。
 魅瑠のコスチュームは真っ赤なボンテージのようなレザー地で、腕や脚は黒い生地で覆われているものの、胸の谷間から下腹部まで大きく開いていて、かなり露出の激しい服装だった。
「魅瑠おねーちゃんも、もるみたいにコスプレしたの!」
 萌瑠が呆然としている芽瑠に説明した。何でも、いつも見ているテレビ番組に出てくるコスチュームを真似て作ったらしい。そんな一面が姉にあったことは、芽瑠には意外だった。
「萌瑠、テレビ番組って?」
「んとね、『救命戦隊サイレンジャー』だよ。魅瑠おねーちゃんは、悪の女幹部『セクスィート』の大ファンなの」
「・・・・はぁ・・・・」
「ハッハッハ、今日こそお前たちの最後だ、サイレンジャー!」
 ビシッと指を差され、芽瑠はたじろいだ。
(な、なりきってる〜!)
「さぁサイピンク。覚悟はいいかい」
「誰がサイピンクですかっ」
「私たち2人がこうしてコスプレをしているんだ。1人だけ仲間外れじゃ淋しいだろう」
「いえ、お気遣いなく」
「そこで、芽瑠にもこの私が特別にコスチュームを用意してあげたわ!」
 ベッドの上に置かれていた服を芽瑠の前に突きつける魅瑠。
「いやぁ〜」
「さぁ、脱ぐのよ!」
「あ、あの、私、夕食の用意が!」
 逃げ出そうとした芽瑠の片脚を萌瑠が捕まえた。
「ごはん我慢するから、芽瑠おね〜ちゃんもコスプレしよ!」
「萌瑠、逃がすんじゃないよ!」
 芽瑠のTシャツの裾を掴んだ魅瑠の手が一気に引き上げられ、芽瑠は万歳の格好にされてしまった。そのままスルリと上着を剥ぎ取られる。萌瑠が姉の脚にしがみ付いたままスカートのホックを外し、ファスナーを降ろすとストンと芽瑠のスカートが外れた。
「いやぁ、姉さん、萌瑠、やめてぇ〜!」
「芽瑠、あんたカメレオンスーツの上から下着を履いてるのかい? スーツを着込んでるんだから必要ないじゃないか」
「み、身だしなみです!」
 下着姿にされてしまった芽瑠は、恥ずかしくて真っ赤になった。
「何を恥ずかしがってるんだい。全身スーツ姿のくせに」
「だ、だって、人から見たら肌色なんだから、やっぱり恥ずかしいです!」
「そうかい? 直接見られていないからいいと思うけどね」
「じゃあ姉さんは全身肌色にして外を歩けますか!? 歩けないでしょ!?」
「う〜ん、全身肌色は無理だね」
「でしょう?」
「こことここはピンク色にしないと不自然じゃないか。あ、あそこも」
「いやぁ〜!」
 芽瑠が叫んだその時、彼女の腰の後ろの辺りが膨らんだ。
「芽瑠、尻尾!」
「え、あ、やだっ」
 慌てて手を後ろに回して腰を押さえる芽瑠。
「スキあり! 大人しくしな」
「あ・・・・」
 魅瑠が芽瑠の首に手を回した途端、芽瑠の体から力が抜けた。
「姉・・・・さん、ずるい・・・・」
「大人しくしてな。長女の言うことは聞くもんだよ」
「・・・・う・・・・」
 全身の力が抜けた芽瑠は立っていられなくなり、魅瑠に倒れかかった。魅瑠はそんな芽瑠の体を床に下ろし、自分の用意したコスチュームを萌瑠の手を借りて着せてゆく。芽瑠は顔を紅潮させたまま、抵抗することが出来なかった。
「はい、出来上がり」
 魅瑠が再度首を触ると、芽瑠の体は動くようになった。慌てて胸を両手で隠す。
「こんなに肩が出てるじゃないの〜! 胸だって強調されてるし、このミニスカにガーターストッキングは何ですか〜! 更にこのマントは何? こんな変態な格好、芽瑠は嫌です!」
 芽瑠は今までに履いたことのないような短いスカートが恥ずかしく、床に座り込んでしまった。
「やれやれ、普段の格好が大人しいから少し冒険させてやったのに」
「冒険しすぎです!」
「芽瑠おね〜ちゃん、可愛いよ!」
「そ、そんな・・・・」
「オトコの視線をクギヅケだよ!」
「萌瑠、そんな言葉をいつ覚えたの?」
 芽瑠は「こんなことをしている場合ではない」ことを思い出した。夕食時に、学校での藤堂院透子とのことを姉と妹に話そうと思っていたのだ。
 透子と話したことは、2人には相談せず独断で行ったことだった。芽瑠は透子もゆかりも悪いことを考えているようには見えず、出来れば争うことなく済ませたいと思っていた。姉も妹も当然、同じ考えだと思っている。もし和解が成立すれば、こちらにとってもあちらにとってもいいことだと考えた上で、透子と接触したのだった。
「おうおう、いい眺めじゃないか」
「えっ?」
 しゃがみ込んだ芽瑠の前に、いつどこから入って来たのか、一匹の犬が立っていた。ただ立っているだけでなく、芽瑠のミニスカートの中を覗き込むように姿勢を低くしていた。
「きゃあっ!」
 芽瑠は慌てて脚を閉じた。
「相変わらず純情可憐だね、芽瑠」
 犬が普通に日本語を喋っている。
「あ、昼間のワンちゃんだ」
「何者だい、お前は」
 魅瑠が小さな犬に対して身構える。
「おいおい魅瑠、もう蹴られるのはご免だぜ。お前、全然気付かないで俺のことを2回も蹴りやがって」
「・・・・お前、迅雷(じんらい)か?」
「え、迅雷君?」
 魅瑠がファイティングポーズを解いた。芽瑠と萌瑠も警戒を解く。
「その通り、迅雷様だ」
 犬があぐらをかき、腕組みをした。
「あんたねぇ、そんな格好で分かるわけないでしょ! だいたい雷獣のあんたが、どうして犬に化けたりしてるのさ」
「お前なぁ、この世界に雷獣なんていないだろ? 怪しまれないようにするにはこの格好が一番なんだよ。猫でも良かったんだが、お前らとキャラが被・・・・」
「そんなことより迅雷、何しに来たの? というか、どうやって来たの?」
「慌てるな、順を追って説明してやるから、取りあえずメシにしてくれ」
 ふんぞり返る犬の前に、萌瑠の手の平が差し出された。
「ん?」
「お手っ」
「するかっ!」
 犬は前足で萌瑠の手をペシッと叩いた。

 目の前に出されている、皿に盛られたご飯に味噌汁をかけた食事を見て、犬は魅瑠に抗議した。
「何だこの汁かけ御飯は! 俺は犬か!?」
「犬でしょ」
「いや、見掛けはそうだが・・・・いや、違う違う、お前らのそのカレーみたいなやつを食わせろよ!」
「ビーフストロガノフよ」
 芽瑠が静かに訂正する。
「何でもいいから! 腹減った!」
「なら目の前のご馳走を食べなさいよ」
 魅瑠がつま先で汁かけ御飯の入れ物を犬の近くに寄せた。
「お前ら、昔から俺に対して優しくないよな」
「だったら、優しくしてあげようと思えるような態度を取りなさいよ」
「いいのか、魅瑠。先生に言いつけるぞ」
 犬は魅瑠を見上げた。
「・・・・芽瑠、迅雷にビーフストロガノフを出してあげて」
 と、急に犬に対して愛想が良くなる魅瑠。「先生」という単語が出た途端に態度が変わった。
 かくして犬は三姉妹と同じ夕食にありつくことができた。物凄い勢いで3皿のビーフストロガノフを平らげた犬は、仰向けにひっくり返った。
「あ〜、喰った喰った」
「その小さな体のどこにあれだけの御飯が入ってるの?」
「この体は仮の体だから、よく分からん。それにしてもお前ら、エッチな服装だなぁ。下から見てると余計にいやらしいぜ」
 犬の目前に魅瑠の足の裏が迫った。あと2cmで蹴られる、というギリギリの所であった。
「いやらしい目で見るな、このスケベ犬」
「男に見られたいからそんな格好してるんだろうが」
「少なくとも私は違いますぅ!」
 猛然と抗議する芽瑠。
「ねぇ、じんらい」
 萌瑠が自分のスカートを押さえつつ言った。
「もるのは覗かないでね」
「誰がガキのパンツを見たがるか!」
「でさ、そろそろ本題に入らない? 迅雷君」
 ここは自分が仕切らなければ話が進まないと思った芽瑠は、姿勢を正して犬・・・・いや、そろそろ犬と呼ぶのはよそう、迅雷に向き直った。
「それもそうだな」
 迅雷は床の上にあぐらをかいた。
「まず、俺様がなぜこんな格好をしているかだ」
「まず、迅雷君がどうやってこっちの世界に来たかを聞きたいわ」
「まぁ待て芽瑠、それとこの格好の話は繋がるんだ。いいか、まず俺たちの世界からこっちの世界に来る扉は、少しずつだが開きつつある」
「え、本当か?」
 魅瑠が身を乗り出した。
「帰れるの?」
 萌瑠も嬉しそうな顔で迅雷を覗き込む。
「まぁ待て。開きつつある、と言っただろう。まだお前たちが通れるほどの穴じゃない。いいか、穴と言っても物理的ではなく抽象的な穴に過ぎない。平たく言えば体が抜けられるかどうかではなく、魂が抜けられるか否か、ということだ」
「そんなこと、分かってるわ。私たち、その穴を抜けたんですもの」
 眼鏡のズレを直しながら芽瑠が言った。
「俺はお前たちの安否を確かめるよう、先生に依頼されたんだ。だが俺様が穴を抜けるには魂の器が大きすぎた。そこで、魂をこの状態にまで小さくしてこっちの世界に来たんだ。こんな格好になってまで俺様が派遣されたのは、俺様が先生に大いなる信用を得ている証拠だな」
「先生に心配をかけてしまったわね」
「だが安心した面もあるぞ。お前達、ちゃんと宝玉を探していたんだな」
「先生のためになれば、と思って」
 と、照れる魅瑠。
「でも嬉しいわ、先生が私達のことを心配してくれていて」
「宝玉を探してはいるが、思わしくないようだな。お前達だけで大丈夫か?」
「・・・・ちゃんとやってるわ」
 と言いつつ不安げな表情になる魅瑠。
「昼間は俺の咥えた玉をなかなか奪えなかったくせに」
「そうよ、迅雷、よくも私たちをからかったね!」
 魅瑠は迅雷に掴みかかると、首に手をかけた。
「あ〜、先生に言いつけてやろうっと。魅瑠は野蛮で怒りっぽくて暴力的だ、ってな」
「・・・・」
 途端に手を離し、大人しく椅子に座りなおす魅瑠。
「まぁそんなわけで、俺様は魂の器をこんなに小さくしたので本来の力が出せない。元の力が出せるまではあと2〜3日はかかるらしいが、そんなに滞在するつもりはない。用事が済んだらすぐ帰るからな」
「用事って?」
 芽瑠が聞いた。
「まず先生からの伝言を伝える」
 ゴク、と魅瑠の喉が鳴る。
「『無の玉』を早急に探し出し、必ず持ち帰ること。絶対に他の奴等、特にトゥラビアの手の者に渡してはならない。他の優秀な人材を派遣したいところだが、実力のある者はゲートを越えて来れないし、こんな格好で来てもあまり役には立たないからな。まだお前たちの方がマシってもんだ。ま、こんな所かな」
「わ、私に何か伝言は?」
 魅瑠が再び身を乗り出して迅雷に聞く。
「いや、個人的には何もないが」
「そう・・・・」
 残念そうに座りなおす魅瑠。他の連中は「何を期待していたんだろう?」と思った。
「もう1つの俺様の仕事だが・・・・出雲巳弥の調査だ」
「いずもみや?」
 三姉妹が顔を見合わせる。
「あ、確か3組の・・・・」
 芽瑠はそれが透子の話に出てきた名前だということを思い出した。そして「あなたたちの仲間じゃないの?」と聞かれたことも。
「犬・・・・じゃない、迅雷君を姉さんから庇った子でしょ」
「そうそう。あの子がいなかったら魅瑠の蹴りであの世に行っているところだったぜ」
「あの程度じゃ死なないわよ! 試してみる?」
 魅瑠のつま先が迅雷の鼻の先に触れる。コスプレのブーツを履いているので、蹴られるとかなり痛そうだ。
「え、遠慮する。その俺様を庇った出雲巳弥って子が・・・・あの子が覆い被さった時の胸の感触が忘れられねぇな・・・・あ、いや、何でもない。出雲巳弥が俺はかなり気になる」
「可愛かったもんね」
 芽瑠が冷やかした。
「そうそう・・・・って、違う! あの子の体質が俺たちイニシエートと同じみたいなんだ」
「え? それって、私たちの仲間ってこと?」
「それを調べるんだ。こっちの世界に来ているのはお前たち三姉妹だけのはずなんだが。とにかく、俺はこの体では何も出来ない。宝玉探しは引き続きお前たちに任せる。俺様は出雲巳弥の身辺を探ってみるつもりだ。この格好なら怪しまれずに近づけるからな。本当は先生自らがこっちの世界に来ると言っておられたが、先生の魂はいくら小さくしても今のゲートは抜けられなかった」
「さすが先生ね。オーケー、分かったわ。先生のためにも、私たちが宝玉『無の玉』を手に入れる」
 魅瑠は立ち上がって、大袈裟に拳を握り締めた。
「あ〜あ、姉さんは先生のことになると張り切るんだから」
 頭を抱える芽瑠であった。
「それと、お前らの邪魔をしていた奴等だが、出雲巳弥と知り合いのようだな。あいつらも宝玉を狙っている。トゥラビアの手の者かもしれないな」
「だとしたら、まずあいつらが邪魔ね。同じ学校にいることは分かってるから、先に消しとく?」
「えっ?」
「だって、先に宝玉を取られたらいけないでしょ?」
「そ、それにしたって、何もそこまで・・・・」
 芽瑠は焦った。透子と同盟を結ぼうと思い、姉にもそのことを報告しようとして、話すタイミングを計っていた矢先だっただけに姉の過激な発言は予想外のことだった。
「魅瑠おねーちゃん、消すって?」
「殺すってことよ」
「ええ〜、殺しちゃ可哀想だよ」
「いい? 先生にこの任務を任されたからには、絶対に遂行しなければならないのよ! 先生のため、私たち姉妹のため、ひいてはイニシエート全体の運命がかかっているのよ!」
「魅瑠おねーちゃん、怖い」
 椅子から降り、芽瑠にしがみつく萌瑠。
「姉さん、それはやり過ぎよ。あの子たちは悪い子じゃないわ」
「悪い子よ!」
 ビシ! と断言する魅瑠。
「私はあのゆかりんって子に2回もあのヘンテコな光を食らったのよ! カメレオンスーツを着ているにも関わらず、凄く痛かったのよ! それにもう1人にも光の矢を突き立てられるし、あんな凶悪な娘たちは野放しにしておくと危険だわ!」
「それは、姉さんが先に手を出したから・・・・」
「おだまりっ! 芽瑠、それ以上口答えしたらあんたの顔で爪を磨ぐわよっ」
「・・・・」
 姉の魅瑠は「やると言ったらやる」性格なので、これ以上何か言うと本当に顔を引っ掛かれてしまうと思い、芽瑠は何も言えなかった。
(どうしよう、藤堂院さんと約束したのに、このままだと余計に敵対度が増してしまう)
「まぁ消すとか消さないとかはお前らの勝手だからな。俺様は出雲巳弥をマークする。明日学校に行けば会えるだろう」
「あ、無理よ。彼女、明日は学校に来ないから」
「何故だ?」
「明日、第4土曜日で学校はお休みだもの」

 9th Love へ続く



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