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5th Love 「静かなる接触! 透子vs芽瑠」
学校の帰り道、透子はゆかりの家に直接向かい、晩御飯を御馳走になった。
そこにこなみもお邪魔して、秘密会議が始まった。
ミズタマとチェックが並び、その前のベッドに腰掛けているゆかり、透子、こなみ。ゆかりと透子は本来の姿なので、こなみだけ浮いている。
「さてリチャード、あなたの今日の成果を聞かせて頂戴」
透子がにこやかな表情でチェックを直視した。にこやかだが、誤魔化しは許さないという厳しい視線だった。
「で、では申し上げる」
被告人のような態度でチェックは話し出した。
「まず大神官様に、宝玉を狙うような敵に心当たりはないか、を聞きに行った」
「で?」
「大神官様はその時大事な会議の途中だったので、後で時間を改めて訪問することになった」
「だったら前置きは省略しなさい」
「・・・・わ、分かった」
透子の迫力にたじろぐチェック。
「何を怒っているんだ、透子」
「あんたが何かを誤魔化そうとしてるからよ」
口篭もるチェックに、ミズタマが助け舟を出した。
「そ、そんなことないじょ、誤魔化す必要のある話なんかじゃないじょ」
「そうだぞ、透子」
「じゃサッサと話してよ」
「急かすなよ。それでだ、やっと大神官様にお目通りが叶い、敵の心当たりを聞いてみたが、そんな敵のことは知らないというのだ」
「役立たずね」
「仕方ないのでミセス・ラビラビの占いを聞きに行った」
「あんた、大神官が知らないって言ったら、そのまま信じるの?」
「大神官様は嘘なんかつかないじょ」
透子とミズタマが口を挟んだが、そのままチェックは話を続けた。
「ミセス・ラビラビの占いによると、透子たちの出会った黒い奴らは・・・・『ダークサイド』だと言っておられた」
「ダークサイド? 何それ」
こなみが身を乗り出した。
「我らの世界に昔から伝わっている闇の世界の住人だ。図書館の古文書にも載っていた」
「闇の住人か。確かに真っ黒だったけど」
「それが透子たちが出会った者だとは断定できないが、そいつらは太陽の光を嫌うらしい。何しろ、住んでいる世界が闇の世界だからな」
「だとしたら、人間じゃないわよ」
探偵気取りなのか、透子は滅多にしない腕組みをしていた。
「人間は太陽の光がないと生きられないわ」
「俺に言うなよ。とにかく古文書にはそう書かれていたんだ」
「あ、だから全身を黒いタイツで覆っていたのね。そう言えば、ゆかりんの光の技が効いたって言ってたもんね」
こなみが納得したように頷く。
「え? ちょっと待って」
「どうしたの、ゆかりん」
「変よ。あの時、萌瑠って子は黒い衣装じゃなくて、普通の小学校の制服だったじゃない? あの子たちがその闇の住人だったら、太陽の下で平気なはずがないよ」
「そう言えばそうね」
透子が賛同する。
「それに今日、萌瑠って子と芽瑠って子が一緒に帰るの、見たもん。普通の格好で平気な顔して帰ってたよ」
「じゃ、そのダークサイド説は却下ね。あとは?」
透子はチェックの方を向き、次の話を促した。
「後とは?」
「今日の報告よ。敵に関する情報」
「もうないぞ」
「・・・・何の収穫もないじゃない」
あきれた、という顔で言う透子に、チェックが反論した。
「大変だったんだぞ、大神官様に会うのも、ミセス・ラビラビに占って貰うのも!」
「本当にそれだけ? 何か隠してない?」
「俺が透子に嘘を付いてるというのか」
「リチャードは嘘付きじゃないじょ!」
ミズタマが聞きとがめて話しに割り込んだ。
「違うわ。リチャードが嘘を付いてるとか、何かを隠してるって言ってるんじゃないの。大神官様とやらと占い師の人が何かを隠しているってことは?」
「そんな、大神官様に限って!」
「ミセス・ラビラビはそんな人じゃないじょ!」
透子の意見に激しく抗議するウサギ2匹。
「分かった、分かった。あまり大きな声を出さないで。ゆかりのパパに聞こえちゃうでしょ」
ミズタマやチェックの存在は、ゆかりんパパには内緒である。透子が2匹をたしなめた後、一同は話を整理することにした。
敵が占い師の言う「ダークサイド」だとしよう。
あの全身を覆う黒いスーツは、日の光から身を守るためのものなのか。それでは、昼間に太陽の下で元気に動いていた水無池萌瑠は仲間ではないのか。人間だがあちら側に加担しているのか、それは自分の意志なのか、そうでないのか。その萌瑠が姉と慕っていた透子のクラスメイト、水無池芽瑠も普通の格好で学校に通っているが、彼女もチェックの言うダークサイドの人間ではないのか。しかし、萌瑠は黒ずくめの1人を芽瑠と同じく「お姉ちゃん」と呼んでいた。どちらが本物の萌瑠の姉であるのか、それとも同一人物か、はたまた萌瑠の姉は2人存在するのか。もう1人の黒ずくめは誰なのか。
色々な疑問が出たが、それに対する考えはなにひとつ憶測の域を出ることはない。今日のところは「水無池姉妹は理由は分からないが、黒ずくめと一緒に宝玉を探している」「黒ずくめの人物はダークサイドと呼ばれる世界の住人かもしれない」ということだけは分かった。だが、これでは分からないことが多すぎる。
「ところで透子、もう戦わないとか言っておいて、今日は戦ったそうじゃないか」
チェックに言われ、そっぽを向く透子。
「ゆ、ゆかりが危なかったからよ。世話が焼けるんだから」
「あれ、その割には口上も必殺技もバッチリだったじゃない。密かに練習してたんじゃないの?」
ゆかりはとこたんの技を真似て、弓矢を構える格好をしてみた。
「やるからにはちゃんとしないと、格好悪いでしょ」
秘密会議は謎をより深めたまま推測だけが飛び交って終了した。こなみは帰り、ゆかりと透子は「透子、お風呂入っていきなよ」「ゆかり、一緒に入ろうか」「やだ、エッチ。うちのお風呂、そんなに大きくないよ」「子供になったら入れるかな」「あ、なるほど」等と言いつつ、連れ立って風呂場に向かった。
かくして2匹残された水玉とチェック。
「なぁリチャード、今なら誰もいないじょ」
「ん? それがどうした」
「我輩には何も隠さず話して欲しいじょ」
「何だよエリック、お前まで」
「あの黒い奴等がもしダークサイドだとすると、大変なことになるな」
ミズタマの声が緊張する。
「・・・・ああ」
「ただの言い伝えだと思っていたダークサイドが実在していただけでも驚きだが、この世界に干渉していたなんて。奴らはどれだけこの世界に入り込んでいるんだ? いつからだ? そもそもそいつらって、どんな奴らなんだ? 何が目的で宝玉を狙っているんだ?」
「ま、待て、一度に聞くな、エリック」
問いかけながら迫ってくるミズタマを両手で押し戻し、チェックは首に巻かれたスカーフを正した。
「お前の質問に答えよう。現時点では何も分かっていない。これから調査をする」
「大神官様ですら分かっていらっしゃらないのか」
「ゆかりんたちと戦った相手がダークサイドだとすると、どうやってこの世界に来たのか、まずはそこからはっきりしていかなければならない。もしダークサイドがこの世界への介入を開始しているなら、俺たちの世界にも関わってくることだ」
「そうだな。奴等が先に『無の玉』を手に入れてしまったら、おそらく次に狙うのは我輩たちの世界『トゥラビア』だじょ。宝玉は3つ揃わなければその力を発揮しないからな」
ミズタマは昔話で聞いたダークサイドの言い伝えを思い出し、体の震えを覚えた。
「何だか、ゆかりんたちに任せておくのが気の毒になってきたじょ・・・・」
「今は透子たちに任せるしかないんだ、エリック。『無の玉』さえ持ち帰れば、我らが王が何とかしてくれるはずだ」
窓ガラスにポツポツと雨水が当たったかと思うと、急に大きな雨音が聞こえ出した。ミズタマとチェックはこの突然の大雨が良くないことの予兆である気がして、そのまま口を閉ざした。
「わ、凄い雨だよ、透子」
風呂場の窓にも大きな雨粒が当たり、バチバチと音を立てていた。
「うわぁ、あたし傘、持ってないよ」
「この雨だったら、傘なんか差してもズブ濡れになるよ。泊まってく?」
「お風呂から上がったら考えるよ」
透子(とこたんと呼ぶべきか)は湯船に首まで浸かって目を閉じていた。ゆかり(ゆかりん)は石鹸の泡で身を包み、体を洗っている。
「いたたた、日焼けしてるぅ」
ゆかりはプール焼けした肌を、強く擦らないように注意しながら体を洗った。
「ねぇゆかり。まだ宝玉を探すの?」
「魔女っ子を続けたいっていうのもあるんだけど・・・・ゆかりね、1年前に子供に戻ってみて、気付いたことがあるの。ゆかりは大人になるまで、何もやってないって。自分に『頑張ったね』って言える何かをやってないって」
透子は鼻の下まで湯に浸かって、何も答えない。
「・・・・透子は嫌なの?」
「戦うのはいや。傷つけるのも、傷つけられるのもいや。あたしが傷つくのも、ゆかりが傷つくのもいや。でも・・・・」
透子は目を閉じたまま呟くように言った。
「ゆかりと一緒じゃなきゃ、いや。ゆかりが決めたことなら、付き合うよ」
「透子・・・・ありがと」
「でも、無理はしないでね。あたしもしないから」
「うん、分かったよ。ゆかりも痛いのは嫌だし」
「ゆかり・・・・胸、ないね」
「えっ、と、透子だって!」
慌てて両腕で胸を隠すゆかり。
「ゆかりよりあるもん」
「む〜っ、ちょっと初期設定が違っただけじゃないの! もっと大きくしとけば良かったぁ〜! いっそEカップとか」
「それは不自然だと思う・・・・」
2人が風呂から上がると、雨は小降りになっており、透子はゆかりに傘を借りてチェックと共に家に帰った。
「リチャード」
「ん、何だ透子」
「あんたを信じてないわけじゃないのよ。ただ、あんたも大神官とか占い師の話をそのまま信じるのはどうかと思うの」
「透子の言うことも分かるが・・・・うわっ」
ピチャ、と水たまりに足を突っ込んでしまったチェック。
「あ〜あ、もう」
ハンカチを取り出し、跳ねてチェックの顔にかかった水を拭う透子。
「やめろよ、これくらい拭かなくても・・・・」
「リチャード、ゆかりがやるって言うからあたしも付き合うけど、危険が迫ったらこの仕事、放棄するからね」
「分かった。俺も透子やゆかりんを危ない目に合わせたくないからな」
チェックは星1つない真っ黒な空を見上げたが、何かが空から降りてくるような気がしてすぐに目を背けた。
次の日、透子は授業中・休み時間を問わずクラスメイトの水無池芽瑠から目を離さずにいた。席は上手い具合に透子の方が3列後ろだったので都合が良かったが、これが逆なら後ろが気になって仕方なかっただろう。何しろ敵かもしれないのだから、敵に背中を取られているのは気持ちのいいものではない。
反対に芽瑠の方はどうだろう。彼女がもし敵の1人だとしたら、透子の顔を2回も見ているのだから、気付いていないはずはない。
(それにしても、いかにも優等生って感じだよね、あの子)
水無池芽瑠は綺麗な黒髪に自然なウェーブのかかったロングヘアーに校則を1つも違反していない制服を着用し、俗に言う眼鏡っ子だった。透子が見ている限りでは、授業中に私語はもちろん、ノートに落書きをしている様子も居眠りしている様子も早弁している様子もない。かと言って、ガリ勉で他人を近づけないというタイプでもなかった。
(何だかいい子過ぎて、かえって怪しい感じもするけど)
「ここはテストに出ますからね」
壇上では古文の教師が黙々と黒板に文章を書いていた。文章の説明をするために教科書の一文を黒板に書いているのだが、その作業がやたら長い。
(そう言えば期末テストとかあるんだっけ。まだ先の話だけど)
中学1年のテストとは言っても、古文や社会、化学など暗記物の科目は忘れているものも多く、透子やゆかりは苦労しそうだった。
眠気を誘う授業が終わり、休み時間になった。
芽瑠の行動をマークしていた透子は、いきなり自分の方を向いた芽瑠と目が合ってしまった。
(やばっ)
慌てて目を逸らした透子だったが、芽瑠がこちらに向かって歩いて来た。
(うわ、ジロジロ見てるのがバレちゃったかな)
「藤堂院さん」
「え、な、なぁに?」
取り合えず「透子スマイル」で迎え撃つ。
「ちょっといいかな」
「な、何かしら」
「2時間目の数学であなたが解いた問題なんだけど」
と言いつつ、芽瑠は持参したノートを開いた。
「え?」
「ここって、こういう解き方でも答えは出るよね?」
「え? あ、えっと、どこ?」
まるっきり意表を突かれた透子は、芽瑠の質問の内容を理解するまで時間がかかった。「どうして私を見てたの?」とか、もっと核心を突いて「どうして宝玉を狙っているの?」という質問を予期していたからだ。
「えっと、そうね、これでも答えは出るわ」
「あ、やっぱり」
「でもね、それじゃ駄目なのよ。今はここに出てきた公式を使って解くことを前提にしているから」
「でも、問題にはそんなこと書いてないわ。答えが合っていれば正解でしょう?」
「柔軟な考えを持った先生ならマルをくれるわ。但し『この数式を使いなさい』という注意は受けるかもね。もしくは三角かも。頭の硬い、マニュアル通りにしか考えられない先生ならバツよ。模範解答と違うからってね」
「おかしいわ、そんなの。正解なのに不正解なんて」
「そういうものなのよ、学校の勉強って。求められている答え方で答えない人は、優等生ではないのよ。与えられた問題を用意された解き方で解き、決められた答えを出す。それが勉強なの」
「ふぅん、藤堂院さんって大人っぽい」
「そ、そう? 老けてるって意味?」
「ううん、違うよ」
透子は自分の正体を知られるのではないかと、少し緊張した。何となく芽瑠の眼鏡の奥の瞳を見ていると、何もかも見透かされているような気がした。
「そう言えば、今までお話したことなかったね」
そんな透子の心を知ってか知らずか、芽瑠はニッコリ微笑んだ。
「そうね」
透子には、目の前の芽瑠があの全身黒タイツの女であるようにはとても思えなかった。透子に言わせればあんな体のラインがクッキリ出るような格好は恥ずかしさの極地だし、そんな格好をする女の子は理解できない。見るからに優等生な水無池芽瑠のあんな姿は想像できなかった。
(やっぱり違うのかな?)
「ねぇ藤堂院さん」
「ん?」
「誰に頼まれて『無の玉』を探してるの?」
「昨日見た? ナッシー」
「見た見た、可愛いよね〜」
一方、ゆかりのクラス。数人の女子が集まって、人気プロデューサーがプロデュースしたアイドル「名城(なしろ)みなみ」の出演した番組の話で盛り上がっていた。昨夜は某歌番組で、ナッシーの新曲「南南西は何年生?」の初お披露目だった。1年ほど前にデビューし、今回は既に4枚目のシングルで、先月リリースしたアルバム「みんなのみなみ」も絶好調だ。
そんな話題で盛り上がる女子を遠巻きに見るゆかりとこなみ。2人は名城みなみの人には言えない秘密を知っているので、とても話題に入れそうになかった(前作参照)。
ゆかりがふと目をやると、1人で黙々と次の授業の用意をする巳弥がいた。
(本当に誰とも話をしないなぁ)
巳弥はほとんど視線を上げない。誰とも目を合わせたくない、という拒絶感があった。
(でも、ゆかりを手当してくれている時は優しい表情だったよ、無口だったけど)
「おっと」
巳弥の席の後ろを通りかかった男子が、彼女の椅子の背もたれにいつもかかっている麦藁帽子に体を引っ掛け、落としてしまった。
「悪い」
慌てて拾おうとしてしゃがんだ男子だったが、巳弥が素早く麦藁帽子を取り上げた。
「やめて!」
「何だよ、拾ってやろうとしたんじゃないか」
抗議する男子に背を向け、帽子を抱きかかえる巳弥。
「んだよ、そんな汚い帽子。通行の邪魔なんだよ! 貸せ、捨ててやるから!」
男子が麦藁帽子の鍔を掴んだのを見て、ゆかりは駆け寄った。
「待ちなさいよ!」
「何だよ姫宮」
「嫌がってるでしょ!」
「何だ、こいつの肩を持つのか」
「肩を持つ持たないの問題じゃないわよ。その帽子は出雲さんの大切なものなんだから、離してあげて」
「ふん」
男子は帽子から手を離すと、何も言わず去っていった。
「帽子、大丈夫?」
「うん、ありが・・・・」
巳弥はゆかりに向けた笑顔を一瞬で消し、帽子を抱えたまま背を向けた。
「・・・・私に関わらないで」
「ちょっと、せっかくゆかりんが助けてあげたのに!」
そんな巳弥の態度を見て、こなみが食いつく。
「頼んでない」
「っか〜! ゆかりん、次は体育だよ、早く更衣室に行こ!」
「う、うん・・・・」
(一瞬だけだけど、彼女の笑顔、良かったのにな。ずっと笑っていればいいのに。何となくだけど、無理して他の人と関わないようにしているみたいな気がする)
「『無の玉』って何のこと?」
相手の出方を見るため、透子はとぼけてみた。
「あなたたちが三宝玉の1つを探していることは分かっているの。理由を聞かせてくれない? とこたん、だっけ」
「・・・・まずあなたが何者か教えて」
「藤堂院さんが教えてくれたら、あなたを敵かどうか判断してから言うわ」
「あたしもあなたの正体を聞いてから判断したいんだけどな」
表面上はにこやかに対話する2人だった。口調や表情を見ていると、ただのクラスメイト同士の会話に見える。
「信じて。無益な争いはしたくないの」
芽瑠の眼鏡が光った。
(このままだと押し問答ね・・・・)
そう思った透子はカマをかけてみることにした。
「あたしの正体を知りたいの?」
「ええ、ぜひ」
「あたしはダークサイド・・・・」
「え、あなたも?」
(あなた・・・・も!?)
ということは芽瑠はダークサイドなのか、と透子が考えていると、不意に芽瑠が透子の腕を触ってきた。
「・・・・騙したのね」
「何のこと?」
「確かに私たちの仲間だったら、自分たちのことを『ダークサイド』とは呼ばないわね」
「そうなの?」
「・・・・嘘つき」
(どうして腕を触っただけで分かったんだろう? 彼女たちは何か腕に特徴が?)
その時、4時間目の始業のチャイムが鳴った。
「お昼休み、いいかな」
芽瑠の申し出に、透子は頷くしかなかった。
ほどなく教師が教室に入って来たので、忙しなく席につく生徒たち。
(腕に・・・・特徴・・・・そう言えば、ゆかりが何か言ってたっけ?)
透子は記憶を辿って、ゆかりが言っていたことを思い出した。
(腕、腕・・・・そうだ、あの小学生の萌瑠って子の腕を掴んだ時、感触が変だったって言ってたっけ。ということは、彼女も?)
疑問と疑惑が透子の頭を支配する中、授業が始まった。
(あの反応・・・・間違いない、彼女はダークサイドの人間。でも、太陽の下で平気なのはどうして? リチャードの情報が間違っているのかな。・・・・あっ)
普段は授業を真面目に受けている芽瑠が、ポケットから携帯電話らしき物を取り出し、メールでもしているのだろうか、教師からは見えないように机の下で何やらボタンを押していた。
(誰かから連絡があったのかな?)
ほどなく、芽瑠は手を挙げて教師に「体調が優れないので保健室に行って来ます」と宣言し、席を立った。普段から優等生である芽瑠は、教師から微塵の疑いも受けずに教室を出て行った。
(まさか、宝玉が見付かったっていう呼び出し!?)
もしそうだとすれば、透子も後を追わなければならない。彼女の後をつければ宝玉のありかが分かる。
(どうしよう? あたしまで「保健室に行きます」って言ったら怪しまれるかなぁ)
「せ、先生!」
「どうしました、藤堂院さん」
「水無池さんの様子が相当悪いようでしたので、付き添ってあげてもいいですか!」
「そんなに悪そうだったの? それじゃあ、保険委員さんが・・・・」
「あたしが付き添ってあげたいんです! お友達ですから!」
透子は教師の答えを聞く前に教室を飛び出し、ゆかりに連絡を入れた。が、いくらレシーバーを鳴らしてもゆかりは出ない。
(何の授業中だろう? いつでも連絡が取れるように持ってなさいって言ってあるのに)
6th Love へ続く
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