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タイトル


 3rd Love 「宝玉を追え! 卯佐美小学校の攻防」


「ただいま、お父さん」
 元の姿に戻り、家に帰ったゆかりは台所にいる父・岩之助に声を掛けた。
「うわぁ、いい匂いだね」
「美味そうな秋刀魚があったからな」
 グリルで焼かれている秋刀魚を裏返している岩之助の背中を見ながら、ゆかりは2階に続く階段を上がった。
 ゆかりはこのところ父・岩之助に頭が上がらない。というのも、以前に務めていた会社が親会社の経営破たんによるあおりで大規模なリストラを行った際にリストに入って、職を失った。「年頃の女の子は結婚すればすぐに会社を辞めて永久就職だからねぇ」という上の考えがあったのだろうとゆかりは思っている。実際、透子も一緒にクビだった。
 それから就職口が見付からずアルバイトのようなパートのような仕事をしつつ1年間頑張ってきて、10日ほど前にミズタマたちが再び現れて「任務」を依頼された。任務は「中学校に潜入し、三宝玉の1つ『無の玉』を探すこと」だったため、仕事はやめてそちらに専念することになった。元々あまり楽しくない仕事だったので、今度こそ本当の「魔女っ子」になれるチャンスに飛びついたゆかりだった。もちろん任務期間中の補償(金銭)はミズタマの世界の偉い人から頂ける約束をしている。これは「大事な物を探してあげるんだから当然でしょ」という透子の交渉によるものだった。
 だがその探し物が見付かるまでの間のゆかりたちはもちろん無職なわけで、それを父に言えるはずもなく、学校を出てから元の姿に戻り、仕事をしてきた体を装って帰って来ているのだった。ゆえに、ゆかりは先に仕事から帰って来て食事の用意をしてくれている父に、いつも申し訳ないと思っていた。
 ちなみにこの任務の間の生活費は、定期的にミズタマ達の世界の偉い人から支払われるようになっている。異世界の人がどうやってこっちの世界のお金を支払ってくれるのかは聞かされていないが、任務成功の暁には以前ゆかりたちが務めていた会社のボーナスより多くの報酬があると聞き、透子も半信半疑ながら引き受けた。
(でもなぁ・・・・任務は夕方6時までだし)
 占い師ミセス・ラビラビによると、宝玉の手掛かりは夕方から朝にかけてはその場所に現れず、昼間に占った時だけ卯佐美第三中学に反応が現れるという。そのことから生徒か教師が持っているか、何かを知っているということが考えられる。それならその者の家を占いで特定できそうなものだが、不思議とその場所は特定できないということだった。
(そもそも、そんな大事な宝玉を無くしちゃうってのはおかしな話よね。しかも、ミズタマたちの住んでいる世界から見ればこっちは異世界。どうやったらこっちの世界にその宝玉が来たっていうの?)
(そう言えば「三宝玉」って、あとの2つはミズタマたちの世界の偉い人が持ってるのかな?)
 色々考えたゆかりだったが、所詮異世界のことなので考えても仕方がない。大神官様とやらに「敵」についての報告を行うため自分の世界に帰っているミズタマが帰って来てから話を聞くことにして、1人で晩御飯の用意をしている父の手伝いをするために台所へ向かった。
「なぁゆかり」
 食事の用意が済み、向かい合って座り御飯を食べているゆかりと岩之助。食事が始まって少しした時、岩之助がゆかりに話し掛けてきた。
「なぁに、お父さん」
「仕事はうまくいってるのか」
「え・・・・も、もちろんよ」
 危うく御飯を喉に詰まらせてしまうところだったゆかりは、慌ててお茶を飲んだ。
「そろそろ・・・・何だ、付き合っている人とかは、ないのか」
「な、何なの突然」
 岩之助はゆかりが以前、ユタカという男性と付き合っていたことは知っている。そして、別れただろうということも。ゆかりはそのことを父に話してはいないが、デートをしているそぶりが全く見られないため、縁が切れたのだろうと察していた。
「お父さんのことなら気にしなくていいぞ。1人でもやっていけるからな」
「そ、そんなんじゃないよ」
(ただ、相手がいないだけ)
「ゆかりにはまだ早いと思うし」
「そうか」
 ゆかりが結婚してこの家を出れば、父は1人になってしまう。養子を貰うと言うなら別だが、遅かれ早かれゆかりはこの家を出ることになるだろう。まだそんなどうなるか分からないことは考えずにきたゆかりだが、改めて父から話をされるとは思っていなかった。
(結局・・・・「ぷにぷにゆかりん」になることは、現実から逃げてるってことなのかな)
(結婚かぁ・・・・)
 その時、ゆかりの頭に浮かんだ男性の顔は、爽やかに笑っている露里先生だった。
(ど、どうして先生が!?)

 次の朝、いつものようにこなみと一緒に学校に向かっていたゆかりは、言い争いをしている子供に出会った。小学生らしき女の子が2人で、何かを取り合っているようだった。そう珍しい光景でもないし、他人が止めに入るような問題でもないと思ったゆかりは、そのまま通り過ぎようとした。
 その時、こなみがゆかりの腕を掴んだ。
「なに?」
「ゆかりん、あれ!」
 こなみが指を指したのは、小学生らしき子供が取り合っている物だった。その丸いものは金色に輝く玉だった。
(あれは!?)
 ゆかりとこなみが顔を見合わせる。
「返してよ!」
「頂戴よぉ!」
「麻衣のなんだからぁ!」
「いやだ、離して!」
 どうやり取りを聞いても、片方の女の子の物をもう一方の子が取り上げようとしているようにしか思えない。ゆかりは思い切って喧嘩の仲裁に入った。
「こら、やめなさい!」
「何よぉ」
 玉を取り上げようとしていた子が、ゆかりを睨んだ。睨んだと言っても、全然迫力がないので怖くはない。
「駄目でしょ、人の物を取ったりしちゃ」
「やだ、もる、お姉ちゃんに誉めてもらうんだから」
 「もる」とはこの子の名前なんだろうか?とゆかりが思っていると、再び金色の玉目掛けて女の子が飛びついた。
「いやぁ!」
「やだ、頂戴、宝玉ぅ」
(宝玉!? あれが!? というか、どうしてこの女の子が宝玉を探してるの!?)
「その玉・・・・」
 ゆかりは玉を持つ女の子に手を伸ばした。
「その玉、貸して!」
「・・・・」
 女の子は玉を抱いたまま、後退った。目が怯えている。
(そっか、ゆかりが玉を取っちゃうと思ってるんだ。そりゃそうだよね)
「大丈夫、取ったりしないから、その玉を渡して」
 ふるふると頭を振った女の子は、そのままクルリと踵を返して、卯佐美小学校の中に入っていってしまった。
「あ、待って!」
「離してよぉ!」
 ゆかりが腕を掴んでいた女の子が手を振り解こうと騒いだ。ゆかりは後ろから暴れる女の子を抱きかかえた。
「あなたもこの小学校の生徒?」
「離せ〜、見失っちゃうよ〜!」
 女の子が頭を振るたびに、頭に付いている大きなリボンがゆかりの顔を叩いた。
「痛い、痛い、暴れないで!」
「だったら離して! もる、あの玉を持って帰るの!」
 そうこうしている内に、向かいにある中学校から始業5分前の予鈴が聞こえてきた。
「あ〜、遅刻するぅ! どうしよう、こなみちゃん!」
「待って」
 こなみは自分の鞄から携帯電話のようなものを取り出した。いざという時に手渡されていた、仲間同士で連絡を取り合えるマジカルレシーバーだ。
「ミズタマ君、聞こえる? こなみです」
「どうしたじょ、こなみちゃん」
「卯佐美小学校の生徒に、宝玉らしき物を持っている子を発見。今すぐ現場に来て」
「何っ、了解だじょ!」
 こなみがミズタマと連絡を取っていた時、ゆかりの向こう脛に暴れていた「もる」という子のかかとがヒットした。
「いったぁい!」
 あまりの痛みに手を離してしまったゆかりは、もるを取り逃がしてしまった。先程の玉を持った小学生はもう見えない。教室に入ってしまったのだろう。
「さっきの玉を持った子、危ないよ!」
「待ってゆかりん、ミズタマが来たら見張り役に回って貰おうよ。何かあったら、ゆかりんたちを呼ぶってことで。さっきの子は『見失っちゃう』って言ってたから、きっと知ってる子じゃないと思うの。すぐには見付からないと思うわ」
「そ、そうね」
 数分後に息を切らせて走ってきたミズタマに、いきさつと女の子の特徴を知らせたゆかりとこなみは、大急ぎで中学校に向かった。
 だが努力空しく、2人とも遅刻となった。

「ミズタマ、どう? 女の子は見付かった?」
 1時間目が終わった休み時間、ゆかりはカジカルレシーバーでミズタマに連絡を取った。授業中はずっとあちらの動向が気になって、1時間目は上の空だった。
「見つけたじょ。我輩は玉を狙っていた女の子、5年4組の水無池萌瑠(みないけ もる)をマークしてるじょ。頭のどでかいリボンですぐに見付かったじょ。玉を持っていたという子は、現在リチャードが捜索中だじょ。ゆかりんたちが特徴をよく覚えてないから探すのに苦労してるみたいだじょ」
「だって、本当に特徴がなかったんだもん」
「我輩も人目に付かずに見張るのは大変だじょ」
「何か、目立った動きは?」
「今は休み時間だから、玉を持っていた女の子を捜して移動中だじょ」
「ねぇ、その子、何者なのかな。その子がこの前現れた敵なのかな?」
「ゆかりん、話は後だじょ、見失うじょ!」
「分かった、お願いね」
 プツン、とレシーバーの音が途切れた。

 昼休みになってもミズタマからの連絡は来なかったので、ゆかりとこなみは取り合えずランチタイムに入って、透子に今の状況を話した。
「見た感じ、どうだった? この前の敵と今日のその子、同一人物だと思う?」
 透子はおかかおにぎりを頬張りつつゆかりに聞いた。
「分かんないよ、この前はあんな格好で顔すら見えなかったし。でも背格好から言えば、この前の3人の中では一番小さい子かなぁ」
「そういえば小さい子が1人いたわね」
「うん、でもあの3人の中だったら、ってことだよ」
「水無池萌瑠かぁ・・・・水無池・・・・水無池・・・・」
 透子は何かが引っ掛かる、という感じでその言葉を繰り返していた。
「でさ、ちょっと気になることがあるの。今朝、あの子の腕を掴んだ時なんだけど」
「どんなこと?」
 透子が考え事をしているので、こなみが聞いた。
「あの子の腕の感触がね・・・・ツルツルだったの。肌が綺麗っていうレベルじゃなくて、何て言うか、タイツみたいなストッキングみたいな」
「あの子、半袖だったよね。私には何が着ているようには見えなかったな」
「でしょ? 何だかね、肌っぽくなかったの」
「分かった!」
 それまで黙っていた透子がいきなり声を出したので、ゆかりとこなみは思わず持っていた弁当箱を落としてしまうところだった。
「どうしたの、透子」
「水無池よ、水無池! どこかで聞いたことがあると思ったら、うちのクラスに水無池芽瑠(める)って子がいるの!」
「透子、クラスメイトに『水無池』っていう子がいることを思い出すのに、随分かかったね」
「だってまだ2週間足らずだよ、覚えてないよクラスの子の名前なんて」
「もるとめる・・・・名前まで似ているわね」
 こなみの言葉を受け、透子は顎に手を当てながら言った。
「もしその子たちがあの黒いくの一だったとしたら、大変だわ。あたしもゆかりも、顔を見られているのよ」
「確かにそうね、今日はその水無池さんは来ていたの?」
「あ・・・・そういえば早退した」
 顔を見合わせる3人。
「萌瑠って子の連絡を受けて、小学校に行ったのかも!」
「大変! 急がなきゃ!」
 その時、ゆかりのマジカルレシーバーが鳴った。
「もしもし、ミズタマ?」
「ゆかりん、我輩は不覚にもガキ共に掴まったじょ! 水無池萌瑠を見失ったじょ!」
 ミズタマの声の後ろから「可愛い〜」「ウサギだぁ」「生きてるの?」等という子供の声が聞こえている。
 ゆかりは食べ終えていないお弁当の蓋を閉め、立ち上がった。
「透子!」
「え、あたしも行くの?」
 キョトンと書いたような顔でゆかりを見上げる透子。
「あたし、言ったよね。玉は探すけど、敵と戦うのは嫌だって。何だかこの状況って、修羅場になりそうじゃない?」
 そんな透子を、こなみが睨みつけた。
「透子ちゃん、それって薄情じゃない?」
「いいよ、こなみちゃん。ゆかり1人で大丈夫だから。お弁当、お願いね」
 ゆかりはこなみにお弁当箱を渡し、卯佐美小学校に向かった。
「透子ちゃん・・・・」
 透子はお昼御飯を味わいながら食べ続けていた。

「みにみにすか〜と、ふりふりふりる! ぱんちらた〜んで、はぁとをげっとぉ! おいでませ、小学校の制服ちゃ〜ん!」
 魔法の孫の手を振り下ろした場所から光が溢れ、卯佐美小学校指定の制服が現れた。
「きゅ〜てぃ〜ちぇんじで、小学生になれ〜!」
 ゆかりの中学の制服が分子レベルに分解されて、魔法の孫の手の魔力ドーム(にくきゅう)に吸い込まれる。代わりに小学校の制服がゆかりの体を覆った。もちろんその間は倫理協会対策のため、ゆかりの体は映像処理を施されて光り輝いていた。
「登場、小学生ゆかりん!」
 と言っても背はそのままで十分通用するため、単に衣装を着替えたにすぎない。
 卯佐美小学校の門は閉じられていた。世の中では物騒な事件が多発しており、生徒は基本的に学校の外に出ることはできないし、部外者が侵入することも許されていなかった。だがゆかりはかつてこの学校に通っていたこともあり、いわゆる「抜け道」の存在を知っていたので、そちらに向かった。
(そういえば、透子のクラスメイト・・・・名前、何だっけ・・・・が早退してこの学校に向かったとなると、どうやって中に入ったんだろう?)
 ゆかりはかつて、学校から抜け出すためにみんなが使用していた「抜け道」と呼ばれ親しまれて?いた、金網が破れて中に入れるようになっている場所を探した。が・・・・。
「あ・・・・」
 ゆかりが卒業して15年、その間に金網の補修が行われていた。
(どうしよう)
 レシーバーが鳴った。
「ゆ、ゆかりん、早く来るじょ! 玉を持った子が、水無池萌瑠に見付かったじょ! 校舎裏だじょ!」
「わ、分かったわ!」
 ゆかりは「魔法の孫の手」を金網に向けて構えた。
(できるかな)
 魔法の孫の手の能力は、主に魔力で何かを「生み出す」能力で、またその生み出したものを消す(魔力に戻す)こともできる。だから大きなものを出そうとすればそれだけ多くの魔力を消費するし、またゆかり自身の精神力も消費する。また、魔力がなくなれば何も生み出せなくなる。ゆかりからゆかりんへの変身は、ゆかりの体を分解してゆかりんの体を再構築していると考えて貰っていい。
「む〜っ」
 金網の一部が分解され、光の粒となって孫の手の魔力ドームに吸い込まれて行く。
「もう少し・・・・」
 金網に体が通るほどの穴が空くと、ゆかりはそこから学校の敷地内に侵入した。振り返って、金網の穴を元に戻す。
「羽根で飛び越えても良かったんだけど、誰かに見られちゃうと面倒だからね。さて、急がなきゃ! 校舎裏だったよねっ」
 スカートを翻し、生徒で賑わう昼休みの校庭を抜けて、ゆかりは校舎裏へと急いだ。
 そこには、地面にうずくまっている女の子がいた。
「こっちによこせぇ〜」
 女の子が必死に抱きかかえているものが、今朝ゆかりたちが見た金色の玉なのだろう。それを奪おうと、頭に大きなリボンを付けた水無池萌瑠が女の子に掴みかかっていた。その様子を見ている、全身黒タイツで覆われた人物。顔までスッポリと布を被ってゴーグルを掛けているので表情は見えない。
(あれが透子のクラスメイトの子?)
 ゆかりが校舎の陰から様子を伺っていると、更にもう1人黒ずくめの人物が現れた。
「何をグズグズしているの、芽瑠、萌瑠」
「魅瑠姉さん」
(あの三人、姉妹なのか。みる、める、もる・・・・ややこしい名前!)
 魅瑠姉さんと呼ばれた人物は、玉を抱えている女の子に近付いた。
「コラ、さっさとその玉を渡すのよ!」
 いきなり「魅瑠姉さん」は、うずくまる女の子の肩を足で蹴った。
(あっ!)
 それを見たゆかりは、思わず飛び出しそうになった。
「姉さん、乱暴は・・・・」
「生ぬるいよ、芽瑠。私らの任務は『無の玉』を持ち帰ることだよ」
 そう言いながら、更に女の子の背中や肩を蹴ったり踏んだりする。女の子はうずくまったまま泣いているようだった。
(もう駄目、見ていられないよ! 3対1・・・・かなりピンチかもしれないけど。透子がいてくれたら心強いのに、薄情なんだから!)
「きゅんきゅんはぁとで華麗に変身! 萌え萌えちぇんじでぷにぷにゆかりん、颯爽ととうじょ〜!」
「ん?」
 女の子を蹴っていた魅瑠が動きを止め、声の聞こえた方向を見た。他の2人もそれに倣う。
「弱いものいじめは、やめなさい!」
「あいつはこの前の・・・・」
「あ、今朝のおせっかい」
 萌瑠がゆかりんを指して言った。
「誰がおせっかいよ! もうその子に手出しはさせないわよ!」
 孫の手を突きつけてポーズを決めるゆかりん。
「あんたもこの宝玉を狙っているのかい」
 魅瑠が1歩進み出た。それに合わせて、ゆかりんは1歩下がった。
(怖いよ〜。ううん、正義の魔女っ娘が怖がってちゃだめ!)
「あなちゃちゃちに宝玉は渡さないわ!」
「舌が回ってないわよ」
「放っといて!」
「芽瑠、萌瑠、そいつの宝玉を奪っておきなさい。私はこの変な子の相手をするわ」
「だ、誰が変な子なの〜?」
「そんなド派手な格好をしておいて、まともだって言うの?」
「あ、あんたたちよりマシだよぅ」
「何だって?」
 ふいに魅瑠の体が沈んだと思うと、ゆかりんとの間合いを詰めて拳を繰り出した。
「っわ!」
 不意を突かれたゆかりんはそのパンチを腹に受け、後方に倒れ込んだ。
「いったぁ〜い!」
(いたい、いたい、いたい! 何で、どうして、ゆかりん、魔法少女なのに! 魔法少女がグーで殴られるなんて、非常識だよ!)
 その一撃だけで、ゆかりんの目から涙が出た。
「おやおや、もう泣いちゃったのかい」
 倒れこんでいるゆかりんに歩み寄る魅瑠。表情が分からない分、余計に不気味に見えた。ゆかりんは痛むお腹を押さえつつ、立ち上がろうとした。
「あんたはどうして宝玉を狙っている? 何者なんだい?」
「あなたたちこそ・・・・」
「質問しているのは、こっちだよ!」
 立ち上がりかけた足に魅瑠の足払いが飛んで、ゆかりんは見事にすっ転んだ。その拍子に肩や腕を思い切り地面に打ちつけた。
「痛っ!」
(うう〜、どうして魔法少女がこんな目に合わなきゃならないの!? 魔法少女っていうのは、もっと華麗に呪文を唱えて悪い奴を懲らしめるんじゃないの!? こんなぷにぷにゆかりんがゲーム化したら、対戦格闘ゲームになっちゃうじゃない〜!)
「言いな、お前は何者だ」
 ゲシ、と魅瑠の靴がゆかりんの肩を蹴った。
(いたいよぅ、いたいよぅ。透子が言ってたのはこれだったんだ、透子はこんな目に遭いたくないからって、魔法の肩叩きをチェックに返したんだ。ゆかりが甘かったの? 魔法少女をやりたいっていうゆかりの考えが浅かったの?)
(助けて・・・・)
「ラブリーエンジェル・ライトニングアロー!」
「・・・・!?」
 魅瑠が飛び退り、ゆかりんとの間合いが開いた。
「くそっ、仲間がいたのか!」
 肩を押さえながら、魅瑠は何かが飛んできた方角に目をやった。
「あなたのハート、射止めちゃう! 愛の弓矢で、射止めちゃう! スマイル天使ぽよぽよとこたん、荒ぶ世界に、希望の女神!」
 ゆかりんすら見たこともない光る弓をつがえたぽよぽよとこたんが立っていた。

 4th Love へ続く



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