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タイトル


 2nd Love 「謎の美少女! 黒い敵の正体は?」


「誰なんだろうね、さっきの黒い人」
 昼休み。いつものようにゆかりと透子とこなみは一緒にランチタイムを満喫している。ちなみにゆかりと透子は黒い影を追っていたために次の授業に遅刻をしたが、立石が「落し物を探すのを手伝ってくれた」と説明したので、お咎めはなかった。立石も「怪しい人物に取られたものを取り返してくれた」と本当のことを説明すれば話がややこしくなるので、上手く話を合わせてくれたのだった。
「見た目からして、怪しい人だったよね。夏なのに、真っ黒だもんね。暑いよ、あれ」
 こなみはゆかりと透子から、敵には更に2人の仲間がいたことを聞いて驚いた。
「それに、なかなかの身体能力だわ」
 そう言いつつ、透子は梅入りのおにぎりを頬張った。
「あの子、ゆかりたちと同じような背格好だったよね。そして宝玉を狙っている・・・・」
「あたしたちと同じく、この学校に宝玉の手掛かりがあることを知ったってことね」
「敵がいるなんて、聞いてなかったよ! 帰ったらミズタマを締め上げてやる」
「あたしたちにマジカルアイテムを渡したのは、敵がいることを知っていたから?」
「だとしたら、ゆかりたちは騙されたんだよ、契約違反だよ! ゆかりたちがこの仕事を引き受けたのは、ミズタマたちの国の宝物が紛失したので探して欲しいって言うから・・・・」
「だったら返す? 孫の手」
 透子の問いに、ふるふると首を振るゆかり。
「だってほら『三宝玉』だっけ? 話によると、とんでもない力が眠ってるんでしょ? それが悪い奴の手に渡ったら、何かとんでもないことに使われちゃうじゃない? そんなの、駄目でしょ?」
「よっぽどゆかりは魔女っ娘がやりたいんだね」
 冷やかす風でもなく、透子は優雅にお茶を飲んだ。
「でも・・・・確かにそうね。さっきのが何者かは分からないけど、良くないことに使われようとしているなら問題ね」
「でも、危なくないの?」
 こなみが口を挟んだ。
「相手が悪い人だったら、危険じゃない?」
「う〜ん・・・・」
 箸を咥えたまま唸るゆかり。
「そうね、まだ敵だと決ったわけじゃないし、もう少し様子を見ましょ。ひょっとしたら、あのボールが綺麗だったから取ろうとしただけかもしれないし」
 そんな透子の言葉に「んなわけないでしょ!」と心の中で突っ込むゆかりだった。

「じゃゆかり、あたしは図書館で本でも読んでるよ」
 放課後、ゆかりのいる教室を訪問した透子。
「透子、昨日言ってたこと、本気だったの?」
「有言実行」
「クラブはどうするの?」
「退部届、出したから」
 あまりにあっさり言われ、何も言い返せないゆかりだった。入部後1週間で退部する生徒も珍しいだろう。
(仕方ないや。強要するわけにはいかないしね)
 ゆかりは諦めて1人で部活に行くことにした。
(あ、あれは出雲さん)
 部室へ続く渡り廊下に差し掛かった時、校門に向かって歩く麦藁帽子をかぶった女の子が見えた。
(どうして彼女、登下校はあの麦藁帽子なんだろ? もっとお洒落な帽子にすればいいのに。それに、朝も帰りも、いつも1人・・・・)

 ぎゅうう。
「く、苦しいじょ・・・・」
 顔を真っ赤にして苦しむウサギ・ミズタマ。
「そのくらいにしとかないと死んじゃうよ」
 透子に肩を叩かれ、ミズタマのスカーフの裾を引っ張る手を緩めたゆかりは、今度は彼の2本の耳を揃えて掴んだ。
「白状しなさいよね、ミズタマ。ゆかりたちを騙してたの?」
「我輩の話も聞くじょ!」
「そうだぞゆかりん、冷静になれ」
 と言ったのはミズタマの仲間のウサギで、名はチェック。
 ここは姫宮家の2階にあるゆかりの部屋。部屋の中にはゆかりと透子、そしてウサギのミズタマとチェック。この名はそれぞれゆかりが勝手に名付けた呼び名であって、ミズタマの本名は「エリック・フォン・キャナルニッチ・ラビリニア」で、チェックの本名は「リチャード・フォン・ヒューデリック・ラビリーヌ」だ。名前が長いので、とりあえずゆかりんの名付けた名前で呼ぶことにする。
 ゆかりと透子は学校から帰ると元の姿、大人の女性に戻る。学校に通っている間だけ、彼女たちは中学生に変身しているのだ。
「実は君たちに宝玉探しを依頼した時には、我々も他にも宝玉を狙っている者がいるなどということは知らなかったのだ」
「じゃあどうしてゆかりたちに魔法の力を授けたわけ? こうなることが薄々分かってたんじゃないの?」
 つめよるゆかりに1歩下がるチェック。
「それはだな・・・・」
 それを見ていたミズタマがチェックに代わって進み出た。
「君たちが魔女っ娘になりたがっていたから、宝玉を探すいわばお礼だじょ」
「要するにエサってわけね」
 クールに言い返す透子に、2匹のウサギは黙り込んでしまった。
「それじゃ百歩譲って、あなたたちが敵の・・・・まだ敵とは決ったわけじゃないけど・・・・とりあえず敵の存在を知らなかったとしましょう。リチャードたちに、あたしたちを使って宝玉を探すように依頼した人物は何もかも知っていた、という可能性はあるわね」
「はっ・・・・?」
 顔を見合わせるミズタマとチェック。
「ま、まさか、大神官様が我輩たちに嘘をつくなんてこと、あるわけないじょ」
「嘘じゃないわ。ただ、言わなかっただけ。宝玉探しは依頼したけど、他にもそれを狙っている者の存在は知っていたけど言わなかった、それだけよ」
「そ、そんな」
「とにかく」
 透子が手の平を上に向けると、光が集まって「魔法の肩叩き」になった。「孫の手」もそうだが、念じれば手の中に現れる仕様になっている。但しそれはマジカルアイテム自身が起きている時だけで、生きている彼?らは1日に数時間、睡眠を取る。魔力を回復するためだが、その間は念じても今のように現れてはくれない。普段はゆかりや透子が寝ている時間に合わせて寝ているので、必要な時に寝ているということはない。
「はい」
 透子は「魔法の肩叩き」をチェックの前に差し出した。
「な、何だ?」
「返すわ。敵がいるなんて、契約にはなかったし。危険そうだから、この仕事から降りるわ。それに、面倒だし」
 最後の付け足しが、透子にとってこの任務を断る最大の理由だった。
「そ、それは困る、透子」
「困るのはこっちよ。怪我なんてしたら大変だわ。元々はあなたたちの世界の宝物がなくなったから探してくれ、ってことだったでしょう? だから引き受けたのよ」
「そ、それを言われると辛いが・・・・それにまだ、透子たちが出会った人物が敵と決ったわけでは・・・・」
「ゆかりはどうするの?」
 冷や汗をかくチェックを横目に、透子はゆかりに問いかけた。
「ゆかりは・・・・」
 1人と2匹の視線を浴びながら、ゆかりはミニスカートの裾に付いているフリルをいじり回した。
「もうちょっと魔女っ娘やりたいな・・・・」
「ゆかりん!」
 ミズタマの顔が輝く。今にもゆかりに抱き付きそうな勢いだった。
「ゆかりならそう言うと思ったけどね」
 と呆れ顔で言う透子。
「それに、一応引き受けた仕事なわけだし・・・・ねぇ透子、一緒にやろうよ」
「ん〜、そんな顔しないで、ゆかり」
「戦わなくていいから、もうちょっと一緒に学校に行こうよ」
「・・・・まぁ、それだけなら」
(あたしだって、学校は楽しいよ。だって、ゆかりと一緒に行けるんだもん)
 と思った透子だったが、口には出さなかった。
「そうか、では引き続き宝玉探しを頼む」
 ホッと胸を撫で下ろしたチェックとミズタマだったが、先程の透子の言葉が引っ掛かっていた。
「エリック、大神官様に敵らしき人物のことについて聞いてみる必要があるな」
「リチャード、大神官様を疑っているのか!?」
「違う。大神官様なら、宝玉を狙う者の心当たりがあるかもしれないだろう?」
「まあ、な」
「早速、明日にでも帰って聞いてくることにする」
「ところでミズタマ、本当に卯佐美第三中学に宝玉があるの?」
 ウサギたちの話が一段落したところで、ゆかりは口を挟んだ。
「宝玉があるとは言っていないじょ。手掛かりがあるんだじょ」
「な〜んか、アバウトねぇ。アテになるの?」
「ミセス・ラビラビの占いを馬鹿にしてはいけないじょ!」
 ミセス・ラビラビとは、ミズタマによれば彼らのいる世界ではカリスマ的に有名な占い師で、彼女に占って貰うには、何日も前から予約が必要だと言う。何でも、ミズタマは以前に紛失した自分のスカーフを見事に探し当てて貰ったことがあり、それ以来彼は彼女の信者になったらしい。ミセス・ラビラビは先程の話に出た大神官様とやらにも信用を得ており、宮廷のお抱え占い師のような存在にまでなっているというのがミズタマの話だ。
「今日だって、見つけたと思ったらスーパーボールだったし・・・・」
「でも敵らしき人物もそれを取りに現れたってことは、その人も卯佐美中学に目を付けてたってことでしょ? 学校に手掛かりがあるっていう話に信憑性が増したと思うわ」
 そう言いつつ、透子は重いだしたようにテーブルに置かれている紅茶に口をつけた。すっかり冷めていた。

 次の日の昼休み。ゆかり、透子、こなみの3人は「秘密会議」のため、いつもの教室ではなく校庭にお弁当を広げていた。
「夕べ一晩考えたんだけど・・・・」
 透子が弁当箱を開けながら、早速本題に入った。
「昨日の黒ずくめの人物だけど、体格から見てあたしたち・・・・今のあたしたちと同じような年格好だったよね。・・・・人間だとすれば」
「と、透子ちゃん、怖いこと言ってる・・・・」
 お化けや幽霊の類が苦手なこなみは露骨に怯えた顔をした。
「でも可能性はあるわね。ミズタマだって異世界の生物だし。もう慣れたからいいけど、客観的に見て喋るウサギは気持ち悪いわよ」
 今日のゆかりのランチボックスは、卵焼きの黄色が眩しく映えていた。
「そこで思ったんだけど、昨日の人物は宝玉の手掛かりを得るために、あたしたちと同じようにこの中学に潜入している可能性があるってこと。ううん、潜入じゃなくて元々この学校の生徒だという可能性もあるわ」
 ゆかりは思い出した。透子が昔、「探偵になりたい」と言っていたことを。
「昨日、黒ずくめが現れたのは3時間目の授業中。もしさっきの仮定が正しいとすれば、その人物は授業を抜け出したことになるわ。聞き込みをすれば、その時間に姿を消した生徒を見つけられるかも。そのアリバイのない生徒が、あの黒ずくめってわけ」
 聞き込みやアリバイという単語を使うあたり、透子は今まさに探偵か刑事気取りだった。
「あっ・・・・」
「どうしたの、ゆかりん。何か心当たりでも?」
「う、ううん・・・・」
(そう言えばプールの時、出雲さんは見学だったっけ。見学だけど、プールにはいなかった・・・・でも、まさかね)
「ゆかりん、まさか出雲さんのこと?」
 こなみがゆかりの様子を見て、訊いてきた。
「でも、まさか」
「誰? 出雲さんって」
 クラスの違う透子に、こなみは出雲巳弥について説明した。実際、こなみも詳しく説明できるほど巳弥について知っているわけではなかったので、短い説明に留まった。
「話だけ聞くと、怪しそうね」
「でも、わざわざあんな格好に着替えて?」
「とにかく、その出雲って子はゆかりとこなみちゃんで監視しておいてね」
 ゆかりは透子の言葉に頷いたものの、巳弥のことを疑いたくはなかった。
(確かに怪しいかもしれないけど。いつも長袖だし、黒のストッキングだし、いつも襟元からは黒いアンダーシャツが見えている。まさか普段から制服の下にあのスーツを着込んでるなんてことは・・・・)
 考えれば考えるほど、巳弥が怪しく思えてしまうゆかりだった。

 午後の授業中もクラブ活動中も、ゆかりはずっと巳弥のことを考えていた。
(宝玉を狙う悪の組織だから、誰とも口を聞かないとか・・・・? ううん、まさかね)
「あっ・・・・」
 ズシャ。考え事をしながらランニングをしていたゆかりは、少し盛り上がった地面に脚を取られ、転んでしまった。
「いたい〜」
「大丈夫か、姫宮!」
 先頭を走っていた顧問の露里が、慌ててゆかりの所に駆け寄って来た。ゆかりの膝は地面に擦れて皮がめくれていた。血も少し滲んでいる。
「膝を擦り剥いたな。よし、乗れ」
 クルリとゆかりに背を向けて座る露里。
「え?」
「乗れと言っている。保健室に行こう」
「い、いいです、歩けます!」
 ゆかりはぶんぶんと両手を振った。他の部員もランニングをやめ、こちらを見ている。ゆかりの耳が真っ赤になった。
「乗ってくれないと、先生が格好悪いじゃないか。先生、姫宮に嫌われてるみたいだぞ」
「そ、そんなことありませんけど・・・・」
 ゆかりは顔を真っ赤にしながら露里の肩に手を置き、背中に体重を預けた。
「よっ!」
 両脚が抱え上げられ、体が浮いた。
(うええ〜ん、恥ずかしいよぅ)
 他の部員が自分を見ている。きっと顔は真っ赤なんだろう。開脚姿勢も格好悪い。
 ゆかりの胸はドキドキが止まらなかった。

 保健室のドアを開けると、いつもの保健医ではなく、出雲巳弥がいた。
「出雲、どうした?」
 露里はゆっくりとしゃがんでゆかりを降ろす体制になりつつ、巳弥に尋ねた。
「気分が優れなかったので、少し横になっていました。もう大丈夫です」
「そうか。井之坂先生は?」
「先程出ていかれましたが」
「そうか・・・・実は姫宮が怪我をしたんだ。手当をしたいんだが」
 露里はゆかりを椅子に座らせると、薬を置いてあるガラスケースの方に歩いていった。
「あ、いいです先生、自分でしますからっ」
 ゆかりが腰を上げようとした時、手にガーゼを持った巳弥がしゃがみ込んだ。
「先生、そこの消毒液を」
「あ? ああ。これか?」
 露里に消毒液の瓶を受取った巳弥は、蓋を取ってガーゼに薬を染み込ませ、ゆかりの擦り剥いた膝を拭った。
「いたっ」
「我慢して」
 簡単な作業だが、保健の先生より手早いのではないかと思える巳弥の処置だった。
「よし、今日はもう安静にして帰れよ、姫宮」
 薬を付けて四角い大き目の絆創膏を貼ってもらったゆかりは、やっと顔の赤さが引いてきた。
「あ、ありがとう」
「たいしたことはしていないわ」
 そっけなく答える巳弥に、ゆかりは次の言葉が出なかった。
「先生も、その、運んで頂いてありがとうございます」
「何だ、改まって。先生だからな、当然だ」
「あ・・・・そ、そうですね、先生だから・・・・ですよね」
(何言ってるんだろう、ゆかり。何でガッカリするんだろう。あたしだから、先生は親切にしてくれたんだって思いたかったの?)
「それじゃ、先生は部活に戻るからな」
「はい・・・・」
(でも今のゆかりはただの子供)
 露里が出て行き、ピシャっと保健室のドアが閉まってゆかりは保健室の椅子に巳弥と2人きりになった。
(ユタカと別れて1年。こんなに胸がときめくことなんてなかったな)
(今のゆかりが、13歳じゃなかったら・・・・)
「私も帰るから」
 目も合さずに出て行こうとする巳弥に、ゆかりは声を掛けた。
「今日は一杯お話したね、出雲さん」
「・・・・ええ」
「また明日」
「・・・・ええ」
 巳弥の出て行ったドアが静かに閉まった。

 膝の怪我は何とか我慢できる痛みだったので、ゆかりは透子が本を読んでいるという図書室に向かった。露里には帰れと言われたが、学校を見張る任務のため、部活がほとんど終わる時間まで学校に待機していなければならない。
 ゆかりはかつてこの中学に通っていた時も、図書室にあまり入ったことがない。ゆかりが卒業して10年余りの間にこの図書室も建て直しが行われていて、新しい図書室に入るのは初めてだった。何となく緊張しながら入り口のドアを開けると、図書室独特の匂いと空気が漂ってきた。当然のことながら、静かだ。
(えっと、透子は・・・・)
 ゆかりがキョロキョロしていると、近くの机に座っている男子生徒2人が何やらヒソヒソと話しをして、図書室の奥の方を見ていた。
(何だろ?)
 ゆかりが2人の視線を追うと、その先には薄いカーテンから差し込む木漏れ日を浴びて、スヤスヤと平和そうな顔で眠っている透子がいた。
「可愛いなぁ、藤堂院さん」
「無防備な寝顔が何ともいえないよ」
(・・・・どうしてあの子は寝てるだけで絵になるわけ?)
 ゆかりはあまり音を立てないように透子の眠りこけている机に近付いた。
(寝てたら監視にならないでしょうが。宝玉に関する手掛かりを見つけるためにわざわざ毎日、遅くまで残ってるっていうのに)
 ゆかりは椅子をそっと引き、透子の向かい側に座った。
「だめだよ透子、本の上で寝ちゃ・・・・あれ?」
 本の下に、封筒らしきものが挟まっていた。
(手紙でも書いてたのかな? 誰にだろう)
 興味を持ったゆかりは、封筒の端をつまんで少しだけ引き出してみた。
(藤堂院透子様・・・・って、透子宛だ。誰から!?)

「ん〜・・・・」
 寝起きの透子は運動能力が極端に低下する。
「透子、早く帰ろうよ」
「そんなに急がなくても・・・・」
 セリフまで遅かった。
 ゆかりと透子が靴箱で靴を履き替えていると、クラブを終えたタカシが通りかかった。ちなみに彼はサッカー部に所属している。
「透子、どうするの? ラブレターの返事」
(ラブレター!?)
 2人を見かけて声を掛けようとしたタカシは、ラブレターという単語を耳にして立ち止まった。
「無視」
「ええ〜、可哀想だよ! せめて返事してあげないと。きっと、一所懸命書いたと思うよ、勇気を出して書いたと思うよ」
「・・・・ゆかり、経験あるような言い方だね」
「あ、いや・・・・」
「だいたい、あたしたちがここに来てまだ10日だよ? しかも話したことのない、隣のクラスの男の子。そんな状況で、あたしのどこを好きになったっていうの? 軽々しいの、嫌いなの」
「そりゃ、そうだけどさ・・・・」
(透子も罪な女だよ)
「あたしは、あたし自身を好きになって欲しいの。あたしの中身を好きになって欲しいの! それに、相手は子供・・・・」
 振り向いた時、透子はタカシと目が合った。
「あ・・・・よ、よう、帰りか?」
「うん・・・・」
(聞かれた?)
「じゃ、じゃあな」
 そう言って、タカシは足早に2人の前から姿を消した。
「ゆかり、あたしマズいこと言った? 何か正体がばれるようなこと、聞かれちゃった?」
「大丈夫、多分・・・・」
(それよりも、透子がラブレターを貰ったことをタカシ君は聞いちゃったかも。断るって言ったのを聞いてたらホッとしただろうけど、心中穏やかじゃないかもね・・・・)
 タカシは1年前、ゆかりと透子に出会った。あの時のゆかりんととこたんは、それぞれこの町に一時的に遊びに来ていて、それぞれの家に帰っていったということになっていた。そして1年経った今、ゆかりんととこたんが再び帰ってきたということでこなみとも打ち合わせをして、話を合わせている。
 問題なのは大人のゆかりも子供のゆかりんも同じ「姫野」で、どちらも「姫野ゆかり」なのだ。1年前、ゆかりはタカシにフルネームは教えていなかったのだが、さすがに学校に行くには苗字も必要だ。結局、遠い親戚なので偶然名前が同じになってしまった、ということにして、ゆかりは本名で通うことにした。
「ねぇ透子、タカシ君のことどう思う?」
「タカシ君? うん、歳の割には冷静に物事を判断できる子だと思うわ」
「や、そうじゃなくて・・・・」
「ん?」
「・・・・いいや、早く帰ろう・・・・」

 3rd Love へ続く



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