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35th Dream 「楽園」
「そんなことをしたら、華代さんが悲しみます」
「陳腐なセリフだ・・・・死んだ人が悲しむものか」
「でも、生き返らせるんでしょう?」
「・・・・聞いていたのか?」
「スリープモードになっても、外部の情報収集は絶えず行っています」
「そうか・・・・君はロボットだったな」
「アンドロイドです」
「どっちでもいい。作り物に僕の気持ちが分かってたまるか」
「華代さんを生き返らせようとすれば、鵜川さんの命が危ないって言ってましたね」
「華代が生き返るなら、俺はどうなってもいい」
「駄目です」
鵜川の腰に回されたあずみの腕に力が入った。
「華代さんが可哀想・・・・」
「なっ・・・・どうしてだ?」
「鵜川さんが命を賭けて華代さんを生き返らせたとします。再び生を受けた華代さんはこう思うでしょう。私のせいで、鵜川さんが死んだって・・・・」
「・・・・」
「華代さんはそれで幸せになれますか? 華代さんがいない世界なんて、と思っている鵜川さんと一緒です。華代さんも、鵜川さんのいない世界に生き返っても意味がないんです。悲しいだけなんです。淋しいだけなんです。今の鵜川さんの悲しみや淋しさを、華代さんに押し付けるのはやめて下さい」
「・・・・悲しみを・・・・押し付ける・・・・僕が、華代に・・・・?」
マジカルソーは元の大きさに戻っていた。そっとあずみの手を持つと、温かさが伝わってくる。
「あずみ君・・・・」
あずみがずっと側にいてくれた夜を思い出す。
「君が・・・・」
「えっ?」
「それなら君が華代の夢を叶えてくれ、僕と一緒に。君なら出来る。子供たちが他人を傷つけることなく幸せに暮らす未来を作れるはずだ。僕と一緒に生きてくれ」
「でも、私は・・・・」
「ロボットだと言うのか?」
「アンドロイドです」
「どっちでもいい。僕が心から必要だと思った人だ。人間とか、アンドロイドとか、そんなことはどうでもいい」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
怪しげな雰囲気になりつつある会話に、たまらず莉夜が鵜川に向かって叫んだ。
「あずみちゃんは私が連れて帰るの! 勝手に話を進めないで!」
莉夜を睨み返し、鵜川はあずみの肩を持って抱き寄せた。
「返しはしない。彼女は僕と生きて行くんだ」
「あんた、馬鹿? あずみちゃんは可愛くて優しくていい子だけど、だからって・・・・」
「心さえ通い合えば、人間でもアンドロイドでも一緒だ。生殖機能があるかどうかだけの、取るに足らない違いだけだ。そうだろ、あずみ・・・・君?」
鵜川の腕の中で、あずみは再びぐったりと項垂れていた。
「あずみ君!?」
「だからぁ、あずみちゃんはエネルギー切れなんだってば! 早く帰って補給しないと、どうなっちゃうか分からないんだよ! まだエネルギーを切らしたことなんてないんだから!」
莉夜の後を受け、ユタカが口を出す。
「夢を追うのは勝手だ。だがその子を道連れにするのはやめろ」
「駄目なんだ、僕の夢はあずみ君がいないと・・・・」
「お前の夢がどんなものか知らないが、他人を巻き込んで許されるほど崇高なのかよ!」
ユタカが地面を蹴った。鵜川のマジカルソーを奪おうと手を出す。
「僕と華代の夢を、お前たちのつまらない夢と一緒にするな!」
マジカルソーが光を放った。
あっと言う間に、鵜川とあずみを中心とした半球体が辺りを覆い尽くす。
(・・・・!)
ゆかりは気が遠くなり、その場にバッタリと倒れた。痛みを感じる間もなく意識が遠のいてゆく。
目を開けていられないほどの風が顔を叩く。
空はどこまでも青く、高く、遠い。
雲を突き抜けると、水滴が身体に心地良い。
果てなく広いこの空を、何事にも縛られず自由に飛んで行きたい。
背中には愛する人の温もりを感じて。
幸せだった。
このままずっと飛んでいたい。莉夜は目を細めて太陽の日差しを浴びた。
スタンドを埋め尽くす観客、競技場に響き渡る大歓声。
味方の放ったコーナーキックが絶妙なカーブを描いてゴール前に飛ぶ。
フェイントで敵のディフェンスをかいくぐり、ボールに向かって走る。
ボールにジャンプのタイミングを合わせた。敵も競い合って飛び上がるが、こちらのジャンプ力が勝った。
ボールが敵陣のゴールに突き刺さる。後半のロスタイム、勝ち越しのゴール。
同時に試合終了のホイッスルが鳴る。
大歓声が自分に向けられ、生田崇はガッツポーズでファンに応えた。
スポットライトを浴び、ファンの声援を受け、ステージに踊り出る。
軽快なポップス調の新曲は、初登場でCD売上げ1位を獲得した。新人賞は間違いないと言われている。
「L・O・V・E・ラブリーこなみ!」
古臭いコールが聞こえ、芳井こなみは歌の最中にも関わらず吹き出しそうになった。
三千人の観客を前に歌い、踊り、跳ねる。
夢のような時間。いつまでも歌っていたい、そんな気がした。
鵜川は動かないあずみの頭を膝に乗せ、うさみみ中学の校庭にあるベンチに腰掛けていた。校庭にはゆかり達がめいめいの方角を向いて倒れている。
息があるので死んではいない。
「やはりくだらない夢ばかりだ・・・・」
倒れている者はみな、夢を見ていた。鵜川の魔法によるものだった。辺りは薄いグレーの球体に覆われている。いわばこのドームの中は鵜川の「オタ空間」だった。
「みんなくだらない・・・・自分さえ良ければ、有名になれば、金持ちになればいいと思っている、自己中心的な夢ばかりだ」
鵜川は夢を見させ、その夢に介入することで夢を覗き見ていた。これは鵜川がこうしようと思ったわけではなく、気が付けば魔法が発動し「ドリームドーム」が出現していたのだ。
「夢の世界は甘美だ。出来ることなら、もうこの現実には戻りたくないと思えるほどに美しく、楽な世界だ。君たちはこのまま目覚めることはない・・・・現実の世界に戻って来ようとする心なんて持てなくなる。そう、君達はもう絶望の世の中に戻ってこなくてもいいんだ。感謝して欲しいよ。君たちはずっと幸せの中にいられるのだから」
そんな鵜川の言葉を、誰1人として聞いている者はいない。
「さて、邪魔者もいなくなったことだし・・・・僕は僕の夢を叶えに行くよ」
あずみの頭を膝から下ろし、ベンチに横たわらせる。
「ここで待っていてくれ。理想の世界を作りに行ってくる。なに、この魔法の力を使えばすぐさ。その後は・・・・君達は悪い人じゃない。全てが終われば魔法を解いてあげるよ。それとも、解かない方が幸せなのかな」
自分の夢を叶えるマジカルソーを握り締め、立ち上がる。
「せいぜいいい夢を見るんだな」
ドリームドームの外にでようとした鵜川は、地面に倒れている岩原少年を見付けた。
(今なら、邪魔者はいない)
鵜川の手には魔法のノコギリがある。これで寝ている少年の息の根を止めるのは容易いことだ。
少年の首にノコギリの歯を当てる。
(・・・・・・・・)
後ろを振り向く。ゆかり、透子、巳弥、こなみ、みここ、莉夜、ユタカ、タカシ、倉崎、そしてあずみ、全てが夢の世界へ行っており、誰も自分を止める者はいなかった。
(今ならやれるんだぞ。華代のかたきが取れるんだぞ)
ノコギリの柄を持つ手に汗が滲む。
喉が乾く。
(・・・・何を躊躇っているんだ、僕は)
静まり返った世界で、自分の鼓動だけが聞こえる。
(そうだ・・・・こいつも人並に夢を見ているはずだ。どんな夢を見ているのか、覗いてやろう。止めを刺すのはそれからでも遅くはない)
鵜川は少年の頭に手を翳した。
(・・・・)
真っ白な世界。音もない、何もない、誰もいない。
(どんな夢なんだ、これは?)
人を殺すことを何とも思っていない、無差別に殺人を犯す、それに喜びを感じる。鵜川は少年の夢をそんな世界だと思っていた。残虐かつ無残な光景を見ることになるかもしれない、そんな覚悟を持って少年の夢の世界に入った。
だが、この世界には何もなかった。
(あいつは夢を見ない・・・・? 夢とは希望だ。あいつには未来に希望を持っていない、そういうことなのか?)
しばらく歩いていると、鵜川は遠くに1件の家を見付けた。平屋の一戸建てだ。周りには何もない、白い空間だった。ただ一軒家がポツリと建っていた。
(なぜ、あんな所に家が?)
窓からは明かりが漏れている。鵜川はその家に近付き、窓から中をそっと覗き見た。
(・・・・?)
少年がいた。更に母親と父親らしい人物が一緒に食卓を囲んでいる。
豪勢な食事をする夢なのかと思ったが、食卓はごく普通のラインナップだ。ハンバーグ、サラダ、味噌汁。おかずも決して多いとは言えない。
(これから、何かいいことが起こるのか?)
鵜川はその一家団欒の食事をしばらく眺めていた。見付からないようにと少し離れた場所から見ていたのだが、相手には自分の姿が見えないのだということに気付き、窓に近付いて様子を伺うことにした。
五分、十分。ひたすら普通の一家団欒が続く。
(・・・・まさか)
鵜川はその光景の中で、意外なものを目にしていることに気付いた。今まで見たこともない、想像すらしなかったもの。
少年の笑顔だった。
(笑っている? あいつが?)
何を言っても、何があっても無表情だった少年。それが今、自分の目の前で笑っている。
(どういうことだ? あいつが笑顔になる理由がこの食卓のどこにあると言うんだ? どこをどう見ても普通の家族の食卓でしかない・・・・)
まさか・・・・。
普通の食卓。
普通の団欒。
普通の家族。
(それがあの少年の望み、夢なのか?)
(そんなありふれた、当たり前の、普通のことが・・・・)
家の中では食事の時間が終わり、少年は父親と一緒にテレビ番組を見て笑っていた。母親は食事の後片付けをした後、洗濯物を畳んでいた。どこにでもあるような、普通の家庭の光景。
(あいつは・・・・そんな当たり前のことが・・・・当たり前ではなかった・・・・)
「子供の頃の環境が、人格形成においてとても重要なのよ」
華代が言っていた言葉だ。
(一体どんな人生を、あいつは送ってきたんだ・・・・)
だが、だからと言って、あいつの罪がなくなるわけではない。
しかし、あいつだけが悪いのだろうか。あんな風にした全ての環境が・・・・。
だとしても、あいつ自身が華代を殺したことに変わりはない。
変わりはないんだ!
「・・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・・」
気が付くと、鵜川は少年の夢から現実の世界へと戻っていた。
「僕は・・・・かたきを・・・・取るんだ・・・・華代を僕から奪った、あいつをこの手で・・・・」
額の汗を拭う。
魔法のノコギリを手に取る。
再び少年の前に立つ。額から流れた汗が目に入った。
「僕以外、誰も・・・・いないんだ・・・・」
ゆかりは自分の背丈が縮んでいることに気付いた。
(あれ・・・・?)
中学生どころではない、ゆかりの身体は小学生低学年の頃のそれに戻っていた。
(ここは・・・・)
ゆかりは自分がいて、目の前に幼い自分が立っていることに気付いた。つまり、ゆかりが2人いるのだ。
(あれ、あれはゆかり、私もゆかり?)
だが目の前にいる6〜7歳のゆかりの格好は、今の彼女のファッションからは想像できない服装だった。飾り気のない、少し汚れた無地のTシャツにGパンというラフなスタイルだ。他人が見れば今のゆかりと同一人物とはとても思えない。
「ゆかり」
幼いゆかりに呼び掛けてきた女性がいた。手にはフリフリでピンクのワンピースを持っている。子供用だった。
(お母・・・・さん?)
ゆかりの母はゆかりが小さい頃に亡くなっている。そう、丁度目の前のゆかりの年齢の頃だ。
「またそんな格好をしてるの? ねぇゆかり、せっかく女の子に生まれたんだから、可愛い服を着なきゃ損よ。女の子は男の子の服を着れるけど、女の子の服は女の子にしか着れないのよ。ほら、着てみて。可愛いでしょ?」
「いやだ、そんなの恥ずかしいよ」
だがゆかりは母が差し出したフリフリのワンピースを振り払った。
目の前のゆかりは、本当にゆかり自身なのだろうか? 自分があんな格好をしていることも、ワンピースが「恥ずかしい」と言う事も、今のゆかりには信じられなかった。
「可愛いのに・・・・」
母はしょんぼりとした様子で、可愛いワンピースを持って部屋に戻った。
「お母さんは着たくても着れなかったの。だからゆかりにはめいっぱい可愛い格好をして欲しいの。私の分まで。せっかく女の子に生まれたんだもの、女の子を楽しまなきゃ」
ゆかりはよく近所の男の子とサッカーやドッジボールで遊んでいた。フリフリのワンピースなんか着ていては、思い切り遊べない。仲間に入れて貰えない。一度だけスカートを履いて行ったのだが「女なんか入れてやらないぞ」とはじき出されてしまった。転校してきて間もないゆかりはせっかく出来た友達を失いたくなくて、仲間外れになるのが嫌で、それ以来スカートを履かなかった。
ある日、父親の岩之助に言われたことがある。
「ゆかり、たまには母さんの買った服も着てやれ。あいつ、この間なんてゆかりの服を買うのに2時間も選んでたんだぞ。それに付き合わされたお父さんの身にも・・・・いや、それはどうでもいいんだが、母さん、お前があの服を着ているのを想像して嬉しそうだったぞ。『きっとゆかりに似合うわね』ってな」
そこまで言われると、ゆかりも「着てあげてもいいかな」と思う。遊びに行く時はいつもの服装に着替え、家にいる時はお母さんの買った服を着てあげればいいんだと思った。母の買って来た洋服を断った時の、悲しげな表情だけが頭に浮かんでくる。ゆかりも、母の喜ぶ顔を見たい。そうと決れば善は急げだ。ゆかりは今日、早速家に帰って母の買った洋服を着てあげようと思った。授業が終わることが非常に待ち遠しかった。
そんな中、授業を受けていたゆかりにある報せが舞い込んだ。
「お母さんが事故?」
その後、どうやって病院まで行ったのか覚えていない。大人に連れられ、車に乗せられ、いつの間にか病院の廊下に立っていた。
「お父さん、お母さんは? お母さんはどこ?」
岩之助は何も言わず、ただゆかりを抱き締めるだけだった。ゆかりはこの時、初めて父の嗚咽を聞き、涙を見た。
「ゆかり」
ゆかりは母の買った、ピンクのフリフリワンピースを着て座り込んでいた。
もうすぐ母の葬儀が始まる。だがゆかりはその服を着ると言って聞かなかった。
「ゆかり、早く着替えてくれ。今日はみんな、黒い服を着なきゃいけないんだぞ」
「いや。お母さんに見せるんだもん」
ゆかりは歯を食いしばってそう答えた。
喪服の立ち並ぶ中、ゆかりだけがピンクのワンピースだった。
ねぇ、お母さん。見て、似合うかな。
ゆかり、女の子っぽいかな。
お母さんのお部屋に、ゆかりのために買ってくれたお洋服がいっぱいあったよ。
全部、着るからね。
女の子っぽくなるから。
だからお母さん、笑ってくれるよね。
ゆかりのこと、嫌いにならないで。
ずっと可愛いゆかりでいるから。
お母さんは「フリルが似合うのは子供の時だけなんだよ」って言ったけど。
ゆかり、ずっとフリルを着る。
だって、ゆかりはずっと女の子だもん。
女の子でいる間は、ずっと可愛いゆかりでいる。
だからお母さん、ゆかりを嫌いにならないで。
ずっと笑っていて。
数日経っても、まだ母の死が現実だと思えなかった。
ボーッとテレビを見ていると、人気アニメ番組の中で魔法のステッキを振り、ゆかりの着ている洋服のようなフリフリの格好をした少女が呪文を唱えていた。すると、目の前に倒れていた少年が起き上がった。
「あれ、もう痛くないや。君が助けてくれたの?」
先程まで重傷だった少年の傷は嘘のように消えていた。
「凄いんだね、魔法って。素敵な力だよ。ありがとう」
魔法・・・・。
それが使えれば、ゆかりのお母さんも・・・・?
「ゆかり、魔法少女になる!」
一度でいい。
母に今の自分の姿を見せたかった。
鵜川は少年の首にノコギリを当てたまま、立ち尽くしていた。
「もう、やめようよ」
いきなり背後から聞こえた声に驚く。みんな鵜川の魔法により寝てしまっていて、起きている者などいないはずだった。だがそこにはゆかりが「魔法の孫の手」を持って立っていた。
「君、どうして・・・・」
「誰かに止めて欲しかったんだよね」
「なぜ起きているんだ・・・・?」
「その男の子は寝ているし、他のみんなも寝たままだから、邪魔者もいない。殺そうと思えばいつだって殺せたのに、あなたはそうしなかった。あなたは人を殺せない。優しい人だから、人を殺すなんて出来ない。でも敵討ちをやめてしまったら、華代さんに悪いから自分から放棄するわけにいかない・・・・だから、誰かに止めて欲しかった」
「何故、起きているのかと聞いてるんだ! 夢の中の楽な世界から、どうしてこの現実に帰って来た!? 何でも望みが叶っただろう? 苦労なんてなかっただろう? どうして辛くて悲しいこの世界に戻って来たんだ!」
「楽しい世界じゃなかったよ。だってゆかりの夢は、この世界にあったから」
「・・・・この世界のどこに、夢や希望があると言うんだ。毎日毎日事件が起きる。自分勝手な事件ばかりだ。どいつもこいつも、自分のことしか考えていない。どうすれば金が手に入るか、どうすれば自分の欲求を満たせるのか、どうすれば自分が楽になるのか・・・・相手のことなんて、何も考えてはいない。なのに、なのに・・・・」
「ありがとう」
「な、なぜ礼を言う」
「忘れちゃってた、ゆかりの夢を思い出させてくれたから。ううん、忘れちゃったんじゃなくて、どうしてそれが夢になったのか、小さい頃だったから忘れてたんだ。そして、戻って来れた。これがゆかりの夢なんだってことに気付いて」
ゆかりは「魔法の孫の手」を胸に抱いた。
(ゆかりだって、お母さんにもう一度会いたい。でもそれは・・・・)
「くそっ!」
鵜川は少年から少し離れ、ノコギリを振り上げた。
「僕が躊躇っていたのはこいつを殺せないからじゃない、ノコギリで直接手を下して血が出るのが嫌だっただけだ! 魔法で攻撃してやる、そうすれば・・・・」
マジカルソーから魔力が放出されてゆく。青白いその光はやがて凝縮され、光の球となった。
「これでやってやる!」
マジカルソーから少年に向かって光が伸びる。
「マジカル・リゾリューション!」
ゆかりがダッシュし、少年と鵜川の間に割り込んだ。少し寝たおかげで、孫の手の魔力は少しだけ回復していた。
「フェアリー・ナイト・ムーン!」
孫の手でマジカルソーの光を受け止める。光はFNMによって孫の手に当たると同時に魔力の粒へと分解されてゆく。だが少しでも気を抜けば、光の刃がゆかりを襲うだろう。
「そこをどくんだ、君がそいつを庇う理由はないはずだ! 君が死んでしまうぞ!」
「平気だよ、あなたはゆかりを殺す気なんてないもん。手加減してるもんね、鵜川さん、優しいから」
「馬鹿を言うな! 誰が優しいものか!」
「だったら、どうしてそんな悲しい目をしてるの?」
「・・・・!」
マジカルソーの攻撃が止んだ。振り上げていたマジカルソーを持つ手がゆっくりと下がってゆく。ゆかりはその機を逃さず、身動き出来ないようにマジカルロープで鵜川の身体を縛り上げた。
「ぐっ!」
「大人しくして! マジカルアイテムをこっちにちょうだい!」
「くっ・・・・」
鵜川は側にあるベンチに目をやった。幸せそうな顔で、あずみが寝ている。
「大人しく・・・・」
マジカルアイテムを奪い返そうと鵜川に近付いたゆかりだったが、両手両足を縛っているので逃げられはしないと思っていた鵜川がいきなり消失した。ロープだけがそのまま地面に落ちる。
「き、消えちゃった!?」
慌てて駆け寄ったゆかりだが、鵜川の姿はどこにもなかった。
「引田テンコーみたい・・・・」
Final Dream へ続く
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