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34th Dream 「虹の奇跡」
浮かび上がったシルエットには、ラビットグンダムを思わせる耳が付いていた。だがそのボディカラーはブラックキャットと同じくつやのある黒一色に染められている。
「おお・・・・」
立ち上がったそのMSは、巨大なジェノサイドグンダムと同等の大きさを誇っていた。耳がある分、その体高はジェノサイドを僅かに上回っている。
コクピットには、ゆかりと透子が搭乗していた。
「で、どうして2人なのにシートが1つなわけ!?」
シートに座った透子の膝の上に、ゆかりが乗っかる形となっている。
「すまない、俺は2機合体だから当然2人乗りだと思ってたんだが、倉崎君は1人乗りだと思っていたようだ・・・・」
そんなユタカの言い訳を聞いている暇はない。透子はゆかりを膝の上に乗っけたままジェノサイドに向かって飛んだ。背中の2枚の羽根が、ウサギの耳を思わせた。
「マッハジェットパ〜ンチ!」
腕の装甲が開き、内蔵されたバーニアが火を吹く。加速されたパンチがジェノサイドの脇腹に突き刺さった。
「ぬおっ!? 更に出来るようになったな、ウサギ!」
コクピットにまともに衝撃を受けた大河原は、シートから放り出されそうになりながら堪える。ジェノサイドは地響きを立てて転倒した。それを見てタカシが歓喜の声を上げる。
「すげぇ、あのでかいのを殴り倒したぞ!」
新しいMSの姿を見て、ジーエムの中でみここが倉崎に向かって呟いた。
「あれは・・・・」
「ラビットとブラックキャットが合体して出来たMS、その名も『クロウサギ』だ」
「クロウサギ・・・・」
「さぁみここ君、あのMSのコードネームを叫んでくれ」
「コードネーム?」
「愛称だよ」
「えっと・・・・いいんですか、私が付けても」
「いいんだ」
起き上がったジェノサイドがクロウサギにビームガトリングを一斉照射した。それをシールドで受け止め、クロウサギはグラウンドに突き刺さった斬艦刀ブラッディ・ギロチンを抜き放った。その重みで振り被ることも出来なかったダークエンジェルとは違い、天高く大剣を構えてジェノサイドに突進する。その姿をみて、みここが叫んだ。
「行っけ〜、う〜ちゃん! 悪者をやっつけちゃえ〜!」
その言葉を受け、クロウサギが飛び上がる。
「おっけ〜、みここちゃん!」
振り下ろされたブラッディ・ギロチンはジェノサイドの肩口から斜めに、巨大なバックパックごと斬り倒された。
「ぎゃぁぁぁ!」
胴体から切り離されたジェノサイドの上半身が地面に落ちる。下半身だけになったMSには、辛うじて切断を免れたコクピットに座る大河原の姿があった。
「まさか・・・・俺のジェノサイドが・・・・」
「観念しなさい! あなたの負けよ!」
だがゆかりの言葉を無視し、大河原はマジカルソーを握り締めた。
「まだだ、これしきでは負けない!」
「やめて、それ以上は先生の精神が・・・・!」
「これで勝負がついただと!? 否、始まりなのだ!」
みるみる内にジェノサイドの上半身が復元されてゆく。大河原は気を失いそうになりながらも操縦悍を握った。
「小娘に負ける訳にはいかんのだよ!」
「これだから、大人って!」
間髪入れず、ゆかりはブラッディ・ギロチンで今度は足を真横に薙いだ。足を失い前のめりに倒れたジェノサイドが、また再び足を復元して立ち上がる。
「子供は大人の言うことを聞いていればいいんだよ!」
「大人だから子供より偉いって、どうして決め付けるのよ!」
大剣がジェノサイドの胴体を刺し貫き、そのままグラウンドに突き刺さった。手足をジタバタさせるが、足が地面に付かずに虚しく宙をかくだけだった。
「くそ、動け、ジェノサイド!」
「バラバラにしても復元するわ。コクピットに乗り移って、大河原先生を引きずり出しましょう」
透子の提案で、クロウサギはジェノサイドのコクピットハッチに手をかけた。
「フフフ・・・・」
「な、何で笑うの?」
「みんな、死んでしまえばいい。みんな、壊れてしまえばいい。重力に縛りつけられた地球人たちめ。これで終りだ・・・・任務、完了」
「あ、あれは何だ!?」
ユタカがその異変に気付いた。はるか上空に、灰色の塊が見える。それが段々と迫って来ているのだ。
「あの高さであの大きさだと・・・・? まさか奴め、コロニー落としを!?」
コロニー落としとは、グンダムに登場する宇宙の居住システム(コロニー)を地上に落下させるという血も涙もない無差別かつ大量虐殺の作戦だ。
「あんな巨大なもの、あいつが作り出したって言うのか!?」
クロウサギがジェノサイドのコクピットをこじ開けると、そこには気絶した大河原の姿があった。
「気を失ってるよ!」
「最後の力を振り絞ったのね・・・・」
コロニーの落下速度は速い。瞬く間に巨大な鉄の塊が近付いて来た。このままではこのオタ空間全てがコロニーの落ちる衝撃で生じた爆発に巻き込まれてしまう。
「逃げろ、ゆかり、藤堂院さん! くそ、奴は自分もろともこのオタ空間を破壊する気か! 後で取り返しのつかないことをしてしまった、なんて悔やんでも遅いんだぞ!」
(魔法を使った当人は気を失っていると言うのに、何故あのコロニーは消えない? いや、魔法を維持出来ずにこの世界そのものが消えるはずなんだ。奴の執念の成せる技、ということか・・・・)
ユタカの見ている前で、クロウサギが走り出した。
(さて逃げろとは言ったが、こっちはどうやって逃げるか、だな。魔力はクロウサギを作り出すために使い果たしたか・・・・)
ユタカが避難したと思っていたクロウサギは、瓦礫の中からある物を掘り出していた。その威力の大きさに発射したフェアリーテールが大破してしまった諸刃の究極武器、ディザスターランチャーだった。
「な、何をしてるんだ、ゆかり!」
「決ってるじゃない」と、ゆかり。
「あいつを撃ち落とすのよ」と、透子。
「無茶だ、確かにクロウサギならディザスターランチャーを扱えるかもしれないが、ただの一撃も撃つ魔力なんて残っていないじゃないか!」
「あったのよ、それが。魔力がなかったら、作ればいい。あとは魔法を使うもう1つの要素『思い』の力だけ!」
「作ればいい・・・・? 藤堂院さん、何を言ってるんだ?」
「つべこべ言わずに、ユタカも手伝う!」
透子の膝の上で、ゆかりが孫の手を両手で掲げた。
「みんな、ちょっとずつでいい、ゆかりに力を貸して!」
クロウサギは上空から落下してくるコロニーに向け、ディザスターランチャーの照準を合わせる。
「大きいね・・・・」
「怖い? ゆかり」
「ううん、透子と一緒だから」
「あたしも。それに、みんなもいる」
孫の手に、みんなの思いが集まってくる。
巳弥、こなみ、タカシ、みここ、莉夜、そして倉崎。
「俺も信じる! 君たち2人ならやれる! やれ、ぶちかませ、コロニーなんか吹き飛ばせ!」
ユタカの叫びに顔をしかめるゆかり。
「全く、ユタカったら声が大きいんだから」
「ゆかり、ごめんね」
「なんで?」
「ゆかりと相楽君が別れたの、あたしのせいだから。今更だけど」
「何となく、事情があるんだろうなって思ってたけどね・・・・最初は絶対に許さないって思ったけど」
「相楽君ならって思ったけど、やっぱり駄目で・・・・ゆかりに悪いことしたって思って、仲直りするように相楽君に言ったんだけど、もう遅かったよね」
「どっちにしてもユタカは最初、透子の事情を知らなかったんでしょ? 浮気したことには違いないもん」
「あたし・・・・あんなことがあって、男性恐怖症になっちゃって。リチャードが魔法のアイテムを持って現れた時は、魔法で治せるのかなって思った。でもそれは叶わなくて。それならゆかりと同じように子供に戻ろうって。あの出来事を否定したくて、それ以前のあたしに戻ったら、無かったことに出来るかなって。でも無理で・・・・」
「もういいよ、透子」
膝の上のゆかりが振り向いて、微笑んだ。
「ユタカなんかで良かったら貸すから。克服出来るといいね」
「ゆかり、相楽君とよりが戻ったの? 貸すって・・・・」
「え? そ、そんなわけないよ! だってユタカはスケベでオタクでロリコンで・・・・で、でも、透子がゆかりたちを別れさせたことを気にしてるんだったら、仲直りしたってことにしておいてもいい・・・・よ」
「じゃ、そういうことにしておいて。そろそろいくよ、準備はいい?」
巨大なコロニーが間近に迫った。このうさみみ中学全体を飲み込んでしまうような大きさだ。
「どうする気なんだ、ゆかり、藤堂院さん! 信じるとは言ったが、魔力なんてどこにも残ってないじゃないか!」
ゆかりが孫の手を振り上げた。
「マジカル・リゾリューション!」
孫の手が発光し、光が拡がってゆく。
「フェアリーナイト・ムーン!」
クロウサギの羽根が、耳が、フェアリーナイトムーンによって分解されてゆく。その分解されて飛び散った魔力が、ディザスターランチャーに吸収されていった。
「いっけ〜、ディザスターランチャー!」
凄まじいエネルギーがランチャーの砲身からコロニーに向かって射出された。巨大なコロニーにエネルギーの束がぶつかる。
「そうか・・・・! フェアリーナイトムーンによってクロウサギ自らを魔力レベルまで分解し、それをディザスターランチャーのエネルギーに変えたのか!」
「お願い、吹き飛んで!」
「クロウサギの身体がなくなる前に!」
ビームエネルギーがぶつかるコロニーの中心に穴が開いた。その直後、この世の終りかと思わせるような爆音と眩い光が辺りを包んだ。
大河原のオタ空間は消え失せていた。
「ゆかり!」
クロウサギが焼失した場所に、ゆかりと透子が倒れていた。
「ゆかりん!」
「透子さん!」
巳弥、こなみ、タカシ、みここ、莉夜が次々と集まって来た。
「やったぞ、ゆかり! みんな助かったんだ!」
ゆかりを助け起こしたユタカが、顔をぺちぺちと叩く。
「痛いよぅ」
「やったぞ、ゆかり! 俺たちは勝ったんだ!」
「分ったから、叩かないで・・・・」
「でもな、ゆかり。フェアリーナイトムーンがどうして使えたんだ? 魔法はオタ空間が拒否するから使えないはずだろ?」
「この世界にそぐわないものを作ることは拒否するけど、分解するのは問題なかった、ってことじゃないかしら」
ゆかりに代わって、透子が答えた。
「だったら、どうしてフェアリーナイトムーンを直接、あのコロニーに対して使わなかったんだ? 直接分解した方が早かったんじゃないか?」
「ユタカはこのか弱いゆかりに、あの落ちてくるコロニーに立ち向かえって言うの? フェアリーナイトムーンの射程内まで近付いたら、コロニーの落下速度で分解する前にゆかりが潰されちゃうよ」
「あの状況の中で、そこまで考えてたのか」
とユタカは言ったが、2人共そこまで考えてはいなかった。
オタ空間が消えた今、うさみみ中学は激戦などなかったかのような静けさを保っていた。いつも通りの校舎、体育館、中庭、校門がそこにある。
「これでようやく全てのマジカルアイテムが揃ったね」
巳弥がホッとした表情で言った。
こなみが持っている、魔法のドライバー。
みここが持っている、魔法のトンカチ。
倉崎が持っている、魔法の塵取り。
莉夜が持っている、魔法の箒。
大河原が持っている、魔法の・・・・。
「持ってない!」
タカシが叫んだ。気絶している大河原の元へ行き、マジカルアイテムを取り上げようとしたのだが、どこにも魔法のノコギリは見当たらなかった。
「そんな、だって気絶するまでは持っていたはず・・・・」
「鵜川さん!」
みここが超音波ヴォイスで叫んだ。全員が一斉にそちらを向く。
あずみを背負った鵜川が、魔法のノコギリを手にしていた。
「鵜川さん、それ、返して下さい」
みここがやんわりと言った。だが鵜川には返す素振がない。
「魔法って凄いんだね。あんな大きなロボットが壊れても一瞬に復活するんだから。これを使えば、人だって生き返らせることが出来るのかな」
「まさか、鵜川さん・・・・」
「駄目!」
ユタカに抱かれていたゆかりが身体を起こした。
「トゥラビア王が言ってた、命を操作する魔法は使っちゃいけないんだって!」
「使ったらどうなるんだ?」
「自分の命に関わるかもしれないって・・・・王様もよく知らないみたいだった」
「聞いたよな? 命に関わるかもしれないそうだ」
ユタカは振りかえって鵜川に問いかけたが、彼は聞いているのかいないのか、背負っていたあずみを地面に降ろし、側にあった壁に凭せ掛けた。
「素晴らしい力だ、マジカルアイテム」
再びマジカルソーを持つと、鵜川は誰に話し掛けるでもなく語り始めた。
「これがあれば、華代の夢が叶う。そう、夢だ。彼女が生きている時、それは『目標』であり『目指す道』だった。だが犯人の手によってそれは『夢』へと変わった・・・・永遠に叶わない夢へと」
「おいゆかり、誰だあいつは?」
いきなり妙なことを言い始めた鵜川をいぶかしみながら、ユタカが聞いた。
「ゆかりも知らないよ」
「あの人は鵜川さん・・・・警察官です」
ゆかりの代わりにみここが答えた。
「警察の人?」
ゆかりが信じられないという表情で鵜川を見た。
鵜川の独り言は続く。
「夢は決して叶わないものだ。夢とは、寝ている時に見るもの。目覚めれば、現実が待っている。決して叶うことのない目標、達成する自信のない目標を人は『夢』という美しい言葉に置き換える。駄目だった時に『夢だから』と自分に言い訳が出来るように。夢なら、努力しても叶わない。夢なら、諦めがつく。目標と言ってしまえば、達成出来なかった時に自分は無能だと思わなければならないから・・・・」
「何言ってるんだ、あいつは?」
誰に聞くでもなく呟いたユタカの問いに、みここが答えた。
「鵜川さん、恋人を殺されたことがあるんです」
「・・・・だから、生き返らせようっていうのか!?」
鵜川はマジカルソーを高く掲げた。
「華代・・・・この世界は汚れているよ。君がいた時よりも、もっと、ずっと汚れてしまった。君がこの世界を見れば、きっと悲しむだろう。だから、まずこの世界を美しくしなくてはいけないね」
「な、何をする気だ?」
「そうだな、まずは罪を犯してのうのうと生きている奴らをこの世から消す」
鵜川は少年の姿を目だけ動かして捜した。激しいMS戦の最中でも少しも驚いていないかのようにボーっと座っていた少年は、不思議そうに鵜川達を見ていた。
「やはりまずはあいつからか」
マジカルソーが少年へと向けられる。
「だめっ!」
ゆかりが立ち上がり、マジカルソーを構える鵜川の前に立った。
「ゆかり、危ないぞ!」
その前にユタカが回り込み、立ちはだかる。
「何が駄目なんだ?」
鵜川がゆかりを睨む。怖いと言うよりも、悲しい目だった。
「あいつは華代を殺したんだ。なのに、罪を償わない。それなら僕があいつを消すしかないじゃないか。まずはあいつ、それから僕のように大切な人を殺された人の代わりに、僕が悪い奴らを消してやるんだ。悪い奴らは一度捕まってもまた出所する。そしてまた悪いことをする。罪のない人がまた悲しい思いをする。そんな連鎖を、僕が断ち切るんだ。その為にこのマジカルアイテムが僕の手にあるんだ」
「・・・・確かに、世の中にはいなくなった方がいい人もいるかもしれない。でも、だとしても、それを決めるのはあなたじゃない!」
ゆかりは目の前に立ちはだかったユタカの横をすり抜け、再びユタカの前に出た。
「あなたが人を殺していいなんてこと、決してない」
「僕はその権利がある。僕以外に、誰がそれを許されるって言うんだ? 警察も、裁判官も、検事も、弁護士も、みんな仕事で人を裁いている。だから被害者の気持ちなんて、分かる訳がないんだ。僕の立場に立って考えないから、無罪になんか出来るんだ。奴は僕が裁く。僕以外に、裁ける人なんていない」
「それは・・・・ゆかりたちは分からないかもしれないけど、でも、例えば危険な状態だったとか、事故だったとか、故意にじゃなくて人を殺した人もいると思うし、そんな人を1人1人調べるの? この人は悪い人だって、凶悪犯だって、調べてから消していくの? 違うよね、あなたのしようとしてることは・・・・」
「ゆかり」
ユタカがゆかりの肩を持ち、後ろに下がらせた。
「お前は疲れているから、下がってろ。奴に何を言っても無駄だ。ここは俺たちの出番だ。そうだろう、タカシ君」
「ええ・・・・そうですね。女の子たちに任せっきりでしたから」
タカシがパキパキと指を鳴らしながらユタカに並んだ。
「やめて下さい。あなたたちまで殺したくはない。あなたたちに罪はない」
「だったら、大人しくそのマジカルアイテムを渡して貰おうか」
「でも、僕の邪魔をすれば、それは罪だ」
マジカルソーがユタカに向けられる。ビヨン、とノコギリの薄刃がしなった。魔法を使わずとも、立派に殺傷能力はありそうだった。
「あ、あなたは警察官でしょう? 市民を守るのが務めなのでは・・・・」
「警察官だったら、大切な人を殺されても我慢しなきゃならないのか!」
突然叫んだ鵜川から、ユタカは思わず飛び退いた。凶器を突き付けられて大声を出されれば誰だって驚くだろう。
(まずいな・・・・)
ユタカは鵜川を刺激しないように、マジカルソーに注意を払った。
(この騒動の中心である5つのマジカルアイテムの中でも、目の前のマジカルソーが一番やっかいだ。さっきの戦いでも分かるように、こいつの秘めた魔力は無限に湧き出るように思える・・・・もし尋常ではない魔力を持っていただけで、そろそろ底が見えている、という都合のいい状況ならいいのだが・・・・そうでないなら、こちらの魔力はもうほとんどない。ゆかりたちがとった作戦のように魔力を分解して再利用しようにも、もうMSの残骸はオタ空間の消滅と同時に飛び散ってしまっている)
「僕の邪魔をするなよ。君たちに危害を加えるつもりはないんだ。僕はただ、悪い奴らをこの世から消し、華代を生き返らせたいだけなんだ」
「わけ分かんないこと言ってないで、あずみちゃんを返してよ」
莉夜が口を出した。あずみは鵜川の後ろで、壁にもたれて眠っている。
「あずみ君を・・・・? ひょっとして君が『りよちゃん』か?」
「そうだよ。もうあずみちゃんのエネルギーは限界なの! その証拠に、さっきから眠ったままじゃない! 早く帰って、補給しないと」
「エネルギー? 補給?」
鵜川はあずみがアンドロイドであることを知らない。莉夜が何を言っているのか理解できなかった。
「何のことだ?」
「エネルギーの魔石はイニシエートにしかないんだから!」
「莉、莉夜ちゃん・・・・」
みここが莉夜の腕を突付いた。
「あずみちゃんって、その、ロボット・・・・なの?」
「違うよ、アンドロイドで、あたしのお友達だよ」
「え?」
その場にいた莉夜以外の面々が「まじかよ」と思った。誰がどう見ても、あずみは普通の女の子に見える。
「ふにゅ、全然分らなかった・・・・」
みここはあれだけあずみと一緒にいて分からなかったことが、ちょっとショックだった。喋り方、身のこなし、肌の感触、どれをとってもあずみは人間にしか見えなかった。人間であることに疑う余地はなかった。
そんな中で、一番ショックを受けているのは鵜川だった。
「あずみ君がロボット・・・・?」
「アンドロイドだってば」
莉夜の突っ込みは鵜川に届かない。
「ロボットということは、誰かに予めプログラミングされたことしか考えられない、喋れないってことなのか? だとしたら、僕は、作った奴に騙されてたってことなのか? 華代の生まれ変わりだと・・・・あずみ君なら華代の意思を継いでくれると思っていたのに・・・・僕は作り物に心を動かされていたのか・・・・?」
「違うよ! あずみちゃんにだって心はあるんだもん! 作り物なんかじゃない、ちゃんとした心だもん!」
「そんなロボットを作る技術なんか、この世界のどこにもあるものか!」
人間だけじゃない、ロボットまで自分を馬鹿にする。
華代がいない今、あずみだけが自分を分かってくれる存在だと思っていた。
自分の心を理解してくれる人なんて、もうこの世にはいない。
「こんな世界なんて、どれだけの価値があるんだ! 毎日毎日犯罪が起こり、世界のどこかで争いが続き、罪のない人が死んでゆく・・・・未来はどうなる? 罪のない人が死んで罪人が生き残れば、いつか犯罪者しかいない世界になってしまう!」
鵜川がマジカルソーに向かって「望み」を送ると、ノコギリの刃が巨大化した。
「俺は平和な世界を作る。それが華代の望みでもある。邪魔をする奴は許さない!」
「くっ・・・・!」
ゆかりは残り少ない魔力で「ぷにぷにゆかりん」本来のコスチュームに変身した。オタ空間内では変身出来なかったため、久々の変身だ。透子、巳弥も続けて変身する。
「巳弥ちゃん、変身出来るようになったんだね」
「うん、透子さんのおかげ」
「あたしは何もしてないよ?」
魔女っ娘3人が鵜川の前に揃った。
「魔法には魔法で対抗しないと不利だよ、ユタカとタカシ君は下がって!」
「くそ、いいとこ見せようと思ったのになぁ」
やる気になっていた2人だったが、ゆかりの言うようにさすがに素手で魔法に対抗するのは圧倒的に不利だ。
3人娘のようにはいかない初心者「なんちゃって魔女っ娘」みここ、莉夜、こなみはその後ろからマジカルアイテムを握り締めていつでも魔法が使えるように身構えた。
「何故、邪魔をするんだ? 僕がしようとしている事は間違っているか?」
「間違ってはいないと思うわ」
透子のセリフに、ゆかりと巳弥が驚く。
「悪い人なんていなくなればいい。誰にだっていなくなって欲しい人はいる。その気持ちは分かるわ。どうしてあんな人が生きてるんだろう、存在してるんだろうって思う」
(あんな人・・・・?)
ゆかりは透子の言い方が気になった。「あんな人」と表現するからには、特定の人を指しているのだろう。
透子は会話を続けている。
「そう、悪い人がいなくなるのはいいことよ。ただ、あなたが消そうとしている人が、本当に消されなきゃならないほど悪い人なのか、それをあなた1人で判断するのは間違ってる。人が人を裁くってことは、そんなに簡単なものじゃない。簡単じゃないから・・・・」
「子供のくせに、説教する気なのか。何も知らないくせに」
「じゃあ、あなたは何でも知ってるの? 自分1人で善悪を判断出来るほど偉いの? 正義なんて、所詮みんなの中に1つ1つあるもので、これが正義なんだよ、って決められるものじゃない。それを魔法なんて理不尽な力を使って人に押し付けないで」
「この・・・・!」
鵜川が巨大化したマジカルソーを振り上げた。だが、それは振り下ろされることなく空中に止まった。
「あずみ・・・・君」
「やめて下さい、鵜川さん」
ずっと眠っていたあずみが、鵜川を後ろから抱き止めていた。
35th Dream へ続く
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