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タイトル


 33th Dream 「REBIRTH」


 ユタカはぐるりと辺りを見回した。
 ゆかりはここにいる。透子はルシフェル、こなみはデビルファミリアの中だ。巳弥のマジカルアイテムは自分が持っている。みここは鵜川やあずみたちと一緒に中庭にいる。ユタカは知らないが、魔法の箒を持っている莉夜もその光景をボーゼンと見ているだけだった。
「君は誰だ? ひょっとして、倉崎君か?」
 ジェノサイドの外部スピーカーを通じて、大河原が謎のMSに話し掛けた。
「ええ、その通りですよ先生」
「やはり倉崎君か。今まで何をしていたんだ? それに、その弱そうなMSは何なんだ。俺が用意してあげたギルティグンダムはどうしたんだ?」
「あぁ、あれですか」
 倉崎は鼻で笑いながら言った。
「あんなもの、乗れるわけがないでしょう」
「どういう意味だ?」
 大河原が倉崎に与えた「ギルティグンダム」は、彼のお気に入りだった。だが実際に倉崎が乗って現れたのは平凡な量産型の機体で、しかも「ギルティグンダム」のことを「あんなもの」と言う。大河原は倉崎の態度にムッと来た。
「あんなものとは、どういう意味だ?」
「そうですね、理由は色々あるのですが・・・・まずあの昆虫のような羽根は何ですか? あんなものでは飛べないし、その内側にある4枚の薄い羽根には全くもって意味がない」
「今やMSに翼は常識なんだぞ! 特に主役機はほとんど翼を持っている」
「肩やかかとの出っ張りは動くのに邪魔なだけですね」
「尖がってて格好いいじゃないか! 鋭く尖った者というのがギルティグンダムの特徴なのだ!」
「それに武器であるロングライフルですが、あんなに長いと使い辛いですよ。小回りも利かないし実用的ではない」
「長距離支援型MSなんだ! だいたいそれは何だ!? 偉そうなことを言って、お前のそれはただの量産型MS『ジーエム』そのまんまじゃないか!」
 TVアニメのグンダムに登場する量産型スタンダードMS「ジーエム」は、主人公MSの土台となった機体で、コストパフォーマンスに優れるが火力が弱く、装甲がもろい。倉崎の乗っているMSはまさにそのジーエムそのものだった。
「ええ、ジーエムですが。それが何か?」
 倉崎の駆るジーエムが手足を動かす。大地を揺るがすジェノサイドと違い、その動きは軽やかだった。その自分の機体の腰までしかない小型MSを見て、大河原はため息をついた。
「分った、分った。個人の趣味までは詮索しないことにしよう。その小回りの利くMSでその辺りにあるマジカルアイテムを回収してきてくれないか」
「いいですよ。但し、あなたを倒してからだ」
「なに?」
 少し屈んだかと思うと、ジーエムはジェノサイドの真正面に飛び上がった。そのままビームガンを構え、狙いを定める。
「く、倉崎・・・・何の冗談だ?」
「先生も、意外とお甘いようで」
 ジェノサイドグンダムの頭部がビームによって貫かれ、爆音と共に吹き飛んだ。
「きさま、くらさきぃぃぃぃ!」
 大河原は頭部を瞬時に復活させると、ジーエムに向かってビームガトリングを撒き散らした。
「遅いんだよ!」
 倉崎はジェノサイドの股下に潜り込むと、膝に向かってビームガンを撃った。ジェノサイドは「膝かっくん」をされたような形になり、たまらず転倒する。
「おのれ、ちょこまかと!」
 だが後ろに引っくり返ったジェノサイドは、背負ったバックパックの巨大さゆえに起き上がることがままならない。その隙にも倉崎は脚や腕の関節だけを狙ってビームガンを撃ち込んでゆく。
「どれだけ装甲が厚くても、関節はそうはいかないだろう」
「く・・・・倉崎〜!」
 自分に比べて貧弱なジーエムの前に、ジェノサイドは手も足も出せない亀のようだった。
「なぜだ、なぜだ! 倉崎! 俺はお前よりグンダムオタクのはず、グンダムの知識では俺が負けるはずはないんだ! なぜ俺が負ける? お前、さては俺に負けず劣らずグンダムオタクだったのか!?」
「違いますよ。グンダムオタクだったことが、あなたの敗因なんです」
「なん・・・・だと?」
「あなたはオタクが故にグンダムの見かけにこだわった。いかに格好良く見せるかにね。僕は兵器として考え、実戦を想定してこのジーエムを作ったんですよ。それにあなたはグンダムを映像で見ているだけだ。だが僕は日頃からゲームセンターで、このような筐体を使用したロボットシミュレーションを幾度となくプレイしてきている。実戦と、机上の空論とは違うんですよ、先生。あなたはただ与えられたストーリーを、キャラクターを、ロボットを映像で受け入れているに過ぎないんです」
 軽快なゲームミュージックに乗ってジェノサイドを翻弄するジーエムは、遂に仰向けになったジェノサイドに乗り、コクピットにビームガンで狙いをつけた。
「動けば撃ちます。この距離だと先生の体は跡形もなく消滅しますよ」
「君の冗談にはセンスがないな」
「それはそうですよ、僕は本気ですからね。さぁ先生、マジカルソーを渡して貰いましょうか」
「やるな、あいつ」
 ジーエムとジェノサイドの戦いを見て、ユタカが唸った。
「奴の言うことはいちいちもっともだ。俺の作ったMSも見掛けにばかり気を取られ、実戦向きではなかった。認めたくないものだな、自分自身の若さゆえの過ちというものは」
「とりあえず使ったら機体が壊れちゃったり、大きくて持てないような武器は論外だよね」
 ゆかりの言葉がユタカの心にグッサリ突き刺さった。
「ところでゆかり、あのMSに乗ってる倉崎とは誰だ?」
「うんとね、ゲームオタクの子だよ」
「奴がマジカルダストパンの持ち主か・・・・ジェノサイドを倒したってことは、味方と考えていいのか?」
「う〜ん、悪い子じゃないはずだよ」
「だといいがな」
 ジェノサイドのコクピットハッチが開き、大河原が顔を出した。手にはマジカルソーが握られている。倉崎はビームガンで大河原を狙ったまま「それをこっちに向かって投げて下さい」と言った。
「危ない、倉崎さん!」
 思い切り甲高い、みここの叫びがここにいる全員の耳に届いた。
 ジーエムの背後の地面が盛り上がったかと思うと、ジェノサイドのクラブシザースが飛び出した。不意を突かれたジーエムは無抵抗のまま腕を挟まれ、もぎ取られた。
「何だって!?」
「甘いのは君の方だ、倉崎! クラブシザースが地中に消えていることに気付かなかったのか!」
「くそっ、うかつだった! どうして気が付かなかったんだ!」
「坊やだからさ」
 大河原は再びジェノサイドに乗り込み、ハッチを閉めた。バーニアを全開にし、ジェノサイドが浮き上がる。そのまま体勢を立て直し地面に立ったジェノサイドは、両腕をもがれたジーエムに蹴りを入れた。あっと言う間にオタ空間の端であるうさみみ中学のフェンスまで飛んだジーエムは、その衝撃で腰部ジョイントが折れ曲がった。
「ぐはっ!」
「倉崎さん!」
 思わず、みここはジーエムに向かって駆け出した。
「山城さん!」
 透子とこなみを助け出そうとルシフェルのコクピットハッチまで来た巳弥も、みここが走って行く姿を見て、後を追おうとした。だが、巳弥のマジカルハットはユタカに預けてしまっている。ジーエムにとどめを刺そうとジェノサイドが迫っている場所に向かっているみここは、大変危険な状態だった。
「助けなきゃ・・・・いけないのに! 私、何も出来ないなんて!」
 ゆかりや透子のように魔法でMSが作り出せたら。巳弥は自分の無力さに唇を噛んだ。その時・・・・。
「あ、あれは!?」
 お手製の魔女ルックに身を包んだ莉夜が、みこことジェノサイドの間に割って入った。
「こらぁ、悪者〜! 止まりなさ〜い! みここちゃんが危ないでしょ!」
「えっと、り、莉夜ちゃん?」
 叫び声を聞いたみここが振り返る。
「誰が悪者だっ!」
 ジェノサイドはスピードを落とさずに突進して来た。このままでは莉夜もあずみも踏み潰されてしまう。
「どう見たって、あんたが悪者じゃないの! あんたなんか、死刑だもんねっ!」
 莉夜が箒を振り上げる。だが何事も起こらなかった。
「なんで〜!?」
 莉夜はオタ空間において「この世界が存在を許さない物」を生み出せないことを知らない。何度か頑張ってみたが、魔法の箒は作動しなかった。その間にもジェノサイドが地響きと砂埃を立てて迫って来る。
「みここちゃん!」
 莉夜はみここの腕を持って引き寄せると、魔法の箒にまたがった。みここも無理矢理に乗せられる。だが、箒は1cmも浮かび上がらなかった。
「うそ〜! なんで〜!?」
「ふにゅ〜!」
 巨大なジェノサイドの足が目前に迫った時、みこことあずみは抱き合って目を閉じた。金属と金属がぶつかり合う激しい音がして、その後にギリギリと鉄の軋む音が聞こえてきた。踏み潰されると思っていた2人は、恐る恐る目を開けた。
 ジーエムの顔があった。MSとしては小型だが、目の前で見ると迫力がある。
「倉崎さん!」
「大丈夫か、みここ君」
 ジーエムの背中にはジェノサイドの拳がめり込んでいた。みここと莉夜を庇うため、ジーエムが割って入ったのだ。
「ふにゅ、大丈夫、です」
「良かった・・・・」
 倉崎は無理に搾り出しているような、苦しそうな声をしていた。
「倉崎さんこそ、大丈夫ですか?」
「奴の拳が背中を突き破って、コクピットまで達していてね・・・・ちょっと圧迫されて、苦しいかな・・・・」
「大変、助けないと!」
 と、莉夜は懲りずに魔法を使おうとするが、やはり発動しない。
「駄目だよ、ここはこの世界に受け入れられるものだけが存在できる空間なんだ・・・・自分の世界に閉じこもり、他を受け入れようとしない、自分中心、独り善がりの世界さ。こんな世界にいては、誰にも相手にされない。自分の可能性が拡がらない。自分以外のものを否定する、悲しい世界なんだよ・・・・」
 それは、倉崎が今までの自分を振り返って言った言葉だったのだろうか。
「みここ君、こっちへ・・・・」
 ジーエムのボディが傾き、ハッチが開く。みここが手を掛けてよじ登れる高さまでジーエムの胴体が降りてきた。みここは必死でよじ登り、ジーエムのコクピットに入る。
「すまないね・・・・この通り、シートから抜けないんだ」
 倉崎の身体は前のコンソールと後ろのシートに挟まれる形で圧迫されていた。
「今、助けます!」
 だが決して力が強いとは言えないみここがどれだけ力を入れても、シートはビクともしなかった。
「無理だよ、それよりマジカルアイテムを持ってこっちに来てくれ」
「ふにゅ・・・・」
 言われた通り、みここはマジカルステッキを持って倉崎の側に寄った。
「一緒に念じて欲しい。僕がMSをイメージして、君が実体化させるんだ」
「ど、どうやってですか」
 マジカルステッキを握るみここの手に、倉崎の手が触れた。
「きゃ・・・・」
 普段、男の子に手など握られたことのないみここは、顔を真っ赤にした。倉崎も同じく女の子の手など握ったことがないので、こちらも同じくらい赤くなる。
「今からイメージを送る。みここ君もイメージを膨らませるんだ」
「は、はい」
「丸ごと作るには魔力が足りない。あの2機を使おう」
 あの2機とは、セラフィムとルシフェルのことだ。
「倉崎さん、う〜ちゃんのお墓にお供えがあったんです。みんながう〜ちゃんの為に・・・・う〜ちゃん、1人ぼっちじゃないですよね」
「そうか・・・・良かった。1人ぼっちは僕だけで充分だ」
「倉崎さんは1人じゃありませんよ」
 2人のマジカルアイテムを握る手に熱がこもった。
(魔力が足りない。あの2機の残骸を組み合わせ、ジェノサイドグンダムに対抗出来得るMSを作り出さなければならないのに・・・・魔力が不足している)
「あぁ〜、みここちゃん、手なんか握ってる〜!」
「のわっ!」
 突然飛び込んで来た莉夜に驚き、倉崎は思わずみここの手を離してしまった。
「ねぇねぇ、どうしてこんな緊急事態にラブシーンなの〜?」
「ラ、ラブ・・・・違う、これはだな・・・・ああっ、せっかく固まってきたイメージが水の泡だ!」
「ふにゅ・・・・」
「ふ〜ん、水の泡なんだ。それっていいこと?」
「悪いこと!」
 怒鳴りながら倉崎は莉夜の持っている箒に気付いた。
「それはひょっとして・・・・」
「魔法の箒だよ。格好いいでしょ〜、えへへ」
「君も力を貸してくれ!」
「なんで?」
「あいつを倒すために!」
「ふ〜ん、良く分からないけど分った!」
 かくして、ステッキと箒を束ね、それを3人で握り締める格好になった。
「あ、あたし知ってる。これって3Pって言うんだよね!」
 能天気な声で莉夜が大声で言った。倉崎がいっそう顔を赤らめる。
「さっ・・・・い、意味が分って言っているのか!?」
「ほりょ、何で赤くなるの?」
 やっぱり分っていない莉夜だった。
「さんぴーって、何ですか?」
「み、みここ君は知らなくていいんだ!」
(イメージするんだ、奴に勝てるMSを。僕は思い浮かべるだけでいい。マジカルアイテムがそれを具現化してくれる)
 巨大なジェノサイドグンダムに対抗できるマジカル・シューター。
 みここのマジカルステッキ、莉夜の魔法の箒が魔力を放出する。
(3P・・・・3P・・・・)
「って、違う!」
「ふにゅ!?」
 いきなり倉崎が叫んだので、みここと莉夜は心臓が飛びあがった。
「びっくりした〜! 何なのよ〜!」
 莉夜も心臓を押さえながら抗議した。
「す、すまない・・・・」
(ふう、危うくとんでもないものを具現化してしまうところだった・・・・)
 倉崎は額の汗を拭い、再びMSのイメージを思い描いた。だが、思うように魔力がセラフィムやルシフェルの残骸に働きかけない。
「やはり・・・・足りないのか」


 巳弥の足元で、ルシフェルが淡い光を放っていた。だがそれ以上、何も起こりそうにない。倉崎からの魔法が完全に届いていないのだ。
「みんなが頑張ってるのに・・・・」
 その時、ルシフェルの通信機にユタカからの声が届いた。
「藤堂院さん、セラフィムの様子がおかしい。ルシフェルはどうなっている?」
「こっちも何か起ころうとしてるわ。多分、みここちゃんと莉夜ちゃんが魔法を使ってるんだと思う」
「そうか。そっちの魔力の残りは?」
「ほとんどゼロ。チャージャーも残ってないわ。こなみちゃんのドライバーは少しだけ残ってるけど」
「こっちもゆかりの孫の手はゼロに近い。マジカルハットの魔力は少しあるが、やはり俺では使いこなせないようだ・・・・」
 それを聞いた巳弥が、歯がゆそうに顔をしかめる。
「私が・・・・私が魔法を使えていれば・・・・」
 使えない理由は何となく分かっている。
 みここが万引きをした際に、魔法で余計なことをしてしまった時から、魔法を使えなくなってしまった。自分は魔法少女である資格がない、そう思い込んでしまった。
 理由は分かっているのだが、その解決法が分からない。
 莉夜が泊まりにきた時に話した、彼女の言葉にそのヒントらしきものがあった。
 自分が魔法を心から使いたいと思うこと。
「思ってるのに・・・・正義の魔法少女だから、あいつをやっつけなきゃって・・・・」
「巳弥ちゃん」
 コクピットの中から、透子の声がした。
「何ですか・・・・?」
「巳弥ちゃん、魔法少女は正義の味方だって思ってるの?」
「え? 違うの・・・・?」
「ゆかりはどうか分からないけど・・・・少なくともあたしは自分を正義の味方だなんて思ってないよ」
「・・・・」
「あたしはただ平和に暮らしたいだけ。そのために魔法を使ってるの。誰かのためじゃない。ゆかりを助けるのは、あたしがゆかりを好きだから。もちろん巳弥ちゃんやこなみちゃんも同じ。あたしは、あたしのために魔法を使ってる」
「自分の・・・・ため」
 自分のためって何だろう。全ての人が「自分のため」と称して勝手に行動すれば、世の中が滅茶苦茶になってしまうのではないだろうか。人のことを考えてこそ、世の中というものが保たれるのではないか。正義ってなんだろう。ある人にとっては正義でも、他の人にとっては悪であることもある。正義なんて誰が決めるのだろうか。
「巳弥ちゃん、正義なんてみんなの中にそれぞれあるものだよ。だから巳弥ちゃんは自分の信じた正義を迷わずに信じていればいいんじゃない?」
「自分の・・・・正義」
 ジェノサイドグンダムがジーエムに迫る。中にはみここ、莉夜、倉崎がいる。
 巳弥は走った。セラフィムの中にいる、ユタカの元へ。
「ユタカさん!」
「巳弥ちゃん!?」
「マジカルハット・・・・貸して下さい!」
 差し出された巳弥の手に、魔法の帽子が触れる。
「貸して、じゃない。返して、だろ?」
「・・・・はい!」
 巳弥はマジカルハットを抱き締め、そして頭に乗せた。
「巳弥ちゃん、こっちへ。倉崎君とやらがやろうとしていることを、俺もサポートする。俺のイメージしたものを、君のマジカルハットへ送り込ませてくれ」
「はい!」
 巳弥の手をユタカが握った。
 パシッ。
「いてっ! 何で叩くんだ、ゆかり!」
「巳弥ちゃんの手を握っちゃ駄目!」
「何でだ! こうしないとイメージが送れないだろ!」
「ユタカはロリコンでスケベだから駄目!」
「身もフタもない言い方をするな!」
 ゆかりはユタカと巳弥の手を力づくで引き剥がすと、右手でユタカ、左手で巳弥の手を握った。
「これでゆかりを通してイメージを送れるでしょ!」
「何だよゆかり、ひょっとして妬いてるのか?」
「そんなわけないでしょ! 巳弥ちゃんのためを思ってのことだよ! 汚されたら困るもん」
「手を握っただけだろ!?」
「あ、あの・・・・そんな場合じゃないんじゃないかな・・・・」
 巳弥にたしなめられ、ゆかりとユタカは真面目にマジカルアイテムへ念を送ることに集中した。
 もう一人、集中していない者がいる。倉崎である。先程から魔法が上手くいかないのも、彼の心が乱れているからだった。何しろ今までに女の子の手を握ったと言えば運動会のフォークダンスの時だけだったので、現在の女の子に挟まれている状況には動揺せずにいられなかった。しかも巡り合わせの悪かったフォークダンスの時とは違い、2人共可愛い部類に入る。みここはもちろん、莉夜も倉崎の目から見ても村木ではないが「もえじょ」に登録したいほどだった。しかも莉夜はミニのワンピースで座り込んでいるので、太腿がかなり上の方まで見えている。
「ふにゅ、まだですか、倉崎さん!」
「あいつが迫ってくるよ!」
 怖さのあまり、2人が倉崎に寄り添ってくる。倉崎は見た目は頼りない男だが、この状況においては唯一の男の子には違いない。ここは自分が何とかしなければ、と思う。
 だが、男の子ゆえの悲しさもあった。左腕にみここの胸が押し付けられており、それが気になって仕方がない。
(あ・・・・や、柔らかい・・・・それに比べ、こっちの子は・・・・)
 莉夜もみここと同じくらい倉崎に密着しているのだが、豊かな膨らみが伝わって来なかった。倉崎はチラリと莉夜の胸に目をやったが、みこことは雲泥の差、月とスッポン、天と地ほどの開きがあった。
「ふ、ふにゅ・・・・」
 みここが赤くなり、倉崎から離れた。
「わ、悪かったわね〜!」
 莉夜も顔を赤くして怒り出す。
(な・・・・何だ?)
 倉崎が「どうしたんだろう?」と思っていると、ジーエムの通信機からユタカの声が聞こえてきた。
「倉崎君、だったかな?」
「え、ええ」
「俺は相楽豊だ。君のMSのイメージをサポートさせて貰う。同じ男として気持ちは分からないでもないが、君は今の状況を分っているのかな?」
「え?」
「君が送り込むイメージを、みんなのマジカルアイテムが受信して形にしようとしているんだぞ、余計なことを考えたら全てみんなの頭に届くんだ!」
「はぁ・・・・え、ええっ!? ま、まさか・・・・」
「ふにゅ・・・・」
 みここは真っ赤になって俯いてしまっている。莉夜は「大人になったら大きくなるもん!」と倉崎の頭を叩いた。
「危く生まれてくるMSに大きな胸が付くところだったぞ・・・・それがミサイルになって飛んでゆくというのも悪くないかもしれんが・・・・」
「ご、ごめんなさ〜い!」
 みここに負けないくらい赤くなった倉崎は、MSのイメージに集中しようとした。だが忘れようとすればするほど、先程頭に描いたものが湧き上がってくる。
「だから男の子って嫌なのよね・・・・」
 ゆかりがボソっと呟いた。ユタカは苦笑しながら、倉崎に言った。
「倉崎君、後は俺が引き継ぐ! 君は君のマジカルアイテムで、俺のイメージを受信してくれ!」
「わ、分りました・・・・」
 恥ずかしさのあまり、小さくなってしまう倉崎だった。
「大丈夫なの? ユタカ、負けず劣らずスケベなのに」
「この際、それは関係ないだろ!?」
(倉崎君の作ったイメージは・・・・なるほど、2機のMSの残骸を利用するか・・・・一から作り直していては魔力が足りないという判断だな。これならジェノサイドに負けないサイズになる。いけるぞ!)
「透子さん・・・・」
 こなみの声が透子のイヤホンマイクに届いた。
「なに、こなみちゃん」
「ありがとう、透子さん」
「あたし、何かした?」
「私、タカシ君がとこたんのことを好きだって知った時、すっごく焦っちゃって・・・・このままじゃタカシ君を取られちゃうって。でもそれがなかったら私、タカシ君とはずっと友達でいいって思ってたと思う。告白して駄目になっちゃっうのなら、友達のままでいいって。ずっとこのままでいいって・・・・」
「うまくいったの? タカシ君と」
「まだ、分からないけど・・・・頑張れるよ」
「良かったね」
 その時、透子がいるルシフェルのコクピットが変形した。
「ど、どうなるの?」
 ゆかりたちのいたセラフィムのコクピットは、ユタカと巳弥を吐き出した。
「出でよ、天使と悪魔を合体させた、究極のマジカルシューター!」


34th Dream へ続く


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