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タイトル


 31th Dream 「恋の天使、舞い降りて」


「いったぁい・・・・」
 転倒のショックで後頭部を激しく打ちつけた透子だったが、間髪入れずにジェノサイドが襲い掛かってくる。コケティッシュはすべり台に手を付いて立ち上がり、両腕のネコマネキを展開させた。それぞれにビームサーベルを握り、迎え撃つ姿勢を作る。だがジェノサイドはネコマネキの届く範囲外で立ち止まり、両腕に装着したビームガトリングを構えた。
「くらえぇぇ!」
「しまった!」
 後ろは運動場に張られた金網で、逃げ場はない。
「貰った!」
 透子の耳にドオンという爆発音が聞こえたが、自分の機体に衝撃はない。
「透子さん!」
 コケティッシュの眼前に、異様な物体が浮遊していた。
「・・・・その声、こなみちゃん?」
 その物体はコケティッシュ同様に真っ黒で、大きな羽根が2枚あり、長い尻尾が生えていた。細い腕も見える。昆虫のような容姿をしていたが、明らかに機械だった。そしてそれに乗っているのはマジカルドライバーを携えた芳井こなみだった。
「どうしたの、それ?」
「えっと、ユタカさんがこれに乗れって・・・・ブラックキャットのサポートマシンみたいなんですけど、何だか気持ち悪くて・・・・名前は確か『デビルファミリア』・・・・」
 確かに、年頃の女の子が乗るシロモノではなかった。
 続いて、上空からジェノサイド目掛けてビーム砲が2発、3発と打ち込まれた。
「くっ、何者だ!?」
「これぞラビットグンダムのサポートマシン『ラブフェザー』! そしてパイロットはこの俺、相楽豊だ!」
「ユ、ユタカ・・・・」
 ボーゼンと立ち尽くすパステルラビットにラブフェザーが近付いて来た。2枚の大きな翼の間に巨大なビームカノンが装着されている。
「さぁゆかり、合体だ!」
「え、合体?」
「ゆかり、俺と合体しよう! 合体! さぁ! 一気に! ズブっと!」
「な、何となくセリフが怖いのは・・・・気のせい?」
「問答無用!」
 パステルラビットのバックパックが強制的に外れ、ラブフェザーが羽根を広げて結合パーツを伸ばし、ドッキング体制に入る。
「さぁ入れるぞゆかり、ズブっと入れるぞ! ・・・・こ、こら、どうして逃げる!?」
「だってユタカ、怖いんだもん!」
「最初は誰でも怖いんだ! 優しくするから力を抜け!」
 ガッシュウン。
「やぁん! 強引なんだからぁ!」
 確かに優しく合体したらしく、ほとんど振動も無かった。
 パステルラビットが2枚の大きな翼と特大のビームカノンを装備した、これが正式名称「ラビットグンダム・ラブフェザーアンサンブル」、愛称「フェアリーテール」だ。
「これで空も飛べるぞ、ゆかり!」
「よ〜し!」
 ラブフェザーは羽根を広げ、大空に舞った。
 本来、その容姿と名前から考えればこなみが「ラブフェザー」に乗るのが適切だが、ユタカはゆかりと「合体」したいがために自分がラブフェザーに乗ったのだった。ただそれだけの理由だ。
 一方、こなみの乗る「デビルファミリア」もコケティッシュキャットとの合体に成功していた。羽根から尻尾まで真っ黒なので、禍々しい雰囲気を醸し出している。ちなみにこちらの正式名称は「グンダムブラックキャット・デビルファミリアアンサンブル」通称「ダークエンジェル」だ。
 名前が多くてややこしいがお付き合い願いたい。
「いっけ〜!」
 フェアリーテールが上空からジェノサイドに向けビームカノンによる射撃を行う。土砂と砂塵を撒き散らし、運動場には次々に穴が開いていった。
「ゆかり、下手だぞ!」
「そんなこと言われても〜!」
「そら、どうした!」
 大河原はジェノサイドの巨大なバックパックに装備された2門のキャノン砲をフェアリーテールに向けて発射した。
「うわ!」
「よけろゆかり!」
 爆音と共に、片方の翼に穴が開き、バランスが崩れた。
「お、落ちる〜!」
 更にビームガトリングがフェアリーテールを襲う。無事だった片方の羽根も無数の穴が開いた。
「や〜ん!」
「これぞ、翼の折れたエンジェル・・・・なんて言ってる場合じゃないぞ!」
 フェアリーテールは体育館の屋根に落ち、天井をブチ抜いた。
「むっ!」
 ジェノサイドの腕に何かが巻きついてきた。ダークエンジェルの手にデビルファミリアの尻尾が装着され、それが鞭のように絡み付いてきたのだ(名称:エッジテイル・ロッド)。
「これで動きは封じたわ! こなみちゃん、今よ!」
「はい!」
 背中に付いたデビルファミリアの腕が射出され、コードで本体と繋がったままジェノサイドに向かって飛んで行く。手の先からビームが発射され、ジェノサイドを襲った。
「ぬぅ、有線ハンドビームか!」
 ダークエンジェルのハンドビームはコナミが操縦する。ジェノサイドは肩アーマー、腕アーマーなどに被弾し、穴が開いた。
「おのれ、オールレンジ攻撃とは小癪な!」
 バックパックの巨大なカニの爪(クラブシザース)が伸び、有線ハンドビームの線を2本ともハサミでちょん切った。完全にエッジテイル・ロッドで動きを封じたと思っていた腕も、ジェノサイドの怪力の前に振り解かれた。
「あ〜、酷い!」
「飛ぶわよ、こなみちゃん!」
 ダークエンジェルは羽を羽ばたかせ、ジェノサイドに向かった。透子はスクリーンに映し出されたユタカからのメッセージを読む。
「出でよ、斬艦刀ブラッディ・ギロチン!」
 ダークエンジェルの手に、巨大な大剣が出現した。
 斬艦刀と名付けられたそれは、敵の戦艦をぶった斬るほどのボリュームを持ち、MSならば一度に3体まとめて真っ二つにするパワーを有する。
「凄い、これなら・・・・って、あら〜っ!?」
 ブラッディ・ギロチンを振り上げたダークエンジェルは、そのまま大剣の重みで後ろ向きに空中で回転した。
「ちょ、ちょっと!」
 このままでは墜落するとみて、透子はブラッディ・ギロチンを手放した。大剣はその重みでグラウンドに深々と突き刺さった。
「相楽君、持てない武器を作ってどうするの!」
「う〜ん、格好いいと思ったんだがなぁ」
「大き過ぎ!」
「じゃあ、今度はこれでどうだ!」
 再びダークエンジェルのコンソールに指示が出る。
「今度は大丈夫だよねぇ・・・・」
 気を取り直して再び舞い上がったダークエンジェルは、ジェノサイド目掛けて急降下した。
「あたしの左が炎と燃える、あなたを倒せと轟き叫ぶ!」
 ダークエンジェルの左手が真っ赤に燃え、巨大化してゆく。
「受けなさい、灼熱! ばぁぁぁぁにんぐ、ふぃんがぁぁぁぁぁ!!」
 巨大な火の玉と化したダークエンジェルの左手が、ジェノサイドの頭部を鷲掴みにした!
「ぐぁぁぁぁっ!」
「このまま頭を握りつぶす!」
「おのれぇぇぇ!」
 ジェノサイドの2本のカニ爪(クラブシザース)が前方に回り込み、ダークエンジェルの胴体を両側から挟み込んだ。
「しまった!」
「捕まえたぞ!」
 灼熱バーニングフィンガーはジェノサイドの頭部にあるアンテナを折り、カメラを壊し、装甲を溶かしてゆく。だがクラブシザースはダークエンジェルの胴体部に確実に食い込んできていた。ダークエンジェルのコクピットは胴体上部にある。このままではパイロットもろとも真っ二つにされてしまう。
「動いて! ダークエンジェル!」
 操縦悍を必死に動かす透子だが、どれだけもがこうとクラブシザースの締め付けからは逃げられそうになかった。コクピット全体がきしみ、バキバキと悲鳴をあげる。
「えぇい!」
 ダークエンジェルはジェノサイドの頭部を破壊したバーニングフィンガーで、片方のクラブシザースを掴んだ。
「これで焼き切るわ!」
「甘いんだよ! こっちは両手がフリーなんだ!」
 ジェノサイドの手がダークエンジェルの腕を掴む。腕の太さの違いは圧倒的だった。
 バキ、という音と共にダークエンジェルの左腕がへし折られた。
「ああっ!」
「透子さん!」
 ダークエンジェルの強化パーツ、デビルファミリアがブラックキャットの背中から離脱した。そのまま頭の溶けたジェノサイドに体当たりを食らわせる。
「こいつ、やる!」
 よろめいたジェノサイドだったが、ブラックキャットを放すことなく踏ん張る。そのままの体勢でデビルファミリアの尻尾を掴み、振り回し、投げ捨てた。
「きゃぁぁぁ〜!」
「こなみちゃん!」
 派手な音を立て、デビルファミリアは羽根が折れ、尻尾が千切れ、大破した。
「こなみちゃ〜ん!」
「フフフ、君もすぐにああなるんだ」
「あなた、教師でしょ!? 生徒をこんな目に会わせて楽しいの!?」
「ふん、面白いさ。それが理由だ。理由があるから、それでいいだろう。理由がないよりよほどいい」
「な、何を言ってるの?」
 よく分からない論法を聞かされた透子は意味が分らずに当惑した。昔、学校の先生に「どうしてそうなるんですか?」と説明した時に「こうなるから、こうなるんだ。こうなると決っているからだ」と言われて納得がいかなかったことを思い出す。
「俺は教師に夢を見ていた・・・・まさしく『夢』だよ」
 学生の頃、大河原には憧れている先生がいた。男の先生だが、その授業のやり方、生徒との接し方が大好きだった。いわゆる「教科書通り」の授業を行う教師の多い中で、その先生の授業は分り易く、面白かった。
(教科書通りの授業なんか、受けなくても教科書を読んでいればいいんだ)
 大河原はその先生に授業以外の事も色々教わった。と言ってもテレビドラマの「カネッパチ先生」のようにおせっかいではなく、あくまで大河原が聞いた、相談したこと以外は口を出してこなかった。両親よりも話し易かった。
 ある日、大河原がその先生に放課後の特別補習を受けた。テストの成績が悪かったからというわけではなく、ただ大河原に分からないことがあるので自らお願いしたのだった。先生は嫌な顔もせずに快く引き受けてくれた。
 その帰り道だった。
「先生!?」
 中庭の隅に、先生が傷だらけで横たわっていた。そこは校舎と校舎の間にあり、この時間だとたまにクラブ活動の生徒が通りかかるだけの、あまり人通りのない場所だった。
「どうしたんですか!?」
「いや、何でもない」
「何でもないことはないでしょう!? 誰にやられたんですか!」
「このことは、誰にも・・・・言うな」
「誰だよ!」
 大河原は校舎の向こうに消えて行く数人の人影を見た。その瞬間、大河原の足は動いていた。
「やめろ、大河原!」
「あいつらかよ!」
 逃してたまるか、と走るのがあまり得意でない大河原だが、枯葉の敷き詰められた校庭を猛ダッシュで走り抜けた。
「おいっ!」
「ん?」
 3人の生徒が一斉に振り向く。胸に付けるのが義務付けられている名札がないので学年は分からないが、どうやら1年らしかった。大河原の後輩に当たる。
「先生をやったのはお前たちか!」
「それがどうした?」
 いきなり開き直られた大河原は少し怯んだが、後輩に負ける訳にはいかないと思い、精一杯凄んでみた。
「何であんなことをしたんだ!」
「別に・・・・何かムカついたから」
「別に・・・・?」
 先生をあんな目に遭わせておいて別に、だって?
「ムカついた? どうせ注意されるようなことをしていたんだろう!」
「別に」
 また「別に」だ。
「モクってただけだよな」
 モクるとは、タバコを吸うことだ。
「タバコ吸っちゃ駄目だろ!」
「うるせぇんだよ。センセーは勉強だけ教えてりゃいいんだ」
 タバコを注意したから、先生は殴られた。こいつらが悪いのに、正しい先生が殴られた。先生は相手が生徒だから、抵抗しなかったんだろう。俺が補習なんか頼まなければ、先生は怪我をせずに済んだ。
「ムカつくってのが殴る理由になるんなら、俺がお前らを殴ってもいいんだよな!」
 勢いのまま、パンチを繰り出した。避けられた。足を掛けられた。蹴られた。
 正しい者が勝つのではない、強い者が勝つのだ。世の中は総じて、ルールを無視する奴の方が強い。ルールは人を縛るからだ。縛られた手足では、自分勝手に振る舞う奴に敵うはずがない。
 そんな理不尽を認めたくなくて、否定したくて、教師を目指した。
 だがまだ教育実習生の俺に現実が突きつけられる。万引きをした生徒の親を学校側が呼び出した時のことだ。その母親は部屋に入るなり、教師たちに向かってこう言い放った。
「学校は一体、どういう教育をしているんですか!」
 俺はあやうくその母親を殴りそうになった。
 ある教師はこう言った。
「先生なんて、適当に手を抜けばいいんですよ。我々は教科書通りにやっていればいいんです。勉強が足りなければ勝手に塾に行きますよ。下手に家庭教育に首を突っ込んだら面倒なことになりますからね」
 教師を目指す人間に言う言葉ではないと思った。
 学校は楽しい場所でなければならないと思っていた。授業もつまらなければ身につかないと思っていた。だが先日、実習生として授業を受け持ったクラスの担任の先生にこう言われた。
「ある生徒から苦情が来ましてね。先生は授業と関係のない話をすると。はやく授業を進めて欲しいと言われました。先生のせいで受験勉強が遅れたらどうしてくれるのかとまで言われましてね・・・・」
 大河原の授業は、若者が興味のある話題を例に取ったりしながら進める形式だ。ある意味、ベテランの先生には真似出来ない、歳が近いゆえに可能な授業だと思っていた。堅い内容だけだとつまらない授業になってしまう、というのが自分の学生時代の経験だった。だからこそ自分が教室に来ることを生徒が楽しみにしてくれるような、そんな授業を目指していた。
 くだらない話をするな、だって? ただそいつが勉強しか知らないつまらない奴で、流行の話題についていけないだけじゃないのか。
 そして遂に、教頭先生からも注意を受けた。
 俺の目指してきたもの。あの先生のようになるんだという夢。理想の教師を目指した、俺の夢。
「てめぇらが勝手過ぎるんだよぉぉ! 俺の夢を返しやがれぇぇぇ!」
 至近距離からダークエンジェルの上半身に、ビームガトリングが炸裂した。
「きゃぁぁぁ!」
 瞬く間に装甲が蜂の巣状態になり、腕が取れ、頭が吹っ飛ぶ。コクピットのスクリーンは真っ暗になった。完全に行動不能になったダークエンジェルを解放し、ジェノサイドは体育館の屋根をぶち抜いて倒れているフェアリーテールにもガトリングを撃ち込んだ。
「いやぁぁ〜ん!」
「む、無茶苦茶しやがる!」
 ダークエンジェルに続き行動不能になったフェアリーテールは、体育館の瓦礫の中へと埋没した。
「ウワッハッハ、どうだ、小娘ども!」
 大音量の大河原の笑い声が校舎の間にこだました。
「嘘だろ・・・・ゆかりんと透子さんが・・・・」
 危険なので遠くから状況を見ていたタカシは、勝ち誇るジェノサイドグンダムを呆然と見上げていた。巳弥も隣で心配そうに見ている。
「助けなきゃ!」
「お、おい、出雲さん! 危ないよ!」
 駆け出した巳弥を追って、タカシも走った。


「ゆかり、ゆかり!」
「う〜ん・・・・」
 真っ暗なコクピットの中、気を失ったゆかりをユタカが揺り起こそうとしていた。
「しっかりしろ、ゆかり!」
「うう〜ん・・・・もう少し寝かせて・・・・」
「気を失ってるのに、寝ぼけるな! ようし、こうなったら・・・・」
 ユタカはゆかりの後頭部を持って、抱き起こした。
「王子様の目覚めのキッスしかない」
「ユタカのスケベ、ロリコ〜ン!」
 ぺちーん、という頼りない音を伴って、ゆかりの平手打ちが炸裂した。
「あうち!」
「何するのよ〜!」
「やっと気が付いたか。俺の『ゆかりを起こそう!大作戦』が見事に成功したな」
「本気でキスしようとした!」
「そ、そんなことしないぞ。気を失っている間に、なんて卑怯なこと」
「信じられない。だってユタカ・・・・卑怯者だもん」
「俺がか」
「だって・・・・」
「さぁマジカルアイテムを出せ、姫宮、藤堂院! 大人しく差し出せば痛い目に合わずに済むぞ!」
 ドシン、ドシンと地響きを従え、ジェノサイドグンダムが近付いて来る。
「くそ、来やがったか」
 ユタカが巳弥から借りたマジカルハットを構えたが、残りの魔力だけではどうしようもないことは分っている。
(どうすればいい? 考えろ、相楽豊。少ない魔力で、この世界においてMSに勝てるもの・・・・くそ、思い付かない!)
「ゆかり、こうなったらお前だけでも逃げろ、ラブフェザーを修復するだけの魔力なら残っているはずだ!」
「そんな、ユタカも一緒に・・・・」
「俺は囮になる」
「ユタカ・・・・あっ?」
「どうした?」
「これ・・・・」
 ゆかりはポケットに入っていたマジカルチャージャーを取り出した。
「透子に貰ったんだっけ」
「何だ、それは?」
「マジカルアイテムの魔力を溜めておく物だって。これで孫の手に魔力を注げば・・・・」
「早く思い出せよ、そういうことは!」
 孫の手の取っ手にマジカルチャージャーが装着された。ボタンを押すと、青色の魔力がどんどんと減ってゆく。やがてチャージャーは透明の筒になった。
「充填完了!」
「ようし、反撃だ、ゆかり!」
「うん!」
 孫の手を握ったゆかりの手を包み込むように、ユタカが手を添える。
「俺の愛を受け取れ!」
「や〜ん、恥ずかしいよユタカ〜!」
 瓦礫に埋もれたフェアリーテールが眩く光り出した。近付いて来たジェノサイドはそれを見て1歩退き、身構える。
「何だと、まだ動くのか!?」
 瓦礫を押しのけ、2枚の翼が開いた。
「復活したか・・・・」
 大河原はあえて攻撃をせず、フェアリーテールの復活を待った。正直、先程の戦いでは満足していなかったのだ。
 大河原の見詰める中、翼の両側から更に翼が開いた。フェアリーテールには翼が2枚しかなかったはずだ。
「何だと?」
 そして、更に2枚。計6枚の翼が瓦礫の中から出現した。
「一体、何が・・・・」
 ウサギの耳が出現したかと思うと、MSが体育館の残骸を押しのけて舞い上がった。 「なにっ!?」
 上空には、いくつもの羽根を大きく広げたフェアリーテールの姿があった。
「ユタカ、これ何て読むの?」
 スクリーンに映ったセリフを読もうとしたゆかりだったが、漢字が分らなくて小声で聞いた。
「どれだ?」
「これ」
「熾天使(してんし)と読むんだ」
「難しい漢字、使わないで欲しいなぁ」
 仕切り直し、フェアリーテールの外部スピーカーのスイッチが入った。
「愛と情熱の熾天使、フェアリーテール・セラフィム! 平和を乱す悪い奴は、正義の炎に焼かれなさい!」
 6枚の翼を持つ天使セラフィムのように、フェアリーテールは6枚の羽根を羽ばたかせて宙に舞った。
「行け、ゆかり!」
「任せて!」
 フェアリーテールは大型のビームカノンを両手で構え、下方のジェノサイドに照準を合わせた。
「いっけ〜!」
 ビーム砲を撃った反動を翼で軽減し、フェアリーテール・セラフィムは2発、3発とジェノサイドを砲撃した。
「当たらんよ!」
 だがジェノサイドはその大きな体格から想像できないほどの素早さでエネルギービームの矢をかわす。
「当たらないよ、ユタカ!」
「ゆかりはシューティングゲームは苦手か」
「あんまりやらないから」
「よし、射撃は俺に任せてゆかりは操縦に専念してくれ」
「う、うん」
 ユタカがゆかりの背中から前に手を回し、操縦悍の隣にある射撃用レバーを握った。
「あんまりくっつかないでよ〜!」
「こうしないとレバーを握れないだろ!?」
「でも・・・・ユタカ、何だか鼻息が荒いんだもん!」
「あ、荒くなんかないぞ!」
 痴話喧嘩をしている間に、ジェノサイドの背中の2連キャノン砲がセラフィムに狙いを定める。この一撃を食らえば撃墜されるのは必至だ。
「貰った!」
 大河原が発射ボタンを押そうとしたその時、背後から物音がした。
「むっ!?」
 セラフィムへの攻撃を中止して大河原は振りかえった。そこにはダークエンジェルの残骸だけが残っているはずだ。
「な、何だ、あれは?」
 だがそこには、真っ黒い巨大な卵のような縦長のドーム状の物があった。
「ダークエンジェルが復活したか? だがあの形は・・・・?」
 戸惑う大河原の前で、卵が立ちあがった。脚が2本付いている。
「こいつ!」
 ジェノサイドが腕のビームガトリングを撃つ。だが卵のドームの表面に弾かれ、ダメージを与えることが出来なかった。
「ちぃっ・・・・むっ!?」
 球状の両側から腕が生えた。その両腕には鎌が握られている。一瞬の内に、その鎌首がジェノサイドに襲いかかる。
「こいつ!」
 危うく鎌の間に挟まれそうになったジェノサイドは、ホバー機能で後方に退きつつもグンダムハンマーを出現させて反撃した。
「くらえぃ!」
 ハンマーが鋼鉄の鎖を伴って真っ黒な卵にぶち当たり、卵にひびが入った。
「どうだ!」
 だが、それはひびではなかった。真っ直ぐ縦に通った筋から、卵が両側にゆっくりと開いてゆく。その間から、ダークエンジェルの本体が顔を覗かせた。
「ダークエンジェル!?」
 開いたドームがそのまま悪魔のような翼となり、ダークエンジェルも宙に舞った。デビルファミリアも復活し、背中に付いている。そのデビルファミリアに装着された巨大な翼がダークエンジェルをドーム状に覆っていたのだった。
 エンジェル・エッグ形態から真の姿を現したダークエンジェルのパイロットはもちろん透子とこなみである。
「死の淵から舞い戻りし漆黒の堕天使ダークエンジェル・ルシフェル! 闇の翼で地獄に誘ってあげるわ!」
 透子もこうなったらもうヤケでセリフを叫んだ。両手に持った大きな鎌(ルシフェル・Lサイズ)が死神を思わせる。
「セラフィムとルシフェルか・・・・面白い!」
 上空に舞う2機を交互に見ながら、ジェノサイドはキャノン砲とビームガトリングで攻撃する構えを取った。


32th Dream へ続く


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