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タイトル


 29th Dream 「大切なもの」


 目の前に立ち塞がる笠目に対し、身構えるユタカ。笠目の姿がグニャグニャと変形してゆく。背が縮み、角が生え、尻尾が生える。
「なにっ!」
「ほっほっほ・・・・」
 笠目は不気味な化け物へと変化していった。
「貴様・・・・ドラゴンロールX(エックス)のレイゾーか!」
 ドラゴンロールとは、何でも願いが叶うと言われている竜の巻物を巡って主人公が多くの強敵と戦って成長してゆく冒険格闘ファンタジーアニメだ。ちなみに続編がドラゴンロールエックスで、レイゾーとはその物語に登場する強敵の1人だ。
「となれば、俺は主人公の尊是空(そん・ぜくう)に変身すればいいんだな!」
 マジカルハットを握り締めたユタカの髪が逆立った。筋肉が盛り上がり、逞しい体格へと変貌する。
「え、ええっ!?」
 それを見た巳弥はただボーゼンとするばかりだった。
「さぁ、いっちょやってみっか!」
「おほほ・・・・それでは行きますよ」
 笠目とユタカ、いやレイゾーと是空が激突した。素早いパンチのラッシュを繰り出し、受け止める。キックの嵐をかわし、打ち出す。そのスピードは巳弥の目が追いつかないほどだった。
「ど、どうなってるの・・・・」
 オタ空間を知らない巳弥は、2人の変貌にただ唖然とするばかりだった。
「はぁぁぁぁ!」
「うひょひょひょ!」
 互いにパンチとキックを繰り返しながら上空に登って行く。確実に2人は空を飛ぶ能力を持っているようだ。
 叩きつける。蹴り上げる。振り回す。瞬く間にうさみみ中学の校舎がボロボロになっていった。
「やるなぁ、おめぇ」
「やりますね」
 巳弥が2人の姿を捉えたのは、その動きを止めた時だった。
「本気じゃないのでしょう?」
「おめぇこそ」
「このままではラチが明きません。少し本気を出すとしますか」
「オラだってだ」
 何故ユタカが自分のことを「オラ」と言っているのか、巳弥はもう何が何だか分からなかった。
(タカシ君は? この世界を無事に自分の物に出来たのか?)
 ユタカが村木と戦っているタカシとこなみの方を見た。
(なに!?)
 そこでは、全く違う戦いが繰り広げられていたのだった。
 村木の頭の上に、モヤモヤとした煙のようなものが立ちこめ、やがて1つの形を成していった。
「出でよ、僕のスタンド『ポルノグラフィティ!』」
 ドッギュウウウウゥン! 不思議な擬音が響いた。
「何だ!?」
 村木の頭上に裸のグラマーな女性が現れた。その一糸纏わぬ姿に、思わず顔を背けてしまうタカシ。
「照れるなよ、見たいくせに」
「だ、誰が!」
「さぁ『ポルノグラフィティ』、生田崇を攻撃しろ!」
 裸の女性が村木の体から離れ、タカシに向かって突進してきた。そのあまりの速さにパンチをまともに食らってしまう。
「うわぁっ!」
「タカシ君!」
 タカシの体が吹っ飛ぶ。続けて村木の「スタンド」が豊満な胸を揺らして掴みかかってきた。
「や、やめろ!」
 乗りかかられたタカシは顔を真っ赤にして叫ぶ。そこにユタカの声が聞こえた。
「タカシ君! それは『チョチョの珍妙な冒険』の世界だ! 君も主人公に成りきって、自分の『スタンド』を出して反撃しろ!」
 村木のスタンドを見て「あっちと戦いたかった」と思ってしまうユタカだった。
 「チョチョの珍妙な冒険」は、体に宿る思念を実体化させ「スタンド」と呼ばれるその思念体で戦う戦士達の冒険を綴ったSFホラーアニメだ。人それぞれ「スタンド」の形や能力が違い、様々なシチュエイションでユニークな戦闘が繰り広げられることで人気を博した。
「タカシ君、反撃して! タカシ君なら『チョチョ』を知ってるでしょ!」
 こなみの叫びに首を絞められているタカシが苦しそうに言う。
「お・・・・女の人を、殴れ・・・・ないんだ、例え・・・・敵だとしても・・・・」
「タカシ君!」
 こなみは「ポルノグラフィティ」に馬乗りにされているタカシに向かって走った。
「邪魔をする気!?」
「え〜い!」
 こなみの目的はタカシの持つ「マジカルドライバー」だった。こなみはドライバーを握り締めると、こなみの頭上にもモワ〜っと煙が立ち込める。
 ズッギュウゥゥゥゥン!
「なに、あ、あいつ!?」
「よ、芳井・・・・!?」
「オラアッ!」
 こなみの体から飛び出した拳が村木のスタンドを殴りつけ、吹き飛ばした。
「ぎゃあっ!」
 村木の体もそれに合わせて吹っ飛ぶ。スタンドが受けたダメージはそのまま本人へと返って来るのだ。
「よ、芳井・・・・」
 ヌード女性の首絞めから開放されたタカシは、こなみの出したスタンドを見た。立派な体格の闘士という感じの風貌を持っている。村木を睨む眼光が鋭く光った。
「やれやれだわ・・・・」
 いつの間にかキャップを被ったこなみが、鍔を持って村木に向き直る。
「あなたは『この野郎、よくもやりやがったな』と言う・・・・」
「この野郎、よくもやりやがったな! ・・・・はっ!?」
 次の台詞を言い当てられ、焦る村木。スタンドが自分の頭の上に戻って来た。
「タカシ君」
「え、あ、はい」
 こなみに対して、何故か丁寧な言葉を使ってしまうタカシだった。それほど普段のこなみとは雰囲気が違っていたのだ。
「相手はスタンドであって、女性じゃないわ」
「お、おう」
「ゆかりんや透子さんが待ってる。急ぐわよ」
「お、お前、本当に芳井か?」
 こなみはニコっと笑い、村木に向かって指を差した。
「この芳井こなみのスタンド『ドリームズ・カム・トゥルー』があなたを葬るわ」
(やるな、こなみちゃん)
 そのやり取りをみていたユタカが、指をポキポキと鳴らした。
(しかしこの世界を作っているのは何者なんだ? 何種類ものオタ空間が混在しているような気がするが・・・・一体、どんなオタクなんだ)
「さて、オラたちもおっぱじめっか、レイゾー!」
「いつでもどうぞ・・・・」
 レイゾーの不気味な色をした唇の端が吊り上がった。


 ゆかり達の前に、見上げても頭が見えないほど巨大なロボットが出現した。
「な、何あれ〜!」
「巨大ロボット・・・・」
 とこたんもそびえ立つ鉄(くろがね)の城を見上げて呆然とする。
「みんな、こっちへ!」
 鵜川はみこことあずみを少し離れた植え込みの奥へと誘導した。
「・・・・」
 少年はまだ巨大ロボットを見上げたままだった。
「あの子が危ないです!」
「よせ、あずみ君!」
 飛び出しそうになるあずみを、鵜川が腕を掴んで引きとめる。
「離して下さい、鵜川さん!」
「放っておけ! 分かっていて逃げないんだ、奴は死にたいんだ!」
「死にたい人なんていません!」
 その巨大ロボットは大河原の生み出したMS(マジカル・シューター)だった。
「ハハハハ、魔女っ娘ども! 怪我をしたくなければおとなしくマジカルアイテムを渡せ!」
 ズン、ズンと地面を陥没させながらMSが迫る。
「さぁこの『ジェノサイドグンダム』に踏み潰されたいか、小娘ども!」
 さすがに体格が違いすぎる。ゆかりと透子は成す術もなく後退するだけだった。
「この世界に対抗するためには、同じ世界観を持ってしなければならない・・・・ユタカが言っていたよ、透子」
「てことは、グンダムの世界観? あたし、よく知らないよ」
「ゆかりはちょっとなら分かるよ! ようし、やってみる!」
 ゆかりはグンダムについて聞いたことがあるMSの名前と風貌を思い浮かべ、魔法の孫の手に向かって送り込んだ。
 魔力が膨らみ、形状を形成してゆく。
「ゆかり、やるじゃない!」
 と喜んだ透子だったが・・・・。
「それ何、こんぺいとう?」
「ん、ザク・・・・」
 ゆかりの目の前に登場したそれは、透子の言うようにこんぺいとうのお化けに顔が付き、手足が生えたような代物だった。
「合ってるの? それ。物凄く弱そうだけど。あのロボットとは似ても似つかないよ?」
「何となく見掛けがザクザクしてるからザク!」
 言い切ったゆかりの目の前で、ゆかり曰く「ザク」が消滅した。
「あれ〜、消えちゃった!」
「当たり前だ、馬鹿者!」
 ジェノサイドグンダムの外部スピーカーから大河原の声が聞こえた。
「何だ今のは! グンダムを馬鹿にしているのか! そんなもの、この世界が認めん! 断じて認めん! 田村ゆかりファンが認めても、俺は認めん!」
「あれ、この声聞いたことあるような・・・・」
 その声を聞き、ゆかりが首をかしげた。
「あ〜、教育実習生の大河原光先生だ」
「その名前、聞いたことある。光(ひかる)って言うから、女の先生かと思ってたよ」
 その透子の台詞に大河原が過剰に反応した。
「光が男の名前で、何でいけないんだよ!」
 ジェノサイドの方足が持ち上がり、踏み下ろされた。その衝撃で地面が揺れる。
「そんな生徒、粛清してやる!」
「透子が怒らせた〜!」
 ゆかりと透子は慌ててジェノサイドの攻撃範囲から離脱した。
 後にポツリと少年だけがその場に残される。
「あ、あの子まだ・・・・!」
 引き返そうとするゆかりを透子がスカートの裾を掴んで引き止める。
「ゆかり、危ないよ!」
「でも!」
 その時、ゆかり達の傍を風が通り抜けた。
「あずみ君!」
 その風は一瞬にしてジェノサイドの足元を潜り抜け、少年を抱き上げ、鵜川の元へと戻っていった。
「今の・・・・なに!?」
「あの子が? まさか、あんなに早く走れるなんて人間業じゃ・・・・あれ、ゆかり、今あの子、よく見えなかったけど・・・・何て呼ばれてた? あずみ?」
「そうだよ、莉夜ちゃんが捜してたあずみちゃんだ!」
 あずみは息一つ切らさず、少年を地面に下ろして微笑みかけた。
「危なかったね」
「・・・・何で助けたの?」
「だって、危なかったから」
「勝手に助けないでよ。頼んでないのに」
「お前・・・・!」
 鵜川がその言葉に腹を立て、飛び出そうとした。だが・・・・。
 パシン。
 その前にあずみの平手が少年の頬を打った。
「命を粗末にしないで!」
「・・・・」
 少年は驚いた顔であずみを見る。
「生きたくても生きられない人だっています」
「・・・・」
 少年は頬に手を当て、下を向いたまま黙り込んでしまった。
「鵜川さん」
「な、なに?」
「みここちゃん」
「ふ、ふにゅ・・・・」
 あずみは鵜川とみここの手を握り締めた。
「みんなを好きになって、みんなから好きって言われたら、どんなにいいでしょうね」
「・・・・」
(華代の言っていた口癖だ)
「さっきのみここちゃんも、鵜川さんも、あたし嫌いです」
 さっきのとは、少年を殺そうとしていた時のことだろう。
「だから・・・・」
 そこまで言って、あずみはその場に崩れ落ちた。
「おい、あずみ君!?」
「あずみちゃん!」
 鵜川はあずみを助け起こしたが、意識を失っているようだった。
「さっきあんなに早く走ったからだな・・・・」
 とりあえず息があるのを確認し、あずみを抱いたまま芝生の上に座る。
「鵜川さん、あたし・・・・」
 みここはパステルリップのコスプレを解いていた。と言うより、このオタ空間に取り込まれた時点で魔法が解けていた。制服姿のみここはあずみを心配そうに見つめた。
「・・・・」
 鵜川はあずみの手を握り締めた。昨夜のお返しとでも言うかのように。
(あずみ君・・・・君にはいつも助けられるな)
 僕は華代を失ってからずっと、華代のように心の美しい人を捜し続けていた。現実の美澄華代が僕の心の中の美澄華代と同じかどうかは、今となっては分からない。僕の中で、彼女が段々と理想化されていったという可能性も否定はしない。
 だがそれを差し引いてなお、華代のような心の持ち主には巡り会えなかった。少なくとも僕はそう思っている。
 ある時、僕と華代が道を歩いていると、子供が走ってきて華代にぶつかった。彼女のスカートにべったりと子供の持っていたアイスが付いていた。アイスはぶつかった勢いで地面に落ちてしまった。僕が怒ってやろうとすると、華代はしゃがんで目線を子供と同じ高さにした。
「ちゃんと前を向いて歩かないと駄目だよ。ぶつかったのがお姉ちゃんだからいいけど、自動車だったら怪我してるよ」
「う、うん・・・・」
「誠っ! もう、だから走っちゃ駄目って言ったでしょ! お姉ちゃん、怒ってるじゃないの!」
 後ろから走ってきた母親が誠君の腕を引っ張った。その拍子にアイスのコーンが手から落ちる。それを拾おうとする誠君だったが、更に母親に引っ張られてしまう。母親は誠君に「謝りなさい!」と無理矢理頭を下げさせた。
「もう、この子はっ!」
 遂に誠君は泣き出してしまった。母親に引きずられながら泣き続ける誠君を見送り、スカートをハンカチで拭いている華代に僕は話し掛けた。
「何か間違ってるな、あの母親」
「恥ずかしいのよ、あのお母さんも。照れ隠しに、つい子供を叱っちゃったんだわ」
「お姉ちゃんに叱られるからじゃなく、母親が注意しないと駄目だ。人にぶつかるからじゃなく、自分にも危険が及ぶこともあるってことを教えないと駄目だ。強制的じゃなく、自分から悪いと思わせないと駄目だ。あんなに腕を引っ張ったら、腕が抜ける可能性もある。道にコーンが落ちたので誠君が拾おうとしているのに母親は邪魔をした。結果、誠君がゴミを捨てたことになってしまう。こんなところですか? 未来の保母さん」
「もう少し頑張りましょう、かな? 今の出来事で一番悲しいのはあの子なのよ」
「そりゃ、泣いてたからな」
「叱られたからじゃないわ。あの子が一番悲しかったのは、アイスが台無しになったことなのよ」
 ぶつかった拍子に落ちたアイスが、地面の上で溶けていた。
「食べようと思っていたアイスが自分のせいで落ちちゃったの。アイスを食べられない悲しさと、自分の失敗でせっかく買ったアイスが無駄になる悲しさ。お母さんに買って貰ったのなら、お母さんに悪いという気持ちもあったかもね。自分が悪いって分かってるのに、お母さんにもあなたが悪い、あなたが悪いって一方的に責められる。あの時、あの子の周りに味方はいないわ。だからこそ、1人でも味方になってあげなきゃ駄目。なのにあなた、怒ろうとしたでしょ?」
「・・・・ごめん、そこが減点か」
「そういうこと」
「でも、いいのか? そのスカート・・・・」
「洗えば落ちるわよ。でも心の傷は洗えないから」
「でも今から・・・・」
「私は構わないわ。あなたがスカートに染みがあって、バニラの匂いがする女の子となんてデートしたくないって言うなら帰るけど?」
「たまにはいつもと違う香水もいいんじゃないかな。ちょっと甘ったるいけどね」
 華代はいつも僕に「こんな時どうする?」という質問を投げかけてきた。試されているみたいだけど、華代の気持ちが分かるみたいで嬉しかった。質問と言っても、答えは華代の心の中だけにある。だからこそ、分かり合えたようで嬉しかった。
 華代は優しいだけじゃなく、時には厳しかった。
 公園で子供が泣いている。少し体格の大きい子に、頬をつねられていたのだ。つねられている子は涙を流して泣いている。華代は「どうしてそんなことするの?」と尋ねた。
「こいつの顔、引っ張ったら面白いんだ」
「泣いてるじゃないの」
「俺が面白いからいいんだ」
「ふ〜ん」
 そう言うと、華代はいきなりその子の両頬を思い切りつまんで引っ張った。
「いひゃい!」
「面白い顔ねぇ・・・・」
「いひゃいよ、いひゃい! はにゃせ〜!」
「お姉ちゃんが面白いから、離さないよ」
「ひにゃ〜、ひにゃあ〜!」
「もっと伸ばせば、もっと面白いかな?」
「ごみぇんなひゃい、ごみぇんなひゃい!」
「謝るのは私にじゃないでしょ?」
 頬の肉を華代の指から解放された子は、自分がつねっていた子に涙を流しながら謝っていた。
「ごめんね、お姉ちゃん、やっぱり全然面白くなかったよ」
 その後、華代は「指にずっとあの子のほっぺたの感触が残ってる」と悲しそうな顔で言っていた。
「人の痛みは、傷付いた人にしか分からない。人を傷つけたことに対する心の痛みも、傷つけた人にしかわからないのかもね」
 華代を殺した奴は、そんな痛みを感じていたのだろうか?
 それともそんな痛みを感じない、悲しい子だったのか。
 あずみ君にビンタされた少年は、あれから一歩も動かず、何も喋らない。
 あるいは、初めて「痛み」を感じたのだろうか。肉体的ではなく、精神的な心の痛み。あずみ君の心が届いていれば、あるいは・・・・。
 華代の夢、保母さんになって、子供たちに自然の大切さ、命の尊さを教えること。
(あずみ君ならその夢を引き継いでくれるかもしれないな、華代)
 鵜川のあずみを抱く手に力が篭もった。


(くそ、パワーが段違いだ!)
 是空ことユタカは、レイゾーこと笠目の圧倒的パワーに苦戦していた。だがユタカには余裕がある。「原作通りなら、どれだけピンチになろうとも最後に勝つのは主人公」だからだ。
「いっちょ、あれをやってみっか!」
 ユタカは全身に力を込め、身体全体を光らせた。手を組み合わせ、そこにパワーを結集する。
「あれは・・・・!」
「だ〜め〜だ〜め〜・・・・波〜っ!」
 是空の手から、レーザービームのような気の弾がレイゾーに向け発射された。
「ぬうっ!」
 レイゾーは手の平でそれを受け止めようとするが、徐々に押し返されてゆく。
「波〜!!」
「ぎゃぁぁぁ!」
 是空がとどめの一押しを加え、レイゾーははるか校舎の向こう側へと消えて行った。
「凄い・・・・」
「ふう、片付いたか。さて・・・・」
 片が着いたと思ったユタカが変身を解こうとしたその時、姿を変えたレイゾーが空中から襲って来た。
「なにっ!」
「はあっ!」
 レイゾーの今までとは威力の違うパンチが、是空の顔にヒットした。そのまま是空の身体は飛ばされ、体育館の壁に激突する。
「ユタカさん!」
「来るな! 巳弥ちゃん!」
 壁に埋まった是空に、一回り大きく変貌したレイゾーの容赦ない攻撃が追い討ちをかける。
「これがおめぇの本気か・・・・!」
「このまま続けたら、死んじゃうかもね」
 レイゾーの攻撃を受けるたび、是空の身体は体育館の壁へ埋まってゆく。身体が埋まっている上に正面から打撃を受けているため、是空は反撃が出来ずに攻撃を受け続けるだけだった。
(くそ、このままでは・・・・!)
 是空の意識が薄らいでゆく。
「ゆかり・・・・ゆかり、ゆかり・・・・!」
「あぁ? ゆかり? あの姫宮ゆかりのことか? やっぱりおっさん、ロリコンだったのかよ! ハッ、今頃あいつらは先生の大いなるMSに踏み潰されていることだろうぜ!」
「くっ・・・・!」
「いいねぇ、悪役というのも。正義もいいが、自由に、身勝手に振る舞える悪役は非常に気持ちがいい」
「ユタカさん・・・・」
 巳弥は是空が落としていったマジカルハットを拾い上げた。
(お母さん、私、今こそ魔法を使わなきゃならない時だよね? なのにどうして魔法が使えないの? あの人達は悪い人だから、私たちが戦わなきゃいけない相手なのに)
(私たち、正義を守る魔女っ娘なのに!)
 突然、体育館が真っ二つに割れた。
「えっ!?」
 激しい音と噴煙の中から、是空が現れる。体育館の爆発に巻き込まれないように逃げていたレイゾーも、埃を払いながら地面に降り立った。
「しぶといですね」
「・・・・許せねぇ・・・・」
「ほっ、私が許せないと?」
「違う、俺は・・・・俺は自分自身が許せねぇ! ゆかりを裏切った自分自身が許せねぇ! だからせめて、この身に代えてもゆかりを助ける! 絶対にだ!」
 意味は分らなかったが、レイゾーはとにかく是空の気迫だけは感じた。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!」
 是空の「気」が放出され、地面が揺れ、空気が振動する。
「こ・・・・これがさっきまで死に掛けていた奴のパワーか!?」
「はぁぁぁぁぁぁ・・・・」
 是空の髪が逆立ち、金色に輝く。
「こ、これは・・・・!」
 轟く大地、鳴動する空。その中心に、金色の髪、金色に輝く光を纏った戦士が現れた。
「く・・・・!」
 ファイティングポーズを取ったレイゾーの腹に、一瞬にして拳がめり込んだ。
「あ・・・・が・・・・!」
(見えなかった・・・・奴の動きも、攻撃も・・・・!)
「貴様・・・・何者だ・・・・」
「俺はスーパーユタカだ」
 ユタカは格好良く言ったつもりだったが、笠目にはスーパーマーケットの名前にしか聞こえなかった。


30th Dream へ続く


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