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27th Dream 「A Girl in Love」
(まずい、絶対にまずい)
シャワーの音を聞きながら、鵜川は頭を抱えていた。
(あずみ君は、何歳なんだろう? 部屋に連れ込んでるなんて思われたら、謹慎どころじゃないぞ! その上、泊まっていくだって? 駄目だ、絶対それだけは駄目だ!)
鵜川は既にシャワーを浴びており、缶ビールを飲んでいた。
名前は「あずみ」しか分からない。年齢も不詳、履歴書に書いた住所もきっと出鱈目だ。人にいきなりキスしようとするし、ちょっと、いやかなりおかしい子だ。
「大丈夫ですから」
自分の手を握ってくれた、あの温もり。
(誰かが側にいないとどうにかなりそう、か・・・・)
まさにその通りだった。
あの時、あずみがいてくれなかったら・・・・。
「おかしな子だ。そして・・・・」
優しい目をしている。
華代を忘れようとした。無理だった。
華代と同じ、それ以上に好きになれる女の子を探そうとした。いなかった。
出会った女性が、自分のことを好きなんだと思い込もうとした。
幼馴染が、自分に好意を持っていると思い込もうとした。
出会った女性を、運命の人だと思い込もうとした。
何度も何度もそんなことを繰り返し、忘れようとした。そうしなければ、自分の人生は止まったままだと思った。再び動き出すには、そうするしかないと思った。
だが、いつでも、華代は心の中にいた。
「好きだったんですね、華代さんのこと」
あぁ・・・・もうあんなに人を好きになることはもう、ない。
「もっと聞かせて下さい、華代さんのこと」
どうして・・・・?
「私も好きになりたいからです」
そうか・・・・華代も言っていた。みんなを好きになって、みんなから好きって言われたいって。そんな保母さんになるんだって・・・・。
「鵜川さんは?」
え?
「鵜川さんは、みんなを好きになってますか? 好かれてますか?」
いや・・・・あれからは誰とも口をきかない日もあったし、誰にも親切に出来なくなった。そんな僕を、みんなが敬遠した。同情が疎ましく、友達も減っていった。もう、友達なんていないかもな。
「欲しいと思いますか?」
そうだな・・・・でも、また鬱陶しく思ってしまうかもな。そう考えると、いらない気もする。
「私は欲しいです。たくさん、たくさん、お友達」
そうか・・・・出来るよ、あずみ君なら。
「でも私は・・・・じゃないから・・・・」
え? 何て言ったんだ?
「いえ・・・・鵜川さんにも出来ます、友達」
そうかな・・・・。
缶ビールを飲んだ後に横になっていたら、寝てしまっていたらしい。鵜川が気付くと、あずみも自分の手を握り締めて隣で寝ていた。あずみは下着姿だったので、鵜川は慌ててタオルケットを彼女に被せた。
(夢の中で話し掛けてくれていたのは、君なのか?)
「う〜ん、もう食べられません・・・・」
カレーの夢にうなされているのだろうか、と鵜川は苦笑した。
(この子は何者なんだろう?)
何者でもいい。そんなことはどうでもいい。
「本当に、僕の運命の人なのかも・・・・なんて、な」
「莉夜、丁度いい。魔法の箒をその子達に返しなさい」
「えっ!?」
莉夜の顔が「信じられないことを聞いた」という表情になった。ゴキブリが飛んだ所を初めて見たような顔だ。
「何故に?」
「何故に、じゃない。それは本来、返すべき物のはずだ」
「え〜、そんなぁ〜、この子だって言ってるよ、可愛い莉夜ちゃんと一緒にいたいって!」
「箒が喋るか!」
そのやりとりを見ていたゆかり達は、そうとも限らないんだよねと思った。同じマジカルアイテムなのだから、魔法の箒だって心話が出来るはずだ。
「だってまだあずみちゃんと他のマジカルアイテムを探さないといけないんだもん、これを使えば探すのに役立つんだもん!」
「それは一理あるかも」
透子のセリフを聞き、莉夜が「そうでしょ〜?」と目を輝かせる。
「マジカルアイテムは全部集まったら返してもらうことにします」
「君たちがそう言うなら・・・・」
雨竜が承諾したので、莉夜は「やっほ〜い」と叫んだ。
「勘違いするなよ、一時的に借りているだけなんだからな、莉夜」
「は〜い」
まるで自分の物になったかのように喜ぶ莉夜を見て、不安になる雨竜だった。
「ねぇゆかり、あたしたちはみここちゃんの家に行きましょう、もうこんな時間よ」
「あ、本当だ」
ゆかりが自分の腕時計を見ると、夜の10時を大きく回っていた。
「こんな時間に行ったら、迷惑じゃないかな?」
「そんなこと言ってる場合?」
その時、先程からそわそわしている様子の雨竜が口を開いた。
「莉夜、あずみとマジカルアイテムの捜索を続けてくれ。私は一旦、イニシエートに帰る」
「帰っちゃうの? お兄ちゃん」
「ああ・・・・」
雨竜はゆかり達に向かって頭を下げた。
「実はイニシエートの状況がかなり切迫しているんだ。莉夜が無事だということが分っただけでいい。勝手を言って申し訳ないが、引き続き捜索をお願いしてもいいだろうか」
「そんなに差し迫った状況なんですか?」
巳弥が心配そうに聞く。
「正直、何も見えていないんだ。だから余計に不安だ・・・・じゃあな、莉夜。また私が戻ってくるか、誰かを代わりにこちらへ遣そう。お前は何としてもあずみと残りのマジカルアイテムを探し出せ」
「う、うん。その・・・・ごめんなさい」
下を向いた莉夜の頭に、雨竜の手の平が乗せられ、クシャクシャと撫でられた。
「ヘアが乱れるよ・・・・」
「じゃあな、莉夜」
雨竜はその体格からは思いがけないほどの速さで闇の中に消えていった。兄の気配が消えた後で、莉夜は「ふぅっ」と息を吐いた。
「お兄ちゃん、口うるさいからなぁ」
「いいお兄さんじゃない」
巳弥の言葉に「まぁね」と曖昧な返事をする莉夜だった。
「ねぇ、今からどこに行くの?」
「えっとね」
莉夜にみここのことを詳しく話すと時間がかかるので、透子は「マジカルアイテムを持っている人の所に行って、返してもらうの」と簡単に説明した。
「ちょっと待って、今、みここちゃんって言った?」
「え、うん、そうだけど」
「みここちゃんって、声が可愛くて眼鏡かけてて胸が大きくてこすぷれ好きな子?」
「良く知ってるね、知り合いなの?」
ゆかりが驚いて莉夜に聞いた。
「うん、一度会っただけだけど、仲良しだよ。じゃあ莉夜も行く」
こうして魔女っ娘4人パーティは、一路山城家へ向かった。
生徒名簿に書かれた住所を頼りに山城家を目指す一行。
「ねぇねぇ、やっぱしさ、魔女と言えば魔法の箒だよね! これに乗って空を飛ぶのって、結構難しいんだよ〜」
専ら喋っているのは莉夜だった。このところずっと1人だったので、話し相手が出来て嬉しいのだろう。夜も遅い時間なので、あまり大きな声で話しながら歩くのは良くないのだが。
(ワイドショーで騒がれたのは、この子だったのね・・・・それにしても)
透子は先程から一言も喋っていないゆかりが気になった。
「ゆかり?」
声を掛けると、足元のアスファルトを見ながら歩いていたゆかりが顔を上げる。
「・・・・ん?」
「ん? じゃなくて・・・・どうしたの? 具合でも悪い? それとももう眠いの?」
「ううん、そんなことないよ」
ゆかりはそう言うが、雨竜と別れてから明らかに様子がおかしい。
「体調が悪いんだったら、ゆかりんは帰った方がいいよ」
巳弥も心配そうだ。
「あの、ね・・・・イニシエートが大変なことになってるのって、ゆかりのせいかな」
「どうして?」
「あのミズチって人が、また悪い事をしようとしてるんでしょ? あの時、ミズチさんを殺したくないって言ったのはゆかりだし、そのせいで・・・・」
「それは違うわ、ゆかり」
透子が立ち止まり、ゆかりと向き合った。
「確かにあの時はゆかりの言う通りにしたけど、その後でミズチの処遇をどうするかを決めるのはイニシエートの人たちよ。死刑にでも何でも出来たはず。今の状況はゆかりのせいじゃない。だいたい、あの時の王であるミズチの処罰に対する決定権なんて、異世界の小娘になんかあるはずないもの」
「そうだわ、ゆかりん」
巳弥も賛同する。ゆかりは「だといいけど・・・・」と笑顔を作ってみせた。
「大丈夫よ、紅嵐先生やお兄ちゃんが何とかしてくれるから!」
バンバンとゆかりの背中を叩き、莉夜は「さぁみここちゃんちにいこ〜!」と腕を振って歩き出した。こういう時には結構役に立つ子かもね、と透子は思った。
とある山の中。辺りは街灯も民家もない、真っ暗な場所だ。今日は特に霧が立ち込めており、視界も悪かった。
そんな人気のない所に機械音が響いていた。だが、誰もその音を聞く者はいない。その機械に乗っている2人を除いては。
「凄いよ、先生! 本当に動いてる!」
全高約20メートル。二足歩行の巨大ロボットに乗っているのは、卯佐美第3中学の1年生、田宮君だった。以前、教育委員会会長・八重島節子にプラモデルを没収された生徒だ。両手に操縦悍を握り、ゆっくりと前に倒すと巨大なロボットが歩き出す。
「凄い、凄い! 格好いい! すげぇ!」
田宮の乗るコクピットの前面にある全画面スクリーンには、真っ暗な山中の景色が広がっている。操縦室はロボットの腹の部分にあるので、地上約10メートルの高さだ。
「どうだ、田宮」
「夢見たいです、先生!」
田宮は後部座席に座っている教育実習生・大河原に興奮を隠そうともせずに叫んだ。
「夢みたいか。だがこれは現実なんだ」
「うん、先生、凄い! こんなモビル・システムを作っちゃうなんて!」
「興奮して、トリガーを押したりするなよ。山火事になったら大変だ」
「うん、分ってるよ!」
これほど大きなオモチャもそうそうあるまい。田宮は大河原がマジカルアイテム「マジカルソー(魔法のノコギリ)」で作り出したMSの操縦を大いに楽しんだ。
(まだだ、まだこれからなのだよ)
だが田宮よりもなお興奮を抑えきれない大河原は、自分でこのMSを思い切り動かしてみたい衝動に駆られていた。
(今は田宮君に楽しんで貰うと決めたからな・・・・私は卵とはいえ教師だ。生徒の楽しみを奪うような真似は出来ない)
(それに、私の夢はもっと大きい)
無限に広がる大宇宙をゆく巨大戦艦が大河原の頭の中を巡航して行く。
「主砲、てーっ!」
大河原の掛け声と共に伸ばされた腕が、主砲発射の命令を伝える。主砲から放たれた巨大な光が、瞬く間に前方にいる無数の敵を蹴散らしていった。
「諸君、後は任せた。私はMSで出る」
「艦長、いけません! 艦長自らが戦線に出るなんて、危険です!」
「皆に戦わせておいて、私だけぬくぬくと座っているわけにはいかんよ」
「ですが、艦長!」
「案ずるな。私は必ず帰ってくる」
大河原艦長の駆るグンダムが、漆黒の宇宙へと飛び立つ。
「先生、どうしたんですか?」
「先生ではない、艦長だ!」
「艦長? な、何を言ってるんです?」
「ん?」
気付けば、そこに心配そうな田宮の顔があった。
「ここはどこだ?」
「しっかりして下さい、ここは先生の作ったMSのコクピットです」
(そうか、そうだったな)
はるか宇宙にまで飛んでいた大河原の意識が戻って来た。大河原の夢ははてしなく大きかったのだ。
そう、だからこのマジカルソーだけでは実現できない。
結局、笠目が捨てたマジカルドライバーは必死の捜索の甲斐なく、発見できなかった。それもそのはず、今は拾ったこなみが持っているのだから。
(こうなったら、他のマジカルアイテムを出来る限り入手し、魔力を全て結集するしか私の夢を実現する手立てはないか。姫宮ゆかり、藤堂院透子。奴等は3つのマジカルアイテムを持っているはずだ)
ちなみに3つとは、村木が透子に取られたと思っているマジカルハンマーも計算に入れての数字だ。
「先生、ありがとう。もういいよ。これだけ大きかったら、燃料代も結構かかるんでしょ?」
もちろんこのMSは魔力で動いているので燃料などは不要だが、大河原は話を合わせて「そうなんだよ、小遣いが減って辛いんだ」と言っておいた。そんな人間が巨大ロボットなど作れるわけがないのだが。
(さて、どうやってあの小娘たちからマジカルアイテムを奪うか、だな・・・・)
教師の卵であるはずの大河原は、既に自分の夢の実現のことしか考えていなかった。
「山城・・・・この家のはずだよ」
何とか住所だけを頼りにみここの家に辿り着いた魔法少女一行だが、山城家は真っ暗で1つの電気すら点いていなかった。
「もう寝たのかな?」
「それにしては早いと思うけど・・・・」
透子が腕時計を見た。夜の10時半だ。確かに一家が寝静まるのには早いが、寝ていても不思議ではない。
「寝たのなら、起こしちゃ悪いよね」
ゆかりは玄関から山城家を覗き込んだが、何の気配も感じなかった。
「寝てるならいいじゃない。ゆかりの心配するようなことはないわけだし。帰ろうか」
透子がゆかりの肩に手を置き、小声で言った。うるさくすると悪いと思ったからだ。
みここがマジカルアイテムを使ってう〜ちゃんの敵討ちをする、それだけは絶対に阻止しなければとゆかりは思う。何かしらの行動に出るのではないかと思って必死で探していたのだが、寝ているのであればそれでいい。
「それじゃ、帰りましょうか」
巳弥の家はここから近いので直接帰った方がいいだろうという透子の提案で、その場でお開きとなった。
「莉夜ちゃんはどうするの? どこで寝泊りしてるの?」
ゆかりの問いに「部屋があるから」と答えた莉夜だったが、少し考えてからパン、と手を叩いた。
「ねぇねぇ、誰かの家に泊めてくれない? 1人だと淋しくてさぁ」
自分好みのどピンクの部屋だが、学校の裏側ということで人気もなく、夜になるとかなり淋しい場所だ。元々賑やかな方が好きな莉夜なので、この数日間は心細くて泣きそうになった夜もあった。
それじゃゆかりの所に、と言いかけたゆかりだったが、よく考えてみれば家にいる時は父親がいるので大人の格好をしている。莉夜はゆかりを「可愛い魔法少女」だと言ってくれたので大人の姿は見せたくない。かと言って子供のままで家に帰れない。
「私の家はどうかな、おじいちゃんも大歓迎だと思うよ」
と言ったのは巳弥だった。「イニシエートであるおじいちゃんにとって莉夜ちゃんは仲間だし、孫が増えたようで喜ぶと思うよ」と巳弥が言うと、「じゃあ行く」と莉夜は巳弥と手を繋いで一緒に帰っていった。巳弥とは先程会ったばかりなのだが、莉夜は全く人見知りしない性格らしい。
「ゆかりはどうするの?」
「こなみちゃん達を残して来たから、一旦透子の家に帰るよ」
「そうだね」
かくしてユタカはゆかりを、タカシはこなみを家まで送って帰った。マジカルドライバーは取りあえず透子が預かっておくことにした。これでこちら側にマジカルアイテムは2つ。後の3つを取り返せば良い。1つは倉崎健人が、1つは山城みここが持っている。残る1つは・・・・。
「なぁ、芳井」
夜も遅いということで、途中から帰り道は反対方向になるのだが、タカシはこなみを家まで送って行くことにした。「送っていくよ」とは言わず、自然にタカシはこなみと一緒に芳井家へと足を向ける。
「俺のこと、嫌な奴だと思ってるよな」
後ろを歩くこなみに振り向きもせずタカシが話し掛ける。
「どうして?」
「色々・・・・お前に当たってたりしただろ? その時は俺、頭が混乱していて・・・・これって言い訳だけど。今考えると俺、嫌な奴だったなって・・・・」
「そんなこと・・・・」
ないよと言いかけたこなみだったが、少し考えて「そうだったよ」と返事した。
「やっぱりな」
「でも」
「なぁ芳井、どうして人って変身願望があるんだろうな」
「え?」
急に話題が変わって当惑したこなみだった。質問の意図が分からないので、タカシの次の言葉を待つ。
「変わりたいって思うのは、今の自分を好きじゃない、もしくは一番好きじゃないってことなのかな。もちろん冒険したいとか、変わった体験をしたいとか、そういう気持ちもあると思うけど。ゆかりんや透子さんみたいに、必要だから変身していたというのもあるかな」
「うん・・・・」
「透子さんの本当の姿を見た時、あぁ、自分は今まで透子さんの何を見てきたんだろうなって思った。自分の気持ちを否定したくなくて、大人の透子さんも好きなんだって思った。でも、どこかで何かが違う気がしていたんだ。意地を張っていたのかもしれない」
「・・・・」
「俺・・・・芳井が大人になった姿を見て、芳井が普段の自分を否定したんだって思った。そうしたら、何だが芳井がいなくなってしまいそうで・・・・俺の前から消えてしまうんじゃないかって、不安になったんだ」
「そんなこと、ないよ」
「そう思ったら俺、芳井の存在にやっと気付いた気がした」
2人は話しながらも早さを一定に保ちながら歩いてゆく。
「今はまだ透子さんのことで一杯だし、振られてすぐなんて虫が良過ぎるから・・・・もう少し、待っていてくれないか」
「・・・・うん」
「何か食べ物を持って来ようか? それともジュースがいいかな?」
何度目かの祖父の訪問に、さすがの巳弥も少しウンザリした表情になった。
「もう、おじいちゃん。そんなにいらないってば。もう寝る時間だよ」
「そ、そうか。布団はちゃんと敷いたか? 枕は固くないか?」
「もう、着替えるから出てって!」
バタンとドアが閉まり、巳弥の祖父はしぶしぶ1階へと降りて行った。
「ごめんね、おじいちゃんたら・・・・」
案の定、というか想像以上に巳弥の祖父は莉夜を歓迎し、何度もお菓子や飲み物を持って来ては、それがなくなるや否やのタイミングで再び顔を出した。巳弥がゆかり達以外のお友達を連れて来るのは初めてだったため、嬉しかったのだ。
「いいおじいちゃんだね。あの人が牙斬さんのお父さんで、巳弥ちゃんが娘さんなんだね」
「お父さんを知ってるの?」
「凄く有名だよ」
巳弥の父親の話は、魅瑠たちが地上世界の土産話としてイニシエートの人々に聞かせたため、今や知らない人がいないほどの話となっていた。
「巳弥ちゃんも魔法少女なんだよね?」
「う、うん」
「変身出来るの? ね、やってみてよ」
「・・・・今は出来ないの」
「え〜、魔力の無駄使いだから? いいじゃない、ちょっとだけ」
「そうじゃなくて・・・・」
巳弥は自分が今、魔法が使えない状態であることを説明した。その理由はよく分からないが、魔法を使うには魔力と精神力が必要で、自分はその精神力が原因で魔法を使えないの可能性があるという話も付け加えた。
「巳弥ちゃん自身が、魔法を使いたくないってこと?」
「・・・・そう、なのかも」
「自分が使いたくなかったら、使わなくていいんじゃないの?」
「でも、例えばゆかりん達がピンチになった時、魔法が使えないと困る時があるから・・・・」
巳弥はゆかりと透子が丸裸にされた時、魔法を使って助けられなかった自分を思い出して切なくなった。
「巳弥ちゃんは誰のために魔法を使いたいの?」
「それは・・・・」
「莉夜は自分が使いたいから使うよ。巳弥ちゃんは誰かのために使うの?」
「・・・・」
「魔法を使わなきゃ!じゃなくて、魔法を使いたい!って心から思えば、きっと使えるようになるよ」
お気楽な考え方だ、と巳弥は思った。だが、そうなのかもしれないとも思う。
(使いたいって思うことが大切・・・・なのかな)
そう言われれば、ゆかりは楽しそうに魔法を使っている気がする。
自分はどうなのだろう?
魔法は良いことに使わなければならないもの、つまらないことに使ってはいけないもの、そう思い過ぎているのではないだろうか。
だが、それは正しいと巳弥は思っている。魔法などという本来人間が持っているはずのない力は、正しいことに使わなければ大変なことになる。マジカルアイテムは正義と秩序を持って使用しなければならないはずだ。そんな人間だと自分が信頼されている上で、所有が認められているのだと思う。期待を裏切るわけにはいかない。
「ねぇ、一緒に寝ていい?」
莉夜が無理矢理に巳弥の布団に潜り込んで来た。
みここは校庭の片隅、「う〜ちゃんのお墓」と書かれた板の前に座っていた。
夜も遅い時間なので辺りは真っ暗のはずだが、その一角だけ明りが点されていた。みここが魔法で出した照明の明りだ。
「う〜ちゃん、あたし、どうしたらいいの?」
何の罪もないう〜ちゃんを殺した犯人に仕返しがしたい。
仕返しって何?
どれだけ犯人を痛めつけても、それでかたきを取ったことにはならない。相手の命を奪ったところで、う〜ちゃんが喜ぶとは思えない。
ウサギを殺したらどんな罪になるのだろうと少し調べてみた。学校で飼われているウサギは備品扱いになり、器物破損という罪になるらしい。
(う〜ちゃんは物じゃないのに)
それではう〜ちゃんの死体を物扱いにした教頭先生達と変わらないではないか。
「ねぇ、う〜ちゃん。あたし、今の自分が凄く嫌い」
みここはマジカルハンマーを振り、う〜ちゃんのお墓の周りを花畑に変えた。
「世界中のみんなを好きになれたら、どんなに楽しいかな」
時刻は既に0時になろうとしていた。
今日も母親は遅くなるらしいので、みここが帰らなくても家の人が心配するということもない。女の子がこんな時間まで外を出歩くのは感心しないが、みここにはマジカルアイテムという力強い味方があった。それさえあれば、何でも出来る気がした。
28th Dream へ続く
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