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タイトル


 21th Dream 「Fortune of Love」


(何故だ?)
 倉崎は亜由とのキスを邪魔され、憤慨しながらも自分のプログラムミスについて考えていた。
(まさか、ハッキング? 誰かが僕のノートパソコンを勝手に触って、プログラムを改ざんした? いや、そうとしか考えられない。公子の出現がバグだとすると、亜由が「公子ちゃん」と名前を呼ぶなんてことはないはずだ)
 イベントを途中で潰されたが、亜由攻略の為のフラグ(条件をクリアしたという印)は着実に立っている。イベント発生と同時にフラグが立つからだ。つまり先程のイベントでは実際にキスをしなくてもフラグ上はしたことになっている。倉崎の計画は順調だった。
 放課後、倉崎は亜由を「今朝のお詫び」と言って喫茶店に誘った。ここで条件が揃っていなければ亜由の答えは「用事があるから」になるが、彼女は「うん、いいよ」と答えた。フラグはバッチリ立っている証拠だ。倉崎はこのままハッピーエンドに向かってまっしぐらに走ればいいはずだった。
 喫茶店に誘ったが、倉崎の魔法は卯佐美第中学の中に限定されている。それ以上「オタ空間」を広げるのは、魔力や精神力が不足していた。よって、ここで「喫茶店に行けないイベント」が発生する。
「あっ・・・・」
「どうした?」
 倒れかかる亜由の肩を抱く倉崎。
(いや、触らないで!)
 と透子は叫びたかったが、声が出ない。振り解くことも出来ない。
「ごめんなさい、ちょっと、めまいが・・・・」
「まさか亜由、エネルギーが切れたのか!?」
「え・・・・命人くん、どうしてそれを・・・・?」
(な、何なの? エネルギーって、どういう展開!? あたしって何!?)
「知っていたさ。亜由が未来から俺を抹殺しに来たアンドロイド『アユチ』だってことを」
「・・・・知ってたのね」
(あたし自身が初耳なのに)
「あぁ、その耳を見れば分る」
(え?)
 いつの間にか、亜由の耳はドライヤーのような形をした耳になっていた。これでは「あたしは人間ではありません」と言っているようなものだ。
「私はあなたの敵なのよ」
「あぁ。だがそれ以上に・・・・僕は君が好きだ。君がアンドロイドだろうが、料理の下手な幽霊だろうが、タイヤキ食い逃げ娘だろうが、鎌を持った死神見習いだろうが、お兄様ラブな妹だろうが関係ない、君の全てが好きなんだ!」
(何言ってるの、この人!? おかしいよ!)
「それを本部が知ったら、きっと別の刺客が貴方を消しに来るわ。そして、任務を失敗した私も・・・・」
「そんなことは、僕がさせない!」
 ドオン、ドオンと銃を発砲する音が聞こえた。
「早速来やがったか!」
 倉崎はアユチを抱えたまま、走った。
「無理よ、もう逃げられないわ!」
「諦めるな!」
 その体格からは想像できないほどのパワーで、倉崎はアユチを抱いたまま学校内を逃げ回った。
 ついに逃げ場を失った2人は、体育倉庫に逃げ込む。
「はぁ、はぁ・・・・」
「もう駄目だね、ボクたち」
 薄暗い体育倉庫に、2人の息遣いだけが聞こえる。
「命人くん、ボク・・・・」
「アユチ、いや、亜由・・・・」
「お願い、最後に・・・・ボク、命人くんと1つになりたい」
(なりたくない、なりたくないってば!)
 逃げようとする透子だが、亜由の動きには逆らえない。亜由の制服のスカーフがスルリと取れる。
(え、え、まさか、18禁なんてことはないよね!?)
 亜由はスカートのホックに手をかける。倉崎もベルトを外し、ズボンを脱いだ。
(君は僕とハッピーエンドを迎える運命から逃れられないんだよ、藤堂院透子)
「さぁ亜由」
(いや〜!)
 体が動かない。声が出ない。
(いや、いや、助けて!)
(こんな所で、こんな人に、あたしの大事なものを・・・・いや、絶対にいや!)
(助けてゆかり! ゆかり!)
(ゆかり〜!)
「お兄ちゃんの、ばかぁぁぁぁぁぁぁ〜!」
 パッコーン、という気持ちのいい音が体育倉庫に響いた。
「痛いっ!」
 倉崎が頭を押さえる。彼の頭を殴ったのは公子(ゆかり)で、凶器はリレーで使用されるバトンだった。軽いように思うが、殴られると結構痛い。
「き、公子! どうしてここに!?」
「キクゾウが教えてくれたんだよ!」
 公子の手の平には、黄色い服を着た猫が乗っかっていた。名札には「ラーメン党」という文字が見える。キクゾウなのに像ではなく猫だ。
「お兄ちゃんの、浮気者〜!」
「な、何を言っているんだ!? お前は妹だろ!? いい所を邪魔しやがって!」
「嘘だったんだね・・・・」
 公子の声がトーンダウンする。そして淋しげな表情。
「2年前のあの日・・・・きみがお兄ちゃんの本当の妹じゃないって解った夜・・・・お兄ちゃん、きみを抱いてくれたよね」
「は・・・・?」
「あの時、言ってくれたよ。公子、一生君を大事にするって。君だけを愛するって。あれは嘘だったんだね。若気の至りを誤魔化す為のその場しのぎの偽りの言葉だったんだね」
「い、言ってない、言ってない! 大体、2年前ってお前、小学生じゃないか!」
「鬼畜だね、お兄ちゃん・・・・」
「だから違うって!」
 半泣きの公子を相手に、ズボンを下ろしたままうろたえる倉崎。ゆかりは極力、倉崎の下半身を見ないようにした。
「今日は他の妹たちも一緒なんだよ」
「ほ、他の?」
「きみの他の、12人の妹たち。あの子たちもお兄ちゃんの本当の妹じゃないんだってね。みんな、きみと一緒で裏切られたって・・・・妹みんなに手を出してたんだね」
「う、嘘だ、嘘だ! 12人の妹がいるという設定はしたが、キャラを作るのが面倒だったから、実際に登場させてはいない! この世界には存在しない!」
「はたしてそうかな〜?」
 公子が体育倉庫のドアを開けると、そこにはズラリと女の子が並んでいた。
「まさか・・・・」
 呆然とする倉崎の前に、公子が腕組みをして立ちはだかった。
「観念しなさい、倉崎君」
「お前、姫宮ゆかり! どうして勝手な行動が取れるんだ!?」
「この世界に介入するには、この世界に受け入れられるような世界観で対抗しなければならない。ゆかりは一度この空間を体験してたから、雰囲気ですぐに分かったよ」
 ユタカからの受け売りを、ゆかりは自慢そうに語った。
「だからゆかりはこの世界に、公子っていうキャラクターを作って入り込んだの。魔法で作った世界だから、魔法で対抗できないわけはないでしょ」
「・・・・」
「この世界は倉崎君の作ったゲームを基にしているけど、プログラムそのままを実体化したわけじゃない。あくまで倉崎君の構想を基に魔力と精神力で作り上げた物。だから、プログラムを改造するとか、そんな難しいことは不要だったよ。全ては思いの力が強いかどうかだけだもん」
「そんな・・・・」
 倉崎はズボンを下ろしたまま、運動マットの上に座り込んだ。
「あ、まだこのイベントには続きがあるから。13人の妹に囲まれて非難されたお兄ちゃんは、心労から一気に歳を取ってしまうんだよ」
「なんだって?」
 倉崎の頭髪が見る見るうちに白髪へと変わってゆく。目がくぼみ、肌の張りが無くなる。
「何でこんな理不尽なことが起こるんだ!?」
「だってゲームだもん。何でもアリなんでしょ」
「そんなぁ・・・・」
「じゃあね、おじいちゃん」
 ゆかりは透子の手を取って、体育倉庫を出た。
「ゆかり・・・・」
「危なかったね透子」
「ゆかり〜」
 ゆかりの胸に飛び込んだ透子は、そのまま泣き出した。
「ごめんね、ゆかり、ごめんね・・・・」
「どうして謝るの? ゆかりの方こそ、その・・・・」
 土曜日のこと、村木を助けようとして透子に嫌な思いをさせたことを謝ろうとしたゆかりだったが、透子は「もういいよ」と首を振った。
「もういいの、助けてくれて、ありがとう、ゆかり。あたし、もう少しで酷いことされるところだったよ・・・・」
 体育倉庫の中から、倉崎の叫び声が聞こえた。12人の妹に糾弾されているのだ。
「おじいちゃん!」
「おじいさま!」
「おじいちゃま!」
「おじいたま!」
「おじぃ!」
「おじうえさま」
「じいさま」
「おじき!」
「おじくん」
「おじぎみさま」
「じいチャマ!」
「じいや・・・・」
「やめてくれぇぇぇぇぇ! 微妙に呼び方がおかしいぞ、お前らぁぁ〜!!」
 やがてマジカルダストパンの魔力が切れ、この世界も元に戻るだろう。それまで倉崎はずっと妹たちに責められ続けるのだ。美少女に囲まれてさぞ本望だろう、とゆかりと透子は笑い合った。魔力が切れた後で、改めて倉崎の持つマジカルアイテムを返してもらうことにしようという意見で一致した。早く助け出してあげる義理はなかった。


 派出所に戻った鵜川を待っていたのは、本署の警官と自宅待機という命令だった。
「ど、どうしてですか? 自宅待機なんて」
「昨日、通報があったんだよ。君が中学生の女の子に無理矢理キスをさせていたってね」
「そ、それは誤解なんです! 話を聞いて下さい!」
「私は君を信じている。だが通報があった以上、そのままにしておけないだろう。昨日から我々が話し合った結果が、3日間の自宅待機だ。なに、たった3日だ。休みが出来たと思ってゆっくりしていなさい」
 有無を言わさぬ待機命令だった。鵜川はあずみの話を聞いて貰えば誤解が解けると思い「証人を連れて来ますから」と言ったが、鵜川はあずみがどこに住んでいるのか分からない。この前に彼女が書いた名前や住所はおそらく偽名だろうと思っていた。
 あの子たちの罠にはまったのだろうかと思いながら、鵜川は「これでう〜ちゃんを殺した犯人を捜す時間が出来た」と考えていた。みここに約束をしたものの、警官の仕事をしながらでは捜査は難しいと思っていたので、その点に関しては都合が良かった。
(謹慎は2回目だな)
 鵜川は派出所に置いてあった私物を鞄に詰めながら、5年前のある事件を思い出していた。今日のウサギ殺傷事件が引き金となって記憶が蘇ったのだろう。出来ることなら、思い出したくない事件。しかし、決して忘れることなど出来ない事件。
(華代はあいつに殺された)
(だがあいつが罪を償うことはない)
(新聞にもテレビにも顔が出ない)
(あと数年もすれば普通に生活するだろう)
(何故だ?)
(罪を犯したものは、それを償うべきだ)
(責任能力、判断能力なんて関係あるものか)
(人を殺すことは良くないなんて、幼稚園児でも分る)
 やめろ、鵜川! お前は警察官なんだぞ!
(警察官だったら、愛する人を殺されても平気な顔をしていろと言うんですか!)
 気持ちは分かる、だから落ち着くんだ!
(分かるものか。あんたになんか、僕の気持ちが分かるものか!)
 ガシャァァァァァン!
 ガラスが飛び散った。鵜川が自分の持っていた鞄を、派出所の奥にある宿直室の窓に思い切りぶつけたからだった。キラキラしたガラスの破片が畳の上に散乱していた。
(また・・・・やってしまった)
 ガラスを片付けながら、鵜川は卯佐美第3中学で出会ったみここのことを考えていた。
(あの子になら僕の気持ちが分かるのだろうか。う〜ちゃんを殺されたあの子になら。誰にも分り得なかった、僕の心の葛藤が)


 倉崎の魔法が解け、うさみみ中学は元の世界へと戻った。狂っていた時間の流れも元通りになる。
「あ〜っ!」
 魔法が解けたのを確認してゆかりと透子は体育倉庫に入った。だがそこには、倉崎の姿はなかった。
「窓が開いてる!」
「あそこから逃げたの!?」
 倉庫には、小さいながらも窓があった。ゆかりたちですら通り抜ける事が困難だと思われるその窓から、倉崎は脱出したのだ。よほど必死だったのだろう。
「まだ遠くには行ってない、追うわよ!」
「うん!」
 倉崎のマジカルアイテムは魔力を使い果たしている。捕えるなら、今が絶好のチャンスだった。


「何だってんだ、一体」
 昼休み、みここを苛めている例の3人組は、みここから体育館裏に呼び出しを受けた。呼び出したことは何度かあるが、その逆は初めてだった。
「ひょっとして仕返し?」
「まさか。あいつ、そんな根性ないって」
「でもそんな奴ほど、キレたら怖いって言うぜ」
「怖くなんかあるか。こっちは3人だぞ」
 その女の子は強がりながらも、少々ビクついていた。
 リーダー格のミホ。喧嘩っ早いトモ。体格の良いレイコ。彼女らは呼び出した張本人であるみここを待った。
 ザッ、ザッ、と草を踏みしめる音が聞こえた。みここが来たのか?と思い、3人は現れた人物を見た。だが・・・・。
「な、何だお前?」
 黄色いレオタードに前開きの巻きスカート、羽根のような肩当て、頭に輝くティアラ、たなびく髪と流れるリボン。
 3人組の共通した感想は「変な奴が来た」だった。
「来てくれたのね」
 だがその人物が言葉を発した途端、すぐに正体が分った。
「お前、山城か!?」
「何て格好してやがるんだ?」
「あたし、知ってる。それ、パステルリップの戦闘コスチュームだ!」
 普段かけている眼鏡がなく、露出度の高いコスチュームを着ているので、見た目ではみここと分らなかった。ちなみにみここがゲーキャラショーでコスっていたのはパステルリップの第1戦闘形態で、今のは第2戦闘形態だ。第2の方は露出度が高く、みここは人前で披露する勇気がなかった。
「何してんだ、お前?」
「ついに頭がおかしくなったのか?」
 みここはそのまま3人組の前まで歩み寄った。3人組は少し後退る。
「あなたたちなの? う〜ちゃんを殺したの」
 みここの声とは思えない、低い声が発せられた。
「何だよ、う〜ちゃんって」
「ウサギだろ? 今朝、騒ぎになってた」
「そんなの、うちらが殺すわけないじゃん」
 口々に言う苛めっ子を睨みつけるみここ。その目には怒りか悲しみか、どちらか判断できない感情が込められていた。
「どうしてう〜ちゃんを殺したの?」
「だから、やってねぇって!」
「あたしだけ苛めてるだけじゃ、物足りなかったの?」
「おい、聞いてるのか?」
「う〜ちゃんが死んだの、あたしのせいなの?」
「いい加減にしろよ、山城!」
 喧嘩っ早いトモが声を張り上げた。
「こんな変な奴、マー君が相手にするわけないんだ! やっぱりマー君はこいつに騙されてたんだ!」
「パステルリップの必殺技、知ってる?」
「あぁ?」
「悪い怪人を、聖なる光で消しちゃうんだよ。跡形もなく」
「・・・・それが、どうしたんだ」
 みここは手に持っていた剣を模した杖を3人組に突きつけた。
「う〜ちゃんのかたき、取っていいよね? あなたたち、悪者だから」
「お、おい・・・・」
 みここの真剣な目を見て、ミホは段々と怖くなってきた。
「こいつ、マジだ」
「何だよミホ、何びびってるんだ? あんなオモチャで何が出来るっていうんだ?」
「オモチャかどうか、試してみる?」
 パステルステッキ(実はマジカルハンマーが変形したもの)の先端から、細い光が飛んだ。
「いたっ!」
 突然、トモが腕を押さえる。押さえた手から、赤い液体が流れた。
「おい、トモ! 大丈夫か!?」
 レイコはトモを気遣いながら、みここを睨む。
「おいお前! 何てことするんだ!」
「う〜ちゃんは、もっと痛かった・・・・もっともっと、たくさん血が出てたよ」
「だからあたしらはやってねぇって! ぎゃっ!」
 レイコの太腿に光が当たり、1本の赤い線が出来た。そこから血が滲み出す。
「ねぇ、う〜ちゃんはどうだった? 苦しんだ? それとも、すぐに死んだの?」
「やめて、山城さん!」
 ミホがみここの前に進み出て叫んだ。
「あたしたち、本当にう〜ちゃんを殺してなんかないの!」
「・・・・」
「今まであなたを苛めていたことも謝るわ! 知ってたの、本当はあなたがマー君をたぶらかしたんじゃないってこと。ただあたしたちは、マー君が貴方に告白したことを認めたくなかった! 憧れのマー君をあなたに取られるなんて、我慢出来なかったのよ!」
 ミホ、トモ、レイコはマー君と呼ばれる勝田雅宏という生徒に憧れ、勝手に私設ファンクラブを設立した。ところが発足して間もない時期、マー君がみここに告白したという噂が流れた。それは噂ではなく本当なのだが、3人はその事実を認めたくない。そして、みここへの苛めが始まった。
 モテないみここがマー君をたぶらかした。告白したというのはみここがばら撒いた噂に過ぎない。マー君は迷惑している。そういうデマを流し、みここを責めた。マー君に対してもみここについてのあらゆるよくないでっち上げの噂を吹き込み、みここを諦めさせた。
「本当のことを言うわ! あたし、あなたを苛めたくはなかった、でもトモとレイコの前では、貴方を苛めないと、嫌いだって言わないと仲間外れにされると思ったの! あたし、1人になりたくなかった!」
「な、何言ってるんだ、ミホ」
「だから、う〜ちゃんだって・・・・そんな酷いこと、しないわ。信じて、山城さん」
「あたしだって、信じたい」
 手をついて謝るミホを見下ろし、みここは悲しげな声で言った。
「でも、あたしは正義の魔法少女なんだもん」
 みここの持つパステルステッキが閃いた。


「どこへ逃げたのよ〜!」
 一方、逃げた倉崎を探すゆかりと透子。何しろ学校内なので、隠れる場所は至る所にある。大柄ではない倉崎が逃げ込む所など、数えればきりがない。
「あれ、タカシ君」
 その途中、校舎裏の草むらでせっせと何かを探しているタカシを発見した。
「何してるの〜?」
「ゆかりんか、丁度いいや、一緒に捜して欲しいんだ」
「何か無くしたの?」
「あ、ええ、実は笠目を捕まえてぶちのめしてやったんですけど・・・・」
 透子に話し掛けられると急に言葉遣いが変わるタカシだった。
 タカシの話によると、逃げた笠目を追いかけて叩きのめしたところ、マジカルアイテムを捨てたと白状した。投げ捨てたので、場所はこの辺りとしか分からないという。
「早く見付けないと、誰かに拾われたらまた大変なことになると思うんです」
「タカシ君、その仕事、任せていいかしら? あたしたち、倉崎って子を捜してるの。マジカルアイテムの所持者よ」
「え、倉崎先輩が?」
 倉崎はタカシも知っているパソコンマニアだった。
「分りました、マジカルアイテムは僕が捜しておきます」
「お願い!」
 制服姿で駆けて行くゆかりと透子を見送り「やっぱり子供の姿も可愛い」と思うタカシだった。
(さて、マジカルアイテムを探し出して、透子さんに喜んで貰おう)
 暑い日差しの中、俄然張り切るタカシだった。
「早く倉崎って子を見付けないと。仮眠による魔力の急速充填をされたら、また魔法が使える状態になっちゃうわ」
「よ〜し、こうなったら変身しかないわ!」
 ゆかりが魔法の孫の手を出現させる。
「ちょっとゆかり、学校であんな格好になるの!?」
「きゅんきゅんはぁと、以下略!」
 簡易モードで「ぷにぷにゆかりん」に変身したゆかりは、その状態から更に孫の手を振り上げた。
「うさみみピンピン、いたずらうさぎ! 1人は嫌なの、ぎゅってして! ぷにぷにゆかりん2段変身、うさぴょんモード!」
 ねこにゃんモードは白いレオタードだったが、うさぴょんモードはピンクのレオタードだった。当然、頭には大きなウサギの耳が付いている。
「二段変身? 何それ」
「まぁ見ててよ」
 ゆかりはうさみみを立てて、目を閉じた。少しずつ頭を動かし、角度を変える。
(倉崎君の声、息遣い・・・・)
(校庭、中庭、運動場、体育館、旧校舎1階、2階、3階、新校舎1階・・・・)
「透子! こっちだぴょん!」
「だぴょんって・・・・」
 透子は駆け出すうさぴょんゆかりんの後を、慌てて追いかける。それにしてもゆかりんの格好は恥ずかしい。この辺りに生徒がいないのが幸いだと透子は思った。


22th Dream へ続く


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