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タイトル


 18th Dream 「もうひとりの私」


 姫宮家を目指す村木とにせ透子。村木は約束の時間を2時間過ぎているが、笠目が怒っていないことを期待していた。世の中そんなに甘くはない。
「ね、村木君。あなたはこのマジカルアイテムを何に使いたいの?」
「何って、まぁ色々と・・・・」
「あたしの知る限りでは、Hなことにしか使っていないようだけど」
「う〜ん、でも、人の願いって所詮、そんなものじゃないの?」
 村木が息を荒くしながら、前を歩く透子についてゆく。
「僕は君みたいな存在を作ることが夢だった。それが叶ったんだ。夢を叶える力を、神様が僕に与えてくれたんだよ」
「夢?」
 にせ透子が立ち止まる。
「あなたのしていることは夢なんかじゃないわ。ただの欲望よ」
「よ、欲望って、そんな言い方・・・・」
「夢なんて綺麗な言葉、使って欲しくない!」
 コピー透子がマジカルハンマーを村木に向かって振り下ろす。光の波が彼に向かって飛んだ。
「ああっ!」
 それは、村木の得意技だった。村木の着ている物が、バラバラの小片となって夜の街角に四散する。透子は慌てて視線を背けた。
「な、何するんだぁぁぁ!」
 全裸になった村木は大事な所を押さえて、慌てて近くにあった郵便ポストの影に隠れた。
「恥ずかしい?」
「あ、当たり前じゃないか!」
「それと同じ事を、あなたはあたしに・・・・あたしのオリジナルにしたのよ。男の子より、女の子の方が何倍も恥ずかしいんだからね」
「わ、分った、悪かったから、早く服を着せてよ!」
「あなたはどうしたの?」
 冷ややかな目が村木を睨む。
「あなたがしたように、あたしもこのまま放っていくわ」
「そ、そんな! だって、ここから僕はどうやって帰ればいいんだ!?」
「さあ・・・・こんな時間だから、運が良ければ誰とも会わずに帰れるかも」
 コピー透子が背を向ける。
「ま、待ってよ〜! もし誰かに見られたら・・・・」
 遂に村木は泣き出した。
「凄く早く走って帰ったら? 誰にも見えないほどね」
「無茶だよ〜!」
「大丈夫よ、あなた、学校ではあんなに存在感がないじゃない」
 泣き叫ぶ村木に目も呉れず、コピー透子はマジカルハンマー片手に立ち去った。
(オリジナルのあたしが出来ないなら、あたしがやるしかないじゃない。さて、後はこれを本物のあたしに渡せばいいわね)
 村木は失敗した。
 彼のスケベな目的のためだけなら、透子の姿と声だけ似せれば良かったのだ。調子に乗って透子そのままのフィギュアを作ってしまったことが、彼の失敗だった。
(・・・・?)
 にせ透子は、その路地に入った途端に何か違和感を覚えた。具体的にどう変なのかは言い表せない。しかし、どこかおかしい。周りの景色は何も変わっていないように見えるが、例えるなら空気の匂い、気圧の高さ・・・・。
(これは!?)
 にせ透子の前の道路に、物々しい銃器が置かれていた。他にも携帯用のカンテラ、ラジカセ、食料などがある。
「なに、これ・・・・」
「バイオレンスアクションゲーム『サバイバル』にようこそ!」
 突然、頭の上に鳴り響く声。にせ透子は辺りを見回した。
「見ていたよ。なかなかエグイことをするね、藤堂院透子。気に入ったよ」
「あなた、誰?」
「首尾良くマジカルハンマーを手に入れたようだけど・・・・それは僕が貰うよ。君は既にマジカルアイテムを持っているじゃないか。2つ目は不要だろう?」
「こんなことを出来るあなたも、持ってるんじゃないの?」
「僕はね。マジカルハンマーはある人にあげようと思ってるんだよ」
「ある人・・・・?」
 空全体から聞こえてくるような声。少し機械的な声。
「君にそのマジカルアイテムをかけて、ゲームをやって貰う」
「ゲーム?」
「目の前にある銃と、その他のアイテムの中から好きな物を3つ選んで所持したまえ。それからゲームスタートだ」
「ど、どういう意味?」
「なぁに、ヴァーチャル空間で行われるサバイバルゲームだよ。もちろん、プレイヤーは君自身だけどね」
「・・・・」
 どうやらこのヴァーチャル空間が相手の魔法によるものらしい、とにせ透子は理解した。
(相手はあたしが偽物とは思っていないみたいね)
「さぁ、早くしないとこちらから攻撃を仕掛けるよ。ゲームスタートだ」
「え、ま、待って!」
 にせ透子は銃以外のアイテムを見渡した。この中から3点選べと言う。
「質問! このゲームで死んだら、実際にはどうなるの?」
「さぁね? ククク・・・・知らない方がスリルがあっていいじゃないか」
「本当に死ぬなら、やらないわよ」
「そうはいかない。参加しなければ、君はこの空間から出ることは出来ないんだよ」
「・・・・」
 ハッタリだ。
 こんな特異空間を維持するには、かなりの魔力を消費するはず。いずれ魔力が尽き、この空間は消滅するだろう。にせ透子はそう予測しながら、指定されたゲームに参加することにした。
(万が一死んでも、あたしはもともと魔力で作られただけだから。あたしもいずれは消える運命なんだもんね)
 そう考えて、にせ透子はちょっと悲しくなった。
(あはは・・・・どうしてかな、元々存在しないのに。消えるのってやっぱり嫌だな)
 にせ透子が銃とアイテムを3つ選ぶと、その他のアイテムは消失した。
 にせ透子の選択したアイテムの1つは、リュック。銃を構えるために両手をフリーにしたまま、その他の2つのアイテムを持ち運ぶための物だ。
(なるほど、後の事を考えてリュックを選んだか・・・・さすがだな。昨日のテストプレイで選んだ奴は、使えそうなアイテムを3つ選び、持ち運べなくて苦労していたよ。その隙に僕が奴の眉間を・・・・ククク。正直、愛想が無かったね。君には期待していいのかな?)
 見た目は普通の住宅地である。
 だが、他の通行人は一切見当たらない。車も通らない。
 どこまでがこのゲームのステージなのだろう、とにせ透子は考えた。町全体をヴァーチャル空間にしてしまうほどの魔力がマジカルアイテムにあるとは思えない。相手のマジカルアイテムが、自分たちの物と大差なければ、の話だが。
(このまま魔力が切れるまで逃げるという選択肢もあるけど・・・・相手は1人とは限らないかな)
 手にした銃は、詳しくは分からないがライフル系だ。魔力で生み出されたものだとは思うが、両腕にズッシリと重い。
「では、以後僕もプレイヤーとして、つまり君の敵として参加する。システムヴォイスは以上だ」
「待って! あなたはあたしの居場所を知ってるんでしょう? あたしもそっちの居場所を知らないと、不公平じゃない?」
「分かった。僕は駅前のファミリーアートの前がスタート地点だ。では、レディー・ゴー!」
 最後の掛け声は完全に機械的な声に変わっていた。
(駅前のファミリーアートってことは、ここから500メートル・・・・徒歩だと約5分、走ったら・・・・)
 にせ透子はリュックに入れたアイテムを確かめた。
「ちょっと重かったかな・・・・でもゲームって、大抵の場合は役に立たなさそうなものが役に立ったりするんだよね」
 そんな理由でアイテムを選んだにせ透子だった。
 とりあえず路地から出よう、とにせ透子は立ち上がった。角を曲がれば少し広めの道路に出る。ここなら見通しがいいと思ったその瞬間、視界の隅に何かを捕らえた。
(!!)
 慌てて身を隠そうとして、ライフルの重さでバランスを崩して倒れこむ。弾丸を発射する音と、ブロック塀に金属の何かが当たる音がした。
「自転車!?」
 自転車に乗った相手が、にせ透子の傍を通り越す時に発砲してきたのだ。
(うっそ〜! まさか自転車で来るとは思わなかったよ! それにしても・・・・)
 自転車に乗ったままライフルを発砲したのか。片手では無理だ。おそらく発砲の際、手放しで自転車を操縦したのだろう。危険なので良い子は真似をしてはいけない。
(ちょっとズルくない!?)
 そう憤慨して、にせ透子はアイテムを選んでいた時のことを思い出した。
(そういえば、近くに自転車が停めてあったような・・・・あれもアイテムの1つだったってわけ!?)
 アイテム、と言われれば手で持てるような大きさだと思ってしまった。
(でも、あたしが自転車に乗りながら銃を撃てるわけもないし・・・・あ、でもあれがあったら逃げることは出来たなぁ)
 自転車があれば、魔力切れまで逃げまくるという作戦が容易になっていただろう。
(こんなものより、他の物にすれば良かったかな? ひょっとしたらゲームにありがちな「何でこんなものが重要なアイテムなわけ?」っていう物を選んだんだけど、重いだけだもんね・・・・)
 にせ透子のリュックの中には「ラジカセ」と「ただの石」が入っていた。何となく意味ありげな物を選択したのだが、これが銃撃戦に役に立つとは思えない。
 自転車で走り去った敵は、引き返してくる様子はない。最初の奇襲が失敗して、別の作戦を考えているのだろうか。
 にせ透子は「この世界でラジオ放送は入るのだろうか?」とラジカセをいじってみたが、雑音ばかりである。ラジカセが壊れているのか、電波が届いていないのか。
(それにしても、マジカルアイテムでこんな世界が作れるなんて)
 相手は遊んでいる。テレビの中のゲームに飽きた者が、自分の作ったこの世界でヴァーチャルゲームを楽しんでいる、と言ったところか。
 透子はミリタリーには全く興味がないので、ライフルの撃ち方など知らない。どの程度の精度でどの程度の距離なら狙えるのだろうか?
(そう言えば)
 にせ透子はリュックの中に一緒に入れておいたマジカルハンマーの存在を確かめた。
(あたしにもマジカルアイテムがあるじゃない! これで魔法が使えるわ、ラジカセなんかより役に立つものが出せる!)
 相手は銃での戦いを指定してきたが、そんなルールに従う理由はない。にせ透子はマジカルハンマーを振って、ぽよぽよとこたんに変身しようとした。だが・・・・。
(変身・・・・しない?)
 自分がマジカルハンマーの持ち主ではないからか? そんなことはない。村木に対しては魔法を使えた。魔力が尽きたのか?
 にせ透子は知らないことだったが、ここは相楽豊の言葉を借りると「オタ空間」である。このゲームの仕掛け人、MOTの倉崎健人の世界にそぐわない物は、作り出すことが出来ないのだ。
 突然、近くの民家が爆発した。
「!!」
 爆風に乗って、煙や塵が飛んで来てにせ透子の頭に降りかかる。民家はそのまま炎上した。
(もしあの爆発に巻き込まれたら・・・・)
 選択アイテムの中に手榴弾があった。敵はそれを投げ込んだのだろう。当てる気はないのかもしれない。にせ透子をこの入り組んだ路地から出そうという作戦だ。複雑に入り組んだこの路地裏はにせ透子を追い詰めやすいが、逆に相手からすれば待ち伏せされる恐れもある。撃ち合いになれば銃に不慣れな透子が不利になるだろう。
「いた〜い、今の爆発で足を怪我しちゃった〜! これじゃ歩けないよ〜!」
 少しわざとらしいが、にせ透子は相手をこの路地に誘い込む作戦を選択した。
 手榴弾を投げ込んだ倉崎は、その胡散臭い芝居がかったセリフを聞きいていた。
「そこまで言うなら、言ってあげようじゃないか」
 倉崎は銃を構え、狭い路地へと入って行った。にせ透子がどこにいるのかは見当が付かない。曲がり角は注意深く曲り、周囲に気を配る。もちろん、壁の上にも注意する。
(さぁ仔猫ちゃん、大人しく出てくるんだ・・・・)
 バチバチと炎上した民家から木のはぜる音がする。そのせいで、お互い足音が聞こえない。
(爆破したのはマズかったか・・・・しかしそれは、相手も同じこと)
 倉崎の考える通り、にせ透子も相手の足音が聞こえない。
(やだな、この緊張感・・・・)
 ゆっくりと歩を進める。
(あっ?)
 角を曲った所に、銃が落ちていた。
(相手の銃? 何で?)
 敵が落としたのだろうか? しかし何故? にせ透子は不審に思いながら、あれを拾えば相手の武器がなくなる、と銃に歩み寄った。
(違う、これは・・・・罠!?)
 ドォンという音と共に、近くにあったポリバケツに穴が空いた。
(偽物のライフル、これも相手の選んだアイテムね!)
 にせ透子は転がりながら脇の路地に入った。
「ふっ・・・・」
 にせ透子の転がり込んだ路地を見て、倉崎は唇の端を吊り上げた。
「追い詰めたよ、仔猫ちゃん。王手だ」
 この辺りは、倉崎が幼い頃に良く遊んだ友達の家が近くにあり、その路地も良く知っていた。
(その先はT字路の行き止まりでね・・・・右に逃げても左に逃げても奥行き5メートルほどの袋小路になっているんだよ)
 倉崎はこの辺りの地形を知っているという点で、既ににせ透子にはハンディがあったのだ。
 倉崎が路地に入る。真正面は壁で、左右に道が分かれていた。
(さて、どっちに身を潜めているかだけどね)
 銃を右に構えるか、左に構えるか。それは追い詰めた倉崎にとっても危険な選択だ。目標に狙いを定めるには、通路に出なければならない。もし右に銃を構え、相手が左にいればみすみす背中を見せることになる。
 倉崎は耳を澄ませ、にせ透子の立てる物音を聞き逃すまいと神経を集中させた。
(靴で砂をにじる音、くしゃみ、息遣い・・・・少しでも音を立てた時が君の最後だよ。これで村木隊員・・・・いや、彼はマジカルアイテムを奪われた時点でMOTの隊員ではないか。村木君のマジカルハンマーと、藤堂院透子のマジカルアイテムが手に入ると言う訳だ)
 倉崎は足を止めた。
 左右の壁は高く、透子にはよじ登ることが出来ない。絶対にどちらかの袋小路に、透子はいる。あと一歩踏み出せば狙いを付けられる位置だ。だがそれは倉崎にとっても同じことで、左右のどちらかにいる透子が、倉崎が顔を出すのを待っているはずだ。
 はずだった。
 だが倉崎には余裕があった。
(これは僕が作ったゲームだからね。藤堂院透子、君の銃には弾が入っていないのさ)
 それゆえに、倉崎はもし透子の位置を間違ったとしても、向き直って銃を構えれば済む。どちらにせよ、倉崎の勝ちには間違いがなかった。
「やだ、恐いよ、もうやめて!」
 右から透子の声がした。
「ほう、恐怖のあまり降参しましたか。期待外れだね」
 倉崎は右の通路に銃を構えるべく、足を踏み出そうとした。
「やだ、恐いよ、もうやめて!」
 もう一度、透子の声が聞こえた。
(待てよ。同じセリフ・・・・)
 少し間を置く。三度、同じセリフが聞こえた。
(録音した声か・・・・少しくぐもった感じがする。なるほど、ラジカセを選んだのか。それに声を録音し、流す・・・・だから同じセリフしか繰り返せない。僕を騙すためとなれば、本物は左か!)
 今度は左に目標を定めるべく、倉崎は銃を構えた。
(浅はかな考えだね。そんなことでこの僕が騙せるとでも? テープの声はダミーで、本物の君は・・・・)
「こっちだ!」
 倉崎は通路に飛び出し、狙いを定めた。
 そこにはラジカセがポツンと置かれていた。
(ラジカセ!? なぜ声のした方と反対側にラジカセが?)
 瞬間、後頭部に重みのある一撃を受け、倉崎はその場にぶっ倒れた。
「な・・・・何で、後ろに・・・・?」
 頭を押さえてうめく倉崎を、リュックを抱えたコピー透子が見下ろす。コピー透子が選択したアイテム「ただの石」の入ったリュックの一撃は、相当こたえたはずだ。
「チェック・メイトね」
「ラジカセは左に・・・・声が聞こえたのは右・・・・ど、どういうことだ?」
「やだ、恐いよ、もうやめて!」
 コピー透子は手を口の前に当て、先程と同じセリフを繰り返した。
「ラジカセの真似」
「同じセリフをあれだけ正確に繰り返したというのか?」
「あたしは機械じゃないから、ちょっとは違ってたと思うよ。でも聞いてるあなたも機械じゃない。ほとんど同じなら、全く同じに聞こえたんじゃないかしら」
「・・・・」
「裏を読んでくれて、助かったわ。そのまま声のする方に来られたら、銃にリュックじゃ対抗出来ないでしょ」
 YOU、WIN。機械的な声が響いた。
「何故、銃で撃たなかった?」
「だって、ゲームで死んだらどうなるのってあたしが聞いた時、あなたがさあねって答えるから・・・・そんなこと言われたら、銃で撃てないよ」
「まさか君はあの時、自分が撃たれたらどうなるか、ではなく、僕を撃ったらどうなるかを心配して聞いたというのか?」
「そんなに自信過剰じゃないよ。ゲームだから負けたくないなって思ったけど」
 倉崎は倒れた格好のまま、自嘲気味に呟いた。
「第1ラウンドは僕の負けということか」
「第1ラウンド?」
「前哨戦、と言った方がいいかな? 今日のは余興だよ」
「今日って・・・・」
(あたしはもう、ここにはいられないんだよ)
 コピー透子の体から、急に力が抜けてゆく。リュックが手から落ち、壁に手をつく。
「どうした・・・・?」
「えへへ・・・・もう駄目みたい。マジカルハンマーの魔力が尽きたのかな・・・・」
「どういうことだ?」
「どうなるんだろう、あたし。人形に戻るのかな、それとも消えちゃうのかな」
「だから、どういうことだと聞いてるだろう!」
 倉崎が頭の痛みに耐えながら立ち上がり、コピー透子に歩み寄った。
「あたしはマジカルハンマーが生み出した、透子のコピー」
「・・・・なに?」
「魔力が尽きれば、あたしも存在できなくなるの」
「本物ではなかったのか」
 コピー透子に手を伸ばした倉崎だったが、薄くなるコピー透子の腕を掴むことが出来なかった。
「変だね、さっき生まれたばかりなのに、死ぬのが恐い・・・・かな」
「おい、しっかりしろ!」
「最後にゲームが出来て、面白かったよ。ゲームって言われて、負けられないって思ったんだ。ゲームにはちょっと自信あったから」
「勝ち逃げする気か!?」
「あ、そうだ・・・・マジカルハンマー、本物のあたしに届けなきゃ・・・・」
 コピー透子はリュックを持ち上げようとしたが、手がすり抜ける。
「駄目みたい・・・・」
「君は・・・・そのまんま、藤堂院透子のコピーなのか?」
「多分。心の奥底まではコピー出来てるかどうか、分からないけどね」
 コピー透子が薄くなる。やがて向こうにあるはずの壁が透けて見えてきた。
 そして、消滅。
「・・・・」
 倉崎の作り出した世界が消え、元の町に戻って行く。倉崎はコピー透子の消えた場所をしばらく見つめていた。
「・・・・コピーだと? 僕はコピーに負けたというのか?」
 世界と共に消滅したリュックのあった場所に、マジカルハンマーだけが落ちていた。それを拾い上げ、柄を握り締める。
 後味が悪い。
 せめて対等な立場でゲームをしていれば、こんな後味の悪さは感じなかった。相手の銃に弾を入れず、相手は3つしか選べなかった選択アイテムを、自分はその倍の数を所持していた。
(くそ・・・・何もかも、負けた)
 この借りは、必ず返す。本来のメインのゲームで。
「君は僕のものになるんだ、藤堂院透子」
 倉崎はマジカルハンマーを自分の鞄に入れ、その場を立ち去った。


19th Dream へ続く


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