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タイトル


 13th Dream 「こっちを向いて」


(えっと、肩叩き肩叩き・・・・)
 階段から落ちたという「魔法の肩叩き」を探し、こなみは階段を降りて1階まで来た。非常階段は校舎の外側にあるために下が見えるので、高い所が苦手なこなみは降りる時に非常に恐い思いをした。
(ゆかりん、魔法で裸にされたって言ってたけど・・・・そんなことに魔法を使うってことは、最近起きてる例の事件の犯人と戦ってたのかな。あ・・・・)
 かなり跳ねたらしく、肩叩きは階段の下からかなり離れた場所に落ちていた。
(あった)
 拾い上げた肩叩きは、落ちるまでにかなりあちこちにぶつかったらしく、数カ所に傷が入っていた。
(可哀想。もっと大切に扱ってあげないと・・・・)
 マジカルアイテムにも意志があると聞かされていたので、何となく「可哀想」という気持ちになった。
(透子さん、泣いてたな)
 タカシの言葉を思い出す。
 本当の姿の透子さんは、大人なのにどこか可愛くて、それでいて大人の雰囲気を持っていて、優しそうな瞳で・・・・。
(タカシ君、大人の女の人が好きだったんだ)
 自分も大人だったら透子には負けないのに、と思う。
 だが年齢差は、どうやっても埋まらない。時間の壁だけは、どうしようもない。
(どうしようも・・・・ない?)
 こなみは階段を登る足を止め、自分の手にある魔法の肩叩きを見た。
(これがあれば、私だって大人になれる・・・・)
 肩叩きをじっと見つめるこなみ。
(大人になったら、タカシ君も振り向いてくれるかな)
 使ってみようか。
 大人になれば、透子と対等になれる。自分の方が、もっともっと美人になっている可能性もある。
 いや、それよりも・・・・。
 この肩叩きがなくなれば、透子は今の姿から元に戻れなくなる。
 そうすれば、タカシは一目惚れした大人の透子にもう会えなくなる。
 今度こそ、タカシは透子を諦めるかもしれない。
(この肩叩きさえなくなれば・・・・)
「芳井?」
「あ」
「透子さんやゆかりんは見付かったのか?」
 タカシだった。彼も別の校舎を捜していたのだが、見付からずにここへやって来たのだった。


「ありがとう、巳弥ちゃん」
 ゆかりと透子は、巳弥が持ってきてくれた体操服を着た。当然下着はないが、この際贅沢は言っていられない。夏の体操服で、胸の名札には「出雲」「芳井」とある。背格好はそう変わらないので、サイズは丁度いい。
「よ〜し、犯人を追いかけるぞ」
 と、服を着て教室を出たゆかりが孫の手を握った。だが、重要なことに気付く。
(あ、魔力がなくなってるんだった・・・・)
 しかも、村木が逃げてから随分経つので、既に遠くへ逃げてしまっているだろう。
「透子?」
 ゆかりは服を着ているのになかなか教室から出てこない透子を呼んでみた。返事がないため、覗いてみる。
「どうしたの? 犯人、捜しに行こうよ。あ、そうか。肩叩きが戻ってこなきゃね」
「・・・・戻って来ても、いかない」
「どうして? だってゆかりのはもう魔法が使えないから、透子だけが頼りなのに」
「あいつの顔、もう見たくないから」
「だからって放っておいたら、また事件を起こすよ」
「あたしには関係ないもん!」
「透子!」
 蒸し暑い教室で汗が流れ、体操服がベッタリと肌に張り付く。
「肩叩きを貸すから、ゆかりが捕まえてよ」
「どうして? 2人でやろうよ」
「あの・・・・」
 帰って来たこなみは、何となく険悪なムードだったので恐る恐る声を掛けた。
「拾って来たよ、肩叩き」
 透子の前まで歩いて、肩叩きを差し出す。
 結局こなみは、肩叩きをそのまま透子に返しに来た。勝手に使おうか、無くしたと言って取ってしまおうか、色々と考えたこなみだったが、実際は何も出来なかった。そこが、彼女らしい所だ。
「はい、透子さん」
 だが透子は差し出された肩叩きを受け取ろうとしなかった。
「透子、せっかくこなみちゃんが拾って来てくれたのに」
 ゆかりが代わりに肩叩きを受け取り、透子の手に持たせようとするが、透子はその手を振り払った。肩叩きがゆかりの手から落ち、床に転がる。
 それを見たこなみが、教室を飛び出した。
「こなみちゃん!?」
 ゆかりはこなみに何があったのか、その後を追おうとした。だが透子を放っておくわけにもいかない。
「ゆかりん、透子さんは私が」
 そんなゆかりに、巳弥がこなみを追うように合図する。それに頷き、ゆかりはこなみの走り去った方向に駆け出した。


 その頃、MOTの秘密基地(第2視聴覚室)にメンバー全員が揃っていた。
「マジカルアイテムを持った女の子2人か・・・・」
 笠目隊員と村木隊員の報告を聞き終えた大河原先生、もとい大河原隊長は、壇上で腕組みをした。
「笠目隊員が最初に見た時は、アニメに出て来そうな魔女っ娘の格好だったんだな」
「はい。ひらひらした派手な格好で、よく恥ずかしくないなと思いました」
 笠目は、大河原に対してすっかり丁寧な口調になっている。隊長と認めたからには、隊長として敬うのが当然だと思っていた。・・・・それ以前に先生と生徒なのだから、敬うのは当然なのだが。
「なかなか魔法の扱いに慣れていると感じました」
「我々のようにマジカルアイテムを拾ったか、あるいは・・・・」
「あるいは?」
「我らが持っているマジカルアイテムの、元々の所持者かもしれない。お前たちに対して『返せ』と言ったわけだからな」
「そうですね・・・・だとしたら、どうします?」
「君はどうしたいんだ、笠目隊員?」
 意見を聞かれた笠目は、胸を張って立ち上がった。
「もちろん、断固として返すわけにはいきません!」
「だが、それではその子達も納得できないだろうね」
 相変わらずノートパソコンのキーを叩き続ける倉崎。
「その子達はここの生徒なのかい?」
「姫宮ゆかり、藤堂院透子・・・・」
 それまで口を開かなかった村木が呟いた。
「村木隊員は1年生だったな。あいつらは1年なのか?」
「ええ、クラスは違いますが」
 村木は「もえじょ」を取り出し、ゆかりと透子のページを開いて笠目隊員に見せた。
「うわ、何だこれは!?」
「萌え萌え女子生徒名鑑、略して『もえじょ』です」
 そこには隠し撮りをしたと思しき写真と、女の子に関するデータがビッシリと手書きで書かれていた。ゆかりと透子に関しては、この学校に来て間がないためにあまり書き込まれていない。身長・体重・スリーサイズも「推定」と書かれていた。どうやって推定したのか、笠目は聞かないことにした。そして「もえじょ」のお陰でMOT隊員の村木を見る目が少し変わった。
(こいつ、結構アブない奴だ)
 第3者が見ればここにいる全員がアブない奴だが、幸せなことに当人たちには自覚がない。
「さて、どうしますか」
 眼鏡の位置を直しながら、倉崎が顔を上げた。
「このままその子達を放っておくのは危険です。笠目隊員、村木・・・・隊員の面も割れている」
「そうだな」
 大河原が頷く。
「村木隊員、その手帳を見せてくれたまえ」
「汚さないで下さいよ」
 倉崎は「もえじょ」を村木から受取ると、ゆかりと透子のページを開いた。
(Sランクか、なるほど・・・・この2人なら合格だ。僕の世界のヒロインに相応しい)
 倉崎は「もえじょ」を返すと、再びパソコンのキーを打ち始めた。
「倉崎隊員、今は大事な話をしているんだ。手を止めてはどうかな」
 大河原はなるべく柔らかい口調で言ったが、倉崎の指は止まらない。
「もう少しで完成です。ラストスパートなんです。邪魔をしないで下さい」
「しかし・・・・」
「正体を知られたのはその2人の責任です。僕の手を煩わさず、2人で解決して欲しいのですが」
「それは当然だ、分かってるぜ。机に座りっぱなしの戦力にならないような奴にお願いしようとは思っていない」
 笠目のセリフに反応し、横目で睨む倉崎。
「戦力にならない奴とは、僕のことかな」
「心当たりがあるのなら、そうなんだろうよ」
「戦力にならないかどうか、試してみますか?」
「おう、望むところだ。お前、今まで1回も魔法を使っていないな。どんな魔法を使うのか、見せて貰おうじゃないか。まさか、使えないんじゃないだろうな」
「いいんですか? あなたの魔力は尽きている。今日は使い物にならないのでは?」
「魔法なんか使う必要もない」
 笠目がパキパキと指を鳴らして腰を浮かせる。
「やめないか、2人共! 今は争っている場合ではないだろう」
 大河原が仲裁に入る。立ち上がって一触即発の2人だったが、大人しく席に着く。
「我々には夢がある。その夢を叶えるために、魔法が必要だ。マジカルアイテムは絶対に渡すわけにはいかない。だが相手も魔法を使う。しかも扱いには慣れていると聞く。ここは我々が力を合わせて解決すべきではないだろうか」
「月曜日」
 倉崎が指の動きを止めずに呟いた。
「月曜日まで待って下さい。その魔法少女2人を、僕の言いなりにしてあげますよ」
「何だって?」
「僕の力を甘く見ない方がいい」
 ノートパソコンの液晶画面を見ながら薄笑いを浮かべる倉崎を見て、笠目は鳥肌を立てた。
「分った、月曜だな! それまでに俺たちが何とかしてみせるぜ! お前の手なんか借りないからな!」
 倉崎は意気込む笠目を横目で見て「期待しないでおくよ」と言った。
「くそ、絶対俺たちで何とかしてやろうぜ、なぁ村木隊員!」
 同意を求められた村木だが、自分の世界に浸っていて聞いていなかった。
(あぁ・・・・僕は何て失敗をしたんだ。逃げることに夢中で、一瞬だけしか見ていないなんて。目の前に可愛い一糸纏わぬ美少女が2人もいたというのに。あぁ、何てことだ。落ち着いて考えれば、あの状態で彼女たちは僕に手出し出来るわけがない。好き放題眺めていられたのに。携帯電話のカメラで写真を撮る事だって出来たのに! あぁ白くて綺麗な肌、水着の日焼け跡、そして・・・・)
「む、村木隊員! 鼻血が出てるぞっ!」
「え・・・・?」
 垂れた鼻血が、村木の制服を赤黒く汚した。
「あわわ」
「何を考えてたんだ、村木隊員?」
 慌ててティッシュで制服を拭く村木だったが、血の汚れは拭いただけでは取れるものではない。しかも、結構な量が出ていた。
「今日は俺も村木隊員も魔力を使い切ってしまっている。一晩寝て明日、明日中にあの魔法少女のマジカルアイテムを手に入れてやるぜ! あれさえなければ怖いものはないからな!」
 村木の肩に手を置き、笠目は熱血漫画の主人公の様に叫んだ。
 その後、MOTは解散して各自学校を出た。
「あ〜あ、こんなに汚れちゃったよ・・・・」
 村木は水道の水で濡らしたハンカチで制服を拭いてみたが、鼻血の赤黒さは薄くはなったが綺麗には取れなかった。仕方なく、そのまま家に帰ることにする。
 そんな村木の前を、う〜ちゃんと話をしていて帰宅が遅くなったみここが通った。
(あ、あれは山城)
 村木はみここも「もえじょ」に登録していたので、彼女のことはすぐに分った。もえじょによると「目立たなくて大人しい・結構な巨乳・眼鏡を取れば美少女という、いわゆる眼鏡っ娘の黄金パターン」とあった。みここの方は村木と面識があまりないので、そのまま通り過ぎる。ただ、腹に付いた赤黒い染みのことは気になった。
(早く帰らなきゃ。明日は早起きだもんね)
 みここは明日のことを考えると、胸がドキドキした。明日は半年に一度の、みここがアイドルになれる日だった。


 こなみは、ずっと口をきかなかった。
 透子も、言葉を発しなかった。
 タカシは、何を話していいか分らなかった。
 ゆかりと巳弥はそんな沈黙状態の中、喋らない3人と一緒にうさみみ中学を後にした。夕陽がオレンジ色に5人を染める。
 ゆかりが駆け出したこなみに追いつくと、こなみは泣いていた。
 ゆかりが理由を聞いたが、こなみはタカシと透子のことを言えなかった。話すと、どうしても透子の事を悪く言ってしまうから。親友であるゆかりに、透子への文句を聞かせるわけにはいかない。
(タカシ君を振ってくれたって言ったのに)
(魔法が使えるなんて、ずるい。私だって、魔法が使えれば・・・・)
(あの時、肩叩きを返さずに貰っておけば良かった。私の方が、もっと優しく扱ってあげられるのに。あんなに傷だらけにはしないのに)
 透子はと言うと、これまた目を赤く腫らしていた。
 肩叩きが返って来たので、魔法で制服を修理して、今はちゃんと下着も付けている。借りていた体操服は魔法で綺麗にして返した。
 ゆかりは、あんなに取り乱した透子を見たことがなかった。
(そんなに恥ずかしかったのかな・・・・ゆかりだって、もちろん恥ずかしかったよ、でもあの子はすぐに逃げて行っちゃったし、見てる余裕もなかったと思うけど。透子って、凄く恥ずかしがり屋なんだ。だから、いつもロングスカートなのかな)
「ゆかりのせいだからね」
 あの時の透子のセリフがゆかりの頭から離れない。
 タカシは大人の透子に改めて告白するつもりだったが、こうして5人も揃ってしまっては言えるはずもなく、ただトボトボと歩いているしかなかった。チラっと透子の横顔を見る。少女の透子も可愛いが、これは本当の透子ではないのだ、と自分に言い聞かせる。
(歳の差なんて、関係ない)
 巳弥は巳弥で、仲間が困っている時に魔法が使えなかったことが悔しかった。自分がすぐにゆかりと透子に服を出せていれば、透子はあんなに落ち込んでいなかったのに、と思う。
 何となく一緒に歩き、何となく1人、また1人と別れて家路につく。
「それじゃ私、ダンスのレッスンがあるから」とこなみ。
「じゃあ俺、塾があるから」とタカシ。
「ゆかり、バイトだから」とゆかり。
「あたし、ゲームがあるから」と透子。
「また明日ね」と巳弥。
 何か不幸でもあったかのような暗い雰囲気の中の、別れの挨拶だった。
 こなみとタカシは途中まで同じ道を歩くので、必然的に並んで歩くことになる。
「はぁ・・・・」
 ため息をつくこなみに、タカシが話し掛ける。
「どうした芳井。元気ないな」
「・・・・」
(誰のせいだと思ってるの?)
「これからダンスレッスンなんだろ?」
「うん・・・・」
「だったら、もっと元気だせよ。お前の夢なんだろ、夢に向かって頑張ってるのに、そんな暗い顔してちゃ駄目だろ」
 アイドルになる夢。こなみはゆかりと一緒にオーディションを受けた時から、ずっと次のオーディションに向かってダンスや歌のレッスンをしてきた。
「夢が逃げちまうぞ」
 タカシの励ましが、こなみには痛い。
(だったら透子さんのこと、諦めてよ、タカシ君。中途半端に慰めることなんて、しないで。もっと、私のこと・・・・見てて欲しいよ)


 バイトを終えて帰宅したゆかりは、父の作ってくれた夕食を食べてすぐにシャワーを浴びた。
(今日は疲れたなぁ・・・・)
 シャワーの後、テレビも見ずにそのまま自分の部屋へ行こうとしたゆかりに、岩之助が「何かあったのか?」と心配そうに声を掛けた。
「何でもないよ、ちょっと疲れただけ」
 昼間は学校、夕方はバイト。父の作った夕食を食べ、シャワーを浴びてそのまま部屋へ。ちょっと親不幸な気がしたゆかりだったが、父と一緒に団欒する気分でもなかった。
(明日は日曜。ゆっくり寝ようっと・・・・)
 寝覚まし時計をセットせずに、ベッドに転がる。
 その日の夜は、何だか寝付けなかった。
(あれ、何か忘れてる気がする・・・・何だっけ? ・・・・まぁいいや、明日考えようっと)
 そう思って、幸せな睡眠についたゆかりだった。
 幸せなはずだった。
 携帯電話が遠くで鳴っている。
 ゆかりが最近になって買ったピンクの携帯電話だ。以前に持っていたものは、ユタカと別れた直後に解約した。ユタカからの電話を受けたくなかったからだ。
 おニューの携帯の着信音は人気アイドル・松裏紗耶(通称さやや)のヒット曲「夏色吐息」だった。
(う〜ん・・・・)
 寝起きの悪いゆかりだが、今朝は特に「さぁ思い切り寝るぞ」と意気込んで寝ただけに、特に頑固な寝起きの悪さだった。
(うるさいなぁ・・・・)
 いつもの癖で目覚まし時計のスイッチをバンバンと叩く。だが音は携帯電話から出ているので、当然鳴り止まない。
 留守電に切り替わり、音が止んだ。
 安心して寝入るゆかりの耳に、また「夏色吐息」が襲ってくる。
「うが〜!」
 ゆかりはベッドから飛び降りると、携帯電話を引っ掴んで受話ボタンを押した。
「誰!?」
「やっと起きたか、ゆかり」
「ユタカ!? 今、何時だと思ってるの!?」
「6時40分だ」
「殺す気!?」
「早起きしたら死ぬのか、ゆかりは?」
「死んだことないから分んない」
「くれぐれも試すなよ。ところで、早く来てくれよ」
「あ〜ん?」
 半分以上寝ている頭で、ユタカの言葉を理解しようとする。
「きてくれ・・・・着てくれ? きれくれ・・・・」
「何を言ってるんだ? 寝ぼけてるな、ゆかり」
「ゆかりって呼ばないでって言ったでしょ!」
 叫んだことで、頭が緩やかに回転を始める。だがまだLPレコード並だ。
「7時に駅前・・・・」
「そうだ、やっと思い出したな」
「どうしてこんな時に、朝早く起こすのよ〜!」
「こんな時?」
「あ、や、別に・・・・」
「それで、さ。今日はお願いがあるんだけど・・・・」
 急にユタカの言葉のトーンが下がる。
「お願い〜? なに?」
「そ、それが・・・・」


(全く、どういうつもりなのよユタカの奴)
 ピンクのフリフリミニスカートワンピース。白のニーソックス。頭にリボン。
 中学生ゆかりが、卯佐美駅前に着いた時、相楽豊が忙しそうに手を振った。
「ゆかり、早く! 電車に乗り遅れる!」
 どうやら焦っているようなので、ゆかりは仕方なく小走りにユタカの元へ向かった。
「どういうこと? この格好で来いって」
「話は後、とにかく来てくれ!」
 ユタカはゆかりの手を取り、改札口へ向かった。
「ちょっとユタカ、切符は!?」
「買ってある! ほら」
 ゆかりが渡された切符は、子供料金だった。中学生なのだから、本来は大人料金のはずだ。
 急いで改札をくぐり、ホームに出る。丁度電車が着いたところだった。そのまま駆け込み、席が空いていないのでユタカはつり革を持った。ゆかりはもちろん手が届かないので、昇降口付近の手すりに掴まる。
「ふう、間に合った・・・・」
「ちょっとユタカ、まさか切符代をケチるためにこの格好で来いって言ったんじゃないよね?」
「まさか。もっと重要なことだ」
「で、どこへ行くの?」
「まぁ待て。すぐに分かる」
「すぐって・・・・」
 ゆかりは周りを見回した。
 よく見れば、ほとんど男性だった。小学生から大人まで。何故か大きな鞄を持っている人が多い。何度かこの時間に電車に乗ったことはあったが、いつもよりも混んでいる気がした。
(何だか異様な雰囲気・・・・)
 それに、やたらと視線を感じる。確かにゆかりの格好は電車の中では目立ちすぎる。電車の外でもかなり派手な部類だ。
(まぁ可愛いから仕方ないかな)
 ゆかりはこれからどこに連れて行かれるか分からない状況で、呑気に自分の可愛さを自画自賛していた。


14th Dream へ続く


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