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11th Dream 「きっと言える」
こんなこと言っても信じないだろうと思いながらも、ユタカに魔法の話をしたゆかり。だがユタカは「ゆかりの言うことだから、信じる」と言った。
「そんなの、変だよ。ゆかりが言ったら何でも信じるの?」
「じゃあお前、嘘を言ってるのか?」
「ううん」
「じゃ、信じるさ。何たって、目の前で見た事実だからな」
「・・・・」
とりあえずユタカが単純・・・・もとい、素直な性格で助かったゆかりだった。
「でも、魔法なんて不思議な力、すぐには信じられないでしょ?」
「そのウサギ達の住んでいる世界では普通なんだろ? だったら不思議でも何でもないさ。自分の世界を基準に考えたら駄目だと思うぜ」
「そう・・・・だね」
(ユタカって、こんなに物分り良かったっけ?)
確かに、ユタカとは魔法や超常現象の話をした記憶は無い。ゆかり自身が、現実的であるという彼のイメージを勝手に作っていたのかもしれない。
(甘いのが苦手とか、そんなこともよく分かってなかったな)
自分はどれだけ相楽豊のことを知っていたのだろう。知っているつもりでいたのだろう。彼のどこを好きになったのだろう。彼は自分のどこを好きになったのだろう。
分からなかった。
「ゆか・・・・あ、いや、姫宮さん?」
「え? な、なに?」
「ボ〜っとしてたからさ。あのさ、さっき・・・・」
「?」
「可愛かったぜ、その、ソフトクリーム舐めてるところとか、さ」
「今のゆかりより?」
「え? いや、それは・・・・」
ユタカは今のゆかりも中学生のゆかりも同じゆかりだと思い、可愛いと誉めたのだが、どうやら墓穴を掘ったようだ。
「何だかいつになく優しかったような気がするんだけど・・・・ひょっとしてユタカ、ロリコン?」
「ば、馬鹿言うなよ、どっちが可愛いって、かっ、可愛さが違うだろ、子供の可愛さと、大人の可愛さっていうか、比べられないっていうか・・・・」
「いいよ、無理しなくて。今のゆかりはもうおばあちゃんだもん」
「そ、それは言い過ぎだろ」
「お肌だって曲がり角だし、きっとこういう服も今のゆかりよりよっぽど似合ってるだろうし・・・・」
「やめろって!」
ユタカの声が「メロウ・プリティ」の店内に響いた。
(今のままのお前が好きなんだよ!)
それは言葉になってゆかりの耳に届くことは叶わなかった。何故ならそこに、店長が戻って来たからだった。
「やぁ姫宮君、急に頼んですまなかったね、急な用事が出来ちゃって。今日もメイド服が似合ってるねぇ」
「て、店長・・・・」
「いらっしゃい」
店長はユタカに向かって一礼すると、店の奥に引っ込んだ。気まずい空気が店内に満ちる。ゆかりの目を見ずに、ユタカは踵を返した。
「え、えっと、また来る」
「ユタカ」
呼び止めたゆかりは、レジから5円玉を差し出した。
「さっきのおつり」
「あ、ああ、いいのに」
5円を受け取る。ゆかりの指先が手の平に触れた。
「今度から来る時は、その、ケーキ買わなくていいから。ほら、ケーキさんだって、ケーキを好きな人に買って貰った方が嬉しいんじゃないかなと思うの」
「・・・・また来てもいいのか」
ゆかりが小さく頷く。
「でも、買ってもいいんだろ?」
「え、それはいいけど・・・・」
「何かさ、好きになれそうな気がするんだ、ケーキ」
ドアが開き、女性客が2人入って来た。ユタカは入れ替わりに「メロウ・プリティ」を後にした。
その夜、ゆかりにユタカから電話があった。ユタカは「お願いがあるんだ」と言ったが、どうにもその用件を言い辛そうにしている。
「あのさ、ゆかり、ゲームの途中なの。人を待たせてるから、用がないなら切っていい?」
「だ、誰かいるのか? まさか男・・・・」
「誰もいないよ。オンラインゲームだから」
「あぁ、そうか・・・・」
ゆかりは、透子とブロードバンド回線を使ってオンライン上でゲームをやっていた。モンスターを倒したり、武器を手に入れたりして架空の世界を冒険する。常時接続回線なので電話料金などは気にしなくてもいいが、相手を待たせるのは感心できない。
「じゃあ、用件だけ言うよ。今度の日曜、空いてるかな?」
「日曜って・・・・あさって?」
「あぁ」
「う〜ん、どうして?」
「空いてるかどうか聞きたいんだよ」
「理由を聞いてから、空いてるかどうか決める」
「じゃ空いてるんだな。一緒に行って欲しい所があるんだ。7時に駅前で待ってる」
「ちょっと、用件を聞いてから決めるって言ったのに!」
「約束だぞ」
「わ、分かったよ」
ゲームが気になっていたゆかりは、思わず返事をしてしまった。直後、電話が切れた。
「もう、勝手なんだから・・・・あっと」
ゆかりは慌てて左手でゲームのコントローラーを持ち、右手でキーボードを叩いた。キーボードから言葉を入力することで、相手と話が出来る。
画面ではゆかりのマイキャラである魔法使いの女の子がキーボードから打たれた言葉を噴き出しを使った言葉で「ごめんね透子、待った?」と喋った。しばらく透子のキャラからの反応を待つ。セリフを読んでから相手もキーボードを打つので、反応には時間がかかるのだ。
(・・・・遅い。寝ちゃったのかな、透子)
オンラインゲームでは、相手の姿は見えない。数人で遊んでいて、急に1人が反応しなくなったと思ったら寝ていた、ということもたまにあることだ。
透子の返事を待ちながら、ゆかりは先程の電話を思い出していた。
(ユタカってば、一体何の用なんだろ。一緒に行きたい所があるって、まさかデート? 駅前に朝の7時・・・・って、7時!?)
日曜は放っておけば昼まで、ひどい時は夕方まで寝ているゆかりは、朝の7時が聞き間違いだと思って、ゲームが終わった後にユタカに電話を掛けなおした。だがゆかりの淡い期待も空しく、ユタカの返事はこうだった。
「間違いない、朝の7時だ。約束したからな」
次の日は、土曜日。
昨日は結局、巳弥とこなみが取り逃がした犯人の動きも見られず、きっと2人とも顔を覚えられていないのだろうとゆかり達は楽観的に思っていた。今度何か騒ぎを起こした時が犯人を捕まえるチャンスだと、その時を待っていた。
だが当の犯人である村木は、巳弥とこなみの顔をはっきりと覚えていた。だが「誰も魔法なんて信じない」と思っていたし、自分が追いかけられたあの時、自分がやったという確たる証拠を見られたわけでもない。口を封じようにも、どうすればいいのか分らない。元来気の弱い村木は、何とかして口を封じようという考えは持っていなかった。
だが村木は、別の理由で焦っていた。
偶然マジカルアイテムを手に入れたカルト集団、MOT。村木の意思に関係なく入隊させられたのだが、自分の魔法を「破廉恥でつまらない」と倉崎命人に酷評された。そう評されても仕方ないとは自分でも思うが、何とか倉崎の鼻を明かしたかった。
(あんなこと言ってるけど、あいつだってエッチなことに興味があるはずだ)
倉崎に自分の魔法は偉大だということを思い知らしてやろう。村木は行動に出ることにした。
卯佐美中学の土曜日は3時間目まで授業があり、その後は掃除、ホームルームで終わる。ゆかりたちのクラスは日本史、古典、英語で、とことん眠い授業だった。
「ふあ・・・・」
欠伸をしながら、ゆかりはこなみと一緒に焼却場へゴミを捨てに向かった。それほど重いゴミ箱ではないので、教室で箒や雑巾を使っているよりも楽な仕事である。焼却場まで歩き、帰ってくるともう掃除はほぼ終わっている算段だ。
だが、ゆかりは楽な仕事を選んだことが逆に大変なものを目撃することになった。
「きゃああ〜!」
女子の悲鳴。校舎裏からだ。
「ゆかりん、今の!」
「行ってみよ!」
ゆかりとこなみはゴミ箱を地面に置き、校舎裏に向かった。そこは、一昨日ゆかりがカエル怪人とソニックマンを目撃した場所だった。
「あ、あれは・・・・!」
泣き叫んでいる女の子は、この前のカエル怪人に襲われていた女の子だった。「よく狙われる子だなぁ」と思ったゆかりだったが、その子を襲わんとしている怪人の姿を見て、思わず足を止めた。
今にもチュンチュンと愛らしい鳴き声が聞こえてきそうな嘴。つぶらな瞳。可愛いスズメの顔がそこにあった。
それだけならいい。
そのスズメの首から下は、ボブ・ソップばりのたくましい肉体を誇る筋肉質のボディだったのだ!
「う・・・・」
可愛いのか、格好いいのか、か弱そうなのか、強そうなのか。
そのおよそ共存し得ない取り合わせは、不気味としか言いようがなかった。
スズメ男がゆかり達に気付き、顔を向けた。
「ちゅん?」
可愛い鳴き声だった。声だけは。だからこそ、余計に不気味だ。ゆかり達は「スズメは小さいからこそ可愛いのだ」という事実を再認識した。人間と同じ大きさを持つスズメの頭部は、とても可愛いとは形容し難かった。
「ちゅん、ちゅん!」
「ね、ねぇゆかりん、あれは怒ってるの?」
ゆかりとこなみはお互いに相手の腕を掴みながら、いつでも逃げられる体勢を保った。スズメ怪人は表情がないので、喜怒哀楽の判断が難しい。
「助けて!」
怪人に襲われそうになっていた女の子が、ゆかりたちを見て叫んだ。助けを求められては、ゆかりもただ逃げるわけにはいかない。
「こなみちゃん、時間を稼いで!」
ゆかりはそう叫ぶと、校舎の向こうに消えた。女の子に変身を見られるわけにはいかない。こなみはとっさにゆかりんの行動を理解したが、どうやってあのスズメ怪人から時間を稼ぐというのか。スズメ怪人はこなみに興味を持ったらしく、ドシドシと歩み寄って来た。
「や〜ん、来ないで!」
「ちゅん、ちゅん」
声だけ聞いていれば可愛い。だが目を閉じるわけにもいかず、こなみはその迫り来るマッチョなスズメを、すくんだ足で待ち受けるしかなかった。
「ゆ、ゆかり〜ん!」
「みにみにすか〜と、ふりふりふりる! ぱんちらた〜んで、はぁとをげっと! おいでませ、カカシちゃ〜ん!」
スズメ怪人の目の前に、高さ約2メートルの大きなカカシが出現した。
「ちゅん!?」
「スズメの弱点はカカシでしょ!」
こなみの前に、変身したぷにぷにゆかりんが登場した。
「きっとカカシを怖がって逃げるはずだよ! さぁ怖がれ!」
「ちゅん・・・・」
スズメ怪人は地面に突き刺さったカカシをしばらく珍しそうに眺めていたが、その両腕を掴むと、ズボっと引き抜いた。
「あれ、怖がって・・・・ない?」
カカシを見て怪人が逃げ出すと思っていたゆかりんは、アテが外れてしまった。それよりも、やっつけようとせずに追い払おうというのがそもそも間違っている。
「ちゅん!」
スズメ怪人はカカシを抱き上げると、アルゼンチンバックブリーカーをキメてカカシの体を真っ二つに折ってしまった。
「ぜ、全然怖がってないよ、ゆかりん!」
「スズメと言うよりマスクを被ったプロレスラーと考えた方がいいかも。さしずめスズメ仮面ね」
いきなりゆかりんの横に変身した透子、とこたんが現れた。
「とこたん、いつの間に?」
「たまたま通りかかったから。それよりゆかり、あのスズメ仮面はこの前見たカエル怪人の仲間?」
「う〜ん、見掛けは全然違うよ。この前はカエルがそのまま立ってるって感じだったから。でも気持ち悪さは同じくらいかなぁ」
そうしている間にも、体を2分されたカカシを投げ捨てたスズメ怪人が3人に向かって歩いて来る。あまり動きは早くなさそうだった。
「今の内に、早く逃げて!」
ゆかりんは襲われていた女の子に向かって叫んだ。女の子は無言で何度も頷き、ふらつく足で立ち上がった。それを見たスズメ怪人は、再び女の子に向かって歩き出す。
そのチャンスをとこたんは逃さなかった。魔法の肩叩きが展開し、弓と化す。
「ラブリーエンジェル・ライトニングアロー!」
光の矢が尾を引いて飛び、スズメ怪人の背中に突き刺さった。
「ちゅ、ちゅ〜ん!」
背中を仰け反らせ、痛がる怪人。矢を抜こうと腕を伸ばすが、光の矢は既にその形をなくしていた。
「今よ、ゆかりん!」
「おっけ〜!」
ゆかりんは孫の手を高く掲げて、煌く星々をバックにターンを決めた。
「マジカル・リゾリューション!」
満月の月明かりを背にしたゆかりんの孫の手から、無数のコメットが飛び交ってスズメ怪人の体を包み込む。
「フェアリーナイト・ムーン!!」
ゆかりんの掛け声と同時に、スズメ怪人の見事な身体は光の粒となって跡形もなく飛び散った。
ぷにぷにゆかりんの新必殺技「フェアリーナイト・ムーン(FNM)」は、マジカルアイテムの「魔力による物質の構築及び分解能力」の「分解」を魔法により生み出された物質に対して促すもので、構築された物質を魔力レベルにまで戻す力がある。但し、魔法により構築された物に対してのみ効果があり、それ以外の物質に対しては何の効果もない。スズメ怪人が分解されたということは、すなわち魔法で作り出された物だということだ。
ちなみに、本当にちなみにだが、そんな技をいつ考案したのか、という疑問が湧くかもしれないが、そこはそれ、アニメでは「こういうこともあろうかと」密かに考えていたということでまかり通る。必殺技なんて、所詮そういうものだ。何百億円もかかっていそうな巨大ロボットだって「いざという時のために、密かに」開発されているのだから。
「こ、こら、お前らぁ〜!」
突然、空から銀色の物体が飛来した。
「勝手に怪人を倒すなよ!」
「あ、貴方は!」
ゆかりんがその人物を指差して叫んだ。
「えっと、確か・・・・肉まん!」
「そう、俺は肉まん! 寒い時に喰うと格別だよな! 俺はカラシをベットリ付けて喰うのが好きだぜ! あんまんは、あんが熱くて舌を火傷するから好きじゃないし、あれって、まるでマグマだよなぁ。最近のカルパッチョまんとかカルボナーラまんみたいに妙な奴より、やっぱ元祖の肉まんだよなぁ〜って、違うだろ、俺はソニックマンだっ!」
「こんなにボケてくれるなんて思わなかった・・・・」
「ていうか、お前どこかでこの俺、ソニックマンに会ったのか?」
ゆかりがソニックマンを見たのは大人の時だし、目撃したことはソニックマン自身は知らないはずだ。
「ゆかりん、これが例のソニックマン?」
とこたんがゆかりんの腕をぷにぷにとつついた。
「うん」
「弱そう・・・・」
「ほっとけ!」
「それより貴方、さっきの怪人を倒しに来たの?」
「あぁ、今日は新必殺技を考えて来たんだ。なのに先に倒しやがって! 敵がいないのに登場するヒーローなんて格好悪いだろ! 印籠を出さない水戸黄門なんて見たくないだろ! ひみつ道具を出さないドラえもんなんて、ただの口うるさい大喰らいの居候だろ! くそ、あれは1日に1体しか作れないんだぞ! それを無駄にしやがって・・・・」
「作る?」
「あっ」
ソニックマンは口を手で塞いだが、既に遅い。
「どういうこと? あなたはあの怪人を倒しに来た正義の味方じゃないの?」
「そ、それは、その通りだ!」
ビシ! と意味なく手を振り上げる。だが所詮中学生の体格なので、およそ格好良くはなく、強そうでもない。
「ねぇ、あなたは何者なの? この学校の生徒でしょ? あの怪人はあなたが作ったの? 自分で作った怪人と戦ってるの? 1人で戦ってるの? 仲間はいないの?」
「う・・・・」
ゆかりんの質問攻めに合い、ソニックマンは返答に窮した。言い訳しようにも、悪の組織だの、仲間だの、そんな設定は考えていなかったのだ。
(やばい、このままでは俺の正体がばれてしまう!)
「ぴ、ぴこ〜ん、ぴこ〜ん。うおっ、カラータイマーが! いけない、早く帰らなければ!」
「・・・・カラータイマーってどこにあるの? 今、口で言ってたよね」
「は、腹の中にあるのだ!」
「お腹の中にあるのに、カラーだって分るの? 白黒かもしれないよ。胃カメラ飲んだのかなぁ」
「うっ、うるさいな! ヒーロー物にそんなツッコミを入れるとは、非常識だぞ!」
「うわ、逆ギレしてるよ。どうする? とこたん」
「さ、さらばだぁ!」
ソニックマンは叫ぶと同時に、背中を向けて走り出した。
「追うわよ、ゆかりん!」
その後を追って、とこたんが駆け出す。
「えっ? えっ?」
「あの子、マジカルアイテムで変身してるわ! きっとあの怪人もソニックマン自身が作り出したものよ!」
「なんで?」
ゆかりんも慌ててマジカルフェザーを広げて舞い上がる。こなみも「待ってよ〜」と言いながら後を追った。置いて来たゴミ箱は忘れずに拾って、それを抱えて走って行くあたりがこなみの真面目で几帳面な所だった。
ほどなくチャイムが鳴る。掃除の時間の終わりを告げる合図だ。この後は各教室でホームルームがあり、それで土曜の授業は終わりとなる。
(どうしよう、ホームルームに出なきゃいけないのに、ゆかりん達がソニックマンを追って行っちゃったよ〜)
自分がゆかりんととこたんを追ったところで、役に立つとは思えない。自分が役に立てることと言えば、2人がホームルームを欠席することを担任の露里に報せることだと思った。ゆかりん達がホームルームにいないとなるとクラスメイトが不審に思うだろう。事情を知っている露里なら、何か理由を考えてくれる。こなみは職員室に向かった。
一方、学校全体がホームルームに突入しているこの時間に、怪しげなヒーローと魔法少女2人の追いかけっこが展開されていた。
「待ちなさ〜い!」
「ちっ、あいつら空を飛ぶのか!」
(俺の正体は知られていない。元の姿に戻れば俺だと気付かれないはずだ。何とか変身を解く間だけでも稼げば・・・・)
「捕まってたまるかよ、とう!」
ソニックマンは地面を蹴り、両腕を真横に伸ばして空高くジャンプした。あっと言う間に3階建ての校舎の屋上まで飛び上がる。
「待て〜!」
ゆかりんも後を追うべく、マジカルフェザーを使って舞い上がる。
「気を付けてね、ゆかり! 空を飛ぶのだって、魔力を使うのよ!」
魔力の供給を受けられない今の状態では、マジカルフェザーを使って空を飛ぶのにもマジカルアイテムの魔力を消費する。
「待て〜!」
「げっ、追ってきやがった!」
屋上に飛び上がったソニックマンは、ここまで来れば安心だろうと思って変身を解こうとした所だった。手には変身の際に使用した「魔法のドライバー」があった。
「それがマジカルアイテムね!? 返しなさい! みにみにすか〜と、ふりふりふりる! ぱんちらた〜んで、はぁとをげっと! おいでませ、でっかい網ちゃ〜ん!」
ドライバーがマジカルアイテムだと察したゆかりんは、ソニックマンに対して投網を投げた。非力なゆかりんが投げた網だが、魔法の効果により猛スピードで飛び、ソニックマンの体を包んで余りある大きさになる。
「しまった!?」
一瞬にしてソニックマンの体に網が絡みつき、彼は身動きが出来なくなった。
「観念して! もう逃げられないわよ!」
遅れて来たとこたんが、ソニックマンに向かって叫ぶ。
「あ〜、ゆかりが捕まえたのに〜!」
ソニックマンは網に絡まり、膝を抱えたままじっとしていた。
「あれ、大人しくなっちゃった」
「観念したんじゃない?」
ゆかりんととこたんが身動き1つしないソニックマンに近付く。マスクをしているため、表情は分からない。
「し、死んでないよね?」
ゆかりんが心配そうにとこたんに聞いた。
「死ぬことはないでしょ、多分」
「多分って〜!」
その時、動く気配のなかったソニックマンが叫んだ!
「ソニック・ダイナミック!」
素早い動きで腰からレーザーソードを引き抜くと、網を一瞬にして切り裂いた。
「きゃっ!」
「さらばだ、諸君!」
そう言うと、ソニックマンは再び屋上から1階まで飛び降りた。彼が切り裂いた網は「S」の字に切れていた。ソニックマンの頭文字だろうか。
「もう、びっくりするじゃない! 驚かせるためにじっとしてたの!?」
「とにかく追うわよ、ゆかりん! ひょっとしたら、今が捕まえるチャンスかも!」
「え? どういうこと?」
「ソニックマンの所持するマジカルアイテムの魔力が、残り少ないんだわ」
「どうして?」
「話は追いながら!」
とこたんはソニックマンに続いて飛び降りようと屋上のフェンスまで走って行った。
「わわ」
地面を覗き込んだ瞬間、とこたんは慌てて引き返した。
「た、高くて怖いよ!」
「3階だからね」
飛び上がる時は何とも思わなかったが、降りる時は下を見てしまうため、その高さを認識せざるを得ない。
「階段で行こうか、ゆかりん」
「逃げられちゃうよ、きっと」
「じゃあゆかりん、飛び降りてよ。ちなみに、魔力に気を付けてね。飛び降りたのはいいけど、途中で魔力が尽きてそのまま地面に激突ってこともあるから」
「・・・・階段で行こうか、とこたん」
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