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タイトル


 5th Dream 「Super Special Day」


 着替えシーン大公開となった教室の叫び声は、ゆかりと透子にも聞こえていた。
「何かあったみたい」
「きっと学校の中に、カエル怪人の大群が・・・・」
「いや〜! 透子、気持ち悪いこと言わないでよ〜!」
 と言いながら、ゆかりは透子の腕にしがみ付いた。
「と、透子、様子を見てきてよ」
「え〜、あたしだってカエルは嫌だよ」
「そんなこと言ってたら、手遅れになっちゃうよ!」
「そうだ、ゆかりの見たソニックマンとか言う人がまた解決してくれるんじゃない?」
「あ、そ、それもそうだね、任せておこうかな・・・・」
 2人共、結局は他人任せだった。
「あ、あの・・・・」
「え?」
 か細い声が背後から聞こえ、ゆかりと透子は振り返った。
「ハンカチ、落としました・・・・」
 おずおずと差し出された女の子の手には、ゆかりのピンクのハンカチがあった。
「あ、落としたんだ、ありがとう」
 先ほど金網をよじ登ろうとした時にスカートのポケットから落ちたようだ。お礼を言ってハンカチを受取ったゆかりに、照れた顔で俯く女の子。真っ黒なセミロングの髪が揺れた。
 透子はその女の子を見て、疑問を抱いた。
 見たところ、歳格好は中学生に見える。しかし今は平日の昼間で、実際に卯佐美中学も授業の最中だ。なのに私服で道を歩いている、この子は何者だろう。
(この町の子とは限らないよね。たまたま学校がお休みなのか、今日は風邪で休んだとか、そんなとこなのかも。それにしても・・・・)
 その女の子の服は、あちこちが汚れて、破れている箇所もあった。
(ひょっとしてこの子、見かけによらずやんちゃ娘?)
「あの、お尋ねしてもいいですか?」
 女の子が遠慮がちに言った。
「え、ええ」
 若いのに丁寧で控えめな子だな、と透子は思った。
「ここ、どこですか?」
「え?」
(ひょっとして、迷子?)
 だが、迷子になるような年齢にも見えない。家出少女なのだろうか。だとすれば、あちこち汚れた服装も頷ける。
「ここって、この町のこと? 学校のこと?」
 透子に代わって、ゆかりが尋ねる。
「えっと、町です」
「それなら、卯佐美市だよ」
 どうでもいい話だが、ここ卯佐美市はかつて4つの町だった。市町村合併により、一番大きかった卯佐美町の名前を取ったわけだが、合併前の町にはそれぞれ小学校も中学校もあったわけで、それが「卯佐美第1中学」から「第4中学」という名前に改名された。それにより、いくつかの小学校は統廃合されて減少している。
「人を探してるんです」
「誰なの?」
「りよちゃん」
「りよ・・・・ちゃん?」
 ゆかりも透子も、もちろん聞いたことのない名前だ。
「ゆかり、どうするの? 学校の騒ぎは」
 透子が耳打ちする。ゆかりとしてもカエルは嫌だが、わざわざ様子を見に来たのだから、学校の事件を放っておくことは出来ない。
「この子、もうこの歳だったら放っておいても大丈夫じゃないの? 幼稚園児や小学生じゃないんだから」
「うん・・・・ねぇ、そこを右に曲がって真っ直ぐ行ったら警察署があるから、人を捜してるなら行ってみたら?」
「けいさつ・・・・」
「ごめんね、お姉ちゃんたち、忙しいから、行くね!」
 ゆかりはその女の子に手を振ると、うさみみ中学の校門へと急いだ。
「ありがとうございます・・・・」
 1人残された少女・あずみは、ゆかりに言われた通りに右へ曲がり、真っ直ぐ歩いて行った。
「けいさつ・・・・」


「何とか巳弥ちゃんと連絡が取れないかなぁ」
 部外者であるゆかりと透子は、うさみみ中に入ることが出来ない。何やら騒がしい様子なのだが、何が起こっているのかは校門の外からでは分からなかった。
「携帯電話、持っていればいいのにね」
 普段は「子供が携帯電話を持っているなんて、贅沢だよ」と言っている2人だが、都合のいい時だけ持っていて欲しいと思うものだ。
「う〜ん」
 ゆかりは精一杯首を伸ばして校門の上から中の様子を覗こうとした。あまり覗いていると、不審者だと思われて警備員が駆けつけてくる。
「ゆかりん!」
「きゃっ!」
 ゆかりはいきなり眼前に現れた白い物体に驚き、バランスを崩して尻餅をついてしまった。
「な、何なの!」
「ミズタマ君じゃない。どうしてここに?」
 その物体がミズタマだと気付いた透子は、ウサギに向かって話し掛けた。
「おお、透子もいたのか。そっちこそ、どうしてここにいるんだ?」
「それよりミズタマ君、今学校の中から出てきたよね? 何かあったの? 騒ぎが起きてるみたいだけど、それと関係があるの? やっぱり魔法関連?」
「どうしてそれを知ってるんだ?」
 お互い、質問ばかりして相手の問いに答えようとしない。ミズタマはそんな場合じゃないと思い、一気に今の状況を説明した。
「トゥラビアからマジカルアイテムが持ち出されたんだじょ! それを追って我輩達がこの世界にやって来たんだが、犯人を見失って探していると、マジックスカウターが魔力を感知したので、この学校にやって来たというわけだじょ。それなら巳弥にも手伝って貰おうと思っていたんだが、巳弥は魔法が使えなくなってたんだじょ!」
「え、巳弥ちゃんが?」
「マジカルアイテムを無くしたってこと?」
「いいや、そうじゃない。原因は分からないが、とにかく我輩は盗まれたマジカルアイテムを回収する役目を担ってここに来たんだじょ。早く回収しないと、人間に好きなように使われたら大変なことになるじょ!」
「それは大変! ミズタマ、ゆかりたちも手助けするわ!」
「おお、助かるじょ! って、その差し出した手は何だじょ?」
「手伝うから、マジカルアイテムちょうだい」
「それが目当てか! っていうか、頂戴とは何だじょ! 今までも貸しただけで、あげたわけじゃないじょ!」
「ミズタマ君、そんな細かいことを気にしてる場合? 一刻を争うんじゃないの?」
 透子によって冷静に突っ込まれたミズタマは「それもそうだじょ」と言って背負っていたリュックを下ろした。
「なに、それ」
「こんなこともあろうかと、持って来たんだじょ。トゥラビア王の許可も受けてるじょ。ゆかりんと透子なら任せても安心だろうと王は言っておられたじょ」
 リュックを開けるとそこには、かつてのゆかりのマジカルアイテム「魔法の孫の手」と透子の「魔法の肩叩き」が入っていた。
 この2つのアイテムは先のイニシエートとの戦いの最中に壊れてしまったのだが、活躍したゆかりと透子へのお礼と言う事でトゥラビア王が復活させていた。復活と言っても前の媒介「孫の手」と「肩叩き」は既に死んでおり、記憶だけが新しい媒介に移された形となっている。復活はしたものの、理由なく人間にマジカルアイテムを渡すことは出来ないということで、ゆかりと透子がこれらマジカルアイテムに再会するのは今が初めてだった。それぞれ違う媒体ということで、前とは少しデザインが異なっている。
「な〜んだ、ちゃんと用意してるんじゃない!」
 ゆかりはリュックの中から「魔法の孫の手」を引き出すと、両手に持って掲げてみた。
「ふ〜ん、前より格好いいかも!」
 ゆかりは孫の手をぶんぶんと振ってみた。透子もミズタマから肩叩きを受け取ると、胸の前で握り締めた。
(また会えたね、肩叩き。今度こそ、大事にするからね)
 心なしか、肩叩きの魔力ドームが少し熱を持った。
「じゃ透子、久々にやっちゃおうか!」
「あ、うん」
 ゆかりと透子は、それぞれのマジカルアイテムを空に掲げた。
「きゅんきゅんはぁとで華麗に変身! 萌え萌えちぇんじでぷにぷにゆかりん、颯爽ととうじょ〜!」
「明日はきっといい日だよ、夢見る乙女は一攫千金! 魔法のエンジェルぽよぽよとこたん、スポットライトに微笑み返し! はぁとのチャイム、押しちゃうよ!」
 2人の体を光が包む。
 シルエットが小さくなって、やがて中学生の大きさになったゆかりと透子が現れた。ゆかりんはピンクでフリフリのコスチューム、とこたんは水色のドレスという格好だ。それぞれ衣装の基本は同じだが、細かい部分が少しアレンジされていた。
「良かった〜、ずっと変身できないと思ったよ」
 ゆかりが笑顔でクルリとターンした。
 作者も、変身予定話数をオーバーしてどうなることかと思っていたが、やっと一安心だ。このまま主役が変身しないまま1クールを過ぎては洒落にならない。
「さぁ、行こう!」
「待って、ゆかり!」
 はりきって駆け出そうとしたゆかりんをとこたんが呼び止めた。
「なに?」
「念のために聞くけど、その格好で学校に入るつもり?」
「え?」
「そんな派手な格好で行ったら、目立つでしょ! それならまだ変身しない方がマシだよ、普通に制服姿でないと、意味が無いじゃない!」
「え〜、せっかく変身したのに。透子だってその格好になってるじゃない」
「これは、何となく勢いで」
 とこたんが魔法の肩叩き・改を振ると、うさみみ中学の制服に着替えた。ゆかりんもしぶしぶ制服姿になる。ゆかりんのスカートの方が短いが、本人の趣味である。魔法で作った制服なので、そのあたりは融通がきく。実際、うさみみ中のちょっとうるさい校則には違反している短さなのだが。
「待つじょ、2人共」
 今度は2人をミズタマが呼びとめた。
「なに?」
「マジカルアイテムの使用に当たって、注意があるじょ。今までは魔力を使い切ったらマジカルアイテムが死んでしまったが、ゆかりんの一件を反省材料にして改良され、ゼロになる前に抑制力が働いて魔力を使い切れないようになってるじょ」
「じゃ、孫の手達が死んじゃうことはないってことなのね?」
「良かったじゃない、ゆかり。もう変身したまま戻れない、なんてことにはならないわね」
「う〜、透子、そのことはもう言わないで」
 耳を塞ぐゆかりに構わず、ミズタマが説明を続けた。
「もう一点、この前はトゥラビアの魔力供給システムからの魔力転送により、ほぼ無限に魔法が使えたんだが、今はそのシステムは停止しているんだじょ」
「え〜、どうして?」
 驚くゆかりんに、とこたんが冷静に説明した。
「マジカルアイテムが奪われて、それを取り返しにミズタマ君が来たんでしょ? つまり、魔力供給システムが稼動していれば、奪われたマジカルアイテムもそこから魔力を使うことが出来てしまう。無限に使える魔力を犯罪に使われたら大変、そういうことでしょ?」
「そうだ」
 頷くミズタマ。
「だから今のマジカルアイテムは、最初にゆかりんたちに渡した時と同じく、アイテム自体に蓄えられた魔力しか使うことが出来ない。休めば魔力が回復するのも一緒だじょ。だから、くれぐれも使いすぎに注意するじょ」
「安易にスプラッシュなんて撃てないってことね。気を付けてよ、ゆかり」
 とこたんがゆかりんの肩を叩く。
「代わりと言っては何だが、新しい機能が付いたじょ」
 そう言いつつ、ミズタマはリュックからカプセルのような物を取り出した。
「なにそれ?」
「マジカルチャージャーだじょ。ちょっと孫の手を貸すじょ」
 ゆかりんが孫の手・改を差し出すと、ミズタマはカプセルを孫の手の取っ手の部分に差し込んだ。
「こうやってチャージャーのボタンを押すと、孫の手に溜まった魔力がチャージャーに蓄えられるじょ」
「それで?」
「マジカルアイテムは一晩寝ると魔力が満タンになる。満タンの状態で寝ても満タンのままだじょ。寝る前にチャージャーに魔力を移し替えておけば、朝にはまた満タンになるじょ」
「そしていざ、という時にそのチャージャーを装着すれば、普段の2倍、3倍の魔力を使えるってことね」
「そういうことだじょ。さすが透子だじょ。理解が早くて助かる」
「なによ、そんなのゆかりにだって分かったもん」
 ゆかりんの抗議は無視されて、2人にはそれぞれ2本のマジカルチャージャーが渡された。
「ちなみにミズタマ君、孫の手でチャージした魔力を肩叩きで使うことも出来るの?」
「同じ魔力だから可能だじょ」
「分かったわ」
 ミズタマの説明も終わり、いざうさみみ中へ入ろうとした2人だったが、とこたんが足を止めた。
「ミズタマ君、念のために聞くけど」
「何だじょ?」
「盗まれたマジカルアイテムって、1つ?」
「・・・・」
 ミズタマは辛そうに顔を歪めて、そして言った。
「5つだじょ」


 トゥラビアの魔法具倉庫から盗み出されたマジカルアイテムは5つと確認されている。その内の1つがここ、卯佐美第3中学で使われたと見られる。それは巳弥が言っていた、体操服が盗まれたり女子のスカートが落ちたりした事件に使用されたものなのだろうか。その犯人が5つの内の1つを持っているのか、それとも全部持っているのか。
 ミズタマに聞いたところによると、マジカルアイテムを持ち出した犯人を追っていたチェックに聞いた話では、その犯人は女の子だったという。
 本来マジカルアイテムはそれぞれ意志を持っており、それ自身の承認がなければ魔法を使うことが出来ないはずである。それなのにミズタマ達が犯罪に使われる可能性があると危惧する理由は、盗まれたアイテムは全て「欠陥品」だったというのだ。
「欠陥品って、魔法を使えないってことじゃないの?」
「さぁ、それすら分からないんじゃない? だから彼らも焦ってるのよ。最も怖いのは、魔法使用承認機能が働かずに、持ち主の思う通りに魔法を使えてしまうことじゃないかな」
 ゆかりんととこたんはうさみみ中の制服を着て、ごく普通に『遅刻して来ました』という顔で校門から校内に潜入した。スタスタと歩いていくゆかりの腕を掴んで、透子は言った。
「ゆかり、あたしたちって転校したってことになってるのよ。もっと目立たないように行動しないと。クラスの子とかに会ったら、どうするの?」
「その時はこう言えばいいんだよ」
 ゆかりは振り返って、ニッコリ笑った。
「ただいま、って」


「はぁ、はぁ・・・・」
 その男子生徒は、もう追って来る者がいないことを確認し、息を整えるためにコンクリートの階段に腰をかけた。
「何なんだ、あいつら・・・・まさか、この僕が魔法を使ったことが分かったのか?」
 その男子生徒は手に持ったピコピコハンマーのような物を握り締めた。
(いや、そんな馬鹿なことはないはずだ。普通、常識的に考えたら魔法を使えるなんて、思うはずがない)
「せっかくこんな面白い物を手に入れたんだ。邪魔されてたまるかよ・・・・誰だ!?」
 男子生徒は背後で足音が聞こえたため、慌てて振り返った。先ほど自分を追いかけてきた女子2人が来たのかと思い、身構える。
「おっと、怖がらなくていい。村木君、だったね」
 その人物はホールドアップの格好をして、生徒の前に現れた。
「あ、大河原先生・・・・?」
「もう名前を覚えてくれたんだね」
 その大河原先生と呼ばれた男は、村木という男子生徒に笑顔で話しかけた。
「え、ええ、今日の1時間目、先生の授業でしたから」
「分かり辛い授業だったろ?」
「いえ、研修の先生とは思えませんでした」
「いいよ、無理しなくて。座ってくれ」
 大河原は階段に腰掛け、立ち上がったままの村木にも座るように促した。
 大河原は現在大学生で、教師になるためにこの2学期から卯佐美第3中学に研修に来ていた。担当は数学で、今日の1時間目は村木のいる1年1組の授業を受け持った。担当教師の露里が教室の後ろで教育担当として見ていたが、なかなか生徒とのコミュニケーションが上手く、話し上手といった印象を受けた。大学生ということで若者の間で流行っている話題を随所に取り込み、授業を中断させない程度に余談を盛り込んで、生徒への受けも良かった。実際、村木も大河原に良い印象を持った。教科書に添って、少しでも早く授業を消化しようという教育とは対立していることになるが。
「先生、どうしたんですか、こんな所へ」
 村木は「まさか自分が一連の騒ぎの犯人だと知って、追って来たのか」と考え、探るように質問した。
「君なんだね、さっきの騒ぎは」
 やはり、そうだ。村木は魔法で何とか逃げようと考えた。
「いいんだ、逃げなくていい。君を捕まえるつもりはない」
「見逃してくれるんですか」
「見逃す、というのは少し違うな」
「じゃあ・・・・」
「同じ仲間同士、仲良くしようと思ってね」
 大河原は爽やかな笑顔でそう言った。
「じゃあ先生も、プレアデス星団から地球を征服に来た宇宙人なんですか?」
「お前はそんな危険な存在だったのか!?」
「冗談です。仲間ってことは、では先生も体操服を盗んだりするんですか?」
「興味はあってもそこまでする変態ではないが・・・・」
「では、部屋の中が美少女フィギュアで埋もれていて、テレビの上に置かれた女の子のスカートの中をたまに覗くのが趣味とか?」
「そんなことをしているのか、君は? まぁ美少女フィギュアではないが、プラモなら置いているが・・・・」
「では・・・・」
「君、わざと話を逸らしてるな?」
「ではこのくらいにして、先生も魔法を使えるってことですか?」
「あぁ、それも私だけではない」
 大河原は立ち上がり、村木に言った。
「明日の昼休み、第2視聴覚室に来てくれ」
「え、今そこは使われていないんじゃ・・・・」
「だからころ我々が集まれるんじゃないか」
「我々・・・・?」
「待っているよ」
 大河原は笑顔を作り、村木に向かって手を差し伸べて握手を求めた。


6th Dream へ続く


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