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4th Dream 「スーパーヘルパー」
巳弥と透子が帰った後も、ゆかりは黙々と魔女の記事を読んでいた。
そこへ、自動ドアの開く音がして客が入ってきた。
「いらっしゃ・・・・何だぁ、またユカタか」
「何だとは何だ、人が1時間も待ってたっていうのに・・・・」
「1時間?」
「あ、いや。て言うか、ユカタって誰だよ!? 俺は湯上りの必須アイテムか!? みんな俺を着て卓球とかするのか?」
「ユタカ、反応遅いよ」
ユタカは結局、隣の花屋の店先を買うつもりもないのに眺めながら、約1時間も透子が帰るのを待っていたのだった。その手には、さすがに花屋で何も買わずに立ち去ることは出来ずに、買い求めたピンクの薔薇が5本あった。
「ゆ、ゆかり」
「もう、ゆかりなんて呼ばないでって言ったでしょ、姫宮さんって呼んでよね」
別れ話を持ち出した際に言われたことだったが、ユタカは付き合っていた時の癖で、つい「ゆかり」と呼んでしまう。
彼は後ろ手に持っていた花束をゆかりに向けて差し出した。
「こ、これ、ゆかり、いや、姫宮さんに・・・・」
「どうしたの、突然」
訳も分からず、ゆかりは薔薇の花束を受け取る。
「どうしてゆかりに?」
「そ、それは・・・・分かってるんだろう、俺の気持ち」
恥ずかしさからうつむき加減になり、少しユタカの声のトーンが下がった。
「ユタカの、何の気持ち?」
「その・・・・お前のことが、す、好き・・・・」
「お客様、申し訳ございません。ただ今、すき焼きデコレーションは品切れでございます」
「すき焼きデコレーションって何だよ!? すき焼きがケーキの上に乗ってるのかよ! 甘いのかよ、辛いのかよ、いっそ甘辛いのかよ! 関東風かよ、関西風かよ! っていうか、品切れって何だよ、普段はそんな物、ここに並んでるのかよ!? 見栄え、悪っ! 糸こんにゃく、切れねぇって!」
「ユタカの突っ込み、面白いねぇ」
小さく拍手をするゆかり。
「そ、そうか?」
真に受けて、頭に手を当てて照れるユタカだった。
「い、いや、そうじゃなくてだな」
「・・・・ごめんね」
ゆかりはユタカに背を向け、小声で言った。
「やっぱりゆかり、もう一度ユタカを信じることが出来ない。また裏切られるんじゃないかって、それが怖くて、怖くて・・・・」
「・・・・ゆかり」
静寂。時計が時を刻む音だけが店内に響く。
「俺・・・・」
次の言葉が出ない。
何て言えばいいのだろう。
どんな言葉を並べても、今のゆかりの背中には勝てないとユタカは思う。何を言ってもそのまま自分に跳ね返って来そうな、そんな悲しげな背中だった。全ては言い訳でしかない。悪いのは全てユタカ本人なのだ。
ユタカはゆかりの背中を見て「今日は帰るよ」と言ってメロウ・プリティを後にした。とてもその場に留まっていられる雰囲気ではなかった。
(格好悪い。逃げるのかよ、俺・・・・)
ユタカの足取りは重かった。
(結局、すき焼きデコレーションが実在するかどうか聞けなかったな・・・・やっぱり卵を付けて食べるんだろうか)
次の日、うさみみ中学。1時間目が終わった後の休み時間にこなみはタカシに呼び出された。
「ど、どうしたの、タカシ君」
「芳井、知ってたんだな」
「え、な、何を?」
「・・・・ゆかりんと一緒に、とこたんも転校するってことだよ」
悲しげな眼差しでこなみを見るタカシ。
「さっき、聞いたんだ。藤堂院さんのクラスの子に、彼女が転校したって」
「・・・・うん」
こうなることは分かっていた。ただ、自分からタカシに事実を伝えたくなかった。
「どうして言ってくれなかったんだ!」
急にタカシの口調が荒くなったので、こなみは驚いて身を硬くした。普段のタカシはあまり感情を表に出さないタイプなので、声を張り上げたタカシをこなみは見たことがなかった。
「2学期が始まったら、また学校で会えると思っていたんだ。知ってたら・・・・あの時、返事を聞いていたのに」
あの時とは、タカシが透子に告白した時だろう。
「どうして教えてくれなかった? 俺たち、友達じゃなかったのかよ、芳井!」
「私は・・・・」
(友達。そう、タカシ君にとって私は、友達)
(ずっと前から、友達だった)
「このままじゃ俺、諦めきれない・・・・駄目でもいい、気持ちを聞きたかったんだ。でないと俺、今の気持ちのままじゃ・・・・」
「タカシ君・・・・」
「なぁ、連絡先とか聞いてないのか? 聞いてるんだろう? 教えてくれよ!」
「聞いてないの、本当に。急に決ったことだったから・・・・」
でも、透子はもうとこたんにはならない。
タカシが透子にそれだけ好意を持っていても、それはかなわないことだ。タカシが好きになったとこたんは、もういないのだから。
自分にとって、それは喜ぶべきことではないか。
「・・・・ごめんね」
こなみはそう考えている自分が、少し嫌になった。
その頃、ゆかりはバイトの合間を縫って、うさみみ中学に足を運んでいた。と言っても中には入れないので、校門の辺りをうろうろするだけだったのだが。
(魔法使い、この学校にいるのかな)
やはり巳弥が話してくれた魔法使いの話が気になっているゆかりだった。
「あれ、ゆかり」
「あ、透子」
ゆかりの前に透子が姿を現した。透子は現在、無職だからブラついていても不思議ではない。だがこの場所に現れるということは・・・・。
「透子も魔法使いが気になってここに来たの?」
「ん、まぁ、そんなとこ」
巳弥に任せるしかない、と言った透子だったが、彼女も気になっていたらしい。
「今日は何も起こってないのかな」
「うん、とりあえず騒がしい様子はないわね」
だが悪戯だとすれば、調子に乗って何度も魔法を使うに違いない。今日も何かが起こるだろう、と透子は考えていた。
校門の前をウロウロしていても怪しまれると思い、2人は二手に分かれてうさみみ中学の周りを散歩でもしているかのように、それとなく歩いてみることにした。
(ついこの前まで通ってたのに、もう懐かしい気がするなぁ)
ゆかりは眩しい日差しに目を細めつつ、校舎を見上げた。9月になってもまだまだ暑く、開いた教室の窓ではカーテンが靡いている。音楽室だろうか、合唱の声が聞こえる。
やがて休み時間になったのだろう、生徒たちの騒がしい声が聞こえ出した。
(楽しかったな・・・・)
ゆかり達がこの中学に通っていたのはあまり長い間ではなかったが、それでも仲良くなったクラスメイトの面々との思い出が甦る。
「みんな、まだまだこれからなんだよね」
ボソっと呟いたゆかりは、体育館裏でキョロキョロしている1人の女子生徒に目を留めた。誰かを探しているのだろうか。ゆかりは少しの間、様子を伺っていたが誰も来る様子はない。こんな場所に呼び出すなど、愛の告白か、はたまたいじめか。ゆかりはドキドキしながらこっそり様子を見ていた。
「イタズラかなぁ・・・・」
その女子生徒は誰に言うでもなく小声で呟くと、その場を離れようとした。
その時!
「グアア」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
(え?)
ゆかりは、自分が見たものをにわかに信じることが出来なかった。それほど、その女子生徒の前に現れたものは現実離れをしていたのだ。
それは、いわゆる一つの「怪人」だった。
(着ぐるみ? まさか本物、なわけないよね・・・・)
たとえ本物だとしても偽物に見えてしまうほど、校舎裏という場面はその異様な見かけの怪人とはミスマッチにもほどがあった。怪人は名前を付けるとすれば「カエル怪人」と言ったところか、肌がヌメヌメしていて大きく裂けた口から舌がベロンと垂れていた。
(き、気持ち悪いよ〜! 作った人、最悪のセンスしてる!)
ゆかりは「着ぐるみ」と断定したが、女子生徒はそうはいかない。
「いやぁ、いやぁ、こないで〜!」
その異様な怪人を目の当たりにして、女の子は校舎の壁に倒れ掛かってペタリと座り込んでしまった。腰が抜けた、という表現が適切だろう。その娘に対して、カエル怪人は1歩1歩、ペタペタと歩み寄ってゆく。
(うわぁ・・・・)
ゆかりは「助けなきゃ」と思ったが、目を背けたくなるような怪人に近寄る勇気はなかった。かつてイニシエートという異世界の住人と戦ったことのあるゆかりだが、その時の相手よりも目の前の怪人の方が生理的に受け付けない。その醜悪な容姿はあまりにグロテスク過ぎた。しかしそれ以前に、ゆかりが学校の敷地内に入るには高い高いフェンスをよじ登らなければならない。ひざ上10cmのフレアなミニスカートという出で立ちのゆかりには無理な注文だった。となれば、叫ぶしかない。
「こら〜! 誰だか知らないけど、いたずらにしては度が過ぎてるわよ!」
人語を理解していないのか、聞こえているが無視しているのか、カエル怪人はヒタヒタと女子生徒に向かう歩みを止めない。
(う〜、こんな時に魔法が使えたら!)
ゆかりが意を決し、金網を掴んでよじ登ろうとしたその時、またもや非現実的な人物が現れた。
「とう!」
その人物はカエル怪人に真横から飛び蹴りを食らわし、女子生徒と怪人の間に割って入った。
「女の子をいじめるのは、やめろ!」
意味もなく腕を真横から前に突き出すと、カエル怪人を指差した。
輝くメタリックレッドのスーツに青や銀色のラインが入ったボディ。顔はマスクで覆われ、目が黄色く光っていた。
「俺は!」
また意味もなく脚を上げたり腕を回したりして、その男はポーズを取った。無駄な動きがやけに多いが、どんな意味があるのだろうとゆかりは思った。
「音速超人、ソニックマン!」
(はい〜?)
ゆかりは金網をよじ登ることをやめ、ボーゼンとその光景を見ていた。
(と、特撮クラブか何かの演技?)
大学ならまだしも、卯沙美第3中学にそんな怪しいクラブはない。
「この子に指一本触れてみろ、この俺が許さん!」
そういい終えるや否や、ソニックマンのパンチが不気味なカエルの顔にクリティカルヒットした。ペチョっという嫌な音が校舎裏に響く。怪人は女の子に指一本触れていないのに、許すつもりはないらしい。
「君は僕が守る! 安心したまえ」
女の子は泣いていた。足がすくんで逃げることも出来ず、しかも訳の分からない人物がもう1人増え、どうしていいか分からなくなった。「安心したまえ」と言われても、不安要素がまた1つ増えたに過ぎなかった。
そんな女の子を尻目に、ソニックマンのカエル怪人に対する容赦ない攻撃が続く。
「ソニック・フラッシュ・パンチ!」
目にも止まらない音速の拳が、数え切れないほど怪人の顔面にヒットする。目にも止まらないので、ゆかりにも女の子にもその攻撃は見えていなかった。たまらずカエルは後ろ向きに倒れ込む。ソニックマンは一度しゃがんでから「とう!」という掛け声と共に空へジャンプした。
「くらえ、レーザーソニック・ブレード!」
高く飛び上がったソニックマンの手から光の剣が伸びる。太陽を背に、急降下するソニックマンの構えた剣がカエル怪人の頭目掛けて振り下ろされた。
「ファイナル・ボンバー!」
「ギャアアアア!」
カエル怪人の体が真っ二つになる。ゆかりが思わず耳を塞いだほどの、不気味な咆哮だった。
「フッ」
ここで念のために断っておくが、これは「魔法少女ぷにぷにゆかりん」である。
ソニックマンは光の剣を手の平に収めると、女の子の方を振り返った。
「あ、あれ?」
だが、女の子はソニックマンと怪人が戦っている最中に、思うように動かない足を引きずってこの場を後にしていた。怪人の姿は「ファイナル・ボンバー」の爆発により消え、校舎裏にはソニックマン1人が残された。
「せっかく格好よく倒したっていうのに・・・・」
ソニックマンは残念そうに独り言を言った。その瞬間、ソニックマンの体が光に包まれたかと思うと、学生服を着た男の子の姿になっていた。
「見ててくれなきゃ、意味ないんだよな」
その男子学生は「ちぇ」と言いながら校舎裏を後にした。金網にへばりついているゆかりには気が付かなかったようだ。
「・・・・」
いまだに目の前の出来事が現実だったのかどうか計りかねているゆかりだった。
「魔法・・・・?」
怪人はよく分からないが、あのヒーローは魔法を使って変身したのではないか。かつての自分たちのように、変身をして怪人をやっつけたのではないか。
とすれば、巳弥の言っていた魔法を使ったのは、今のソニックマンだったのか。
(でも・・・・正義のヒーローが体操服を盗んだり、スカートを下ろしたりするかなぁ?)
巳弥の言っていた魔法使いが今の男子だったとしたら、そういうことになる。それでは、あの怪人は何だったのだろう。
(ひょっとして、どこかから悪の組織が攻めてきて、怪人を送り込んできたの? それを倒すために、マジカルアイテムを授かったさっきの男の子がソニックマンに変身して、いきなり手に入れた魔法の力を、面白がって悪戯に使っちゃった・・・・ってことかな)
「ゆかり、金網にへばりついて、なにしてるの?」
二手に分かれてうさみみ中の様子を伺っていた透子がやって来た。
「と、透子!」
「どしたの?」
「今ね、信じられないんだけど、凄いの!」
「え、何かあった?」
「えっとね、女の子がいて、そこにカエルがね、気持ち悪いの! ペタペタ歩いて、あぁ、やだやだ、思い出したくないよ〜! だからパス! そいつをね、真っ赤なヒーローみたいなのが、光って、蹴って、切って、爆発して、男の子になってね、よく分かんないけど向こうに行った!」
「・・・・ゆかり、説明する気、ある?」
「ゆかりにも分かんないんだもん!」
ゆかりは少し落ち着いてから、分からないなりにも何とか目の前で起きた出来事を透子に説明した。
「で、ゆかりはそれを着ぐるみとか特撮ごっこだと思った?」
「う〜ん、それがね、怪人とか女の子の怖がり方とかは本物っぽいの。でも、ソニックマンが遊びっぽいっていうか、真剣さに欠けるっていうか・・・・」
ソニックマンが本物のヒーローだったとしたら、さぞかし心外だったろう。
「どっちにしろ、学校の中のことだからあたしたちには調査出来ないわね」
「巳弥ちゃんのおじいちゃんに頼めば入れて貰えるよ、きっと」
巳弥の祖父は、卯佐美第3中学校の校長である。ゆかり達が魔女っ娘だったことを知っている人物で、ゆかり達もまた校長がイニシエートの人間だということも知っている(詳しくは第2部を参照)。
「もしその怪人がどこかからこの世界に攻めてきた一族だったとしたら、事態はこの学校だけの問題じゃないわね」
「う、うん」
「ゆかりが見た怪人がい〜っぱい攻めて来るとか・・・・」
「えっ」
ゆかりの顔が引きつる。心なしか、青ざめているように見えた。
「や、やだ!」
「やだって言っても、向こうの都合もあるし」
「透子はあれを見てないから落ち着いてられるんだよ! うわ、また思い出しちゃった、気持ち悪い〜! やだ、ゆかり、あんなのと戦うなんて絶対やだ!」
「誰も戦えなんて言ってないよ、今のあたしたちは、魔法が使えないんだよ? 中学の中の調査だったら、巳弥ちゃんに頼もうよ。相手がカエルだったら、巳弥ちゃんが適任かも。何たって、蛇だし」
ゆかりは巳弥に任せるのも可哀想だと思ったが、かと言って自分があのカエル怪人と戦うのは絶対に嫌だったので、透子の意見に賛成した。
一方その頃、そのうさみみ中学の中にいる巳弥は、またもや魔法の仕業かと思える事件に遭遇していた。
巳弥とこなみが教室に戻ろうと中庭を歩いていた時、それは起こった。
「きゃぁぁぁぁ〜!」
耳が割れんばかりの絶叫が、ちょうど前を通りかかった教室から聞こえた。
それは体育の授業が終わり、着替えをしていた女子クラスからだった。巳弥とこなみ、それにその近くを歩いていた生徒たちが目撃したのは、今まさに体育の授業を終えて着替えをしている途中の女の子たちの姿だった。
もちろん、教室のカーテンを締め切って着替えをしていたはずである。しかしそのカーテンが今や全てが床に落ちていて、教室全体が中庭から丸見えの状態だったのだ。教室の女の子たちは慌てたが、カーテンは落ちてしまっているために閉めることも出来ない。せいぜい座り込み、外から見えない姿勢で着替えを遂行するしか手はなかった。
偶然中庭を歩いていた男子は驚きつつも「いい物を見た」という気分だった。
「また魔法?」
「・・・・許せないよ、あんなことに魔法を使うなんて」
巳弥は、そんな憤慨しているこなみを見ている1人の男子がいることに気付いた。こなみが発した「魔法」という言葉に驚いた様子を見せた気がした。
「あの子・・・・」
「え、なに? 出雲さん」
巳弥とその男子の目が合った。瞬間、男子は背を向けて駆け出した。
「待って!」
「え、今の子が犯人なの!?」
男子を追った巳弥の後ろを、こなみも必死について走った。
「待ってよ!」
必死に逃げる男子の手に、一見オモチャのような何かが見えた。
(マジカルアイテム!?)
巳弥とこなみを振り切ろうと、男子は階段の手すりを飛び越えて地面に着地した。
「逃げられちゃう! 出雲さん、ここなら誰も見てないから、魔法で捕まえようよ!」
「う、うん!」
巳弥はスカートのポケットに手を入れた。巳弥のマジカルアイテム「魔法の麦藁帽子」は、そのままの大きさだと普段から持ち歩けないため、頭に被っている時以外は小さくしてポケットに収納されていた。
「え〜いっ!」
巳弥が小さな帽子を振った瞬間、マジカルハットは普段の大きさに戻った。そして、前方を走る男子に向かって、ロープで動きを封じるイメージを作る。
(あ、あれ・・・・)
だが、何も起こらなかった。
「どうしたの出雲さん、早くしないとあいつ、逃げちゃうよ!」
巳弥もこなみも見たことのない男子だった。このまま逃げられてしまえば、教室を1つ1つ探して回らなければならない。それどころか、なにしろ相手はマジカルアイテムを持っているのだ。秘密を知った2人の身が危なくなる可能性もある。
「出雲さんっ!」
「だめ・・・・魔法、使えないの!」
「え〜っ!?」
「どうして、どうしてなの!? あっ・・・・」
足元の段差に足を取られた巳弥が前のめりになる。その後ろからこなみが思い切りぶつかった。
「きゃっ!」
折り重なるように倒れる2人。
「いた〜い!」
こなみはコンクリートで肘を思い切り打った。巳弥も膝をしこたま擦り剥いた。
「出雲さん、大丈夫!?」
膝の痛さで立てない巳弥は、座り込んだまま麦藁帽子を抱き締めた。
(おかあ・・・・さん、私、どうしちゃったのかな・・・・)
こなみは打ち付けた肘を撫でつつ、巳弥の膝の怪我を見て「保健室に行こう」と促した。もう犯人であろう男子の姿は見えなくなっていた。
「出雲さん、本当なの、魔法が使えないって・・・・」
「・・・・」
その時、うな垂れる巳弥の前に身長1mほどの物が飛び出してきた。
「巳弥っ!」
「えっ!?」
ウサギだった。首には水玉模様のスカーフが巻かれている。普通のウサギと違う所は、何と日本語を喋っているという点だ。
「ミズタマ君!」
そのウサギは、ゆかりにマジカルアイテムを授けたトゥラビアのウサギ、ミズタマ(本名はエリック・フォン・キャナルニッチ・ラビリニア)だった。
5th Dream へ続く
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