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タイトル


 2nd Dream 「Love Destiny」


(くそう・・・・)
 鵜川という男は、紫色に腫れた顔でフラフラと歩いていた。顔面に右パンチ、左パンチ、止めに右パンチを喰らい「消えろ」と言われた。眼鏡が飛び、レンズの端が欠けたが、相手からの謝罪の言葉は無かった。警察官相手に、なかなか容赦のない男だった。鵜川は先程の反省から、手を出すのは自重した。
(君が消えればいいんだ)
 鵜川は口の中に溜まってきた血を吐き捨てた。
(何でも暴力で解決できると思っているあいつは、きっと香奈にも暴力を振るう。絶対に児童虐待もするはずだ。DVの典型だ。奴は警察に捕まり、香奈は1人残される。子供は父親が犯罪者だというだけで、学校でいじめに遭う。そんな悲しい未来が待っている香奈を、僕は放ってはおけない。どうすればいい? このままでは香奈が不幸になってしまう)
 鵜川は焦った。
(力が欲しい。暴力に負けない力が。正義さえ踏みにじる暴力を許せない。愛を妨げる暴力を許せない)
 ドンッ。
「きゃっ・・・・」
「あっ」
 考え事をしていて、鵜川は曲がり角で人にぶつかってしまった。その拍子に、また眼鏡が落ち、アスファルトの上で跳ねた。
「あ、ごめんなさいっ」
「いえ、僕の方こそボーっとしてて・・・・」
 眼鏡がないので相手の姿は見えないが、声が可愛い女の子だということは分かった。
「あの、眼鏡・・・・」
 相手が眼鏡を拾い上げて渡してくれた時、互いの手が触れた。相手の女の子は慌てて手を引っ込めた。
(あ・・・・)
 眼鏡を掛けた鵜川の前には、綺麗な黒髪をしたロングヘアーの女性が立っていた。水色のロングのワンピースというファッションが、清楚な夏のお嬢様という印象を与える。
(か、可愛い・・・・)
「大丈夫ですか?」
 鵜川の好みに150kmのストレートがストライクな顔で、その女性は話し掛けてきた。キャッチャーミットがスパーンと音を立てる。可愛い声で1ストライク、可愛い顔で2ストライク。いきなり追い込まれてしまう鵜川だった。
(香奈なんかより、よっぽど可愛い・・・・これは、きっと運命だ)
 鵜川は紫に腫れた顔でその女性、藤堂院透子・26歳に見とれていた。
「あ、あの・・・・」
 ぶつかった拍子にどこか打ったのか、と透子は心配になった。そんな心配をよそに、鵜川の妄想が加速する。
(そうだ、僕はこの人に出会う為に生きてきたんだ。香奈が他の男と婚約したのも、僕がこの人に出会うためだったんだ)
「あの〜」
「あ、す、すみません、大丈夫です、大丈夫!」
 鵜川は慌ててシャキっとした自分を見せようと、姿勢を正した。ぶつかっただけでヨロヨロしていては、男として格好が悪い。
「これしきのこと、何でもありません!」
「そうですか、それでは」
 何でもないと男が言ったので、安心して立ち去ろうとした透子に、鵜川が慌てて声をかけた。
「あ、あの!」
「はい?」
「運命なんです」
「?」
「あなたは、僕の運命の人なんです!」
「・・・・」
 変な人にぶつかった、と透子は思った。
(宗教関係かしら?)
 それなら少しでも話を聞けば脈有りとみてどんどん話し掛けてくると思い、透子は構わずに踵を返した。ナンパでも勧誘でも、無視が一番だ。
「待って下さい!」
「・・・・」
(無視、無視、反応しちゃ駄目!)
 ひたすら前だけを見て歩き続ける透子。だが歩幅が狭く歩くペースが遅いので、鵜川との距離を離すことが出来ない。段々と、早歩きから小走りぎみになってゆく。
「待って!」
 鵜川の手が、ワンピースの袖から出ている透子の腕を掴んだ。
「きゃっ!」
 透子は思わず声を出した。腕を掴んだ鵜川も「そんな大袈裟な」と思うほどの大声だった。その声を聞きつけ、近くにいた2人連れの男が駆け寄って来る。
「おい、何してるんだお前」
「離してやれよ、嫌がってるだろう」
 透子の困った顔を見て、その男たちも格好つけようと鵜川に向かって非難の言葉を浴びせた。
「そ、そんな、僕はただ・・・・この人が逃げようとするから・・・・」
「誰だって逃げます!」
「そ、そんな言い方・・・・僕は運命の・・・・」
「何が運命だ、こいつおかしいぜ」
「ち、違うんだ」
 さらに透子に近寄ろうとした鵜川の肩を、1人の男が突き飛ばした。
「しつこいぞ、お前!」
「邪魔するな!」
 鵜川も相手の男を突き飛ばそうとしたが、その手は空しく空を切り、バランスを崩した。その背中に、もう1人の男の手によって追い討ちがかかり、鵜川は見事に前のめりに倒れ込んだ。
「はっ、格好悪い」
「彼女、大丈夫?」
 男たちは助けた女性が「危ない所をありがとうございました」とお礼を言い、自分たちが「どうですか、お茶でも」と喫茶店などに誘い、電話番号などを聞き出し、いい関係になろうと企んでいたのだが・・・・。
「あれ?」
 透子の姿は既にそこにはなかった。

(はぁ、怖かった)
 隙を見てさっさと逃げ出した透子は、人ごみに紛れて姿をくらました。助けてくれたとはいえ、透子にとっては宗教の勧誘もナンパも迷惑なことに変わりは無かった。粘り強さ、しつこさはどちらも似たようなものである。
(もう、出掛けるとろくなことがないなぁ。早く帰ってゲームでもしよ)
 現在無職の透子は、もっぱら家でゴロゴロする毎日を過ごしていた。それはある意味、透子の人生の夢でもあったが、現実問題としてお金を稼がないと堕落した生活は送れない。幸い今は家が裕福であるためにお金に困ってはいないが、早いうちに何か仕事を見付けなければ、と思ってはいる透子だった。
 一方、鵜川の眼鏡は倒れた拍子にフレームが折れてしまった。応急処置をする道具もないため、蔓を持ったまま、倒れた時に擦り剥いた膝に鞭を打って歩いていた。傍目から見ればかなり見て呉れが悪い。おまけに顔面は紫に腫れているため、誰の目から見ても不気味に映っている。
(あいつらは僕の運命の恋の邪魔をした)
 透子を引っ掛けようとした男2人だったが、透子が消えてしまったため、腹いせに鵜川を1発蹴って立ち去った。蹴られた腰と、擦り剥いた膝が痛い。膝は血が滲んでズボンに染みが出来ていた。
 その気になれば警察官なので、相手が2人とはいえ投げ飛ばすことができただろう。だが相手は犯罪者ではない。むやみに喧嘩でその力を使うことは許されていなかったし、また今日の反省から反撃をするのをためらった。それ故、やられる一方の状況になってしまった。
(許せない、あの2人。そして、あの婚約者の男も香奈を不幸にする。更にあのケーキ屋の女子高生に援助交際を無理矢理させているスケベ野郎。あいつもこの世を汚す悪だ。あいつらに出会っていなければ、今日の僕はもっと幸せな運命を辿っていたはずなんだ)
(あの子達を助けなくては)
 自分の妄想に浸っていた鵜川は、自分のアパートの前でまた人にぶつかった。
「あ、ご、ごめんなさい!」
 眼鏡がまた飛んだ。
 その地面に落ちた眼鏡の上に、ぶつかった相手の靴が容赦なく降ろされた。
 ペキペキと乾いた音がした。
「あの、ごめんなさい!」
 眼鏡がないので顔はよく見えないが、謝る女の子に対して鵜川は笑顔を作った。
「いいんですよ、僕がボーっとしてたんです、大丈夫です、大丈夫・・・・」
 そう言いながら歩きかけた鵜川は、足もとの窪みが見えず躓いた。そのままバランスを崩し、前のめりに倒れて肘を思いきり打った。
 全然大丈夫ではなかった。
(やはり・・・・僕は駄目なのかな、華代)
 涙が滲んだのは、痛みのせいだけではなかった。


「夏の夜空に魔女出現・・・・」
 姫宮ゆかりは朝御飯を食べながら、ワイドショーを放送しているテレビに目をやった。テレビは何となく点けていただけだったが、気になる言葉が出て来たので、箸を止めたのだ。
 夏の夜空に魔女出現。一昨日の深夜1時頃、卯佐美市のある男性から魔女を見たとの目撃証言があった。昨夜、その現場でマスコミが待機していたがそれらしき飛行物体は確認できなかった。しかし、別の人物が偶然、写真に撮っていたというのだ。
(そんな偶然にカメラなんて持ってるのかなぁ)
 その写真はフラッシュが届いていないため、真っ黒な背景にかすかに月明かりだけで浮かび上がっている1つの影が写っていた。魔女どころか、人間かどうかも識別できない写真だった。
 ゆかりは見間違いかヤラセだろうと、半分冗談のつもりで見ていた。そのワイドショー番組では「魔女の定義」とか「魔女の歴史」など、妙に力を入れた特集を組んでいた。
(よっぽどほかにニュースがないんだなぁ)
 ニュースがないのは平和な証拠だ、とゆかりはカップに残った紅茶を飲み干した。
 テレビ画面には、拡大された写真が映っていた。
「この部分が箒らしく見えますね」
 ワイドショーのキャスターが真面目な顔で魔女と言われているシルエットを解説していた。そう言われれば、箒にまたがった魔女に見えないこともない。三角帽子にマントをなびかせているようにも見える。
(巳弥ちゃんみたい)
 ゆかりは中学生の友達である出雲巳弥の姿を思い浮かべた。
(まさかね。巳弥ちゃんは飛んでいる姿を人に見られるなんて、そんな軽率なことしないもん。それに真面目な中学生だから、夜遊びなんてしないし)
 しかし、この世界に空を飛べる者というのも、そう多くはいないはずだ。巳弥もつい魔が差して(魔法だけに)空を飛びたくなったということも考えられないことではない。
(念のため、巳弥ちゃんに聞いておこうかな?)
 ゆかりは出雲巳弥に電話をしようとして、やめた。8月31日、学生にとっては今まさに夏休みの宿題の追い込み時期だった。ゆかり自身は学生の頃、宿題を残り3日になってから片付けるというパターンが多かったので、巳弥も忙しいだろうと思ったのだ。3日で出来るんだから、来年は最初の3日で片付けて後は遊びまくろう、と思って結局実行しないのが毎年のパターンだった。
(学校、か・・・・)
 ついこの間まで通っていた学校での生活を懐かしむゆかりだった。


 出雲巳弥は炎天下の商店街を、汗をかきつつ歩いていた。ゆかりに心配されるまでもなく、彼女は課せられた宿題を既に済ませている。
(暑いなぁ)
 暑いと言いつつも、彼女の顔は嬉しそうだった。
 何しろ、堂々と真夏の炎天下をノースリーブで歩くことが出来るのだ。それは巳弥が13年間生きてきて、初めての経験だった。
(でも、あまり調子に乗らないようにしないと。日焼けしちゃうよね)
 巳弥は光に当たると火傷を負ったような日焼けをしてしまう体質だ。詳しくは前作を読んで頂くとして、その巳弥がこうして太陽を気にせずに歩いていられるのは、ある人物からあるプレゼントを貰ったからだった。
 だが、それでも巳弥は相変わらずトレードマークの麦藁帽子だけは着用している。日差しに弱い時には必須アイテムだったため、今は被っていないと何となく頭が淋しい気がするからだった。
 行きつけの本屋の自動ドアをくぐると、ひんやりとした空気が流れ出してきた。店内に入って帽子を取ると、汗をかいた頭にも涼しい空気が当たる。
 巳弥はふと、入り口付近に積まれた雑誌に目をやった。子供向けの本だが、現在巷で人気のある「ミラクル戦士パステルリップ」が表紙になっていた。
(魔法少女、か)
 頭に姫宮ゆかりの姿が浮かんだ。
(ゆかりん、魔法が使えなくなって淋しいかな)
 姫宮ゆかり、藤堂院透子のマジカルアイテムは先の戦いにおいて使用不能になったが、巳弥のマジカルハットは今だ健在である。しかし、巳弥はゆかり達と違って、日常生活においてむやみに魔法を使ったりしないという信頼を得て、現在も所有が認められていた。母親の形見の品でもあるため、無下に取り上げることが出来ないというのも所有を許されている理由の1つでもあった。
(あ、あれは・・・・)
 巳弥は何やら難しそうな本のコーナーに、眼鏡をかけたクラスメイトの姿を発見した。だがクラスメイトというだけで、特に親しいわけでもない。むしろ「顔は知っている」程度の仲で、学校で必要な会話以外はほとんど話をしたことがなかった。巳弥はつい最近まで他人を避けていたし、彼女もまた自分から周りを遠ざけていたからだ。巳弥が他人に対して心を開き始めたのは夏休みの半月ほど前のことなので、今でもあまりクラスメイトと親しいとは言えない。彼女自身も今までが今までなだけに、同級生とどう接していいか分からなかった。
 そういうわけで、巳弥はクラスメイトの山城(やましろ)みここに声を掛けずにおくことにした。女がクラスの中で浮いている理由はその声で、聞きようによってはアニメの中でなら可愛い声かもしれないが、一般的には「変な声」と言われるような声で、一緒に歩いていると恥ずかしいと言う者さえいる。巳弥も最初にみここの声を聞いた時には、教室に動物がいるのかと思ったほどである。妙に高く、コロコロした声だった。
(あんな難しそうな本、読むんだ)
 巳弥はどんな本を読むのだろう、とみここに興味を持った。眼鏡をかけているので、文学少女なのだろうか、と推測する。声は掛けないと決めたので、後ろからそっと覗いてみる。そのコーナーは奥まった所に位置しており、1冊数千円のハードカバーがズラリと並んでいた。
 みここは辺りを見回し、手を伸ばしては引っ込め、何となく挙動不審だった。
(どんな本を探してるのかな?)
 自分もみここもクラスに打ち解けていない今のままじゃいけないと思い、やっぱり声を掛けて一緒に捜してあげようかな、と1歩踏み出したその時だった。
(あっ・・・・)
 みここの手が1冊の本を掴んだかと思うと、その本が素早く彼女の鞄に滑り落ちた。
(まさか)
 鞄に本が入ったことを、本人が気付いていないはずはない。ハードカバーだから、ズッシリと重いはずだ。
(万引き・・・・?)
 巳弥は辺りを見回した。奥まった人気の無いコーナーのため、自分以外にその行為を目撃したものはいないようだ。
(ど・・・・どうしよう?)
 そっと近付いて返すように言おうか、だが幸い誰にも見られていない。返す時に見付かったりすれば、墓穴を掘ることになるかもしれない。しかし犯罪は放ってはおけない。
 巳弥が悩んでいる内に、みここは歩き出してしまった。そのまま出入り口の方に向かうようだ。
(どうしよう、どうしよう)
 みここが本屋の自動ドアを開け、外に出ようとした。その瞬間、売り場から飛び出してきた店員が声を掛ける。
「君、ちょっと鞄の中を見せて貰えないかな」
「えっ」
 みここの顔には自分を呼び止めた店員を見て、動揺した表情が浮かんだ。
(見付かってる! どどど、どうしよう、私があの時、すぐに声を掛けて返すように言っていたら、こんなことにならなかったのに!)
 万引きの本人よりも焦った巳弥は、とっさにマジカルハットを握り締めた。
「さぁ、見せたまえ」
「ふ、ふにゅ、ど、どうしてですか・・・・」
「いいから、見せろ!」
 店員の手がみここの肩から下げていた鞄に伸び、無理矢理に引ったくられた。店員は口の開いている鞄を開き、中を乱暴に探った。
「や、やめて下さい!」
「うるさい、俺は見たんだぞ、お前が万引きした所をな!」
 店員は鞄の中にある小物をどんどん放り出し、中を掻き回す。だが、目的の本は出てこない。あるのは表紙に「日記」と書かれ、鍵の付いている分厚い本だけだった。どう見ても、それは店内から盗み出したものではない。上げ底か、と店員はついに鞄を引っくり返し、中身を全部床にぶちまけたが、ハードカバーの本は見当たらなかった。
「そ、そんな馬鹿な」
 万引きを確信していた店員は、周りの他の客からの冷たい視線に見が縮む思いだった。
「勘違いじゃないの」
「あの子、可哀想に。鞄の中、滅茶苦茶にされて」
「謝ったらどうなんだよ」
 次々と痛い言葉が突き刺さる。
「し、しかし、俺は見たんだぞ!」
 自分は間違っていないと主張する店員だが、この状況では説得力がなかった。
 のろのろと無言で鞄の中身を拾うみここに、周りの客もしゃがんで小物を拾い集めてくれた。鞄が元通りになると、みここは拾ってくれた人たちにお辞儀をして、店を後にした。


(店員さん、ごめんなさい!)
 店員に心の中で謝りながら、巳弥が店を出たみここの後をつけていると、角を曲がった所で数人の女の子グループがみここを取り囲んだ。
「ガメてきたか?」
「出してみろよ」
「あの、その・・・・」
 みここは困ったように鞄を抱きしめているだけだった。そんな態度にイライラした女のこの1人が、鞄を引ったくった。あの店の店員と同じ行為だ。
「何だぁ、入ってないじゃないか! 日記があるだけだ」
「おいおい、命令に逆らうの? 一番高そうな本、ビキって来いって言ったでしょ?」
「盗んだの、盗んだんだけど、入ってなくて、代わりにその日記が・・・・」
「訳の分かんないこと言ってんじゃねぇよ!」
 バシ、と平手打ちがみここの頬に炸裂した。かろうじて彼女の眼鏡は飛ばされることなく顔に引っ掛かった。
(あっ)
 巳弥はその女の子グループが隣のクラスの生徒であることに気付いた。確か、普段は真面目そうな生徒たちだったはずだが、今は髪も茶髪に染め、化粧をして、派手な服装をしていた。
 巳弥がマジカルハットである麦藁帽子を握り締めると、パトカーのサイレンに似た音が帽子から発せられた。
「いけね」
 その音を聞き、女の子3人のグループは細い路地に駆け込み、消えて行った。
「待って!」
 サイレンの音を消した巳弥は、自分も逃げようとしたみここを呼び止めた。
「ふにゅ、出雲・・・・さん」
 振り向いたみここの左頬は、赤く染まっていた。
(私のせいだ、私が魔法で本のカバーを日記に変えちゃったから・・・・)
 だが、巳弥はその事実をみここに言うことは出来ない。魔法を使えるということは、秘密だからだ。
「見てたの?」
「ごめんなさい、あの、偶然・・・・」
「ひょっとして、あの・・・・本屋から?」
「えっと、その・・・・」
 みここは巳弥の返事を待たずにグループとは反対方向へと走っていってしまった。
「山城さん・・・・」
(何てことしたんだろう、私。正しいことをした店員さんを悪者にして、万引きを見逃して、山城さんが引っ叩かれたのも私のせいだ。少なくても言われた通りに本を渡していたら、叩かれなくて済んだのに。ううん、本当は悪いことをした山城さんが自分の罪を認めて、謝罪して、それがあるべき姿だったはずなのに。魔法を使わなかったら、こんなに悪いことにはならなかった)
 巳弥は帽子を抱きしめて、涙を噛み締めた。
(こんなことに魔法を使うなんて)
 巳弥は自分を責めた。帽子を握る手に、力が入る。
(私、魔法少女、失格だ)


3rd Dream へ続く


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