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1st Dream 「My life is great」
広く果てしない空を、思い切り飛ぶのが夢だった。
風を切り、風を肌で感じ、風と一緒になる。そんな光景を夢見ていた。
出来ることなら、青く澄んだ空をどこまでも飛んで行きたかった。だがもし飛んでいる姿をこの世界の住人に見られてしまえば、大変な騒ぎになってしまう。本来、この世界の人間は空を飛べないのだから。普段から周りに迷惑をかけることの多い莉夜(りよ)でも、その程度のことは承知していた。
だから、今は夜。月明かりだけが辺りを照らし出していた。
(ようし、いくぞ)
莉夜は竹箒にまたがった。
ずっと憧れていた、魔法のホウキで空を飛ぶこと。それが今夜、現実となるのだ。莉夜の小さな胸が高鳴る。
空を飛ぶイメージ。フワリと両脚が地面から離れる。その途端にバランスを崩し、すぐに脚が地面についてしまう。
「む〜、バランスが難しいなぁ」
だが何度か挑戦する内に、バランスの取り方が分かってきた。
(いい感じっ)
この日のために慣れない裁縫で完成させた魔女のコスチュームをなびかせ、莉夜は空中に数メートル浮かび上がった。
「すごいっ! ね、見た? あずみちゃん!」
「うわぁ・・・・」
あずみと呼ばれた少女が、浮かんだ莉夜を見上げながら手を叩いた。背格好は莉夜とほぼ同じだが、莉夜と違ってこちらはごく普通のカジュアルな格好をしていた。
「ここで待っててね、あずみちゃん。ちょっと飛んでくるから」
「え、あの・・・・」
あずみは少し不安な表情になった。
「大丈夫、すぐ戻ってくるから!」
そう言った途端、箒にまたがった莉夜の体が夜の空へ向かって飛び出した。
「きゃあああっ!」
「あ、りよちゃん・・・・」
あずみは手を伸ばしたが届くはずもなく、黒い衣装を着た莉夜は、暗く深い夜の空へと消えていった。残されたあずみは所在なげに辺りを見渡した。その廃ビルの屋上は明りもなく、まして人影も見当たらない。
「早く帰って来てね、りよちゃん・・・・」
慣れているはずの暗闇だったが、あずみは心細くなって震える声で呟いた。
男は困っていた。
だがその表情は困っているというよりやけに嬉しそうだった。行き交う通行人が気持ち悪がるほどにニヤけている。
「困ったなぁ」
声に出してまで自分が困っていることを主張しているが、やはり困っているようには見えなかった。
「あいたた・・・・」
男が通りかかった道端で、見るからに高齢の女性が腰に手を当て、道路脇のガードレールに寄りかかっていた。側には大きな荷物が置かれている。手助けしようかと思っていると、その荷物を通り掛かった青年が持ち上げた。
(感心だな、あの青年)
男は、青年が困っているお年寄りの荷物を持ってあげるものだと思った。ところがその青年はその荷物を持ったまま、突然駆け出した。
「ま、待って!」
高齢の女性は追おうにも腰が痛くて歩けないようだ。
男はこちらに向かって走ってくる青年とすれ違いざま、その腕を持って思い切り投げをうった。ここは柔道場ではなく、アスファルトの歩道である。青年は激しく腰を打ち、叫び声をあげてその場に倒れた。
男は青年に対し、更に追い討ちをかける。倒れている青年の背中を、脚を、腕を蹴り、踏み付けた。
「いてぇ、いてぇよ、やめてくれ!」
青年は必死に両腕で頭を抱え、男の攻撃に耐えるしかなかった。誰の目から見ても、必要以上の攻撃に見えた。
「お前みたいな奴がいるから、若者全てが信用されなくなるんだ! あのお年寄りだってそうだ、明日から若者全てを信用出来なくなり、道行く者全てを警戒し、気軽に道に荷物なんて置けなくなる! お前はあの女性に、一生消えない心の傷を作ったんだぞ! お前のせいだ、全てお前が悪いんだ!」
「わ、分かったよ、分かったからやめて!」
「分かるものか! そんなにすぐ自分の過ちに気付く者が、あんな犯罪を起こすはずがない! お前はきっと同じことを繰り返す、絶対にだ!」
「お、お巡りさ〜ん! 助けて、殺される!」
泣き叫ぶその言葉を聞き、男は青年を蹴っていた足を止めた。
「お巡りさん・・・・」
(そうだ、僕は警官なんだ)
男は自分が警官であることを思い出し、青年が引っ手繰った鞄を手に取った。荷物を女性に返し、タクシーを止める。運転手に「この人を家まで。お代は卯佐美署に」と声を掛け、女性を後部座席に導いた。
「そんな、タクシーなんて!」
と女性は断ろうとしたが、男が「代金は警察署持ちなので」と言ったので「それなら」と運転手に行き先を告げた。
続いて伸びている青年を助け起こし、近くの駐在所に連れて行く。
「私、今日は非番ですから。後はお願いします」
そう言って男は青年を引き渡すと、また目的地に向かって歩き出した。
(また、やってしまった。自覚しないと、僕は警察官だ、警察官・・・・むやみに暴力を振るってはいけないんだ)
「困ったなぁ」
先程の続きで、また困り始める。
男は1人勝手に困りつつ「メロウ・プリティ」と看板に書かれたケーキ屋のドアを開けて店内に入った。「メロウ・プリティ」はこぢんまりとした店構えだが、味に関しては評判も良く、リピーターも多い。値段も最近の洋菓子店に比べると、比較的安価な方だ。
「いらっしゃいませぇ」
男の心臓は、店員の声を聞いた途端に跳ね上がった。
(かっ・・・・可愛い)
洋菓子店「メロウ・プリティ」の女性店員の声はいわゆる「妹声」で、男の好みにピッタリと当てはまった。しかも店員は現在「営業モード」なので、声の可愛さは普段よりパワーアップしていた。
その次はと言えば、もちろん男の興味はその店員の容姿に向けられる。男はショーケースの洋菓子を選ぶ振りをしながら、チラチラとそのロリ声の持ち主を盗み見た。
(おお・・・・)
これまた男の趣味に合致する、フリルをふんだんにあしらったピンクのメイド風の洋服だった。洋服と言うより、コスチュームと称した方が良いだろうか。その姿は店員の趣味なのか、この店の店長の趣味なのか、私服なのか、制服なのかは分からないが、とにかく男にとってはいわゆる「萌えアイテム」だった。
男は店員と目が合ってしまった。
(・・・・可愛い)
男は見とれていることを悟られないように、慌てて目を逸らした。
「えっと、お決まりでしたら、お申し付け下さいね」
店員のプリティヴォイスに男の顔がデレッとなる。
(な、何でもお申し付け下さい、ご主人様って言って欲しい!)
男はそう思ったが、まさか面と向かって言うわけにもいかず、ショーウインドーに並べられた甘味菓子を眺めた。色とりどりのショートケーキが主で、デコレーション2つ、ロールケーキ2つ、後はプリンやシュークリームといったラインナップだ。レジの横にはソフトクリームの機械も置かれている。
男はある女性に招待され、真にその家に向かうところだった。手ぶらでは悪いと思い「ケーキでも買って行くか」と思い立ってこの店に入った、というわけだ。
「えっと・・・・」
(女の子ってイチゴが好きだよなぁ。この「イチゴとクランベリーのミルフィーユ」なんていいかな。ん〜、ちょっと食べ辛そうだな。だいたいミルフィーユって何だよ。ケーキじゃないのかな? ではその隣の「イチゴのふんわりクリームタルト」なんてどうだろう)
男は目の前の店員に対し、よせばいいのに自分を格好良く見せたいと思ってしまった。
(待て待て、「ふんわり」という言葉は、ダンディじゃないな、ファンシー過ぎるよ。もっとこう、男らしい名前の方が商品名を口にする時に格好いいな)
女性店員の視線が気になる。これでは「優柔不断」と思われてしまう。女性が嫌いな男性のタイプで「優柔不断」は常に上位にランキングされていると聞いたことがある。何か言わなければ、と焦った男が口にした言葉は、次の通りだった。
「が、学生さんですか?」
「ふえっ?」
キョトンとする店員。だが後には引けず、男は更に質問した。
「お、おいくつですか?」
「27、ですけど」
正直に言わなくてもいいのに、その店員は素直に自分の年齢を男に教えた。
「じゅ、17ですか」
「いえ・・・・」
訂正しようとした店員だったが、その必要もないかと思い、可愛い声でスマイルを交えつつ「はい、17です」と答えた。
(じょ、女子高生でメイド・・・・)
男の妄想が勝手に加速する。
(ゆかり、17に見えるのかなぁ)
店員・姫宮ゆかりは若く見られたことで、内心ちょっぴり嬉しかった。そのフリフリなロリータファッション風の服装から、たまに年下に見られることもあるが、10も若く見られたのは初めてだ。
「えっと・・・・」
一方、男はまだダンディな名前のケーキを探す無駄な努力をしていた。何とか女子高生メイドに自分を格好よく見せたかった。
(う〜ん、ババロアも駄目だ、パパイヤも駄目だ、早くしないと嫌われてしまう! 大体、男がケーキを買うこと自体、格好悪いじゃないか! ということは、ケーキ以外を買えばいいのか、ケーキ以外!)
「お客様、何かお探しですか?」
男が何かを必死で探していることを察したゆかりが声を掛けた。その言葉に、もう迷ってはいられないと思った男はとっさに目に入った物を指差した。
「プ・・・・プリン4つ」
追い詰められた男は、よりによって「プリン」というダンディからは程遠い単語を口走ってしまったのだった。
「プリン4つですね。以上でよろしいですか?」
(あぁ・・・・彼女の発音する「プリン」・・・・僕の口から発せられた「プリン」とはまるで別物のように可愛い・・・・)
男のダンディ計画は脆くも崩れ去った。
その時、カランカランと音がして店内にもう1人、男性客が入って来た。ゆかりはプリンを箱に詰めながら「いらっしゃい」と声を掛けた。
「よ、よう」
「あ・・・・」
その男性客は、ゆかりがかつて付き合っていて、1年余り前に別れた男性、相楽豊(さがら ゆたか)だった。
「・・・・ユタカ」
「また、来たぜ」
ユタカはこの店によく顔を出す言わば「リピーター」だが、いつも買って行くのは1品だけだった。
「最近、よく来るね」
「最近って、ゆかりが働き始めたの、最近だろ」
「そりゃ、そうだけど。ねぇ、ひょっとして・・・・好きなの?」
「えっ」
ユタカはドキッとした。彼はゆかりに未練があり、彼女がこの店で働いていると聞いたその日から、ほぼ毎日と言っていいほど足を運んでいた。そろそろ気付いてくれるだろうと思ってはいたが、他の客もいるこの場面で「好きなの?」と聞かれるとは思ってもみなかった。
「そ、そりゃあ・・・・」
「ユタカってそんなにケーキ好きだったっけ?」
「はぁ〜?」
「おとといはチョコクラシカルだったよね。今日は何にするの? あ、ごめんなさい、630円になります」
ゆかりはプリンを箱に詰め終え、男の前に差し出した。
ユタカはゆかりの心を計りかねていた。本当は自分の気持ちを知っていてふざけているのか、それとも気付いていなくて自分のことを「ケーキ好きな男」として見ているのか。後者だとすると、ゆかりはかなり鈍いことになる。
だが、ユタカは嬉しいと思えることが一つあった。自分が一昨日に買ったものを、ゆかりは覚えていてくれたのだ。
男はそんな2人を疑惑の目で眺めていた。
ユタカと呼ばれた男と女性店員はどんな関係なのか。見た所、男性客の年齢は30前後。店員は女子高生だ。会話から推測するに、親子でも兄妹でもない。
(援助交際?)
この男は、可愛い女子高生メイドにお小遣いを渡し、デートなどをしているのではないか。いやデートごときではなく、自分の欲望を満たしているのではないか。いたいけで声が可愛くてメイド服の17歳を・・・・。
「うわぁ〜!」
(ふ、不潔だ、可愛い顔して、淫乱女子高生だ!)
男はその場に立っていられなくなり、扉を押し開けて店の外へと飛び出した。
「・・・・何だ、あいつ」
「さぁ、入って来た時からちょっと変だった」
「気をつけろよ、世の中には色々な奴がいるからな」
「うん。目の前にもね」
「そうそう・・・・って、俺かよ!?」
ユタカは振りも交えつつツッコミを入れて、カウンターの上に置かれた箱を指差した。
「それ、どうするんだ?」
先ほどの男が注文したプリンが入った箱である。
「あ、ユタカ、買うもの決まった? 決まってなかったらこれ、買ってよ」
「えぇ?」
「だって、せっかく箱に詰めたのに」
「いくつ入ってるんだ?」
「4つ」
「だったら・・・・」
ゆかりも一緒に食べてくれよ、と言おうとしたユタカだったが・・・・。
「賞味期限は明日だから、今日の夜食べて、明日の朝に食べて、お昼に食べて、夜に食べればいいよ」
更にゆかりはその後ろに小声で「ゆかり、頭いい〜」と付け加えた。
「はい、630円!」
プリンの箱を差し出し、ゆかりはニッコリと微笑んだ。
「あ、あぁ」
その笑顔につられ、思わず財布を取り出してしまうユタカだった。
惚れた男の悲しさである。
男はちょっとした絶望感に襲われていた。
(あんなに可愛い子が、援助交際・・・・中年男の毒牙にかかって、あんなことやこんなことを・・・・)
(昨今、援助交際がらみの犯罪が急増している。金なんかで愛を売買するからだ。そんな奴等は本当の愛を知らない。そんな人間の本質を知らないから、犯罪も平気で犯すんだ。命の尊さを知らないんだ)
(どうすればいい? あの子を助けたい。今ならまだ間に合う)
男の口からは、本人は気が付いていなかったがブツブツと独り言が漏れていた。踵を返そうとして、約束の時間が迫っていることに気付き、時計を見た。
(大切な約束があるんだった・・・・あの子はあのケーキ屋で働いている。いつでも会いに行けるだろう)
男はそう自分に言い聞かせ、目的地に向かった。
招待されたのは、男の幼馴染の家だった。昨日の夜、久々に幼馴染の女の子から電話がかかってきて「パーティをするから」と彼女の実家に招かれたのだった。
幼馴染の誕生日は覚えていなかったが、何でもいい。パーティに招かれるほど親しい間柄だと彼女が思ってくれていることが嬉しかった。
(ひょっとして彼女、僕に気があるとか?)
そう言えば、小学校の頃から一緒に登校していたし、クラスの掃除委員になった時でも「一緒にやろう」と推薦してくれたし、給食も分けてくれたりした。
(そうか・・・・あの子、僕のことが好きだったんだな)
今日、彼女の家に呼ばれたのはひょっとして、そのことに関係があるのだろうか、と男は思った。高校を卒業してからしばらく会っていないが、会えない時間が恋する心を育んだのだろう。ある日突然、自分に会いたくなったに違いない。もしかすると、今日は自分と彼女以外、誰も家にいないのかもしれない、とそこまで妄想が膨らむ。
世の中には時折、近過ぎて分からないことがある。小さい頃は幼馴染のことを特に何とも思っていなかったが、社会に出て数年、あの娘はかなり可愛い部類に入ると認識した。自分はあんなに可愛い子が近くにいながら、恋心を抱くことがなかったのか。もっと早く自分の、いや相手の気持ちに気付いていたら、もっと明るい学生生活が送れたはずなのに。男は後悔した。
男がこの幼馴染の家に来るのは、小学校の夏休みの宿題である課題研究のために数人のグループで集まって以来だった。
「は〜い」
チャイムを押すと、インターホンから女性の声が聞こえた。男は「鵜川(うがわ)です」名前を名乗り、促されて玄関のドアを開けて幼馴染宅にお邪魔した。鵜川の予想では家には彼女以外に人はいないはずだったが、インターホンの後ろからはやけに賑やかな声が聞こえていた。
玄関まで迎えに来た同級生に案内され、鵜川は広間に入った。
まず鵜川の目に飛び込んできたのは、派手な色の装飾で飾られた横断幕だった。
香奈、結婚おめでとう!
(・・・・え?)
相手は自分ではない。結婚なんて大事な話、相手に何も言わず進めるはずがない。となると、自分以外の男が結婚相手なのだ。
まてよ、あの子は自分のことが好きだったのではないか?
おかしい。何かが間違っている。
「結婚、おめでとう!」
「やだ、まだ婚約だってば」
友人に祝福され照れる幼馴染を、鵜川は焦点の定まらない目で見ていた。
「あと2週間だぞ、遊んでいられるのは」
「女遊びはするなよな」
「馬鹿言え。俺の心は香奈で一杯なんだぜ」
「おお、おのろけ〜!」
複数の同級生にからかわれている男性、彼が幼馴染の婚約相手。鵜川も良く知っている、高校の時のクラスメイトだった。顔も成績も良く、野球かサッカーの推薦で大学に入ったと聞いている。中学までは別の学校だったので、詳しいことは知らなかった。
自分と小学校から一緒だった幼馴染も、もちろん高校からの彼しか知らないはずだ。自分はあの男のことを知らない。なのに何故、そんな男と結婚なんて出来るのだろう?
僕の方が数倍、数十倍、彼女が好きなはずだ。
そんな男、すぐに浮気して彼女を泣かすに決っている。
君は騙されているんだ。
「おい、何てこと言うんだ、お前」
「え?」
気が付けば、周りの人間全てが自分を見ていることに気付いた。知らない内に、考えていたことが口に出てしまっていたのだろう。だが、鵜川は自分の考えが間違っているとは思わなかった。
「ほ、本当のことを言って、何が悪いんだよ」
「何だって?」
「ぼ、僕の方が彼女を幸せに出来るんだ!」
「はぁ?」
周囲の男を見る眼つきが変わった。
「大丈夫か、お前」
「やだ、鵜川君って、香奈のこと好きだったの?」
「誰だよ、こいつ呼んだの」
様々な言葉が行き交う。その鵜川という男は、非難の声によって逃げ場を失ってしまった。「四面楚歌」という言葉が頭に浮かんだ。
「・・・・鵜川君」
このパーティーの主役である、香奈という女性が鵜川の前に進み出た。
「彼に謝って」
「ど、どうして? 僕は・・・・」
「幼馴染だからと思って声を掛けたのに・・・・呼ばなきゃ良かった」
「・・・・」
恥ずかしがっているのだろうか、と鵜川は思った。自分を好きなはずなのに、わざと憎まれ口を叩いているのだろうか。
「・・・・悪かったよ」
香奈は鵜川が謝罪したと思った。
「本当はもっと早く、僕の方から告白すべきだったんだ」
「・・・・な、何のこと?」
「君の気持ちは分かっているんだ。僕の心を試しているんだろ? 他の男と婚約するなんて嘘をついて、僕の本心を聞き出そうとしたんだろ?」
「・・・・」
香奈はどう返していいか分からなかった。いわゆる「絶句」というやつだ。
「おい君、いい加減にしたまえ」
腕を強い力で掴まれた。掴んだ手の主は、香奈の婚約者だった。
「何が『たまえ』だ。わらべの末っ子じゃあるまいし!」
「こいつ、イカれてるぜ」
「いかれてるのは君だ」
「鵜川君、確か警官だったよね。それなのに、そんなこと言うなんて!」
香奈が咎めるのを横目で見て、鵜川は婚約者に向かって指を差した。
「君なんかより、僕のほうが香奈のことを知ってるんだ! 香奈、小学校の時、よく一緒に登校したよね?」
「・・・・ええ、いつもあなたが私のランドセルを持ってくれたから」
「香奈が掃除委員になった時、僕に『一緒にやりましょう』って言ってくれたよね?」
「ええ、あなたなら面倒なことを全部任せても文句を言わないと思ったから」
「給食、分けてくれたよね?」
「私、好き嫌いが多くて。食べてくれて助かったわ」
「後は、えっと・・・・」
「せっかくのパーティーが台無しだ、表に出ろ」
鵜川は幼馴染の婚約者に腕を引っ張られ、外に放り出された。
2nd Dream へ続く
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