第6話 山本るりか 〜嘘とバイト〜
仙台を離れた俺は、帰りによる予定にしている横浜を後回しにして、新幹線で名古屋に向かった。ほどなく次の女の子・山本るりかさんの家を見つけることができたが、山本さんは留守だった。バイトに行っているとお兄さんに教えられ、山本さんが働いているバイト先の簡単な地図を貰った。なかなか親切なお兄さんだ。
そのバイト先のコンビニは、全国にチェーンを持つフランチャイズのお店だった。俺は山本(兄)さんが書いた手紙を持って、店内に入った。
「いらっしゃい!」
元気な声が出迎えてくれた。最近のコンビニのバイトといえば、何となくやる気のなさそうな挨拶をする若者が増えたのだが、ここの店の第1印象は合格点だった。俺はその元気な声をかけてくれたレジの女の子のネームプレートをちらちらっと見た。「山本」と書かれている。おそらくこの子が俺の探していた山本るりかさんだろう。
「何かお探しですか?」
ちらっと覗く八重歯がチャーミングだった。店内を見渡すと俺の他に客はなく、話がしやすい状況だった。
「あの、山本・・・・るりかさんですか?」
「そうですけど・・・・あ〜っ!」
山本さんは俺の手に握られている手紙を見ると、店内中に響きわたるような声を出した。
そしてその勢いで、俺の胸ぐらを掴んできたのだ!
「ぐぅ」
「あなたよ!あなたの嘘のせいで、あたしがどれだけ苦しんできたか分かる!?」
「ぐぐ」
声が出なかった。「話を聞いてくれ〜」と心の中で叫ぶしかなかった。
「あなたは化石を割ったのは自分だって行って、転校して行ったわ!いい格好して、気持ちよかったでしょ!?でもね、あたしは化石を割ったのは自分だって、ちゃんと謝ろうとしたの!でもあなたの嘘のせいで、本当のことが言えなかった!その日からずっと、あなたに罪を押しつけたことと、本当のことが言えなかったこと、この2つに板挟みにされて・・・・ずっと、ずっと苦しんだのよ、あたし!おかげで嘘恐怖症になって、誰も信じることができなくなって・・・・それで・・・・」
山本さんは泣いていた。首が締まりかかっていて、俺の方も泣きたいと思った。
やっと冷静になった山本さんは、俺の話を聞いてくれた。そして、彼とのいきさつも話してくれた。
「ごめんね、さっきは、その・・・・」
「いいえ、気にしてませんから」
また首を絞められてはたまらないので、俺は逆らわないことにした。
その時、入り口が開いて1人の女の子が入ってきた。
「あ、香澄!」
「るりかちゃん、こんにちわ」
香澄と呼ばれたその女の子は、山本さんに笑顔で答えた。
「友達?」
俺が聞くと、彼女はこう答えた。
「ううん、あたしの彼女」
「え?」
「あたしね、ずっと男と女の友情はあるんだって信じてた。そしたらね、ある出来事がきっかけで思ったの。女同士の愛情もあるんだって」
とりあえず、俺は何も言えなかった。
「るりか君、困るねぇ店の中で大声で話されちゃあ」
突然、店の奥からオヤジが現れた。店長だろうかと思っていると、山本さんが俺の疑問に答えてくれた。
「す、すみません、店長」
原因は俺かもしれないので薄情だが、謝っている山本さんを尻目に俺は、今日の昼飯を買い込むために店内をめぐった。さっきの香澄という女の子も、山本さんに会いに来ただけではないようで、カゴを持って何やら物色していた。
「ところでるりか君、バイトのことだけどね・・・・」
俺は店長のひそひそ声が聞こえたので、つい耳を澄ましてしまった。
「今夜も頼めるかな・・・・いつものところで」
「今日ですかぁ、いいですけど・・・・」
「今日は、そうだね、制服でお願いしたいんだけどねぇ」
「店長も好きですねぇ、ちょっと割高になりますよ。制服が皺になっちゃうから」
「いいよ、いいよ。いくらだね?」
そのバイトの内容は話を聞いていて大体の察しはついた。俺はさっさとレジを済ませると、足早にコンビニを出た。何となく、ここにいることが我慢できなくなったからだ。
(彼女を、泣かすなよ・・・・)
6 / 13
メニュー表示