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タイトル


 33th Revenge 「心に響くもの」


 真樹の体は己の意思で動かす事が出来ない。だが意思とは無関係に反応してしまう箇所に関しては勝手に変化してしまいそうになった。
(こ、こんな時に・・・・!)
 真樹が生理現象と戦っていると、寧音の顔が近付いて来た。
「真樹さん・・・・」
 赤く染まった寧音の顔が目の前まで接近した。
(ごめんね、ナナちゃん。でも今はこうするしかないの!)
 寧音は、ナナが真樹を好きだと思い込んでいる。そのナナの前で、親友の前で好きな人にキスをするのは・・・・。
 真樹と寧音の唇が近付く。
「やっぱり、駄目ぇっ!」
 寧音は叫ぶと、真樹の体の上から芝生に転がり落ちた。
「出来ないよ・・・・ナナちゃんの目の前で、真樹さんにキスなんて!」
 そんな寧音の体に更なるマジカルロープが絡み付き、寧音は完全に身動きが取れない状態になってしまった。
 真樹はマジカルナックルを拾い上げ、亜未に手渡そうとした。だが亜未はそれを押し返すと「あなたが付けなさい」と命令した。
「それを使って、あの子を倒すのよ」
 亜未がナナを指差す。
(な、何だって、俺がナナちゃんを!?)
 真樹はマジカルナックルを装着し、ナナに向かって歩き出した。
(やめろ)
(やめろ、俺)
(ナナちゃんを殴るなんて、そんなこと!)
 ナナはじっと真樹を見ている。
(攻撃しろ、ナナちゃん! 遠慮なくぶっ飛ばせ!)
(いや、ぶっ飛ばしてくれ!)
(俺は君を殴るくらいなら、立てないほどに打ちのめされた方がマシだ!)
 ナナならやってくれる、真樹はそう思った。
 それは決してナナが薄情だとか冷血漢だというのではない。今この状況で、どちらが正義でどちらが悪なのか、どうするのが一番の得策なのかを分かってくれるはずだ。ここはナナが自分を容赦なく叩きのめしてくれればいい。
 しかし・・・・。
「早く十字架を手放しなさい、神無月奈々美。でないと、この子の命はないわよ」
 亜未がマジカルルージュを気絶している泉流の首元に当てた。
(泉流ちゃん・・・・)
 ナナは構えていたマジカルクルスを下ろした。
 真樹はおそらくナナに攻撃される事を覚悟している、とナナは思っていた。操られている真樹にあって、真樹自身の意思がどこまであるのかは分からない。だが真樹はそれを願っているとナナは確信していた。
 だが、亜未はマジカルクルスを捨てなければ泉流の命がないと言う。言うことを聞き、捨てた場合は? 操られている真樹はナナをあのナックルで殴るのか? それともマジカルクルスさえ手に入ればそれでいいという事で、ナナには何もしないのか。
 どちらにせよナナは十字架を手放すしかなかった。
 ナナの手からマジカルクルスが落ちた。手が自由になり、ナナは改めて見られては恥ずかしい部分を手で隠した。
「そのロザリオもだよ!」
「・・・・」
(駄目か・・・・)
 真樹は「まだロザリオがある」と思っていたのだが、亜未も知っていたようだ。ナナは仕方なく首からロザリオを外し、マジカルクルスの横に落とした。
「拾え、真樹」
 亜未の命令通り、真樹は十字架とロザリオを拾い上げ、左手に持った。これでナナ達のトランスソウルは全て亜未の側に渡ったことになる。
「さて、もう人質も必要ないね」
 亜未が手を放すと、泉流の体はその場に倒れた。人質はなくなったが、ナナは反撃する術を奪われて、一方的に不利な状況だ。
 目の前にはナナのトランスソウルを持つ真樹がいる。今や、その男も敵だ。
「さぁこれで神無月奈々美、あんたを縛り上げれば私の勝ちだね」
 亜未はマジカルルージュを手に持ち、ナナと真樹に近付いて来た。
「そうだ」
 亜未が真樹の肩に手を置く。
「好きな男にボコボコに殴られるってのはどうだい?」
「・・・・!」
「あの変態男とキスして、ムカムカ腹が立ってんだよ。スカッと憂さ晴らしがしたいんだけどね」
「・・・・あたしが殴られるのを見て、スカッとしますか?」
「さぁね、分からないからやってみるんだよ。そうだね、少なくとも・・・・」
 亜未の目が鋭くなる。だがその視線はナナではなく、どこか違う方向に向けられていた。
「私の母親は私を殴ることで、憂さ晴らしをしてたけどね」
「・・・・」
「愛する男に殴られるのって、不幸だと思わない?」
「・・・・残念ですけど、あたしは真樹さんのことは、別に・・・・」
「またまた、助かろうと思って嘘なんかついちゃって」
「いえ、嘘ではなく・・・・」
 それを聞いた真樹は、分かってはいたがやはり落ち込んだ。
(ナ、ナナちゃん、そんなにはっきり言わなくても・・・・そりゃあナナちゃんが俺を好きじゃないってことは分かってるけど、はっきり否定されるとちょっと悲しいな・・・・)
「やれ」
 亜未が真樹に命令した。真樹のナックルをはめた右腕が上がる。
(やめろって、俺!)
 真樹は全神経を右腕に集中し、止めようと努力した。だが・・・・。
「!」
 ナナの左頬に真樹の拳が当たり、ナナはよろめいた。
(ナ、ナナちゃん!)
 ナナは俯き加減で頬に手を当てた。
(ご、ごめん、ナナちゃん! 俺、殴るなんて、そんな・・・・!)
 止められなかった。
 逆らえなかった。
(何だよ、俺・・・・こんな、こんな魔法に負けるのかよ! 魔法に負けてナナちゃんを殴るなんて、そんなに俺の心は弱いのかよ! 俺がナナちゃんを好きだっていう気持ちは、その程度なのかよ!)
「・・・・ナナちゃん」
 真樹の目から涙が伝った。
「おーおー、悲しくて泣いちゃってるよ! もっともっと殴って、もっと泣いて頂戴! あはははっ!」
 パシン。ビンタ。
 パシン、往復ビンタ。
 ナナの頬が赤くなってゆく。
(やめて・・・・やめてくれ・・・・)
(代わりに俺を殴ってくれ、どうしてナナちゃんを殴らなきゃいけないんだ)
(俺は、この子を守るって決めたんだ、それなのに・・・・!)
 真樹の頬を幾筋も涙が流れる。
「ま、真樹さん・・・・!」
「!」
 ナナが一歩、真樹の懐に飛び込んだ。
 一瞬の出来事だった。焦点が合わないほどナナの顔が近付き、すぐに離れた。
 唇に、柔らかい感触を残して。
(ナナ、ちゃん、今のは・・・・)
 ひょっとして、キス?
(え、あ、お、えぇ?)
 真樹が錯乱する中、亜未が笑った。
「あはは、確かにキスをすれば取れるって言ったけど、私の『キッス・オブ・プリンセス』はそんな可愛いキスじゃ取れないわよ! 魔法を掛けた時、見たでしょ? 相手の唇全体に行き渡るように、濃厚なキスをして塗っているのよ! 取る時ももちろん、相手の口紅を全て舐め取るようなディープなキスでないとね!」
「・・・・」
 ナナは唇を押さえていた。頬が真っ赤なのは、真樹に殴られたからだけではないだろう。
(ナナちゃん・・・・俺に、キスを・・・・)
 一瞬だった。一瞬だけ、軽くナナの唇が触れた。
 亜未のキスに比べれば、まさに「当たっただけ」だった。
 だが、真樹にとって・・・・。
(ナナちゃん!?)
 真樹はナナの目が潤んでいるのを見た。
(ナ、ナナちゃん、俺の魔法を解く為に、したくもないキスを無理に・・・・だから悲しくて・・・・)
「そ、そんな・・・・」
 ナナが泣いている。
「そんなの、出来ないよ・・・・頑張ったのに・・・・そんな凄いの、無理だよ・・・・」
 ナナを泣かせた。
 泣かせたのは誰だ?
 亜未であり、自分だ。
 魔法の力に負け、ナナを殴り、したくもないキスまでさせた。
 許せない。亜未が、そして何より・・・・。
(俺自身が許せない!)
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 真樹の右腕に装着されているマジカルナックルが動いた。
「な、何!?」
「おおおおおっ!」
(魔法が何だ! 魔法は念じる心と魔力の融合したもの、つまりその念よりも強い心を持てば魔法は・・・・!)
「な、何なの!? そんな命令はしていないわ!」
「魔法は破れるんだあっ!」
 真樹のナックルが亜未の胴にめり込んだ。
「ぐはっ・・・・」
 亜未の体が後方に飛ぶ。芝生の上に落ちた亜未は腹を押さえて転げまわった。声にならない悲鳴をあげ、のた打ち回る。
「ナナちゃんっ!」
 真樹がロザリオとクルスをナナに手渡す。受け取ったナナはロザリオを伸ばした。だが真樹の様子がおかしい。
「はぁ、はぁっ・・・・」
 真樹は心臓を押さえ、その場にしゃがみ込んだ。
「真樹さん!?」
 ナナが駆け寄り、背中を擦る。
「大丈夫ですか!?」
「ちょっと、無理したかな・・・・で、でも、魔法に・・・・勝ったよ」
「はい、凄かったです」
「ど、どうして・・・・」
 マジカルルージュの魔力を抜かれ、観念した亜未が呟いた。
「どうして私の魔法が破られたの・・・・?」
「それは多分」
 真樹は息を整えつつ亜未を睨んだ。
「君の濃厚で凄いキスより、ナナちゃんの触れただけのキスの方が、俺の心に響いたってことだ」
「ま、真樹さん・・・・」
 ナナが口を手で押さえ、赤くなる。
「ごめんな、したくもないことをさせてしまって・・・・好きでもない俺と、その・・・・俺がもっと早く魔法に勝っていればこんなことには・・・・」
「いえ、その・・・・」
 ナナは真樹から目を逸らした。
「き、嫌いだったらあんなこと、しません」
「でも、泣いてたから」
「それは、その・・・・」
 ナナは消えそうな声で言った。
「は、初めてだったから、その・・・・」
「え・・・・」
(は、初めてってことは、ファースト・キス・・・・?)
 真樹は改めて真っ赤になった。
(お、俺がナナちゃんの初めての相手・・・・? う、うわっ、俺、何てことを・・・・は、初めての相手って、一生で一人だよな、そ、それが俺ってことなのか? ちょ、ちょっと触れただけだけど、それだって立派にファースト・キスだよな? く、くそ、せっかくならもっとちゃんと、あんな場面じゃなくてだな・・・・いや、でもああいう場面だからこそ出来たわけで、その点においてはあの魔法に感謝しないといけないのか? いや待て、感謝はおかしいだろ、感謝は。でも俺にとってはナナちゃんと・・・・えっと、あの魔法を解くにはもっと凄いキスをしないといけなかったんだよな。も、もしナナちゃんがその事を予め知っていたら、あの軽〜いのじゃなく、もっと凄いのを俺と、し、してたかもしれないのか?)
「真樹さん?」
「はっ、え、だ、大丈夫!」
 妄想の世界から戻って来ると、真樹とナナは改めて気まずい雰囲気で目を逸らした。
「くっ・・・・!」
 亜未は腹部を押さえながらヨロヨロと立ち上がり、辺りを見回した。
(誰か操れる人間は・・・・)
 丁度その時、公園内を掛け声を上げながらジョギングをしている一団があった。おそらく高校の野球部員だろう。ディメンション内にいるので、あちらからは亜未たちの姿は見えていない。
(あれだけの人数を操れば勝てる・・・・!)
 亜未はマジカルルージュを唇に塗った。それを見て、ナナがマジカルクルスを亜未に向けた。
「やめろ、亜未ー!」
 だが、亜未の動きを止めたのは烈の叫び声だった。
「・・・・烈?」
「もう、やめてくれ、亜未・・・・」
 マジカルロープで縛られている烈は、地面に転がったまま亜未に話し掛けていた。
「何よ、烈君! あんたや兇が負けたんだから、私がやるしかないでしょ! 邪魔しないでよ!」
「もういいんだ、もう勝ち目はない」
「負けておいて、そんなこと言うわけ!? 見てなさい、私がこの状況から逆転してあげるから・・・・」
「見たくないんだっ!」
 烈がそれまでにない大声で叫んだ。
「・・・・烈?」
 亜未があっけに取られていた。それはナナと真樹も同様だった。
「僕は、僕は・・・・」
 何と烈は俯き、涙を流していた。
「亜未、君が、他の男と口付けをする所を、もう、見たくないんだ・・・・」
「な、何を言ってるの、烈君。キスしないと、私の魔法は使えないんだよ。そんなこと、烈君だって知ってるじゃないの」
「分かってる・・・・だけど、僕はもう見たくない・・・・だって、君が・・・・」
 烈は顔を上げ、亜未を見た。
「君が好きなんだ」
「・・・・え?」
「好きな人が、他の男とキスしている所を見て我慢出来る奴なんていない」
「・・・・」
 亜未は「ぽかーん」と烈を見ていた。
「な、何なの、それ」
「君は僕の気持ちを知らなかったかもしれない・・・・これは告白だ」
「告白?」
 亜未は鼻で笑い飛ばそうとして、失敗した。
「嘘でしょ? 私みたいな汚れた女、潔癖で真面目な烈君が好きなわけないじゃない。いい加減なこと言わないで」
「確かに君は男の人と平気で色々なことをするかもしれない・・・・でも」
「・・・・」
「それでも、君は君だ。僕が好きになった君は、何も変わらない」
「そっ・・・・」
「サクリファイス・オブ・レギュレーション!」
 反応に困っている亜未の体に鎖が絡み付く。その向こうにカタルシス・ゲートが開いた。
「お取り込み中、悪いですけど・・・・ジャスティ・ホーリーライト!」
 マジカルクルスから亜未に向け、七色の光が伸びた。
「きゃああああっ!」
 亜未の手の中にあるマジカルルージュが七色の光を浴び、魔力が引き剥がされた。同時に真樹と宅也の唇も元の色に戻る。二人の魔法が解けたのだ。
「良かった・・・・」
 烈は目を閉じると、安心したようにその場に頭を垂れた。
「これでもう、亜未は好きでもない奴とキスをしなくていいんだ」
 亜未も烈と同様、ナナのマジカルロープで縛られた。まだ烈から聞いた言葉を信じられない様子で「何で・・・・」と呟いていた。
 寧音はマジカルロープから開放され、気絶していた泉流も目を醒ましていた。ナナと寧音はまだ下着姿のままだ。
「ナナちゃん、部室のクローゼットの一番右端に新作があるの。それを転移してみて」
「右端だね、うんと・・・・形は?」
 ナナの「物質転移」は、その場所にある物の形を頭に描かないと成功しない。場所だけ分かっても、その物の形状を知らなければ転移出来ないのだ。
「ウェイトレス風のコスチュームなんだけど」
「う〜ん、聞いただけで出来るかなぁ」
 マジカルクルスを握り締め、場所と服を思い浮かべる。だがやはりその物を知っていなければ転移は不可能のようだ。
「無理みたいだね」
「あ、そうだ!」
 寧音が携帯電話を取り出し、操作を始めた。
「写真を撮ったの! えっとね・・・・これ!」
 携帯電話のカメラに、寧音の言う「新作」が写っていた。ナナはそれを見ながら場所を思い浮かべた。すると・・・・。
 ナナの体を、ピンクのウェイトレス風のコスチュームが覆った。
「わっ!」
「ねね、どう、可愛い?」
「うわぁー」
 ナナはスカートの裾を摘み、フリフリのフリルを持ち上げてみた。
「可愛い〜! 凄い、これ、寧音ちゃんと泉流ちゃんが作ったの!?」
「ま、まぁほとんど泉流ちゃんなんだけどね・・・・」
 それを聞いた泉流が照れたように俯いた。
「ナナちゃんに似合うかなって・・・・今度会えたら渡そうって言ってたの」
「え、これ、あたしに?」
「うん」
「うわぁ〜、ありがと〜!」
 はしゃぐ三人を見て、亜未が真樹に聞いた。
「あのー、あの子達、私のこと忘れてないですか?」
「忘れてはない・・・・と思うけど」
 真樹もあまり自信がなかった。それだけナナ、寧音、泉流の三人のはしゃぎようが凄かったのだ。
 寧音も同じように部室からコスチュームを転移して貰い、ようやく二人は服を着る事が出来た。
「得したねぇ、真樹さん」
 寧音がニヤッとしながら真樹に話し掛けた。
「あたし達の恥ずかしい恰好は見れるし、ナナちゃんとキス出来るし」
「ね、寧音ちゃん!」
 ナナにバシ、と肩を叩かれる寧音。真樹は「そ、そんなに見てないよ、本当に!」と言い訳した。事実、本当に直視出来なかったのだ。
 そんな真樹の携帯電話に電話が掛かってきた。真樹がポケットを探ってディスプレイを見ると、相手は龍ヶ崎眞子だった。
(龍ヶ崎さん!?)
 真樹は「ギョッ」となった。そして更に、後ろめたい気分になる。まさか眞子がここでの出来事を知っているはずはないと思うが・・・・。
 通話ボタンを押す。
「・・・・もしもし」
「星澄君? 今何処?」
「え、えっと、こ、公園」
「ナナちゃんも一緒?」
「えっ、あ、うん、一緒。一緒だけど、一緒にいるだけだから」
「?」
 眞子には真樹の慌てっぷりの意味が分からない。
「あのね、樋川さんと澤田さんの魔法が解けたみたいなの!」
「え、解けた?」
 眞子によると、キョーコとアサミは、寝ても夢を見なくなったらしい。それだけ報告したくて電話したのだと言う。
 電話を切り、真樹は電話の内容をナナに伝えた。
「小松貴美愛が魔法を解いたのかな?」
「かもしれませんが、あるいは・・・・」
 ナナは深刻な顔をしていたが、ウェイトレス風の衣装とは少し不釣合いだった。
「魔法は術者の魔力有効範囲内でなければ持続出来ません。高度な魔法なら尚更です。魔法が切れたということは、小松さんはエミネントに帰ったか、マジカルバイブルが使用不可能になったか、あるいは・・・・小松さんが死んでいるか、です」
 ナナは拾っていたマジカルリュックを広げると、マジカルロープで縛り上げた兇、烈、亜未、そしてりりあを中に入れた。
「ナナちゃん、どうするの?」
「あたしもエミネントに行きます。このリュックをこちらに置いておくわけにはいきませんし、おそらく小松さんはエミネントに戻っていると思います」
「俺達も・・・・」
 真樹は言い掛けてやめた。こちらの世界でも足手纏いなのだ、エミネントに行って何が出来るだろう。寧音や泉流もついて行くと言ったが、ナナは首を振った。
「事件が解決したら、また戻って来るから。それまで待ってて」
 エミネントとこの世界の行き来は、一般人がそう簡単に出来るものではない。今の取り決めに従うなら、政府の許しがなければならないのだ。
 ちなみにナナや咲紅は「緊急事態」ということで、事後承諾を貰うことにしている。手続きをしている時間がなかったからだ。
「すぐ戻って来るよね?」
 寧音が泣きそうな顔になる。ナナは「なるべく早くするね」と答えた。
「あ、あの」
 真樹の前では、つい目を伏せてしまうナナだった。真樹もかなり意識している。
「絶対に無事で帰って来てよ」
「は、はい、是非・・・・」
 ナナはリュックを背負い、十字架を付けたロザリオを首に掛けた。
 この時の真樹には予想もつかなかった。
 あんな形でナナと再会しようとは。





34th Revenge に続く




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