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タイトル


 28th Revenge 「クマと少女」


 マジカルバイブルを見ていた貴美愛の手から、マルクブリンガーが落ちた。
「・・・・か、神無月さん、あなた、こんな形でご両親を・・・・」
「・・・・見たんですね。それなら、見た通りです」
 頭痛が治まったナナは、膝に付いた土を祓った。
「あたしは両親を亡くしました。だから小松さん、あなたには家族を捨てて欲しくないんです」
「・・・・ゆ、柚梨、お母さん・・・・」
 そして貴美愛は、最後の復讐の相手を父親に選んでいた。
 多額の借金を母に押し付け、自分たちを捨てて蒸発した父。父のお陰で母と妹、そして貴美愛は不幸のどん底を生きてゆくはめになった。
 あの男にも恐怖の毎日を見せてやる。何としても見付け出してやる。そう思っていた。実の父親に罰を与えて、貴美愛の復讐は完了するはずだった。
「あ、あなたは憎くないの? 家族の仇が、憎くないの?」
「憎いですよ、当たり前じゃないですか。だからあなたの気持ちは分かるし、復讐は悪い事だとは思えないんです」
 ナナはマジカルクルスを構え、ロザリオに手をやった。
 犯人はもうこの世にいない。それがいいことなのかどうかはナナには分からない。
「・・・・」
 貴美愛はマジカルバイブルを閉じた。
「分かっていたわ。不幸なのは私だけではない事を。でもこの世の中には、人を不幸にして、自分自身は不幸を知らない人間が沢山いる。そんな奴等を粛清するのは悪い事? それは正義の行いではないの?」
「そんなの分かりません。でも小松さん、あなたのトランスソウルは・・・・」
 ロザリオの鎖が伸びた。
「確実に不幸を生みます」
 マジカルロザリオが貴美愛目掛けて飛んだ。
「しまっ・・・・」
「サクリファイス・オブ・レギュレーション!」
 貴美愛の体に鎖が絡み付く。貴美愛はマジカルバイブルを持ったまま、動きが取れなくなった。
「まずい、姫!」
 兇らは貴美愛の危機に気付いたが、自分達も身動きが取れない状態だった。
「カタルシスゲート、オープン!」
 ナナの掛け声と共に、貴美愛の背後に扉が現れた。
 貴美愛自身は魔力を持っていない。ナナの標的はマジカルバイブルだ。
「これで終わりです、小松さん」
「や、やめて、神無月さん! まだ、まだ私の復讐は・・・・!」
 貴美愛の目から涙がこぼれた。涙は眼鏡のフレームに当たり、頬を伝ってゆく。
「取らないで、これだけは! 私がやっと手に入れた、悪に対抗できる力なの! これを失くしたら、私はまたあの頃に逆戻り・・・・いや、それだけはいや!」
 マジカルクルスに魔力が凝縮される。
「小松さん、今までのあなたは不公平だからって逃げているだけだった。でもあなたは短期間で魔法を使えるようになるだけの力を持っている。その力があれば、復讐よりも前に出来ることがあったのかもしれません」
 ナナはマジカルクルスを構えた。
「ジャスティ・ホーリーライト!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!」


「うるさいなあ、もう」


「!?」
 誰だ? とその場にいる誰もが思った。
 それはその場にいる誰の声でもない、幼い女の子の声だった。
「だ・・・・誰だ、どこにいる?」
 蛇に掴まれている兇は頭だけを動かして周りを見た。声が聞こえるということは、このディメンションの中にいるはずだ。だが外部から入った形跡はないし、それらしき姿も見えなかった。
「!」
 我に返ったナナが見た物は、千切られたマジカルロザリオの鎖だった。それによりマジカルバイブルを持った貴美愛の腕の位置が下がり、ジャスティ・ホーリーライトは命中せず不発に終わっていた。
「・・・・」
 貴美愛は恐る恐る振り返った。先程の声は、リュックの中から聞こえたような気がしたからだ。
(で、でも、リュックに入っていたのは兇、烈、亜未の三人だけのはず・・・・)
「あっ!」
 亜未の位置からはリュックの底が見えていた。底には真横に一本、亀裂が入っていた。今まではなかったはずの傷だ。
「んしょ」
 今度ははっきりと声が聞こえた。そして・・・・。
「ふあ〜」
 貴美愛の背後では、リュックの底から出て来た女の子が伸びをしていた。年の頃は見た目で五、六歳といったところか。手にはクマのぬいぐるみがあった。
(二重底・・・・)
 リュックの中には誰もいなかった。出て来た女の子は、二重底になっているリュックの底の部分に入っていたのだろう。
(夜光様は何もおっしゃっていなかったのに・・・・)
「ん〜・・・・」
 女の子は目を何度も擦り、ようやく目を開けた。
「まぶしい・・・・」
 それはそうだろう。ずっとリュックの底に入っていたのだから。食べ物などはどうしていたのだろう? 貴美愛はそんな疑問を持ったが、まず最初に聞くことがあった。
「あなた、誰?」
「・・・・りりあ」
「りりあちゃん? どうしてリュックに入っていたの?」
「ん〜、うるさいなぁ、このまんまるメガネ」
「まんっ・・・・」
「おい、てめぇ、姫に向かってその口の利き方はなんだっ!?」
 兇が怒鳴ると、りりあは兇を見て呟いた。
「うるさい、死んじゃえ」
「なっ・・・・」
 りりあの抱いていたクマのぬいぐるみが瞬時に巨大化した。その目は真っ赤でつり上がっていて、体のあちこちには継ぎ接ぎがある。体長五メートルはあろうかというクマは、その体躯からは想像出来ないジャンプ力で一瞬にして蛇に捕まっている兇の前に着地した。
 クマの手の爪が伸びた。
 縦一閃。
 捕らえていた蛇もろとも、兇はクマの鋭い爪に切り裂かれた。
「ぎゃあああああっ!」
 兇が叫ぶ。巳弥は目の前に兇の左腕が落ちるのを見た。
「きゃああっ!」
 巳弥と亜未が叫んだ。烈は兇の血を見て失神寸前だ。
「みんな、うるさい」
 クマが烈と亜未のいる方に顔を向けた。二人は巳弥の蛇に動きを封じられているので身動きが取れない。巳弥はとっさに蛇による束縛を解いた。
「逃げてっ!」
 巳弥は烈と亜未に向かって叫びながら、二人を縛っていた蛇をクマに向かって伸ばした。
「くまっ」
 クマが鳴いた。
 クマの爪が蛇を払い退けると、白い蛇の首は跳ね飛ばされた。意外と可愛い声だった。が、やることはえげつない。
「いやぁぁぁ!」
 亜未は背中を向けて逃げ出したが、烈は放心状態だった。その頭上にクマの爪が振り下ろされようとする。巳弥は再び蛇をクマに向かって伸ばした。
(駄目、間に合わない!)
 クマの爪が地面に突き刺さった。その向こうにクマの一撃を辛うじてかわした烈が転がっていた。烈は自分で避けたのではない。兇が寸前で烈に体当たりを喰らわせたのだった。
「気絶してんじゃねぇぞ、烈・・・・」
 左腕を失った肩からは血が流れ出ていた。足や胸の辺りにも鋭利な爪で裂かれた跡がある。
「ふざけんなよ、このクマ・・・・」
「くまっ?」
「とぼけやがって」
(何なんだ、こいつは・・・・あのガキと何か関係があるのか?)
 兇は「りりあ」と名乗った少女を見たが、眠そうに目を擦っているだけだった。
(あいつが操っているようには見えないが・・・・)
「ふあ〜」
 りりあは欠伸をした。
「誰なの、あなた? どうしてリュックに入ってたの? あのクマは何? あなたが動かしてるの? ねぇ、やめさせて!」
 貴美愛が早口で捲くし立てると、りりあは「うるさい」と言って耳を塞いだ。
 マジカルリュックは夜光が用意し、貴美愛に渡したものだ。二重底になっていたことを考えれば、りりあという少女が勝手に潜り込んだとは思い難い。夜光はりりあが入っている事を知っていたのか? それとも何らかの目的があって忍び込ませたのか?
(夜光様は私にそんなこと、一言も・・・・)
「喰らいやがれっ!」
 片腕になった兇は、渾身の右ストレートをクマの脚に打ち込んだ。だがその柔らかい体には手応えが無く、ただ腕がめり込んだだけだった。
「くそっ、烈、ライターで燃やせ!」
 クマはぬいぐるみのようなので、よく燃えそうだ。だが烈は気絶して倒れていて、戦力にならない。
「ちっ・・・・亜未、烈からライターを取れ!」
「う・・・・あ・・・・」
 だが亜未も恐怖のあまり足に力が入らず、座り込んだまま立つことが出来ないようだった。
「くまっ?」
 クマが兇を踏み付けようとした時、体の動きが封じられた。巳弥の放った蛇が八本全て、クマの体に絡み付いていたのだ。
「でかしたぜ、ヘビ女!」
 兇はクマの動きが止まったのを見て、烈が持っているマジカルライターを取る為にダッシュした。だが・・・・。
「くまー!」
 クマの爪が閃いた。
「!」
 巳弥の蛇は柔らかいクマの体に食い込むように絡み付いていた。クマはその蛇を、自分の体ごと切り裂いたのだ。
(まさか、そんな・・・・!)
 八本の蛇が全て切断された。
「くまー」
 自らの爪でズタズタになった体から「わた」をはみ出させつつ、クマは兇の背後に迫った。
「逃げて・・・・!」
 巳弥は蛇の再生を試みたが、一度に全ての首を失った妖力の消費は想像以上で、残った妖力では瞬時の再生は不可能だった。
「ぐはっ・・・・」
 背中を切られ、兇が倒れた。
 気絶していた烈はクマの足の下敷きとなり、ベキベキと音を立てた。亜未は爪ではなく拳で殴られ、血飛沫を撒き散らせた。
 そしてクマは巳弥に狙いを付けた。妖力が残り少ない巳弥は、ソウルウエポン「ウィズダム・エイト」を作り出すことは不可能だった。
「巳弥さんっ!」
 ナナはロザリオを伸ばし、巳弥の救出に向かった。
「サクリファイス・オブ・レギュレーション!」
 ロザリオの鎖が最大限まで伸び、クマに絡み付く。呆然としている貴美愛の傍で、りりあは「おなかすいた」と呟いた。
 クマの手がロザリオの鎖を引きちぎる。
「くまぁ」
 クマの鳴き声はあくまでコミカルだったが、体のあちこちからはみ出している白い綿が何ともグロテスクさを感じさせ、そのギャップが恐怖を増大させた。
「!」
 必死で防御した巳弥のマジカルハット・シールドがクマの爪で貫かれる。妖力が足りない今、その防御力もほとんど無いに等しかった。
 巳弥の腹部にクマの爪が突き刺さる。
「巳弥さん!」
「くまー」
 クマがナナに目を向けた。
「くっ・・・・!」
 ナナはマジカルクルスに魔力を溜めた。サクリファイス・オブ・レギュレーションは目標物の動きを止める役目を果たすもので、狙いさえ付けばジャスティ・ホーリーライトは撃てる。目の前の巨大なクマが標的なら、外すことはないだろう。
 クマの正体は不明だが、トランスソウルであれソウルウエポンであれ、魔力で動いている事には違いない。それを引き剥がしてしまえば止められるはずだ。
「ジャスティ・ホーリーライト!」
 マジカルクルスから七色の光が巨大なクマに向かって放たれた。クマをリムーヴ作用を持つ光が貫く、と思った瞬間。
「!」
 ジャスティ・ホーリーライトはクマの表面で四散した。
 リムーヴとは、魔力をその固体から無理矢理に引き剥がす技。無理がきかなければ引き剥がしは出来ない、つまり相手の魔力が勝っていれば、リムーヴは失敗する。
(ホーリーライトが効かない!?)
「くまー」
 クマがナナを見下ろす。
「あ・・・・」
 やられる。
 兇も烈も亜未も、そして巳弥もやられた。
(あたしの、番・・・・)
 手足が動かない。


(お母さん)
 魔力の暴発ですね、マジカルドラッグの類ですか。
 薬のせいで制御が効かなかったんだろう。
 巻き込まれた被害者の遺族の方が、こちらに。
(お母さん、どこ?)
 奈々美。
(お父さん、お母さんは?)
 奈々美・・・・。
(お父さん、どうして泣いてるの? お母さんは?)


 残念ですが、管理局防衛官・神無月様は侵入者の抵抗により殉職されました。
(じゅんしょくって、なに?)
 ナナちゃん、お父さんはね、立派な事をして亡くなったのよ。
(お父さん、偉いの?)
 そうよ、とっても偉い人なの。
(じゃあナナ、お父さんの頭を撫でてあげる。お父さん、早く帰って来ないかな)
 ナナちゃん、聞いて。お父さんはもう・・・・。
(ナナね、昨日ね、お父さんにお着替え持って行ったの。お父さんに『がんばってね』って言ったら『がんばるよ』って。頑張ったんだね、お父さん)
 えぇ、そうよ、お父さんはとっても頑張ったのよ。


 お母さんは魔力が暴発した人の爆発に巻き込まれた。
 お父さんは魔力が強いから管理局の防衛を任されて、悪い人と戦って死んだ。
 どうして魔力なんて、持ってるの?
 そんなのいらない。
 魔力があるから、お母さんもお父さんも死んだんだ。
 いらない、使いたくない。
 悪い人じゃなきゃ抜き取れないなら、封印すればいいんだ。


 奈々美ちゃん、魔力の封印は危険を伴うんだ。消費されない魔力は蓄積される。封印が解けると、それが一気に噴き出す可能性があるんだよ。


 奈々美、魔力は悪いことばかりじゃない、人類の可能性だ。
 きっとお前にも、それを必要とする時が来る。自分の為か人の為かは分からない。だがきっと魔法が必要になる時が来るんだ。


(お父さん!)


「・・・・」
 草の匂いがした。
 目を開けると、青空が眩しい。
「あっ、ナナちゃん!」
「・・・・寧音、ちゃん?」
「良かったぁ、泉流ちゃ〜ん、ナナちゃんが!」
 寧音の知らせを聞き、泉流はニコっと微笑んだ。
「・・・・んっ」
 ナナが起き上がろうとすると、寧音が手を貸してくれた。
 少し離れた所で、ヴェールを纏った泉流が治癒魔法で巳弥の傷を治していた。
(あたし・・・・)
 巨大なクマが眼前に迫った事は覚えている。だがその記憶と今の状況が繋がらない。あの時、ナナは「やられる」と思い、目を閉じた。
「クマは?」
「クマ?」
 寧音が首を傾げた。
「この辺りに野良熊なんていないよ?」
「あの子はどこに行ったの!?」
 ナナは辺りを見回したが、りりあの姿はどこにもなかった。
 そして、貴美愛も。
 ここにいるのはナナと寧音、それに泉流に治療して貰っている巳弥、そして兇、烈、亜未だけだった。巳弥、そして烈と亜未の体はほぼ完治していたが、兇の左腕は胴から離れたままだった。
「ごめんなさい、私、まだ難しい治療は出来なくて・・・・」
 泣きそうな顔で謝る泉流に、兇は困ったような顔をした。
「あ、謝るなよ、ここまで治してくれただけで充分なんだからよ」
 兇は烈と亜未の顔を見た。
「あいつらだってあのままじゃ死んでいた。礼を言う」
「いえ・・・・」
「それにしても・・・・」
 兇は泉流の治癒のレベルが高い、いや高過ぎる事に疑問を抱いていた。治癒魔法は治療をイメージして肉体が損傷した部分を再構築する魔法で、ある程度の医療知識が必要であるはずだ。エミネントならスクールのカリキュラムに基礎知識は組み込まれているが、泉流にそんな知識があるとは思えない。
(考えられるとすれば、あのマジカルティアラの中の魂が生前、医者か何かだった、ということだな)
 兇は左腕を置いたまま立ち上がった。兇の仮定が正解だったとしても、腕を繋ぐまでは出来ないらしい。
「さてと・・・・」
 兇はナナの方へ向かって言った。
「神無月奈々美、悪いがまだ俺達は捕まるわけにはいかねぇ。あのクマとガキを捜さねぇと大変なことになるからな」
「りりあって子は?」
「気付いたらもういなかった。姫・・・・小松貴美愛もだ。あのガキが連れ去ったのか、姫が一人で逃げたのかは分からねぇ。だがあのクマがこの世界で暴れたりしたら大変だってことはお前にも分かるだろう」
「もちろんです。つまり、クマとあの子を捕まえるまでは協力しようってことですね」
「話が早いですね」
 傷の癒えた烈も立ち上がった。彼はクマに踏まれ、何箇所も骨折していたのだが泉流と亜未の治癒魔法で何とか復活できたのだった。
「あのクマは放ってはおけない。クマの一件が片付けば、また敵同士ですが」
「クマはどうしていなくなったの?」
 ナナはクマに襲われた。だがこうして無傷で生きている。
「僕たちもその時は死に掛けでしたから、クマが何処へ行ったのかは見ていません。槻島さんという方がここに来た時には、既にいなかったそうです」
「・・・・そうですか」
 ナナの視界の隅に、茶色いものが引っ掛かった。芝生の上に落ちていたそれを拾い上げると、ぬいぐるみの手のようだった。
(あのクマの手?)
 クマの腕が千切れている。誰かがナナを助けたのか、それとも・・・・。
 あの時のナナは、ロザリオを首に掛けていなかった。あるいは魔力がナナの意思とは無関係に、クマを攻撃したのではないだろうか。
(あの時、お父さんの声が聞こえた気がした・・・・)
 ナナはマジカルロザリオの鎖を修復する為、手の平に包み込んだ。
「さて。行くぜ、烈、亜未」
「一緒に行かないの?」
 巳弥が兇の背中に声を掛けた。
「あのクマとガキはエミネントから来た。だから俺達が片付ける」
「一方的にやられたじゃない。私達も一緒に・・・・」
「正体は分からねぇが術者はあのガキだ。あいつを捕まえればいい」
「貴方達、本当にあの子の事を知らないの?」
「知るか。俺等も驚いてるんだ」
 兇は吐き捨てるように言った。
 この世界に来た時からずっとリュックで暮らして来て、りりあの存在に気付かなかった。それよりも禍津が何も言わなかった事に不快感を感じる。
 貴美愛がピンチの時に出てくるようになっていたのか? いや、だとしたら兇達にも攻撃するのはおかしい。
(とにかくガキを捕まえ、夜光様に聞けば済むことだ)
 兇は堤防を駆け上がり、烈と亜未はそれに続いた。
「ナナちゃん、私も彼らを追うね」
 巳弥が帽子を被り、立ち上がる。泉流もマジカルティアラを頭に乗せたまま立ち上がり、ナナの目を見た。
「私に傷を治す力があるのなら、その力で目の前の傷付いた人を救う。敵とか味方とか関係ない・・・・変かな」
「ううん」
 ナナは首を振った。
「泉流ちゃんがそう思うなら、それでいいよ」
「行きましょう」
 巳弥がナナと泉流に話し掛けた。正直、まだ妖力は回復していない。だがあのクマを野放しにするわけにはいかなかった。





29th Revenge に続く




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