話数選択へ戻る


タイトル


 21th Revenge 「何より強い魔法」


「うう〜」
 ナナは半泣きのまま男の話を聞いていた。
「だから俺は奥さんもいれば子供も二人いる。君には手を出さないから安心してくれ」
 近頃は家族がいても性的犯罪を起こす輩が多いので、男の主張はあまり効果がない気がした。それでもナナは男の目と表情、話し方を見ると信用出来そうな気がした。
「会社の命令で、君を預かっているんだ。ここから出さないようにとね」
「監禁ですか?」
「まぁ、そうだ。すまない」
「何の為に?」
「それは言えない・・・・いや、聞いていない」
「ではあたしのロザリオも知らないですね」
「ロザリオ? 犬の名前? 君のペットか何かかい?」
「いえ、ご存知なければいいです」
 ナナのお腹が鳴った。
「あ、すまない、晩飯がまだだったな」
 男は慌てて立ち上がると、キッチンに向かった。
「嫌いなものはあるか?」
「えっと、生魚とか・・・・」
「そうか。じゃあ寿司は喰えないな。人生の五分の二は損してるぞ」
「は、はぁ」
 しばらく包丁の音や何かを炒める音が聞こえ、ナナの目の前に鮮やかな色のチャーハンが登場した。
「わぁ」
「喰ってくれ」
「あなたは?」
「俺はいい」
 そう言って、男は缶ビールを開けて飲んだ。
 ナナはチャーハンを食べ終えると、美味しかったですと言って手を合わせた。
「あの、お名前は?」
「俺か? どうでもいい。と言うか秘密だ」
「でも、名前がないと呼び辛いです」
「好きにしてくれ」
「じゃあゾウさん」
「なんだそりゃ」
「大きいから」
 と言ってからナナは、先程目にした男の全裸姿を思い出した。
「あ、ち、違いますよ、大きいって言うのは、その、体です!」
「何で赤くなってんだ、お前」
 食事の後、ナナはシャワーを浴びた。
 男の話では、連絡があるまで「ナナをこの部屋から出さないこと」が男の命じられた仕事であるという。何の為かは知らない。男は自分の事や会社の事は何も喋らなかった。
 ある会社がナナを閉じ込めた、その理由は?
 目当てはマジカルロザリオ及びマジカルクルスなのか?
(みんな、心配してるだろうな・・・・)
 いきなりいなくなったのだ、星澄家はナナが帰って来なくて心配しているだろう。
 あの男は害が無さそうに見える。だがナナを見張っていろという仕事を男に与えた者(もしくは組織)は、ナナをどうするつもりなのか。極端な話、その者が男に「ナナを始末しろ」と命令すれば、男はそれを実行するのかどうか。
(小松さんを捜さないといけないのに・・・・)
 エミネントからの助っ人はどうなったのだろう? 咲紅は合流出来たのだろうか?
 シャワーから出た後、駄目元でナナは男に「家に電話してもいいか」と聞いてみた。だが返事は意外にも「いいぞ」だった。
「心配しないでいいというだけだ。言ったらすぐ切れよ」
「は、はい」
「俺にも子供がいる。親が心配する気持ちはよく分かる」
 ナナの携帯電話は取り上げられたのだろう、ポケットにはなかった。ナナは部屋にある電話を借りて電話をしようとしたが、肝心の電話番号が分からない。星澄家も真樹の携帯電話も、その他の友達も、何一つ覚えていなかった。その事を男に告げると、
「ケータイがないと駄目っていう、いわゆるケータイ世代か。お前の携帯はここにはない。諦めるんだな」
「そんな・・・・」
「おいおい、泣きそうな顔をするなよ。俺だって好きで意地悪してるんじゃないんだ」
「・・・・はい」
 トランスソウルがなければ、連絡を取る事も逃げ出す事も出来ない。
「君はあっちのベッドを使ってくれ。俺はこのソファで寝るから」
 男は枕代わりのクッションをソファに置いた。
 この男を上手に騙して逃げ出すことは可能だろうか?
 ナナに逃げられた場合、この男はどうなるのだろう?
 それよりも、ここから逃げてしまえばマジカルロザリオとマジカルクルスの行方が分からなくなってしまう。
 男の背後か頭上かにいる者は、必ず接触して来る。トランスソウルを取り返す為には、そのチャンスを待つ以外にない。
 眠れるかどうか分からないが、今夜は寝ておこう。ナナはバスローブを脱ぎ、ベッドに入った。


「咲紅さん!」
 咲紅との連絡手段が無い真樹は、咲紅が星澄家に戻ってくるのを待っているしかなかった。既に辺りはすっかり暗くなっている。ナナを捜しに行きたい真樹だったが、自分達が闇雲に捜し回るよりも咲紅の力を借りた方が懸命だと判断した。
「ナナちゃんが誘拐されたんです!」
「誘拐!?」
 何となく疲れ切った様子の咲紅が、がっくりと項垂れた。
「どうしてこう、次々と・・・・」
「何かあったんですか? 早くナナちゃんを・・・・」
「こっちも行方不明なんです」
「こっち?」
「エミネントからの助っ人。こちらの世界に来た形跡はあるのに、見当たらないんです。ゲート前には争った形跡があるし・・・・」
「まさか、そっちも誘拐?」
「・・・・どうなってるのかしら」
 咲紅は「疲れている場合ではない」と思い直し、真樹と現状の情報交換をした。
「エミネントを狙った誘拐犯・・・・でしょうか」
「考える前にまず行動した方がいいでしょうね。誘拐だとして、犯人の目的が分からない今は、最悪の場合も考えないと」
「最悪って・・・・まさか」
「エミネントからの助っ人はともかく、ナナちゃんはトランスソウルを取られたら何も出来ないから・・・・」
 そこまで言って、咲紅は言葉を切った。
(あの子がその気になれば、トランスソウル無しでも魔法を使えるんだけどね・・・・)
「とにかく魔力サーチを行います」
 咲紅はセルフ・ディメンションを張り、飛んだ。真樹も咲紅だけに任せてはいられないとは思うが、手掛かりも何もない。陽に聞いたが、車のナンバーは覚えていないということだった。
 そこに陽がやって来た。
「・・・・陽?」
 真樹の前に現れた陽は、非常に暗い表情だった。ナナが心配だからだろうか、と真樹は思ったが、それだけではなさそうだった。
「マキちゃん、僕は・・・・」
 陽が頭を押さえ、よろける。それを見て真樹は陽に駆け寄った。
「陽!?」
「僕は・・・・タクに酷い事をしてしまった・・・・」
「タクに?」
「最低だ・・・・いや、最低なのはあいつ・・・・いや、僕だ・・・・」
「何があったんだ、陽?」
 ただ事ではない、と真樹は焦った。いつもの涼しい顔、陽様スマイルが嘘のように消えている。
「マサキさ〜ん!」
 そこに寧音と泉流が駆けつけた。ナナが今日、二人に会うと言っていたので、ひょっとしたら何か知っているのではないかと電話で訊いたのだが、ナナには会っていないと言う返事だった。
「ナナちゃんは!?」
 寧音が息を切らしながら真樹に訊いてきた。
「いや、それがまだ・・・・」
「誘拐なんですか!?」
「いや、まだ何とも・・・・」
「どうしてそんなに落ち着いてるんですか!?」
「落ち着いてはいないけど・・・・」
 真樹は寧音に腕を持たれ、前後に揺さ振られた。
「警察には!?」
「それが、まだ・・・・誘拐犯は小松貴美愛かもしれないし、エミネントかもしれないし・・・・公になったら外交問題だから・・・・」
「もうっ、マサキさんはナナちゃんとガイコーと、どっちが大切なんですか!」
「そ、そりゃあ・・・・」
「あ、あのっ」
 泉流が口を挟んだ。手にはアクセサリーらしきものがある。
「これ、マジカルアイテムなんです。お役に立てるでしょうか」
「えっ!?」
 真樹は泉流が持っているティアラに顔を近付けた。
「これがマジカルアイテム? どうしたの、これ?」
 真樹は泉流と寧音から事情を聞いた。貴美愛から「仲間になれ」とマジカルティアラを渡されたこと、泉流が貴美愛を魔法で助けたこと、マジカルティアラでナナの行方を捜そうとしたが、上手くいかなかったこと。
「貸してみて」
 真樹はティアラを頭に付けてみた。以前、ナナのマジカルクルスを使って魔力に取り付かれた犬と戦ったことがある。
(あの時は「犬をやっつけたい」という思いを込めたけど・・・・この場合、どうすればいいんだ?)
 真樹は取り敢えず「ナナを捜したい」と念じてみた。だが「バチッ」と火花がが飛び、真樹の頭に電気が走った。
「うわっ!」
「あ、やっぱり」
 それを見た寧音が「あたしもそうなったんです」と言った。どうやら泉流以外の人間が使うと電気が走るらしい。
「でも、私も上手く使えないんです」
 泉流はティアラを頭に乗せた。
「怪我の治療は出来たんですけど・・・・」
 そう言って泉流は目を伏せた。
「魔法って難しいんだよ。だってほら、小松貴美愛が三週間で魔法を使えるようになったのは凄いってナナちゃんも言ってたし」
 真樹はフォローしたが、泉流は落ち込んだままだった。


 一見して手術台のような所に、マジカルロザリオとそれに繋がったマジカルクルスが置かれていた。眩しいほどのライトが当てられ、複数の白衣とマスクを着用した人間がそのテーブルを取り囲んでいる。
「それで?」
 眼鏡を掛けた男がマスク越しのくぐもった声で言った。
「我々が手に持ち、何かを念じようとすると電流のようなものが流れます。おそらくこれが『魔法承認機能』かと」
「電流が流れるだけか?」
「いえ、魔法を使用することも出来ません」
「使い方が悪いからという可能性は?」
「低いですが否定出来る材料はありませんね」
「しかしそれでは、手に入れても意味が無い」
 眼鏡の男は腰に手を当ててナナのトランスソウルをまじまじと見た。
「こんなもので魔法が使えるのか・・・・」
「最終手段としては、構造を調べようと思います」
「使えなくするのは困る。何としてもこのまま使用可能な状態に出来ないだろうか?」
「やってみますが・・・・性別、年齢、血液型、様々な人間で試しましたが同じ結果でした。やはり特定の個人でなければ承認しないのかもしれません」
 眼鏡の男と喋っている白衣の男は、胸に黄色いバッヂを付けていた。後の者は皆、青いバッヂである。
「承認機能を取り除く、承認させる方法を見付ける、もしくは魔力のみを吸い出し、他の媒体へ移す・・・・手段は色々考えられますが、その方法が分かりません」
「方法はお前に任せよう。だがくれぐれも、貴重なサンプルを無駄にするなよ」
「はい、阿権(あごん)様」
 阿権と呼ばれた男は部屋を出ると、マスクを外した。
「全く、大袈裟だな」
 呟きながらマスクを白衣のポケットに突っ込む。廊下に出ると、おそらく十代後半であろう青年が立っていた。
「お父様、どうでしたか?」
「まだ何も分からん」
 阿権は青年の隣に立つと、ポケットから煙草を取り出した。
「柳原の動きはどうだ?」
「ありませんね。あっちも同じ状態なのでは?」
「かもしれんな」
 阿権は煙草を一本咥えると、ライターで火を点けた。
「何としても柳原の先を越さねばならん」
「お父様」
「ん?」
「分からない事をあれこれ考えるより、所有者に直接聞けばいいのでは?」
 青年が言っている「所有者」とはマジカルアイテムの所有者、ナナの事だ。
「まずは自分で考える事が大切だ、光輝(こうき)。探究心は己を育てる」
「そんなこと言って、柳原に先を越されては元も子もありませんよ。あちらは既に使用法を聞きだしているかもしれない。何しろ、エミネントからの客人をご招待する作戦、先を越されましたからね。だから危険を承知であの子を誘拐せざるを得なかった。オブザーバーと離れて単独行動を取ってくれていたのは助かりましたね」
「喋りすぎだ、光輝」
「何なら、僕が彼女からマジカルアイテムの使用法を聞き出しますよ」
「その時は私から言う。勝手に動くな」
「手遅れになっても知りませんよ、お父様」
 光輝はポケットに両手を入れ、スタスタと廊下を歩いて行った。阿権は煙を吐き、窓の外の月を見上げた。
(確かにそうかもしれんな。先に魔法を使えるようになれば、向こうのマジカルアイテムも入手出来るかもしれん)
 阿権は煙草を二口だけ吸って、近くにあった灰皿でもみ消した。
(魔法、か・・・・胡散臭い話だ)


「君達はもう帰った方がいいよ、送って行くから」
 真樹が時計を見ると、二十三時を回っていた。
 ナナを捜して彷徨っていた真樹、陽、寧音、泉流だったが、何も手掛かりがなくてはどうしようもない。
 そう言えばナナが帰る前にもこうしてナナを捜して回ったな、と真樹は思った。
「でも、ナナちゃんが・・・・」
 反論しようとした寧音に、真樹は「当てもないんだし」と言い聞かせ、それぞれの女の子を家まで送って行くことにした。
「陽も帰った方がいい」
 真樹が言うと、陽は首を振った。
「僕の目の前で連れ去られたんだ。僕が車のナンバーを覚えていれば何とかなったかもしれない。僕には責任がある」
「陽に責任はないよ。咲紅さんに任せておけば大丈夫だから」
「マキちゃんが帰らないなら、僕も捜す」
 陽は譲らなかった。ここまで頑固な陽は珍しい。
「分かったよ、じゃあ取り敢えずこの子達を送って行こう」
 家の方向により、真樹は寧音を、陽は泉流を送って行く事にした。だが陽は真樹に向かって、弱気な声を出した。
「ふ、二人きりで、送っていくのかい?」
「効率いいだろ? 俺達は後で合流すればいい」
「だ、だけど・・・・」
「・・・・?」
 真樹はすすっと陽の隣に行き、小声で言った。
「陽、ひょっとして寧音ちゃんの方がいいのか?」
「い、いや、違う、そうじゃないんだ」
「別にいいよ。僕が泉流ちゃんを送ればいいんだろ?」
「違うと言っているだろ!」
 突然大きな声を出した陽に、一同は驚いた。
「・・・・ご、ごめん」
 大きな声を出してしまい自分でも驚いたのか、陽は頭を下げた。
「いや、いいんだけどさ・・・・」
 真樹が面食らっていると、寧音が「あたし、陽さんと帰ります」と挙手した。


 真樹は話術が巧みではない。率先して喋ってくれる寧音の方が、どちらかと言えば有難かった。あまり喋らない泉流とでは、間が持たないのだ。
「・・・・」
 何か話さないと、と思った真樹は、先程からの繰り返しになるがナナやマジカルアイテムについて話そうと思った。
「真樹さん」
 だが、泉流の方から話し掛けてきた。
「な、なに?」
「その・・・・私、実は・・・・あの・・・・」
 なかなか本題に入らない泉流を、真樹は根気強く待った。
「小松さんの気持ち、分かるんです」
 少し声が震えていた。
「小松さんが悪いことをしてるって思えなくて、もちろんマジカルアイテムを無断で持ち出したのは悪いことですけど、ひょっとしたら校長先生を酷い目に逢わせたのかもしれないけど、それは悪いって思うけど・・・・」
「分かるよ」
「えっ」
 泉流が立ち止まる。真樹も歩みを止めた。
「僕だって小松さんのしていることが、全部悪い事だとは思えない」
「・・・・はい」
「小松さんの仲間になる気はあるの?」
「・・・・いえ、でも・・・・」
 しばらく無言の時間が過ぎた。実際は一分程度だったかもしれないが、真樹にはもっと長く感じられた。
 泉流がポシェットからマジカルティアラを取り出した。外灯の明かりを反射したそれは、神秘的に見えた。
「私はこれで小松さんを治療した時、いいことをしたと思いました。でもそのお陰で、小松さんに復讐される人が増えていきます。きっとその人達は悪い人だと思います、だから犠牲者が増えても構わないって思いました。でも、傷付くのは悪い事をした人だけじゃない、その周りの人、家族・・・・その人達が悲しむのを、私が手助けしたんだと思うと・・・・ごめんなさい、上手く伝えられない・・・・」
 泉流は顔を両手で覆った。
 真樹は、貴美愛が泉流を選んだ理由が分かった気がした。
「・・・・いいんだよ」
 この場合、肩に手を置いたり抱き締めたりするべきだろうか。真樹はそう思ったが、手を伸ばす勇気がなかった。
「君は小松さんを助けたいと思ったから助けられた。もしそんな色々な事を考えていたら、治癒魔法は働かなかったと思う。心に迷いがあれば魔法は使えないって聞いた。君が心から願ったことだから、それでいいんだ」
「でも・・・・」
「それに君に助けられた小松さんが悪いことをしても、それは全て小松さんが悪い。全て小松さんの意思であって、君のせいじゃない」
「・・・・」
 泉流は胸に抱いたティアラを見詰めた。
「寧音ちゃんは私に、大きな悪に勝てるのは大きな正義だって言いました。小さな正義では小さな悪にしか勝てないのなら、大きな正義になればいいって。私はこのティアラで、何か出来るのでしょうか」
「命を救う魔法は何よりも強いって思うけど」
「・・・・」
 再び歩き出す二人。槻島家が見えて来た時、泉流が真樹に訊いた。
「小松さんはこれを私にくれました。もし私がこれを使って小松さんを捕まえたりしたら、裏切ったことになるんでしょうか?」
「あるいは・・・・」
「・・・・?」
「小松さんもそれを望んでいるのかもしれないよ」
「望んでいる?」
「君になら捕まってもいいって思っているのかも。恨みを晴らす為に必死でやってきて、引くに引けない事態になって・・・・誰かに止めて欲しいと思っているかもしれないよ」
 槻島家の玄関先で、泉流は「送って頂いてありがとうございました」と真樹に向かって丁寧に頭を下げた。
「あ、いや」
 何となく照れ臭くなる真樹。
「じゃあ、おやすみ」
「あの、明日の朝、絶対に連絡下さい。今夜中にナナちゃんが見付かっても、見付からなくても。見付かってなかったら、また明日も捜しますから」
「分かった」
 真樹が泉流に向かって手を振ろうとした時、槻島家の玄関ドアが開いて威圧感のある大男が飛び出して来た。
「泉流、今までどこに行ってたんだ!」
 叫びながら真樹と泉流のいる方に突っ込んで来る。
「お前か、泉流を連れ回したのはっ!」
「違うの、お父さん!」
(お父さんっ!?)
 真樹は目の前の大男が泉流の父親だとは全く想像出来なかった。ヒグマからウサギが生まれたようなものだ。
(いや、きっとお母さんに似たんだな)
 その瞬間、真樹の右頬に大男の巨大パンチが命中した。そのまま真樹はアスファルトの上に倒れ込んだ。
(何で!?)
「やめてお父さん、この人は・・・・!」
「何だ、この男は!? いい歳して、泉流はまだ中学生だぞ! このロリコンがっ! 俺の泉流に何をした〜っ!」
「もう、お父さんの馬鹿〜!」
 泉流は父親の体にしがみ付き必死で止めようとしていたが、ダンプの前の三輪車のような存在だった。
(殺される!)
 真樹が目を閉じた時、泉流が叫んだ。
「もう、お父さんなんか嫌い!」
 死を覚悟した真樹だったが、その泉流の一言でダンプカーの暴走は止まった。真樹が恐る恐る目を開けると、何と大男は泣いていた。
 鬼の目にも涙、という言葉が真樹の頭に浮かんだ。
「い、泉流、今、何と・・・・」
「私の話も聞いてくれないで暴力を振るうお父さんなんか嫌いって言ったの」
「い、泉流、でも、こいつは・・・・」
「真樹さんはもう遅いからって私を送ってくれただけ!」
「と、父さんはてっきり、この男がお前を変な遊びに誘って、それで・・・・」
「ごめんなさい、真樹さん。大丈夫ですか?」
 泉流が真樹に駆け寄り、殴られた頬を覗き込んだ。
「大変、口から血が出てる!」
「た、大したことないから・・・・」
 泉流の手前そう言ったものの、真樹の口の中は血だらけだった。
「謝って、お父さん!」
 泉流に睨まれた父親は、泣きながら平伏した。
「ごめん、ごめんよ、泉流〜」
「謝るのはこっち、真樹さんに!」
「ご、ごめんなさい、まさきさん!」
 大男に土下座され、逃げ出したくなる真樹だった。
 そして思った。
 小さな力でも、大きな力に勝てるのだということを。


 シュンとなった父親が家の中に戻り、改めて泉流は真樹に頭を下げた。
「すみません、父は私が事故に遭ってから、外出した時は必要以上に心配するようになってしまって・・・・」
「いいや、いいお父さんだよ。こんな時間だから、心配するのは当然だと思う・・・・けどまぁ、いきなり殴るのはちょっとね」
「ええ・・・・」
「気にしなくていいから」
「ちょっと待って下さい」
 泉流はマジカルティアラを取り出し、頭に乗せた。そして殴られて赤くなっている真樹の頬に掌を近付けた。
「じっとしてて下さい」
「あ、うん」
 真樹は泉流の手から暖かい光が出るのを感じた。
 そして、痛みが引いていく。
「治癒魔法・・・・」
「私にはこれしか出来ないみたいです」
 治療を終えた泉流は、真樹から離れてティアラを取った。
 泉流はいずれ、ナナの仲間として大きな力になるのではないか。真樹はそう感じた。



22th Revenge に続く




話数選択へ戻る