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タイトル


 7th Revenge 「仔犬」


 貴美愛は卯佐美西総合病院の前まで来て、立ち止まった。
 自分と、兇や烈の顔を見た校長の存在はやっかいだ。やっかいだが、どうすればいいのだろうか?
 消す? つまり、殺す?
 貴美愛は、復讐の相手は決して殺さないと決めていた。あっさり殺しては楽だからだ。自分の行いを悔いるまで苦しませる。そうでなければ、自分が今まで苦しんできたこの気持ちを味あわせることが出来ない。
 死ぬという現象は、周りの者にとっては後々まで引き摺るものだが、その者自身の記憶や感覚はそこで終わる。後悔も反省も出来ない。
(罪を犯した者は、その罪を心に刻み付けなければならない。人を傷つけた者は、自分も傷つかなければならない)
 貴美愛はそう考える。
 だからこそ、今までのエミネントの法律も良いとは思えなかった。罪を犯せば即刻排除、では楽なだけだ。やりたいようにやった結果、犯罪者となった者は、極刑を受けることで一生を終える。やりたいだけやって、苦しまずに人生を終えるとは何と楽な生き方だろうか。
(極刑なんていらない。全て無期懲役にすればいいんだ)
 貴美愛のその考えに賛同したエミネントの禍津夜光が、今のエミネントの法律を変える為に反乱を起こした。夜光が管理局本部を乗っ取ることに成功した為、現在のエミネントは徹底した管理社会に歪が生じていた。
 この世界で貴美愛の言う「犯罪者は無期懲役」を行うことは不可能だろう。毎日、膨大に増えていく犯罪者を捕らえておく場所がないからだ。だがエミネントならそれは可能だ。どこか別の異次元に放り込めば良い。夜光はその技術をこの世界にもプレゼントしてくれると約束していた。
「二人で世界を変えよう、貴美愛」
「はい、夜光様・・・・」
 あの時に交わした口付けを思うと、貴美愛は耳まで真っ赤になる。
 初めて自分を認め、理解し、愛してくれた人。それが禍津夜光だ。
「私は王、そして君は姫だ、貴美愛」
「お姫様・・・・」
(ねぇねぇ、姫)
 思い出に浸っていた貴美愛を、亜未が現実に引き戻した。
(昨日の校長先生、どうするつもり?)
「・・・・まずは様子を見るわ」
 貴美愛は面会可能時間の八時になるまで待ち、病院に入った。
「あの、こちらに卯佐美第三中学の校長先生が入院されているとお聞きしまして」
「あら、生徒さん? でもねぇ、先生は面会謝絶なのよ」
「面会謝絶?」
 自分が思ったより、校長の怪我が重かったようだ。
(面会謝絶なら、誰にも私達のことが漏れることはない・・・・かしら)
 しかし面会謝絶ということは、回復する可能性がある。
(今なら消すことも容易い・・・・)
 自分の復讐が終わるまで、捕まるわけにはいかない。校長の意識が戻り、貴美愛らの名前を出せば暴行の犯人として指名手配されるだろう。
(どうする・・・・?)


「まあっ」
 朝食の場で、テレビを見ていた芳江が声を上げた。何事かと思って真樹らがテレビを見ると、うさみみ中学の校長が何者かに暴行を受け、重体であるというニュースだった。
「校長先生が?」
 ナナも驚いてその報道に耳を傾けた。キャスターの話では、犯人は通り掛かりか日頃から恨みを持つ者の犯行か、色々な方面から警察が捜査を進めているとのことだった。真樹達は知らないことだが、鵜川の言っていたこととほぼ同じだ。
(人の良さそうな校長先生だったのに)
 昨日もナナを見送りに来てくれた。襲われたという時間帯から考えると、ナナを見送ったすぐ後ということになる。
「一体、誰が・・・・」
 ナナが「お見舞いに行きたい」と言ったので、真樹も付いて行くことにした。咲紅も校長とは面識があり、同行すると言った。何しろ校長は、この世界とエミネント、更にイニシエートやトゥラビアまでを繋ぐ架け橋として影で働いている人物だ。その出雲慈雲に何かあっては、今後の国交にも影響が出る可能性がある。
(まさか小松さん達の仕業・・・・と言うのは考え過ぎかしら? いえ、可能性はある・・・・どれだけいい人でも誰かに恨まれる可能性はあるし、この世界とエミネントを混乱させようとする意図があるなら、あの人を襲う理由は充分に考えられるわ)
 咲紅は昨夜、エミネントへの通信を試みたが通じなかった。電波妨害か、向こうの通信機がいかれているようだ。連絡が取れなくては助っ人も呼べない。通信が回復するまではナナと二人で頑張るしかなかった。


 出雲慈雲、という札が掛けられた部屋のドアには「面会謝絶」のプレートが掛かっていた。
「・・・・」
 貴美愛は左右の廊下を見渡した。医者、患者。面会に来た人の目が途切れることはなさそうだ。
(何とか中に入れないかしら)
 いざとなれば烈や亜未の魔法に頼ればいい。そう思っていると、貴美愛は「あの」と声を掛けられた。
「何か御用ですか?」
 校長の孫娘、出雲巳弥だ。
「え、い、いえ」
「あ、ひょっとしてうさみみ中学の生徒さん?」
「え、ええ、まぁ」
「ニュースか新聞を見て、来てくれたのね。ごめんなさい、祖父は面会謝絶なんです」
「そう、みたいですね」
 貴美愛は巳弥を注意深く観察した。祖父と呼んでいたので、校長の孫だろうということは分かる。夏に似つかわしくない黒いワンピースを着て、手には少し古そうな麦藁帽子を持っていた。
「あ、小松さん?」
「!」
 次に声を掛けた人物は、更に貴美愛を驚かせる相手だった。
(龍ヶ崎先生・・・・)
「昨日、研修から帰ってきたのよね。帰る早々、校長先生がこんなことになって・・・・お見舞いに来たんでしょ?」
 龍ヶ崎眞子、貴美愛のクラスの担任だ。貴美愛はクラスの中では背が低い方だが、眞子も同じくらいの背丈だった。
「私も知らせを聞いて慌ててお見舞いに来たんだけど・・・・早く良くなるといいわね」
「そ、そうですね」
 長居は無用、と思った貴美愛は、さっさと退散することに決めた。貴美愛としては、色々と聞かれるのは避けたい。
「時間、あるかしら? エミネントでの研修の内容とか聞きたいわ」
「すみません、急いでいますので」
「あら、そう? 残念。でも明日は三者面談で会うから、その時にでも、ね」
「え、ええ・・・・」
 明日は夏休み前、生徒と保護者が学校に行って担任と話をする懇談会の日だが、もちろん貴美愛は行くつもりはない。
「失礼します」
 貴美愛はそそくさと退散し、眞子も巳弥に向かって頭を下げ、廊下を歩いて行った。
 だが巳弥は険しい表情で、足早に立ち去った貴美愛の姿を追っていた。
(魔力・・・・?)
 かすかにだが、魔力のようなものを感じた。少しいぶかしんだ巳弥だったが、あぁそうかとその理由に思い当たる。
(先生が言ってた、あの子は昨日までエミネントで研修を受けていたって。魔法の国であるエミネントに長い間滞在していたから、魔力を感じたのかもしれない)
 廊下の先を見ると、眞子がエレベーターの前で誰かと話しているのが見えた。真樹、ナナ、咲紅が到着し、眞子とバッタリ出逢ったのだ。
「あれぇ、ナナちゃん? 帰ったんじゃないの?」
「色々ありまして・・・・」
「ひょっとして、校長先生の事件を聞いて戻って来たの?」
 エミネントのどこでそのニュースを知るんだろうと思ったナナだったが、説明が面倒なので「そうです」と答えておいた。嘘をついたことになるが、許して貰える範囲だと思う。
 ナナと眞子、真樹が話をしている中、咲紅が巳弥に向かって歩いて来た。
「久し振りね、巳弥ちゃん」
「咲紅さんもお元気そうで・・・・何かあったんですか?」
 エミネントである咲紅とここで出逢うということは、この世界に来る理由があるということだ。それもかなりの理由がなければ、メビウスロードを使用することは出来ないはずである。
「ええ・・・・ちょっとね」
 咲紅は言葉を濁した。今回の事件はエミネント、引いては自分の失態だから、口に出すことに躊躇いを覚えたからだ。
「それより巳弥ちゃん、大丈夫なの? その、おじいさんを入院させたりしても」
 咲紅はいきなり声をひそめた。
「・・・・あ、ええ」
 巳弥は何を心配されたのか、一瞬考えて思い当たった。巳弥の祖父は普通の人間ではないので、医者に診せてもいいのか、ということだろう。
「祖父の体は元々普通の人で、そこに祖父の魂が入っているだけですから。体の作りは普通です。私は・・・・違いますけど。それより・・・・」
 巳弥の目が咲紅の目をじっと見た。
「誤魔化さず何があったか話して下さい。隠し事をする間柄ではないはずです。増してこの世界とエミネントに係わることなら、尚更」
「・・・・そうね」
 咲紅は観念したように肩を落とした。ヤマタノオロチの血を引いているからかどうかは分からないが、巳弥の眼力には逆らえない何かがある。
「この世界の研修生がトランスソウルを持ち出し、戻って来たの。それを追っているのよ」
「研修生・・・・まさか、さっきの?」
「小松さんに会ったの!? 巳弥ちゃん!」
「つい先ほどです、お見舞いに来たって・・・・」
「どっちに行ったか分かる!?」
「そっちの階段を降りて行きました」
 咲紅は巳弥が指した方の階段を見て、ナナの名を呼んだ。
「ナナちゃん、小松さんが来ていたの! 追うわよ!」
「え? は、はい!」
 病院の廊下で大声を出したり走ったりするのはいけないことだが、この際そんなことは言っていられない。ナナは咲紅の後を追って駆け出した。それを見て、真樹も追おうとする。
「星澄君、何があったの?」
 事態が飲み込めない眞子が訊く。
「後で話すから!」
 取り残された眞子はどうしていいか分からず、しばしその場に立ち尽くしていた。巳弥は事態を把握しようと考えを巡らせた。
(トランスソウル不法所持、そしてこの世界への持込み・・・・それとおじいちゃんの怪我と何か関係が・・・・? 相手がトランスソウルを持っているとすれば、おじいちゃんに大怪我を負わせる事も可能・・・・まさか、さっきの子が? 小松さん・・・・だったかしら)
 巳弥の、麦藁帽子を掴む手に力が入る。
(だとしたら、私も親善大使として、おじいちゃんの孫としてあの子を捕まえないといけない)
 あの時に感じた微量の魔力では、魔力サーチは難しいだろう。人手は多い方がいい。
(咲紅さんの魔力を追えば、追いつくかも)
 巳弥は帽子を被り、ナナ達の後を追った。


「んだよ〜置いてけぼりかよ」
 兇が目覚めると、貴美愛もリュックも消えていた。
「起こしてくれてもいいじゃねぇか、冷たいよなぁ」
 長い間、ベンチの下に落ちたまま寝ていたらしく、腰が痛い。貴美愛らがどこに行ったか分からないので帰って来るのを待つ以外にないのだが、じっと待っているのは兇の性に合わなかった。
「ブラブラしてたらどこかで会うだろ・・・・」
 それに、この世界を徘徊してみたいという強い欲求があった。貴美愛からは待っていろとは言われていない。だとすれば、うろついてもいいはずだ。
 小高い丘を降りると道路があり、車が絶えず通っている。兇はおもわず排気ガスの臭いにむせた。
「空気の悪い世界だぜ・・・・」
 ずっと寝ていたので、体が鈍っている気がする。兇はシャドーボクシングのような恰好で両腕のパンチを繰り出しながら、フットワークを使って小さなステップを繰り返しながら歩いていた。ちなみにボクシングの経験はない。
 兇は排気ガスを避け、狭い路地に入っていった。民家が立ち並び、中からはテレビの音が聞こえて来る。
「洋風かぶれしてきたと聞いていたが・・・・この辺りは結構な日本風の町並みだな」
 エミネントは「もう一つの日本」だが、兇ら住人はエミネントこそ「本当の日本」だと思っている。こちらの文化はあまりにも異国の物を取り入れ過ぎていると感じていた。
「退屈だ・・・・喧嘩相手とかいねぇのかな」
 兇が物騒な言葉を口に出して歩いていると、買い物帰りの奥さんが兇を避けるようにすれ違った。
「馬鹿、お前らなんかと喧嘩してもつまんねぇよ」
 実際問題、この世界の人間相手では喧嘩にならない。この世界で強いとされている格闘家でさえ、自分の相手ではないだろうと兇は思っている。
(人じゃなくてもいい、ひょっこり獰猛な猛獣とかが出て来ねぇかな)
 そんなものが町の中に出現しては、住人はたまったものではない。
(おっ)
 兇は目の端に茶色の物体を捕らえた。
 それは小さくて丸っこい小型犬だった。
「何だ、犬かよ」
 兇は興味を削がれ再び歩き出そうとした。彼は、弱い者に興味はない。それどころか、弱い者を見ていると腹が立つのだ。
「?」
 それまでそこにいたはずの子犬の姿が消えた。走り去ったにしては、そんな気配は全く感じなかった。
 キュウウン。弱々しい鳴き声が聞こえてきた。注意して見ると、道の端には細い溝がある。どうやら先程の子犬はその溝にはまったようだ。
「馬鹿な奴だ・・・・」
 溝の幅は狭く、這い上がることが出来ないらしい。
(自分で自分の身を守れない奴は、死ねばいい)
 兇は歩き出した。その背中に、何度も「キュウウン」という切ない声が聞こえて来る。 振り返ると、女の子が溝に落ちた仔犬を抱き上げていた。仔犬が顔を舐めようとしたので、「やだ、駄目だよ」とあまり嫌がっていない口振りで女の子が仔犬に話し掛けていた。
「もう落ちちゃ駄目だよ」
 その女の子は十代半ばで、黒髪のロング、グレーの地味なワンピースに黒のハイソックスという出で立ちだった。
「おい」
 兇は我慢ならず、その少女に声を掛けた。
「?」
 女の子が顔を上げる。仔犬に向けていたものとは全く違う、少し怯えたような目をしていた。
「何で助けた」
「・・・・何で?」
「その犬だよ! お前の犬か?」
「い、いえ、たまたま通り掛っただけです」
 その少女は柄の悪い喋り方をする兇を見て、恐喝でもされるのかと思った。
「見ず知らずの犬を何で助けるんだ、お前は」
「だって、泣いてたから・・・・」
「いいか、よく聞け」
 兇は腰を落とし、いわゆる「ヤンキー座り」をしてその少女の目線の高さに近付こうとした。それでも座高がかなり違うので、相手を見下ろす形となる。
「自分で自分の身を守れないような弱い奴は、助けてもまた同じことを繰り返す。それなら今この時点でくたばった方が、他の奴に手間を掛けさせずに済む。そいつはまた溝にはまったり川に落ちたりするだろう。そんな迷惑な弱い奴は不要な奴なんだ」
「・・・・弱い者は、守ってあげるのが当たり前だと思います」
「何だと?」
「この子がもう一度溝にはまったら、また助けます。何度も助けます。この子だって、成長しているんです。助けている内に成長して、同じ失敗は繰り返さなくなるはずです」
「それまで面倒見るのか、お前が? 責任を持って、そいつの成長を見届けるのか?」
「・・・・それは・・・・」
「そいつの一生を背負えないんだったら、一時の感情で助けたりするな」
「で、でも・・・・」
「泉流(いずる)ちゃ〜ん」
 声が聞こえたので兇がそちらに目を移すと、ショートカットの女の子がブンブンと手を振っていた。腕を振りながらこちらに走ってくる。
「わぁ、可愛いワンちゃんだね。どうしたの?」
「ここで、溝にはまってたから助けたの」
「救助、ご苦労」
 敬礼のつもりか、ビシッと手を額に当てる。
「種類は何かなぁ」
「雑種だと思う」
「丸くて可愛いね! ちょっと抱かせてよ」
「うん」
 仔犬を受け取ったショートの女の子は、両手で抱き上げて高く上げた。
「ね、寧音(ねおん)ちゃん、危ないよ」
「平気だって。飼い犬かなぁ」
「でも首輪がないよ」
「捨てられたのかな。こんな可愛い子を捨てるなんて、悪い人だねぇ。ところで・・・・」
 寧音と呼ばれた少女は、兇をチラっと見た。
「この人は誰?」
「やっと俺に興味を持ったのかよ!?」
「犬が可愛かったから」
「俺の方がでかいだろ!? 目立つだろ!? 俺の事を先に聞けよ!」
 どうやら兇は、寧音が興味を持った順番において犬に負けたことに、腹を立てているようだ。
「泉流ちゃん、この人は? ナンパ?」
 寧音に聞かれた泉流は、黙って首を振った。
「誰がこんなガキを引っ掛けるか、馬鹿」
「あ、今、馬鹿って言った! 失礼な人だよ、この人!」
 寧音は仔犬を地面に下ろし、泉流の手を取った。
「ナンパなんて相手にしないで、行こう!」
「だからナンパじゃねぇって」
「最初は違うって言いながら、結局お茶に誘ったりするのが手なんだよ、きっと」
「勝手に決めるな!」
「じゃあねぇ、ワンちゃん」
 寧音が仔犬に手を振ったので、泉流も控え目に手を振った。仔犬はついて行こうかどうか迷ったようにその場で足踏みをしていた。ロングヘアとショートヘア、長めのスカートとミニスカートという対照的な寧音と泉流の姿が遠ざかって行く。
「俺は無視かよ」
 疲れた、という表情で立ち上がった兇の足元に、仔犬が纏わり付いて来た。
「邪魔だ」
 兇は仔犬を蹴ろうと後ろに引いた足を止め、そのまま立ち去ろうとした。
(こんな奴、蹴るまでもねぇ)
 仔犬に背を向けて歩き出す。十数メートル歩いた地点で、兇は何となく振り返った。
 仔犬の姿がない。弱々しい声だけが聞こえていた。
 また溝にはまったらしい。
「馬鹿か、あいつ」
 自分の言った通りだ。あんな奴は何度助けても無駄だ。所詮、自分の力では生きて行けない負け犬なのだ。
「・・・・」
 泉流と呼ばれていた少女の眼差しを思い出す。
(何が弱い者は守ってやるのが当たり前、だ・・・・お前も弱いくせに)
 兇の足は、向きを百八十度転換して元の場所に戻っていた。
 溝を覗き込み、手を伸ばして仔犬の首を摘み、持ち上げる。
「お前、馬鹿だろ。同じ所に落ちやがって」
 兇は溝の中を覗いてみた。底の辺りが光っている。水が溜まっているのだろう。
「お前、水が飲みたかったのか?」
「キューン・・・・」
「・・・・ちっ」
 兇は近くを流れている小川を見付け、堤防を降りて行った。水際に仔犬を下ろすと「好きなだけ飲め」と言い捨てて背を向けた。
(何やってんだ、俺・・・・)
 つまらないことに時間を費やした、と兇は土手を登りかけた。
 バシャン。
 水の音だ。何かが川の中に落ちたような・・・・。
「あぁ!?」
 仔犬の姿が消えていた。
「馬鹿か、お前は!?」



8th Revenge に続く




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