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タイトル


 1st Revenge 「ファースト・コンタクト」


 我々が住んでいる世界と異世界であるエミネントを繋ぐ空間を「メビウスロード」と呼ぶ。エミネントで開発された、空間を論理的に折り曲げて繋げ、人の通行を可能にしたトンネルのようなものであり、エミネントにある「メビウスロード監視搭」にそのオープンからクローズまでを操作する装置がある。
 道と言っても上下左右、不思議な空間の湾曲が続いているだけだが、道幅は限られていて踏み外すことはない。
 そのメビウスロードを、研修を終えた神無月奈々美(かんなづき ななみ)、通称ナナが歩いていた。
 詳しい事は少し長いが前作を読んで頂くとして、ナナは故郷であるエミネントに帰り、ジャッジメント(裁判所のような機関)で審査を受けることになっていた。三週間の異世界での研修を終え、まずは家(スクールの学生寮)に帰り、ジャッジメントがある管理局に出頭する予定だ。出頭にあたっては、というよりメビウスロードを通りエミネントに帰る時には、ナナの研修担当官である桜川咲紅(さくらがわ さく)が付き添う予定だったが、管理局からの急な呼び出しにより咲紅はエミネントに帰ったままだった。よってナナは一人でこのメビウスロードを歩いていた。
(?)
 前方から歩いて来る人影がある。メビウスロードは空間を行き来する重要かつ危険なシロモノなので、使用前に作り出され、使用後すぐに抹消されるので、誰でも気軽に通れるものではない。よってその人影も通行許可を得て歩いているはずである。
 メビウスロードは目的地を指定して作り出されるので、人とすれ違うことは稀である。同じ道を通っているということは、互いの出発点が相手の到着点であり、その人物はナナが出発した地点を目指している、ということになる。
(誰だろう?)
 その人物は、見慣れた卯佐美第三中学(通称:うさみみ中学)の制服を着ていた。それでナナはその人物の正体に思い当たった。自分と入れ替わる形で、研修生としてエミネントに「留学」していた小松貴美愛(こまつ きみえ)だろう。それなら同じ道を歩いていることにも合点がいく。
(あたしと入れ替わりだから、同じタイミングで帰って来たんだ)
 二人の距離が近付く。貴美愛とナナは初対面だった。
「初めまして、小松さん・・・・ですね?」
「そういうあなたは、神無月奈々美さん」
 貴美愛はニコリともせず、眼鏡の奥からナナを見た。
 小松貴美愛。ナナが聞いた話では、彼女は人付き合いが苦手で、学校ではイジメの対象になっていたらしい。顔が丸いことから「小松」をもじって「こまる」と呼ばれていたらしいが、実際に会ってみれば確かに丸顔だ。
 貴美愛は自分から研修生としてエミネントに行くことを希望したらしいが、その性格からは想像出来なかったと、うさみみ中学で知り合った神楽坂寧音(かぐらざか ねおん)も言っていた。それが消極的で社交的ではない自分を変える為だったのではないか、とナナは思っていた。
「研修はどうでしたか?」
 同じ研修生として、ナナは貴美愛に聞いてみた。
「ええ、期待以上の成果が得られたわ」
「それは良かったですね」
「あなたは?」
「ええ・・・・まぁ、それなりに」
 ナナは辛いことの方が多かったので、言葉を濁した。一番辛かったのは、ペットであり父の形見であるメタモルヤマネの圭ちゃんと別れなければならなかったことだ。
「これからエミネントに?」
「はい」
「そう・・・・」
 そこで貴美愛が笑みを漏らした意味を、ナナは測りかねた。
 貴美愛は手に本を抱えていた。少し大き目だが、聖書のような表紙だ。背中には小さなリュックを背負っていて、所持しているのはそれだけだった。ナナは着替えやノートパソコン等で両手が塞がっている。
「ナナちゃん!」
 そこに、もう一人の叫び声が響き渡った。貴美愛の歩いて来た方向から、誰かが駆けて来る。
「咲紅さん?」
 ナナにはお馴染みの、管理局の制服を着た桜川咲紅だった。ナナは「迎えに来てくれたのか」と思ったが、それにしては表情が険しい。
「その子を捕まえて!」
「えっ?」
 ナナが戸惑っていると、貴美愛はナナから飛び退き、距離を置いた。
「小松さんを、どうしてですか?」
「いいから!」
 その時突然、その場にいた三人の誰の声でもない、男の声が聞こえた。
「おいおい、管理局期待の若手オブザーバー、桜川咲紅の登場だぜ。貴美愛ちゃんにはちょっとヤバいんじゃないの?」
「姫、でしょ」
「へいへい、お姫様っと」
 その声は貴美愛の背後から聞こえているようだが、姿が見えない。状況が把握出来ずにナナが戸惑っていると、息を荒げた咲紅が隣に並んだ。
「小松さん、目的は何?」
 咲紅の問いには答えず、貴美愛は背を向けた。
「待ちなさい!」
 咲紅が貴美愛に向かって掴み掛かると、二人の間に青い半透明の壁が出現した。
(マジカルバリア!?)
 ナナは目を見張った。マジカルバリアは魔法を使える者なら作ることは容易いが、貴美愛はエミネントではないので魔力を持っていない。
「ナナちゃん、今よ、小松さんを捕まえて!」
「は、はいっ」
 ナナは言われるままに首に掛かっているロザリオに手をやった。状況は分からないが、咲紅が言うことなら間違いはない。両手に持った荷物(ノートパソコンやレポート、向こうの世界でお土産に貰った様々な衣装等が入った紙袋)を魔法で縮小化し、ポケットにしまい込んだ。
 続けてロザリオが伸び、鎖となって貴美愛を襲う。マジカルバリアは自分の前方に張られている板なので、側面や下から伸びる鎖は遮ることが出来ない。
 貴美愛が手に持っていた本を開いた。
 貴美愛の手が本の間に挟まっていた栞を抜くと一瞬にして大きくなり、剣のような形状になった。
「!?」
 ナナの手から伸びた鎖が、貴美愛の剣によって弾き飛ばされる。
(トランスソウル・・・・!?)
 トランスソウルとは、言わばエミネントにおけるマジカルアイテムである。誰もが魔法を使えるエミネントにおいて、身体的事情、あるいは魔力が未熟な者でも魔法が使えるようにと存在している補助具がトランスソウルだ。大量の魔力を使う魔法は使えないが、それでも他の世界の者がそれを扱うことは禁止されている。
 そのトランスソウルを、どうして貴美愛が所持しているのか? ナナは咲紅が貴美愛を追って来た理由が分かった。
 トランスソウルの不法所持。誰が貴美愛にあの本を与えたのかは分からないが、このまま貴美愛を元の世界に帰すわけにはいかない。
「はあっ!」
 咲紅の手の平が光ったかと思うと、その手がマジカルバリアを粉砕した。
「!」
 咲紅が貴美愛に向かって飛んだ。
「やはり姫には桜川さんの相手はまだ早いね」
 またも別の声が聞こえた。今度は女性だ。
「やれやれ・・・・出るぜ!」
 貴美愛が背負っているリュックが開いたかと思うと、咲紅の眼前に男が立ちはだかった。
「!」
 咲紅はとっさに足を止め、身構えた。男の左手の拳が繰り出される。
「モコ、ソウル・ユニゾン!」
「きゅ〜!」
 ガス、という鈍い音を立て、男の拳は咲紅の持つ巨大なシールドに遮られた。
「これが噂に高い、鉄壁の防御力を誇る桜川咲紅のソウルアーマー『アブソリュート・ガード』か・・・・」
「あなた、何者!?」
 シールドを挟み、咲紅は男に聞いた。
「さぁね。麗しき姫の下僕・・・・とでもお見知りおき願おうか」
「姫って、小松さんのこと!?」
「鉄壁な盾も・・・・」
 男は左手を引っ込め、手甲のようなものをはめた右手の拳を繰り出した。
「俺の拳の前には無意味なんだよ!」
「!」
 咲紅の体が巨大な盾ごと後方に吹き飛ぶ。腹には内臓がえぐられたような激痛が走っていた。アブソリュート・ガードは咲紅が地面に倒れた時にユニゾンが解け、元のハムスターの姿に戻っていた。
「咲紅さん!?」
 ナナが叫ぶ。
 咲紅は信じられないものを見た。
 鉄壁の防御力を誇るアブソリュート・ガードが、男の拳に突き破られたのだ。
 いや、違う。突き抜けていた。
 盾に穴は開いていないので、破壊されたのではない。男のパンチはアブソリュート・ガードが存在しないかのようにすり抜け、咲紅の体に到達していた。
 何が起きたか分からぬまま、咲紅は血を吐いて地面に転がった。
「おっと、悪い。盾で見えなかったんで距離が分からなかったんだ。思ったより近かったんで、思いっ切り殴っちまったな」
 男はあまり悪いとは思っていない口振りだった。
「・・・・!」
 ナナがマジカルクルスを構える。
「やめとけよ。お前が死んだら、あいつを助けられないぜ」
 男が咲紅を指差す。
「兇(きょう)、戻って」
 貴美愛の言葉に「へいへい」と答え、男の姿は消えた。まるで貴美愛のリュックに吸い込まれるように。
「神無月奈々美さん」
 貴美愛は再び本を脇に抱えた。
「うさみみ中学での生活はどうだった?」
「咲紅さん!」
 ナナは貴美愛の質問を無視し、咲紅に駆け寄った。咲紅の口からは血が流れ、息も絶え絶えだ。
「しっかり、今、治療します!」
 ナナのマジカルクルスが光る。その様子を見て、貴美愛は踵を返した。
「因果応報・・・・」
 ナナが来た道を、貴美愛は歩いて行く。
「さぁ、復讐の始まりよ」
 外部の損傷よりも、内部の損傷の方が治療は難しい。どうやら咲紅は内臓破裂を起こしているようだった。ナナのマジカルクルスを持つ手に、汗が滲む。
「・・・・うっ」
「咲紅さん?」
「ナ、ナナちゃん、私はいいから、早くあの子を・・・・」
「いえ、このままだと咲紅さんの命が・・・・それに、あたしだけでは多分、捕らえるのは無理です」
「・・・・」
 咲紅は否定しなかった。
 あの兇と言う名の男の拳は、鉄壁の防御力を誇る咲紅のソウルアーマー「アブソリュート・ガード」を突き抜けた。まるで障害がないかのように、咲紅の腹に突き刺さった。
(そう、この特殊素材で出来た管理局の制服すら、存在していないかのように・・・・)
 何とか治療を終えた時、ナナのマジカルクルスはその魔力をほとんど使い果たしていた。難しい治療は、大量の魔力を消費する。
「小松貴美愛を追います。ナナちゃん、一緒に来て」
「え、でも・・・・」
「今まであっちの世界にいたわけだから、少しは勝手が分かるでしょ?」
「でもあたし、ジャッジメントに出頭しないと・・・・一応、今のあたしは犯罪者ですよね? むやみに歩き回っては・・・・」
「私が付いているからむやみじゃない。それにジャッジメントには行かなくていいわ。いいえ、行けないわ」
「行けない? どうして・・・・」
「存在しない場所には行けないからよ。話している時間はないわ、付いてきて」
 咲紅が立ち上がり、走り出す。ナナも慌てて後を追った。咲紅はまだ少し痛みが残っているようで、苦しそうな声を出していた。
「今のジャッジメントは瓦礫の山よ」
「えっ、ど、どうしてですか?」
「ちなみに管理局本部も三十階から上が無いわ」
 管理局本部とは、エミネントの中心となる施設である。通常は四十階建てで、その隣にジャッジメントのビルがある。
「まさか、大地震でも? それで咲紅さん、慌てて帰ったんですか?」
「ナナちゃんも知っているでしょう、禍津夜光(まがつ やこう)と言う男を」
「もちろん、エグゼキューターのリーダーですから」
 エグゼキューターとは、エミネントにおいて、犯罪者を処罰する機関、あるいはそれに所属する者を指す。かつては「処罰=極刑」であったが、ここ近年はエミネントのステータスでもある魔力をその者の体から取り除くことによって、魔法による犯罪者を処罰する法が制定された。「リムーバー」と呼ばれる者が、魔力を取り除く専門職である。数年前まではエグゼキューターと言えば処刑人として怖れられていたが、段々とその印象は変わって来つつあった。
「その禍津夜光が反乱を起こしたのよ」
「反乱?」
「侵入が困難な管理局だけど、内部からの攻撃は想定外だったみたいね。ほとんど何の抵抗もないまま、禍津は管理局の中心である本部ビルを破壊した。三十階・・・・自分の持つフロアが最上階になるように、まるで自分が修法(ずほう)様に代わってエミネントを支配する、とでも言うかのように、そこから上を切り飛ばしたわ。自身のソウルウエポンでね」
「・・・・」
 ナナには信じられなかった。管理局の内部から反乱する者が出ようとは。管理局とはエミネントの象徴、政治の中心だと言うのに。
「で、修法様は? その他の方は?」
「修法様や冴(さえ)さんは無事。でもジャッジメントの人は皆、殺されたわ」
「!」
「禍津は、今のエミネントを変えると言っているらしいわ」
 禍津は咲紅からすればかなり上の位なのだが、既に呼び捨てになっていた。エミネントにおいて、犯罪者には尊厳など存在しないと言っていい。
「ジャッジメントが壊滅した現在、エミネントは無法地帯よ。管理局は禍津が自分の仲間と一緒に仕切っていて、敷地内にも入れない状態。全く、鉄壁なセキュリティがあだになっていると言うわけ。修法様は足が不自由だから、冴さんやユーキ君が侵入を試みてはいるけど・・・・」
 そんな騒ぎがあったので咲紅は慌てて帰ったのだろう。ナナは咲紅の突然の帰還の理由をずっと疑問に思っていたので、それは解消した。だが分からないことがそれ以上に増えてしまった。
「それと小松さんとは、何か繋がりが?」
「大有りよ。小松貴美愛の持っていたソランスソウルは、禍津が彼女に与えたものだから」
「どうしてそんなことを?」
「そこまでは知らないわ」
 咲紅は吐き捨てるような口調だった。彼女によると、貴美愛のエミネントでの研修態度は良好だった。教師からも先輩からも、悪い噂は皆無で、真面目な生徒だったと言う。特に魔法に興味を持った様子で、その研究を自ら進んで行っていたらしい。
「彼女の目的が分からないわ・・・・一体、何をしたいのかしら」
「あの、一緒にいた男の人は?」
「小松さんだけならそれほど手間取らないと思うの。だから私一人で追って来たんだけど・・・・あれは誤算だったわ」
「もう一人、女性の声も聞こえました」
「まずいわね。あっちの世界に何の用があるのか分からないけど、もし何か騒ぎでも起こされたら・・・・」
 ただの観光ならいいのだがと咲紅は思ったが、それが空しい願いであることは、兇という男の態度から見てもほぼ間違いない。
 メビウスロードの出口が見えた。ナナがつい先ほど通った所だ。まさか一度もエミネントの地を踏まずに戻って来ることになろうとは。
 三週間前はこのゲートを通り研修に来たナナだったが、今度は仕事だ。
「小松貴美愛を連れ戻します。トランスソウルを不正なことに使われでもしたら、大変なことになるわ」
「・・・・はい」
 確かに貴美愛だけなら咲紅だけでも何とか連れ戻せるだろう。だが少なくともあと二人、貴美愛のリュックに潜んでいる。咲紅ですら重傷を負わされた相手に自分は何が出来るのだろうか、とナナは不安になった。


 ギシ、と階段が軋む音がして、樋川恭子(通称:キョーコ)は母親が帰って来たのかと思った。
 キョーコの母はここ数日、家に帰っていない。男でも出来たのだろうとキョーコは思っていた。帰って来ない方が、いっそ気が楽だった。家にいたところで話をするわけでもなく、顔を合わせれば気まずいだけだ。
(何だよ・・・・もう帰って来なくていいのに)
 キョーコはエミネントに帰るナナを遠くから見送り、本人に会わずそのまま帰って来た。学校は昨日からテスト休みで、明後日から三者面談が始まる。だが母親がいなければ成立しないだろうと、キョーコの中では既に夏休みモードだった。
 階段を歩く音が徐々に近付いてくる。キョーコは母親に何と声を掛けていいのか分からなかったので、何も言わずにおこうと思った。
 障子が開く。
「・・・・お前」
 だがそこに立っていたのは母親ではなく、小松貴美愛だった。
「・・・・帰ってたのか」
 そう言ってキョーコは、ナナが帰ったのだから交換で研修に行った貴美愛が帰って来るのも今日だと思い出した。
 キョーコは何人かとつるんで、貴美愛をイジメていた。貴美愛がエミネントに行ってからは同じクラスの槻島泉流(つきしま いずる)をイジメていた為、ナナと敵対することになったのだが、そんなナナはもういない。
「どうやって入って来た? 玄関の鍵は閉めたはずだ」
「あんなの、魔法に掛かればどうってことないわ」
「魔法・・・・?」
 何か違う、キョーコは貴美愛を見て思った。
 雰囲気、目付き、喋り方。研修に行く前の貴美愛はオドオドしていて、視線は常に下を向いており、ボソボソとした喋り方だった。そういう態度に無性に腹が立ち、貴美愛を苛めていたのだろう。
 だが目の前の貴美愛は態度が堂々としていて、しっかりキョーコを見ていて、言葉もはっきりしている。
「お前、本当に『小丸』か?」
「・・・・」
 貴美愛は本の栞をつまみ出し、剣と化したそれをキョーコに突き付けた。
「うっ!?」
「その名前で呼ばないで」
 貴美愛の目は冷ややかだった。キョーコは額の前にある鋭い刃に恐怖を感じた。
「ま、待て、早まるな」
「私は冷静よ」
「な、何をしに来たんだ?」
 以前の貴美愛を見ると、キョーコはイライラした。ちゃんと喋れ、シャキっとしろ、何度言っても貴美愛の態度は変わらなかった。意地悪をすると困った顔をした。それが面白く、また腹が立っていつもイジメていた。キョーコは「鍛えてやってるんだ」と思っていた。
 だが、実際に苛められる方の貴美愛は違う。
「復讐に来たのよ」
「ふ、復讐?」
 やはりこの剣で刺すつもりなのか、とキョーコはいつでも逃げられるように腰を浮かせた。
「安心して。刺したりしないわ」
 眼鏡の奥で貴美愛の目がキョーコを見下ろした。
「簡単に殺したら、楽だもの」
「なっ・・・・」
「あなたに分かる? 寝るのが怖いという気持ち。目覚めたら、また辛い一日が始まるの。それならいっそ、このまま目覚めない方がいいって思うの。夜が怖いのよ」
「な・・・・何だよ、そんなに酷いことはしてないぞ。軽い悪戯じゃないか・・・・」
「あなたにとってはね。でも私は夜が怖かった」
 貴美愛は剣を再び栞に戻し、本を開いてそこに挟んだ。
「喜びなさい。あなたが私の復讐劇のテープカットよ」
 本が青い光を放つ。キョーコは慌てて顔を手で覆った。
 頭が割れるように痛い。
 キョーコは頭を割られ、中身を引き出されるような感覚に陥った。
(そう、それがあなたの一番辛い出来事なのね。ふふふ、同情するわ)
 気が付くと、貴美愛の姿は消えていた。
「・・・・?」
 夢か、と思った。悪い夢を見ていて、今起きたのだろうかと。
 そうでなければ、小松貴美愛が剣を持ったり本が光ったりするはずがない。
(そうだよな、夢だったんだ・・・・)
 学校は休みだ。キョーコはもう少し横になろうと思い、畳の上に寝転がった。
(あたいにも、小丸に対して「悪い」という気持ちがあるのかな・・・・だからあんな夢を見たんだろうか)
 実際に貴美愛に会った時、どんな態度を取ればいいのだろう。キョーコはそんなことを考えながら目を閉じた。



2nd Revenge に続く



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