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タイトル


 45th Milky 「ナナ、変身に失敗します」


「街をちょっと歩いても、色々な違反が目につきますね」
「蔓延してしまって、俺達の目には悪いことだと映らないことが多いかもね」
 真樹はネクタイを外し、鞄に入れていた。少し歩いただけで汗が出て来る。
「例えば歩行者は、信号が赤でも車が来てなかったら渡る。車が通っていないのに待っているのは時間の無駄だし、歩行者が信号を無視しても罰はないからね。赤信号は『渡るな』じゃなく、『危険ですよ』というサインでしかない」
「エミネントは車が走っていないので、その辺りの感覚はよく分かりませんね」
「バイクとか、自転車も?」
「自転車はありますよ、公害の原因にはなりませんから。交通の主流ですね」
 その話を聞き、天安門広場を思い出す真樹だった。
「そうだなぁ、自転車だとなかなか事故は・・・・」
 起きないだろうと言おうとした真樹の目の前に、自転車を片手運転しながら携帯メールを打ちつつ通り過ぎる高校生の姿があった。
「あの人、ずっと画面を見てますよ」
「あれでよく運転できるよな」
「自転車に乗りながらなんて、よほど急ぎの用事なんでしょうね」
「いや、違うと思う・・・・」
 どうせどうでもいい内容のメールだ、と真樹は思ったが、ひょっとしたら本当に急ぎかもしれないので、軽率な発言はせずにおいた。
 あまり携帯電話でメールをしない自分には出来ない芸当だ、と真樹は思った。自分ならきっとメールに集中し過ぎて、前を見ていられない。あの学生はきっと、前を見ながらメールを打てるほど熟練したメーラーなのだろう。ああいう者に「危ないから自転車でメールを打つのはやめなさい」と注意しても、「いつもやってるから大丈夫」とか「そんなに下手じゃないよ」という答えが返って来るのだろう。
「あっ!」
 ガシャアン。
 派手な音がした。嫌な予感がして音がした方を見ると、携帯メールの学生と自転車、それに初老の女性が倒れていた。
 ナナが駆け出す。一歩遅れて真樹も走った。
「あいたた・・・・」
 腰を抑えて座り込んでいる女性にナナは「大丈夫ですか?」と問い掛け、首に掛かったロザリオを握った。
「こ、腰が・・・・」
「もう大丈夫ですよ」
「・・・・おや、あれれ?」
 確かに痛かったはずの腰から手を離し、初老の女性はナナに肩を貸して貰って立ち上がった。その女性に、自転車と共に転倒した女学生が「危ねぇな!」とおよそ女の子らしくない言葉遣いで怒鳴った。
「君、前を見てなかったよね」
 真樹は少し控え目な姿勢で女学生に言った。
「うっせぇな、見てたよ!」
「ちゃんと見てたのか?」
「そのババァが飛び出して来たんだよ!」
 その言葉に言い返そうとした女性を制し、ナナが女学生を睨んだ。
「携帯の画面を見ながらだと、視界が極端に狭くなります。普通に歩いていたこの方が突然視界に入ったので、飛び出して来たように見えただけだと思います」
「なに説教してんだよ、うぜぇよ!」
「取り敢えず、この方に謝ってはどうですか?」
 と言ったナナだったが・・・・。
 携帯電話のメールを再び打ち始めた女学生を見て、唖然となった。しかもその目が真剣だ。おそらく学校の授業では見られないであろう。
「あの・・・・」
 ナナの声も聞こえていないらしい。それとも無視しているのか。
 携帯電話のディスプレイから目を離さず、片手で自転車を起こし、サドルにまたがる。「あぁ、くっそ〜、忙しい」という意味不明な言葉を残して走り去った。勿論、メールを続行しながら。
「・・・・」
 呆然となるナナ、真樹、そして御婦人。
「人類・・・・だよな、あれ」
 真樹が呟いた。
「まともではないにしても、日本語を喋ってたからな」
「あぁ、ごめんね、お譲ちゃん。もう大丈夫だから」
 ご婦人も我に返り、ナナに頭を下げた。
「いえ、あたしは何も・・・・」
 婦人とナナは互いに頭を下げつつ別れた。真樹は「こういう時に魔法は便利だよな」と思った。
「ご年配の方を敬う気持ちが希薄です」
 ナナは胸を押さえていた。また気分が悪くなったのかもしれない。
「ご年配を敬う以前の問題だぞ、あれは。人間的におかしい」
 そう言っている内に、またもや携帯メールしながらの自転車が通り過ぎた。しかも先程よりスピードが出ている。危ないなぁと真樹が思っていると、その自転車はカーブを曲がりきれずにブロック塀に激突した。
「うわっ!」
 思わず真樹が叫んでしまったほど、自転車は折れ曲がり、運転手は思い切り壁にぶち当たった。地面に倒れたのは高校生くらいの少年だろうか、みるみる血溜が大きくなった。近くにいた人々も大声を上げた。
「キャー!」
「た、大変だ! 救急車!」
 辺りは騒然となる。
(あ、あれ・・・・?)
 先程は真樹よりも早く反応して婦人を助けたナナが、全く動いていなかった。
「ナ、ナナちゃん」
「はい?」
「助けないの? その、さっきみたいにさ」
「どうしてですか?」
「・・・・どうしてって、あんなに血が出てるんだよ、さっきの人より危ない状態なんだよ、早く治療しないと!」
「救急車が呼ばれたみたいですよ?」
「そうじゃなくて!」
「違うんです」
 ナナの声はうろたえる真樹と違い、冷静だった。
「先程の女性は被害者です。だから治療したんです。あの人は・・・・自業自得です」
「そ、そんな・・・・」
「自分で危険なことをして、自分で運転を誤り、自分で怪我をした。痛い目に会わないと駄目なんです。それで思い知ってもうやめようと思うか、また同じ事をするかはその人の勝手です。ここであたしが治療してしまったら、また同じ事を繰り返します。今度は他の人を巻き込むかもしれません。そうなったら、あたしの責任なんです」
「・・・・」
「もしあのまま死んでしまっても・・・・それはあの人の自業自得。他人を巻き込まずに済んだだけ良かったんです」
「・・・・」
(これが・・・・エミネントの考え方なのか)
 悪いことをする者が悪い。報いは受けるべきだ。真樹もそう思う。だがそんな風に割り切れるのか?
(ナナちゃんはもっと、優しい子だと思っていたのに)
「それに・・・・」
 ナナが背を向け、震える声で言った。
「魔法はあたしが『望むこと』でないと発動しません。あたしはあの人を助けたいと・・・・思いませんから・・・・」
 真樹にはその震えをどう理解していいのか分からなかった。
 助けたいけど、助けてはいけないというエミネントの教えを守っているのか。それとも助けたいと思わない自分を悔やんでいるのか。
 分からない。
 真樹の耳に救急車のサイレンが聞こえて来た。


 気分転換に、少し郊外を歩くことにした。
 真樹はナナと歩いていて、こんなにも都会は不道徳な世界なのかと思い知った気がした。一人で歩いている時には感じなかったことだ。
(慣れてしまっているってことか・・・・)
 ナナは何だかずっと俯き加減だ。
「もきゅ〜・・・・」
 圭ちゃんも心配そうにポケットから顔を出し、ナナの顔を見ている。
(って、ヤマネが心配なんてするのか?)
 飼い主の喜怒哀楽くらいなら、もしかすると感じるのかもしれない。圭ちゃんの表情(?)を見て真樹はそう思った。
「俺さ・・・・君に何か出来るつもりでいたけど・・・・」
「?」
「何の役にも立ってないなぁって思ってさ・・・・」
「そ、そんなことないですよ。真樹さんはちゃんと『この世界の常識』を教えてくれてます。あたしの世界ではこうだけど、この世界ではこれが当たり前だって・・・・すごく役に立ってます」
「そう言ってもらえると嬉しいけど・・・・」
 川原の広場からは子供たちの声が聞こえて来た。何人かで集まって、何かを蹴っている。サッカーでもやっているのかなと思った真樹だったが、どうも様子がおかしいことに気が付いた。
 寄ってたかって蹴っているのは、うずくまった子供だった。
 それに気付いた時、既にナナの姿はそこにはなかった。身軽に堤防を駆け下り、あっと言う間に原っぱに降り立つ。
「やめて!」
 四人の男の子が一斉にナナを見る。うずくまっている男の子も含め、それぞれ十歳前後の少年だった。
「どうしてそんなことするの!?」
 男の子の一人が「どうしてそんなことするの?」とナナの真似をした。ムッとしてナナが「苛めちゃ駄目でしょ!」と言うと、少し太めの男の子が自分の足を指差した。
「この馬鹿犬が噛みやがったんだ」
「犬・・・・?」
 よく見ると、うずくまった男の子の体の下には犬がいた。男の子は犬を庇って蹴られていたのだろう。
「こいつが馬鹿犬を庇うから、代わりに蹴ってやったんだ」
 その男の子が犬に噛まれたので仕返しをしようとしたところ、一人の男の子が犬を庇った。だから犬の代わりに蹴ったのだと言う。
「庇ったって事は、蹴られる覚悟があるってことだよなぁ」
 少し背の低い男の子は生意気な口調だった。
「悪の仲間はみんな悪だ!」
「何もしないのに噛まれたの?」
「何もしてないよなぁ」
 と犬に噛まれたという子供がうそぶく。すると蹴られていた子供が呻く様に言った。
「嘘だ、こいつは何もしてないのにお前が蹴ったんじゃないか!」
「その馬鹿犬のせいでボールが川に落ちたんだぞ!」
 その子供によると、ボールを蹴ろうとした時に犬が足元に纏わり付いて来たせいで、ボールを蹴り損ねて川に落ちてしまった。だからボールの代わりに蹴ったのだと言う。
「お前のキックが下手だっただけじゃないか!」
「うるさい!」
 犬を庇った子供の顎に、体格のいい子供の蹴りが入った。
「やめなさ・・・・」
 ナナは止めようとしたが、何となく危険な雰囲気を感じて足を止めた。蹴られた子供は顎を押さえ、倒れ込んでいる。妙な雰囲気は、その体の下から出ていた。
「グルル・・・・」
「う・・・・」
 犬に睨まれ、男の子を蹴った子供は尻込みした。無理も無い、犬の目は赤く充血していたのだ。
(まさか犬が魔力を暴走させた!?)
「ナナちゃん! 犬って有りなのか!?」
「分かりません・・・・こんなケースは・・・・」
 ナナも不測の事態に戸惑っている。エミネントでも、人間以外の生き物に魔力があるという話は聞いたことが無いからだ。もしあったとしても、願いや願望という心を媒介として発動する魔法を、動物が発動させるなどということがあるのだろうか?
 あるかもしれない、とナナは思う。少年に対する憎しみ、それだけで魔法の発動条件には充分だ。
「うわぁぁぁぁっ!」
 突然、少年の腕から血が噴き出した。犬はその場を動いていないので、噛み付いたわけではない。子供らは恐ろしくなり、散り散りに逃げ出した。
「ぎゃっ!」
「痛えっ!」
 背を向けた子供らの腕や脚が、次々と目に見えない何かによって切られ、鮮血が飛んだ。だが真っ先に駆け出した子供はまだ無事だ。ナナが予想するに、犬の魔法が届く範囲(マジック・テリトリー)外に出たのだろう。
 自分を庇った少年をその場に残し、逃げおおせた子供を追って犬が飛び出した。
「うわぁぁぁ!」
 自分に向かって走ってくる犬を見て、子供は恐怖に慄いた声で叫んだ、そして・・・・。
「わあっ!」
 足首から血が飛び、子供は転倒した。その体目掛け、犬が飛び掛る。
 その犬の体が、鎖で搦め捕られた。
「そこまでよ!」
 鎖を放ったのは、もちろんナナだ。
「その子はただ見ていただけ。それ以上は許してあげなさい」
「グルル・・・・」
 身動きが出来なくなった犬が、赤い目でナナを睨む。
 その光景を見て、真樹は考える。
(まさかナナちゃん・・・・あの犬が全員に危害を加えるまで放っておいた・・・・のか?)
 魔力の暴走は犬の目を見ればすぐに分かった。犬は最初、その場を動いていなかった。あの鎖で捕らえることは容易に出来たはずだ。
 ナナは、犬が自分を庇った少年の仇を取るまで、放っておいた。
(それは・・・・分からなくも無いけど、しかし・・・・)
 命に関わるような怪我になっていたら、どうするつもりだったのだろう。それはそれで、悪い事をした子供が悪い? いや、それではあまりに度が過ぎた仕返しだ。それほどの攻撃ではないと判断したから、放置したのか? 犯人は犬だ。取り返しのつかないことになったら、誰が責任を負うのだろう。
 真樹があれこれ考えている間も、ナナと犬の睨み合いが続いていた。
「もういいでしょ? 許してあげて」
「グ・・・・」
 犬の抵抗が弱くなったのを見て、ナナは鎖を緩めた。
「駄目だ、ナナちゃん! 魔力を取り除かないと・・・・!」
「あっ」
 真樹の叫びに、ナナは慌てて犬を捕らえ直そうとした。だが犬はスルリと束縛から逃れると、全身に蒼いオーラを纏った。
「あたしは敵じゃないわ!」
「ナナちゃん、犬に言っても・・・・」
「・・・・いえ、あれは精神が魔力に支配されているみたいです。人間に比べて理性が働かず、本能の占める割合が高いから・・・・でしょうか」
 ナナはマジカルクルスを取り出し、元のサイズに戻した。
「真樹さんはまだ見てなかったですよね、変身シーンは」
「え? な、何の?」
「ミルキーナナです。えっと、その、恥ずかしいので中までは見えないんですけど・・・・寧音ちゃん達と一緒に考えたので、萌えかどうか評価して下さい」
「へ、変身シーンか」
 真樹の認識では、魔法少女の変身シーンと言えば最低でも一度、全裸になる。それをアニメではどう誤魔化すかが視聴者には重要な問題だ。放送時間帯によっても変身シーンの過激度は変化する。
「ドレスアップ、ミルキーナナ!」


 その頃、うさみみ中学のアニメーション研究会の部室では、高天原博人がクローゼットの中にあるコスプレ衣装を閲覧していた。
(い、色々な衣装があるんだな・・・・)
 そこにはミルキーナナの衣装もあった。だがアニメ初心者の博人は、それが実際にあるアニメのコスプレ衣装なのかどうかは分からない。
(ふぅむ・・・・これはなかなか・・・・)
 その下に置かれているキラキラした衣装が気になり、博人はミルキーナナの衣装を横に移動させた。


 ミルキーナナの変身は、衣類を空間転移で入れ替えることによって実現する。むやみに衣類を作り出してはならないというエミネントの法律を遵守した上での変身方法だ。
 ちなみにミルキーナナの変身過程に全裸になるシーンはない。何故なら、下着まで取り替える必要性はないからだ。と言うことでまずは現在着用している衣類を転移で送る。


「うおっ!?」
 博人の目の前に、突然Tシャツとミニスカートが出現した。
(ど、どうしていきなり・・・・?)
 恐る恐る手を伸ばし、手に取ってみる。ほんのりと温かかった。
(何だろう、これは・・・・)


 着用していた衣類を転送すると、次はミルキーナナの衣装を自分の体に転移して、変身は完了する。
 物質の転移は、現在の位置と転移後の位置を思い浮かべ、実行する。ミルキーナナの衣装はアニメーション研究会のクローゼットの引き出しにある。位置と形状を思い浮かべ、合致すれば転移魔法は実行される。
 だが・・・・。
(あれっ!?)
 ミルキーナナの衣装が来ない。ナナが置いたのだから、転移前の位置は間違いないはずだ。
(嘘、何で!?)
 下着姿なのでナナは焦ったが、頑張っても来ないものは来ない。
(誰かが位置を変えた? もう、仕方ない・・・・)
 間もなく自分を取り囲んでいる七色のエフェクトが消える。ナナは変身を諦め、先程転移させた自分の服を戻すことにした。
 だが、その衣類の位置もは博人が動かしていた。
(今、送ったばかりなのに!)
 原因を考えている暇は無い。ナナはそれ以外のコスプレ衣装の位置を思い出そうとした。
(えっと、あれは確かここにあったはず・・・・)
 だが。
 ナナが思い浮かぶ衣装は、物色した博人のお陰で、その位置が全てずれていたのだ。
(うっそ〜!)
 七色のエフェクトが消える。
「なっ・・・・」
 華麗なる変身を期待していた真樹の目の前に、下着姿のナナが現れた。
「きゃっ・・・・」
「わわっ」
 真樹は慌てて目を逸らす。
「ご、ごめん、まだ変身途中!?」
「そ、その、ちょっと手違いで・・・・」
 とにかくこのままではまずい。ナナはセルフ・ディメンションを展開し、周りから見えないようにした。だがディメンション内に取り込まれた真樹には自分の姿が見えてしまう。
「真樹さん、見ないで下さい!」
「で、でも、そのまま戦えるの!?」
「えっと・・・・」
 ナナは自分の部屋のハンガーに掛かっている制服を思い浮かべた。この際、衣類なら何でもいい。
(あ、あれ、制服も来ない?)
 それもそのはず。
 先週でうさみみ中学での研修が終わったので、芳江がクリーニングに出していたのだ。よって、壁のハンガーには何も掛かっていない。
「ナナちゃん、危ない!」
「!」
 光が空気を切り裂いた。
 間一髪のところで犬の「魔力による遠隔噛み付き攻撃」をかわしたナナは、マジカルクルスを犬に向かって構えた。
 着替えの転移に集中していたナナは、真樹の掛け声で間一髪、助かった。「見ないで」と言ったのにナナの方を見ていたことになるが、助けられたのでこの際、指摘しないことにする。
「グルル・・・・」
 仔犬の身体から数本の光が飛んだ。
「きゃああっ!」
 光の矢がナナを襲う。マジカルバリアを張った十字架でその攻撃を防いだナナだったが、続けて犬本体が牙を剥き出しにし、ナナ目掛けて飛んできた。
「!!」
 身をよじって犬の牙を避けたつもりだったが、背中の辺りから血が吹き出た。ブラジャーの紐が噛み千切られ、犬に剥ぎ取られる。
「いやぁっ!」
「お・・・・」
 一瞬喜びかけた真樹だったが、ナナの怪我を見て事態を把握した。よくアニメでは下着だけ切られるとか千切れ飛ぶといったシーンがあるが、その場合は本人はかすり傷一つ追っていない。だがこれはアニメではなく現実だった。
 ブラを奪われたナナが思わず腕で胸を覆い隠す。その行動が、防御を遅らせた。
「グアアッ!」
 犬の牙がナナに襲い掛かる。
「もきゅ〜!」
 圭ちゃんが信じられない跳躍力で飛んだ。空中で石にメタモルフォーゼし、犬の牙に立ち向かう。
 犬の牙が石と化した圭ちゃんを捕らえた。
「よし!」
 と思わず叫んだ真樹だったが。
「もきゅ〜!」
 真樹が見たのは、石の形をした圭ちゃんの身体に犬の牙が突き刺さり、血が飛び、振り回され、地面に叩きつけられる光景だった。
「けっ・・・・圭ちゃ・・・・」
 メタモルヤマネの圭ちゃんは、その容姿を自由に変えることが出来る。しかしそれは見た目の形のみで、石に化けようが鉄に化けようが、ヤマネの柔らかさでしかないのだ。
「きゃあああっ、圭ちゃん!」
 真樹は走った。
(俺は今、猛烈にナナちゃんを助けたい! これは心からの願望だ!)
 圭ちゃんを撃墜した犬が、再びナナに向かった。
(俺の中の魔力よ、こんな時にこそお前は発動しなきゃならないんだ! お前は無抵抗のタクを叩きのめすために、ナナちゃんを泣かすために存在するのか!?)
(違うだろっ!)
 真樹はナナからマジカルクルスを取り上げ、叫んだ。
「暴走しろ、俺の魔力っ!」
 犬に向かってマジカルクルスを振り上げる。十字架は犬の身体を薙ぎ、数メートル吹っ飛ばした。
(あいつをやっつけたい・・・・だから力が欲しいんだ!)
 マジカルクルスが蒼く発光する。
 どうすればいいのか分からない。真樹はただ「犬を倒し、ナナを守る」ことだけ考えた。
「うおおおっ!」
「ガアアッ!」
 真樹がマジカルクルスを突き出す。犬が何本もの光の牙を撃ち出す。真樹の腕に、脚に、痛みが走る。だが真樹はその足を止めなかった。
「うおおおっ!」
 ゴッ、という鈍い音と共に、マジカルクルスの先端が犬の額に打ち込まれた。キャイン、という仔犬っぽい声を聞いたのを最後に、真樹は気を失った。薄れ行く意識の中で、自分を助け起こすナナの姿を見て「萌え」な気持ちになった真樹だった。




46th Milky に続く



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