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タイトル


 14th Milky 「ナナ、イジメを報告します」


 四時間目は理科の選択科目なので、隣に泉流が来ていた。
(また・・・・)
 泉流は極力隠すようにしていたが、授業中にナナが横目でそっと彼女の教科書を覗いてみると、やはり車らしき絵が描かれていた。二日前にナナが魔法で全ての落書きを消したから、昨日にでもまた描かれたということだ。泉流はその落書きを消しゴムで消していたが、視線は黒板に向かっていた。
(車・・・・)
 いつも車の絵ということは、何か理由があるのだろう。イジメっ子が車好きなのか、泉流が車嫌いなのかのどちらかだろうと考えたナナは、昨日の出来事を思い出した。泉流が女子生徒に引っ張られ、その方向に行くことを嫌がっていた。その職員室への近道には泉流が嫌がりそうなものは何も見当たらないと思っていたのだが。
(職員専用駐車場・・・・つまり、車がたくさんあった)
 泉流は車が怖い。ナナが導いた結論だった。
(でも、だからって泉流ちゃんの教科書に落書きなんて・・・・それってイジメだよね)
 泉流が嫌がるのを見て楽しいのか? 大人しい、抵抗しない子を苛めて面白がっているのか? だが泉流は嫌がっている。自分さえ楽しければそれでいいのか? そもそも、他人をいじめて面白がる精神が分からない。
 ナナが育ったエミネントなら、イジメがあれば学校側で犯人を突き止めて処罰する。学校には教師や生徒がイジメがあることを報告するだけで、後は学校側に任せることになる。学校側と言っても、実際に調査を行うのは管理局のオブザーバー(監視者)で、その処罰を決めるのはジャッジメント(審判部)から派遣された、それを仕事にしている人達なので安心して任せることが出来る。つまりは、エミネントにおけるイジメは充分に犯罪なのだ。
 龍ヶ崎先生に言ってみようか?
 泉流は別のクラスだから泉流の担任に言うべきなのか。眞子に言えば四組の担任に話をしてくれるだろうか。
 この世界でも、教師に報告すれば何とかしてくれるだろう。ナナは疑うことなくそう信じ、眞子に相談することにした。先日見たニュースで、イジメに遇って自殺した生徒の学校の校長が「イジメは把握していなかった」と謝罪していた。つまり、イジメの存在を知っていたなら、必ず何とかしてくれたはずだ。
「?」
 ナナは泉流の視線に気付いた。
 どうやら泉流の視線はナナの胸あたりに向いているようだ。勘違いしてもらっては困るが、ナナの胸を凝視しているのではない。ナナの制服の胸ポケットから、マスコットと化しているヤマネの圭ちゃんが顔を出していた。生きていることは秘密なので、泉流の前でも圭ちゃんは微動だにせずマスコットを演じている。
 泉流は教科書に落書きをされて悲しいはずだ。元々感情を表に出さないタイプだが、人見知りが激しいのか、友達である寧音の前だけは元気だった。そんな泉流を見て、何とかしてあげたいと思うナナだった。
 授業が終わると、寧音が教室に帰って来た。これからお昼休みなので、三人でお弁当を持って中庭に出る。泉流はお弁当を取りに自分の教室に帰った。
「ナナちゃん、今日の部活だけどさぁ」
 と寧音はナナに話し掛けたのだが、先に反応したのは高天原博人だった。
「君たちのはクラブではなく同好会だから、部活ではなく集会と呼ぶべきだ」
「細かいこと言わないでよ!」
「全く、君達の活動のような幼稚でくだらないものを、よく学校側が許可しているものだな。学校の品格が疑われるよ」
「帰宅部のコーテンゲン君に言われたくないよ〜だ」
「そんなクラブは存在しない。僕はクラブ活動より塾を優先したいだけだ」
「運動音痴だからね」
「運動が苦手だからクラブに属していないのではない! 文系のクラブだってあるだろう!?」
 少し熱くなってしまい、博人は咳払いをして椅子に座った。
「要するに集団行動が苦手で、人と関わるのが下手なんだよ」
 捨て台詞を吐いて寧音はナナと一緒にお弁当を持って教室を出ようとしたが、博人に呼び止められた。
「待て」
「何よ、まだ文句があるの?」
「先程君は、神無月さんを集会に誘うような行動を取らなかったか?」
「それが?」
「これ以上、我が校の品位を落とす生徒を増やさないでくれないか。まぁ、神無月さんがアニメーション等という幼稚なものに興味を持つとは思えないがね」
「あたし好きですよ? 幼稚だなんて思わないけどなぁ」
 ナナの答えに博人の表情は固まった。
 固まっている博人は放っておいて、ナナ、寧音、泉流は中庭に出てお弁当を拡げた。
「寧音ちゃん、ナナちゃんのポケットのあれ、可愛くない?」
 泉流がナナの胸を指差す。寧音は「あたしも気になってたんだ」と相槌を打った。
「ねぇナナちゃん、ちょっと見せて」
「え? う、うん・・・・いいけど」
 寧音が手の平を差し出して来たので、ナナはマスコット化している圭ちゃんをポケットから取り出した。
(どうしよう)
 圭ちゃんが生きていることは、寧音や泉流にも内緒だ。だがこの場合、渡さないのも不自然である。
(ばれないかなぁ)
 メタモルヤマネの圭ちゃんの得意技である「変身」の欠点は、形だけしか変えられないことだ。マスコットの姿をしている圭ちゃんだが、手触りはヤマネのそれであるし、手で触れば体温も感じる。
「ねぇねぇ、これなに、ネズミ?」
 ナナが躊躇していると、寧音が手を伸ばして胸ポケットから圭ちゃんを引っ張り出した。
「うわ、柔らかい! 本物の毛みたいだよ」
「わぁ、本当だ」
 寧音と泉流が指で圭ちゃんの体を撫でる。
(我慢して、じっとしてて、圭ちゃん!)
 そんなナナの祈りも空しく、圭ちゃんは撫で回されたむず痒さで遂に変身を解いてしまった。
「きゃっ、動いた!?」
 寧音がびっくりして圭ちゃんを手の平から払いのけた。だが圭ちゃんは地面に落ちることなく、身軽に寧音の制服にしがみついて肩の上に駆け上がった。
「ナ、ナ、ナナちゃん、これ!」
「・・・・ごめんなさい、あたしのペットなの」
「ペ・・・・ペット!?」
「でも、さっきは確かにマスコットだったよ。手触りは本物っぽかったけど」
 泉流が首を傾げながら言った。
「えっと、圭ちゃんはメタモルヤマネって言って、形を自在に変えられる生き物なの。どうしてもついてくるって聞かないから、マスコットになれば連れて来ても良いかなって・・・・あの、ペットを連れて来るのは禁止だって分かってたんだけど・・・・」
「なぁんだ、ペットかぁ。驚かさないでよねぇ。いきなり動いたからビックリしちゃったよ!」
 言い訳をするナナを他所に、寧音と泉流は珍しそうに圭ちゃんを見ていた。
「ねぇねぇ、何にでも変身出来るの?」
「形だけね。大きさはそのまんまだよ」
「え〜、車とか飛行機とかにはならないの?」
「残念ながら・・・・」
「そっかぁ、魔女っ娘のペットなんだから、もっと色々な特殊能力があるのかと思ったのにちょっと残念。きゃっ!」
 寧音の肩に座っていた圭ちゃんが、いきなり寧音の胸元から制服の中に飛び込んだ。
「やだ、入っちゃった! ちょっと、くすぐったいよ!」
 寧音の服の中を、圭ちゃんがあちこち這い回る。
「圭ちゃんは暗い所とか、穴の中が好きなの。あたしの服の中にもよく入るの。こら圭ちゃん、出てきなさい!」
「やっ、ちょっと、そこはっ!」
 寧音が慌てて胸を押さえた。ブラジャーの中に圭ちゃんが潜り込もうとしたのだ。
「どこ入ってるの!」
 寧音が下着ごと圭ちゃんを捕まえようとした時、寧音のブラジャーのフロントホックが外れてしまった。
「きゃ〜っ!」
 その時、圭ちゃんが寧音のお腹辺りから地面に落ちた。苺柄のブラジャーと共に。今日は肩紐のないタイプだったので、ホックが外れてそのままスルリと落ちてしまったのだ。
「け、圭ちゃん!」
 ナナが慌てて圭ちゃんを捕まえる。
「ご、ごめんなさい!」
 ナナが差し出したブラジャーを、寧音は真っ赤になりながら受け取った。
「エロネズミだ・・・・」
 真っ赤になって胸を押さえる姿は、ナナが初めて見る寧音の女の子っぽい一面だった。
「こらぁ、圭ちゃん!」
 ナナがお仕置きをしようと圭ちゃんに向かってでこピンの恰好をした途端、圭ちゃんはフルパワーでナナの手から脱出すると、今度は泉流の体に駆け上がった。
「入らないでね」
 泉流が胸元を押さえながら諭すような口調で言うと、圭ちゃんは何度か頷いた。
「ナナちゃんもよくやられるの?」
 後でトイレで付け直すために、寧音はブラジャーを畳んでスカートのポケットに入れた。
「朝、目覚まし代わりによく」
「あいつ、暗いところとか狭いところが好きなんじゃなくて、単にエロいだけじゃないの?」
「・・・・あたしも前から薄々思ってた」
 ナナは泉流の肩の上で何食わぬ顔で伏せている圭ちゃんを睨んで呟いた。


 職員室は生徒にとって緊張する場所である。そうでなくてはならない。かつてはそうであったが、現在はどうなのだろう。
 教師が「聖職者」と言われるように、職員室も「聖域」でなくてはならないはずだ。もっとも、最近は教師の女子生徒への性犯罪も多く「性職者」と揶揄されてしまうこともあるのは嘆かわしいことだ。
 そんなことはともかく、ナナはその職員室の入り口付近にいる教師に「龍ヶ崎先生にお話があるのですが」と声を掛けた。
「どうぞ、入っていいよ」
 そう言われてナナは、教師が指を差した向こうにいる眞子の机を目指して職員室の中を歩いて行った。
「ナナちゃん、どうしたの?」
 声を掛ける前に、眞子がナナの姿を見付けてくれた。
「えっと、ここじゃない方が・・・・」
「じゃ、外に出ましょう」
 昼休みではあるが、眞子は快くナナの話を聞く為に時間を割いてくれた。廊下を渡り、中庭に出た所で眞子は立ち止まった。
「ここでいい? 何の話かな」
「はい、その、ご相談が」
「言ってみて」
 眞子は教師になって五年経つが、生徒に「相談」をされたことは数えるほどしかないので、ナナがこうして自分を頼ってくれたことが嬉しかった。
「実はイジメなんですけど」
「えっ」
 温和だった眞子の表情が強張った。
「誰に?」
「え、あの、私じゃなくて・・・・」
「あ、そ、そう」
 強張った顔が緩んだ。眞子がナナに対して心配していた事の一つが、まさに「エミネントだからと苛められはしないか」ということだったので、心配が現実になったのかと思ってしまったのだ。
「隣のクラスの槻島泉流さんです」
「あぁ、四組の」
(あの子ね・・・・確かに苛められ易そうな子だわ)
 眞子が四組の授業を受け持つのは担当である古文だけだが、教壇から見ていてもほとんど顔を上げず、手も挙げなければ私語もない、授業態度では逆に目立つ生徒だった。
「相手は分かってるの?」
「いえ、多分あの人達かな? としか・・・・」
 職員専用駐車場で泉流を引っ張っていた三人。あの女子生徒が泉流の教科書に落書きをしたのか、それともあの時だけだったのかはナナには分からない。
「分かったわ。担任の佐藤先生に言っておく。三組の担任である私が口を出したら面白くないだろうから」
「お願いします」
 これで安心だ、とナナは思った。
 これで泉流は苛められないようになる。
 昼休みが終わり、五時間目の授業になった。肩の荷が一つ下りたナナは、しばらくしてから本当に肩が軽くなったことに気付いた。
(あれ?)
 ポケットに入っているはずの者がいない。
(圭ちゃんは・・・・? まさか、泉流ちゃんに付いていっちゃった!?)


 四組では五時間目の数学の時間、小テストが行われていた。問題のプリントが配られ、教師の合図でテストがスタートする。
 泉流にとって数学は、さほど苦手ではない。今回のテストの範囲ならまずほとんど間違うことはないだろうという自信があった。
 すらすらと五問中の四問までを解き終えた時、左胸のポケットがモゾモゾと動いた。泉流は驚いて声を出しそうになり、慌てて口をつぐんだ。
(そうだ・・・・圭ちゃんを預かったままだったんだ)
 見付かれば先生に没収されてしまう。圭ちゃんはナナのペットだから、ここで見付かって自分のせいで没収されるのは困る。
(お願い、じっとしてて)
 声に出すわけにはいかないので、目配せを送ってみる。理解したのかどうか分からないが、圭ちゃんが頷いたように見えたので泉流は安心した。
 だが。
(きゃっ)
 圭ちゃんは泉流のポケットからスルリと抜け出すと、素早い動きで胸元から制服の中へと潜り込んだ。
(やっぱり分かってないよ〜!)
 寧音も服の中に入られた。本当にエロネズミなのかもしれない、と泉流は思った。圭ちゃんは胸の辺りからチョロチョロとお腹の辺りに移動し、動き回った。
(やだ、くすぐったいよ!)
「あと十分だぞ」
 教師が時計を見て言った。解いていない問題がまだあと一問ある。とにかく先に問題を解き終えようと泉流はシャープペンシルを構えた。
 もぞもぞ。
 圭ちゃんがお腹からスカートの中へ入ろうと、泉流のおへその辺りをくすぐる。
(んうう〜)
 あまりのくすぐったさに泉流が身をよじった拍子に、圭ちゃんがスカートの中への侵入に成功した。
(や、やだ、どこ行くの)
 泉流が脚をギュっと閉じると、太腿と太腿の間に圭ちゃんが潜り込もうと頭を突っ込んで来た。圭ちゃんは暗い所とか穴の中が好きなの、というナナの言葉を思い出す。
(そんなに動かないで〜!)
 ヤマネの柔らかな毛で内股をくすぐられ、泉流は思わず身をよじった。
「どうした、槻島。具合でも悪いのか?」
「い、いえっ」
 自分ではほんの少しだけのつもりでも、教壇から見ていると不自然な体の動きに見えたのだろう。泉流は教師の視線を気にしながら、最後の問題を解くことに専念しようとした。だが圭ちゃんはお構いなしに動き回る。
(やっ、そこは、そこはだめっ!)
 どこだろう。
(そんなに、動いちゃ、だめぇっ)
 泉流は脚を思い切り閉じ、スカートの上から左手で圭ちゃんを押さえ付けた。右手では問題を解こうとするが、頭が回らない。
 何とか問題を解き終えたと同時に、テスト終了の合図が聞こえた。
 プリントを後ろの席から前の席に順送りで集めている時、後ろからヒソヒソと話し声が聞こえてきた。
「あいつ、トイレ行きたいんじゃねぇ?」
「落ち着きなかったもんな」
 言葉遣いから男子生徒と勘違いするかもしれないが、一応女子生徒である。
「手を挙げて言えばいいのに。『先生、トイレ!』ってな」
 へらへらした笑い声が聞こえる。泉流は聞こえない振りをして黙っていた。
「代わりに言ってやろうか? ほら、あたい親切だからさ」
(言わなくていい!)
 という泉流の願いも空しく、女子生徒が教師に向かって手を挙げた。
「センセー、槻島さんがトイレに行きたいそうです。しかも大きい方」
 周囲の女子数名が一斉に笑った。
「槻島、行って来い。我慢は良くないぞ」
 教師の言葉に、また笑いが起こった。
「・・・・」
 泉流は無言で立ち上がると、教室の後ろのドアから出て行った。
 泉流が教室を出てトイレに向かったのは、本当に用を足したかったわけではない。
 泉流は個室に入ってドアを閉めると、スカートをたくし上げて下着の中から圭ちゃんを引っ張り出した。
「もきゅー」
 尻尾を摘まれ、逆さ吊りになった圭ちゃんが小さな声で鳴いた。
「・・・・」
 泉流の目からは涙が流れていた。
「・・・・あなたのせいで笑われた」
「もきゅ」
「あなたのせいで」
 洋風便器の蓋を開けると、中には水が溜まっている。泉流は逆さ吊りの圭ちゃんを便器の真上に移動させると、指を離した。
 チャポンという音と共に、圭ちゃんが水の中に落ちる。
「もきゅー!」
 泉流は素早く蓋を閉めた。
「きゅー! きゅー! きゅー!」
 出口を失った圭ちゃんがバシャバシャと音を立てながら暴れまわる。泉流は水洗のレバーに手をやった。
「・・・・うっ」
 泉流の中に、何かが流れ込んできた。
 憎い。
 どうして自分が苛められるのか。
 何もしていないのに。いや、何もしないからこそ相手はつけ上がる。言い返さないから、反撃しないから安心してからかうことが出来る。
 本当は自分も弱いくせに。
 一人では何も出来ないクズなのに。
(ああっ・・・・)
 何かが膨らんでゆく。
(なにこれ・・・・)
 憎い。憎い。憎い。
 助けて、誰か助けて。
「いやぁぁぁぁぁっ!」


「泉流ちゃん!?」
 三組は技術の時間だった。はんだを使って金属の板を接合していたナナは、異様な魔力を感じて手を止めた。
 国守宅也や制服泥棒と同じような魔力を感じたナナは、そこに微かだが泉流の気配も感じていた。
(どうして泉流ちゃんが・・・・? とにかく行かないと!)
 当然のことながら、この異様な魔力はナナ以外の生徒は気付いていない。授業を抜け出すのは悪いことだが、泉流を放ってはおけない。今、泉流を救えるのは自分だけなのだ。ナナは技術科の教師が女子生徒にはんだ付けの手本を見せている隙に教室を抜け出した。
(泉流ちゃん、どこ!?)
 技術の授業を行う技術室は、旧校舎の特別教室練にある。魔力の存在は新校舎の方から感じ取れていた。渡り廊下を走っていたのでは遅いと思ったナナは、ポケットからロザリオを取り出した。
「セルフ・ディメンション!」
 ナナはディメンション内に入り、新校舎目指して飛んだ。これなら空を飛ぶ姿を誰にも見られずに済む。
(ここね!)
 三階のトイレに飛び込んだナナは、ディメンションを解かずに閉まっている個室のドアを大きくしたマジカルクルスで破壊した。これなら周囲に破壊音は聞こえないし、後で修復すれば良い。
「泉流ちゃん!」
 胸を押さえてうずくまっている泉流を、ナナは抱き起こした。顔が赤みを帯びている。国守宅也と同じ現象だが、彼と違ってまだ泉流としての意識はあった。
「ナ、ナナちゃん・・・・」
「しっかりして、泉流ちゃん!」
「体が、熱いの・・・・熱いものが、私の中に入って・・・・あっ、あああっ・・・・!」
「意識をしっかり持って! 大丈夫、大丈夫だから!」
 ナナが泉流の手を握ると、握り返してきた。泉流の額には汗、目からは涙が流れている。
 このまま泉流の意識が魔力に乗っ取られたら、リムーヴを行わなくてはならない。頑丈そうな国守宅也と違い、体の弱そうな泉流が「引き剥がし」に耐えられるだろうかとナナが危惧していると、段々と泉流の顔色が元に戻ってきた。
「泉流ちゃ・・・・」
 泉流は上手く力が入らないという動作で、便器の蓋を開けた。
「な、何をしてるの?」
 ナナの見ている前で泉流は手を突っ込むと、水浸しになってぐったりしている圭ちゃんを掴み出した。
「あ、け、圭ちゃん!?」
 どうして圭ちゃんがそんな所にいるのかとナナが戸惑っていると、泉流は文字通り濡れネズミの圭ちゃんを胸に抱き締めた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」
「・・・・?」
 泉流はぐったりした圭ちゃんに、いつまでも謝っていた。




15th Milky に続く



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