話数選択へ戻る


タイトル


 3rd Milky 「ナナ、お部屋にお邪魔します」


 食事を終え、真樹は自分の部屋に戻った。
「はぁ・・・・」
(何で昼飯を食べただけでこんなに気を使うんだ? このままじゃ神経が磨り減ってしまうぞ。三週間も耐えられるのかよ、俺)
 裸エプロンといい、胸の大きさといい、太腿といい・・・・。
(って、そんなんばっかりかよ!)
 誤魔化すように真樹はパソコンの前に座り、先程の続きをしようとマウスを持った。
 亜子が裸エプロン姿で微笑んでいた。
(そうだ、これが悪いんだ! こんなCGを見たから変な妄想をしてしまったんだ! 俺は悪くないぞ、だいたいあの子は十五歳、俺とちょうど一回り、十二歳も違うんだからな! 干支は一緒だけど、十二歳も違うんだ!)
 ちなみにゲームの中の主人公と亜子ちゃんは十五も歳が離れていた。
 先程、裸エプロンなんて本当にする女の子なんていないぞと思った真樹は、目の前の亜子が嘘臭い存在に思えてきた。
(くそ、やる気がなくなったじゃないかよ)
 恋愛シミュレーションゲームで主人公に感情移入できなくなったら終わりだ、などと思いながらも真樹はゲームを再開した。やがていいムードになり、十八禁ゲームの十八禁たる所以のシーンに差し掛かる。
「センセー・・・・」
「亜子・・・・」
(どれだけ嘘臭くても、ゲームなんて所詮、嘘だからな)
 トン、トン。ドアをノックする音が聞こえた。
「真樹さん」
「うわっ、な、な、何っ!?」
 慌てて真樹はディスプレイの電源を切った。亜子の淫らな姿態が闇と消える。
「あの、あたし、ネットをしてみたくて・・・・よろしければパソコンをお借りできないでしょうか」
「パ、パパパパパパソコン!?」
(落ち着け、落ち着け!)
 自分でも取り乱していることが分かり、真樹は胸に手を置いて心を静めようとした。だが先程のナナが胸を押さえていた姿を思い出してしまい、ますます動揺した。
(牛乳を借りたい!? 違う、何だ、パソコン? いや、パソコンは亜子ちゃんが・・・・何をしたいって? ゲーム? いや、これは十八禁だから駄目だ! 亜子ちゃんみたいなことがしたい? 違う、そんなこと言ってない!)
「あの〜、駄目ならいいです」
 ナナが小さな声でドア越しに話し掛けてくる。真樹はとにかく心を落ち着かせた。
「あのさ、今ちょっと使ってて、また後でなら・・・・」
 真樹はドア越しに声を掛けたが、既にナナの気配はなかった。断られたと思い、行ってしまったのだろう。
(ネットとか言ってたな。使ってみたかったんだろうか。ちょっとくらい、使わせてあげれば良かったな・・・・今は駄目だけど)
 真樹はディスプレイの電源を再びオンにした。亜子のHなCGが表示されている。
(・・・・自分で言うのも何だが、嫌らしいよな)
 きっとナナはインターネットに興味があって、触ってみたかたのだろう。
(ケチな奴だと思われたかな。後で教えてやるか)
 マウスをクリックする。
「センセー、亜子、何も分からないの。色々と教えて欲しいな」
(うわっ!)
 亜子が頬を赤くして囁き掛けてくる。
(違う、教えるってのはそういうことじゃないぞ、俺はネットをだな!)


 ナナが階段を下りてきたのを見て、芳江が話し掛けた。
「あら、ネットは?」
「お忙しいみたいです、真樹さん」
「もう、あの子ったら! ナナちゃんのお願いなのに、聞いてあげなさいよねぇ。ごめんなさいね」
「いえ、あたしの方こそ」
「ナナちゃんは本当にいい子ねぇ。でもね、そんなことじゃ卒業研究にならないわよ」
「確かにそうですね・・・・」
 確かにドアも開けて貰えなければ、真樹のオタク生活をレポートすることは出来ない。真樹にずっと部屋に篭っていられるとオタクの実態調査が出来ない。ナナもそれは分かっている。
「きっとナナちゃんに見られたくないものがいっぱい置いてあるのよ。強引に入ってみたら?」
「そ、そんな失礼なこと出来ません! 嫌われちゃいます」
「あの子に怒る根性なんてないわよ」
「でもぉ・・・・」
「ほら、再トライ! 頑張れナナちゃん!」
 芳江に背中を押され、ナナは再び階段を上がっていった。
(強引に開けちゃおうかな・・・・でも絶対に嫌われちゃうよぉ)
 ナナは真樹の部屋に興味があった。今まで噂話やアニメ等で見たことはあるが、本場のオタクの部屋というものを一度この目で見たいと思っていたのだ。
(座るところと寝るところ以外はDVDとか漫画とかゲームが積まれてたりするんだろうなぁ・・・・窓も荷物で塞がっていて外の光が入って来ないとか、少しでもバランスを崩せば雪崩が起きるとか・・・・)
 想像しただけでワクワクしてくるナナであった。
(ようし、ナナ、強行突入します!)
 初日だからと遠慮していたが、このままずっとこの調子では何も進まない。日が経てば経つほど余計に気まずくなるだろう。
 真樹の部屋の前で立ち止まる。中から音は聞こえない。
 ナナは呼吸を整え、部屋のドアノブを握った。
 真樹はナナに悪いことをしたと思い、後でパソコンを教えてあげるよと言う為に、ゲームの途中だが腰を上げた。
(短い間とはいえ、これから一ヶ月一緒に暮らすんだもんな。初日からギクシャクしてたら駄目だよな)
 真樹がドアを引くのと、ナナがドアを押すのが同時だった。
「真樹さ・・・・」
「うわっ!?」
 思い切って勢い良くドアを開けようとしたナナが、ドアを引いた真樹にぶつかって来た。
「きゃ・・・・」
「なっ・・・・」
 倒れそうになるのを必死に堪える。真樹は倒れるわけにはいかなかった。彼の足元には先日完成したプラモデルが置いてあったからだ。だが崩れたバランスを立て直す為には脚を踏ん張る場所が必要だ。
(くっ・・・・やらせるか!)
 真樹は身体をねじると、左足を思い切り開いてプラモデルの破壊を回避した。そこにはコミックスが落ちていたが、背に腹は変えられない。本なら踏んでも潰れることはないだろうと思った。
 だが・・・・。
「うおっ!」
 コミックスに脚を乗せた瞬間、本のカバーで脚が滑った。
(不覚!)
 結果、真樹はナナと一緒に見事にぶっ倒れた。必死に回避しようとしたプラモデルはナナの腕に当たって一緒に倒れた。
「いててて・・・・」
 何とかナナを庇って倒れることは出来たが、肩や腕を思い切り打ちつけた。
「だ、大丈夫ですか!?」
 真樹の上に乗っかかる形となったナナが叫ぶ。気が付くと、真樹はナナを思い切り抱き締める恰好になっていた。
 思っていたよりも細く、軽かった。
「ご、ごめん!」
「いえ、こちらこそ!」
 ナナは慌てて真樹から離れると、助け起こそうと手を差し出した。
「いいよ、立てるから・・・・」
 ナナの手を借りずに起き上がると、思っていたより痛みはなかった。ただ、足元にアンテナが折れたプラモデルが転がっていた。
「あ〜あ・・・・」
「折れちゃったんですか? ごめんなさい・・・・」
 ナナは左肘を押さえながら頭を下げた。
「いや、これなら瞬着(瞬間接着剤)でくっつくから・・・・それより、怪我したんじゃない?」
「いいえ、大したことありませんからっ」
「見せて」
 左肘を押さえていた手を離すと、血が滲んでいた。
「血が出てる。待ってて」
「あ、いいです、大したこと・・・・」
「いいから! えっと、確かこの辺りに・・・・」
 真樹は小物入れの引き出しを開け、確かに入っていたはずの絆創膏を探し始めた。
「・・・・」
 ナナは肘を押さえて座り込んだまま、真樹の部屋を見渡した。
(あれ・・・・ちゃんと窓が見えてて、明るい・・・・それにある程度は歩き回れそう。ゲームやパソコンはあるけどDVDとか漫画は天井近くまでうず高く積まれてない。まさか真樹さん、オタクじゃないのかも?)
 ナナのオタクに対する知識はかなり極端なものだった。
「あ・・・・」
 ナナの視線がパソコンのディスプレイに釘付けになった。そこには一糸纏わぬ亜子ちゃんがとてもじゃないが文章に出来ない恰好をしたCGが表示されていた。
「あ」
 真樹はナナの視線に気付き、慌ててディスプレイの電源を切った。
「こ、これは違うんだ!」
 何も違わない。
 ナナは真っ赤になって下を向いてしまった。
(最悪だ・・・・)
 真樹も真っ赤になりながらやっとのことで絆創膏を発見したが、ナナの顔を見ることが出来なかった。
(変態だと思われたかな・・・・少なくともエロい奴という認識を与えてしまったな。くそ、初日から最悪の展開じゃないか。もうまともに口なんてきけないぞ)
 汚らわしいと思われて逃げられるのではないかと心配しながら、真樹は絆創膏を袋から出し、ナナの肘に貼るべく歩み寄った。ナナは逃げはしなかったが、真樹は顔を上げられない。
(違う、俺は変な奴じゃないんだ、エロゲーなんてみんなやってるんだ、ただのゲームなんだよ。ちゃんと現実とゲームの区別は出来るし、実際に犯罪を起こすようなことは絶対にしないんだ! こんなゲームをするから事件を起こすなんてのは、マスコミの大袈裟で偏見に満ちた報道なんだよ!)
 真樹は一生懸命に心の中で言い訳をしたが、ナナに届くはずもない。ナナは黙ったまま絆創膏を貼って貰い、立ち上がった。
「ごめんなさい、その・・・・あたしがいきなり入ろうとしたから」
「え? いや、いいんだ、それより、大丈夫?」
「ごめんなさい!」
 ナナは素早く振り返ると、そのまま自分の部屋へと走り込んでしまった。
「あ・・・・」
 真樹はしばらく突っ立っていたが、追いかけるのもどうかと思い、ドアを閉めて一人になった。
(だから嫌だったんだ、他人と一緒に暮らすなんて。今まで平和だったのに、無茶苦茶じゃないか。生まれが違えば意見も考え方も価値観もまるで違うんだ、無理なんだよ!)
 真樹はアンテナの折れたプラモデルを見た。綺麗にポッキリ折れているので、却って修理し易い状態だった。
(俺がこんな所にプラモデルを置いておかなければ、あの子は怪我をせずに済んだ)
 ディスプレイの電源を入れ直す。
(ゲームはいいよな・・・・最適な選択肢はある程度、ストーリーの流れで分かるんだから。相手の気持ちなんて、せいぜい三つか四つの選択肢から選べばいいだけなんだから。間違ってもやり直せば済むことだ。現実は・・・・そうはいかない)
 絶対に軽蔑された、と真樹は思う。
 ただでさえポスターだらけの壁、プラモデルやCD、DVDが散乱する床を見れば敬遠するに違いない。あの年頃の女の子は男を不潔で嫌らしい生き物と思っている者が多い。エミネントとは言え、ナナも例外ではないだろう。
(もういいや・・・・会話もせず、ただ一緒の家にいるだけの人間だと考えよう。もうこんなのは嫌だ)
 ぶつかってきたナナと一緒に倒れ込み、とっさに抱き締めてしまった。あれも軽蔑される原因になるだろう。セクハラだと騒がれなかっただけマシというものだ。
(わざとじゃないんだけどな・・・・)
 ナナの身体は思ったより軽く、細く、真樹の顔にかかった彼女の髪はいい匂いがした。あまり大きくないと言っていただけあって、確かに胸の弾力はあまり感じなかった。
「馬鹿・・・・何を考えてるんだ。あの子とはもう係るのはよそう」
 真樹はそのまま夕飯の時間までボーっとテレビ番組を見ていた。内容は覚えていない。ナナの困った顔、腕の中での感触だけが記憶を席捲していた。


 夕飯に呼ばれ、真樹は仕方なく一階へ降りた。出来れば一人で食べたかったが、普段やらないことをすると母にあれこれ詮索される。幸い、先程のドタバタは気付かれていないようだから、このままそっとしておいて欲しかった。
 ナナは先にテーブルに付いていた。俯いたまま真樹と顔を合わせない。
(気まず過ぎる・・・・)
 昼食の時と同じく、ナナの正面に座る。ナナは顔を上げず、真樹はテレビを点けてずっとニュース番組を凝視していた。そんな二人を不審に思った芳江が「何かあったの?」とどちらにともなく訊いた。
「別に・・・・」
 真樹がぶっきらぼうに答える。ナナは黙ったままだ。そんな二人の様子を見て、芳江の口元に笑みがこぼれた。
(二人のこの反応・・・・「何か」あったわね。うふふ、真樹も結構やるじゃない。二人っきりにしてあげて、正解だったようね。ナナちゃんたら真っ赤になっちゃって!)
 そう、芳江がナナを下宿人として迎え入れた目的は、普段アニメやゲームに熱中していて恋人も作らない息子に「生身の女の子」に興味を持って貰う為だった。芳江は初日早々、作戦が成功したと思って勝利の笑みを浮かべたのだ。母は更に予め立てていた作戦を進めることにした。
「真樹、明日は家にいるんでしょう? ナナちゃんにこの辺りを案内してあげたら?」
 市内案内にかこつけて、デートさせる魂胆である。だが真樹はテレビに顔を向けたまま面倒臭そうに「明日はゆっくりしたい」と答えた。ナナも「ご迷惑ですから、一人で散歩でもします」と小声で答えた。これらの答えは芳江の予想範囲内である。
(ま、あまり最初からトントン拍子に進んじゃうと面白くないわね。それよりも行き着く所まで行ってしまうのも問題だわ。何たってナナちゃんは十五歳、大事な娘さんをお預かりしている身で間違いがあっても困るわね。あくまで真樹が「興味を持つ」レベルでとどめて置く必要があるわ)
 一喜一憂している芳江の隣で、ナナが思い切ったように口を開いた。
「あの、真樹さん!」
「!」
 自分を避けているのだと思っていたナナがいきなり話し掛けて来たので、真樹は驚いて喉が詰まりそうになった。
「ごめんなさい、その、さっきはちゃんと謝ってなかったから・・・・」
 ナナの一生懸命な眼差しが真樹を見詰める。
「・・・・い、いや・・・・」
「あたしのせいで、ツインラヴァーズのアンテナが折れちゃって・・・・あの、ちゃんと治りますか?」
「大丈夫、大したことないから。あんな所に置いていた俺が悪いんだし・・・・それより君の方こそ」
 芳江には何の話だかさっぱり分からなかったので、見守ることにした。
(あれ?)
 真樹は違和感を感じて、ナナの言葉を思い出してみた。
(ツインラヴァーズ・・・・? 何でナナちゃんがあのプラモの名前を知ってるんだ?)
 グンダムツインラヴァーズ。人気アニメシリーズ「グンダム」の最新シリーズ「超機動戦史グンダムツインズ」の物語後半で登場する、主人公が乗るいわゆる「主人公機」がグンダムツインラヴァーズだ。
(エミネントでも放送しているのか? いや、そんなはずは・・・・でもそれなら何故、彼女が名前を知っているんだ?)
 わけが分からずに真樹がポカンとナナを見ていると、ナナが話を続けた。
「あの、真樹さんはみくるちゃんのファンなんですか? ポスターを貼られてたので・・・・実はその、あたしもそうなんです。声も衣装も可愛いし、『完成!恋愛シナプス』のヒロイン役、すごくハマってましたよね、あたし、コスプレしたこともあるんですよ。ライブのDVDも見ました。あの、さっき真樹さんが踏んづけた漫画、あたしも持ってます。五巻の限定版を買い損ねちゃって、とっても悔しかったです。それと、その、亜子ちゃんって可愛いですよね。あのゲームに登場するキャラで一番好きです。一途と言うか、純情と言うか・・・・あ、でも一般向けのOVAを見ただけでゲームはやってませんよ、あたしまだ、その、十五だから・・・・」
 そこまで一気に喋り、ナナは息を吐いた。
「・・・・」
 芳江は話の内容に付いて行けず、彼方に置き去り状態だ。
 真樹は火照った顔で自分を見ているナナをじっと見詰め返していた。
(何だ・・・・)
 自然と笑みがこぼれた。
(同類・・・・じゃないか)
 仲良くなれる。真樹は先程までとは一転して、確信にも似た希望を抱いていた。

 夕食後、真樹はナナにネットを使わせてあげるよと言い、一時間後に部屋に来るように言った。きっかり一時間後にナナがドアをノックすると「どうぞ」と返事があった。何故一時間後なのか、その理由が真樹の部屋に入った途端に分かった。
「あれ・・・・」
 床が綺麗に片付いていた。転がっていたコミックスも、プラモデルの箱も、CDのケースも見当たらない。
「オタクっぽくない・・・・」
「ん? 何か言った?」
「あ、いえ」
(どうしよう・・・・これじゃオタクの部屋に潜入したことにならないよ・・・・せめてさっきの状態のままが良かったなぁ)
 そんなナナの落胆も知らず、真樹は「どうぞどうぞ」とパソコンの前にクッションを置いた。自分と同じ趣味を持っていることが分かれば急に親しそうになるのは、オタクの習性だろう。
(考えてみれば、女の子がこの部屋に入るのなんて何年振りだろう? 女の子を招待するんだから、散らかってちゃ恥ずかしいよな。これで何とか恰好が付いたと思うぞ)
 その行為はナナにとって「ありがた迷惑」だった。本場のオタクを研究しに来たナナにとっては、真樹の普段の生活、普段の部屋の様子が見たいのだ。
 日頃から女っ気のない男は、女の子と接する機会がほとんどない為、そのチャンスを逃すまいと必要以上に親切にしてしまう傾向がある。
「えっと、パソコンは使ったことある?」
「自分のノートパソコンを持って来てます」
「あ、そうなんだ・・・・」
 真樹は「え〜難しくて分かんな〜い」と苦しむナナに優しく教えてあげるという妄想を抱いていたのだが、一気に目論見が崩壊した。
「じゃあ、ケーブルをそっちの部屋に繋げばいいのかな」
「え、出来るんですか?」
「あぁ、ルーターから一本繋げばいいだけだよ。今までは他の部屋にパソコンがなかったから、オンラインゲームのためにゲーム機に繋いでるだけだったんだけどね」
「ぜひお願いします! わぁ、嬉しい」
 手を合わせて軽く拍手して喜ぶナナを見ると、目論見が外れた悲しさも和らいだ。だがせっかく部屋を掃除してまで招待したのに、これでは骨折り損だ。
「そうだ、さっき録画したグンダムツインズ、見ていく?」
「あ、でも・・・・あたしはDVDを買って見てますから、タイムラグがあるんです。だから今こっちの放送分を見ちゃったら面白くないので・・・・」
「あ、そうか。どこまで見たの?」
「丁度ツインラヴァーズが登場したところです。恋愛同盟を結成して」
「あぁ、その辺りか。本放送では、先週は遂に・・・・」
「あ、先に言っちゃ駄目ですよ〜!」
「ご、ごめん、そうだった」
 情報を他人に言いたくてたまらない性格も、オタクであるが故の悲しさだった。
「そういや君はゲームとかする?」
「ええ、大好きです。ゲーム機も何台か持ってますよ」
「どんなジャンルが好き?」
「んと、RPGとかパズルとかですね。でもゲーム全般、何でもしますよ」
「格闘ものは?」
「お侍魂とか路上格闘家とかなら、ある程度」
「じゃ、じゃあさ、いつかやろうよ」
「はい、ぜひ」
 真樹の家にはほとんど友人が来ないので、マルチプレイヤー型ゲームも専ら一人で遊ぶ。だから片方のコントローラーは埃をかぶっていて、部屋のどこかに転がっているはずだ。友人が来ないのはいないからではなく、来ても部屋に入るのが困難だから呼ばないのだ。友人が来る時でも掃除をしない真樹がナナの為に掃除をするとは、よほど舞い上がっているという証拠だろう。
 ネットをする為にケーブルを繋いであげるとは言ったが、隣の部屋まで届くような長さのケーブルは家にはなかった。
「買って来ないとな・・・・そうだ、明日」
 母が「市内を案内してやれ」と言っていたことを思い出した。
「明日、一緒に買いに行こうか」
「はい!」
 ナナが嬉しそうに微笑んだ。真樹もぎこちなく微笑み返した。
 この時、上手くやって行けそうだと真樹は思った。
 この時は。
 その夜、真樹は部屋の電気を消してもなかなか寝付けなかった。
(明日は・・・・デート、なのかな)



4th Milky に続く



話数選択へ戻る