深夜、日付けが変わった頃、惑星テスにあるギルガッソーの拠点の一つが燃え上がっていた。 人質であった女は恐怖に震え、怯えて腰を抜かし、最早一歩も動けない。 エリクソンは舌打ちし、女を放棄する事に決めた。お荷物の女を連れて歩く趣味は、彼にはなかった。だから部下にこう命じた、始末しろと。 拠点が攻撃を受けたのはこれが始めてではない。過去幾度も違う場所でギルガッソーの拠点は、星間軍に潰されてきている。 だがこの時の星間軍の攻撃は、今までとはかなり趣が異なっていた。異様な程効率が良く、無駄がなかったのだ。 いつもならば星間軍を適当にあしらい、逃走する事も可能なのだが、この時の部隊は相当の猛者らしく、一向に付け入る隙が見えなかった。 エリクソン達は指揮系統を分断され、個別に星間軍との闘いをしいられている。逃走ルートも既になくなっている。包囲され、殲滅されるのも時間の問題だと、皆が薄々感じていた。 女は、己に銃口が向けられるや否悲鳴をあげる。ブルブルと惨めにも震え、床を這って後ずさる。しゃらしゃらと豪華な服地が音をたて、身に着けた貴金属がカチャカチャと揺れた。 「た、助けてくださいませ!」 女の哀願に目もくれず、エリクソンは再び命じる。「殺せ」と。 それは見せしめの為の決断だった。女を無視し、放置する事も可能だったはずなのに、エリクソンはそれを選んだ。星間軍が夜襲をかけてまでも救けに来たのは、この女が目的だと知っていたからだ。 女はこの星の女王だった。ギルガッソーは密かに女を人質にとり、この星を好き勝手に利用した。女の為に、惑星テスはギルガッソーに貪られた。人も財も何もかも総べてを吸い尽くされた。 いつしか惑星テスにある拠点は、ギルガッソーの中でも一、二を争う程の規模となっていた……。 だがそれもこれも、昨日迄の話だ。今はもう炎に包まれ、消え去ろうとしている。 「……やあ! やめて……!」 レーザー銃が女に向けられ、今まさに発射されようとしていた時、エリクソン達は突然なぎ倒された。燃え盛る炎の中から、黒服の人影が飛び出して来る。その身には武器を帯びた様子もなく、ただ単身、エリクソン達に肉迫して来た。 「っ!! 星間軍!」 認識するや否、エリクソン達はその軍人を攻撃する。数百発のレーザーが射出された。光の線が途切れる事なく降り注ぐ。飛び込んで来た軍人は、避けるそぶりも見せなかった。 「馬鹿め!」 あざけるエリクソンだったが、星間軍の軍人は生きていた。その身に届く前に、レーザー銃から発射されたエネルギーは全て歪められ、周囲に弾かれていたのだ。壁や床、天井に光弾は吸い込まれていく。 きな臭い物が焼ける匂いと共に、黒い色が眼前に飛び込んで来た。避ける暇すらなかった。 圧倒的なまでの戦闘力を持ち、女を庇う様に立った軍人は、その力をエリクソン達に振るった。光が視界を焼く。 「ぎゃああああ!」 「ぐは!」 複数の断末魔の悲鳴が響いた。エリクソンも激痛と共に、絶叫を上げその場に倒れる。視界が一瞬で赤く染まり、何も見えなくなる。顔と足からダラダラと血が流れた。 エリクソンの顔はざっくりと切り裂かれ、両目は無惨にも潰れていた。足先はあらぬ方を向いている。 その日、エリクソンが最後に見た光景は、黒服の袖に縫い取られた桜の徽章だった。 (桜!? 桜花部隊か!!) 驚愕の思いと共に、エリクソンは昏倒した。
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