昂と唯
作:MUTUMI イラスト:Holy Holidayより

1100キリの湯沢 孝さんからのリクエストです。キリリク題材は『恋愛もの』でした。


春の訪れとともに、その葉書は来た。味気ない官製葉書。ごくごく短い文章。


第4小学校6年1組、同窓会通知
4月20日、午後12時からレストラン『ピース』にて行います
                     幹事:三浦 唯(みうら ゆい)


「・・・第4小学校6年1組か」
俺は葉書を手に、独り眉間に皺を寄せた。
はっきりいって良い思い出なんぞ無い。どちらかといえば、あまり思い出したくもない過去ばかりだ。
自分の中でも封印に近い記憶の数々。決して会いたくはない同級生達。
「さて、どうするかな?」
俺は呟き出席に丸を入れるか、欠席に丸を入れるか悩んだ。
「幹事は三浦か。あいつは・・・」
多分あの頃の、俺の唯一の味方だった。
俺はショートカットのソバカス顔を、懐かしく思い出すと、出席の方に丸を入れ、葉書を近所のポストに投函した。


□□□□


桜が散り緑の葉がぱらぱらと目立つ、そんな並木道の中、俺はあくびをかみ殺しながら構内を移動していた。
次は林田の授業だ。この気候では完全に寝てしまうな。
「おはよ。昂(すばる)」
ポンと肩を叩かれ振り返れば、悪友仁野(じんの)がいた。
午後2時半で、おはようもないだろうが。
「今からか?」
「おう。あ、そうそうお前に借りてたCD返しとくわな」
鞄をごそごそと捜し、仁野はぼろぼろのCDを俺に差し出した。CDケースは見事に大破していた。
「・・・仁野。踏んだな?」
「あはは、悪い、寝ぼけててさ。だけど中は無事だぞ」
悪びれもせず仁野はそう言い、ふと真顔で俺を見た。
「弁償しようか?」
「いや。いい。どこにでもあるCDだしな。それよりお前、寝ぼけてたというのは嘘だろう? 何かあったのか?」
仁野は困ったように頭をかき、小声で答える。
「実はバイクとぶつかってさ、俺は無事だったけど荷物がおしゃかになって。昂のCDも駄目かと思ったぜ」
おいおい。
「仁野・・・、呑気に笑ってる場合か。怪我はないのか?」
「俺? ああ、平気。頑丈だし」
・・・お前はそれで済ますのか? もう少し自分の体を心配しろよな。
俺は独り溜め息をつき、この唐変木を見やった。

良く見ればあちこちに絆創膏が貼られている。微かに湿布の匂いもしていた。
「う。湿布臭いな〜」
「え、臭うか?」
「ちょっとな」
仁野はくんくんと自分の体臭を嗅ぐ。
いや、お前の鼻は麻痺してるからわかんないって。
思わずそう言おうとしたら、背後からかん高い嬌声が聞こえた。

「あー。昂先輩だ! ちょっと、ねえ。ラッキーよ」
「やだー、本当だ」
「ね、ね。声かけようよ」
そんな会話が耳に飛び込んで来る。

・・・またかよ。
うんざりした表情で俺は仁野を見ると、さっさと踵を返した。
仁野も慌てて不機嫌な俺の後を追って来る。
「うひゃ〜、相変わらずもてるな、昂」
「仁野」
幾分か低い俺の声音に仁野は首を竦めた。
「はいはい。昂ってさこういう話題に興味ないのか?」
「そういう訳じゃない。ただ、うざいだけ」
俺はばっさりと切って捨てる。
ああいう歓声ははっきり言って迷惑だった。全然嬉しくなんかない。だいたいろくな事がないんだよ。あの手のやつはさ。

「うざいね〜。俺からすれば羨ましいけどな」
仁野は腕を組みつつ、勿体無いとかほざいている。
「どうだか。彼女持ちに言われたかないね」
俺は仁野の弱点、すげえ可愛がってる彼女の話を持ち出し、逆にそう振ってやった。
全く、あんまりそういう事を言ってると、つぐみちゃんに言いつけるぞ。
俺の思いなぞ知らず、仁野は途端に締まりのない顔に豹変する。
「へへ。昂聞いてくれ〜。こないだつぐみが手料理作ってくれたぞ」
・・・目出たい奴だな。そこまで露骨に喜ぶか?
「何とも羨ましいこって」
独り者の俺には、想像もできない世界だ。

「昂も彼女作ればいいじゃんか。凄くもてるのにさ。お前ってイケメンだし」
・・・イケメンか。何故か最近はよく言われるな。
俺はそう思いつつすかさず反論した。
「俺のどこがイケメンな訳? のっぽのがりだぜ」
だいたい服だってセンスないし、っていうか俺の定番はユニクロだよ。仁野みたいにスタイリッシュじゃない。
しかし、仁野はすかさず叫び返してきた。
「195cmのモデル体型が言うな、それ! 」
「あー、悪い」
身長をかなり、というか大分気にしている仁野に言うべき台詞ではなかったな。反省。
けど仁野が決して低いという訳ではない。185cmは十分にある。ただ俺と並ぶと低く見えるというだけだ。

まあ、仁野は性格もいいし、俺と同じ学部なんだから当然頭もいい。何で俺とつるんでるのかと思うぐらい、いい奴だ。何よりつぐみちゃんという可愛い彼女もいる。
どっちかって言うと、仁野は学生ライフをエンジョイしている方といっていいだろう。
それに対して俺はというと、性格はひねてるし、口は悪いし。あんまり良い所がない。
というか、このモデルばりの外見がなければ誰も近寄ってはこないだろう。
・・・多分な。
過分な体格と、なかなかの(仁野によるとハンサム系らしい)面構えがなければ、何の取り柄もない冴えない貧乏学生だ。
最も仁野に言わせれば、それだけで十分だ! という事になるらしいが・・・。
俺はどっちかって言うと、人当たりのよい仁野が羨ましかったりする。
ないもの強請りって奴だ。だから親友でいられるんだろう。

「あ、そうそう昂。今週のバイト代わってくんない? ちょっと急用でさ」
仁野は半ばもみ手で俺に迫って来る。
急用? どうせつぐみちゃんとデートだろうが。
俺は胡乱な目で仁野を見た。
「何時だよ?」
「4月20日」
仁野はそう言い、期待に満ちた眼差しを俺に向ける。
悪い、仁野。その期待は水に流せ。
「駄目だな。その日は俺も用事があるぜ」
俺がそう言うと仁野は、かなり驚いた顔をして俺を見た。
俺だって忙しい日ぐらいあるって。

「えーー!? とうとうお前もデートか?」
あのな〜。休みの用事がデートとは限らんだろうが。
「お前と一緒にするな。同窓会だよ。冷やかしに行って来る」
俺がそう告げると仁野は、真顔で俺に向かって忠告した。さっきまでのふざけた態度とは大違いだ。仁野にはこういう良い所が多い。だから友人も多いんだろうな。
「大丈夫か? お前ってそういうの苦手なんだろ?」
「まあ、な。いやここらで、トラウマを解消しとこうかなと思ってさ」
俺は仁野の憂慮を笑い飛ばすつもりでそう言った。
「?」
「まあ、色々とな」
俺は苦笑とともに言葉を濁す。仁野にも言ってない事は山とある。
「何だよ、言えよ」
気になるのか、仁野は俺に詰め寄って来た。
いや本当にささいな事なんだぞ。聞いてがっかり、な〜んだとか言うなよ。

「昔俺ってすげえチビで、100kg近く太ってたから、散々クラスメイトから虐められてさ。だからその頃の事が俺の中ではトラウマになってる訳。今回の同窓会は、虐めてた奴らとなんだよ。」
「おい。・・・止めとけよ、全然楽しくないって」
仁野は心配そうに俺を見る。
「かもな。だけど幹事が三浦でさ、ああ、三浦って当時色々かばってくれてた女の子なんだけど、そいつの顔をたててやろうかなと思ってさ」
「顔をたてる? 今時そんな事誰も気にしやしないって」
「かもな。けど、まあ。ちょっと三浦には会いたいしさ」
俺がそう言うと仁野は身を乗り出してきた。
「おおっ。その反応は、まさか!? 昂の初恋か!?」
独り熱くなる仁野に対し俺は苦笑を向ける。
「どうかな。もう覚えてないよ」
「その言い方は間違いなく初恋だな! そうか、お前にもそんなアンニュイな時期があったんだな〜」
おいおい。仁野、それは言い過ぎ。

「そっか。じゃあ仕方がないな。初恋は何時までたっても甘い思い出だしな。それで、どこでやるんだ?」
「大学の近所の『ピース』ってレストラン。知ってるだろ?」
「おう。あそこは美味しいぞ。つぐみのお気に入りだし。ありゃ、昂ってこの辺出身だったのか?」
身近な話題に仁野は、きょとんとした顔をする。そういえば、仁野と知り合ったのは大学に入ってからだったな。
「言ってなかったけ? 小学校はこの近くの第4だぜ」
「ええ!? そうなのか? 俺は第3だった。意外に近かったんだな〜」
驚いた顔をして仁野はそう呟く。
鳩が豆鉄砲を食らったみたいだな。ちょっち、間抜けだぞ。
「そんなもんだろ?」
あくまで俺はクールにそう評する。
だいたいが人間の出合いというものはこんなものだろう。学校が違えば幾ら近くても、知り合う確率なんて低くなるものだ。どこかで会ったかも知れないが、そんな事昔の自分には関係ない。大学でこうして友人になれたんだから、いいではないか。
「かーー、もう昂はクールだな。もっと残念がらんかい!」
仁野はエルボーをかましてくる。
「何するんだよ〜」
「何する〜? こっちの台詞じゃい! もっとこう、ああ残念! とか顔に出せ〜」
「ああ!? 仁野それは無理!」
呑気な俺達はそんな事を言い合いながら、そろって林田の授業へと向かった。
季節は麗らかな春だった。

どうでもいいが、この気候は罪だな。ああ次の授業、もう完全に寝るぞ。


□□□□


4月20日、運命の日がやって来た。


始めての幹事、こんなことやった事なかったけど、上手くいくんだろうか?
うわ〜、何かドキドキする〜。みんなに会うのは小学校以来かな? ちゃんと皆の顔がわかるだろうか?
幹事が名前を間違えたら顰蹙だろうかな?
や〜ん、ドキドキしてきた〜。
私はそんな事を考えながら、バタバタと準備を整えていった。

えっと、ドリンクはフリーだし。席は自由席だから、特に決める事もないし。それから・・・。
「唯(ゆい)、唯っ」
「え、何?」
手伝ってくれている品川香(しながわ かおる)、かおちゃんがそっと私に囁く。
「ねえ、秋田昂(あきた すばる)も来るの?」
「うん。出席葉書をくれたよ。久しぶりだよね〜、ずっと秋田君には会ってないもんね〜」
秋田昂君、中学校1年で転校していって以来、今回始めて会う同級生だ。最近またこっちに越して来たって話を聞いた事がある。
あ、だからこの同窓会に参加してくれたんだろうか?
遠方の学校に行ってる人達は、さすがに不参加だったしね。

「何か気まずくない?」
こそっとかおちゃんは呟く。
「どうして?」
理由がわからず私は小首を傾げた。背中まである長い栗色の髪がさらさらと心持ち揺れる。
や〜ん。うっとうしいな。切っちゃおうかな?
そんな私に構わず、かおちゃんは言い難そうに、耳元でこそっと囁いた。
「だって昔、散々みんなが虐めたじゃない」
「そうだっけ?」
あ、そういえば秋田君って虐められっ子ぽかったな〜。
「かおちゃんも虐めたの?」
花を飾りながら私がそう言うと、かおちゃんはがくっと机に突っ伏した。
や〜ん、かおちゃん、テーブルクロスがよれちゃうよ〜。折角お店の人がセッティングしてくれたのに〜。

「あんたって可愛い顔して、時々デリカシーないよね。まあ、いいけど。私はしてないよ、そんな事。でも止めなかったと思う。唯はよく秋田を庇ってたね」
んん? そうだっけ?
「庇ってたかな? あんまり覚えてないや」
でも私、苛めって嫌いだったしな〜。
「そこが唯の良い所よね」
かおちゃんは独り、うんうんと頷いている。
何か知らないけど、かおちゃんちょっと真面目に手伝ってよ〜。みんな来ちゃうよ〜。

「大丈夫かな、秋田? また篠原(しのはら)がふざけないかな?」
「篠原? 何、あいつまだ虐めなんてしてるの?」
私はあっけに囚われそう聞き返した。最近は会ってない、というか学校も違うし、消息すら知らないけど、確か昔順番に色んな子を虐め倒してた人だ。
はっきり言って、私とはソリが会わない。というか、・・・大嫌いかも。
多分かおちゃんもそうだろうな〜。
「う〜ん、あんまり良い噂聞かないよ」
「そうなんだ。じゃあ、秋田君来ない方が良いのかな?」
私はちょっと心配になってそう呟いた。
「どうかな。でも秋田には久しぶりに会いたいよね」
かおちゃんはそう言って、笑う。
「そうだね。秋田君良い人だったしね〜」
この件は私が幹事なんだから、気を付けていよう。秋田君に嫌な思いをさせたくないもんね。
「おかしな事になってきたら、私も加勢するからね! もうあの頃とは違うんだから、篠原にもがつんと言ってやるわ!」
かおちゃんは、頼もしく胸をドンと叩く。
私は何だか可笑しくて、くすくす笑ってしまった。

そっか、かおちゃんも気にはしてたんだ。
でも、文句を言う勇気がなかったんだね。

そんな会話をしている内に、何時の間にか12時になろうとしていた。
いよいよ同窓会が始まる。


□□□□


1番に来たのは佐藤(さとう)君だった。
「えーー、もしかして三浦さん!? うわ、滅茶苦茶綺麗になったね!」
「そう?? へへへ、ありがとう」
「僕少年野球の頃のバットを持った、ソバカス顔の三浦さんしか想像してなかったからびっくりしたよ」
・・・佐藤君それは酷くない??
「佐藤言い過ぎ」
かおちゃんはぼそっと囁き、チョップを佐藤君に落としていた。
「うわ。品川、変わってないな〜」
「誉めてんの? それ」
かおちゃんと佐藤君はそんな事を言い合いながら、じゃれる。
私は知ってる。かおちゃんが今も佐藤君を好きな事を。
いいな〜、かおちゃん。楽しそう。
けど、私は幹事。かおちゃんみたいに遊べない〜。 この同窓会を成功させるのが仕事だもんね。
独り力の入る私には関係なく、定刻になり級友達が続々と集まってきた。どんどん団欒の輪が広がっていく。懐かしい顔が次々に増えていった。

後、まだ来てないのは篠原と秋田君だけか。
私はジュースを片手にぼんやりとそんな事を思う。
もう始まって30分は過ぎたな。二人とも今日は来ないんだろうか?
なんて私が呑気にも思っていた時、さっきかおちゃんとの話題に出ていた篠原がやって来た。
「よっ。みんな久しぶり!」
篠原は高級そうな黒のブランドスーツを着こなし、朗らかに言う。
た、高そうな服だな〜。
「おお、すげえ。アルマーニか、それ??」
目ざとくブランドを察した佐藤君は、そう言って篠原の服地を摘んだ。
「いいだろ? こないだようやく、バイトした金を溜めて買ったんだぜ」
自慢そうに篠原はそう答える。
いいっていうか、なんていうか・・・。やーさん?? 状態の気がする。これは笑っちゃ駄目だろうか??

皆を見ると、あっけに囚われているクラスメイトが過半数だった。
そうよね。いくらブランドでも、篠原じゃやーさんにしか見えないし。かっこいいとはとても思えない。服が体格に合ってないもの〜。
そっとかおちゃんを窺うと、かおちゃんは篠原に背を向け笑いをかみ殺していた。
・・・やっぱり、誰が見ても笑えるのね。篠原君ってこんな人だったかな? 妙に感覚がずれてない?
まあ、もう苛めはしなさそうな感じだけど。
私はかおちゃんと話していた事が杞憂に終わった事に、やれやれと肩を竦め、まだ来てないない秋田君の事を考えた。
あとは、秋田君だけか。まだ来ないのかな??

私はほんわりと、麗らかな日射しの中そう思いつつ、ふと窓の外を見た。
窓の外は緑地になっていて、妙に心地よさげだったりする。
いいな〜。散歩行きたいな〜。芝の上でお昼寝したいかも〜。
あれ? あそこに何か妙に目立つ人がいるな〜。誰だろう? 芸能人?? かな?
そう思って見ていると、その目立つ人はまっすぐに私達のレストランに向かって来た。近くで見ると増々格好良かったりする。
きゃー、凄く格好良いよこの人。
うわ。背高い〜。スリム〜。すごーい。どっかのモデルさんかな??
のんびりとそんな感想を抱いていると、その人はレストランのドアを開けて入って来た。
あれ? 今日は貸し切りなのに間違えたんだろうか?? 私が幹事なんだから、教えてあげなくちゃ駄目だよね 。恥ずかしい思いはさせられないものね〜。
ちょっと緊張しながら、私は新しく入って来た格好良い人の側まで寄って行った。


□□□□


最悪。完全に遅刻だ。気まず〜。
俺はそんな事を思いながら、幹事のはずの三浦を捜した。
俺の存在に完全に浮き足立っている男どもと、いつもの嬌声が聞こえそうな女どもに囲まれ、俺はちょっと後悔する。
あれ? 三浦はいないのか??
特徴のあるソバカス顔がないので困惑した俺に、栗色の長い髪の女が近寄って来た。
どこか見覚えのある顔、何かが頭に引っ掛かる。
何だろう?
そんな俺の疑問はすぐに氷解した。

「えっと、今日は私達の貸し切りなの。ごめんなさい〜、お食事は出来ないと思います」
この声って、間違いなく。いや、絶対そうだよ!
「もしかして、三浦?」
俺はちょっと遠慮がちに聞いてしまう。間違えてたら失礼だしな。
「ほえ? うん、そうだけど・・・って、まさか。秋田君!?」
女、凄く綺麗になった三浦は俺を指差し叫ぶ。
「おう。三浦美人になったじゃんか。ソバカス消えたのか?」
「うん、まあね〜。・・・って私なんかより、信じられない。本当にあの推定体重100kgの秋田昂君!?」
うおう、この容赦のない台詞はまさしく、三浦だな。
俺は子供の頃と中身が変わらない三浦を前に、嬉しくなった。実は初恋が幻想になるのかと思ってここに来るまで、ビクビクしてたんだよな。

「そうだよ。久しぶりだな」
「嘘、ええっ。秋田君、滅茶苦茶変わったね〜」
三浦は俺をしげしげと眺めながら、そう宣う。
そ、そんなに変わったか?
多分みんなびっくりしたんだろうな。見事に固まっている。何もそこまで驚かなくてもいいじゃんかよ。
「まじ、秋田??」
「お。品川? ああ、お前って変わってないな〜。すぐわかるぞ」
俺がそう言うと、品川はかなり擦れた吐息を一つつく。
「凄いレベルの男になったわね〜。モデルか何かしてるの?」
「いや。してないよ。ただの大学生」
言いつつ、三浦がそっと差し出してくれたジュースを受け取る。
「サンキュ」
そう告げると、三浦はほっとしたようににっこりと笑った。

「昂君元気そうで良かったよ」
そう言って、三浦は嬉しそうに笑った。
やっぱり、かなり心配させてたんだろうか? 俺って、虐められっ子のイメージが強かったからな〜。
「三浦も元気そうで何より」
外見はともかく性格の変わってない三浦を前に、俺はかつてどうしても言えなかった、ありがとうを込めて笑いかけた。
三浦はちょっと赤くなって、俺を見る。
なあ、これって、ちょっとは脈ありなのかな??
俺は呑気にそんな感想を抱いた。

「ところで三浦、明日暇か?」
「私?うん、暇だけど」
きょとんとする三浦に俺は独りほくそ笑む。
この様子では彼氏はいないな。じゃあ、俺がアピールしてもいいよな? 初恋は実らないって人は言うけど、そうとも限らないだろう??
なあ、そう思わないか?

とっても綺麗になった三浦を前に、俺は仁野がどうしてつぐみちゃんの事を、あんなに嬉しそうに語るのかがわかった気がした。
誰だって好きな人の事を話すのは、嬉しいものだよな。俺が三浦の事を話す時も、仁野と同じ顔をこれからするんじゃないだろうか?
そう漠然と感じた。

こうして麗らかな春の日、俺と三浦は再び出会ったのだった。俺達の物語はこれから始まるのだ。・・・たぶん、きっと・・・な。                  END