× × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × |
ある日のこと。根性無し街道まっしぐらのアールが、近所の雄猫と面と向かってケン
カをしている場面に遭遇したことがある。
その時は、一瞬我が目を疑ってしまった。(何せ、いままでは、さすがに押し入れに
逃げこむことはなかったが、真っ向からケンカをすることはなかったから。ほぼ確実
に顔をあわせた時点で逃げている)
そのアールが、やっと雄猫の本能に目覚めたのかと、子の成長を喜ぶ親の気持ちで感
激していたのだが...。
なんか変?そう、アールの様子がおかしいのだ。どうも、ケンカしている雰囲気では
ない。鳴き声に切羽詰まったような響きがあるように感じるのは、気のせいだろう
か?
そう思ってよく見てみると、なんと、アールの豚巻しっぽ(属に言う“カギしっぽ”
のことだが、アールのは豚のしっぽのように、くるんと巻いているのでこう呼んでい
る)が屋根と廂の間にはさまって抜けなくなっている。
そう、アールは雄の本能に目
覚めたわけではなかった。ただたんに、逃げたいのに逃げられないだけだったのだ。
それを確認したわたしは、(本来なら哀れなアールを救いに行かねばならないのだ
が)そのあまりのバカさ加減に、ついつい大爆笑してしまった。
薄情な飼い主の助けが、得られないことに気付いたのかどうか。アールは悲壮な鳴き
声を上げるばかり。
そして、何分経過したのか定かではないが、アールの鳴き声が聞こえなくなったのに
気付いた瞬間、足元を一目散に駆け抜ける黒い影。
どうやら、死にもの狂いのアールは、強硬手段で無理矢理しっぽを引き抜いたらし
い。確認してみれば、廂がほんの少し欠けていた。(よくもまあしっぽの方がちぎれ
なかったもんだ)
そして、世にも恐ろしい体験をしたアールは、例によって例のごとく。押し入れの奥
に逃げ込んで、一日中出てこなかった。
もちろん、その間、わたしの部屋がアールのおトイレ替りになったことは言うまでも
ない。
|
|
作:MIHO |
 |
ひえ〜 |
 |
|
|