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ある日のこと。根性無し街道まっしぐらのアールが、近所の雄猫と面と向かってケン
カをしている場面に遭遇したことがある。 
その時は、一瞬我が目を疑ってしまった。(何せ、いままでは、さすがに押し入れに
逃げこむことはなかったが、真っ向からケンカをすることはなかったから。ほぼ確実
に顔をあわせた時点で逃げている) 
 
そのアールが、やっと雄猫の本能に目覚めたのかと、子の成長を喜ぶ親の気持ちで感
激していたのだが...。 
なんか変?そう、アールの様子がおかしいのだ。どうも、ケンカしている雰囲気では
ない。鳴き声に切羽詰まったような響きがあるように感じるのは、気のせいだろう
か? 
 
そう思ってよく見てみると、なんと、アールの豚巻しっぽ(属に言う“カギしっぽ”
のことだが、アールのは豚のしっぽのように、くるんと巻いているのでこう呼んでい
る)が屋根と廂の間にはさまって抜けなくなっている。 
そう、アールは雄の本能に目
覚めたわけではなかった。ただたんに、逃げたいのに逃げられないだけだったのだ。 
 
それを確認したわたしは、(本来なら哀れなアールを救いに行かねばならないのだ
が)そのあまりのバカさ加減に、ついつい大爆笑してしまった。 
薄情な飼い主の助けが、得られないことに気付いたのかどうか。アールは悲壮な鳴き
声を上げるばかり。 
 
そして、何分経過したのか定かではないが、アールの鳴き声が聞こえなくなったのに
気付いた瞬間、足元を一目散に駆け抜ける黒い影。 
どうやら、死にもの狂いのアールは、強硬手段で無理矢理しっぽを引き抜いたらし
い。確認してみれば、廂がほんの少し欠けていた。(よくもまあしっぽの方がちぎれ
なかったもんだ) 
 
そして、世にも恐ろしい体験をしたアールは、例によって例のごとく。押し入れの奥
に逃げ込んで、一日中出てこなかった。 
もちろん、その間、わたしの部屋がアールのおトイレ替りになったことは言うまでも
ない。 
 
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| 作:MIHO | 
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  ひえ〜 | 
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