2005年4月9日に亡くなったヴァニラは、死亡解剖により、肥大型心筋症(HCM)であったことがわかりました。
このページでは、HCMについて獣医師から伺った話や経験など、参考までに書かせていただきたいと思います。

我が家に来てから亡くなるまでの1年間、ヴァニラの健康状態について振り返ってみました。
ヴァニラはとても元気のよい子でした。滅多なことでは体調を崩すこともなく、同居猫のマロンよりもストレスに強い子でもありました。
病院に連れて行くのも、「調子が悪いから」という理由からではなく、ワクチンや去勢手術など、避けがたい事情によるもので、
そこでの健康チェックも、いつも問題がないという健康優良児でした。生後3ヶ月で行う2度目のワクチン接種後も元気にしていました。
一度だけ体調を崩したことがありますが、それも去勢手術の時だけで、1泊入院したら、次の日にはすっかり元気になっていたくらいです。
かかりつけ病院で、ヴァニラの初診から亡くなるまでの全てのカルテを見せていただきましたが、
心音に関しては毎回「N.P」(No Problem)と記されており、特に異常がなかったことを表しています。
病院に行く度に聴診器は当ててもらっているので、心雑音というものが全くなかったのか、聞き取れなかったのか…ということになります。
普段からの健康状態に何も問題もなく、心音も異常がなかったので、超音波検査(エコー)は特にしていただくことはありませんでした。
2005年4月1日夜に3種ワクチンを接種、翌日の昼から食事をしなくなり、その日の晩から明け方まで7回の嘔吐が続きましたが、
それまでは本当に元気に過ごしていました。その元気ぶりは、これまでの日記をご覧いただければわかるかと思います。
毎日の生活の中で、遊んでいても息を切らすこともなく、ぐったりすることもなく、下肢を引きずるようなことは一度もありませんでした。
食事に関しても常に適量をキープし、太ることもなく、体重こそ4kg台前半とやや軽く感じましたが、理想的な体型をしていました。
ウンチに関しては共に生活した1年の中で一度も便秘・下痢をしたことがなく、オシッコも毎日決まった回数と量を維持していました。
そんな健康体そのもののヴァニラが、体調を崩し、1週間というあまりにも速すぎるスピードで逝ってしまったことが、今でも信じられません。
よく、お友達から「ヴァニラちゃんは元々健康で体力もあるから、すぐに元気になるはず」と生前に励まされていましたし、
家族として1年間、一番近くで成長を見守り、共に暮らしてきた私自身、最もそう信じてたくらいですから…。
亡くなる2日前に入院した時に、初めて「急性腎不全」と診断され、その時は不安とただただ良くなって欲しい思いでいっぱいでしたが、
病院の先生も「来年のワクチンの時には…」という言葉に少し安心し、ヴァニラは今は大変かもしれないけど、すぐにまた元気になって、
今後は腎臓の具合にも注意しながら頑張って病気を克服し、来年も再来年も、これからずっと一緒に生活できるものと信じていました。
本当にヴァニラがあの時に危篤状態であれば、先生も軽々しく「来年」の話などしなかったと思いますし…。
ただ、楽観できないこととしては、腎臓を悪くしてしまった原因がわからないままであったこと。
もし食事や生活習慣が原因だとしたら、同じ生活を送っている同居猫のマロンも、いつかは腎臓を悪くしてしまうのではないか…。
何がヴァニラの腎臓に影響してしまったのか…。とても気がかりなことではありました。
4月8日、入院して1日が経って、ヴァニラの様子を伺いに病院に面会に行きましたが、血液検査の数値も良くなってきており、
まだ、その時点では退院の予定日の話は出ませんでしたが、先生からは順調な回復ぶりだと言われていました。それなのに…。
4月9日の朝、先生が8時過ぎに出勤したところ、すでにヴァニラの呼吸は弱々しいものになっていて、間も無く自力で呼吸もできなくなり、
人工呼吸器を装着したようですが、すぐに心停止になり、心臓マッサージを行った模様です。病院から連絡があったのもその時です。
主人と急いでタクシーに乗って病院に向かったものの、着いた時にはヴァニラはもう「ダメ」な状態になっていました。
機械によって、先生の手によって、辛うじて「生かされている」だけで、その時の悲惨な姿というのは、筆舌に尽くしがたいです。
心臓マッサージの手は、私が病院に着いてからも20分以上続けられていましたが、「これ以上続けても帰ってこない」ということと、
「ヴァニラちゃんの心臓を痛めつけてしまう」ということで、その手を止めていただき、9時20分、ヴァニラは永遠の眠りに就きました。
ヴァニラは帰ってこない…その事実は目前の光景からはっきりとわかることなのに、簡単に受け入れることはできませんでした。
確実に快方に向かっていたはずなのに、まだ原因も何もわかっていないのに、なぜこんなにも突然に…。1歳3ヶ月という若さで…。
本当だったら、愛する家族を亡くした悲しみだけでいっぱいだというのに、私は全ての疑問を明らかにしたく、死亡解剖を希望しました。
普通ならかかりつけの病院で行っていただき、病理解剖についても、その病院提携のラボで行っていただくところですが、
あの時の私は何も信じられない思いでいっぱいだったので、これまで全くかかわりのない第三者である病院に依頼することにしました。
限られた時間、週末であること、まして通常考えられない依頼ということで、ほとんどの病院には電話で断られてしまいましたが、
ある病院だけが、快く解剖を引き受けてくださりました。このことには深く感謝しています。K先生、本当にありがとうございました。
亡くなった当日には、開腹して肉眼検査をしていただき、デジカメ画像を見ながら、ヴァニラのカラダについて説明を受けました。
そこで初めて「肥大型心筋症」の疑いがあることを知りました。心臓の断面写真も見ましたが、たしかに心筋が厚くなっていました。
そしてラボでしていただいた病理解剖の結果、「心筋線維の錯綜配列」が認められ、ヴァニラが肥大型心筋症だったと確定されたのです。
(これらの結果については、詳細を別ページで紹介していますので、こちらのほうをご覧いただけたらと思います。)
正直、解剖を依頼しておきながら、その分、長い間いろいろな事で、本当につらい思いをしてきましたが、この決断に後悔はしていません。
悲しみや苦しみが半減したとしても、何も知らないまま、再び同じ過ちを繰り返してはいけませんから…。同居猫マロンのためにも。
『イラストでみる猫の病気』(編集:小野憲一郎・今井壯一・多川政弘・安川明男・若尾義人・土井邦雄/発行:講談社)より抜粋しました。
猫の心筋症は心臓の筋肉の厚さや状態によって大きく3つにわけられます。
1つは、心臓の筋肉がどんどん厚くなってしまう肥大型心筋症、
2つめは、逆にどんどん薄くなって心臓が大きくなってしまう拡張型心筋症、
3つめは、心臓がうまく広がることができずに働きが低下する拘束型心筋症です。
このうち、猫では肥大型心筋症が最も多く発生して、心筋症全体の6〜7割を占めています。
肥大型および拘束型心筋症では左心室が狭くなるために、その上にある左心房に血液がたまって大きくなり、
X線では「バレンタインハート」と呼ばれる特徴的な心臓の形をみることができます。
このような状態では、心臓の働きは急激に低下し、同時に肺水腫がおこっていることが多いので、「バレンタインハート」とともに
この肺水腫を知ることによって肥大型あるいは拘束型心筋症を予測することができます。
さらに突然の痛みと同時に起こる後肢の麻痺もこの病気の1つの特徴とされています(腸骨動脈塞栓症)。
これらの症状は進行が早く、ある日突然起こり、1〜3日以内に急激に悪化することがある(ショック状態)ので、
できるかぎり早く治療する必要があります。
肥大型心筋症は、主に左心室の筋肉が急激に厚くなり、左心室が狭くなって血液をためることができなくなるために、
体全体が必要とする血液が心臓から出なくなって全身の働きが低下し、多くの臨床症状が出てきます。
最も重要な症状は、呼吸がうまくできない(呼吸困難)ことと、一日中ぐったりしている(運動機能の低下)ことです。
呼吸困難は、肺に水がたまる(肺水腫)ことによって出てきますが、同時に咳もみられます。
運動機能の低下は、体が必要とする血液が心臓から出てこないために、
全身の臓器(心臓、肝臓、腸、筋肉など)の機能が動かなくなるために出てきます。
また、比較的多い症状として後肢の麻痺(後駆麻痺)が起こる場合がありますが、
腹部の動脈(腹大動脈)に血液のかたまり(血栓)が詰まってしまうために、
後肢に血液がゆきわたらず麻痺が起こることによって出てくる症状です(腸骨動脈塞栓症)。
この状態が長く続くと後肢の先端(爪の部分)が壊死してしまいます。
ヴァニラの場合…

死亡解剖の肉眼検査でも、心臓の断面写真から左心室壁が分厚くなって、左心室内が狭くなっているのが認められました。
ただ、壁の筋肉が内側に内側に肥厚していようで、心臓そのものの大きさや形に顕著な異常はなかったため、
4月7日(入院当日)に血液検査と同時にしていただいたX線検査でも、心肥大やバレンタインハートは認められなかったのでしょう。
また、4月2日の嘔吐から9日に亡くなるまでの1週間はは、食欲がなかったり、大人しくじっとしていることも多かったですが、
それ以前の生活ぶりではとにかく元気で、呼吸困難を起こすことも、咳が出ることも、まして後肢の麻痺も全く見られませんでした。
通常の診察時の聴診でも心拍数も心雑音も異常がなかったので、この病気の発見は解剖をしなければわからなかったものと思います。
ヴァニラの死亡解剖結果をもとに、かかりつけ病院の担当獣医師と解剖してくださった獣医師に直接聞いた話をまとめました。
肥大型心筋症の診断では、まず最初に聴診器で心音と心拍数を聞いて異常がないか診ますが、
肥大型心筋症でみられる心雑音を、必ずしも聴き取れるわけではないそうです。心雑音が認められない場合もあるそうです。
心拍があまりに速くて、心雑音を聴き取りにくいというの1つの理由だそうです。もちろん、異常を聴き取ることができるドクターもいます。
X線検査でも肥大型心筋症を見つけることができるということですが、
やはりヴァニラのように心臓そのものの大きさに異常がない場合、病気の発見は難しいようです。
超音波検査によって、心筋の厚さ・心室の大きさ・弁の働き・血液の流れを調べることが、有効的な診断方法といえるようです。
ただ、嘔吐が続いていたり、食欲がないといった症状から検査をするという点では、まずは聴診があって血液検査があって、
その後、X線検査や超音波検査をするといった順番がほとんどだし、特に嘔吐とかの場合であれば、腹部を中心に検査をするので、
聴診で心雑音が認められていない状況であれば、最初から心臓を中心に調べるということはまずないということでした。
先生に言わせれば、ヴァニラの場合、そういった細かい検査をする時間もなく、予想外の早さで逝ってしまった…ということです。
4月7日の入院時の診断では、病名が「急性腎不全」ということでしたが、この呼び方は漠然的に使うそうです。
血液検査の結果「BUN」「CRE」の数値に異常がみられ、その2つの数値が高いと一般的に「急性腎不全」と呼んでいるそうです。
実際に腎不全を起こした腎臓というのは、表面に凹凸が見られたり、形も萎縮してしまっているのですが、
ヴァニラの場合は、解剖結果からも腎臓そのものには顕著な異常が見られませんでしたし、
私自身もデジカメ写真で腎臓を見せていただきましたが、サイズも形態も変化がなく、結石も見られませんでした。
オシッコの濃度もやや薄めではあったものの、それほど重大な問題ではなかったようですし、pHも正常範囲内、潜血もありませんでした。
つまり肥大型心筋症によって循環不全に陥り、その結果、尿毒症を引き起こしたのではないか…ということです。
それが血液検査の「BUN」「CRE」の異常値となってあらわれたのでしょう。
「急性腎不全」と診断した場合、その治療は輸液療法や利尿促進によって尿毒症の改善を促しますが、
心臓に疾患を抱えている場合であれば、輸液の量やそのスピードにも十分注意が払われなければなりません。
輸液によって急激に血流量が増えるので、心臓の動きに負担になるからです。
実際に、入院した次の日の血液検査では、輸液の効果もあって「BUN」「CRE」値も下がってきていたのですが、
心臓には多少なりともダメージがあったかもしれないということでした。
肥大型心筋症だとわかっていなかったので、輸液による処置はやむ得ないことではありますが…。
肥大型心筋症については、原因というものがはっきりわからないことが多く、発症の年齢は幼齢から老齢まで様々で、
ある程度高齢になってからの発症であれば、甲状腺機能亢進症によって引き起こされることもあるようですが、
ヴァニラのように1歳という若さでの発症であれば、先天的にその病気を持っていた可能性が高いということでした。
またバーマンという猫種での肥大型心筋症の優性遺伝についてはメインクーンやアメリカンショートヘアのような報告はされていませんが、
同じ家系内(親や兄弟、祖父母や孫など)で病気の子が見つかれば、ヴァニラの発症も遺伝によるものだと考えていいとのことでした。
下記の2つのサイト様では、より詳しく、よりわかりやすく肥大型心筋症について解説されています。リンクさせていただきました。
CAT network」様のサイト内にある「猫の肥大型心筋症」のページは、図を交えながら詳しく紹介されていて、参考になりました。
「オシキャット キャッテリー 福まねき」様のサイト内にある「肥大性心筋症について」のページは、オーナー福まねき様が参加された
猫の心筋症に関するセミナーをレポートとして紹介されています。HCMを理解するうえで、私自身も大変勉強になりました。
人間でも猫でも、生まれてきたからには、遅かれ早かれ、いつかは死を迎えます。それが病気であったり、事故であったり…。
肥大型心筋症は、早期発見早期治療ができれば、数年は延命できる病気だと聞いています。
ただ、その「早期発見」が一番難しかったりするのも現実です。
あんなに急に逝ってしまうことがわかっていたら、最期くらいは我が家で看取ってあげたかったというのが悔やまれてなりません。
また、入院に関しても、かかりつけの病院は夜中には無人になってしまう施設だったので、
これが夜中の間もきちんと医療スタッフに管理されている病院であったなら、ヴァニラの容態の急変にも早く気づき、
迅速かつ的確な対応もできていたのではないかと…、そういう病院にヴァニラを預けてしまった自分を責めたりもしました。
あまりにもあっけない突然の別れに、やり場のない悲しみや憤りにも似た感情で、私自身もかなり苦しい思いでいましたが、
ヴァニラが肥大型心筋症の闘病生活で、長く苦しむことがなかったのは、それはそれで良かったのではないか…と思うようになりました。
あの病気の末期の症状といえば、猫にとっても、それを看病する家族としても、本当につらいものがありますから…。
私も主人も猫が大好きなので、おそらくこれからも家族として新しく猫を迎えることになると思います。
一緒に暮らす猫にとって、我が家で一生を過ごせて幸せだったと思ってもらえるような、そんな親(飼い主)でありたいと思います。
心臓病の診断について、「総合病院ペットセンター名越」様からいただいたメールマガジンの一部を紹介します。
肥大型心筋症にかぎらず、犬や猫の心臓病の早期発見する上でも、参考になるかと思います。
腹部・四肢のむくみ、咳・呼吸数の増加、疲労、食欲低下、心拍数増加・弱い脈などのような症状・症候群が見られるペットは
獣医師の診察を受けましょう。病歴・症状・基礎的検査などから、獣医師は仮の診断を下します。
さらに次のような診断方法を行って心不全の原因と病気の重さを知ることができます。
これらはペットの心疾患を治療する上で、どれも欠かすことの出来ないとても重要な診断方法です。
聴診 獣医師は聴診器でペットの心音と心拍数を聴きます。心疾患をもつペットの多くは心雑音が聴き取れます。
これは心臓内で閉鎖不全の弁による血液の渦巻きが発する異常音です。心拍のリズムの変化も聴診でわかります。
肺の液体貯留による異常呼吸音も聞き取ることができます。
レントゲン検査 レントゲン撮影で心臓の大きさ、形、角度、位置の変化や肺の液体貯留がわかります。
心疾患による心肥大は、心不全の症状が出る以前に認められることがしばしばあります。
心エコー検査 心臓の内部構造〔心筋の厚さ、心室の大きさ、弁の働き、血液の流れ、先天的な異常〕の測定と、
実際の心臓の動きがビジュアルに観察されます。ほとんどの心臓病がこの検査で最終確定されます。
血液検査
および尿検査
血液検査はさまざまな体の機能および貧血の存在を知るのに有用です。
先天性の心不全では、さまざまな体の器官ならびに機能が正しく働いていません。
ペットにおける心糸状虫の存在を確認するための特殊な検査法の実施もされています。尿検査も大切です。
心不全によって腎臓がひどく障害を受けるからです。
心電図(ECG)
検査
心電図とは心筋の作り出す電気的活動を図として記録・表示するものです。
心疾患は正しい診断を行うのに大切なもので、特に不整脈(正常な心拍リズムのさまざまな変化)に大切な検査です。
オシロスコープがECGをTVスクリーンに表示し、これによって誰もがリアルタイムで観察することができます。
血圧測定 誰でも医師や看護士に一度や二度は血圧を測ってもらったことがあるでしょう。
それゆえに多分なぜ獣医師がペットでは血圧測定をやらないのか疑問に思われるでしょう。
残念ながら普通、ペットでは測定そのものが非常に困難ですし、正しい血圧解読ができないからです。
その他の
検査
その他にも高度な検査法がありますが、心疾患に普通行われるものではありません。
例えば心カテーテル検査法、これは前肢の血管から心臓までチューブを挿入し心構造、機能を調べることができます。
心血管造影法は血液中に造影剤を注入し、心および循環系をレントゲン撮影で調べる方法です。