モノ好きのモノづくり。
−ウエアハウスとストアブランド−
このジーンズを見て欲しい。一見するとLevi'sのデザインを押さえつつも、リベットはLeeのようにも見えるし、微妙に違う気もする。バックポケットにはアーキュエイト・ステッチが踊り、二本針のバックシンチにサスペンダーボタン。インサイドの割縫いは二重のチェーンステッチで仕上げられ、ベルトループのバータックは赤。それはまるでLevi'sとLeeをRemixしてワークウェアに仕上げたような、コテコテのディティールのジーンズ。

このジーンズはウエアハウスが99年に限定でリリースした「J.C.PENNY」の復刻モデルであり、MSの友人である
Y氏が世間がミレニアムと浮かれていた2000年に購入したモノだ。

ちなみに今回、このジーンズを取り上げたのは、Y氏から「良ければネタに」とmailで画像が送られてきたからだ。
そうか、Y氏よ。これは(テキストを)書けと言うことだな?
確かに京都モデルはネタにさせてくれって頼んだけど、
コイツは頼んだ覚えがないぞ。しかも君が送ってきた画像、背景がアリアリと映ってるから全部撮り直さないと加工が面倒過ぎて使えないし(泣)

が、しょうがない。10年来の友人たる君の希望だ。
よし、じゃあ書こう。ディープなヤツを存分にな(笑)
ウエアハウスはLevi'sをベースモデルとしたジーンズをリリースする一方で、ネルシャツやカバーオール、ワークシャツなどの純然たる古着屋の定番アイテムをサラ着としてラインナップしている。

そもそもウエアハウスと言う社名は、代表を務める塩谷健一氏がサンプルになるレアモノを探しにアメリカへ渡った時、「おまえ達の欲しいモノは、何でも倉庫にあるよ」と案内された古着屋の倉庫=ウエアハウスに感動して名付けたと言う。だからウエアハウスの直営店はどこも古着屋を彷彿とさせる空間がデザインされており、洗練された店舗を構えるドゥニーム等とはベクトルの異なった空間を創り出している。

そんな古着好きにはLevi'sにLee、wranglerと言った御三家の他にハズせないモノがある。それはシアーズローバック社の「HERCULES」やJ.C.PENNYの「PAYDAY」など、いわゆる小売業(多くは百貨店とその通信販売部門)が展開していたストアブランドである。現代になぞらえれば、西部グループの「良品計画」やイオンの「TOP VALUE」と言ったところか(笑)
カタログを見て注文するというコトは販売チャネルのない地域の人々も、都会同様の商品を購入できる反面、自分のイメージとは違う商品である可能性もある。この心理的リスクを回避する手法を取り入れたのが大手百貨店のシアーズ・ローバック社であった。

同社のメールオーダー部門は販売品の返品は不可としていた時代に、「不要で有れば返金いたします」と返金システムを採用したのだ。決済後の返品が保証されたことで売上げは大きく上昇し、シアーズ・ローバック社の英断によって、通信販売は初めて有効な販売方法として確立されたのだ。

カタログと鉄道と郵便が可能にしたこの販売網によって、西部劇で広まったカウボーイ達のジーンズを、都会から遠く離れた彼の地に済む人々は初めて手にすることが出来たのだ。
ここでターゲットとなるユーザー層は大きく二種類に分類できる。ファッションアイテムの一つとして、良い色落ちのするジーンズが欲しいユーザー層。もうひとつはブームに関係なく、質の高いレプリカを求める熱狂的なマニア層。必然的に、メーカーもこの二層構造に対応したブランド戦略(販売戦略)が必要になる。
そんな背景の中でリリースされたのが、このJ.C.PENNYの復刻モデルだ。ブームが去っても、売れ筋はあくまでXXや66である。今シーズンにウエアハウスがリリースしたLeeの1920'sモデルは、現存する最古のモデルをベースにしたヴィンテージファンには訴求力のある製品だ。特に見事な風格に加工されたレザー・ラベルは、あのジーンズを穿き潰した時に凄まじい魅力を放つだろう。

だがこの時、ウエアハウスがリリースしたJ.C.PENNYは、ディープなユーザーの中でもさらに一部のマニアックなユーザーに支持されるアイテムである。言い換えればニッチなマーケットで、さらにターゲットをニッチに絞ったことになる。硫化染料でデニムを紡ぐ糸の芯まで染められたデニムは、緩やかに色落ちはしてもタテ落ちはしない。かなりワタリも太く、テパードせずに裾まで落ちるワークウェアのシルエットを残すため、「ジーンズはあくまで数ある選択肢のひとつ」と言うユーザーは敬遠しかねない。フラっと入った普通の人がXXや66を差し置いて、このモデルを選ぶ確率は決して高くはない…と言うより皆無だろう(笑)

限定モデルにコレを選んだウエアハウスは「売れる/売れない」ではなく、「つくりたい/つくりたくない」の二元論ではないかと思う。

もうモノ好きと言うか、余程の好きモノなのだろう(笑)
でなければ売れ筋を揃える限定モデルにマニアックなストアブランドを選んだりはしまい。だがそのモノ好きのモノづくりは、たまらない魅力を放っている。


(04.10.31)
このジーンズがLimited editionとしてリリースされたのは冒頭でも述べた99年。レプリカブームは既に去り、マーケットは急速に縮小。ジーンズメーカーの多くは岡山県の協力工場で生産を委託する、いわゆるファブレス型メーカーであったことから過剰な設備投資や莫大な在庫から製品の値崩れを起こすことはなかったが、それでも大き過ぎたブームの反動は各社を悩ませただろう。
都会でさえジーンズの発売日には長蛇の列が出来た時代。広大な国土を誇るアメリカは点と線の補給線だけで全米を結びきることはできなかった。だが困難の中にはチャンスがある。売上高の伸び悩みに頭を抱えていた小売業が、衣料品や雑貨などを効率よく全米に販売するために考えたのがmail orderだった。今でこそ当たり前の存在として認知されている通信販売だが、当初はなかなか定着しなかった。
ドゥニームやフルカウントはジーンズ以外のアイテムにおいては徐々にレプリカ的な視点のモノづくりから離れ、ジョー・マッコイは自らの創世した歴史に基づいたオリジナルのモノづくりを貫いた。そしてウエアハウスは、自らのアイデンティティとして復刻を選択した。デニムや縫製、パーツなどのディティールだけでなく、酸化デニムや限界染めと言った新しい技術を獲得し、そのモノづくりはレプリカブームが去った今も、独特の存在感を放っている。