スピマス1stとの蜜月を過ごしていた私だが、スピマスのケース径は40mm、かなり厚みもある時計で悲しくも私の細い腕にはボリュームがあり過ぎるのが、若干の悩みでもあった。友人からは「買う前に気づけよ!!」とのツッコミを入れられたが、盲目の恋には多少のマイナスポイントは関係ない。だがボリュームのあるモノの後には、シンプルなモノが欲しくなる。ベーシックな腕時計を求めて、また物欲がチラチラと顔を出し始めた。候補はすぐに挙がった。と言うより、ずっと気になっていたモデルがあったのだ。ロレックスのエクスプローラーTである。

1953年、世界で初めてエベレスト登頂に成功したイギリスのヒラリー卿は「ロレックス・オイスターは高所登坂用具の重要な一部であることが実証された」と報告した。(世界の腕時計No.12,『復刻版 ロレックス完全読本』.ワールドフォトプレス.1995年.P13)

ヒラリー卿が言うオイスターがエクスプローラーだったかは確認できないが、同氏の報告から深海に対するサブマリーナ同様、地上における特殊モデルの開発がロレックスのブランド戦略において重視されていたことは容易に想像できる。(ロレックスは様々な冒険旅行やスポーツイベントにスポンサーとして名を連ねていた)

地上用特殊モデルの開発に当たり、まずオイスターケースの防水機能がテコ入れされた。耐久性の大前提がケースの気密性(防水性)だからだ。ref.6150が発表された50年代初期のオイスターケースの防水性は50mのモノが一般的だったが、エクスプローラーには100mの防水性が与えられた。また時計の心臓部であるムーブメントもクロノメーター認定のムーブだけが搭載された。こうしてサブマリーナやGMTなどと同様に、特殊スポーツモデルとして1953年にエクスプローラー、セミバブルバックのref.6150が誕生した。

こうして誕生したエクスプローラーは6150から現行の114270に至るまで「黒文字盤に3・6・9のインデックス」の基本デザインを変えず、コンビモデルの多いスポーツラインにあってSSガワのモデルしか存在しない硬派なモデルとしてロングセラーとなった。1987年に1016は一度製造中止となるが90年に14270としてエクスプローラーは復活し、現在に至るまでデイトナと人気を二分するモデルとなっている。

アウトドアにも日常にも違和感無く溶け込むデザインと36mmのケース径は腕の細い私にスンナリ馴染んでくれる、非常にお気に入りの一本だ。

余談になるが、SMAPの木村拓也がドラマ『ラブジェネレーション』でref.14270を身につけてショップからストックが無くなるほどの大ブームになったり、ティファニーとのダブルネーム(それもかなり胡散臭いモノも少なくない)がとんでもない価格で取り引きされたりと、様々な話題に事欠かない。一般への認知度の浸透と共にレアモノ信仰によるバカバカしい取引が整然と成立し、エクスプローラーは一躍、ロレックス・バブルの寵児となった。その反面、ブランドイメージが陳腐化してしまった感もある。


どの時計雑誌にも各ショップの広告が出稿されているがどこも「イチオシはエクスプローラーとデイトナ」ばかりでは、どの雑誌のどの号を買っても金太郎飴状態でユーザーだって飽きてくる。ユーザーニーズに応えて売れ筋を揃えることも重要だし、大量に仕入れてしまった在庫を販売しなければならない事情もある程度理解しよう。しかしもう少し違ったスタンスのショップが増えてきてもいいのではないだろうか。このままではロレックス・バブルにのって増殖したショップが、差別化を図れないまま売り上げが落ち続け、結果としてショップの大倒産時代を迎える気がしてならない。

ジーンズもブーツも機械式時計も、永く使える分だけ後のメンテナンスが重要になる。勿論、ロレックスには最強のメンテナンス体制を整える日本ロレックスがあるが、ショップにはオーバーホールをウリ(技術者常駐or技術料無料etc)として販売するところも少なくない。差別化を図れずにジリ貧に陥ってユーザーに約束したサービスを保証できなくなる前に、販売戦略とショップとしてのブランド戦略を十分に練り直していただきたいものだ。
人類の冒険、腕時計の冒険。