1964年9月26日。オメガ社に一通の手紙が届いた。差出人はアメリカ航空宇宙局。NASAからであった。そこに記されていたのはスピードマスター12個分の製作見積依頼と、NASAの公式標準装備に採用された明確な理由だった。「精度、信頼性、堅牢性、操作の簡便性…」

機械式時計と言えばロレックスがその代名詞だろう。確かにロレックスやIWC、ゼニスなども魅力的だったが、「First
watch on the moon」のストーリーを持ったオメガは非常に魅力的な存在だった。
スピードマスターはモータースポーツ向けクロノグラフとして1957年に誕生したモデルだが、その名を一躍有名にしたのはサーキットではなく宇宙空間、NASAのアポロ計画であった。秒刻みで進行する宇宙開発計画には高精度のクロノグラフが必要とされた。NASAの担当者はヒューストンにある宝飾店で宇宙飛行士用の時計として幾つもの時計を購入し、93〜-18℃に渡る過激な温度変化や真空、振動、衝撃など11項目にも及ぶ過酷な採用テストを実施。スピードマスターはテストに合格した唯一の腕時計であった。
NASAの公式時計として採用されたスピードマスターは1969年、アームストロング船長がアポロ11号で月面着陸を果たした時を共にした唯一の時計であり、あわや帰還不能のトラブルに見舞われたアポロ13号の大気圏再突入の際には計器として重要な役割を果たした。トム・ハンクス主演で映画化された『アポロ13』で、大気圏再突入の計算シーンでクロノを作動させたのは私だけではないだろう。
宇宙は人類の夢であり、その夢の物語を共有できる時計は他にはない。幼い頃の憧れだったロレのGMTも脳裏をかすめたが、頭の中はもうスピードマスターに染まっていた。しかし上司がスピードマスターをしていたこともあり、現行モデルは買っても使いにくい。私の興味がスピードマスターの1stレプリカモデルに注がれたのは容易に想像できる。ましてや、デニムフリークは「1stモデル」や「2ndモデル」と言う言葉に弱いのだ(笑)

ややグレイがかった文字盤にシルバーのビッグアローの針…。実際の1stとはケースやラグの形状が異なっているものの、デニム同様、ヴィンテージをこわごわ使うのはどうも性にあわない。レプリカであろうとも、現行のスピードマスター同様にレマニア製のcal.861を積んでおり、信頼性はお墨付きだ。そして何より、1sの文字盤は美しかった。しかし、現行モデルに比べると視認性はイマイチだった(笑)
それでも十分に実用性の範囲であり、私の愛は変わらなかった。そう、機械式時計は実用性だけを求めるモノではない。あくまで趣味のモノなのだ。1stは今も変わらず、私の腕で時を刻み続けている。