ロレやオメガは良くも悪くもメジャー過ぎ、仕事をしていても「ロレックスですか?」とか、「それオメガ?」などと言われることが多く、なんだか気恥ずかしい思いをすることが多かった。どれもお気に入りの時計だが、こうなると「一般的に目立たない時計」が欲しくなる。そう思う様になると以前から気になっていた腕時計、IWCのマーク15が欲しくなってきた。

IWCは数あるスイス・ブランドの腕時計の中で、時計産業の中心地から遠く離れたドイツ語圏のシャフハウゼンの地でアメリカ人のフローレンス・A・ジョーンズが設立した時計メーカーである。創業は1868年とその歴史は古いが、いかんせん知名度は低い(笑)それ故に他人の目を気にせずに身に着けられる時計でもある。

現在では『ダ・ビンチ』『ポルトギーゼ』『GSTスポーツ・ウォッチ』『パイロット・ウォッチ』の4つのラインが人気を集め、2002年においては年間生産本数6万本の93%を占めていた。ちなみに残りの7%はポケットウォッチと、我々には手の届かないスモール・コンプリケーションである。

マーク15は三針のベーシックなモデルであり、IWCのルーツとも言うべきパイロット・ウォッチにおけるスタンダードと言えるだろう。マーク15はIWCのパイロット・ウォッチの原点であるラージパイロットウオッチ以来の軟鉄性インナーケースを備え、抜群の耐磁性を誇る。耐磁性はパソコンや携帯電話、テレビなどの電気製品に囲まれる現代社会においては防水性能同様に必要なスペックである。購入しようかどうかを悩んでいると折良く私が今まで持っていなかった白文字盤が発表され、私はこれに飛びついた(笑)

雑誌やショップのショーケースで見慣れていたパイロット・ウォッチのマーク15も、文字盤が白に変わるだけで非常に端正な印象になり、28800振動で滑らかに動くブルースチールの秒針には思わず見とれてしまう。腕時計の顔たる文字盤も美しいが、ケースのヘアライン仕上げも唸ってしまう。

『ポストエクスプローラー!!』などと恥ずかしい紹介のされ方をしたため、雑誌の紙面などで紹介されることも多かったマーク15だが、どの写真も本物の美しさを伝え切れてはいない(私の拙いデジカメ画像は言わずもがなである)特に写真やショーケースの外から見ると「ちょっとな〜」と思っていたブレスが実に美しい!!写真ではまるでパンクロッカーのリストバンド(?)のようだったが、実際に手にしてみるとIWCのヘアライン仕上げの美しさを堪能できる。ましてや腕に乗せてみると吸い付くような着け心地の良さに虜になってしまう。

また現行のIWCと言えば必ず言われる「ETAポン」だが、コサ・リーベルマン社が運営していたIWCのwebサイトで、IWCによってチューニングされたIWCキャリバーを見ることが出来た。(残念ながら今は代理店がコサ・リーベルマンからリシュモン・ジャパンへ変わってしまった為にwebページ消滅はしてしまった)

歯車は磨き上げられ、機械組み用のバカ穴を塞ぎ、ベアリングを石に交換されたcal.2892-A2は巻き上げ感も実にスムーズで、一年間日常的に使用しても精度は+15秒をキープしている。しかも見えもしないのにムーブには金塗金とコート・ド・ジュネーブ仕上げが施されている。個人的にはエクスプローラーのcal.3130を上回る美しさだと思う。

そんなIWCの心臓部に対し、ムーブメント開発に携わるアイゼネッガー氏は『ETA2892は非常に優れたキャリバーですから、こうした物をベースにして付加機能のモジュールを開発する事が重要です』と語る。
(世界の腕時計No.57『IWC2002』.ワールドフォトプレス.2002.P76)

現在、IWCではおよそ100名の時計師が働き、彼らの手によりETAから仕入れたエボーシュは洗浄、研磨、石入れが行われ、オイルやグリスもIWC独自の物が使われる。こうしてETAのCal.2892は、IWCのCal.37524となる。組み立てられたCal.37524は工場の一角にあるファイン・レギュレーティング部門で香箱やテンプの調整が施され、21日間にも及ぶ歩度チェックが行われる。こうした過程を経てクロノメーター以上に厳しいIWC独自の基準に基づいた時計となり、ユーザーの腕で正確な時を刻んでくれる。

クォーツ・ショックで倒産寸前に追いやられ、自社ムーブを放棄せざるえなかったIWCの技術者達。
制限のある中でもベストを尽くし、良い時計を作ろうとする彼らの意地が、現行のIWCからは伝わってくる。そのラインナップの中でも特にマーク15はスモール・コンプリケーションであるダ・ビンチやUTCのようなベースムーブへの追加モジュールが一切ないモデルだ。だからこそ、私は徹底的にブラッシュアップを施し、少しでも良い時計に仕上げようという、IWCのクラフトマン達の情熱を感じてやまない。
IWC Cal.37524への情熱。